織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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今回は殆ど見せつけられるだけです。


第70話 織斑 一真は実家に帰る その3

 父さんと母さんの紹介も終わったことで、改めて我が家に帰ってきたという気になる。

それにしても思うのは、恥ずかしながら相変わらずの両親の仲の良さだろうか。

まるで定位置とばかりに父さんの腕に腕を絡めて抱きついている母さん。

そんな母さんが嬉しいのか、父さんも笑顔を母さんに向けていた。

夫婦仲が良いことはいいんだが、やはりそれを友人や幼馴染みに見られるのは恥ずかしくて仕方ない所があったりする。

そんな二人に初見の葵さんとアリシアさんは顔を赤らめつつ羨ましそうな目を向け、灯姉さんと颯姉は苦笑を浮かべていた。

 

「相変わらずのラブラブっぷりですね、お二人さん」

「見ていて羨ましい夫婦仲ですね」

 

二人のそんな言葉に母さんは顔を赤く染めつつ嬉しそうに微笑んだ。

 

「そう言われると恥ずかしいですね。ね、旦那様」

「ははははは、確かにそうですけど、その分嬉しいですよね。だってそれだけ俺が真耶さんのことが大好きだってみんなにわかるってことですからね」

「旦那様ぁ……………」

 

そして母さんは瞳を潤ませて父さんを見つめると、父さんも母さんの身体を抱きしめる。

その光景に顔を真っ赤にする灯姉さん、颯姉、葵さん、アリシアさん。

俺は見慣れすぎていて呆れ返って何も言えない。

そんな風に思っていると、急に右腕が柔らかいものに覆われた。

 

「うふふふふ~。お母さん達、相変わらず仲いいよね~。私もお兄ちゃんともっと一杯仲良くなりたいな~」

 

見ればいつの間にか夏耶が右腕に抱きついていた。

そのため大きな胸で俺の右腕はすっぽりと挟み込まれてしまっていた。

ドキドキしつつも親の手前、気まずさしか感じない。

 

「あぁっ! 何してますの、夏耶! ずるいですわ!」

「いつの間に一真様の隣に……やはりここは敵陣ですね……」

「あらあら、家に帰ってさらに甘えん坊が出ちゃったのね、夏耶ちゃん」

「ずりぃぞ、夏耶。あたいにもやらせろよ」

 

そんな俺達を見て4人から抗議の声が上がる。

父さん達はその光景を見て何やら愉快そうに笑う。何がそんなに可笑しいのか俺には分からない。俺は4人か睨まれていて萎縮しているというのに。

 

「あら、かずくんったら本当にモテモテなのね。何だか昔の旦那様みたいです」

「そうですか? 俺はこんな風に皆から慕われた覚えはないんですけどね」

「それは旦那様が無自覚だっただけですよ。みんな旦那様に気があったのは誰が見ても丸わかりでしたもの」

「そう言われても困りますね。だって………」

 

そこで一端言葉を切ると、父さんは母さんの頬に手を当ててキスするくらい顔を近づけると囁いた。

 

「俺は真耶さんだけに夢中でしたから」

「だんなさまぁ………」

 

本日二度目のイチャつきを見せつけられ、気まずさに拍車が掛かる俺。

きっと皆も引いたんじゃないだろうか。こんなバカップルな夫婦なんて気持ち悪いはず………。

 

「まさに理想の夫婦ですね。わたくしも一真様とあのように………ポ…」

「そうですわね。お母様とお父様ではこのような感じではございませんでしたから。お兄様とわたくしもいずれは……」

 

何やら熱い羨望の眼差しを向ける葵さんとアリシアさん。

その感性に俺は突っ込みを入れたくて仕方ない。いや、それはどうなんだと。

その同意を得たいことから灯姉さんの方に顔を向けると、灯姉さんは顔を赤に染めつつ俺に答えた。

 

「あれが女の子の夢だから仕方ないわよ。正直、私もかずくんにあんな風に愛を囁いてもらいたいし。されたらきっと、とろけちゃうんだろうなぁ……」

 

灯姉さんも向こう側であった。

あれが女の子の夢なのだろうか? 男の俺には分からない!

颯姉の方に目を向けると、顔を赤くしながら目を逸らされた。

あなたもか!

最後の砦にして毎日あれを見てきた夏耶なら分かってくれるはず……そう思って未だに抱きついている夏耶に目を向けると、夏耶も俺の顔を見つめてきた。

 

「お母さんに負けないくらいもっと一杯甘えさせてね、お兄ちゃん!」

 

妹が何を言っているのか全く分からない。

可笑しいのはもしかして俺だけなんじゃないだろうか? 父さん達が普通で俺が可笑しいのか?

そう思ってしまえるくらい、誰も賛同者がいない。

だが、それでも……やっぱり身内として恥ずかしい。

 

「父さん、母さん、そろそろ終わりにしてくれないか。見ていて恥ずかしいんだけど」

「かずくんは恥ずかしがり屋だね。別に恥ずかしがるようなことでもないのに…」

「それだけ成長したってことかな」

 

それが本心からの願いであり、それを聞いた父さん達は苦笑しながら離れた。

母さんは凄く心残りがしかたない様子だったけど、頼むから客人の前でイチャつかないでほしい。それに夏耶に悪影響なんじゃないか?

そして咳払いをして辺りに漂うピンク色の雰囲気を飛ばすと、皆にソファに座って貰ってもらう。

それを見た母さんは夏耶に声をかけた。

 

「かやちゃん、お客さんにお茶をお出しするから手伝って」

「うん!」

 

夏耶は母さんに連れられてキッチンに向かい、俺は葵さんとアリシアさんに改めて父さんを紹介した。

 

「二人には改めて紹介するね。この人が俺の父さん、織斑 一夏だよ」

「改めまして。いやぁ、まさか一真がこんなに綺麗な子達を連れてくるとは思わなかったよ」

 

父さんに褒められ、頬を赤く染める葵さんとアリシアさん。

その時に隣に座っていた灯姉さんと颯姉から自分達はどうなのかと言われ、父さんは勿論綺麗になったと笑顔で返した。

 

「まさか、あの有名な武者にこうして会えるなんて思いませんでした……」

 

葵さんは有名人にあった時のような感動で打ち震えており、感激しているようだ。

まぁ、此方の業界で父さんは『英雄』なのだから当然と言えば当然かもしれないけど。

 

「父の親友と聞いておりましたが、まさかこんなに若々しいとは思いませんでしたわ! それに……父がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。父に変わって娘であるわたくしが謝罪いたしますわ」

 

アリシアさんは父親の件をかなり気にしていたようだから、謝りたくてしかたなかったんだろう。真面目だからこそ、そういう礼節は大事にしたい子なんだ。

二人の話を聞いた父さんは苦笑しながら謙遜を言う。

 

「別にそんな畏まらなくていいよ。英雄だの何なのと若いときに持ち上げられて、なし崩し的に戦ってきただけだからさ、結果そんな風になっちゃったってだけで。皆がそう言うけど、その前に俺は一真の父親だよ。君からしたら、ルームメイトの父親というくらいでしかないよ。それにそちらはセシルの娘さんだったね。寧ろセシルとは良く付き合わせてもらって此方こそ礼を言いたい。君のお父さんは良き友人だよ」

 

その言葉を聞いて二人は何やらホッとした様子だ。

どちらも緊張していたらしいから。

そしてそんな二人が緊張していたのを見抜いたのか、父さんはニッコリと二人に笑いかけた。

 

「二人とも息子のことを慕っていると聞いてよ。どうだい、一真は。しっかりとやれてるかい?」

 

「「ぶぅっ!?」」

 

二人は父さんにそう言われ噴き出した。

無論それは俺も同じで、慌てる二人同様に赤面してしまっていた。

そんな様子を見て父さんは軽く笑うと、『一真は好かれているようで何よりだよ』と言ってきた。その所為で更に恥ずかしくなってしまう。

そんな訳で気まずさを感じながら目を彷徨わせていると、葵さんとアリシアさんに目が合った。途端にさらに赤面して顔を逸らす俺達。

妙に意識してしまって気まずさが増していってしまう。

そんな気まずい空気を俺達だけが感じていると、それを切り裂くように母さんと夏耶がお茶を持ってリビングに来た。

 

「はい、これをどうぞ」

「お母さんの手作りクッキー、美味しいんだよ!」

 

テーブルに置かれたのは、紅茶と美味しそうなクッキーだ。

母さんの手作りなのはこの家では良くあることだが、出された葵さんとアリシアさんは驚いているようだ。

 

「凄く美味しそうです」

「まるで本場のパティシエようですわ! 遜色ない出来です」

「そう褒めてくれると嬉しいわ。さぁ、どうぞ」

 

母さんに勧められるままにクッキーに手を付け始めると、皆笑顔になって母さんに讃辞を送る。それが嬉しいらしく、母さんは笑顔で喜んでいた。

そして父さんもクッキーを食べようとするのだが………。

 

「そんなに喜んで貰えて嬉しいよ。それじゃみんなが美味しいと喜ぶクッキーを俺も頂こうかな」

 

そう言ってクッキーの装ってある皿に手を伸ばすのだが、何故か母さんがその皿を遠ざけた。

 

「あの~……真耶さん?」

 

不思議に思っている父さんに母さんは笑いかけると、一つ摘まんで父さんの口元に差し出した。

 

「旦那様、はい、あ~ん♡」

 

母さんは砂糖のように甘い声で父さんにそう言うと、父さんはそれを嬉しそうにしながら口を開いた。

 

「あ~~~~ん」

 

そして食べると、その味をより良く味わおうと良く咀嚼して飲み込んだ。

 

「うん、いつもですけど……とても美味しいです。真耶さんが作るお菓子は最高に美味しいですよ。俺にとって、世界で一番です」

「だんなさまぁ♡」

 

脳がとろけるんじゃないかというくらい甘い声で恍惚とする母さん。

そんな母さんに父さんはクッキーを摘まむと、母さんに差し出した。

 

「ほら、美味しいですよ。はい、あーん」

「あ~~~ん♡」

 

父さんに差し出されたクッキーを母さんはまるで小鳥の様に小さく口を開けて食べた。

それだけでもアレなのに、更によく見れば父さんの指も一緒に口に入っている。

そして引き抜かれた指には、銀の橋が架かっていた。

 

「どうですか、真耶さん?」

「おいしぃれす………♡」

 

そんな光景を見せられた5人は………。

 

「「「「「…………………………………………」」」」」

 

顔をトマト以上に真っ赤にして見入っていた。

俺は口から何かを吐き出したくてしかたない気分になり、それは母さんが正気に戻るまで続いた。

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