結構長かったなぁ……。
二人が新たなる姿へと変わり動いた瞬間、二人の姿が消えた。
その事に驚愕し混乱する夏耶達。
「な、何でお兄ちゃんが消えちゃったの!?」
「一真様は何処に!? そんな、消えるだなんて!?」
「かずくん、どうしたのかしら……私、目なんて離してないのに……」
「お兄様もそうですが、あの野蛮人もですわ! 一体何をしたんですの?」
「アイツ等二人、一瞬で消えちまった!」
だが、その驚きも瞬時のこと。
次の瞬間、アリーナの中央でぶつかり合った二人の姿が皆に見えた。
その途端、管制室が揺さぶられるんじゃないかという程の衝撃が走り、その轟音に夏耶達は身をすくめてしまう。
その一連の動作に、それまで見ていた千冬とマドカは驚きつつも、モニターしていた情報を調べる。
そして驚愕のあまりに言葉を失っていた。
「なっ…………イグニッションブーストなのか、あれは………」
「凰の奴も……速すぎる! 通常のISのイグニッションブーストの比じゃない! 何なんだ、あれ!」
驚く七人の目の前では、更に信じられないような戦闘が繰り広げられていた。
両者とも弾き飛ばされ、アリーナの壁へと激突する。
その威力を表すかのように砕け散る壁。その瓦礫と吹き飛ばしながら起き上がった二人は、そこから更に再び消える。
いや、正確に言えば、消えたように見えるほどに高速で動き始めたのだ。
劉鳳の動きは目が慣れ始めるにつれて少しだけだが見えてくるようになった。それに対し、一真の動きは本当に何一つ見えない。
彼女達から見れば、瞬間移動をしているようにしか見えないのだ。
目の前で一体どのような攻防が行われているのか、彼女達は把握出来ない。
ただ、後から聞こえてくる激突音とアリーナを揺さぶる衝撃だけが彼女達に理解させる。
如何に二人が熾烈な戦いを繰り広げているのかを。
その戦闘を見て、流石に心配になってきたのか束がそわそわとした様子でモニターを見つめる。
「あぅ~~~~~、かずくん、大丈夫かな……。あの速さ、ISのハイパーセンサーでも追いつかない。そんな速度、それもイグニッションブーストと違って常に動いてるなら、身体の方が持たないよ」
イグニッションブースト中に急な方向転換を行うと身体を痛めるか、悪ければ骨折する可能性が出て来る。
それ以上の速さで、常にその速度をキープした上で戦い続けているのだから、その身体に掛かる負担はかなり大きい。
故に束は心配で仕方ない。想い人の身体が危ないと分かり、心配しない女はいないのである。
その声を聞いて、更に心配を深める夏耶達。
もうISと劔冑の試合の域を超えたと驚き魅入る千冬とマドカ。
そして二人の戦いを感心した様子で見る一夏。
「成る程、確かに速い。師範代ほどじゃないけど、それに近いくらいには速いね。伊達さんの初音と同格ってところかな? ますます戦ってみたくなるけど、それをしたら怒られそうだから無理そうだ。少し残念」
周りが殆ど何が起こっているのか見れない中、一夏だけは二人の姿をばっちりと押さえていた。
一真の斬撃を、劉鳳の拳が振るわれる様を見て、一夏は笑う。
親から見れば、とても青春しているように見えるようだ。普通こんな血みどろなものを青春などとは呼ばないものなのだが。
自分の息子を少し羨ましく思いながら見ている一夏に対し、真耶は慌てた様子で一夏に抱きついた。
彼女も元はISに携わっていた人間。今の息子の状態が如何に危険なのかをどことなく分かっている。
「旦那様、かずくんは大丈夫なんですか? 明らかに速すぎて、このままじゃ身体が持たなくなっちゃいますよ!」
慌てふためく真耶を一夏は宥めるように優しく頭を撫でる。
その様子を見ていた鈴は呆れた視線を向けていた。
「多分大丈夫でしょう。それに……持って10分。それが一真のタイムリミットです。それから先は満足に動くことも出来ないくらい消耗していると思います」
「10分……ですか………」
それを聞いて尚心配そうに前を見つめる真耶。
鈴もこの戦いを見届けると決めて二人が戦っている、壊れつつあるアリーナに目を向ける。
一夏は戦っている二人を見て、年甲斐も無くハシャぐ自分を感じて苦笑を浮かべる。自分もまだまだ現役なのだから、成長した息子と戦ってみたいなぁ……そんな思いに駆られつつも反省する。
今は若い二人の試合を見るべきだと。
そして皆がアリーナに目を向ける。
二人の戦いは既に佳境へと入っていた。
双方距離を取って対峙する。
その姿は始めてその姿を見た皆が見てもわかるくらい、変わり果てていた。
互いの装甲は罅割れ砕けており、彼方此方が血で真っ赤に染まっている。
既に二人とも満身創痍なのは、誰の目から見ても明らかだった。
そんな一真を見て、声にならない悲鳴を上げかける夏耶達。
彼女達は本格的な試合というを見たことが無い故に、そんな反応をしてしまうのは仕方ないのかもしれない。
千冬とマドカ、束、鈴の四人はただ息を呑んで二人を見つめている。
そして真耶は涙を溢れさせつつ、息子のことをじっと見ていた。
彼女はこの光景に見覚えがあるから。かつて、若い頃の夫が似たように大怪我を負っている光景を目にしている。
だからどうすれば良いのか、彼女は知っている。ただ、信じて待つだけであると。
そして、そんな皆が視線を集中させている中、二人は笑う。
実に楽しそうに、無邪気に張り合う子供のように。その割りにはあまりにも凶暴な笑みを浮かべて。
そして叫ぶと共に、互いに動き出した。
劉鳳は背中から生えている尾を地面に叩き着けると、その反動を使って一真へと突撃をかける。その際、空中で縦回転をして遠心力を両拳へと集め、そして両手を同時に突き出して一真へと襲い掛かる。
対して一真はその場から少し宙に浮くと、僅か一瞬にして後ろへと下がり、空いた距離の分を加速に用いて神速の速度で劉鳳へと斬り掛かる。その時の技は彼の中で一番威力の高い『吉野御流合戦礼法 雪崩が崩し 二刀流、双崩』である。
そして両者の最強の攻撃が中央でぶつかり合った途端、あまりの威力に空間が爆ぜた。
アリーナを守っているシールドは、その時に生じた衝撃だけで一瞬で砕け散り、アリーナの壁も悉く破壊される。
一気に砕け散って舞い上がった地面の土煙によってアリーナは見えなくなり、それが晴れるまで一切の状況を確認することが出来なくなっていた。
そして晴れると、そこには…………。
身体中が激痛を発し、俺は声にならない苦悶を洩らす。
今までダメージを負ったことは勿論、絶影の真の力に身体が付いていけないのだ。もって10分くらいだと、センセーから言われていた。
超高速で動き続ける肉体は補助があれど持つような物ではなく、常に肉体を破壊し続ける。
当然だ、人の身体はそのような高速で動くことに対応などしていないのだから。
それを無理に動かし続けた代償が、今の肉体というわけだ。
あまりの痛さに気が遠くなる。
奴との最高の一撃をぶつけ合わせた時の衝撃は凄まじく、どうやら左肩が脱臼して腕の方は折れたようだ。熱と痛みは感じるが、感覚は一切感じられない。
それ以外にも身体中が怪我まみれなのは、痛みで大体分かった。多分肋骨も四本ほど折れているかもしれない。
それでも俺は立ち上がる。
どちらが勝つのかをはっきりとさせたいために。
奴には絶対に負けたくないから。
そして土煙が晴れると、そこには俺と同じようにボロボロになりつつも起き上がろうとしている奴がいた。
全身血まみれで明らかに身体が悲鳴を上げている。
だが、俺を睨み付ける目は死んでいない。
もう奴のISも俺の絶影の姿も無かった。
奴のISはダメージレベルCを過ぎて殆ど大破。此方も致命的な損傷を受けて解除。絶影は元の人型形態へと戻って俺の直ぐ側で倒れていた。その鋼の身体は罅割れ、見るも無惨な姿へと成り果てている。
互いに残っているのはもう己の身体のみ。
試合結果はもう出ていることだろう。多分引き分けだ。
だが、そんなことは関係無い。
奴との決着はまだ着いていないのだから。
それが分かるからこそ、奴も又、俺を見て立ち上がる。
そう、まだ………決着は付いていない。
「ま………まだ……だ………」
「まだ……終わりじゃ……ねぇ!」
そして互いに歩き出す。
もう走るような体力はない。足取りは危なっかしく、真っ直ぐ歩くのも困難だ。
それでも歩き、そして奴と再び対峙した。
力なく振り上げられる右腕。俺も同じように、なけなしの力を込めて重い右腕を持ち上げる。
刀など、二本とも折れてしまった……折られてしまった。きっと武者としては失格なのかも知れない。だが、それでも……それはこの男がそれだけ強かったからとしか言いようが無い。
だから、折られても仕方ないと思った。それでも、負ける気は無いと。
そしてまるで鏡合わせのように、俺と奴は本当に最後の力を込めた拳を放った。
「うぉおぉおおぉぉおおおぉおぉぉおおぉぉおおぉおおおおおおおおおおおッ!!」
「らぁあぁああぁああぁああぁあっぁあぁああぁああぁああぁああぁぁあぁッ!!」
そこから先の記憶は無い。
ただ、覚えているのは奴の拳が自分の頬を抉り込む感触。
そして、自分の拳が奴の頬を抉り込む感触だけだった。
こうして、この勝負は終わった。
薄れゆく意識の中、此方に向かって駆け寄ってくる夏耶達の姿が見えたような気がした。