織斑 一真の苦悩   作:nasigorenn

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少し一真の妄想が暴走します。


第80話 織斑 一真は鍛え直す その4

 あれからは最悪の一言に尽きた。

確かに先生は手加減してくれているのだろう。俺を倒してもトドメを刺さないのが何よりの証拠だ。

だが、それでも殺す気で攻撃してきているのは事実であり、俺は死ぬかも知れない攻撃を何度と防ぎ交わすことに。

距離を取ろうとすれば高速徹甲弾が襲い掛かり、俺はそれを回避するのに必死にならざぬ得なくなり、その隙を突かれて接近され地面に叩き着けられる。

そんな戦闘が幾度となく続いただろうか?

夕陽が昇る頃には、もう満身創痍であった。

脱水症状が心配されるかも知れないほどの滝のように流れる汗。

全身の筋肉が悲鳴を上げ、動きが極端に鈍くなっいる身体。呼吸は酸素を求め続け、喘いでいた。

思考は停止することを許されず、常にどうすれば良いのかを考え続けている。

そんな俺に対しセンセーは汗一つ掻いた様子なく、いつもと変わらない不敵な笑みを浮かべて俺に目を向けていた。

 

「ふん………この程度でだれるとは………つまらん」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……無茶…言わないで下さいよ」

 

何とか答えるが、それでも身体は上手く動かない。

あんな破壊の嵐から生還しているだけでも凄いと思うのは俺だけだろうか?

だが、そんな一般常識はセンセーには意味ないらしい。

 

「早く飯を作れ。そこで寝ている暇なぞ無いぞ。迅速に食事を取り、今日の事を思い返しながら己の中で編纂を行い、そして次の日の糧とせよ」

 

そう言い捨てられ、センセーは先に山小屋へと戻っていく。

いや、本当に慈悲の欠片もない。まぁ、それでこそセンセーなのだけど……。

早く戻らないと今度は生身の此方に高速徹甲弾が飛んでくるんじゃないかと思い、俺は絶影を呼んで起き上がるのを手伝って貰う。

ここでも思ったが、こんなにボロボロにされても、それでもやっぱり手加減をされているのだと実感する。

何故なら、絶影がまったく損傷していないから。

あれだけの攻撃力で一切相手を損傷させないというのは驚嘆する以外無い。

一体どれだけの実力差があればそんな事が可能なのか?

俺は絶影に身体を支えられつつ、山小屋へと歩いて行く。

その実力差を噛み締めながら………。

そして焦がれる。その様な力を手に入れたいと。

それこそが、あの男と戦うのに必要だと思うから。

 

 

 

 夕飯を何とか作り終えてセンセーと一緒に食べる。

作ったのは基本的で素朴な和食。食材は畑で取れた野菜のみである。

それを二人で無言に食べる。

その重圧と来たら、凄まじいくらいに重い。

齢六十を超えても尚その巨体は衰えを見せず、そんな如何にもな大男と一緒に食事をすれば誰しもそう思うだろう。

ただ何も言わずに黙々と料理を口に入れて咀嚼し、飲み込む。

まるで機械のように同じ動作を続ける様子は見ていて気まずさを感じさせる。

味について聞いてみれば、

 

『………食えるのであれば問題無い』

 

そう答えられ、再び黙々と食事を再開する。

不味いも美味いもなく、ただ食べられれば良いと。センセーは味に関して無頓着なので作った側としては何とも言えない気持ちになる。

そして食事を終えれば、待っているのはセンセーからの反省会……などと優しい物はなく、各自で今日の鍛錬を思い出し、その時の記憶を思い返してはどうすれば良かったのかを考える。

センセーは自身の力の編纂に目を瞑って集中し、俺もそれに習って目を瞑り座禅を組みながら考える。

傍から見れば精神集中をしているように見え、無心でいるかのように見えるかも知れない。だがその中身は常に戦闘のことを考えてばかりだ。

全は一、一は全と言うように、究極の集中は無心と変わらないと言える。

それに少しでも近づこうと、より己の思考を加速させていく。

初日からとばしていた鍛錬。センセーからすれば遊び以下だが、此方は必死にひたすら逃げ続けていた。

真正面から行けばまず斬り捨てられる。それは膂力の差故にどうしようもない。

それはより鍛えることで追いつかせるしかないが、そんな短時間で出来る事ではないので捨て置く。受け流し逸らすのが現状だが、まだそれを上手く出来てはいない。効率よく出来ないために、腕の各所へと負荷が掛かりすぎて痛みが酷い。

そのダメージを少なくするためにどうするか………ぶつかり合う瞬間まで力を込め、そして拮抗せずに脱力しつつも上手く相手の刀を滑らせることが出来れば負荷をかけることなくセンセーの猛攻を防ぐことが出来る。

また、それを片手で出来る様になればより攻撃を防ぐだけでなく、此方からも反撃に打って出ることが出来る様になる。タイミング、力の入れ加減、刀の逸らし方、全てを極めなければ出来ないことだが、出来れば今後の俺の武により磨きが掛かる。絶対に習得すべきだ。

また、あの高速徹甲弾も場合によっては引きつけて誘導し、そして斬り捨てられれば防げるようになるかもしれない。

それを出来る様にするには軌道の見切り、瞬時に斬り捨てる速さを手に入れるしかない。

これも出来る様になれば、どのような攻撃でも対処することが出来る様になるはずだ。

そのためにはどうするべきか? それを考え、方法を見いだしては頭の中で試し、実行に移す準備を行っていく。

それをすること二時間半。

俺は深い息を吐き、再び汗だくになった身体を休ませる。

頭で考えただけだというのに、その思考は身体を疲労させている。

それだけ、この編纂するための思考は過酷だった。思考に肉体が持って行かれるのだ。ある意味座禅なんかより過酷で、フルマラソンよりもしんどい。

それを常に行っていながらも一切の汗も掻かず疲労もしないセンセーは本当に人外染みている。

その後、先に沸かしておいた風呂に入って汗を流し就寝へ。布団などないので床にごろ寝することになった。

だが、疲労に疲労を重ねた肉体と精神は眠ることを良しとはせず、俺は眠れずに何度か寝返りを打つ。

そして何故か………あの六人の事が頭を過ぎった。

 

(そう言えば………こんなにあの六人と一緒にいない時間は久しぶりだなぁ……)

 

武帝校では常に葵さんや灯姉さんと一緒だったし、IS学園に行くようになってからは夏耶やアリシアさん、颯姉に束さんも一緒になっていることが多かった。

騒々しいこともあったけど、基本的には毎日が楽しくて充実していたことがこうして一人になってみると良く分かる。

だからだろうか? 寝る前に六人のことを思い出して少し恋しくなった。

すると未だに答えを出せていないことが気になってきて仕方なくなってくる。

彼女達の想いには答えたい。でも、俺は一人しか居ないのだから全てを選ぶことは出来ない。一人を選び、残りを悲しませるしか方法がない。

それが凄く苦しい。皆とても良い人達だ。そんな人達を悲しませるなんて、そんなことを俺は望まない。でも、選ばなければ不誠実だ。彼女達にも失礼になる。

その相談を父さん達にしても答えてはくれない。

分かっている。それは人に聞くことではなく、自分で見つけるものだと。

だが、それでも……俺は何かしらを聞きたかった。

それを考えてしまったが故か、俺は特に意識為ることなくセンセーに話しかけた。

 

「センセー………聞いて貰いたいことがあるんですけど……」

 

俺の言葉にセンセーは答えない。

だが、その背は語っても良いと感じさせる雰囲気を放っていた。

 

「実は……………………」

 

そして俺はセンセーに話し始める。あの六人の美しく綺麗で可愛らしい女性達のことを。そして、そんな彼女達に告白されて答えられずにいることを。

きっとセンセーなら父さん達とは違う何かを答えてくれると思うから。

そして全てを聞き終えて、センセーは此方を向いた。

その目は、何というか………呆れ返った白い目をしていた。

 

「下らぬ………そのようなことに悩んでいるとは、下らな過ぎて反吐が出そうだ。そのような物、編纂に必要無し。寧ろ邪魔なら捨てるべし」

 

まぁ……正直予想はしてた。

きっとセンセーならそう答えるだろうって。でも、それでも少しは期待してもいいじゃないか。経験を積んだ大人の意見なのだから。

 

「愛を力に変えるなどと、貴様の父親のようなこと言うつもりは無い。貴様の青臭い貞操観念に出来る事もない。だが、強いて言うのなら………」

 

そこで言葉を切ると、センセーはニヤリと凄みを持った笑みを俺に向けた。

 

「そんなに下らぬ事に悩むのなら、いっそ全て娶れば良い。法律なぞ知ったことではないのでな。世界にはそのような国もある。いけぬということはなかろうよ」

 

それを聞いて噴き出す俺。

センセーらしからない大胆すぎる返答に驚いてしまったからだ。

確かにそれなら皆を悲しませないけど、それはあまりにも………。

センセーの言葉で思い浮かべてしまった『皆と結婚した姿』を思い浮かべてしまい、顔が一気に真っ赤になっていくのを感じた。

真っ白い大きなベットの上に集まる自分と六人。

艶やかな肢体を侍らせ、ふんぞり返っている自分。そしてそんな自分に身体をすり寄せ、奉仕する彼女達。

 

『えへへ~、お兄ちゃん、どう? 気持ち良い?』

『どうですか、一真様………わたくしの胸の感触は……』

『お兄様の、大きすぎてお口に……』

『あぁんっ! もう、かずくんったら甘えんぼさん』

『んはぁっ! 一真、もっと荒々しくしてもいいんだぞ』

『はぁ、はぁ……かずくんのでお腹の中、いっぱいだよ~。でも、もっと……』

 

(な、何考えているんだ、俺はぁああぁああああああぁああぁあああああああ!!)

 

かき消そうと頭を振るうが、こびりついて中々に離れない。

自分では気付かなかったが、どうやら身体は生命の危機に対し、子孫を残そうと反応を起こしているようだ。

それを見透かされたんだろうなぁ。

センセーはより笑みを深めると、俺に死刑宣告を言い放った。

 

「どうやらまだ編纂の余裕はありそうだな。明日はより学ばせてやろう」

 

それを聞いた途端、生命の危機を感じた俺の精神は肉体を強制的に眠りに就かせた。

あぁ、明日……生きていられるかなぁ………。

 

 こうして初日は終わった。

 

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