織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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今回も一真を弄る話です。


第72話 織斑 一真は実家に帰る その5

 まったくもって自分が恥ずかしくて仕方ない。

何で実家に帰ってきてそんなことを考えてしまうのか?

これも偏に父さん達の気にあてられたからに違いない。普段はそんなに意識しないのに、今日に限ってそんなイチャつきを見せつけられたから。

俺は皆に大丈夫と言って首を横にぶんぶんと振り、ピンクがかった思考を強制的に終了させる。

武者たる者、常に己が武を向上させる者也。それ以外の思考はただの邪魔。そして武者という存在その物も、強さを求めるカバーに過ぎないことを忘れてはならない。存在に縛られることなく力という武を高めるのが父さんでは無い『センセー』の教えだ。それを意識すればこんな事で心を乱されていては何も出来ない!

そう『センセー』なら言いそうだけど………やっぱり無理じゃないかなぁ。

きっと百面相になっている俺を見てか、父さん達は懐かしむかのように笑い夏耶達にある提案を出した。

 

「そうだ、せっかくだし皆一真の部屋を見てみるかい?」

 

「「えぇ、いいんですか!?」」

 

「と、父さん、何いきなり言ってるんだ! それに本人の許可なしに何勝手に許可して」

 

いきなり変なことを言い出した父さんに目を輝かせて反応する葵さんとアリシアさん。夏耶と灯姉さん、颯姉の三人は昔から良く部屋に来ていたのでそこまで興味は無い……と思ってたのだが、三人も実に楽しそうに笑った。特に夏耶なんて毎日と言って良いくらい来ていたのに何でそんなに喜ぶ!

抗議の声を上げる俺に父さんは優しい目を向け、その抗議を代わりに母さんが父さんの代わりに答える……父さんに身体を預け、夢心地のように頬を赤く染めながら。

 

「かずくん、旦那様はね……みんなを平等で同じ条件にしたいって思ってるんだよ」

「同じ条件?」

「うん。だって、かやちゃんもあかりちゃんもはやてちゃん、みんなかずくんの御部屋には上がったことがあるでしょう。でも、葵さんやアリシアさんは初めて。だから、せっかく来てくれたんだしかずくんの部屋を見せてあげてライバルとの差を縮めてあげようって。ね、旦那様」

 

父さんに甘えるように肩にこてんと頭を乗せる母さん。

そんな母さんに微笑みながら父さんは頷くと、父さんは俺を見ながら皆に聞こえるように言った。

 

「あまり世間的には良くないのだけど、せっかく息子を慕ってくれる女の子がこんなに来てくれたんだ。恋に応援したいと思うのは恋を知っている人間としては当然だよ。二人は初めて家に来たのだし、ここでもっと一真のことを知って色々と頑張って欲しい。親馬鹿と言われるかもしれないけど、一真は俺と違って器用だし機微にも直ぐ気が付く。俺には勿体ないくらい良く出来た息子だ。だからこそ、皆には頑張って欲しいんだ」

 

「「お、お義父様………」」

 

「いきなり義父って呼んでる!」

 

葵さんとアリシアさんが父さんの言葉に感動してそう漏らし、それを聞いた俺は咄嗟に突っ込みを入れてしまう。

普段はそんなことしないのに、何故か今日に限ってしてしまうのはこの場の空気が自分ではもう制御不可能だからだろう。

父さんはそう呼ばれると少しムズ痒そうにしていたが、満更では無いようだ。

その様子に母さんは少しだけむくれていたが。

そのまま父さんの耳元で何かを囁いた途端に父さんの顔が赤くなったけど、一体何を言ったんだ、母さんは?

 

「むぅ~、いくら葵さんとアーちゃんが同じ条件になったからって、『お義姉ちゃん』とは認めないからね~」

「あらあら、二人とも、随分と気が早いわね」

「おいおい、そいつはまだ早ぇだろうが。なぁ、一真」

 

夏耶は頬を膨らませ、灯姉さんは何やら妙な威圧感のある笑みを浮かべ、颯姉はからかう口調だが、どこか怒っているような怒りを感じさせる。

正直三人が少し怖い。それは葵さん達も同じようだが、二人は気丈に振るまい、それを弾き返すかのように三人に向き合った。

 

「すみません、感極まって少しばかりハメを外してしまったようです。いくら『将来』そう呼ぶことになろうとも、まだ時期尚早ですから」

「申し訳ありませんでしたわ。とはいえ、お兄様とお慕いさせていただいているのですから、お兄様のお義父様そう呼んでも可笑しくはないはずですわ」

 

そして睨み合う五人。

いや、別に睨んでなどいないのだが……何やら空気がバチバチと火花を散らつかせているようで怖い感じだ。

そんな五人を見て父さん達は何やら微笑んでいた。

 

「いやぁ~、一真は本当に愛されているようだ」

「そうですねぇ、本当に昔を思い出します。あの時の旦那様もこんな感じで、いつも篠ノ之さん達が睨みあってましたから」

 

二人は昔を懐かしみながらそっと肩を抱き合っていた。

うん、とても仲の良い光景なのは分かるけど、正直この事態の収拾が出来ない状況を助けて欲しい。

 そんな空気を何とかするために、俺は取りあえず皆を部屋へと案内することになった。

 

 

 

 睨みあう五人を連れて俺の部屋へと向かう。

と言っても室内でそこまで距離があるわけでもなく、リビングを出て一分もしない内に自室についた。

扉の前に来ると、葵さんとアリシアさんは緊張した様子で固唾を呑み、夏耶達は何やら懐かしそうな目で扉を見つめる。

そんな様子の五人にそこまで大した物は無いと軽く説明し扉を開けた。

 

「「あ…………………」」

 

二人からそんな声が漏れた。

その反応が少し可愛らしく、クスッと笑ってしまった。

それを誤魔化すかのように俺は少し畏まった感じで始めて部屋を見る二人に声をかけた。

 

「ようこそ、俺の部屋へ。と言っても、何もないのだけどね」

「これが………一真様の御部屋……」

「そても新鮮な感じですわ……それに……初めて異性の御部屋に入りましたので……」

 

感動したようで、目を輝かせて部屋を見渡す二人。そんな二人を見てから夏耶達も部屋に入ってきた。

 

「お兄ちゃんの部屋、変わらないねぇ」

「かずくんの性格が良く出てて、整理整頓が行き渡ってるわねぇ、相変わらず」

「おい、どこかにエロ本とか隠してないのかよ」

 

三人はそう言いながら各自で部屋の物を弄ったり見たりしだす。

夏耶は部屋が高校に行く前とまったく変わっていないことを観察し、灯姉さんは俺の机を見てそう洩らす。

颯姉は俺の部屋にいかがわしい本が無いか物色し始めた。

 

「ちょっと、颯姉! いきなり部屋を荒らさないでくれ。別にそんな本とか無いから」

 

人の部屋を荒らす颯姉を止めようとするも止まらない颯姉。

そんな颯姉に手を焼いている間に葵さんは俺の部屋に置いてある物を見ながら何かに感動しているのか、静かに見入っていた。

 

「一真様の御部屋……これが今まで一真様が暮らしていた……」

 

そしてアリシアさんは壁に掛けてあった中学の学ランを見ている。

 

「お兄様が昔来ていた学校の制服……」

 

何やら感慨に耽っている二人。

そこまで変わった所なんてないんだけどなぁ。

そう思っていたら、それまで物色していた颯姉がつまんなさそうな顔を俺に向けて来た。

 

「何だよ、エロ本一つもないのかよ! 姉としてそういうのを持っていないのはどうかと思うぞ!」

「知らないよ、そんなこと! 俺は昔からそういう本は持たないって決めてるんだ!」

 

そう、俺は昔からそういった本は持たないようにしている。

今は何となく分かるけど、昔は堕落の原因だと思っていたから。武者に色本は不要だ。青少年には必要らしいが。

すると颯姉はそのまま右腕を俺の首の絡ませ、背中に大きな胸を押しつけてきた。

張りのある弾力を感じる大きな胸が背中を押し上げ、その感触に頭が沸騰しかける。

 

「ちょっ、颯姉!?」

「なんなら……今すぐにでも『本物』を味合わせてやろうか?」

 

耳元でそう囁かれ、その艶声に心臓がドキドキして可笑しくなりそうになった。

 

「あぁっ、何してるの、颯!」

「そうだよ、颯お姉ちゃん! お兄ちゃんにくっついたら駄目!」

「何しているんですか、先輩! 破廉恥です!」

「お兄様に触らないで下さいまし!」

 

俺に身体を絡ませる颯姉を見て四人が反応し、慌てた様子で俺をその拘束から解いた。

そしてその場で軽く騒ぐ五人。

そんな様子に少しホッとしたような、残念なような、そんな感情を感じた。

それを自覚し、何を考えて居るんだと自らを 責するも、背中に感じたあの感触と颯姉の艶声が頭にこびりついて仕方なかった。

その事に懊悩としている俺を尻目に、颯姉はさっきまで物色していた物を皆に披露し始めた。

 

「見ろよ、これ。一真の小さい頃のアルバムだぜ!」

「え、一真様の小さい頃ですか!」

「小さい頃のお兄様……」

 

「って、何勝手に出してるんだ!」

 

いつの間にか俺の小さい頃のアルバムを引っ張り出されていた。

いくら幼馴染みとは言え、小さい頃を見られるのは気恥ずかしい。

それを止めようとするも、五人も揃えば姦しい女子達の前では止められないらしい。俺は仕方なく気まずい気分を味わいながら皆の反応を見ていた。

 

「これが小さい頃に一真様………可愛いです……」

「お兄様、まるで王子様のようで可愛らしいですわ」

「この時のかずくんは今よりも甘えん坊で、いつも私達の後を追いかけてきたわねぇ」

「あぁ、こんときの一真は今よりも可愛くてなぁ。いつも『はやてねぇ、はやてねぇ』って追いかけてきたもんさ。今でも鮮明に思い出せる」

「懐かしいねぇ」

 

その後、五人が満足するまでアルバム鑑賞は続き、俺は恥ずかしい思いをするはめにあった。

それはお昼頃まで続き、母さん達に昼食で呼ばれるまでずっと続いていた。

その時は気付かなかったけど、後日俺の部屋にしまってあったYシャツなどが五着程なくなっていた事に気付いた。

 

 

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