蜘蛛の糸を掴めたら   作:SHALC7

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 初投稿です。
 作者は執筆初心者であるため、不自然な箇所があるかもしれませんがご容赦ください。



※1/5 主人公の名前にルビを振りました。
※2/5 タイトル変更とあらすじを追加しました。


プロローグ

 まだ日も昇っていない東京都内にある廃ビル。 長い間人の手が入っていないようであり、廊下の窓ガラスは所々割れ、廊下に散らばっていた。

 男はビルの中を走っていた。 心臓ははち切れんばかりに鼓動し、脇腹や脚も酷く痛んだ。

 けれど、男は足を止めない。 止めれば死ぬ事が分かっていたからだ。

 

 

 男はとあるテロリスト集団の一員だった。 不死身とも言えるタフさと絶大なカリスマ性を持ったボスや仲間達と共に日本にやって来た。

 日本では、十年前の大規模なテロ事件、通称“電波塔事件”以来国内でテロは発生していない。 電波塔事件後には今年を含め世界治安ランキング一位を六年達成するなど、罪を犯すには厳しい国だった。

 なぜ、日本での仕事を引き受けたのかとボスに訊ねてみたが、彼の口癖であるバランスを取らないといけない、と言っただけだった。

 男はまだ組織に入ってから日が浅く、時々ボスが言っている意味が分からないことがあった。 だが、あの人がそう決めたから何か重大な理由があるのだろうと、そこまで深くは考えなかった。

 

 

 男は床のコンクリートがひび割れて出来た段差に躓いてしまった。 倒れた拍子に抱えていた“AKMS”を落としてしまった。 慌てて起き上がり、銃を拾い上げ近くにあった部屋に駆け込んだ。 

 ここはオフィスとして利用されていたようで、壁際には書類棚が並び複数の事務机があった。

 

 

「ちくしょう…… なんだあのガキは。 なんでこんな事に……」

 

 

 男は横向きに倒れていた机の裏に隠れ、頭を掻きむしりながらぼやいた。

 つい先ほど起こった出来事を振り返る。

 

 

 ▼

 

 

 男は仲間の三人とともにビルに物資を運び込むように命じられていた。 戦争を始めるには武器はもちろん食料や医療品なども必要となる。 他のメンバー達はボスと一緒に銃を武器商人から受け取りに行っている予定だ。

 搬入作業をあらかた終えて、仲間と談笑していた。 平和ボケしている日本でテロを起こすなど楽勝。 早く仕事を終わらせて故郷に帰り、生まれたばかりの赤ん坊に会いに行きたいなど呑気な内容だった。

 仲間の一人が小便に行くと言い出した。 

 彼が部屋の外に出た瞬間だった。 彼の頭部が消し飛び、首から血飛沫が上がったのを見た。 頭部を失った身体は糸の切れた人形のように崩れていった。

 直後、彼の死体を跨ぎながら一人の人物が部屋に入って来た。 赤色を基調としたどこかの学生服を着た背が低い少女だった。 顔立ちは中性的で黒紫色をした髪を持っていた。

 そして、奇妙なことに彼女の手には真っ黒な銃が握られていた。 銃口の先には血が付着しており、仲間を撃った事を物語っていた。

 あまりの突然の出来事に男を含む三人は呆然としてその場から動けなかった。

 少女は男達を一瞥すると、銃を構え発砲してきた。 サプレッサーの影響で消音された銃声は釘打ち機のような音だった。

 男の右に居た坊主頭の胸に大きな風穴が開き、声も出せないまま絶命した。 もう一人の長髪の仲間が怒声を上げながら、彼女に殴りかかった。

 長髪の攻撃を少女は身体を横にずらし躱した。 長髪の伸びきっている腕を掴み、反対の手で彼の肘を殴りつけた。 骨が折れる嫌な音が鳴り、彼の右腕が曲がってはいけない方向に曲がっていた。 そのまま彼の膝裏を蹴り付け、跪かせると側頭部を両手で持ち捻じりあげたのだった。 

 男は何かかの悪い夢かと思った。 

 男にとって殺された三人は、組織に入ってから面倒をよく見てくれていた兄貴分的な存在だった。三人とも戦闘経験は豊富であり、並大抵の相手には遅れを取ることはない。 それが目の前に居る十歳くらい年の離れた少女に殺されてしまった。 

 彼女の髪と同じ色をした生気を感じさせない瞳と目が合う。 彼女はゆらゆらと近づいてきた。

 男は恐怖に呑まれ部屋を飛び出し、逃げだすことしかできなかった。

 

 

 ▼

 

 

 男は机の陰から顔を覗かせ自分が入ってきた方を見る。 少女の姿はない。 

 再び机の影に隠れ、息をゆっくりと吐き呼吸を整える。 深呼吸を繰り返すと少しだが冷静さを取り戻せた。

 作業着のポケットからスマートフォンを取り出し、この状況を他の場所に居る味方に伝えるにした。 ロックを解除し通話アプリを開こうとした瞬間、後頭部に何か当たる感触がした。

 

 

「動くな」

 

 

 背後からの声に身をすくめる。 驚きのあまり持っていたスマートフォンを床に落としてしまう。

 

 

「マガジンを外して銃を捨てろ」

 

 

 男は指示に従い肩にぶら下げていたAKMSを外す。 ストラップを掴む手が小刻みに揺れた。 マガジンを外した銃を遠くに投げ、両手を頭の横に出す。

 

 

「両手を見える位置に出して立て。 そして、ゆっくりとこっちを向け」

 

 

 膝の震えを抑えながら立ち上がり、振り返ると先ほどの赤い学生服姿の少女が居た。

 

 

 

 ▼

 

 

 倉木紫莉(くらきゆかり)は作業着姿の男と対峙する。

 彼はサングラスで表情を隠していたが、明らかに動揺しているのがわかる。

 紫莉は前に構えている“レミントンM870”の引き金に指を掛けて、妙な動きを見せたら撃つ気でいた。 紫莉の持つレミントンM870は光の反射を防ぐためにマットブラックに塗装されており、機動性を重視するためストックは取り外されてグリップのみとなっていた。 銃口には長方形のサプレッサーが装着してある。

 

 

「いくつか質問をする。 別に答えたくなければそれでいいが、その時は分かっているよな?」

 

 

 紫莉が軽く脅しをかけると男は首を縦に小刻みに振る。

 

 

「ここで何をしていた」

「に、荷物の搬入をしていた」

「中身は?」

「食料や医療品とか服だ」

「銃器の類は無いのか」

 

 

 その問いに男は首を横に振った。 

 

 銃が無いだと。 一体どういうことだ。

 

 紫莉は眉根を寄せ訝し気な表情になる。 真偽はまだ分からないが男が嘘を言っているようにも見えない。 

 紫莉は質問を続けた。

 

 

「お前達の目的はなんだ」

「俺達は依頼を受けてこの国に来た。 俺は組織に入って日が浅いから詳しい事は何も知らない。 本当だ、信じてくれよ」

「動くなと言っているだろ! 次動いたらその空っぽの頭を拭きとばすぞ」

 

 

 紫莉は、手を合わせて許しを請いてくる男に再度警告をする。 今度も嘘は言っていないように見える。 これが演技なら彼はテロリストより俳優の方が向いている。

 

 

「最後の質問だ。 組織のリーダーの名前は、どんな容姿をしているかを細かく教えろ」

「そ、それは……」

 

 

 男はその質問に対し口をまごつかせる。 より一層落ち着きを無くし、しまいには俯き始めた。

 

 

「どうした、早く答えろ」

 

 

 紫莉が急かすと、男は覚悟を決めたような面持ちになった。

 

 

「……それだけは言えない。 俺にとってあの人は特別な存在だ、彼を売る事なんて出来ない」

 

 

 男ははっきりと言い切った。

 紫莉の男に対する嫌悪感が大きくなる。 

 たかが、人殺しの集団が一丁前に道理や忠義などを重んじている事に憐れみすら覚える。

 

 

「そうか。 言いたくないのなら仕方ない。 ──なら、話したくなるようにしてやるよ」

 

 

 紫莉は銃先を下げて引き金を引く。 12ゲージバックショット弾が男の足の甲を引き裂いた。 

 

 

「ぐああぁっ‼」

 

 

 男が撃たれた箇所を抑えてのたうち回る。 転がった拍子にサングラスも外れた。

 紫莉は悶絶する男の胸上を踏みつけ、動けなくする。 面を拝むとサングラスで隠れていた男の瞳には涙が浮かんでいた。 フォアグリップを引いて次弾を装填し、男の眼前に銃を突きつけた。

 

 

「もう一度だけ聞く。 お前らの目的はなんだ、リーダーの名前は、千丁の銃は何処にある!」

「やめてくれ! 本当に何も知らない、何も聞かされてないんだよ!」

 

 

 子供のように泣き叫び始めた男。 顔をくしゃくしゃに歪ませ、涙と鼻水を振りまく彼に憐れみを覚えた。

 これ以上は時間の無駄だ。

 紫莉は迷うこと無く、彼の顔面に狙いを定め引き金を落とすのだった。

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