織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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今回は珍しく劉鳳のお話です。


第53話 織斑 一真の敵は喜ぶ。

 一真が物理的に乳に溺れていた頃、伝言を聞いた劉鳳はニヤリと笑みを浮かべた。

それは狂喜と歓喜の入り交じった笑み。

伝言を伝えた生徒はそれを見て言葉を失い恐怖に震えた。

そのまま逃げるように去って行く生徒には目もくれず、劉鳳は楽しそうに笑う。

前回のお巫山戯のような拉致事件は一真を本気にさせるのが目的。

油断していたとは言え、ああも一瞬でやられるとは思わなかった。

死角からの攻撃、それを卑怯とは誰も言わないだろう。そこで卑怯だ何だと言う奴はそもそも戦いを知らない素人だ。

それは頭が悪い劉鳳ですら分かっている戦いにおける常識。

だから卑怯とは言わない。寧ろ、やりやがったな、と言うだろう。

舐めていた此方を圧倒する強さ。そんなに強いなら、『本気』で戦い合いたいのは『漢』として当然だ。

前回が不完全燃焼過ぎた。

戦うまで何度でも挑もうと思っている。

一真が初めてであったように、劉鳳もまた初めてだった。

それまで自分より強い奴と会ったことがない。

ISを手に入れる前から拳一つで生きてきた。

その時から自分よりでかい相手、武器を持った相手を素手で相手し、すべからく殴り伏せてきた。生きてきた世界は狭いが暴力が渦巻く世界。そこで劉鳳は拳一つでのし上がってきたのだ。生きるのに必死だったが、それ以上に強い奴と戦いたかった。

劉鳳は強かった。それまで無敗で、自分を追い詰めるような奴は居なかった。

正直退屈していた。限界ギリギリの戦いをして、そして勝ちたいと。

そう思い続けしばらくした後、ISの世界に誘われた。

アメリカで新しく起ち上げられたIS企業『ネイティブアルター』。

そこに誘われた劉鳳は最初は渋った。

今の生活より良い生活が出来ると言われても、彼は今の生活に不満などなかった。

ただ、退屈だった。

それを見抜かれたのだろう。誘った男は挑発的な笑みを浮かべて劉鳳にこう言った。

 

『世界を変えてみないか。劔冑はISより強いという常識を我々は打ち破ろうと思っている。そのための力は出来た。後はそれを使う人間が必要なんだ。君のような『戦い』を渇望している人間をね』

 

その誘い文句に劉鳳はニヤリと笑う。

今までに無い世界、今まで戦ったことのない相手。そして、そこまで風呂敷を広げた台詞を言ったその男が面白いと思ったからだ。

だから劉鳳はその話に乗ることにした。

 

『そんな大層な風呂敷を広げたんだ。退屈させたら承知しねぇからなぁ!』

 

そう返事を返して。

たまたまその場に居合わせた鈴に何故か気に入られ養子になったのは不本意ではあったが、劉鳳は満更ではなかった。

 そこから始まったISの世界。

劉鳳に渡された力はISとしては異端。武装を一切持たないという可笑しな代物だった。

だが、劉鳳は寧ろそこが気に入った。

武装など邪魔でしかない。その身一つですべてを打ち砕く。

まさに劉鳳にぴったりなISであった。

それを用いて様々なISと戦った。フランスのラファール、イタリアのテンペスタ、ドイツのレーゲン、アメリカのアラクネ。皆強者であったが、悉く拳で打ち砕かれていった。絶対防御が作動しようと耐えきれずに装甲が砕かれていく。

普通に考えれば大した快挙だ。

だが、会社は勿論劉鳳も満足してはいない。更にその先、劔冑との戦いこそが本命。

そこで次の段階に移行し、英国の竜騎兵と戦った。

ISよりも硬く苦戦したが、それでもその硬い甲鉄を打ち砕いた。

だが、戦ったのはまだまだ甘い未熟者の騎士。それでは本当の大願を果たすにはまだまだだ。劉鳳も満足はしていなかった。

もっと暴れたい。もっと戦いたい。もっと………身を削るような戦いに身を浸したい。

そこで本命がいるであろう日本へ渡ることに。

一応養母である鈴に聞かされていた『日本屈指の武者』、『現代の英雄』の話を思い出し、その最強の者と戦うために。

だが、そんな大層な人物と最初から戦える訳もなく、また戦うにふさわしいと他の国や企業にも見せつけるためにIS学園に入学した。

そこで問題を起こしつつも着実に成果を上げていき、そして本願の前座が此方に来た。

最強の英雄の息子、織斑 一真。

劔冑の本場足る日本、その専門の教育機関、武帝高等学校の若きエース。父親譲りの武は凄まじく、若いのにその能力は一流の武者に引けを取らない。

最初にその話を聞いた時、正直劉鳳は気に入らなかった。

まさにエリート街道まっしぐらの俊英。劉鳳とは正反対のお坊ちゃん。

早く倒して本命へと移ろうと思っていた。だが、それは劉鳳の思い違いだった。

アリシアの試合の話を聞き、そして実際に見て分かった。

 

こいつはエリートでも俊英でもお坊ちゃんでもない……自分と同じだ、と。

 

劉鳳は見た。その瞳の中に宿る確かな戦意の炎を。

殺意を発するその心を。

その根幹は自分と同じ、強者と命を削る戦いをしたいと願っていると。

性格は正反対。なのにその根元は同じ。

自分と対極でありながらその実中身は同じというのだから、面白い物だ。

だからこそ、劉鳳は一真に戦いを仕掛けた。

結果は見ての通り、惨敗。

だが、これで劉鳳は見つけた。やっと見つけた。

自分の『敵』を。

宿敵(ライバル)ではない。劉鳳は一真と競いたいのではない。

怨んだり憎んではいない。それほど付き合いは長くないからそのような感情が生まれようもない。

友人には絶対になり得ない。同族嫌悪という程ではないが、双方とも気にくわないと思っているのだから。

相容れない。ただ、負けたくない。

こいつにだけは負けたくないという闘志のみが燃え滾る。

故に『敵』だ。

初めての、自分と同等の『敵』に劉鳳の中の獣が歓喜の声を上げる。

それが楽しくて仕方ない。暴力を心の底から叩き付けたい。

打ち砕きたい。

 だからこそ、この再戦の申し出は嬉しかった。

少し癪だが、自分が考えていることを一真もまた考えているということが少しばかり嬉しかった。奴もまた戦いたいんだと。

 

「いいじゃねぇか。今度は出し惜しみせずに思いっきりやってやるよ」

 

口元に浮かんだ狂喜の笑みを隠さずに笑う劉鳳。その気持ちは遠足前の子供のように弾んでいた。

 そんな劉鳳の携帯から着信音が鳴り始めた。

それを面倒臭そうにしながら携帯を取り出し見ると、

 

「げっ」

 

そんな情けない声を出した。

理由は電話をかけてきた人物であり、そのモニターに表示されていた名は『凰 鈴音』………劉鳳の養母である。

ずっと鳴り続ける携帯に辟易する劉鳳。この養母はかなり気が強く、引き下がることをしない性格なので、出るまでずっとかけ続けてくるのだ。出なかったら後で何を言われるのか分かったものではない。

故に劉鳳は仕方なく電話に出た。

 

「……なんだよ」

 

不機嫌さが全開に出ている返事をしたら、

 

『あんた、何してるのよっ!!』

「っ~~~~~~~~~!?」

 

鼓膜が破けるくらいの音量を耳に叩き込まれた。

その衝撃に劉鳳は顔を顰め苦悶の表情を浮かべる。

鈴は劉鳳の返事を待つ事なく更に言葉を叩き付けてきた。

 

『何一夏の息子に勘違い吹き込んでるのよ! あぁ、もう恥ずかしいったらありゃしないわ! 前に言ったじゃない一夏は自分で進んで真耶さんを選んだって。別に侍らせていたわけじゃないわよ。私達はただ一緒に居たくて集まって居ただけ。結局自分から告白出来なかった負け犬なんだから、当人でもないアンタがとやかく言う問題じゃないのよ、この馬鹿! まったく、久々に話した一真君はとても礼儀正しくて良い子なのにアンタと来たら………』

 

ガミガミと言われる説教に劉鳳はうんざりしてそのまま通話を切ると、電源を切って自分の席でふて寝をし始めた。

 せっかく燃え上がっていた炎が静火してしまい、自分の中の獣が情けない声を上げているのを劉鳳は聞いた。

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