今までにない新しい姿を見た千冬達は当然ながら困惑を隠せない。
目の前でそれまで試合をしていた二人は、確かにISと武者の姿をしていた。
だが、真の力を発揮すると言って変わった二人の姿は、それまでの常識を打ち破る姿へと変わっていたのだ。
片や、ISとしては明らかに可笑しい両腕を持った獣のような姿。もう一方は武者として明らかに可笑しい、殆ど装甲がない素顔を晒した姿。
異形の二人を見て、その場は騒然となった。
「何、あのお兄ちゃんの姿! あんな姿、見たことない!」
「あれは……武者なのでしょうか? それにしてはあまりにも装甲がないですし、それに一真様のお顔が……はぁ、凜々しくて格好いいです………」
「かずくんが言ってた真の力っていうのはこういうことだったのね。でも、寧ろ危ないんじゃにかしら、あれ? 見た限りはISの能力があるみたいだけど」
「あの野蛮人のISも充分可笑しいですわ! それまで武器を使わなかったのは戦闘スタイルで分かりましたけど、ああもすればもう異常としか……」
「あぁ、アリシアの言う通りだぜ。いくら何でもあの姿はISとしてどうなんだ? スラスターも見当たらねぇし、それにあの顔の装甲はどんな意味があるんだよ?」
口々に驚きつつそう洩らす五人に対し、大人は大人で別の視点で見ていた。
「凰のISは見たところ接近戦特化の機体のようだが、武器も使わずに素手のみであそこまでの威力を見せつけられるとはな。確かに世代が分けられないと言ったところか」
「一真の劔冑は何であんな姿になったんだ? あれではそれまで身体を守っていた装甲が無くなって防御力が無くなってしまう。はぁ、怪我しないか心配だ……」
千冬は驚きつつも純粋に凰 劉鳳の機体を見ていた。
確かに千冬が言った通り、凰 劉鳳のIS『シェルブリット』は一切の武器を使わない徒手空拳のISだ。ISの基本戦術の殆どが通用しない、新しい機体と言っても良い。それ故に世代を分けることが出来ない。
マドカは逆に一真のよりスマートになった姿を見て心配で不安が止まらない。
今までの武者では有り得ない軽装に怪我をする確率が上がってしまったのでは無いかと思っている。
そんな二人とは別に、束はというと…………。
「キャーーーーーー、かずくん格好いい! 今まで顔も装甲で覆われてたけど、素顔が出てきて尚格好いい! いやぁん、直ぐにでも抱いて~!」
一真の姿を見て身悶えていた。
そのため、その艶声を聞いた五人から睨まれることに。
そして保護者はと言うと、真耶を覗いて普通に笑っていた。
「あれがクーガーさんの言ってたアイツの真の姿って奴? 何だかライオンと熊をくっつけたみたいな感じね」
事前にその姿について聞いていた鈴はそこまで驚いた様子も無く、そんな暢気なこと口にする。
そしてそれは一夏も同じであった。
「あれが一真の真の力かぁ……成程、随分とあの人のところで頑張って来たようだね」
一人感心している一夏に向かって、まるで心配で直ぐにでも泣きそうな顔をした真耶が聞く。
「あの、旦那様! かずくんは大丈夫なんですか? あの姿、殆ど装甲がありませんし、旦那様の装甲した姿とは違って………」
心配し慌てふためく真耶を一夏は優しく抱き留め、胸の中で囁くように応える。
「大丈夫だと思いますよ。前に聞いたことがありますけど、一真が使ってる次世代型の新式数打はISの技術を取り入れた物で、多分今の一真はシールドバリアが張られていると思います。それに背中に合当理がない。多分……PICを使用してる所があるのかも。それだけじゃないかな」
真耶を優しくあやしつつ、一夏はクスりと笑う。
彼は気付いていた。息子の使う劔冑が『何を模倣した』のかを。
故に笑う。
「随分と日本政府も面白い物を作るね。まさか正宗の能力と、御母堂の能力を出来る限り模倣しようとするとは………少し真面目に死合いたくなるかな」
知らず知らずの内に凄みを増した笑みを浮かべる一夏。
そんな一夏の唇を白い綺麗な指がぷにっと触れた。
「そんなの絶対に駄目ですからね。いくら旦那様でも、かずくんを危ない目に遭わせるのは許しません。勿論、かずくんが旦那様を危ない目に遭わせるのも許しませんよ」
最愛の人の可愛らしくも真面目な注意に一夏は苦笑を浮かべ軽く謝る。
そして返事の代わりに真耶を胸に抱きしめながら、息子の雄姿を見るべく目を其方へと向けた。
そして一夏が予想していた通り、次の瞬間………消えた。
「ぜぇぇええやぁあぁぁあぁああぁあああぁぁあああぁあああああああ!!」
「オラァアァアアァアァアアァアアァァァアアアアアアアアアアアア!!」
雄叫び上がるが、それが聞こえるのは自分がかなり前に進んだ後。
俺の目が捕らえるのは、此方に向かって拳を構える奴の姿のみ。
そして再び俺と奴は激突する。
それまでとは違う、本当の全力で。
奴の巨大な拳と俺の刀がぶつかり合った途端………世界は爆ぜた。
あまりの衝撃に空間は軋み、足場にしていた地面は爆散する。
アリーナのバリアが衝撃だけで悲鳴を上げ、今にも壊れんばかりにアリーナその物が鳴動した。
だが、そんなことは気にならない。
ただ、目の前で対峙し火花を散らせながら競り合っている奴にのみ意識が集中する。
「おいおい、どんだけ速ぇんだ、それ! こっちのハイパーセンサーがまったく追いついてなかったぞ」
「それは此方の台詞だ。何だ、この威力は! 此方が全力を出していなければ一撃で絶影ごと叩き潰す程に凄まじいじゃないか」
お互いに感想を言い合い、凄みが含まれた笑みで返す。
未だに拳と刀は退くことをせずに競り合い続け、金属同士が擦れ合う嫌な音を響かせていた。
「速いのは当然だ。これこそが、俺の劔冑『絶影』の真の姿だからだ。名が体を表すように。絶影は影を絶つ。影すら追いつかない速さこそが、真の意味だ」
初撃を受け止めた奴への褒美の代わりに教えると、奴はニヤリと笑う。
そして自分のISについて答えた。
「別にこっちは大したもんじゃねぇよ。アメリカのとある企業が作ったケンカのための機体だ。そのためには硬い拳が必要だからなぁ。そんな理由で付けられたらしい。別に名前はそこまで気にしちゃいねぇが………こいつは凄く気に入ってる」
奴の話を聞いて、そして俺も理解し笑みを浮かべた。
本当ならばもっとちゃんとした理由があるのだろう。コンセプトがあり、それに適した戦術に沿って使うのかもしれない。だが、それよりも、奴が言っていることの方が実に『奴らしい』。
だからこそ思う。
これが本当の全力の戦いなのだと。
自分らしさを全面に出した、意地の張り合いが出来るのだと。
その上で奴に勝ちたいと、切に願う。
きっと奴とのこの勝負に勝てたのなら、きっと最高の気分になれるだろう。
自分が武者だと、自信を持って言える。
そう思えるからこそ、目の前の最強で最高の敵に俺は………。
勝ちたいッ!!
「おぉおおぉおおぉおおぉおおぉおおおおおおおおおお!!」
「らぁああぁあぁあああぁあああぁあああぁあああぁあ!!」
咆吼を上げながら互いに押しやり、相手を吹き飛ばす。
つい少し前も同じように何度もぶつかっては間合いを離し合ってきた。
だが、今回は違う。
互いに持てる力の限りを持って、全力で突き飛ばし合った。
結果、俺と奴は同時に吹き飛んで後ろにあったアリーナの壁へと激突した。
粉砕され砕け散る壁。その瓦礫を吹き飛ばしながら、俺と奴は互いに再び仕掛け合う。
「HITAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「がぁああぁああぁああぁああぁあああぁああぁあああぁあぁああぁあ!!」
神速の速さで一気に距離と詰める此方に対し、奴は背に生えた羽と言うよりも尾と言うべき物をしならせて鞭のよう地面に叩き着けると、その反動を使って此方に突進してきた。
速さこそ此方が上だが、それでも充分に速い。何よりも躍動感に溢れた獣らしさが見え、それ故に突進している割には機敏だ。
此方は逆に力で押し負けている節がある。
奴の拳の威力は凄まじさを増し、センセーと同じくらいあるのではないかと思う。それだけに受け止める度に腕の筋肉が悲鳴を上げていく。
「だが、負けられない!」
「あぁ、そうだ! 負けられねぇ!!」
再び接近し合い、俺は奴に向かって斬り掛かる。
右上段と左下段からなる上下同時の挟み撃ち。それに対し、奴は左右の拳で迎え撃つ。
幾度となく鳴り響く激突音。気が付けば戦いは空中へと移行しているが、それでも戦い方は変わらない。ただひたすらに激突し合うのみ。
その衝撃だけでシールドが削れていく。
奴の拳が頬をかすめれば、シールドで守られていようと頬の皮が裂け、血が頬をゆっくりと伝っていく。
その流れ出ていく血を感じながら思う。
互いの武器は同格だと。
この最終形態はISの技術をかなり使ったものであり、シールドバリアの展開や合当理がない変わりにPIC等の重力制御装置を用いて、彼の『白銀の武者』に少しでも近づけるよう、出来る限り再現したものだ。
それほどに凄まじい性能を持ってしても、奴とこうも接戦になるとは……実に楽しい。自分の全力を受け止めて、そしてそれ以上の力を俺にぶつけてくる。
常に限界への挑戦を強いられ、精神が疲弊していく。
だが、それでも高揚感は高まりより奴にのみ集中する。
少しでも気を抜いた瞬間にやられると、本能が警告を発する。
そして同時に逃げろとも。
だが、それを意思を持って潰し、反逆するかのように奴に刀を振るう。
あぁ、本当に……何て楽しいのだろう。
父さんが言っていたことを痛感する。真の武者同士の死合いは刹那的なまでに楽しいと。
だからこそ………。
「もっと行くぞ、『劉鳳』!!」
「来いよ、『一真』ァッ!!」
より苛烈に互いに攻め合う。
此方の刀が奴の装甲をシールドごと削り、奴の拳が俺を打ち砕かんと猛威を振るう。
躱し、逸らし、防ぎ、斬り掛かる。
その動作一つでもする度に肝が冷える思いをしては、反撃を放つ。
気が付けば此方のシールドは100を切りかけていた。
奴の姿も最初の頃に比べれば明らかにボロボロとなっている。それは此方も同じで額から血が流れ、視界が半分赤く染まっており、身体は彼方此方の装甲に罅が入り血が流れていた。
双方とも満身創痍。だが、その闘志はまったく揺らぐことはない。
「がぁあぁあぁああぁああぁああぁあああああああああああああああああ!!」
「おぉおおぉおぉぉおおおおぉおおぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
叫びを上げながらひたすらに攻める。
直撃以外の殆どを受け血を流し、装甲が砕け散ろうとも手は止まらない。
そして遂に、俺と奴は地面へと着地した。
互いの身体はISと劔冑を纏っているというのに血で真っ赤に染まり、装甲はひび割れてひしゃげて無事な所など一つも無い。
だというのに俺と奴は笑みが止まらない。ただひたすら楽しいのだ。
そして理解する。互いが限界であることを、次の一撃で決着が付くと言うことを。
それは幾ばくか物悲しさを感じさせる。
だが、それでも……俺は決めたかった。この勝負の勝敗を。
奴と俺、どちらが強いのかを。
互いに血で染まった顔で睨み合う。だが、そこに怒りの感情は無い。
純粋な感情だけがあった。
勝ちたい。
それだけが今の俺達に共通している感情だろう。
「次だな……」
「あぁ、そうだな……」
それはお互いの最後の言葉。
そのことに笑いながら俺達は互いに構え、そして………最後の攻撃を仕掛けた。
「俺と絶影の力を持って、正面から切り開くッ!!」
「真正面から打ち砕く! 俺の、自慢の、拳でぇええぇえええええええ!!」
ほぼ同時に動き、声にならないような咆吼を上げながら二刀を振り、奴の両拳と二刀が激突した瞬間…………。
アリーナのバリアが崩壊した。