アリーナから出ると、どうも格納庫の辺りが騒がしい。
どうやら襲撃者達は格納庫のISを押さえるために格納庫を占拠したらしい。
其方に出向くと、教員の人達が犯人に向かって降伏勧告を行っていた。
『こんなことをしても何もならないぞ! 大人しく投降しろ!』
よくテレビなんかで聞く台詞。
それを現実に聞くと、想像以上に薄っぺらく感じた。
帰ってきた返答はまるでそんな気は無いようだ。
『断る! 我々は断固として要望が通るまでここを出ない。もし、何かしらの干渉を行うと言うのなら、この場に置いてあるISを全て破壊する。劔冑の力を使えばこの程度造作も無いということは知っているだろう。最良の判断を求める』
てんで話にならない話し合い。
それに怒りと焦りを感じながらネゴシエイトをしている先生のマイクを握る手に力が込められ、持ち手が悲鳴を上げ始めていた。
「あぁ、もう、なんでこんな目に遭わなくちゃならないのよ!」
「落ち着いて下さい、先生」
焦りのあまり声を荒立てる先生に近くにいる三年生から声がかけられる。
それほど、今の状況に焦っていた。
その先生を嘲笑うように、再びその要望とやらが発せられた。
『我々は、戻りし男性利権の名の下に、過去に於いて女尊男卑という醜い思考の所為で冤罪をかけられ捕まった者達の釈放を求める! 彼等は何もしていないというのに冤罪をかけられ、そして捕まった。それだけでも許せないというのに、未だに冤罪を晴らそうとせずに刑務所に入れられたまま、何の手も打たずに放置した政府を我々は許さない! それすら許せぬというのに、つい最近痴漢だと訴えられて捕まった私の弟は、何もしていないというのに、その担当した警察官が女尊男卑のシンパだった所為で刑務所に入れられてしまった。弟は何もしていないと訴えているというのに、ただ気にくわないというだけで刑務所に入れられたのだ! 巫山戯るんじゃない! だからこそ、我々は同志を集い、政府にこうして訴えている! 別に我々が捕まるのはいい。だが、それはこれまでの冤罪で捕まった者達を全て釈放してからだ! だからこそ、もう一度我々は政府に訴える。今まで冤罪で捕まった者達を釈放せよ!』
確かに言っていることは分からなくもない。
俺達の世代だとあまり意識しないが、昔はそういう『女尊男卑』が流行って冤罪で捕まる男の人も多かったらしい。
それが未だに釈放されていないのだから、おかしいということは良く分かる。
だが、それでもこのやり方は………。
現実を目の当たりにされ、少しばかり苦悩してしまう。
確かに彼等の訴えは間違ってはいない。冤罪ならそもそも罪なんてないのだから、釈放すべきだ。だが、それをせずに刑務所に入れたままなのは政府の怠慢だ。
しかし、だからといってこんな国家機関の一部施設と備品を人質にとり、立て籠もるなんて方法がまかり通って良いわけがないのだ。
それが分かってしまうから、他の人達も困惑してしまう。
昔の女尊男卑に染まっていた頃ならいざ知らず、今は殆ど男女平等。そんな理不尽を許せるわけもない。
その理不尽がわかってしまうから、先生方も対応に困る。
彼等は犯罪をしている。それは間違っているが、その主張は間違ってはいないのだから。
と、本来の俺ならそう考えていただろう。
だが、今は違う。
せっかくの『敵』との死闘に心躍らせていたのを邪魔されたのだ。
その怒りたるや、煉獄の炎すら生温い程に灼熱化している。
困惑する皆の中、俺と凰 劉鳳は人をかき分け前へと進んだ。
「ちょっと、君達!」
ネゴシエイトしていた先生が俺達を呼び止めるが、俺達は止まらない。
俺は先生の方に顔だけ動かし、簡単に伝える。
「先生、ISが壊れなければ……いいですよね?」
「何を言って…ひぃっ!?」
俺の顔を見た先生からそんな短い悲鳴が上がった。
そこまで俺の顔は酷いらしい。
戦いた先生から顔を外すと、再び歩き始めた。
当然、格納庫の前に居る見張りの二騎が反応する。二騎共九○式竜騎兵甲だ。
「お前等、何を近づいている! 干渉すると言うなら中のISを破壊するぞ!」
一騎が俺達にそう言うと、もう一騎が刀を鞘から抜いて構え始めた。
構えを見る限り、剣術は囓っている程度。一流からは程遠い。
二騎の反応を見て、俺より先に凰 劉鳳が吠えた。
「ごちゃごちゃとうるせぇんだよっ!!!!」
「「!?」」
その獣が如き殺気を受けた二騎の身体が震え上がる。
それを察してか、奴はニヤリと凄惨な笑みを向けた。
「テメェらのご託はどうでもいいんだよ! 俺はなぁ、せっかく楽しい楽しい喧嘩をしていたってのに、テメェ等の所為で中断させられたことが気に喰わねぇんだよ!」
向こうの言い分などまるで気にしない物言い。
まさに『奴』らしい。
その物言いと迫力に飲まれたのか、二騎は萎縮してしまっていた。
さらに追い打ちをかけるかの如く、今度は俺が口を開いた
「俺の名は『織斑 一真』! 英雄、『織斑 一夏』の息子だ! 父は貴方達のような者達を望んで世に貢献したわけではない。貴方達の行為は父の行いを汚す行為だ! 即刻止めて投降しろ。これは……最終勧告だ」
俺の言葉を聞いて格納庫の中からも動揺が走る。
まさか『英雄』の息子がいるなんて思わなかったのだろう。だが、それでも主犯格はしっかりしているらしい。
『まさか英雄の子息に会えるとは思わなかった。光栄に思うが、同時に残念だ。あの英雄なら、我々のことを分かってくれると思うのだがね。悪いが我々も引けないのでね』
それを聞いて仕方ないと思う。
ここまで来れば互いに安全な解決法など無いことは分かっている。
だからこれは、ただの挨拶にしかならない。
そのことに此方も残念に思っていると、奴が一歩前に出た。
「くだらねぇことをぐだぐだ言ってんじゃねぇよ。ここまでしでかした奴等に一々挨拶なんかしてんなよ。一々ご託を並べて綺麗に言っちゃあいるが、どうせテメェも同じようにしか思ってねぇだろ」
「否定はしない」
「けっ、素直じゃねぇなぁ」
そして互いに構え始めた。
奴は右腕を前に出し拳を握る。
俺は相棒を呼び出した。
「来い、絶影」
「行くぜぇええええええええ!!」
絶影が俺の前に飛び出し、二騎を警戒するように絞竜を宙に漂わせる。
そのまま俺は装甲の構えを取り、誓約の口上を述べた。
『我が内なる正義を顕現し、全ての悪を滅ぼさん』
そして弾けた絶影を装甲していき、俺は武者となった。
奴もまたISを展開し、両拳と両足に装着された姿となる。だが、先ほどの試合と違い、背中にファンのような物が展開されていた。
これで両方ともダメージがなければ恰好もついたのだが、先ほどの試合で両者とも大破状態になっているため見た目はあまりに良くない。
奴のISの装甲は彼方此方が罅割れ、火花を散らしている。
此方は顔の装甲が砕け散り、素顔が晒された状態の上に奴同様に装甲に罅が入っている。
あまりにボロボロの状態に二騎が息を飲み込むのが分かる。
武装した俺と奴は互いに歩を進めていく。まるでその二騎を威圧するかのように。
「ここは貴様が二騎を叩け。俺は扉を破って中の奴等を叩く」
「はぁ!? 何言ってんだよ! テメェだけ美味しいとこ取りしてんじゃねぇ! 俺が先だ!」
戦術を軽く練り、それを奴に伝えると奴は反発してきた。
その方が効率が良いというのに。
「巫山戯るな、此方の方が速い。貴様があの二騎を叩いた方が効率がいい」
「テメェこそ巫山戯るな! 暴れるんだったら俺が先にやる!」
奴は俺を睨み付けながらそう言い捨てると右拳を腰に構える。どうやら聞く気はないようだ。まぁ、聞くとも思えなかったが。
「なら……」
「決まってんだろ!」
そして俺が駆け出すと同時に、奴は地面を殴り付けて飛んだ。
「「俺が先だっ!!」
二人で同時に飛び出し、俺は一騎の方まで縮地を使い距離を詰めると、鞘に手をかけ抜き放った。
『吉野御流合戦礼法、迅雷ッ!!』」
いつもは崩し(アレンジ)をして放つ二刀の業。
その本来の形、一刀の居合いを放ち、向こうが防ぐ前に斬り付けた。
「なっ、ぐおぉおおぉおおおぉおおおおぉおおぉおおぉおぉおおおぉおお!!」
喰らった敵は業の威力から後ろへと吹き飛び、奴の拳によって甲鉄を打ち砕かれたもう一騎共々格納庫の扉をぶち破った。
「何だと!?」
中で驚いてる者達の反応を見てニヤリと笑う凰 劉鳳。
それを尻目に俺は引き抜いた刀を一端鞘に戻すと、素早く構えて腰から二刀を抜き放った。
「はぁっ! 『吉野御流合戦礼法 飛煌が崩し……二刀流 対呪ッ!!』」
放たれた二刀は一本ずつ別の敵に向かって飛んで行き、吸い込まれるように敵に当たりその身体を吹き飛ばした。
「なっ、テメェ!?」
「ボサッとしているからだ」
そう奴に言い捨てながら合当理を噴かし、そのまま中にいる一騎に向かって突進する。
「なぁ、クソ! やぁああぁああぁああああ!!」
向かってくる俺に対して刀を振るってきたが、それを身のこなしで躱すと、刀が振るえない至近距離まで間合いを詰めた。
そこから左手を相手の背に回すと同時に右の拳を相手の鳩尾に打ち込む。
「『吉野御流合戦礼法、鉄床っ!!』」
「ぐぼぉっ!」
叩き込まれた衝撃に汚い声を漏らす。
それを気にせず拳を引くと、失神したようで崩れ落ちた。
これで三人目。外のと合わせれば五人は倒した。
「くっそおぉおおおぉおおおぉおおおぉおおぉおおお!!」
更にもう一騎が刀を振り上げて襲ってきたが、斬られる前に俺は仕掛ける。
「絞竜!」
命を受け、首元から伸びている触手の片方が敵に向かって伸びていく。
それは蛇のように素早く敵に近づくと、動けないようにその身体に巻き付いた。
「くそ、動けねぇ! 離せ、離せっ!!」
暴れる敵。それに向かって意識を込め………絞め潰した。
「ぎはっ!?」
砕かれた甲鉄の中で悲鳴が聞こえた後に解放すると、死んだように倒れた。
もう戦うことは出来ないだろう。
これで六人目。向こうは………。
「シェルッッッッッブリッドォオオオオォオオォオオォオオオォオオオォオォォオオ!!」
「「「わぁああぁあああぁああああぁあああぁああぁああぁああぁああああ!!」」」
奴の光り輝く奴の拳を受け、甲鉄を粉砕されながら三騎の敵は全員格納庫の壁を打ち破って外へと吹き飛ばされた。
ISこそ無事だが、格納庫内の壁は打ち崩れ酷いことになっていた。
「おいおい、つまんねぇなぁ」
奴は地面に埋まった拳を引き抜くと、残念そうな声を上げる。
俺はそれを無視し、最後に残った一人。この騒動の首謀者の前まで歩く。
すでに戦意を喪失したのか、ぐったりとしていた。
「な、何故、彼の息子が我々の邪魔をするんだ。我等の思いは理解できるだろうに」
懇願するかのように俺をみる主犯。
だから、その心を折るべく、俺は静かに告げてやった。
「これで残るは貴方だけだ。貴方の思いは確かに間違ってはいない。だが、その方法が間違えているんだ。こんなことをしても通るわけがないのだから。通したければ……政府と真っ正面に向き合うしかない!」
すると奴も此方にやってきた。
「気に喰わねぇってんなら、やりあうしかねぇ。それをせずにこうして逃げ込んだ手前の言い分が通るわけねぇだろ! テメェで全部どうにかしてみせろ。出来ねぇんだったら、引っ込んでろ!」
「ひっ!? あぁ………」
俺と奴の言葉を聞いた主犯は、それを聞いて膝から崩れ落ちていった。
どうやら俺と奴の殺気に当てられて、精神的に限界だったようだ。
この後この主犯を拘束し、やっとこの騒動は収束した。
俺と奴には賞賛の声がかけられたが、その後千冬伯母さんとマドカ叔母さんに二人して怒られたのは言うまでも無い。