アリーナが賑わいを見せる中、俺は今控え室で座っていた。
今日は申し込んだ再戦当日。特別にアリーナの使用許可をもらい、放課後に時間を貰った。
既に奴も俺と同じく反対側の控え室で待機しているらしい。
ここまで来るのに少し苦労した………本当に。
俺と奴の試合は朝のSHRでマドカ叔母さんから直に皆に伝えられた。
その時クラスは騒然となったが、それ以上に叔母さんの所為で酷い目にあった。
その連絡事項を伝えるなり、俺の方まで来たら……。
「一真、危ないことしちゃ駄目だぞ。私も姉さんも、兄さんや真耶義姉さん、それに夏耶だって心配してるんだからな」
と優しい顔で言うなりギュッと抱きしめてきた。
良くやられているのでそこまで変な感じはしないのだが、流石に人前でやられると恥ずかしい。
しかも……。
「あぁ~、織斑先生ずる~い!」
「いいなぁ~、身内っていいなぁ~!」
「織斑君、顔赤くして可愛い~!」
と女子から黄色い声を上げられ、
「織斑、どれだけモテんだよ!」
「織斑先生、ちょっと歳いってるけど美人だから羨ましい!」
「これがモテる男と言う者なのかっ!」
男子から羨望と憎悪の視線を向けられ黒い声を上げられた。
ちなみに歳の件を言った男子は投げつけられた出席簿の直撃を受けて気絶していた。
それで終わればまだ良かったのだが、そうはいかないと言うのが世の摂理とでもいうのか、それだけでは収まらなかった。
マドカ叔母さんに抱きしめられる俺を見て席から立ち上がる二人……夏耶と葵さん。
「あぁ~、マドカ叔母さん、ずるい! 私もお兄ちゃんのこと心配してるんだからね!」
「そうです。わたくしも一真様の事、常に心配しているんですから。ご家族じゃなくても心配するんです。あ、でも、これから家族になるというのも………」
そう言いながら俺の所に来ると、二人して叔母さんから奪い取るように俺に抱きついてきた。
御蔭でギュウギュウで苦しいし、女の子特有の柔らかさに包まれて赤面してしまう。
「「「「「キャーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」
その光景に興奮して叫ぶ女生徒達。
「「「「「「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」
悲鳴を上げる男子生徒達。
「一真は罪作りだなぁ~。でも、それだけ一真が可愛くて格好いいからだぞ」
何故かマドカ叔母さんは楽しそうに笑いうんうんと頷いていた。
そんなことはいいから助けて欲しい。
これで終わりだったらまだ良いのに、更にその後とんでもない目に合うと言うのだからきつい。
俺を抱きしめている二人に気付かれない様に天井がパカッと開くと、そこから束さんがロープ片手に降りてきた。
「束さん登場だよ~! と、言う訳でかずくんはいただいた~!」
「え、ちょ、束さん!?」
その細腕からは信じられない力で二人の腕から俺を引っこ抜き、ロープを伝って俺を天井裏まで持って行った。
「あ、束さん! 何勝手にお兄ちゃんを持って行ってるの!」
「一真様ぁ~!」
夏耶と葵さんが悲鳴を上げるが、束さんは天井に移動しながら二人にどや顔で格好良く言い残す。
「うふふふふ~。二人とも、返して欲しくば奪い返してみろ~!」
そう言い捨てた後、束さんは俺を抱えながら天井裏を疾走していた。
よく見れば何やらISの腕のような物が展開されているようで、それであの力が発揮できたのかと納得する……ことで現実逃避を測ろうとしていた。
そのまま運ばれること数分。目的地に着いたらしく、そこの天井板を外すと俺を抱えたまま部屋に飛び降りた。
「ここは……保健室?」
「そうだよ~」
連れてこられたのは保健室のようだ。
そこで俺をベットに座らせた束さんは、懐から何かを取り出した。
それは美しい刺繍の入ったお守りである。
「かずくん、試合するって聞いたからね。安全を祈ってこれをあげようと思ったんだ。これ、実家の神社の安全祈願のお守り」
「あ、ありがとうございます」
束さんはそう説明すると、そのまま俺の首にお守りをかけてくれた。
そのお守りが妙にしっくりくる。俺のためにお守りをくれた束さんに感謝した……この時は。
その後の爆弾発言でその感謝は吹き飛んだのだ。
「ちなみに中身は束さんの『処〇毛』が入ってるよ!」
「ぶぅっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!」
今ほど飲み物を飲んでいなかったことに感謝し、同時に一番心臓に悪いと感じたことはない。
何でそんなものを、と思う前に外そうとしたのだが腕が動かない。
見たら何か特殊なワイヤーの様な物が俺の身体を苦しくないように、しかし確実に動けないように拘束していた。
「なっ! コレは!」
驚きに顔を染めている俺に対し、束さんはニッコリと笑いながら説明してくれた。
「コレは私が直々に作った、対IS用の拘束用ワイヤーだよ~! コレに掛かればどんなISでも、それこそ普通の数打劔冑だって動けないように出来る優れ物だよ! まぁ、いっくんなら素手で引き千切りそうだけど。でも、かずくんはまだそこまでいってはいないから大丈夫!」
「何でそんな物を作ってるんですか! それに父さんなら千切れるって……」
自分ではびくともしないこのワイヤーを父さんなら千切れると聞いて、自分との力量の差を改めて思い知らされる。
「ちなみにお守りに私のものを入れた理由は、古来から戦場に赴く人にはそういう風に贈り無事を祈願する風習があるからだよ~。まぁ、そんな非科学的な事を束さんは信じていないんだけどね~」
「だったらなんで渡したんですか!」
そう聞いた途端、顔を赤くして、いや~んと身体をくねらせていた。
「かずくんのエッチ~。それを聞いちゃうの? いや~ん。大好きな人に自分の一部を持ってもらえるなんて、恋する乙女としては嬉しいんだよ~! かずくんが持ってくれてると思うだけで……やぁ、濡れてきちゃった……」
何も聞いていない。
俺は何も聞いていない。そう思うことに……したかったのになぁ……。
「かずくんったら、顔真っ赤にして可愛いんだから~! もう駄目、我慢出来ない!」
「って、うわぁっ! た、束さん!?」
束さんはそのまま俺をベットに押し倒すと、着ていた幻想的なエプロンドレスを脱ぎ捨て下着姿になった。
紫色のアダルトな下着が豊満な身体を包むが、包みきれずに零れ出しそうな印象を受ける。そのまま覆い被さり俺を見つめる束さん。
大きな胸がゆさゆさと揺れ、キュッとしたお尻がフリフリと揺れる。
年齢はともかく、見た目は二十代の女性。正直に目に毒だ。
「このまましちゃおっか、かずくん。必勝祈願として……ね」
妖しい雰囲気を発しながら俺の頬に手を当て笑いかける束さんは蠱惑的で色々と、そう、『色々』と不味いと思った。なのに目が離せないのは精神が未熟故だろうか?
「いや、それは、いろいろと不味いっていうか……うわぁあああぁあああああああああああああああああああっぁあああああああああ!!」
そのまま束さんにのしかかられ、ブラジャーを外すために手をかけられた所で、保健室の扉が勢い良く開いた。
「お兄ちゃん!」
「一真様!」
飛び込むように入って来た夏耶と葵さん。
そのまま俺と下着姿の束さんを見て表情を凍り付かせる。
「「何やってるんですか~~~~~~~~~~!!」」
二人の怒りの声が保健室に響き渡り、三つ巴の戦いに発展した。
その後、この混沌とした事態は千冬伯母さんによって収拾させられた。
と、まぁ朝からこんな目に遭ったせいで色々と気疲れしてしまった。
しかも束さんの蠱惑的な姿が妙に生々しく脳裏に焼き付いてしまい、集中力をかき乱す。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「何か気分が優れないようですが?」
夏耶と葵さんが心配した様子で俺の顔を覗き込む。
朝の気まずさもあってか、少し驚きつつも何とか答える。
「いや、大丈夫。緊張してるのかな……あははははは」
「そう? なら良いんだけど」
「無理はなさらないで下さいね」
二人を安心させると、今度は灯姉さんと颯姉、それとアリシアさんが俺に話しかける。
「かずくん、頑張ってね」
「負けんじゃねぇぞ、一真」
「あんな野蛮な人なんか、お兄様の敵ではありませんわ! 頑張って下さい!」
「ええ、ありがとうございます。頑張りますよ」
三人にお礼を言い、改めて試合に向けて精神を集中させる。
奴との戦いに気が昂ぶり、殺気が膨れ上がる。
その殺気に五人とも言葉を飲み込んでしまったが、我慢して貰いたい。
それほど……奴と戦いたい自分がいた。
そして少しすると、選手入場のアナウンスが入ったので立ち上がりアリーナに向かって歩き出した。
皆から頑張れとエールを送って貰い、充実した精神で俺は試合へと臨んだ。
「よぉ、久しぶり」
「あぁ……」
アリーナに着くと、奴……凰 劉鳳が獣のような笑みを浮かべて立っていた。
それに対し、俺も不敵な笑みを浮かべる。ここで余裕がないようでは、試合でも後がないというものである。
「前は悪かったなぁ。手前と戦いたくて仕方なかったんだ。どうも俺はせっかちでいけねぇなぁ」
「そう思うのならあんな真似などせず、正面から来ればいいだろうに」
「違いねぇ」
クックックっと奴は笑うと、俺を睨み付けてきた。
「今日は装甲してくれるんだろ?」
「ああ、勿論だ。自分から再戦を申し込んだのだから、本気で当たるのは当たり前の事」
「そいつはありがてぇ」
俺の返事を聞いて嬉しそうに笑う劉鳳。
その身に纏うのは暴力を顕わにした殺気。
悪くない。俺の敵として認めたからにはこうでなくては。
すると奴は先にISを展開し始めた。
前回と同様の黄金と赤銅の入り交じった装甲の右腕。
それと同じ装甲に包まれた左腕。
獣のような爪を備えた装甲が両足を包み込む。
だが、それでもISとしては不完全だと分かる姿。
その姿に一瞬だけ怒りが湧いたが、それを口にする前に奴が口を開いた。
「悪いが今の俺にはこいつが精一杯でな。このISの完全展開は負担が大きすぎて、十分ともたねぇんだよ。だからコレが今の俺の最大だ」
苦笑しつつもそう答える劉鳳。だが、その顔には残念そうな感情が窺える。
「それに……アンタもまだ隠してんだろ。何となく分かるぜ。装甲した先に更に奥の手があるってな。そいつを使う気がねぇってこともな。だからお相子だ」
「………そうだな」
隠していることに気付かれたことに驚きつつも、どこか納得している自分が居る。
こいつなら分かってしまうのだろう。俺が隠している力について。そうでなくては『敵』ではない。
だからこそ、今自分に出来る最大限で迎え撃つ。
「来い、絶影!」
その呼びかけに応じて目の前に飛び出して来た絶影を見た後、そのまま装甲の構えをとって誓約の口上を述べる。
『我が内なる正義を顕現し、全ての悪を滅ぼさん』
弾ける絶影を身に装着し、装甲する。
そして全てが終わり次第、奴を睨み付けた。
「へぇ~、そいつが装甲した姿か。確かに今まで見たどの劔冑よりも強そうだ」
そして互いに構え合う。
奴は右腕を前に突き出し拳を握る。此方は鞘に手をかけ、いつでも抜刀出来るように構えた。
そして………試合開始のブザーが鳴り響いた。
「いっくぜぇええええええええええええええええええぇぇえぇえええぇええ!! 衝撃のぉおおぉおおおぉおおおお、ファァッアストブリットオォオオオオオオオオオ!!!!」
「吉野御流合戦礼法 迅雷が崩し……二刀流、双雷ぃっ!!!!」
ここ最近のIS学園で一番凄い激突音がアリーナに響き渡った。