学校での生活を話したところで、今度は学校で俺達に武者としての心技を教えている先生について話そうと思う。
この武帝校では、一クラスに担任と副担任がいる。
ただこの学校に限り、世間のその役割とは少し違っているのだ。
担任は普通の教師の方で一般教科を教え、副担任は武者で実技や武者の心構えや礼節などを教える様になっている。
我等が一年一組の担任、その名は『鷺沢 美玲』。
つい最近大学を出たばかりの二十三才の女性である。見た目は何というか………凄く幼い。ぱっと見で中学生、いや、酷ければ小学生に見えるかもしれないほどの童顔に低身長。そしてコレはあまり言って良いことではないのだが、スタイルもお子様である。
オドオドしている性格もあってか皆からは妹のように扱われて慕われており、よく『先生なんだからね~』が口癖であったりする。ちなみにクラスの皆からは先生と呼ばれることは少なく、『美玲ちゃん』と呼ばれることが殆どだ。
こういう女性ばかり見ると、どうも俺の周りには童顔な人が多いような気がする。
気のせいかも知れないが、知り合いや身内がそんな感じだからなのだろうか?
そんな担任の担当教科は現国であるが、偶に間違えることが多々あったりするのも皆に慕われるチャームポイントと言えるかもしれない。
では副担任はどんな人なのか?
それについてこれから語ることにしよう。
それは前回の話の続きに直結する。
外での実習で皆外に出てグランドで待っていると、校舎から一人の男性が出てきた。
歳は四十代後半だが、その高い身長と巌の様に鍛えられた肉体に猛禽のような鋭い目によってもっと若く見える。その身に纏う圧倒的な威圧感は来る前まで騒がしく喋っていた生徒を一瞬で黙らす程である。
「やぁ、みんな、おはよう」
軽い挨拶のはずなのに、その雰囲気もあってか皆真剣に聞く。
その様子を見て男性は苦笑すると、俺を見て笑みを浮かべながら歩いてきた。
「やぁ、一真君。前もお願いしたけど、君のお父さんに真田が『死合い』をしたがっていたと伝えてくれないかな」
「来て早々それですか……真田先生……」
この男性、我等が副担任の名は『真田 幸長』。
真打を駆る本物の武者であり、俺の父親である織斑 一夏の盟友。
真打『三世村正伝大千鳥』の仕手であり、その槍術は苛烈にして正確、陰義である火炎操作を合わせての戦闘は一騎当千の強さを誇るとこの界隈では有名である。
父さんとは同じ武者として何度か死合っており、仲が結構良い。
酷い話は戦闘狂の気があり、こうしてたびたび父さんを死合いに誘うことである。
父さんは受けるのはやぶさかではないのだが、母さんから駄目と言われているので毎回断っている。
家の父は母には弱いのだ。
「一応言っておきますけど、どうせ母さんに駄目って言われてお終いだと思いますよ」
呆れつつそう伝えると、残念そうな顔をする真田先生。
ちなみに真田先生は副担任と言っても別の仕事もしている。本職は自衛隊の教官なんだとか。
武者をしている人間は何かにつけて他のこともやっていることが多い。
父さんも現に3つくらい掛け持ちだし。
「奥さんにそう言われては仕方ないか。あの人、怒ると怖そうだしね。あ、そうそう……ちなみに一真君」
「なんでしょうか?」
「いつになったら、『お義父さん』って呼んでくれるのかな。ウチの娘は君になら任せられると思ってるんだけど。それに堅苦しいなぁ。昔みたいに『幸長おじさん』と呼んでくれてもいいのに」
笑顔で真田先生がそう言った瞬間、クラスの皆は噴き出した。
「なっ、何言ってるんですか、何を!?」
「何って言われてもねぇ~。父親としてはそろそろ恋人の一人でもいた方が良いと思うんだ。ただ、あの子を任せられる男となるとそうはいないからね。それにあの子自身、君がいいみたいだし」
コレも毎度のような話だ。
そう、この真田先生はあの『真田 灯』先輩の父親でもあるのだ。
つまり俺は幼い頃からこの人と知り合いであり、よく世話になっていた。
「だ、だから幸長おじさん! ここでは先生なんですからちゃんとして下さい!! それにそれは灯姉さんの問題ですから、親がちょっかいかけてはいけませんよ! 何よりも灯姉さんの気持ちが一番大切なんですから」
俺が言っていることは正しいはずだ。
なのに………
((((((分かってないのはお前だけだよ、この朴念仁!!!!)))))
何故かこう答える度に皆から白い呆れた目で見られる。俺が一体何をしたというのだ。
「真面目なのは父親譲りだね。うん、父親に似てきたよ、君は。そう言われては此方も強くは言えないから今日の所は諦めることにしよう。さて、そろそろ授業を始めようか」
「そう思うのなら毎回聞かないで下さいよ」
真田先生はにこやかに笑いながら授業を始めた。
先生の指示に従い、グラウンドの奥にある格納庫から九○式竜騎兵甲を皆で五騎引っ張り出した。
モノバイク形態の九○式竜騎兵甲は手で引けるので重いが運ぶのはそこまで苦にならない。普通の人なら重くて大変だろうが、ここで生活していれば嫌でも筋力が付いてくるので皆平然と運んでいた。
「それでは、皆5つの班に分かれて各自に装甲。そのまま抜刀しすり足をしながら素振りを百本。終わったら装甲を解除して次の人に回してくれ。今日はまだ騎航はしないから合当理は噴かさないように。慣れないうちにやって事故を起こしたら目も当てられないからね。ミンチになっても責任はとれないから。もし怪我人を出そうものなら、骨も残さずに燃やし尽くすからね」
そんな笑い事にならないことを笑顔で言う真田先生。
皆放たれている殺気から無駄口も叩かずに速やかに行動していく。
さて、まぁちょっと難のある先生だが教えることは的確だし、武者としての貫禄も充分。指導者としても申し分なく、人格者だ。
では、どうしてこれが………俺の悩みになるのか?
確かに知り合い故にプライベートなやり取りが入るが、それはご愛敬。では何故ここまで頭が痛くなるのか………それはこの後必ずと言ってよいことが原因である。
「みんな劔冑は行き渡ったね。では早速実習と行きたい所だが、その前に十分だけ模擬戦を見せようと思う。やはり武者たる者、実際に戦う姿を間近で見た方がやる気も出るだろう」
そう言うと、真田先生は俺の方に笑顔を向ける。
「では一真君、前に来てくれ」
「………はい……」
その笑顔に辟易しながら俺は前に出る。
この模擬戦はクラス代表が教師とする者なのだが、このクラスで真田先生とまともに打ち合えるのが俺しかいないため俺以外に呼ばれることはない。信吾が呼ばれた時もあったが、五合目で弾き飛ばされた。ちなみに申し込めば誰だって真田先生と戦うことが出来るが誰も戦いたがらない。
真田先生の前に出ると、お互いに皆から距離を取る。
「さぁ、一真君………殺ろうか」
真田先生は子供のような無邪気さの籠もった目で俺を見ながら構える。
俺は辟易しながらも自分の劔冑の名を叫ぶ。
「来い、絶影っ!!」
俺の叫びと共に俺の前に飛び出し着地する人型。
白い人の形をした劔冑。
ISの技術を取り入れた新世代型数打劔冑の試作機、『絶影』である。
こいつは数打だがある程度の自立行動が可能であり、真打同様に仕手に影ながら付き従う。普段は目に付かないところで俺に付いてきているらしい。
「では此方も呼ぶとしようか。来い、村正伝!」
真田先生の呼び出しに応じて、真田先生の前に赤い甲鉄の大きな蜘蛛が飛び出し、土煙を上げて着地する。
この蜘蛛がかの有名な真打、『三世村正伝大千鳥』。
真田先生の劔冑である。
そして互いに装甲の構えを取り、誓約の口上を述べる。
『不惜身命 但惜身命』
『我が内なる正義を顕現し、全ての悪を滅ぼさん』
互いの劔冑が弾け、身体に装甲されていく。
そしてその場には、赤き武者と白い武者が顕現した。
俺の絶影は数打にしては珍しい『単鋭装甲』{やじりづくり)である。劔冑には真打と数打の分類に更に『重拡装甲』(おうぎづくり)と『単鋭装甲』の二つに分けられている。
これは合当理の作りにも関わっており、『重拡装甲』は速度よりも旋回性に重きを置いた物。父さんの正宗も真田先生の村正伝も此方の作りである。通常の数打も此方が主流。対して、『単鋭装甲』は旋回性よりも速度を優先した物なのだ。確かに合当理の出力と合わせてかなりの速度が出せるのだが、その分小回りが利かず速度を出すために甲鉄が『重拡装甲』よりも薄い。
受けるよりも回避する作りなのである。
絶影はそんな珍しい単鋭装甲の数打。
しかし、この小回りの気かないところをISの技術を使ってカバーし、防御力も『重拡装甲』の物に負けないよう新しい素材で作られているという最新鋭の数打である。
俺はその絶影を纏い、両腰に下げている鞘から刀を抜く。
この刀も特殊で大刀ほど長くなく、しかし脇差しや小太刀よりは長いという中途半端な長さの刀である。俺に取っては寧ろ使いやすいのでありがたいが。
刀の名は右腰に下がっているのが『伏竜』、左腰に下がっているのが『臥竜』。
俺は双方を抜いて、両手を開くようにして構える。
「それでは…………始めようかっ!!」
「はいっ!!」
その声とともに、真田先生が十文字槍を構えて突進してきた。
それを二刀を持って迎え撃とうと前に出る。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「しゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そして激突する槍と二刀。
その衝撃と轟音がグランドを揺さぶった。
これが俺の先生の悩みの一つ。
真田先生の実習の度に模擬戦をやらされ、十分間に滅多打ちにされること。
この後俺はボロボロの身体で実習にに参加し皆のサポートをするハメにあうのだ。
御蔭であまり授業に集中出来ない始末。
しかも滅多打ちにした後、真田先生は決まって同じことを言うのだ。
「もっともっと頑張りたまえ! これでは娘はまだ預けられないぞ、一真君」
だから一体何だというのだ…………。真逆なことを言う真田先生がイマイチ分からない。
まだまだこの学校生活の悩みは尽きない。