二人が激突し合う少し前。
管制室はいつもの倍以上の人数が入り、多少息苦しさを感じさせていた。
二人の試合を見届けるために管制室の席に着いているIS学園の教師、織斑 マドカ。そして教頭の織斑 千冬の二人。
その後ろでは、今にも飛び出しかけないくらい心配し不安そうにしている五人の生徒。
織斑 夏耶、徳臣 葵、真田 灯、アリシア・オルコット、伊達 颯。
皆一真と関わり合いのある少女達である。
その後ろではこれから始まるであろう試合を楽しみにしてなのか、笑みを浮かべている篠ノ之 束。
そして…………教員二人に呼ばれ来た、部外者の三人。
一人は二十歳前半くらいの青年。もう一人はぱっと見高校生に見えなくも無い女性だが、その身体は大人の女性として確かに成熟していた。
後一人女性がいたが、年の割に身長が低く発育もよろしくない。
その三人の名は、男から織斑 一夏、織斑 真耶、鳳 鈴音。
これから戦うであろう二人の保護者達だ。
知己の間柄である三人は、まだ始まっていないことから久々の再会を喜び会話に華を咲かせていた。
「しっかし、本当にあんたって変わらないわよね」
「そんな事無いと思うけど」
「いや、あるでしょ。私とあんたが一緒に歩いている所を見て、同い年って分かる人なんて絶対にいないわよ! まったく、こっちは美容と健康に気を遣って出来る限り保つので苦労しているっていうのに、あんたったら前に会った時からまるっきり変わってないじゃない。その姿で高校生の子持ちだなんて言ったら、殆どの人は仰天するわよ」
不安に打ち震えている五人の少女を余所に、大人は大人で懐かしさを感じながら取っつき合う。
まったく老化の後が見られない一夏に鈴は文句を言いつつも笑うのは、二人の間柄は幼馴染みであり気兼ねなく話し合える間柄だからである。
「それに真耶さんも全然昔と変わらないですよね。今でも制服を着ても違和感ないんじゃないですか。学生の時も一夏と一緒に学園祭で着てたし」
「そ、そんなことないですよ~。でも、やっぱりそう言ってもらえると嬉しくも思いますね。旦那様には綺麗な私をいつも見て貰いたいですから」
鈴にそう言われ頬を染めて喜ぶ真耶。
この二人の間柄は教師と生徒であり、一夏が学生の時にクラスは違えど鈴も真耶には世話になっていた。それ故に見知っている相手でもある。
もう教師と生徒の間柄では無いが、未だに敬語が抜けることは無い。
鈴は一夏と真耶の二人と笑い合いながら会話をし、そして一段落した所で改めて頭を下げた。
「それにしても……悪いわね、ウチの馬鹿があんたの子供に迷惑をかけて」
その謝罪は自分の養子である凰 劉鳳が一真に迷惑をかけている事へのものである。張本人が謝らないため、こうして鈴が謝ってきた。
その謝罪に関し、一夏は暖かい笑みをしながら返答した。
「別に謝るようなことじゃないだろう。若い漢が強者との戦いを望むのは自然なことだよ。寧ろ感謝したいくらいだ。一真にはああいうライバルが必要だと思っていたからね」
「あんたってバカップルで子煩悩だけど、そういうことに関してはクレバーよね」
「それが武者というものだよ。強者との戦いは自己の成長に必ずと言って良い物になるから」
この戦いに迷惑をかけたことに対し、一夏は寧ろ喜ばしいことだと笑う。
それを見ると、やはり鈴は思う。
これが武者と一般人との違いだと。
もしくはこれが男女の圧倒的な違いなんだろうなぁと。
正直、鈴もどちらかと言えば心境的には今も心配し一真を見つめる五人と同じ側であった。それは真耶も同じであり、怪我をしないかとハラハラしている様子が見受けられる。
女では絶対に理解出来ない領域を、男だけが理解が出来る。
それを少しばかり羨ましく思いながら、鈴は不安に揺れる瞳でアリーナを見つめる五人の方に目を向けた。
そして一夏に彼女達のことを聞くと、一夏は苦笑を浮かべ真耶が笑顔でその問いに答えた。
「あの子達、みんなかずくんの事が大好きなんですよ。昔に旦那様を好いていた頃の私達と同じですね」
それを聞いた鈴は呆れ返ったような顔で一夏を見つめてきた。
「何、あんたの息子もあんたと同じような事になってるわけ?」
それは学生時代、異性から好意を寄せられていたのにまったく気付かなかった一夏の事を指している。勿論、真耶に対してはそうではなかったのだが。
そのジト目を受けて、一夏は苦笑しつつもそうではないと答えた。
「いや、違うみたいだよ。みんな一真に告白したらしい。ただ、一真が未だに悩んで返事を返せていないようだけどね」
「ある意味あんたより最低じゃない、それ」
「俺からは何も言えないかな。それでも言える事は、一真は真剣に悩んでいるってことだけだよ。真摯な告白に、一真も真剣に応えるために」
それを聞いて鈴はどことなく納得した。
電話で会話し、久々にその姿を見たが、確かに一夏の息子なんだと。その心根は父親に限りなく似ている。ただ、父親と違って優柔不断な部分もあるようだが、それは母親からの遺伝だろう。
生真面目な性格故に全てを受け止めようとするのはどうかと思われるが……。
鈴は在りし日の頃の思い出を思い出しつつも五人を見つめていく。
その懐かしくもどこかほろ苦い思いを味わいながら五人を見ていて、ある事に気が付いた。
「あれ? あの子ってもしかして妹の方の夏耶ちゃん?」
鈴がそう言ったのは、眼鏡をかけている夏耶のことであった。
低身長なのに胸は不釣り合いに大きい。そしてその身から発する雰囲気は母親とそっくりである。
夏耶のことを言われ、真耶はそうだと普通に頷く。
その様子を見て、鈴は何とも言えない顔をする。
この母にしてこの娘あり、だと。
胸が寂しい鈴からして、実に何とも言えない気分にさせられた。
そして見ていて気付く。
「ねぇ、あの子ってもしかして……」
鈴から見て、夏耶の瞳は見覚えのあるものだった。
それは異性に恋い焦がれる恋する乙女の瞳。そしてそれを向けている先にいるのは、彼女の兄である織斑 一真である。
鈴は夏耶のそんな姿を見て、一夏達に目を向ける。
鈴の視線を理解してか、二人は口を開いたのだが……。
「夏耶はお兄ちゃん子だからね。凄く心配しているんだろう」
一夏は特に気にした様子もなくそう答える。
鈴からすれば、それは無いだろうと断言出来るくらい丸わかりなのに。
「うふふふふ、かやちゃんたらお兄ちゃんが大好きだからね~。仕方ないかも知れないです」
真耶が意味ありげに笑いながらそう答えると、鈴は少し怖さを感じつつ頷いた。
何だか聞いてはいけないような気がしてならないと。
だが、それが逆にどういうことかをはっきりとさせる。
まさに織斑の血を良く受け継いでいると思い知らされた気がした。
そんな恐怖を感じている所で、突如として一夏に向かって声がかけられた。
「やぁやぁいっくん、おっひさ~! 早速だけど、かずくんを私に下さい! 絶対に幸せにするし幸せになるんで~!」
気軽に挨拶するかのように話しかけてきたのは束である。
かずくんとは勿論アリーナでこれから戦う相手と対峙している織斑 一真のことだ。一夏にとって最愛の息子である。
その息子を下さいと束は言ってきた。勿論プロポーズという意味で。
そんな息子の一生を左右しかねない申し出に一夏はにこやかに笑い返す。
「束さん、それは一真本人に言って下さい。息子の恋愛に口を出す気はありませんから」
息子との年齢差が倍以上離れていることを知った上でも一夏は駄目とは言わない。恋愛は個人の問題だから。
それを聞いて束は更に頑張るぞ~、と手を上げる。
その様子を見ていた鈴は勿論見逃さなかった……束の瞳に宿る恋の光を。
「………あんたの息子……あんた以上に苦労しそうね」
「え、そうかな? 一真は俺より要領も良いし大丈夫だと思うけど」
「分からないならいいわ。どうせ苦労するのは本人なんだしね。まったく……真耶さんも随分ときついことを強いるわ」
「そんなことないですよ。だって私達は……」
そこで真耶は言葉を切ると、一夏の腕に抱きついた。
「恋する人を応援したいだけですから。ね、旦那様♡」
その様子を見た鈴は呆れ返り、勝手にやっていろと言った感じで首を振る。
「あぁ、もう……お腹いっぱいだわ。よく良い年してそんな事が出来るのやら」
そう思いながら視線を戻してアリーナへと向ける。
そして皆が一真を応援している中、自分の義理息子を応援しつつ思った。
きっと一真はこの先も、絶対に苦労するだろうと。
そして二人はぶつかり始めた。
次回はやっとガチでの戦いです。