織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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第51話 織斑 一真は敵の事を知る。

 父さんの妙案により、その幼馴染みの人と直接話すことになった。

携帯越しに聞こえてきた声は鈴のように軽やかで若々しく聞こえる。

 

「あ、あの、初めまして。織斑 一夏の息子の一真と申します。この度は…」

『ああ、細かいことはいいわよ。それに初めてじゃないからね。あんたが赤子の頃に一回会ってるのよ。勿論抱いたしおむつも替えたことだってあるわよ』

 

個人的に初めて話す人から聞かされた事実に内心少しショックを受ける。

誰だってそんなことを話されればへこむ。

 

「その……とんだご迷惑を」

『別に良いわよ。あれは私が山田先生……おっと、真耶さんにお願いしてやらせて貰ったことだしね。そんな社交辞令より聞きたい事があるんじゃなかったの?』

「あ、すみません」

 

気まずさから頬を掻きつつ俺は携帯に意識を向けると、携帯越しに遠くで何かの音が聞こえてくる。それは時に撥ねるような水音だったり、炎の轟音であったり、何かを叩き付ける音だったり、小気味よく何かをトントンと叩く音であったり。

音から察するに料理店だろうか。もしかすると仕事中だったのかもしれない。

だとすれば無理に時間を作ってくれたのかも知れないな。早く聞かないとご迷惑をかけてしまう。

 

「その、実は聞きたいことがありまして」

『ええ、一夏から聞いてるわ』

「ありがとうございます。それで聞きたい事なんですが………『凰 劉鳳』と言う名に覚えはありませんか?」

 

その言葉を聞いた途端に凰さんは少しだけ沈黙した。

沈黙していることから、何かしら知っているのだろう。

そして僅かな沈黙の後、凰さんは口を開いた。

 

『なぁに、またあの馬鹿が人様に迷惑かけてるの! まったくアイツは~!』

 

携帯越しにでも伝わってくる怒気に息を呑んでしまう。

この話しようから察するに身近な人物だったんだろう。

 

『ゴメンね~、ウチの馬鹿が迷惑をかけたようで。あの馬鹿には後できっちり言っておくから』

「いえ、その……ご家族の方ですか?」

『ああ、ゴメンゴメン、アイツに怒ってて言ってなかったわね。あの馬鹿は私の養子なのよ』

 

それで少し分かった。

父さんが結婚したって話は聞かないと言っていたけど、養子縁組したのなら子供が居ても可笑しくない。

だが、そこで気になるのは何で養子にしたのか?

今回の件とは無関係なのだが、つい興味心から聞いてみることにした。

 

「あの、なんで養子を?」

 

その質問に凰さんは少し懐かしそうな声で答えてくれた。

 

『ああ、実はね……単なる成り行きなのよ』

「え?」

 

そんな答えを聞かされて間の抜けた声を上げてしまった。

養子縁組などの、当人の一生に左右するようなことをそんな成り行きだなんて……。

 

『アレはそうね……三年くらい前かしら。たまたま休みで中国の町並みを散歩していた時なんだけど、裏路地で何やら物騒な音が聞こえてきたのよ。気になって見てみれば、一人の子供が大人6人と乱闘してたんだから驚きよね。しかも戦況は子供が有利で、私が見た時はもう最後の一人に止めを刺す寸前だった。だから慌てて止めに入ったのよ。その時の子供があの馬鹿。それであの馬鹿は逃げようとしたけど、私はそのままアイツをふん捕まえたの。これでも元代表候補生だからね、それぐらいたやすいもんよ。そのまま警察に突き出せば終わりだったんだけど、アイツの目がね……孤独そうだったのよ。それが妙に気になって』

 

出会い頭からそんなことをしている辺り、奴はやはり粗暴な乱暴者らしい。

 

『戸惑っていたら、さっきまでの乱闘を見てた奴がいたのよ。それがアメリカの企業の人でさ、何でも今までに無いISを開発しているらしくてその操縦者を探してたんだって。既存のISとは別物らしいから、ただのIS操縦者じゃ駄目だったのよ。そこで悩んでて煮詰まったから休みがてらに中国を観光しに来たらしいの。そこで見つけたあの馬鹿の才能に目を付けて、企業所属のIS操縦者にならないかって誘ってきたのよ。その時の私は急な展開にどうなってるのか良く分からなかったわ』

 

それであのISの操縦者になったのか。

アメリカのISなのに中国人の奴が何で使ってるのかやっと分かったよ。

 

『その時、アイツは誘いに何て言って応じたと思う?』

「………何て言ったんですか?」

『うふふ。アイツね……強い奴と戦れるんだったら受けてやるよって言ったのよ。それが何だか面白くてね~。それで少し気に入っちゃって。企業の人から姓が必要ってことを言われた際に、私の養子しますって言っちゃったのよ。それであの馬鹿は私の息子になったわけ』

 

何やら楽しそうに語る凰さん。

当人は昔を思いだして楽しいのだろうけど、現在進行形で睨まれている身としては堪った物ではない。

だが、これで奴の正体が明らかになったわけだ。

それがより奴への戦意を高めていく。

そこで思い出したのだが、父さんの事は凰さんから聞いたのだろうけど、それならあの『女たらし』の件についても知っているだろう。

あまり知りたくはないが、やはりそこのところははっきりとさせておきたい。

 

「あ、あの……」

『ん、どうした?』

 

何だか母さんとは違った優しい声に少しだけドキっとした。

それを悟られないように少し早口でお礼を言った。

 

「凰 劉鳳のこと、教えていただいてありがとうございました」

『寧ろ私のほうがお礼を言いたいわ。あの馬鹿、相当迷惑かけてるみたいじゃない。後でとっちめないといけないわね』

 

その反応に苦笑する。

話していて分かったが、きっと奴は凰さんに頭が上がらないのかもしれない。

 

「それで、その……申し訳無いのですが、もう一つ聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」

『何? そこまで困ることじゃなければ大体は答えられるわよ』

「ありがとうございます。実は……凰 劉鳳が言っていたんですよ。『テメェの親父は昔、何人も女をたらし込んでた』と。その真偽が知りたくて」

 

それを聞いた凰さんは何やらやってしまった~と言った感じに声を出した。

 

『ごめん、それはきっと私がアイツにアンタの父さんのことを話したことがあるからよ。でも、なんでそんな曲解な答えになったのやら?』

「曲解?」

『ええ。う~ん、アイツの息子にこんなことを話すのはどうかと思うけど………ま、いっか。ええとねぇ、まだアンタと同じくらいの歳の時なんだけど、私はアンタのお父さんが好きだったのよ』

 

衝撃の告白に驚愕してしまった。

まさか父さんのことを好きっていう女の人が母さん以外いるとは思わなかったから。

もしかして未だに凰さんが結婚しないのって父さんの所為なのか?

そんなに動揺していたことがばれたのか、凰さんは少し笑いながら話しかけてくれた。

 

『そんな気にするようなことでもないわよ。私と一夏は幼馴染みだったんだから、好きになってもおかしくなかったってだけ。別に今は普通に幼馴染みの友人ってだけよ』

「そ、そうですか……」

 

少し気まずく感じてしまう。

そう凰さんは笑って言うけど、その声には未だに若干の悲しみを感じるから。

 

『それでね、一夏の奴……私だけじゃなかったのよ』

「え?」

『アイツのこと好きだった子がね、私以外に5人もいたのよ』

「なっ!?」

 

いきなりの急な事実に再び驚く。

まさか父さん、そんなにモテていたのか。だとすれば、奴が言ったことが本当のことなのか? 自分の頭の中で豪華な椅子に足を組んで座っている父さんとそれにしなだれかかる母さんとその他の女性の影が見えた気がした。まさにハーレムといった感じである。

もし本当にそうだったら、絶縁も考えなくてはいけないかもしれないなぁ。

そんなことを考えていたことがばれたらしく、凰さんは苦笑した。

 

『いやいや、そんなかなりアレな事じゃないから。あのね……皆片思いだったのよ。それで互いに牽制し合っていたんだけど、そこで真耶さんが本気で一夏のことを好きになって告白。一夏もその告白を受け入れて見事二人はカップルになったわけ。そして私達は告白も出来ないまま負けたのよ』

 

今は普通に話しているけど、当時は相当辛かったんじゃないだろうか。

歳を取ると如何に強かになっていくのかが良く分かる気がした。

 

『ってことで、別に一夏は何も悪いことはしていないわよ。悪いのは言いがかりを付けたあの馬鹿だから』

「すみません、ありがとうございます」

 

やっと胸のつかえが取れた気がしてホッとした。

少し疑ってしまったけど、やはり父さんは立派な人だ。それによく考えたら普段あれだけ母さんとイチャイチャしているんだ。浮気などする訳が無い。

頭を悩ませる問題がやっと解決したことで俺の心は清々しくなっていた。

その感謝の意を込めて凰さんにお礼を言うと、凰さんはそんな大層なことじゃないと言ってくれた。

そのまま通話を切ろうとしたのだが、最後に少しだけ呼び止められてしまった。

 

『あ、そうそう。少しだけいい』

「はい、大丈夫ですけど」

 

すると凰さんは面白そうな声で俺に『忠告』をしてきた。

 

『あんた、父親に似てモテそうだから気を付けなさいね。女の子を悲しませたら駄目なんだから。それじゃ、暇があったらかけてくれてもいいから』

 

そして切られた通話。

俺はそれを聞いて冷や汗を流していた。

 

(………すみません、凰さん………もう遅いです………)

 

 そう思いながら俺は携帯を懐にしまった。

 

こうして俺は自分の『敵』と父さんの過去を少し知った。

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