織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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中々に難しいですが、頑張りますよ。


第47話 織斑 一真の前で彼女はさらわれた

 放課後になった途端にその男は来た。

朝からこの学園を騒がせているIS学園一の問題児。

部分展開のみでIS五機を一度に相手にし、全てを倒した実力者。

噂は数多く行き交い、その殆どが悪評である男。

その男が今、俺を尋ねて目の前にいる。

制服越しだというのに一目で分かる引き締まった身体。

姿勢が悪いのか若干猫背だが、それがよりこの男の野性味を増す。

短い茶髪に此方を測るかのように茶色い瞳が俺を睨み付ける。

その身に纏うのは、この学園では有り得ないような威圧感。まるで……そう、

 

野生の獣を前にしているようだ。

 

百獣の王たる獅子のような、森林の覇者たる熊のような、蒼穹の猛者たる鷲のような、蒼海の無法者たる鯱のような……その全てを合わせたかのような、そんな野生の殺気を目の前の男は発していた。

俺の魂が一目で理解した……この男が『凰 劉鳳』だと。

 

「俺に何か用か……凰 劉鳳」

 

その殺気に当てられ表情を引き締めながら凰 劉鳳に話しかけると、奴はにやりと笑う。

 

「ああ、俺の事を知ってんのか。だったら話は早ぇ」

 

凰 劉鳳はそう言うと、俺の顔を睨み付けた。

その迫力に夏耶やアリシアさんの声が引きつるのが聞こえたが、それを気にしてあげられる余裕がない。

今、この男から目を離した瞬間、殺られる。

そう感じてしまう。

だからこそ、俺も奴を睨み付ける。

それを分かってか、奴は嬉しそうに口を開いた。

 

「なぁ、喧嘩しようぜぇ。ガチの喧嘩をよぉ!」

 

狂喜に満ちた笑みで俺を見ながら奴はそう言い放つ。

それが試合の申し出だと、俺にはどうしても思えなかった。

奴が俺に言っているのは、殺し合いをしようと言っているようにしか聞こえない。

正直……怖い。

ここまで怖いと思ったのは『あの人』以来かもしれない。

だが、あの人のような落ち着きはまったくない。溢れ出さんばかりの野生の殺気を放出している奴は、同じ人とは思えなかった。

それだけに……死合いたいと思ってしまう自分がいる。

このまさに人ではない獣相手に、自分が戦えるのかどうか。それを試したくてたまらない。

不思議と口元が笑ってしまいそうになる。

不味いなぁ、釣られて此方も笑ってしまいそうだ。

だが………。

俺は奴を睨みながら返答を返した。

 

「断る!」

 

そう、俺はこの戦いを断らなければならない。

ここで俺が奴と戦うことになったら、きっと無事では済まない。

そうなれば問題になり、IS学園と武帝校、双方に迷惑をかけてしまうのだ。

まだ両校が正式に了承したのならともかく、本人達だけでことを進める訳にはいかない。

返答を聞いた奴はがっかりとした様子になる。

 

「おいおい、せっかくこうして出向いてきたのにそいつはねぇだろ。聞いたぜ、あんた有名なんだろ」

「有名?」

「おおよ。あの武者の学校からの短期留学で来て、ついこの間そこの金髪ネーチャンをぶっ倒したってな」

 

謹慎中でも噂は耳に入るらしい。

それに奴は俺を嘲り嗤った。

 

「それ以外にも有名だぜ。周りに女5人も侍らせてるクソ野郎だとかなぁ。いやぁ、流石は『織斑』ってやつか。女たらしの気は受け継いでるらしい」

「ぐっ!?」

 

それに対して反論出来ないのが辛い。確かに傍から見ればそう見えるのかもしれないが……俺だって困っているんだから言わないで欲しかった。

だが、同時に聞き捨てならないことを奴は吐いたな。

 

「どういうことだ、『織斑』が女たらしとは?」

「あれ、知らねぇのか? テメェの親父は昔、何人も女をたらし込んでたクソ野郎だってことをよぉ」

 

その言葉に全身がカッと熱くなる。

それが怒りだということは考えるまでもなく感じる。

この男は……凰 劉鳳は俺のもっとも尊敬し敬愛する父を愚弄したのだ。

それを許せるなど有り得ない。それは……絶対に許せない。

だが、それでも堪えて奴に聞く。

 

「何故そんなことを貴様が知っている」

 

怒りのあまり口調が変わる。

殺気に満ちた声を静かに出し、奴へと向けると奴はにやりと笑った。

 

「いいねぇ、その感じ。結局テメェだって戦りたいんだろ。良い子ちゃんぶってんじゃねぇよ。知りたけりゃあ、俺を倒してみせろよ」

 

その挑発が尚癪に障る

ここまで俺を怒らせたのは奴が初めてかも知れない。

その言葉に今すぐにでも斬り掛かりたい衝動に駆られる。

だが、それでも……我慢だ。

ここでそうすれば、皆に迷惑が掛かる。

俺は自身から溢れ出す殺気を必死に堪え、男から視線を外す。

 

「それでも……断る!」

「はぁ?」

 

俺の態度に肩透かしを喰らったらしく、間の抜けた声を出す凰 劉鳳。

そのまま俺は奴に背を向ける。

 

「俺と戦いたいのなら、そんな挑発などせずに両校の合意を得た上で正式な場を用意して貰え」

 

先程も言ったが、最早試合ではない。死合いだ。

それをこのIS学園で行うわけにはいかない。

すると何を思ったのか、奴は少し屈み始めた。

 

「そうつまらねぇこと言うなよ。なら……テメェがやりたくなるようにしてやるぜ!」

 

その声に俺が即座に振り向くと、奴は右手のみ部分展開していた。

その腕は黄銅と赤銅の混じった装甲を纏い大きい。

ISの腕部にしては随分と刺々しく、そして硬そうだ。

奴はその拳を床に叩き付ける。

その一撃で床には拳大のクレーターとひび割れが広がる。

奴はその威力の反動を利用して跳び上がり、俺を飛び越えて夏耶達の前に降り立った。

 

「借りてくぜぇ!」

「え…キャアッ!?」

 

そう言い捨てると、側に居た葵さんを開いている左腕で抱きかかえ、そのまま床にもう一撃。

その反動で窓ガラスの方へ跳ぶと、背中から突っ込んでガラスを破りながら外へと飛び出した。

 

「返してほしけりゃ第三アリーナまで来るんだな!」

 

落下しながら俺に向かってそう言うと、そのまま外から地面が粉砕される轟音が聞こえた。

 

「あ、葵さんっ!!」

 

あまりの事態に行動が遅れた俺は慌てて窓へと駆け寄るが、そこには巨大なクレーター以外何もなかった。

 

「クソッ!」

「あ、お兄ちゃん!」

「お兄様!」

 

咄嗟に駆け出す俺に慌てて夏耶とアリシアさんも駆け出した。

くそ、まさか葵さんをさらうなんて。

そこまでして戦いたのか。俺はその卑怯過ぎる方法を取った奴に怒りがマグマの様に沸き立つ。

俺は父さんの息子だ。正義を成す者の子だ。だからこそ、俺にも自分の正義がある。

その正義が、この行いを絶対に許すなと言っている。

その信念に基づき、奴は絶対に斬る!

だからどうか……無事でいてくれ、葵さん!

 俺は葵さんの無事を祈りつつ、奴への怒りを極大にしてアリーナへと向かうのだった。

 

 

 

 

 アリーナに着いた凰 劉鳳はそれまで抱いていた徳臣 葵を放した。

そして部分展開を解くと、即座に面倒臭そうに頭を下げる。

 

「あぁ~、その……悪かったな。こんなつもりじゃなかったんだけどよ」

 

葵はそれまで抱きしめられていたことに怖気を感じながら(一真以外だとこうなる)劉鳳の言葉を聞き、呆気にとられた。

何せ先程まであれだけ発していた殺気など微塵も感じさせないくらい、今の劉鳳は情けない感じだから。

 

「その……何でこんなことを?」

 

疑問に思いながら聞いた葵に劉鳳はバツの悪そうな顔で後頭部を掻きながら答える。

 

「謹慎が解けて学校に来てみりゃ、あの『ババア』から聞いたのと同じ『織斑』が来てるって聞いたんでな。あぁ、勿論センコーのことじゃねぇよ。だから是非とも戦り合いたくなってなぁ。だってのに野郎、まったく乗り気じゃねぇんだよ。戦いたいって面を必死に隠してよぉ。見ててイライラしちまったんだよ。だからい、な」

 

その答えに葵は呆れ返った。

凄く乱暴だが、結局は相手が気にくわなかったのでイジワルをしたという子供じみたことなのである。

葵は目の前の人物を危険人物ではなく、うだつが上がらないどうしようもない人として見始めた。

 

「それは分かりましたけど、何でわたくしだったんですか。あそこには一真様の妹の夏耶さんもおりましたのに」

「いや、アンタの方が軽そうだと思って。特に……」

 

劉鳳はそう答えながら葵の胸部を見る。

それがどういう意味なのかが分かった葵は顔を真っ赤にして両手で胸を隠しながら怒った。

 

「し、失礼ですっ! た、確かに夏耶さんの方が大きいですけど、あれは夏耶さんが大きすぎるだけで、決して私が小さい訳ではないんですからね!」

 

一真と一緒に行動するに当たって、周りの女性が皆胸が大きいことから葵は自分の胸を気にしているのである。5人の中で一番サイズが小さいのは自分だと。

といっても、彼女のサイズは着やせするタイプのC。周りからしたら十分のサイズがあり、それがより大和撫子の彼女の魅力を高めている。それでも気になるものは気になるのだ。

 

「あんなでかいモン邪魔だろ。俺は小さい方がいいと思うぜ」

 

フォローのつもりなのか、出来る限りの笑みを浮かべて答える劉鳳。

だが、葵にとって余計なお世話である。

 

「全然フォローになってません!」

 

更に激昂する葵。普段の彼女からは考えられない怒りようである。

恋する乙女は機微に敏感なのである。

人質にとったはずなのに、人質から怒られるという情けない有様の劉鳳。

これではどっちが人質なのかまったくわからない。

仕方なく劉鳳は懐からある物を取り出し、葵に差し出した。

 

「悪かったって。こいつをやるから怒んなって」

「あの、これは?」

 

葵の前に差し出されたのは何の変哲も無いコッペパン。

何も塗られていない、ただのコッペパンである。

 

「苛立ってるときってのは腹が減ってるもんだ。だからこいつで機嫌直してくれよ」

 

まるで拝むかのようにそう言う劉鳳。

その姿が少しだけ笑えたのか、葵は気を僅かに緩めた。

すると二人の間にやけに切なそうな音が鳴り響いた。

音の出所は劉鳳の腹である。

 

「………お腹、空いているんですか?」

「…………」

 

その質問に答えず、無言でコッペパンを差し出す劉鳳。

だが、彼の態度とは裏腹に腹の音が鳴り止まない。

 

「………これ、俺の飯なんだよ。これだけ……」

「あ、あの~……お金は……」

「…………無い………」

 

両者の間に凄く気まずい雰囲気が流れる。

実の所、劉鳳はとある事情で学園の食堂を利用出来ず、また収入も殆どあることにつぎ込んでいるため……極貧なのだ。

そのことをどことなく感じた葵は、彼の唯一の食糧に手を着けるなんてことは出来なかった。

だからその分、笑顔で返す。

 

「わたくしはいりません。だからそれは貴方が食べて、それで一真様と戦うのに備えて下さい」

「い、いいのか?」

「間食は太りますから結構です」

 

そう答えると、劉鳳は勢いよくコッペパンに囓りついた。

その様子に再び呆れる葵。だが、見てて面白いと思った。

コッペパンを食べ終わるのを見計らって葵は劉鳳に話しかける。

 

「敵に塩を送りましたけど、一真様を甘く見ないで下さいね。わたくしが知る限り、一番強くて格好いい殿方なのですから」

 

その言葉を語っているときの葵の顔は赤くなっていながらも信じている顔をしていた。

劉鳳はその顔を見て若干バツが悪そうに答えた。

 

「分かってるよ。ババアから聞いてるからな」

 

そして二人は一真が来るまでの間、今後の打ち合わせについて話し合い、葵主導の下でロープを使い葵を縛る劉鳳の図が出来上がっていた。

その際、葵に怒られながらロープを巻く劉鳳という実に情けない事になっていたことは誰も知らない。

 こうして劉鳳は念願の戦いを待ち望み、葵は囚われのお姫様気分で一真を待つことにした。




ちゃっかりしてる葵は結構成長したのかも知れませんね。
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