新しい学校での生活にも段々と慣れてきて、早三週間が過ぎようとしていた。
現代の子供にとってこんな学校での生活は地獄にしかならないと思っていたが、いやはや…住めば都とはよく言った物である。
この環境と授業について来れず、学校を辞めたクラスメイトがクラスの約半分も出たものだが、それでも図太く俺はやってきている。
確かに授業はスパルタ(一真にとってはいつもとまったくかわらない)で、若い世代には娯楽らしい娯楽が殆どないここは確かに牢獄と変わらないのかもしれない。
だが、空気は新鮮で学食の料理も美味い。昼はまぁ…あれだが、それでも武者として鍛錬するには最適な空間だと思う。裏手の川で良く魚を捕ったりするので山の幸には困らないし………
そんな学校生活において、俺の友人と先輩について話そうと思う。
「お~い、一真。次の授業、移動授業だぞ」
「ああ、分かってる。こっちも用意が終わったから行くか」
「おう」
俺に次の授業のことを教えて一緒に行こうと誘ってきたのは茶色の短髪をした少年だった。
こいつの名は『新田 雄飛』。
中学からの付き合いで、とても気の良い奴である。
共に武者に憧れていることから仲良くなり、今では立派な『悪友』である。
何故悪友かと言えば、人は良いのだが………
「そう言えば隣のクラスの荒川さんって凄いスタイルいいよなぁ」
ふと思い出し、ニヤついた顔でそう言ってきた。
そう、こいつは所謂スケベなのだ。まぁ、むっつりなのでまだマシだと思うが。
「そうだね~。ちなみに彼女、胸が制服越しでも大きく見えるけど夏耶ちゃんの方が大きいからね」
「まじかよ! それ本当か!」
そんな彼に個人的に不本意な情報を伝えてきたのは、さわやかな笑顔が似合う美男子だ。
こいつの名は『稲城 忠保』。
こいつも中学からの付き合いで、雄飛とは幼馴染みらしい。
こいつは『鍛冶師』を目指して入学してきた。雄飛とのコンビはとても良く、俺の『絶影』も結構世話になっている。
こいつは逆にオープンな方であり、隠さずに平然とものを言う。だが、その持ち前のさわやかさから批難されることはない。
「忠保、そんな情報を何処で手に入れてきたんだ。詳しく教えてもらおうじゃないか」
「いや~、それは……あっはっはっは」
「笑って誤魔化せるとでも…」
「はぁ…一真は厳しいね」
と、まぁ若干スケベな二人にはいつも世話になっている。
スケベなことを除けば、本当に良い奴等なのだ。ただしやはりと言うべきか、女子寮を覗きに行こうと誘いに来るのは止めて欲しい。
「何を馬鹿なことを言ってるんだ、三人共。次の授業はあの鬼教師の授業だぞ。遅刻したら何をさせられるか分かったものじゃない。特に一真、お前は僕のライバルなんだから、遅刻なぞ許さんぞ!!」
そんなやり取りをしていた俺達を呆れた目で見ながら言ってきたのは、長い黒髪を一つに纏めた綺麗な顔をした男だった。
こいつの名は『徳臣 信吾』。
この学年でのナンバー2。次席で俺と入学式で戦ったやつだ。
何かにつけてライバル視されるが、それも競争意識が強いからだろう。だが、正々堂々としていて曲がったことを嫌い、自分の非はすんなりと認めると言った柔軟なところもある。
俺自身、ライバル視されてる割には気に入っている。時たま胸を苦しそうにしているときがあるのが少し心配だが、たぶん大丈夫だろう。思春期の男にしては珍しく、男の好きそうなエロい話を振ると真っ赤になって慌てる。俺と似たようなところが多いと思う。
ちなみにこいつが寮の同室である。
「それはまずいな。二人とも、早く行かないと先生に怒られるぞ」
「そうだな」
「急ぐとしますか」
そう言って、俺達四人は教室を出た。
これが俺の友人達。気の良い雄馬とそれを支える忠保。そんな二人が暴走しがちなのを押さえるのが信吾。その三人をとりまとめるのが俺と言った構図が出来上がっていた。
こうして友人と一緒に過ごす毎日は厳しいがそれなりに充実している。
それで一緒に移動していると、目の前を通った女生徒に声をかけられた。
「あらあら、かずくん。これから移動教室なの?」
俺に声をかけてきたのは、黒い艶やかな髪をした大和撫子と言う言葉が似合う女性だった。
「はい、そうなんですよ……て、毎回言ってるじゃないですか。かずくんって呼ばないで下さいよ、真田先輩」
俺に話しかけてきたのは、『真田 灯(さなだ あかり)』先輩だ。
この学園の一つ上の先輩であり、二年生の学年主席。槍の名手としても知られ、剣術小町ならぬ、槍術小町の二つ名を冠している。
雰囲気の通りしっとりとした色香を放っており、歳不相応の発育の良い体が目に付く。
俺は先輩にそう答えると、途端に顔を覆って悲しそうな顔で少し泣き始めてしまった。
「真田先輩なんて他人行儀な言い方で呼ぶなんて……お姉さんは悲しいわ。昔は『あかりおねえちゃん』って言っていつも私にくっついてきたのに……」
「す、すみません。学校ではちゃんと公私を分けるべきかと思っていたので…」
「そうなの? 本当?」
「はい。すみませんでした……灯姉さん」
そう答えると、真田先輩もとい灯姉さんの顔が綻ぶ。
そう、この人は俺の幼馴染みであり小さい頃から世話になっている。
父さんと灯姉さんの父親である幸長おじさんは武者同士で仲が良く、その関係で良く家に遊びに来ていた。その時は一緒によく遊んで貰っていたのだ。その関係は今も続いており、こうして仲良くさせてもらっている。ちなみに夏耶とも仲は良いのだが、何やら競い合っているようなところがあったりする。
「ふふふ、かずくんったら照れ屋さんなんだから」
皆を魅了するような笑顔を俺達に向ける。
それに見惚れてしまっていると、ゆっくりと此方に近づき俺の頭を胸に抱きしめてきた。
「んぷっ、もが……」
「かずくんは良い子ね。いいこいいこ」
そう言いながら灯姉さんは俺の頭を優しく撫でる。
俺はと言うと、顔一杯に感じる柔らかな感触と柑橘系の甘い香りにクラクラしてしまう。
別に避けることは出来なくは無いのだが、それをするとまた泣きそうになってしまうのだ。
そのため、俺は仕方なく受け入れてるしかないのだ。小さい頃からやられているためか、そこまで抵抗はない。中学に入った頃からやられるたびにドキドキとしてしまうのはそれだけ魅力的な女性だからなのだろう。要は弟分に凄く甘い姉なのである。
だが、そんな俺にとっていつのもやり取りも周りから見ればそうではない。
「あぁあああああああああああああああああ! 何羨ましいことされてるんだ、お前!!」
雄飛が過剰とも言える反応をするせいで、さらに周りからの視線が集まっていく。
「一真、今夏耶ちゃんに写真付きでメール送っといたから」
忠保が何気に怖いことを言ってきた。
それは後で怖いことになるから止めて欲しいが、未だに胸に顔を埋められている俺にはそれを止めさせるよう言うのは不可能だ。
「な、な、なっ、何をやっている一真!! こんな廊下で不埒なことを! 真田先輩も一真を放して下さい!!」
信吾がそう言って俺の手をぐいぐいと引っ張っていた。声の様子から顔を真っ赤にしていることがわかる。だからといって、その腕の関節はそんな風に曲がらないから変なふうに引っ張るのはやめてもらいたい。正直、少し痛い。
「そう硬いこと言わずに、ね。もうちょっとだけだから」
「んぷっ……」
灯姉さんはそう言うと、更に俺を胸に埋める。
少しだけ顔が見えたが、赤かったような気がした。
そしてさらに反応する周り。この学校は基本男子が多い。つまり………
俺は昔から感じるように、殺気だった視線を周りから浴びせられることになった。
これが俺の学校の悩みの一つ。
何かある度にまわりから殺気を浴びせられることである。
確かに充実した学校生活だが、こうして度々騒動に巻き込まれては疲れてしまう。
はぁ……確かに楽しいけど、もうちょっと静かに過ごしたいと思うのは俺だけ何だろうか……