数年前のあの日は、うんざりするような酷い天気だった。
空一面に広がる分厚い黒雲からは、バケツをひっくり返したような大粒の水滴が降り注ぎ、時おり白い稲光が唸るような音を鳴らし雲の上を走っていた。
千束はミカが運転する車の中で、頬を膨らませ不機嫌そうな面持ちで荒れた天気を眺めていた。
「……なんで、こんな大雨の中に外に……しかもこーんな遠くまで来なきゃいけないんですかねー? せっかくの休日が台無しですけどー」
「そう膨れるな千束。 楠木からの直々な依頼だ」
「でもさー先生、本部に行くだけならまだ分かるけど、養成所に用があるんでしょ? 私ファーストだし、これ以上訓練なんてする必要なくない?」
千束が恨めしそうな視線をミカにぶつけると、彼は小さくため息をこぼしていた。 まるで言うことをきかない娘に対して、どうして良いか分からない父親のようだった。 彼の横顔を見てこれ以上責めるのは止めた。
仕事である以上は仕方がない、と自分に言い聞かせて養成所に行く目的を訊ねることにした。
「で、私は何すれば良いの? もしかして、訓練生の前で紹介される感じ? ちょー絶可愛くて優秀なリコリスですー、みたいな」
「ふっ、そうだったなら私としても鼻が高くて良かったんだがな。 残念ながらハズレだ」
「えー、じゃあなんなのさー。 もったいぶらずに教えてよー」
「……私のカバンにある書類を見てみなさい」
ミカに促されるまま後部座席に置いてある手持ちカバンの中から、一枚の書類を取り出す。
「え、なんで模擬戦? これ、マジ?」
千束は色素の薄い金髪を揺らしながら首を傾げた。 事前に銃の点検を済ませるように言われてはいたが、まさか模擬戦を行うことになるは思いもしなかったからだ。
同時に様々な疑問が千束の脳内に浮かび上がってくる。 自分で言うのもなんではあるが、リコリスの中でも最高峰の階級を与えられている。 相手が同階級、百歩譲ったとしても現役で活動しているリコリスなら分かるが、まだ成長途中のひよっこ訓練生であることに驚きを隠せない。
何かの悪い冗談かと思ったが、ミカの表情からそれが真実であることは確かだ。 千束はその訓練生がどのような人物かが気になり始めた。
「どんな子? 私が呼ばれるってことは、訓練生の中ではずば抜けて優秀?」
「一言で言うならば、かなりの問題児だな…… 過去には訓練拒否や施設からの脱走未遂、職員や教官らへの暴言や暴力行為も報告されている」
「うひゃー、そりゃヤバいね……」
想像以上の問題行為の数々に苦々しい笑みが浮かぶ。 聞いた内容だけでもかなりやんちゃな子らしい。 千束もある意味自他共に認める問題児ではあるが、そこまでの域には達していない──はずだ。
ミカが頷きながら言葉を続ける。
「DAも随分手を焼いているそうだ。 だが、一番問題なのは最近の行動だ」
「なになに? まさか……ついに人質を取って部屋に立てこもりしたとか!?」
「いや──自ら命を絶とうとする回数が増えているらしい……」
「……それ、本当?」
「ああ、前からその兆候は見られたらしいが、ここ最近は特に酷いそうだ」
千束の胸内にモヤリとした感情が湧き上がる。 彼女自身も先天性心疾患に蝕まれ生死の淵をさまよった身でもあり、命の重さは誰よりも分かっている自負がある。
急に締め付けられるような感覚に襲われ痛み出す胸、新鮮な空気を取り込もうと必死に口を動かすが上手くいかずに募る焦燥感。 そして、意識が遠のいていく時に感じる死への絶望。 再び目を覚ました時には、まだ生きていると酷く安堵し、涙を流したこと。
誰しも一つしかない大切な命を、それを自らの手で絶ってしまうなど、あってはならない。千束はDAがその訓練生に無理強いをさせていると勝手に思い込み、語気を強めにDAを非難する。 ミカに「落ち着け」と諭されるが止まらない。
「絶っ対、上の方が圧力掛けてるよ、それ!」
「恐らくな。 しかも、一部のDA上層部は彼女を貴重な戦力として認めているらしい。 彼女を失うのは大きな損失であると」
「損失……って、相変わらずリコリスを物扱いするんですねー ──それが今回の模擬戦とどう繋がる訳?」
「……すまない、詳しいことは私も伝えられていない。 しかしな千束。 この仕事はお前にしか出来ないんだ。 お前にしかその子は救えない」
「私にしか……救えない……」
千束はとある人物の存在を思い出す。
『君には大きな使命がある。 それを果たしてくれ』
これは、病に苦しんでいた千束に新たな命を与えてくれた恩師、もとい“救世主”の一言だった。 心臓移植手術前後の記憶は霞がかっており、彼の造形などははっきりと思い出すことが出来なかった。 けれど、その言葉だけは鮮明に脳に焼き付いている。
大きな使命、というのが何を意味しているのかは、千束は分からなかった。 しかし、きっと彼はこういった意味合いを伝えたかったのだろう。
『世界には誰かの救いの手を待っている人がおり、そのような人々を救ってあげて欲しい』と。
それを実行するためにDAを飛び出し、ミカと共に喫茶リコリコを立ち上げた。 救世主から与えられた一丁の拳銃、ミカが千束専用に造ってくれた非殺傷弾を携え、DAの手が届かない小さな助けの声を拾い上げるために今まで過ごしてきた。
千束は首にぶら下げているフクロウのチャームを取り出す。 これも拳銃と共に救世主から貰ったものだ。 チャームを握りしめ訓練生のことについて考えてみた。
きっとその子は怖いんだ。 いきなりあんな所に連れてこられて、人殺しの訓練を無理やりさせられるなんて普通は怖いよね。 大丈夫、私が助けてあげる。
千束は全身からやる気が炎のようにメラメラ湧き上がる。 先ほどまでの年相応の不貞腐れた少女の顔つきから、使命感に溢れる救世主のものに変わっていた。
▼
程なくして養成所に到着した。 玄関前で待機していた職員に案内され、訓練場まで一人で向かった。 ミカは例の問題児と模擬戦前に面会をするらしく、途中で別れていた。
訓練場の一角に着いた千束は、対戦相手を待っているように言われた。 普段リコリス達が使うキルハウスとは違う場所だった。 千束が前にここに居た時も立ち入ったことはない。 しかも、普段からあまり使用されていないようで、少し埃っぽい。
周囲を見渡すと、部屋の形は広い長方形をしており、身を隠す遮蔽物などはない。 壁はコンクリートや鉄骨がむき出しになっており、狭い倉庫のような印象を受ける場所だった。
観戦スペースもなく、部屋の四隅上方に監視カメラとスピーカーが付いている程度で、リコリスなどの誰の姿も見受けられない。
相手が来るまで少し時間があったため、愛銃の最終点検を軽く済ます。 しばらくして反対側から一人の少女が現れた。 制服の色から察するに彼女が例の問題児であろう。
千束は相手に警戒心を与えないように、口角を上げ朗らかな笑みを浮かべて、少女に近づいた。 近くに寄ってみると、少女の背丈は小さく千束よりも年下であることが分かった。 長い髪で顔を隠し、俯いている少女に右手を差し出した。
「はじめまして! 私は錦木千束。 ねぇ、あなたのお名前はなんて言うの?」
「……」
「あ、あれ?」
千束が差し出した手を少女は握り返してこなかった。
少女は亡霊のようにゆっくりと顔を上げた。 握手の代わりに返ってきたのは、髪の間から覗く敵意に満ちた視線だった。 前髪によって彼女の全容ははっきり分からない。 しかし、彼女から発せられる禍々しい雰囲気により、千束の背筋にぞくりとした感覚が走った。
千束は手を引っ込めることも出来ずに困惑していると、少女は構うことなく背を向け、少し離れた位置で向き直ってきた。 突っ立っていると名を呼ばれた。 振り返ると、部屋の扉付近にミカがおり、彼は真剣な眼差しで静かに頷いた。
すぐにでも試合を開始して欲しいと、目で訴えているように感じた。 千束も気持ちを切り替え、真剣な面持ちになる。 千束の中で少女に対する印象は良くないものになってしまったが、ミカが請けた依頼だ。 きっと彼女のためなのだろう、と自分に言い聞かせた。
千束が所定の位置に着くと、スピーカーから女性の声が響いた。 聞き覚えのある声の主はミカの後任としてDA司令官の座に就いた楠木のものだった。 監視カメラを通してこの模擬戦を見ているのだろう。
彼女は形式的な規定内容を読み上げ始める。 千束にとっては、耳にタコが出来るほど聞いた規定であり退屈だった。
─なお、この模擬戦は極秘に行われているものとし、関係者は決して口外しないこと。
極秘、口外してはならない。 そのひと言が千束の心に引っかかった。 恐らくであるが、他の上層部の連中もこの模擬戦を観ているのであろう。 それほどまでにあの少女にリコリスとしての価値を見出しているのだろうか。
─以上だ。 双方、実戦だと思って臨むように。 それでは──はじめっ!!
開始の号令がなされるとともに、千束は駆け出した。 少女も同様に走り出すと、手にしている拳銃“グロック21”を千束の方に向け、発砲してきた。
千束がペイント弾をひらりとかわすと、少女は一瞬だけ戸惑う素振りを見せたが、足を止めることなく着実に距離を詰めてきた。
少女の攻撃に、千束は妙な違和感を抱いた。 単に彼女の射撃技術が良くないのかもしれないが、意図的に銃弾をばらまいているようにしか思えなかった。
少女はすぐに弾を撃ち切った。 すると驚きの行動に出る。 大きく腕を振り上げると、グロック21を投げつけてきたのだ。 命綱とも言える銃を自ら手放す行為に、千束は面をくらった。
「ちょ! 噓でしょ!?」
音速で飛んでくる弾丸の射線を見切れる千束にとって、ポリマー製の物体を避けることは造作もない。 だが、少女は千束の意識が逸れた一瞬の隙を突いてきた。 彼女は姿勢を低くし、千束の足元に滑り込んでこようとしてきたのだ。
千束は慌てて足を止め、その場に飛び上がった。 少女が下を滑り抜けていく。 もう少し遅かったら、足元を掬われていただろう。
しかし、少女は避けられるのが分かっていたかのように次の一手に移っていた。 彼女は滑りながら体を捻り、両手を地面に着く形で無理やり勢いを殺す。 地べたに這いつくばるような格好になると、千束の足が地に着いたタイミングで、猫のように体をしならせ強烈なタックルを繰り出した。
「くっ!!」
今度は避けることが出来なかった千束は、尻もちをつく形で転倒してしまう。 少女はニヤリと笑みを浮かべ、今にも飛び掛かろうとしていた。
流石に上に乗られてしまった場合では、体格差で勝る千束でも危うくなってしまう。 千束は、立ち上がるより先に相手との距離を空けることが優先であると判断し、座ったままの姿勢で銃を抱えるように構え、何度かトリガーを引く。
弾は少し逸れ、少女の顔の横を掠めていった。 少女は大きく舌打ちをすると、横に飛び退き床を転がるように移動する。
千束はすぐさま立ち上がり、残り数発になったマガジンを捨て新しいものを装填する。 続けざまに数発撃ち込むが、少女は小刻みに動き回っていたため、上手く狙いが定められない。
すばしっこいなぁ、もう! じっとしててよ!
千束がそう思っても、相手が止まってくれるはずもない。 外れたペイント弾が床に当たり、粘着質な音を立てて、灰色の床を水色に変えていく。 千束は弾を撃ち切る直前に、次のマガジンを取り出そうと、背負っているバックに手を伸ばした。 その時、ビュッと風切り音が聞こえた。
その音とほぼ同時に鋭いハイキックが千束の鼻先を通り過ぎていく。 少女の蹴りは稲妻のように速く、千束はひるむ間もなく体勢を崩してしまった。
腕をつかまれた。 次の瞬間、少女は千束の胸元に手をかけ、軽やかに跳ねる。 彼女の脚が千束の腕にすばやく巻きつき、体をひねって逆さまの姿勢になる。 この動きで、彼女は空中で千束の体を囲むように制圧し、地に引きずり下ろそうとした。
腕にかかってくる重さに千束は膝を着く。 関節がギシギシと悲鳴を上げ、伝わってくる激痛に千束はたまらず顔を歪める。 だが、少女は技を緩める気はないようだ。 獲物を捕らえた蜘蛛のように、じわじわと千束を追い詰めようとしてくる。
「こん、のぉ…… これでも、くらえ!」
このままでは本当に腕を壊される。 そう思った千束は歯を食いしばり、持っている銃を落とさないように強く握り締める。 手首を少し動かし、なるべく少女の耳元へ銃を近づけたところで、指に力を入れ引き金を引いた。
「──ぐぁっ!」
少女は苦悶の声を出す。 銃声を間近で聞かされ、その衝撃で少女の拘束が緩んだ隙に千束は、するりと抜け出すことに成功した。 彼女がひるんでいる間に、距離を取っておく。
千束は右肩を軽く回して腕の状態を確認した。 少しだけ痛みを感じたが深刻ではなかった。 少女を見ると、彼女は頭の横を抑えてフラフラしていたが、気色ばんだ表情で千束を睨みつけている。
千束は感心するとともに、DAが彼女を手放したくない理由が少しだけ分かった気がした。 彼女の戦闘技術の高さと、相手に臆することない度胸は確かに非凡だ。 正式な修練を積めば、優秀なリコリスになるだろう。
「やるね、君! こんな風に戦う子は初めてだよ」
「……馬鹿にしてるのか?」
「いやいやいや、馬鹿になんてしてないよ!?」
「ふん」
千束は素直な称賛を少女に送った。 だが、彼女は喜ぶ様子は見せず、むしろ不快そうに鼻を鳴らした。
「ねえ、君が勝ったら何かあるの? 私、何も知らされてないんだよねー」
「どうしてそんな事を聞く必要がある」
「そりゃあ、いきなりこんな所に連れて来られて模擬戦しろ、って言われても、納得いかないでしょ。 知ってるなら教えて欲しいな」
「アンタにどんなメリットがあるのは、俺も知らないし関係ない。 重要なのはアンタをぶちのめすことだけだ」
「ほほぉーおっかないねー でもさ、他に方法があるんじゃない? 話し合いとかさ」
少女は「他だと……?」と意味が分からないといったように首を傾げた。 千束はリロードをしながら続ける。
「私は君を助けに来た。 だからさ、戦う前に君の事を聞かせて欲しいんだけど」
「助けに来ただと…… ふざけているのか?」
「先生から聞いたよ、君が死のうとしてるって」
「……アンタには関係ないことだろ」
「あるよ」
千束がはっきりと言い切ると、少女は動揺の色を見せ始めた。
「命は簡単に扱う物じゃない。 それを粗末にするなんてもってのほか」
「……黙れ」
「何か悩みがあるなら話してみて。 私が助けになるから」
「黙れ! 会ったばかりのお前に何が分かるって言うんだ!!」
唾を飛ばしながら感情的に叫ぶ少女の姿に胸が痛くなった。 これ以上の話し合いは無理だ。 ひとまずはこの馬鹿げた模擬戦を終わらせ彼女を落ち着かせなければ。 息を深く吸い込みゆっくりと吐き出す。 そしてガーネットような瞳を鋭く尖らせ、相手を見据えた。
すると、少女は先ほどまでの態度を崩し、顔を強張らせ始めた。 プレッシャーに気圧されたのか、少しだけ後ろに下がった。
その隙を見逃さず千束は風のように駆け出し、一気に少女の懐に入り込む。 彼女の目には千束が瞬間移動したように映っただろう、目を見開いていた。 少女が後ろに逃げようとする前に背中に手を回し阻止する。
「あちょぉー!」
「がっ……!!」
千束は右足を振り上げ、がら空きになった少女のみぞおちに力強く膝蹴りを叩きこんだ。 少女の体が空中に持ち上がり、くぐもった声を漏らした。 千束は容赦なく次の行動に移り、少女の背中に銃先を押し付け、二度トリガーを引いた。
連続する銃声が部屋に響き渡り、少女の背中が次第に水色に染まる。 最後の一発が彼女を床に沈めた。
─そこまで! 発砲を停止しろ!
楠木の声が聞こえ、同時に終了を意味するブザーが鳴った。 千束は天井を見上げながら、ほっと息をついた。 ここまで模擬戦で手を焼いたのは、春川フキを相手して以来だった。
「うぅ……」
千束は少女の苦しそうな声を聞いた時、我に返った。 彼女は腹を抱えてうずくまったまま、起き上がってくる気配はなかった。 いささか強めに蹴りすぎてしまった。
慌てて介抱しようとするが、それより先にストレッチャーを押す二人の職員が現れた。 少女がストレッチャーに乗せられている様子見ていると、彼女と再び目が合った。 少女の瞳には戦いの最中にあった、ぎらついた眼光は消え失せ、代わりにあったのは抜け殻を彷彿させる空虚なものだった。 千束の心中には、彼女の大切な何かを奪ってしまったような罪悪感が芽生え、それが重くのしかかった。
「ひ、ひいぃぃ──!」
「おい、どうした!」
しばらく見つめ合っていると突如、少女の方が怯えだした。 職員の呼びかけにも応じることなく、彼女はストレッチャーから転がり落ち、必死に地面を這いつくばって逃げようとしていた。 しかし、まだ体は思うように動かず、腕をバタつかせるだけでほとんど前に進めていなかった。
一体どうしたのだろう。 職員達が暴れる少女を抑えようとする中、千束も駆け寄ろうとするが、いつ間にか背後にいたミカに止められた。
「帰るぞ千束」
「でも、あの子が!」
「彼女のことは、ここの者達に任せておけばいい。 さあ、行こう」
「でも!」
「千束」
彼の声が低く響き、言葉を遮る。 彼の大きくゴツゴツとした手が、無言の千束の頭に乗せられた。 その動きはゆっくりで、しかし決定的な重みを帯びていた。 彼から発せられるオーラは千束にこれ以上何も言う余地を与えさせなかった。 後ろ髪を引かれる思いのまま、彼に手を引かれ訓練場を後にした。
▼
車に乗り帰路に着いた後も二人の間に会話は無かった。 雨は行く前よりは少し弱まってはいたが、止むような気配は見られない。 ラジオの音声と雨が車体を叩く音だけが存在していた。 ついに無言に耐えられなくなった千束は、ぽつりと口を開いた。
「……ねぇ、先生」
「……何だ?」
「あの子、全然死ぬような感じじゃなかった。 むしろもっと生きたいって思ってるよ、絶対」
「……そうだな」
「結局、名前も聞けなかったし……」
千束がもの寂しそうに不満を漏らすと、ミカは険しい表情で口をまごつかせていたが、やがて諦めたように少女の名前を教えてくれる。
「紫莉だ。 倉木紫莉。 それが、彼女の名前だ」
「ゆかり…… うん、教えてくれてありがと、先生……!」
千束は少女の名前を心に深く刻んだ。 リコリスである以上、二度と会うことはないかもしれない。 けれど、もし再び巡り合うことが出来たら、次こそは拳を交えるのではなく歩み合うことを誓うのだった。