早速始まったセンセーとの特訓。
普通特訓とくれば、いつも以上の鍛錬と相場が決まっているものだ。更に滝行などで精神を鍛えたり、瞑想することでより集中力を高めたりなど、その内容は多岐に渡る………のだが、まさか……。
「HETAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ガチでの殺し合いというのは早々お目にかかれないだろう。
センセーが咆吼を上げると共に振り上げた右手上段の袈裟斬りに対し、此方も同じように右手上段の袈裟斬りで迎え撃つ。
両者の刀が激突した途端に辺りに鳴り響く鋼同士の激突音。
その衝撃に身体が打ち震える。
これが普通の武者ならば、この後鍔迫り合いになるところだろう。
だが、センセー相手ではそれは有り得ない。
「っ!? あぁっ!!」
俺は激突した刀を必死に動かし、センセーの攻撃を何とか流す。
逸れたセンセーの刀は俺の脇へと逸れ、地面に激突すると共に吹き飛ばした。
爆発したかのような音と共に吹き飛ばされる土砂。
その威力にぞっとしつつ、慌てて距離を取る。
センセーの膂力は尋常では無い。片手での『軽い』攻撃でもこの威力だ。
真っ向から受け止めて此方が無事で済むわけがないのだ。故に流すしかない。
先程殺し合いなどと言ったが、それは違うだろう。これは一方的な『手加減された』虐殺だ。
「小僧、その程度か! ぬぅんっ!」
「しゃぁああああああああ!!」
爆発的な威力を見せつけた右を軽く戻し、今度は左手の刀が横一閃に此方へと向かってくる。
これは不味い。躱そうにもバックステップで避けられるような速さではない。
真正面から受け止めれば此方の刀ごと俺の身体も上下に分かれるのは目に見えている。
その対応として、俺は同じように横に左の刀を振るい迎撃。
それと共に身体から少し力を抜いて激突させることで一瞬だけ拮抗する。
ほんの一瞬だけの拮抗。それを利用してセンセーの攻撃の威力を身に受け逸らしつつ、身体を独楽のように回転させる。それにより、この攻撃を受け流した。
「はぁ、はぁ……さっきのはやばかった。少しでも反応が遅れたら此方の身体が別れるところだった……」
再び相対しつつもそのような言葉が漏れた。
独り言を言うなとは思うが、言っていなければ精神を保てそうにない。本当に常識外れの力だ。
これでどう逃げれば良いのだと不思議に思うが、そのようなことを考えていられる程暇ではない。
センセーは俺を見て少しだけ声に笑いを含ませる。
「ほう、先程のアレをそう躱すか。確かに今の小僧に出来る事としては最大解だろう。だが、それだけで終わるほどには甘くない」
「普通に殺しに来て、これでも一番の答えだったんですが……辛辣ですね……」
「編纂がまだまだ甘いということだ。より編纂せよ、この状況を打破する一手を」
そう言うなり、センセーはニヤリと笑みを深めたような気がした。
その笑みに嫌な感じがして咄嗟に身構えると、その予感は的中したらしい。
センセーは二刀を上に掲げると、それを地面に叩き付けた。
粉砕された土砂が巨大な球となり、上空へと舞い上がる。
それに目を奪われた瞬間にセンセーを見失ってしまい、何処だと探し始めるも見つからない。
「しまったっ! センセーは何処に行ったんだ!」
咄嗟にセンセーを探そうと辺りを見回すもやはり見つからない。
その場で長時間探そうものならば上空から此方に向かって落ちてくる土砂に巻き込まれかねない。
ダメージはないだろうが、生き埋めになろうものならば此方が動けなくなるのは必須。動きが止まれば俺の命は終わりだ。センセーは躊躇なく斬りに来るだろう。
故に捜索を断念し、土砂を避けるべく後ろへと退こうとした。
しかし次の瞬間、
「TAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
土砂の中から咆吼と共に刀が飛び出し、斬り掛かってきた。
「うおっ!?」
俺のその攻撃に心底驚きつつ、急いで刀を振って受け止める。
強襲されたために体勢が整っておらず、不完全な状態で受け止めたために、俺は………。
「うわぁああああああああああぁあぁあああああああああああああああ!!」
吹っ飛ばされた。
真っ正面から受け止められないことは分かっているから先程と同じように受け流そうとしたのだが、不完全な状態では上手く立ち回る事も出来ず、その威力を殺しきれなかった。
吹き飛ばされたまま近くにあった岩に叩き付けられる。
「がぁっ!?」
その衝撃に肺に溜まっていた空気が一瞬で吐き出され、喉から可笑しな声が上がる。
粉砕された岩の破片を振り払いながら俺は急いで起き上がると予想通り、
「ZOoooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!」
合当理を拭かせながら追撃をかけてきたセンセー。
今の状態で受ければ確実に粉砕される。俺はその判断を衝撃で痺れている思考で即座に決めると、素早く合当理に火を入れて跳び退いた。
それまで立っていた場所にセンセーの斬撃が入り、残っていた岩を全て粉砕する。
巻き上がった瓦礫と破片を浴びつつも後退。
ゆっくりと此方を見るセンセーの足下は見事なクレーターが出来上がっていた。
「………凄い威力だ。やっぱりセンセーは凄い……父さんとは違った意味で……」
破壊の跡を見て俺は感心してしまう。
これで手加減したお遊びだというのだから、本当に恐ろしい。
父さんはこんな化け物のような人と『二回』も死合ったのか………。
幸長おじさんに授業で毎度の如く戦わされていたけど、それとは次元が違いすぎる。
これが本物の武者の死合い……その一欠片なのか………。
とてもじゃないが、まず勝てない。
よく父さんはこんな人に生き残ったものだ。
俺は距離を取ると共に、更に合当理を噴かし上空へと飛翔する。
センセーのこの猛攻を受けきるのに地上ではきつ過ぎる。
少しでも対処するのなら、空の方がやりやすい。
見た限り、センセーの劔冑は『重拡装甲』。単純な加速力や速度なら此方の方に分がある。
俺はセンセーから目を離さないようにしつつ上空を軽く旋回する。
これはあくまでも『逃げ切る』ことを目的とした行為。
普通の試合で行えば間違いなく臆病者と謗られるだろう。だが、これは試合じゃない、鍛錬だ。センセーも『生き残るための編纂』をしろと言っていたし、間違いではないはずだ。
するとセンセーは愉快そうに笑い声を上げる。
「ほう、そう来たか。小僧の父親ならば真正面から尚も受け止めに来ただろう。愚直に愚かしくな」
「俺は父さんと違いますから。俺の力ではセンセーと真っ向から斬り結ぶことは出来ません」
本当にそう思う。
武者足る者、本当なら真っ向からぶつかりたい。
だが、どう考えてもそれは無理だろう。センセー相手にそれが出来るほど、俺の実力は無い。己が実力不足を本当に呪いたい。
普通なら邪道だと言われるだろうが、今の俺ではこれが精一杯。センセーと真っ向からぶつかれば、間違いなく三枚に下ろされる。嘘でも冗談でもなく、本当にそうなるだろう。
故に不本意ながら、逃げる。
あくまでもこの鍛錬の目的は『生き残る』ことだから。
するとセンセーは俺に問いかけるように話しかけてきた。
結構な殺気を込めて。
「確かにあの小僧とは違う。貴様は理想と現実をある程度把握して動いている。その考え方は我に近い。なら、この状況に貴様はどうする?」
その言葉と共にセンセーの背中の甲鉄から何かが盛り上がり姿を表し始める。
そしてそれはセンセーの身体から飛び出すと、俺に向かって凄い速さで飛んできた。
その飛翔物体を絶影が捕らえ、何なのかを俺に知らせる。
それを知った俺は、あまりの驚きに叫んでしまう。
「高速徹甲弾(HVAP)だってぇえええええええええええええ!!」
その後、取り乱した俺は徹甲弾の爆発に巻き込まれ墜落。
センセーに刀を突き付けられたところで最初の鍛錬は終わった。