今まで駄文に付き合っていただき、誠にありがとうございました。
あの試合が終わった後の話をしようか。
あの後、倒れた俺と劉鳳は急遽、緊急治療室に運ばれた。
意識が無かったから気付かなかったが、聞いた話だと結構酷い状態だったらしい。
全身打撲に各所の裂傷、左肩の脱臼と腕の骨折、肋骨が三本骨折、二本に罅が入っていた。裂傷も深い物ばかりで、軽く縫った後にナノマシンによる治療も行われたようだ。
治療が終わり次第、通常の治療室へと移されたが。
結果、全治三週間を言い渡された。
目が覚めて最初に感じたのは激痛。その痛みに苦悶の声を上げそうになるが、それでもそれを堪えた。
確かに痛いが、それ以上に気になったから………劉鳳との勝負の結果が。
負けたとは思っていないが、勝ったとも感じない。
だからこそ、知りたかった。
気になって仕方ないと、痛む身体よりも精神が其方を優先する。
そして身体を引きづりながら起き上がろうとしたところで、様子を見に来た父さん達に見つかりベットに取り押さえられる事に。
父さんは愉快そうに笑ってたけど、マドカ叔母さんと千冬伯母さんに強制的にベットに寝かされた。
仕方なくベットで再び横になった俺は、気になって仕方ない劉鳳との勝負の結果を千冬伯母さんに聞いた。
その結果、出たのは引き分けの話である。
既に試合のルールでも引き分けだというのに、それでも戦う意思を見せた俺達の素手の一撃も見事に両者に決まりダブルノックダウン。
明確の差など無い、完璧なまでの引き分け。
そう聞かされては何も言えなくなる。
あの時、確かに俺は自分の限界以上の力を出した。
だが、それでも奴に勝てなかった。
それが………少しばかりだが、嬉しく感じる。
あそこまで追い詰め追い詰められたというのに、それでも勝てなかった。
それ程までに張り合える相手など、今までいなかったのだから。
だからこそ、もっと思う。
勝ちたい。
きっと、奴も同じように思っているだろう。
俺がそう感じているのだ。認めたくないが、葵さんが言う通り少しばかり俺と奴の精神は似てるらしい。なら、同じように感じるだろう。
ライバルというにはあまりにも物騒な関係。
高め合える関係と言うにはあまりにも健全ではない。
やっぱり………敵というのが一番しっくりとくる。
だからだろうか………たぶん、近いうちに再び劉鳳と再戦することになると、何となくだが分かる。
その事を考えると、自然と笑みが浮かんでくる。自分で言うのも何だが、随分と物騒な笑みが。
そんな事を考えていることを見越されていたのだろう。
そこから始まったのは、母さんと伯母さん達によるお説教。
母さんからは泣き付かれ、危ない事をしたことに関してあまり怖くないお説教を受けたのだが……後ろで微笑む父さんが怖くて冷や汗を掻いた。
濃密な殺気を俺だけに放ち、笑顔なのに目は笑っておらず、そして口元が声を出さずに動く。その動きから何を喋っているのかを理解した俺は、あまりの恐怖にゾッとした。
真耶さんを泣かせたね………後でお説教だ……。
いきなりガタガタと震え始めた俺を不思議そうに見ていた母さん。
俺は改めて父さんの偉大さとバカップルの極致を垣間見たような気がした。
そしてマドカ叔母さんからも似たように抱きつかれ、無茶ばかりしたことを怒られる。いくら身体が丈夫の武者でも、それでもまだ子供なのだから身体を大切にしろと言われた。成長期の身体に深刻なダメージを与えると、今後の生活に於いても支障を来すからだと。
そして千冬伯母さんは言いたいことを言われてしまったせいか、少しばかり気まずそうにしながら出した被害について言われた。
アリーナ全損でしばらくは使用不可。修理には一週間近く掛かるらしい。
その時の費用を聞いて、痛む身体を押して土下座したのは言うまでも無い。
父さんはそれを聞いて笑っていたけど。
後で聞いた話だが、昔父さんもアリーナを壊したことがあるらしい。その時は幸長おじさんと父さんの師匠が一緒になって暴れたらしいけど、その際は全損どころか崩壊したらしい。ちなみにこれを直すのにも掛かったのは一週間で、父さんは責任を持って業者の人の手伝いをしていたとか。
ともかく、皆に心配をかけ、そして学園の物を壊してしまったことを申し訳無く感じる。いくら戦闘に夢中だったとはいえ、それだけ周りが良く見えていなかったというのだから。
それからは、あまり怪我人に負担をかけてはいけないと言うことで退室していく父さん達と伯母さん達。
俺は二学期が始まってもIS学園で静養するよう言われたが、多分一週間で武帝校に戻るだろう。そこまでサボっていては、身体が鈍ってしまうから。
それと同時に千冬伯母さんにこう言われた。
「あぁ、それと……私達はこの程度で勘弁してやるが、『アイツ等』はそんな生優しいものじゃない。覚悟しておくんだな」
そう言い残して、四人は病室から出て行った。
それがどういう意味なのか分からずに首を傾げると、次の瞬間に扉が叩き付けられるように開いた。
「お兄ちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!」
「一真様ッ!!」
「お兄様ッ!!」
「一真ぁっ!!」
「「かずくんッ!!」」
開いた扉から凄い勢いで入って来たのは、夏耶、葵さん、アリシアさん、颯姉、灯姉さん、束さんの六人だった。
六人は俺の姿を見るなり瞳に涙を溜めると、体当たりをするかのように俺に飛びついてきた。
六人分の体当たりの衝撃と重量が身体にのしかかり、俺はあまりの痛みに声にならない叫びを上げる。
だが、六人はそんな俺をお構いなしに止まらない。
俺に力一杯抱きつき、そして思いの丈をぶつけてきた。
「お兄ちゃん、心配したんだからね! 無茶しちゃ駄目だよ! もし、お兄ちゃんが死んじゃったらと思うと………ふぇえええぇえぇええぇええぇえぇえええ!!!!」
夏耶は俺に抱きつくなり、思いっきり泣き始めた。
大げさだなぁっと思うが、此処まで泣かれてはそうも言えない。
きっと心配したんだろう。
「一真様……無茶のし過ぎです! いくら一真様がお強いと言っても、死んでしまっては元も子も無いのですよ………わたくしも……凄く心配だったのですから……」
葵さんは涙を流しながら俺にぎゅっと抱きついてきた。
何というか、凄く心配をかけたんだなぁ……申し訳無い気持ちで一杯になってくる。
「お兄様、こんなにお怪我をなさって……。あの、野蛮人、絶対に許しませんわ!!」
泣きつつも怒るアリシアさん。
そんな起こらないで欲しい。これは俺と奴の勝負の結果なのだから。
俺のために泣いてくれるのは嬉しいけどさ。
「かずくん、本当に身体は大丈夫なの? あんなに血まみれだったし……何かあったら何でも言ってね。お姉さん、何でもしてあげるから」
泣きつつも優しく俺を気遣う灯姉さん。
その優しさが嬉しいが、少し子供みたいに扱いすぎな気もする。
まぁ、それが灯姉さんらしさなんだけどね。
「一真、格好良かったぜ! お前の真剣勝負、確かに見届けたよ!」
颯姉は泣きそうになりつつも俺の勝負を称賛してくれた。
それは嬉しいが、背中をばんばん叩くのは止めて欲しい、傷口に響く。
「かずくん、あんまり無茶ばかりすると束さん、心配でどうにかなっちゃうよ~~~~~~! もう、あんな危ない事して! かずくんが死んじゃったら、束さんは寂しくて死んじゃうんだから~~~~~~」
束さんは泣きながらそう言うなり、俺の顔を包み込むように抱きしめてきた。
いつもなら赤面して慌てるのだが、何故か今は暖かくて気持ち良くて精神が落ち着く。何というか、母性を感じた。
そして六人が落ち着くまでしばらく好きなようにさせると、それはもう凄いことになった。
皆俺にずっとくっついて離れない。
何かして欲しいことはないかと些細な事でも聞き、そして皆競うかのように行っていく。
実に騒々しい光景だが、何となく心が和んだ。
それと同時に思うのだ………日常に戻って来たと。
「みんな……本当にごめん。心配かけた……」
俺は感謝を込めて皆にそう言うと、皆は俺に笑顔を向けて再び抱きついてきた。
「何言ってるの、お兄ちゃん。そんなの当たり前だよ」
「当然です、一真様」
「かずくんはいつも心配ばかりかけて……でも仕方ないわよね」
「お兄様はそういう御人なのですから」
「一真、そんなみみっちいこと言うなよ」
「かずくん、そんな当然のことを言ってもねぇ~。だって~…」
そこで束さんが言葉を切ると、皆頬を染めつつ俺を見つめてきた。
「み~~~んな、かずくんが大好きなんだからさ。束さんは宇宙一、かずくんのことが大好きなのさ。勿論。LOVEだよ!」
「そうだよ、お兄ちゃん、だぁいすき!」
「一真様、お慕いしてます……」
「お兄様……好きですわ……」
「かずくんのこと、大好きだから」
「一真が好きだからに決まってんだろ!」
その告白を聞かされ、俺の顔が沸騰したように真っ赤になったのは言うまでもく、動けない俺を良いことに皆俺の頬にキスしていった。
改めて自覚することに何とも言えなくなる。本当に幸せ者なのだということと、同時に如何に自分が駄目な奴なのかと言うことを。
そして、妹が俺を見る目が明らかに兄妹を見る目ではないということに。
だが、それを含めても皆に心配をかけたなぁと改めて思い知らされ、本当に申し訳無い気持ちと嬉しさを感じながら、俺は六人の姿を見つめていた。
それから一週間が経ち、俺は未だ治りきっていない身体を引きずって武帝校に帰ることにした。
流石にIS学園にこれ以上留まっておくわけにはいかないから。
マドカ叔母さんと千冬伯母さんからは止められたが、杖を使ってとはいえ歩けるようになったのだから帰らないと。短期留学も終わったのだから長居はいけない。
既に葵さんと灯姉さんは先に帰ったようなのでこの場にはいない。
そして珍しく、夏耶達が見送りにこなかった。
一ヶ月とは言え世話になったし、何よりも慕ってくれた女の子に見送って貰えないというのは、少しばかり寂しく感じた。
まぁ、未だに答えを返せていない俺がそんなことを言う義理などないのだが。
そしてただ一人、ゲートの前に向かうと一人、誰か立っていた。
茶色い短髪をした男………凰 劉鳳がそこにはいた。
「よぉ」
「あぁ」
短い挨拶。だが、それで充分伝わる。
だからこそ、何も言わない。
俺は奴の脇を通ってそのまま学園から出て行く。
そんな俺の背中に、奴は言葉をかけてきた。
「まだ……決着はついてねぇからなぁ」
「分かってる」
たったそれだけ。
でもそれだけで分かる、再戦の約束。
その約束を胸に刻みつけて、俺はこの学園を出て行く。
きっと……その再戦は近いうちに実現するだろうから。
そして……武帝校に帰ってきた俺は驚愕のあまり、空いた口が塞がらなくなっていた。
丁度朝会を行っていたようなので、自分のクラスの所へと向かう。
周りの生徒から色々と声をかけられる。その内容は主にIS学園でテロリストを叩きのめしたことや、IS学園に行っていたことで妬まれたり羨ましがられたりしたことだったり。
まぁ、土産話を聞きたいというのは、誰だって分かるだろう。この学校のような娯楽が無い場所なら尚更。
久々に帰ってきた武帝校は、相変わらずの感じだった。
IS学園のハイテクぶりを見ると如何に古いのか嫌と言うほど思い知らされる。
だが、やはり此方の方が俺には性に合っているのだろう。帰ってきたという実感が湧いてくる。
そんな感慨に耽っていた俺だが、朝会で校長が話していた内容に度肝を抜かれることとなった。
『では、これからこの武帝校に短気留学をしに来て下さったIS学園の方々をご紹介しますね』
そう、俺がいない間に今度は武帝校へIS学園から短期留学生が来るという話になっていたらしい。
まぁ、此方がそうなのだから、向こうしても可笑しくは無いか。
だが、、その紹介を受けて壇上に上がってきた人達を見た俺は目を見開いた。
真っ白いIS学園の制服を着た三人の女生徒、そして仮装じみたワンピースに白衣を羽織り、機械的なウサミミを付けた女性がそこには立っていた。
そしてマイクを受け取った女性達は、俺の姿を見て声を上げた。
「あ、かずくんはっけ~~~~ん! うふふふ~、驚いた? 束さんが自ら来ちゃたよ~! だって~、愛しのかずくんに会いたかったんだも~ん!」
「お兄ちゃん、来たよ~! 私だって負けないんだからね! お兄ちゃんを一番大好きなのは私なんだから!」
「灯には負けたくねぇからなぁ。一真、来てやったぜ!」
「お兄様、一週間ぶりですわ! あぁ、どれほどお兄様に恋い焦がれていたことか……」
それを聞いた周りの生徒が一斉に俺の方を見てきた。
そしていつの間にか葵さんと灯姉さんが近くに来て、俺に凄い顔で迫ってきた。
「一真様、一体どういうことなのですか、これは!」
「かずくん、何なのこれ?」
だが、その質問に俺は応えることは出来ない。
そして聞き返す前に……………。
「「「「「「「「「「またお前かぁっ、かっずぅぅまぁあぁあっぁあぁあぁああああああああああああああぁああぁああぁ!!!!!!」」」」」」」」」」
周りの男子生徒が怒りの形相で一斉に襲いかかって来た。
それを見て笑う教員達。
夏耶達は俺目がけて飛びかかり、抱きついて来る始末。
それを咎める葵さんと灯姉さんを余所に、俺は皆から逃げるのに必死になる。
本当、帰ってきた気になるよ。それと同時に思う。
この六人はつくづく俺を振り回す。だが、それが嫌ではない俺が感じている気持ちはきっと、幸せなのだろう。
だが、幸せのわりにこうも災難に見舞われるというのも考え様だ。
「待ってよ、お兄ちゃん~!」
「お待ち下さい、一真様」
「かずくん、まって~!」
「お兄様、お待ち下さいませ!」
「待てよ一真!」
「かずくん、逃がさないよ~!」
どうやら俺の苦難はまだまだ続き、苦悩が絶えることはないらしい。