葵さんを救出後、凰 劉鳳が言っていたことが事実なのか確かめるべく父さんに電話をした。
久々に父さんの声を聞いたが、変わらずに元気そうで何よりだ。
何故か途中から苦しそうな息遣いが聞こえてきてけど、どうも体が悪いとかそういうことではないらしい。少しほっとした。
途中から母さんの声も聞こえてきたけど、水音からして一緒に料理でもしていたのだろう。あの二人は息子から見てもおかしいくらい熱々カップルだから。
何故かその声を聞いて周りの五人は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていたけど、何かあったのだろうか?
とりあえず未だに息が荒い父さんに大丈夫か聞いてみよう。
「父さん、大丈夫? 何か疲れているようだけど?」
『あ、ああ、うん、大丈夫だよ。それでなっ、真耶さん、吸わないで……』
『ん~~~~~~~~~~~』
何か吸っているような水音が聞こえた。
それを聞いて俺は呆れ返る。
「父さん……もしかして……」
『な、何かな、一真…』
「母さんとまた一つの飲み物を二人で飲み合ってるの? あのストローを二本使うやつ」
そう、よくこの二人は漫画なんかである恋人がするドリンクの飲み方というものを良くしていることがある。
傍から見たら何の得もない飲み方だから、何でこの二人がそんなことをしているのか分からなかったけど。父さん達曰く、大好きな人が居れば分かるということらしい。俺は未だに良く分からないよ。
『あ、あ~……うん、そうなんだ。一緒にちょっとね』
「やっぱり。毎回やってるよね、それ。そんなにいいものかなぁ、アレ?」
『きっとその内わかるよ、一真にもね。それより、用事はどうしたんだい?』
「あ、そうそう聞きたいことが……」
そのまま聞こうと思ったのだが、周りの四人が妙にそわそわし始めた。
その視線の先にあるのは、テーブルに置かれた俺の携帯。
そこから分かるのは、父さんと話したいということだろう。
だから俺は先に皆に父さんと話をさせてあげようと思った。
「その前に先に他の人に変わるね。みんな父さんと話してみたいようだから」
『ああ、そこに一真の友達がいるのかい? いいよ、俺としても気になるからね』
友人と言われると嫌な汗が出てきた。
友人と呼ぶには近すぎる人たちばかりだから。
すると誰から話すのかじゃんけんを始める四人。そんなに頑張るというのは、余程父さんと話したいんだろうなぁ。
そんな中、最初に動いたのはじゃんけんに参加していなかった夏耶だ。
「お父さ~~~~ん、久しぶり~~~~~!」
甘えん坊全開な甘い声に内心クスりと笑ってしまう。
兄離れもそうだが、親離れもまだ夏耶には早いのかもしれないなぁ。
『ああ、夏耶、久しぶりだね。元気そうでよかったよ。ちゃんと勉強、頑張ってるかい?』
「うん! 毎日頑張ってるよ~! お父さんもその……『色々と元気そう』だよね。もうちょっと控えた方がいいと思います、娘としては。でも、出来れば妹が欲しいかなぁ」
『うっ!? あ、あははははは、何のことかなぁ(やっぱり女の子は鋭いなぁ。逆に一真が鈍すぎるだけなのかもしれないけど。親として心配かも)』
何だかやけに気まずそうな雰囲気を感じるけど、何かあったのだろうか?
それに夏耶は妹が欲しいと言っていたようだけど。う~ん、妹か………どうなんだろうか。既に妹がいる身としては特にそこまで思うことはないかなぁ。いたら楽しそうだけど。
それまでじゃんけんに熱中していた四人は決着がついたらしく、話している夏耶を羨ましそうに見ていた。
そして夏耶が話し終えると、灯姉さんが前に出て携帯に話しかける。
「おじ様、お久しぶりです。灯ですよ」
『あぁ、真田さんの娘の灯ちゃんか。元気そうだね~。前に会ったのはいつごろだっけ?』
「うふふふ、中学の卒業式の時ですよ。あの時は本当にお世話になりました」
『いやいや、そんなことはないよ。小さい頃から見てきたからね。もう娘同然で、夏耶のお姉さんだからね。娘の卒業式で泣かない親はいないよ』
「まぁ、おじ様ったら!」
和やかに話す二人。
そう言えば父さんって結構涙もろいところがあるよなぁ。まぁ、母さんは卒業式の時号泣だったけど。顔の所為もあってどっちが在校生か分からないって突っ込まれたっけ。
『きっとあの頃よりももっと素敵な女の子になっているんだろうね』
「お褒めのお言葉ありがとうございます。でも、あまりそうやって女の子のことを褒めると、真耶おば様が怒ってしまいますよ」
『それはさすがにないよ。娘を可愛いって褒めることに目くじらを立てるなんてこと……ま、真耶さん、急に咥えないで!』
それを聞いてトマトのように顔が真っ赤になる灯姉さん。
「あ、あの……お盛んなのは若い証拠? ですけど、お体をお大事に……」
そう父さんに言って灯姉さんは引き下がった。
何がお盛んなんだろう? きっと二人のイチャつきなんだろうけどね。
灯姉さんの次に出たのは、颯姉だ。
「お久しぶり、一夏さん!」
『ああ、その元気の良さそうな声は伊達さんの所の颯ちゃんか。元気そうだね~』
「ああ、いつも元気だよ。でも、改めてちゃん付けされるとくすぐったくて仕方ねぇな」
『そう? 颯ちゃんは可愛いんだからちゃん付けでもいいと思うけど』
「もう、一夏さんはこっぱずかしいことを平然と言うな~~~~~」
顔を赤くしながら手をバタバタと振る颯姉。なんだか少し可愛いかな。
「でも一夏さん」
『何だい、颯ちゃん?』
「親父達で慣れてるけど、さすがに電話しながらのプレーはねぇよ! そいつはとんだ高難易度のプレーだ。素直に真耶さんを尊敬するわ、本当に」
『あ、あはははは……伊達さんによろしく』
真っ赤な顔を隠すようにハイテンションで父さんにそう言い引く颯姉。
その次に出たのはアリシアさんである。
その顔には初めて話す人への緊張が見て取れる。
「は、初めまして! アリシア・オルコットと申しますわ」
『オルコット?……あぁ、セシリアとセシルの娘さんかぁ。どうも初めまして、一真の父の織斑 一夏です』
「母や父のことをご存じなのですか?」
『ああ、知ってるよ。セシリアは大切なクラスメイトだったし、セシルは俺の悪友だよ。この間ワイン片手に家に遊びに来たけど、聞いてないかい?』
「いえ、そのようなことは……まさか父がとんだ迷惑を?」
『それはいつものことかな。たまにナンパに付き合わされて大変な目にあわされてるかな?』
「す、すみません………」
『いや、いいんだよ。そんなところもアイツだし。それに若い人と話すのは楽しいからね……って真耶さん、吸わないで! 強すぎだよ、くぅ………』
一気に顔が真っ赤になるアリシアさん。
父さんはそんなに母さんに飲み物をとられているのか?
そして最後に来たのは、葵さんである。
葵さんは緊張して死合いでも行うんじゃないかと思えるような雰囲気で電話に話しかける。
「あ、あの、初めまして、わたくし、徳臣 葵と申します。一真様にはたびたびお世話になっていて」
『ああ、君が徳臣さんか。童心様と邦氏様から話は伺っているよ。一真がいつもお世話になっているようで、ありがとうございます』
「そんなっ、わたくしなど! それにそのようなお言葉、伝説の武者たるあなた様にかけられるなんて」
『そんな大層なものじゃないよ。俺はただの、一真の父親だよ』
初々しく話す葵さん。
その様子もまた可愛らしい感じだ。
「で、ですが……」
『うん?』
「その、昼間からというのは、その……なんでもないです……」
真っ赤な顔を隠すように手で覆いながら逃げるように携帯から離れる葵さん。
何を言おうとしたんだろうか?
まぁ、これで皆の紹介が終わったかな。
改めて電話に話しかける俺。
「これが父さん達に紹介したい人達だよ」
『そうか。皆良い人達だね。あのメールの子達かぁ』
「うっ!? うん、まぁ、そうだよ……。そ、それはいいとして父さん!」
『ん?』
「聞きたいことがあるんだよ。それも大真面目なことで」
少し遠回りしてしまったけど、やっと本題に入れるよ。
いい加減このもやもやした疑問を晴らさないと。
俺は意を決して父さんに問いかける。
「父さん……凰 劉鳳って名前に覚えはある?」
『凰 劉鳳? いや、そんな人は知らないかな? でも、どうしてそんな人の名を聞くんだい? 何かあったんじゃないか、一真?』
さすがに色惚けしていても鋭い父さんだ。
だが、知らないのか。なら何で奴は父さんのことを知っていたんだ?
「ああ、実はさ。今日、いきなり凰 劉鳳って奴に勝負を挑まれたんだよ。その時、そいつから父さんが昔女たらしだったっていう事実無根なことを言われてさ。嘘だとは思うけど、火のないところに煙は起たないって言うし。だから確認したくて」
『それはさすがに失礼かな。見ず知らずの人に女たらしと言われるとは思わなかったよ。でも……凰、かぁ……』
「何か知ってるの?」
すると父さんは一拍だけ間を開けて俺に答えてくれた。
『劉鳳って子のことは知らないけど、凰なら知ってるよ。でもあいつが結婚したなんて話は聞かないけどなぁ』
「知り合い?」
『知り合いも何も俺の幼馴染だよ。凰 鈴音、俺が小学四年の頃からの付き合いでね。IS学園で一緒に勉強に励んでよく遊んでたっけ』
『それに私も何度か教えたことがありますよ。だって先生でしたから』
父さんの幼馴染って箒さんだけじゃなかったんだ。
それに母さんの教え子だったのか、その人。
『一真も小さい頃に会ってるんだけど、さすがに幼すぎて覚えていなかったかぁ』
「そうなんだ……でも、その人結婚してないんでしょ。だったら親戚とかは?」
『あいつの親戚関係はわからないかな。う~ん……そうだ!』
父さんは何か思いついたようだ。
『本人に直接電話してみよう』
え? 連絡先知ってるのか、父さんは。
「何でしってるの、父さん。その人の連絡先」
『何でって、幼馴染だからね。ちょっと一旦切るよ。あいつに少しそのことを聞いてみるから。ああ、たぶんその後あいつは一真に直接電話をかけてくると思うから出てね』
「え、父さん!?」
驚いている間に切られてしまった。
しかし、どういう人なんだ。その幼馴染の人は。
それにあの男とどういうつながりがあるんだろう?
でもこれで……少しは前に進んだ。
後は奴が何者かを聞きだすだけだ。
あ、何で女たらしなんて言われてたのか聞き忘れた。
まぁ、それもその幼馴染さんに聞けばいいだろ。
そして待つこと約十分弱。
非通知で携帯に電話が掛かってきた。
それに即座に出て、緊張した声で応じる。
「も、もしもし……」
『あぁ、あんたが一夏の息子ね』
電話越しに聞こえたのは、鈴のような綺麗な声だった。
これが父さんの幼馴染である凰 鈴音さんと初めて話した時であった。