蜘蛛の糸を掴めたら   作:SHALC7

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三話後編になります。
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三話 後編

 紫莉との出会いを思い出していた千束はふと腕時計をみやる。 時計の針は正午ちょうどを指していた。 棚に置いてある小型テレビからは、見慣れたワイドショーが流れている。

 

 もうお昼の時間かぁ

 

 千束は大きく背伸びをしながら店内を見回す。 

 平日のリコリコ店内はいつも通り閑散としており、従業員の面々は空いた時間を利用して暇を潰している。

 仕事熱心なミカは新しいメニューの開発に勤しんでいるが、そんな彼とは対照的にミズキは営業時間にも関わらず酒瓶片手に酒盛りをしている。 彼女の前には付箋が大量に貼られた結婚情報誌が開かれた状態で置かれている。

 この光景はここではいつものことだ。 リコリコでは他のカフェと違って、食事を提供していない。 正確に言えば、団子セットなどの甘味系は数種類メニューには取り入れているが、充分に腹を満たすような料理は取り扱っていない。 なので、ちょうど今のような昼飯時には人の入りがないのがほとんどだった。

 千束としては、リコリコをどの時間帯であっても人の足が絶えることのない、人気店にしたいのが密かな野望であった。 しかし外様扱いこそされているが、DAという超法規的組織の一部であることを踏まえて、必要以上に目立つのは避けるべき、というのが管理者のミカの方針であった。

 ミカに頼み込んで店の宣伝用にSNSアカウントも作らせてもらったが、それも新規客を獲得するためよりも常連客に向けて発信するものになっていた。 

 けれど、千束に不満はない。 開店当初から長い時間を共に過ごしてきたミカとミズキ、店を愛してくれる多くの常連客達。 皆が笑ってくれて、心休まる場所になってくれることが何よりも重要だ。

 そんなリコリコにも新たな仲間が二人加わった。 一人目は井ノ上たきな。クールビューティという言葉が似合うセカンド・リコイルだ。 彼女も手持ち無沙汰なのか、千束の横でお盆を手に突っ立っている。

 そしてもう一人の新人──倉木紫莉だが彼女はこの場には居なかった。 初出勤の時に体調不良を理由に早退し、現在は自宅療養中だからだ。 正直なところ彼女については、頭を悩ませている。

 あの模擬戦以降、彼女とは一切の関わりが持てなかった。 本部へ健康診断をしに行った時などには、さりげなく彼女を探してみたりもしたが姿すら見当たらなかった。 フキならば彼女の現在を知っているのではないかと、訊ねたこともあった。 だが、フキから返ってきた答えは「あいつのことはそっとしておいてやれ」と冷たいものだった。 その態度が発端でいつもの口喧嘩に発展したが、それは忘れることにした。 

 うーん、と千束が今後について悩んでいると、カランカラン、と、入口のカウベルが来客を知らせた。 

 千束は即座に気持ちを切り替え席を立ち「いらっしゃいませ!」と元気良く笑顔で来客を迎えた。 だが次の瞬間表情を凍りつかせた。

 

 

「ゆ、紫莉……?」

 

 

 入店してきたのが常連客でも新規の客でもなく、紫莉だったからだ。 実に二週間ぶりの対面だ。

 千束はすぐにミカの方を振り向くが、彼も同様の反応を示していたため、紫莉が出勤してくることは知らなかったようだ。 

 紫莉は店に入るなり気まずそうな面持ちで全員を一瞥(いちべつ)すると、急に深々と頭を下げ始める。

 

 

「皆さん、お疲れ様です。 そして、先日はご迷惑とお掛けしました」

 

 

 店に入るなり流れるように謝罪してくる紫莉に、リコリコ一同は騒然とする。 普段から表情をあまり変えないたきなでさえ、突然豆鉄砲をくらったみたいになっていた。

 我に返った千束はなるべく平静を装って、紫莉に問いかける。

 

 

「紫莉、本当に大丈夫……? まだ、その、あんまり良くは見えないけど……」

「大丈夫です。 二週間も休みを頂いたので、気分もすっかり良くなりました」

 

 

 嘘だ。 紫莉の疲れを隠し切れないぎこちない笑顔を見て、千束はそう思った。 薄く化粧を施してはいるが、彼女は普段から化粧というものをしないのだろう、少し不自然な仕上がりだった。 

 

 

「……もう数日休んでも良いんだぞ」

「いえ、皆さんが働いているのに自分だけ休むなんて出来ません」

「しかしな……」

 

 

 見かねたミカがそう申し出たのをきっかけに、ミズキやたきなまでもが口を揃えて休むべきだと声を挙げる。 だが彼女は頑なに首を縦に振ろうとはしない。

 体調管理が出来ていなかった自分のミス、家でじっとしてると逆に気が滅入るなど、まるでワーカホリックのような言動を繰り返し、皆の善意を受け入れようとはしなかった。

 しばらく話は平行線のまま進まなかったが、やがてミカが折れ彼女の復帰を認めた。 千束は思わず彼に抗議しそうになったが、それより先に「ただし――」と彼が付け加える。

 復帰を認める代わりに当面は食器洗いや調理補助などの裏方作業を主な業務とする――という条件を紫莉に提示した。

 この条件に彼女は渋い顔を作っていた。 彼女は外回り──いわゆるDA関係の仕事を希望していたがそれはミカが断固として許可しなかった。 

 紫莉はその後もミカに食い下がっていたが、彼は優しく説き伏せるように彼女を説得し続け、最終的にその条件をのみ込ませた。 

 千束は内心胸を撫でおろしながら、さすが先生、とミカを褒めたたえるのだった。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 時間は過ぎていき、やがて閉店時間を迎えた。

 千束はあの後すぐに紫莉の指導係に立候補しようとしたが、組事務所への豆の配達や保育園へのヘルプ等の予定が入っており、ミカとミズキに任せることになってしまった。 たきなと共に外仕事をこなす中、また彼女が倒れてしまうのではないかと、はらはらした心持ちだったが幸いなことに店からのそのような連絡はこなかった。

 店に帰って来た千束は、カウンター席に腰を降ろしひと息をついた。 

 今日は常連客とのボードゲーム大会も開かれないので、千束はまっすぐ家に帰ることしていた。 帰り支度をしようと考えていると、ゴミ袋を手に提げ外に出ていく紫莉の姿が目に入った。

 彼女は両手に持てる分のゴミ袋を一度に持っていこうとしていた。 量が多いためにフラフラとしており危なっかしい。 見ていられなかった千束は彼女を呼び止めた。

 すると紫莉は一瞬だけビクっと体を震わし、恐る恐る振り向いてきた。

 

 

「……なんでしょうか?」

「あーえっと…… 私も手伝うよ」

「問題ありません。 一人で運べます」

「いいから」

 

 

 遠慮する紫莉の手からゴミ袋を奪い取る。 彼女は何か言いたげに口を動かそうとしていたが、先にゴミ捨て場に向かう千束の後を黙ってついてきた。

 すぐ近くにある集積所にゴミを捨て、店の前まで戻った時、紫莉は「すみません、ありがとうございます」と礼を言ってきた。 

 

 

「良いってことよー でも無理は禁物だぞ? 私達は体が資本なんだから」

「……そうですね。 体調管理は気を付けます」

 

 

 千束は自身の胸に手を当てからからと笑ってみせたが、紫莉は申し訳なさそうに目を伏せた。 別に倒れたことを咎めるつもりもなかったが、彼女にはそう受け止められてしまった。

 千束は咳払いをして話題を変えることにした。 

 他にまだ何か手伝うことがあるのか、と訊くが彼女は首を横に振った。 そうなれば今日の業務は全て終了したはずだ。 ならば、ちょうど良いと千束はたった今思いついたことを伝える。

 

 

「ねえ、少し話せない?」

「……何か不備があったのでしょうか?」

「いやいやいや、そうゆうことじゃなくて、ただお喋りしたいの。 イッツアガールズトーク、オーケー?」

「ガールズトーク……?」

 

 

 紫莉は意図が掴めないといったように、眉をひそめながら首を傾げる。 その表情からは、明らかにこちらを警戒しているのだとうかがえた。 千束はそんな紫莉の様子を見て、彼女のことを少しでも理解したい気持ちが強くなる。

 精神科医でも無い千束でも分かるほど、紫莉の精神状態はかなり不安定だ。 対面した時の何かに怯える様子や初出勤の時の青ざめた顔が脳裏にちらつく。

 リコリスである故に、危険な環境に晒されるのは仕方のないことかもしれない。 だが、彼女の反応は異常な域まで達している。 そのような状態の彼女を放っておくなど千束には出来なかった。

 何が好きで何が嫌いなど、些細なことでも良い。 少しでも彼女のことを知れたら、そこから彼女が持つ悩みを引き出して、解決の糸口を見つけることができるかもしれない。

 あの時出来なかったことを、彼女の力になりたいのだ。

 紫莉は悩まし気に考え込んでいた。 千束が辛抱強く待っていると、やがて紫莉は諦めたように頷いた。

 

 

「……少しだけなら」

「ほんと!? じゃあ決まり! そうと決まったら準備してくるね」

 

 

 断られると思っていたが、彼女の返事はまさかのOKだった。

 千束は嬉しさを隠すことなく、軽やかな足取りで店内に戻る。 キッチンにいたミカに紫莉とお茶をしてから帰ると伝えると、彼は菓子が冷蔵庫にあると教えてくれた。 

 もしかしたら紫莉との会話を聞いていたのかもしれない。 細かい所にまで気が回るミカに感謝の言葉を伝え、千束はいそいそとコーヒーの準備を進める。 

 その時たきなも誘ってみたが、こちらは用があると言われ、断られてしまった。 本当はたきなも交え、三人で話した方が今後のためになるが、用事があるのでは仕方がない。

 たきなを見送った後、大人二人も先に帰るようで戸締りや電気を消しておくように言われた。 その際に「あの子を頼むぞ」とミカから任されたので、親指を立てて返事しておいた。

 後はコーヒーを注ぐだけになった時、紫莉が現れた。 いつの間にか着替えていたようで、ベージュの制服姿だった。 彼女は手伝うと申し出てくれたが、すぐに終わるから先に座敷に向かっておいてくれとやんわり断った。 

 慣れた手つきでコーヒーを注ぎ、冷蔵庫から取り出したミカ特製の練り羊羹(ようかん)をお盆に乗せると、千束も座敷に向かう。 

 

 

「千束さん特製スペシャルブレンドお待たせしました~ 砂糖とミルクいる?」

「お気遣いなく」

「ん、りょーかい。 ねねね、紫莉って何か好きなものある?」

「突然ですね…… 好きなものとは?」

 

 

 紫莉はまだこの女子会に何か裏があると疑っているのか、はたまた本当に千束の質問の意味が分かってないのか、警戒心を隠すことなく訊ねてきた。 そんな彼女に千束の心はちくりと痛むが、表には決して出さないようにする。 

 

 

「趣味だよ、しゅーみっ! ……まあ、リコリスだから普通の女の子とはちょっと違うだろうけど。 ちなみに私は映画を観ることが大好きです! ついこないだも映画館行ってさー、あ、その映画っていうのが前作から三十年ぶりのもので──」

「……それって、戦闘機のやつですか?」

「え!? 紫莉、知ってるの!?」

「え、ええ…… 前作は観たことはあります。 内容も前の世界と一緒だったし……」

「そうなんだ! 前作も最っ高に良い作品だよね! 特にあの時シーンなんて──ん?前の世界?」

「あっ! い、いや気にしないでください…… こっちの話です……」

 

 

 千束は、紫莉の妙なひと言が引っかかったが追及はしなかった。 それよりも彼女が映画を観る人という事実に胸が躍っていた。 

 この話題をきっかけに二人の間に少しずつ会話が増えていく。 紫莉は千束のように特別映画に詳しいわけではなかったが、知っている作品には相槌を打ってくれたり、千束が大げさにある映画の名セリフを物真似をすると、クスっと笑みを浮かべていた。 

 

 良かった、ちゃんと笑えるじゃん。

 

 今までにない紫莉の反応に千束の気持ちは軽くなった。 千束が興奮のあまりずいっと身を乗り出してしまい、彼女に引かれてしまう場面もあったが、お茶会は順調に進んでいく。

 

 

「いやぁーまさか同じリコリスで、映画の話が出来るなんて夢にも思わなかったよ。 おぬしやるな」

「錦木さんには負けますよ。 名作ならともかくZ 級映画もしっかり観てる人は中々いませんよ」

「そう! 予告とかパッケージとか見ててさ、うわぁーこれ絶対ヤバいやつじゃん……って思っても、ついつい手が伸びちゃうんだよねぇ。 怖いもの見たさっていうか」

「まあ気持ちは分からなくもないです。 意外とそういう作品にもファンがいますもんね。 鮫が竜巻と一緒に飛んでくるやつとか」

「あーあれねー。 私も全部観てるけどまだマシな方。 中には本当に酷いやつもあるけど…… 博士に騙されて一生脱げないスーツ着せられるやつ。 あれは流石に酷すぎたわー」

「本物の映画好きですね。 あれは観る気すら起きませんでした」

「おうよ! 映画好きとして歩んできたこの人生……映画無しの生活なんて考えられませんっ!」

 

 

 この言葉に嘘偽りはない。

 大迫力を演出するためのスクリーンや音響設備。 企業や新作映画の広告。 それらが流れている間に味わう塩味やキャラメル味のポップコーンの食感。 そして本編が始まり照明が落とされるあの瞬間。 その他にも好きな理由を挙げればキリが無いが、確実に言えることは、あの劇場内に広がる非日常感が千束は大好きだ。

 

 

「そうだ! 今週末に公開の面白そうな映画があるんだけど、次の休みに紫莉も一緒に行こうよ。 たきなも誘ってさ!」

「え……」

 

 

 千束はまるで名案を思い付いたように顔を輝かせ、両手を合わせる。 前から気になっていた映画を観に行こうと紫莉を誘ってみる。 しかし、紫莉の反応は消極的だった。 彼女は迷うように視線を逸らすと歯切れ悪く答える。

 

 

「……すみません、それは遠慮しておきます」

「あれ、もしかして予定入ってた感じ? ならさ、お店の営業が終わった後にでも──」

「そういうわけではありません。 ただ……今の自分にそんな資格はありません」

「……どういう意味?」

「自分は、前回の任務で失態を犯しました。 楠木司令――もといDAの期待にそぐえなかった。 信用を取り戻すためにも一日でも休んでいる暇はありません。 ……まあ、昨日まで休んでましたが」

 

 

 千束は目の前の少女をとても不憫に思った。 一度倒れたというのに、再び身体に鞭を打って立ち上がろうとする彼女のメンタルの強さに舌を巻く。 どうやら彼女もたきなと同様にDA復帰を目指しているようだ。 しかし、たきなとは異なる気概が感じ取れた。 

 それが何かと訊かれても上手く表現出来ないが、紫莉が元とはいえファーストまで上り詰めた人物だからなのではないか、と千束は推測した。 この階級に認められるためには、DAからの相応の信用がなければならない。 彼女は汚名返上に焦っているのだろう。

 昼間のやり取りから、彼女が良くない傾向に向かっているのが明らかだ。多くの人に共通するが、ミスを慌てて修正しようとすると、しばしば事態は悪化する。ミスがさらなるミスを呼び、底なし沼にはまるように問題が深まっていく。このような状況は、取り返しのつかない事態に発展することもよくある話だ。

 物事には順序がある。 今の彼女に必要なのは十分な休息と心のケアだ。 千束は説得を試みることにする。

 

 

「まあまあ、そう言わずにさー。 根を詰めすぎても良くないよ?」

「別に無理などはしていません。 前の環境に比べたら、ここは天国のように感じます。 だからこそ、今まで以上に行動して成果を出さないといけません」

「紫莉のその責任感はすごく大事だと思うよ? でも、焦っても良いことなんてないんだから、今は身と心を少しでも休めるべきだよ。 私も紫莉のDA復帰手伝うからさ」

「ですから……!」

「うちのお客さんで作家の人が居るんだけどさ、その人も締め切りがヤバいからって──」

「──俺はその作家の人じゃない! 一緒にするな!!」

 

 

 しまった、と千束が思った時にはもう遅かった。

 紫莉は両手で机を強く叩き声を荒げながら立ち上がる。 顔を真っ赤にしてあの時のように鋭く睨みつけてきたが、すぐにハッとした表情になるとバツが悪そうに顔を横に向けた。

 紫莉は消え入りそうな小声で「……すいません、もう帰ります」と言い、コーヒーを一気に飲み干すと、そのまま食器を片づけ始める。 流石の千束も声を掛けづらく、黙って見ているしかなかった。

 そのまま紫莉は、カウンターに置いていたバックを乱雑に掴むと、足早に店を出ようする。 するとなぜか扉の前で動きを止めた。

 どうしたのか、と千束が首を傾げると、紫莉は振り返ることなく急に話し始めた。

 

 

「自分の人生が映画だったら良かった」

「……?」

「ヒーローみたいに特別な力だったり、どんな困難や理不尽な目に合っても弱音を吐かないくらいの不屈の精神を持っていたら。 それこそボタンひとつで過去に巻き戻れたら……なんてくだらないことばかり考えることがある」

 

 

 紫莉は抑揚のない淡々とした口調で続ける。

 

 

「けど俺には特別な才能なんてないし、この世界もそんな都合良く出来てない。 辛くて嫌なことばっかりで、やりたくないことをやらなければ生きることすら出来ない。 感情を押し殺さないと、頭がおかしくなりそうだ――いやもう手遅れか、ははっ」

「っ! そんな悲しいこと、言わないでよっ……!」

「それが俺の人生なんだ。 今までもクソだったし、これからも明るい未来なんて絶対来ないと思う。 きっとろくでもない死に方もするだろうな。 でもこんな平和ボケしたところじゃそんな機会すら訪れない」

 

 

 千束は全身に冷や水を浴びせられたような錯覚を感じた。 紫莉と初めて出会って時から彼女は何も変わっていなかった。 今も希死念慮を心に抱えており、死に場所を求めるためにDAに戻ろうとしている。

 彼女を止めなければならない。 しかし下手にこっちから歩み寄れば向こうは遠のいていってしまうだろう。 思考を激しく巡らせるが、ちっとも良い案が浮かび上がらずにいた。

 

 

「錦木さん、あんた昔俺を助けるって言ったよな」

「……うん。 今もそう思ってる」

「なら、俺の邪魔をしないでくれ。 俺は誰の手助けも要らない。 今までそうやって生きてきたんだ。 ──これからもずっと」

 

 

 紫莉は扉を開けて出て行ってしまった。 千束は彼女の後を追いかけたい衝動に駆られるが、足が思うように動かなかった。

 一人になってしまった千束は、腰を下ろし寂しげな表情で、湯気が立たなくなったコーヒーを見つめる。 半分ほど食べていた羊羹を口に詰め、ぬるくなったコーヒーで流し込んだ。

 

 

「……苦いなぁ」

 

 

 ミルクと砂糖を入れているはずのコーヒーだったが、今日だけはひときわ苦く感じられた。

 

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