織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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第48話 織斑 一真の『敵』

 あの男……凰 劉鳳は葵さんをさらってアリーナへと向かった。

無理矢理にでも俺が戦うよう、人質に取られた葵さん。怖い目に遭っていなければよいのだが。

奴が言った第3アリーナに向かって俺は駆け出すが、心は常に焦る。

それ以上の怒りが心を焦がし、奴に向かってこの灼熱をぶつける以外考えられなくなる。

夏耶やアリシアさんが声をかけるが、何を言っているのか分からない。

それぐらい……俺は怒っていた。

戦うのなら受けて立つ。武者は挑まれたのなら、応じ戦うのが当たり前。

だが、それは個人で全てを背負える者のみが許される。

俺がそれに応じれば、せっかく勉強のために短期留学させてくれた武帝校は勿論、受け入れてくれたIS学園にも多大な迷惑が掛かってしまう。

それも相手に大怪我を負わせるのが前提なら尚更だ。

故に断ったが、よりにもよって奴は人質をとって無理にでも戦うよう脅してきた。

人を脅す行為……絶対に許せない。

それは悪だ。善意のない悪意だ。

それを父さんと同じく正義を志す者として許すわけには行かない。

だからこそ、少しでも早くアリーナに向かうため、速度を上げて廊下を走っていく。

その速さは疾風の如く、誰も追いつけない。

 

 

 

「よぉ、かなり速かったなぁ」

 

アリーナに入った途端、最初にかけられたのはそんな声だった。

目の前にいるのは、あの男。

今一番に怒りを抱いている誘拐犯、凰 劉鳳。

俺は殺気を全開に出しながら睨み付ける。

 

「葵さんは無事なのか……」

 

俺の殺気の籠もった視線を受けて、奴はニヤリと笑う。

 

「さぁ、どうだろうなぁ……あれだけの美人さんだ。手を着けてない……とは言わねぇかもなぁ」

 

下衆い顔で俺を嗤う凰 劉鳳。

その言葉に俺は目の前が真っ赤になりそうになる。

今すぐにでも斬りたいと殺意が暴れ回る。

だが、それに身を任せてはただの暴力。武者が暴力を振るうことなどあってはならない。そのことだけは、魂に刻み込んでいる。

だからこそ、衝動に駆られるのを堪えつつ奴に問いかける。

 

「葵さんはどこにいる」

「ああ、一応は俺の後ろの控え室で寛いでるぜ」

「そうか」

 

居場所をすぐに吐いた辺り、葵さんにそれ以上の価値はないのだろう。

奴の目的……俺と戦うことは俺が来た時点で既に成立しているのだから。

 

「此方としては無用な争いはしたくない。大人しく葵さんを解放するというのなら、俺は刀を引く」

 

最終勧告のつもりだ。

勿論……通るとは思っていない。

それは奴の獣の如き殺気を放つ目を見れば分かることだ。

 

「おいおい、ここまで来て腰抜けみてぇなこと言うなよ。それはあんたが一番わかってんだろ? さぁ、戦ろうぜぇ!」

 

一気に膨れ上がる殺気に、辺りの空気が変わった。

友人曰く、俺が殺気を全開で放出している時、空気が凍り付くような印象を受けるらしい。

自分では良く分からないが、目の前の男に対しては嫌と言うほど良く分かった。

まるで炎で全てを焼き尽くされるような印象だ。

呼吸を一回するだけで肺から入って身体中を焼き尽くす。そんな風に周りの空気が変わった。

まさに対極。俺と奴は真逆の存在だ。

葵さんは似ていると言っていたが、そんな事は絶対に無い。

この殺気に当てられてよく分かる。水と油、磁石のSとN、光と闇。

それらは絶対に交わらず繋がらない、相容れない存在だ。

初めて感じた感情だった。

今までいくつもの人達と会い、競い合ってきた。

友人や先輩、時にはかなり目上の人、それに後輩とも何かしら競い合ってきた。

真剣な時もあれば、楽しみながら競い合う時もあった。

負ける時もあれば勝つ時もあった。悔しいと何度も思い、噛み締めたことも数え切れないくらいある。

だが、敵意を持って怨んだり、殺意を持って挑んだことはない。

彼等は皆尊敬に値する好敵手(ライバル)だから。

だが、目の前の男はそれらとは違う。

奴に向けられるのは敵意と殺気のみ。

彼等とは全く違うその感情。

だが、初めて感じたその感情に暗い喜びを感じる自分が確かにいた。

今の自分にもっとも欠けているであろうナニカがカチリとはまったような気がした。

そう、奴は……俺の………。

 

『敵だっ!!』

 

それは奴も同じことを思ったらしい。

目が、そう語っている。

お互いが敵と認識したのなら、もう戦う以外はない。

そのまま戦闘態勢に移行する。

 

「お兄ちゃん、速いよ~!」

「はぁ、はぁ、速すぎですわ、お兄様……」

 

奴と対峙し睨み合っていると、二人がやっと追いついた。

息の上がり具合から結構急いで来たことが窺える。

疲れている様子なので、そのまま二人を気遣いたいところだが、そんな余裕はない。

今、目の前の『敵』から目が離せない。

 

「ひっ!? お兄ちゃん、落ち着いて」

「な、何ですの、この空気。息苦しいですわ……」

 

二人が俺と奴の間に流れる空気を感じて声を引きつらせる。

それだけ怖いのだろう。今の奴と『俺』は。

だから俺は二人に振り向き言う。

 

「二人とも、急に駆け出してしまってゴメン。だけど今は何も言わずに後ろに下がってくれないかな………危ないから」

「う、うん……」

「はいですわ」

 

二人は何か言いたそうな感じではあったが、俺の言いたいことを察して二人とも聞き入れてくれた。

そのまま後ろのアリーナの入り口まで下がる二人。

 

「頑張って~、お兄ちゃん!!」

「お兄様、その雄々しい雄姿、見届けさせていただきますわ!」

 

せめてもとエールを送ってくれた。

それが嬉しいけど、今は喜んでいる場合ではない。

 

「おいおい、女に応援されるなんてなぁ。頑張れよ、『お兄ちゃん』」

 

奴がこちらをからかってくる。

それが癪に障るも苛立ちを我慢してにらみ返す。

 

「戯れ言をほざくな」

 

静かだが、殺気が籠もった声。

それを聞いた奴は大げさにコワッとからかう。

それに応じることなく、互いに構え始める俺達。

一触即発の空気に夏耶たちが息を飲み込んだ気がした。

そして先に奴が動いた。

両足を開き、右手を前にかざす。

 

「来い、『シェルブリット』!」

 

奴が叫ぶと共に右腕が光り輝き、黄金色の輝きと共に右腕が部分展開された。

先程見たのと同じ、黄銅と赤銅の混じった装甲をした刺々しい巨腕。

展開し終えると共に右手を人差し指から順に閉じていき、最後に親指を閉めると腕を自分の方に引きながら手の甲を俺に見せつける。

 

「挨拶がまだだったなぁ! 俺の名は劉鳳(リュウホウ)! クソババアの所為で勝手に凰(ファン)なんて付けられたが、俺は只の劉鳳、『シェルブリット』の劉鳳だ!!」

 

その名乗りに此方も応じる。

 

「織斑 一真。武帝校一年、最高の武者と『最凶』の武者の弟子だ。貴様の名、しっかりと覚えたぞ……劉鳳!」

 

そう叫ぶ共に、相棒を呼ぶ。

 

「来い、絶影!」

 

その呼びかけに応じてアリーナの入り口から俺の目の前に飛び出す絶影。

その姿を見た劉鳳が感心したかのように声を上げた。

 

「そいつが噂の劔冑かぁ。なんだ、随分と変わった形じゃねぇか。それじゃあそいつをとっとと付けてくれよ、そいつをよ」

 

好戦的な声でそう言ってくる劉鳳。

だが、俺はそれに応じない。

 

「断る」

「はぁ?」

「此方を舐めている貴様に全力を出す必要など無い」

 

そう、戦うのなら本来は全力だ。

だが、部分展開しかしていないということは、その強さは本来よりかなり弱いことになる。向こうがそう舐めきっているというのなら、此方も同じように対応するのみ。

決して、意地を張っている訳ではない。

だが、奴にはそうは取られなかったらしい。

表情が怒りで染められていた。

 

「随分と甘く見てくれるじゃねぇか、えぇ!」

「其方がしたようにしたまでだ」

「言ってくれるじゃねぇかよ」

「ふんっ! 舐めてるのは貴様の方だ。そんな舐め腐っている奴には、装甲するまでもない」

 

そして互いに睨み合いながら隙を窺う。

そして……ほぼ同時に動いた。

 

「後悔させてやるぜ、俺を舐めたことをなぁあああああっぁああああああああああああああああああああ!! 衝撃のファーストブリッドォオオオォオオオォオオォオオォォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

劉鳳がそう叫ぶと共に右肩からエネルギーが噴出し、とてつもない速さで俺に向かって突っ込んで来た。その突進から繰り出された拳が俺へと迫っていく。

奴の噂と速度からとんでもない速さなのが窺える。生身なら確実に致命傷になるだろう。

 

「喰らう気はない! 絶影!!」

 

俺の呼びかけに応じて絶影が俊敏な動きで俺の前に来ると、絞竜を伸ばし自分の前でクロスさせるそのまま合わせ目を奴の拳にぶつけると、自分の右下へと拳を流した。

そして激突した拳はアリーナの地面を盛大に打ち砕き、土煙を巻き上げた。

辺り一面が土煙で覆われ何も見えなくなる。

 

「お兄ちゃん!?」

「お兄様!?」

 

夏耶とアリシアさんの悲鳴が聞こえてきたが、今は無視する。

そして土煙が晴れると、俺のすぐ近くの地面に巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

「へぇ~、やるじゃねぇか。大体の奴等は最初の一撃でぶっ飛ぶもんなんだがなぁ」

 

地面から右腕を引き抜いて此方を笑う劉鳳。

俺はそれを冷ややかな、しかし確かな怒りを込めた視線でにらみ返す。

 

「確かに威力は上々だ。だが、受け流せないわけじゃあない。そして」

 

そう答えると共に、右腕を軽く振り落とした。

 

「次の攻撃に繋がらない技など怖くはない!」

 

その瞬間、劉鳳の死角となっていた位置から地面を通って伸ばした絞竜が姿を現し、劉鳳に襲い掛かった。

 

「何っ!? ぐぁあああああああぁぁぁぁあああああぁぁああぁああぁああぁああああああああああああ!!」

 

いきなり現れた絞竜によって全身をくまなく切り刻まれる劉鳳。

絶対防御が作動しても尚、押さえきれない威力に奴の肌が切れ出血していく。

そして攻撃が終わると共に、奴は地面に倒れISを解いた。

 

「ひ、卑怯者かよ、クソ……」

 

全身刻まれた痛みから力なく悪態をつく劉鳳に俺は冷徹な視線を向ける。

 

「貴様が舐め腐っているからだ。それに貴様との戦いより、葵さんのほうが重要だからな」

 

そう答えると、奴は力なく気絶した。

それを見届けるまでもなく、俺は奴の後ろにあった控え室へと歩き始めた。

 葵さんを助けるために。




まだまだ劉鳳は本気じゃないですから。
舐めプの結果です。本気ならどうなっていたことやら。
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