いきなりのテロ騒動から一晩が経ち、現在…………。
俺は治療室に寝かされていた。
保健室ではない。治療室にである。
この部屋は保健室では治療出来ない大怪我を負った生徒を治療する部屋であり、その設備は病院のそれと遜色がなく、致命傷であろうと治療が可能となっている。
何故こんな部屋に寝かされているのか?
それは千冬伯母さんとマドカ叔母さんに怒られた後に遡る。
あの後、千冬伯母さんに一喝されマドカ叔母さんにジトっと睨まれながらお説教を受けているときであった。
「確かに一真は強いかもしれないが、それでもここには短期留学生として来ているんだからな! もしお前に何かあれば武帝高校にも、それに兄さん達に申し訳無い! それに凰、お前もお前だ。お前にもし何かあれば、私は鈴に顔向けできないんだからな!」
若干涙目で俺を叱るマドカ叔母さん。
俺はそれをすまなさそうに聞いていたわけだが、凰 劉鳳は悪態を付きながら聞き流していた。それを千冬伯母さんに見抜かれ、睨まれると、奴はバツの悪そうな顔をした。
そしてお説教が終わったところで、俺と奴は…………倒れた。
実は奴と戦ってから、身体の彼方此方から激痛が走る。良くみれば真っ赤になって腫れ上がり、パンパンになっている。
意識は持つが、それでも凄く痛い。身体がそれに反応して脂汗を掻き続けていたことに、倒れてからやっと気が付いた。
それは奴も同じらしく顔に凄い脂汗を浮かべていた。
いきなり倒れた俺達を見て、千冬伯母さんが目を見開きマドカ叔母さんが驚く。
「なっ!? だ、大丈夫か、一真! 凰も!」
「至急担架を用意しろ。二人を急いで治療室に移送するぞ」
倒れた俺達はこうして二人して治療室へと運ばれた。
その後治療を受け、鎮痛剤の副作用で眠ってしまい一晩が経ったというわけだ。
起きてから自分の状況を少し考え、同じように起きたらしい奴と目が合う。
「何だ、テメェ。あの程度で気絶するなんて、弱ぇなぁ」
「何だ、貴様。あのくらいのことで気を失うとは、抜けているのではないか」
そして互いに睨み合う。
何ともいけ好かない奴だと。こんな寝たきりという恰好の付かない状態でも、俺達はいがみ合っていた。それが最早、普通の状態。
今にして冷静に考えても、自分が可笑しな感じがして仕方ない。
ここまで嫌悪する相手も初めてだが、だからといって口調まで変わるというのは早々ないと思う。何でそこまで硬い口調になってしまうのかわからないのだから不思議だ。
だが、奴に普通に話しかけることなど出来ないと、何故か分かってしまうんだよなぁ。
そのまま火花を散らしていると、出入り口の扉が開いた。
「二人とも、何睨み合ってるんだ?」
部屋に入ってきたのはマドカ叔母さんだった。
もう昼過ぎなのか、スーツ姿である。時計を見ると三時は過ぎていた。
マドカ叔母さんは俺達にそう声をかけながら近づくと、俺と奴の間に入って来た。
その御蔭か、奴の視線が感じなくなる。
マドカ叔母さんは俺達に楽にするよう言うと、軽く咳払いをして少し真面目な顔をした。
「えっと、こほん。まず、二人の状態だが………二人とも結構な大怪我だったんだぞ。身体の骨に彼方此方に罅多数、打撲に各種裂傷、それに一真は肋骨が二本骨折。凰は左腕の骨がかなり深く折れてた。あと少し深かったら神経に支障をきたしていたかもしれない」
怪我の状況を聞いて、道理で治療室に運ばれたのかと納得した。
確かに結構な大怪我だ。保健室ではそこまでの大怪我は治療出来ないのだから。
だが、同時に少しばかり恥ずかしく情けない気持ちになる。
その程度にしかなっていないということに。
父さんは昔、死合いをしたらそれこそ致命傷ばかりしか受けないと言っていた。
幸長おじさんとやり合った時は全身炭化しかけたとか、伊達おじさんとやり合った時は全身から血を噴き出したとか。最早人間の領域を超えている。
それに対し、俺が頑張ってもその程度しか与えず受けないというのいは、それだけ俺が『弱い』ということだ。
己が未熟を突き付けられ、それを恥じることしか出来ない。
「け、その程度の怪我で治療室行きかよ。まったく大げさだなぁ、おい」
奴は面倒臭そうにそう言ってごろりと寝っ転がる。
口ではそう言っているが、何故かそうとは思っていないということが分かった。
こんな所で奴の思考が読めるということに虫唾が走ったけど。
マドカ叔母さんはその後建物の被害やテロリストのその後に付いて、軽く教えてくれた。まぁ、警察に突き出されてお終いなわけなのだが。
そしてまた咳払いをするとマドカ叔母さんは教師の顔を俺達に向けた。
「さて……教師としてお前達に処分を言い渡すぞ。勝手に騒ぎに介入し、学園の設備を壊したお前達には処分を下さないと示しがつかないからな。まず、凰は一週間の謹慎だ。毎回問題ばかり起こしているな、お前は。もうちょっと鈴に絞って貰うから覚悟しておけよ。どっちにしろ怪我が治るのに一週間はかかるだろうからな」
「ちっ、またババアのお小言かよ」
奴はそれを聞いて疲れた様な顔をする。
俺も少ししか離さなかったが、話した感じから凰さんは怒るときっと怖いと思う。母さんは怒っても全然怖くなくて、ぷんぷんと言った感じにしか怒らないので。
でも、父さんのことを馬鹿にされると武者ですら戦くほどの迫力を発するけど。
そしてマドカ叔母さんは今度は俺の方を見た。
「次に一真。申し訳無いけど、一真も同罪だからな。謹慎一週間だ。それとコレは武帝校から来たから渡す。お前の処分について書いてあるようだぞ」
初めての謹慎に少し驚きはするが、それ以上に渡された手紙の方が気になる。
俺はそれを神妙な顔で受け取ると、中身に目を通した。
『やぁ、久しぶり。元気にやっているようで何よりだよ。ところで聞いたけど、何々、またIS学園で騒ぎがあったんだって。あそこって本当にそういうことに事欠かないよね。それも今回は劔冑が相手だったって言うじゃないか。是非とも僕も参加して暴れたかったよ。まぁ、あまりヤンチャが過ぎると灯に叱られてしまうから残念だけどね。さて、それで君への処分なんだが、勝手に問題に介入した件について、我が校では君を謹慎一週間の刑に処します。まぁ、皆より早い夏休みだと思って欲しい。寧ろウチでは君は羨望の眼差しを向けられているよ。戦場に出向くは武者の誉れだからね。まぁ、そんなわけで君は少し早いけど夏休みを楽しんで欲しい。 幸長より
追伸 僕としては、早く灯と君の交際報告が聞きたいかな。すぐにでもお赤飯炊ける準備は万全だよ』
内容を理解して、肩の荷が下りると共に頭痛がしてきた。
武帝校の処分そのものも此方と大差は無い。文面を見る限り、寧ろ褒めているようだが、それでは体面上の問題があるので仕方なくといった感じなのだろう。幸長おじさんがウキウキとしながら手紙を書いている姿が容易に想像出来た。
最後の方は無視しておこう。正直その問題は混迷を極めているので。
手紙を読み終えた俺を見て、マドカ叔母さんが笑顔で話しかけてきた。
「まぁ、そういうことで二人共、これからは無茶しないように。大人しく一週間しているようにしろな。後で何かお見舞いの品でも持ってくるから」
そう言って治療室を出て行った。
その際にベットとベットの間のカーテンを動かしていったため、奴の姿は見えなくなった。正直、奴の姿など見ていては休まるものも休まらないからな。
話を聞き終えて少し安心した俺はそのまま眠りに就こうと思い目を閉じる。
謹慎は仕方ないが、寧ろあれだけのことをして一週間だけというのは恩赦だろう。
その処分で許してくれた先生方に感謝する。
そして少しウトウトし始めた所で、廊下からドタドタと複数のけたたましい足音が聞こえてきた。
一瞬止むと共に、治療室の扉が勢いよく開かれた。
「お兄ちゃん、大丈夫!」
「ご無事ですか、一真様!」
「かずくん、大丈夫なの!」
「お兄様、お怪我は大丈夫ですの!」
「一真、起きたって本当か!」
夏耶、葵さん、灯姉さん、アリシアさん、颯姉の五人が心配して俺の寝ているベットに近寄ってきた。
皆の表情から余程心配していたことが窺える。
「みんな………心配かけてごめん。でも、そこまで酷い怪我じゃないよ」
安心させようと起き上がりながらそう答えようとするが、そのま前に取り押さえられてベットに寝かしつけられてしまう。
「お兄ちゃん、無理しないで」
「一真様がどれほどの大怪我なのかは織斑先生に聞いております。ご自愛下さい」
「かずくん、昨日から無茶しすぎよ。お姉さん、見ててハラハラしっぱなしだったもの」
「お兄様の雄姿、確かに格好良かったですけど、あまり無茶をするのは感心しませんわ。前の時もそうですけど、お兄様は無茶のしすぎです」
「格好良かったぜ、一真。だからもう今はゆっくり休んどけよ」
皆の心配する気持ちに感謝すると共に、申し訳無い気持ちで一杯になる。
それだけ心配させてしまったんだよなぁ。
俺は皆の勧めに従い、横になることにした。
「お兄ちゃん、何でも言ってね。私、お兄ちゃんのために頑張るから」
「一真様、何かあったら仰って下さい。わたくしのできる限り頑張りますので」
「お兄様、必要な物があったら何でも仰って下さいまし。このアリシア・オルコット、何でも揃えて見せますわ」
夏耶、葵さん、アリシアさんが優しくそう言ってくれた。
それが嬉しく感じてしまう。別に病になった訳ではないが、奴と一緒だと心が荒むのでありがたい。
「かずくん、お腹減ってない? お姉さん、おにぎりを作ってきたの。食べる?」
「あたいはこれだ、栄養ドリンク剤! 精力回復させて身体も治るようになぁ」
灯姉さんと颯姉からは食べ物と飲み物を貰った。空腹だったので本当に有り難いが、ドリンク剤に『スッポン、まむし、マカエキス大量配合』と書いてあったのであまり飲まないようにしておこう。どうなるかわかったものじゃない。
「かずくん、食べるのも大変でしょう? 私が食べさせてあげるね」
「飲むのもな。何ならあたいが口移しで飲ませてやるよ」
灯姉さんがおにぎりを片手に持って俺に近づけ、颯姉がドリンクを片手に口に含もうとしている。
それを見た夏耶達が声を上げた。
「あぁ~、お姉ちゃん達ずるい! むぅ~……あ、そうだ」
夏耶は何か思いついたようで、動き始めたと思ったら俺のベットに潜り込んできた。
「一人じゃ寂しいよね。私、添い寝してあげる!」
そう言って俺の腕に抱きつく夏耶。
むにゅっと大きな胸で腕が挟まれてしまい、その感触に妹だというのに赤面してしまう。
「夏耶、ずるいですわよ! わ、わたくしも、恥ずかしいですけど……お兄様に添い寝して差し上げますわ!」
アリシアさんはそう言って反対の方から入って俺の腕に抱きついてきた。
プリッとした感触がさらに心臓の鼓動を早める。
「で、でしたら、わたくしは………ひ、膝枕をさせていただきます」
顔を真っ赤にして恥じらう葵さんはそう言うと俺の枕元でしゃがみ、早業で枕を抜くと自分の膝に俺の後頭部を乗せた。
絞め細やかな肌の感触と女の子特有の甘い香りを感じて心臓が破裂するんじゃないかと思うくらいドキドキしてきた。
「あらあら、三人ともずるいわね。私は、何処にしようかしら? 前?」
「難しいぜ。だったら俺は下……股間とかか? それはちょっと早いけど、一真のだったら……」
「だったら私はかずくんの『下の世話』をしてあげる~! 口でも胸でも『ピー』でも好きなだけ使って良いよ! 何だったら今からでも……」
「「「「「「束さん!」」」」」」
いつの間にか参加し、上着を脱ぎ始めた束さんに皆驚きの声を上げた。
そうして六人で騒ぎ始めることに。
いつもの事ながら、ドキドキして仕方ないことばかりだ。
すると………
「うるせぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
隣のベットから治療室内に響き渡るくらいの怒号が飛んで来た。
無論言ったのは奴である。
その後、六人は俺を傷付けた者として奴を睨み付け、奴は五月蠅いと怒り少し幼稚な口喧嘩になったのは言うまでも無い。
こうして、この騒動と俺への処分は終わった。