織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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今回は親子対決です。
一真 VS 一夏


第73話 織斑 一真は実家に帰る その6

 つい少し前まで実に恥ずかしい思いをし、お昼食の御蔭で何とかこれ以上ダメージを受けずに済んだ。

俺の昔の写真など見ても何も得しそうにないというのに、皆食い入るように見るのだから恥ずかしいことこの上ない。

昔よりも今を見ないとな、今を。

そして父さんと母さんが作った昼食を食べることになり、皆出された料理を口にして言葉を一旦失い、そして讃辞の声が上がった。

父さん達は俺と夏耶がお客さんを連れて帰ってくると聞いて、とても張り切ったようだ。御蔭でお昼だというのに、やけに豪華な昼食になっていた。

父さんは武者である以外に料理人という立場もある人で、その腕前はプロそのもの。たまに家族で行く老舗の懐石料理店『福寿荘』の副板長をしている。ただ、店の人から聞いた話だと既に板長としての実力はあるらしい。武者として働いている傍らなので、副板でも恐れ多いと父さんは言うけど。

小さい頃は憧れたが、今に思うと我が父は化け物か人外ではないだろうかと疑ってならない。

武者として超一流なのに、誰もが認めるプロの料理人。

一体何をしたらそんなことになるのか見当も付かない。俺は武者としての修行だけで手一杯だというのに。

本当の天才というのはこういうものなのかも知れないと思う。

そんな父さんと料理上手な母さんが一緒になって頑張れば、それはもうただのお昼ご飯が一流料理店のコースに早変わりするというわけだ。

その味に食べ慣れている夏耶は笑顔を浮かべ、偶に食べていた灯姉さんと颯姉は相変わらず美味しいと感心する。

そして初めて食べた葵さんとアリシアさんは………。

 

「な、何て美味しいのでしょうか! こんなに美味しいの、わたくしは作れません。まるで高級懐石のようで、プロの技術が見受けられます」

「美味しいですわ! 今すぐにでも我が家の料理人として雇いたいくらいです!」

 

感動し驚きを隠せないようだ。

昔から食べていたからあまり感じなかったが、これが実際の反応なのだろう。

御蔭で小さい頃は舌が肥え過ぎていて、レストランの料理とかが食えなくなっていた。

如何に自分が恵まれた環境にいたのか、本当に理解させられる。

美味しいと皆が言い、笑顔が溢れる光景を見て父さん達も嬉しいらしい。此方もニコニコと笑顔を浮かべて俺達を見ていた。

 

「皆に喜んで貰えてよかったよ」

「そうですね~。それにいつ食べても旦那様のお料理、美味しいです」

「それはよかった。真耶さんにそう言ってもらえることが、何よりも嬉しいですから」

「だんなさまぁ♡」

 

そしてイチャつきだす二人。

だから周りも気にせずにはい、あーんをするのは止めて欲しい。家族だけなら見慣れてるから何も言わないけど、今日はお客様もいるんだから。

父さんはもう普通に玉子焼きなんかを母さんに差し出すけど、母さんはそれを恍惚とした表情で小鳥のように小さく口を開けて食べる。

その光景が妙に淫靡に見えて気まずく感じるのは俺だけだろうか?

出されたお茶がガムシロップをぶちまけたかのように甘く感じてしまう。味覚が異常をきたしている?

そして皆、そんな両親の光景に見入るのは止めて欲しい。

家族の恥ずかしい所を見られて恥ずかしいのだから。と言いたいのだが……。

葵さん? どこからそのメモ帳は出たのでしょう? そして何を熱心に書いているのですか?

アリシアさん? 母さんを見て、こうかしらと言わんばかりに食べ方の真似をしないで下さい。ちょっとエッチな感じがしてきてドキドキしてしまうじゃないですか。

灯姉さんと颯姉、参考になるなって洩らしながら両親の痴態を見ないで!

見知っている二人に出さえ、見られたくない。恥ずかしいし、一体何の参考にする気なんだ。

そして夏耶。

 

「お兄ちゃん、あ~~~~~ん」

 

お前も感化されて強請るな。

この甘えたがりはどうにも対抗意識があるのか、父さん達がああだと自分達も負けじと強請ってくる。

母さんのように口を開けて俺に顔をむけてくるのだが、舌を妙に妖しく蠢かせるのは止めろと言いたい。家族とは言え、妙に変な気持ちになるから。

 そんな、美味しいはずなのに俺だけ気まずく感じる昼食を取り終え、食後の緑茶を皆で啜っている時にその話は来た。

 

「そうだ、一真。どれだけ腕が上がったのか、この後見てあげよう」

 

父さんが母さんから受け取った緑茶を啜りながらのんびりとそう言ってきた。

それを聞いた俺は即座にその話に食い付く。

 

「え、いいの!」

「あぁ、せっかく帰ってきたんだ。息子の成長は是非とも見てみたいからね」

 

俺の反応を見て微笑む父さん。

俺としても、是非とも父さんに見て貰いたかったからその誘いは実に有り難かった。

その話にそれまでのんびりとしていた皆も反応し、興味深そうに俺と父さんを見つめる。

そんな視線を受けつつ、俺は父さんの優しげな顔を見ながら返事を返した。

 

「わかった。俺がどれだけ成長したのか……その剣に是非見て欲しい」

 

 

 

 そういうわけで、オレ達は皆外の庭に出ていた。

夏の日差しがジリジリと肌が焼き付ける中、俺と父さんは木刀を構え対峙する。

 

「お兄ちゃん、頑張れ~~~~~~!」

「一真様、頑張って下さい」

「かずくん、ガンバ!」

「お兄様、頑張って下さいまし!」

「一真、男を見せろよ!」

 

木陰に座りながら応援する五人。

皆俺が直に刀を振るう姿を楽しみにしているらしい。

 

「旦那様ぁ~、頑張って下さい! でも、かずくんも頑張ってね~!」

 

その五人と一緒に母さんも俺達に応援の声をかける。

だが、その視線はほぼ父さんに向けられていると言っても良い。

事実、恋する乙女が想い人の格好良い姿を見ようとしている光景にしか見えない。

そんな声援を父さんは受け止めて母さんにウィンクを返すと、母さんは『はにゃぁ~~~』と言って地面にぺたりと座り込む。

あれ? 父さんって……俺の理想の武者ってこんなにフランクだったか?

父さんのその反応を見て少し気が緩んでしまう。

だが、それは父さんが俺に顔を向けたことで一気に引き締まった。

 

「さぁ………やろうか」

「っ!?」

 

顔を向けられた途端に発せられた覇気。

表情はいつもと変わらないのに、その身から発せられるそれは俺の緩んだ精神に喝を入れる。

それを浴びて俺は気を引き締めると、俺は両手に持った二刀の木刀をゆっくりと構えた。

対して父さんは正眼の構えからの一刀。

お互いの間の距離は三メートル弱。此方は二刀なだけに、間合いは向こうの方が広い。故に攻め込むならば、此方から飛び込むしかない。

だが、それをする機が窺えない。目の前の父さんからは、そうやすやすと間合いに入れさせない気配を感じる。

 

「どうした? 前ならとっくに攻めきたというのに」

 

父さんは笑顔でそう聞くが、俺は何も答えられない。

隙が全く見えないのだ。どこから攻めても防がれる。

昔もそれが分かっていたからこそ、強引に攻めていったのだが、今回はそうしない。何せ前よりも放っている覇気が桁違いだ。そう易々と突っ込めば、その一瞬で斬り捨てられる。

持っているのは木刀なのに、真剣で切られるビジョンが浮かんで仕方ない。

そのビジョンを振り払いつつ、更に父さんに集中する。

真夏の日光が身体を焼き汗を掻かせるというのに、心はまるで凍ったかのように冷たい。

熱くて熱くて仕方ないというのに、心は寒さに打ち震える。

その真逆のジレンマに精神がジリジリと追い詰められていく。

それを察してか、父さんが笑みを少しだけ強めた。

 

「なら……此方から行こうか!」

「くっ!?」

 

その言葉と共に、一瞬にして俺の間合いに入って来た父さんは、正眼から上段に木刀を振り上げ斬り掛かった。

その攻撃に僅かに遅れつつも、俺は二刀を真上に重ねて防御の態勢を取る。

そして激突する木刀同士。

 

「「「「「「きゃっ!?」」」」」」

 

木がぶつかったとは思えない音が庭に鳴り響き、その音に母さんや夏耶達から短い悲鳴が上がった。

その激突音に違わぬ重さを持った攻撃を受け止め、俺は苦悶の表情を浮かべてしまう。

 

(お、重い…………)

 

父さんの攻撃は速く、鋭く、それでいて重い。

その一撃一撃が必殺の威力を有する剛剣。

それは受け止めたというのに、手が痺れてしまう程に凄まじい。

父さんは受け止められた木刀を素早く構え治し、更に追撃をかける。

 

「しゃぁあああぁあああああああああああああああああああああああ!」

 

裂帛の気迫の籠もった叫びと共に、俺を体ごと吹き飛ばそうと横一閃に木刀を振るう。

それに対し、俺は再び二刀を合わせ防御に転じる。

そして再びなる有り得ない程に重い激突音。その威力に俺の身体は若干ながら浮きかかる。

 

「どうした、一真。防御一辺倒じゃあ……俺には勝てないよ」

「それは……分かってるよ! HITAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

父さんに発破をかけられ、此方も気合いを込めて吠える。

そして左右同時に逆方向から木刀を振るい、父さんへと斬り掛かる。

片方を防げばもう片方の攻撃を喰らうこの状況、父さんはどうする。

 

「二刀ならではの攻撃だ。だが、まだまだぁ!」

 

父さんはその攻撃に対し、迎撃の構えを持って此方の攻撃を迎え撃つ。

素早い二刀と横一閃の剛剣がぶつかり合い、俺は攻撃を弾かれつつも少し後退する。

 

「今度は此方からいく! GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

二刀を構え、先程父さんがやったのと同じように縮地を使い間合いを詰め、そこから二刀独特の連撃へと繋げる。

一刀に比べれば長さが足りないため、間合いの不利や威力不足が否めない二刀。

だが、その分小回りが利き、防御や手数の多さなどは此方の方が向いている。

それに威力にしても、それは使い手の膂力次第では一刀にだって負けはしない。

父さんに向かって左右上下斜め、全ての角度から絶え間ない連撃を放っていく。

その攻撃の嵐に父さんは笑みを崩すこと無く捌いていく。

流石としか言いようが無い。

だが、それでも此方も鍛えてきたのだ。そのまま完封されるわけにはいかない。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

咆吼を上げながら更に攻撃の回転速度を上げていく。

その速さは既に剣先が霞始め視認しづらくなっていた。

 

「ほぉ、なかなか」

 

父さんは嬉しそうに笑いながらそれでも尚、此方の嵐のような連撃を易々と捌く。

だが………それすらも囮だ!

俺はそこから素早く二刀を真上に上げて背に触れるんじゃないかというくらいに身体を反らす。

そして父さん目がけて二刀を振り下ろした。

 

『吉野御流合戦礼法 雪崩が崩し……二刀流、双崩!!』

 

此方の技に対し、父さんは少しだけ顔を歪めて防御。

だが、それでも技の威力に耐えきれず、父さんの木刀は弾かれた。

 

「前よりも格段に成長してるようだね。まさか防御を弾かれるとは思わなかった」

「此方もそれなりに頑張ってるからね」

 

苦笑なのか嬉しいのか分からない笑みを浮かべる父さんの讃辞を受けて、内心嬉しく思いつつもそう答える。

父さんに褒められるのは嬉しいが、それでも未だに此方は一撃も当てられていない。しかも父さんに本気の欠片も出させていないのだから。

その事を思っていることが分かっているのか、父さんは俺に嬉しそうな笑みを向けた。

 

「一真が成長していて嬉しいよ。だから……少しだけ力を出そうか!」

 

そう言うと共に、再び縮地。

だが、あまりの速さに俺は捕らえられず、瞬間移動でもされたんじゃないかと言うくらい目の前に父さんが現れた。

そこで本能的に真上に防御の構えを取ると、父さんはそのまま木刀を背に触れるかも知れないほど上段に構え、そして力を込めて振り下ろした。

 

『吉野御流合戦礼法 雪崩!!』

 

本家本元の放たれた技を受け止める。

だが、力が拮抗したのはほんの一瞬。

俺は即座に木刀で技を逸らしつつ木刀を手放した。

そのまま父さんが振った木刀は俺の二刀を巻き込んで地面に激突。

水柱ならぬ土柱を立て、轟音を辺りに轟かせた。

雨のように落ちてくる砂を浴びながら俺は父さんが振った木刀の後を見ると、50センチ程あるクレーターが出来上がり、俺の木刀が粉々に砕け散っていた。

 

「ちょっとやり過ぎてしまったかな。でも、それだけ一真が成長したってことだからね」

 

父さんは少しやり過ぎたかなっと反省しているようだが、俺はそれどころでは無い。

 

「やっぱりまだ父さんにはかなわないや」

 

そう口にするも、この実力差には言葉を失いそうになってしまう。

そんな俺に父さんは暖かな笑みを向ける。

 

「一真もこれぐらい、その内出来る様になるさ。だから、今はもっと精進あるのみだよ」

「そうかな。俺は出来そうに無い気がするよ」

「そんなことないよ。あ、もっと単純にすぐ出来る様になる方法があるよ」

 

父さんは何か思い出したかのように手を軽く叩いてそう言ってきた。

この威力を見ると、イケナイと思いつつもその方法が気になってしまう。

だから俺は参考がてらに父さんの話を聞くことにした。

 

「どうすればいいの?」

 

すると父さんは少しばかりイジワルそうな、そんな笑みを浮かべた。

 

「それはね………心の底から愛している、世界一大好きな女性が出来れば、直ぐにでもこれぐらい出来る様になるよ。その女性を害するもの全てから守るためにもね。ちなみに父さんは母さんのことを常に想い続けているからね。これぐらい所か、城の城壁だって一撃で粉砕してみせることだってできるよ」

 

そこから始まった父さんの惚気話。

当然聞こえているであろう夏耶達は顔を赤くしつつもキャイキャイとはしゃいでおり、母さんは恍惚とした表情でうっとりとしていた。

そんな話を聞かされた俺は脱力のあまり膝を突き、地に伏せてしまう。

正直聞くんじゃなかった。

 そう思いながら父さんを見ていると、いつの間にか母さんが父さんの胸に飛び込んで抱きしめ合っていた。

つくづく思う。

尊敬出来る最高の武者なのに、その力の根源がこれなのはどうなのかなぁって………。

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