怪力の肉食動物   作:もこきち

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筆が進まない……


一次選考

 無情にも鳴り響くブザー音でその場の全員が動きを止めた。

 

 地獄の時間が終わったことに安堵するものや、自分が生き残れたことに歓喜の声をあげるものなど反応は様々だったが、その全員がぶつけられた人間を視界の端に捉え続けた。どのような処分が下るのかを見て自分への戒めにするためだ。

 

 自分の未来が閉ざされたことをようやく自覚したボール保持者に、このオニごっこを見ていた絵心は感情を一片も乗せず、事務的に判決を下す。

 

『敗れたものは今すぐに出ていけ』

 

 当てられた者はしばらく騒ぎ続けていたが、絵心のこの部屋の仕組みや136秒の理由を聞いて静かになる。しかし、俺が途中でボールを奪ったことを思い出したのか、再び騒ぎ始める。

 

『お前が最後まで全力で戦わなかったのがすべてだ。試合終了のブザーが鳴る前に諦めるような人間に、ストライカーとしての資質はない』

 

 絵心の言葉を最後に、敗退者は俺に恨みの視線を向けながら無言で去っていった。

 

 

 姿が見えなくなると同時に、一番最初にボール保持者となったバンダナくんがなぜ彼からボールを奪ったか問いかける。

 

「あのときなんで彼からボールを奪ったんだべ? 奪わなければあんな怖い視線を浴びずにすんだのに……」

 

「いやぁ、性分というか。面白そうなことがあるとついつい飛び込んじゃうんだよ。昔はこんなこと考えられなかったけどね」

 

「昔は?」

 

「そうそう。面倒だから説明は省くけど、楽しそうなことにはなるべく関わるようにしているんだ。面白いからってのもあるけど、自分を変えるためにはこれが一番効果的だったんだ」

 

「そうだったんか。でもあの志熊くんをあそこまで追い込んだのはすごいっぺ! 俺にもこんどレクチャーしてくれ!」

 

「もちろんいいよ。君との練習はいい糧になってくれそうだ」

 

 俺とバンダナくんの話が一段落つくと、絵心が生き残った全員に向けて賞賛を送る。

 

『おめでとう。お前たちは青い監獄(ブルーロック)入寮テスト合格だ』

 

 合格できたことに喜ぶチームW。だがお祝いムードも束の間、すぐさま絵心にこれからの予定を聞かされ、休んでいる暇はないことを思い知る。

 

『部屋にいる11人は、これから生活を共にする運命共同体(イレブン)だ。時に協力し、時に裏切り夢を削りあう仲間(ライバル)であるお前たちは、これから体力テストを受けてもらう』

 

「え? テスト? もう終わったんじゃないのか!」

 

『このテストに合否はない。ただ己の力量を確かめるためのものだ。ここで篩に掛けるつもりはないが、順位の変動はあるから心してかかるように』

 

 全員が負けられないといった野心溢れる気持ちでトレーニングルームに移動した。

 

 

 

 ──3日後

 

 あれからずっと体力テストを続けている。

 

 中でもやはり志熊くんは体力テストでも抜群の成績を残している。鹿児島の巨神兵という異名はだてじゃないらしく、入寮テストと同じ2番目をキープしている。彼は俺に少し敵意があるようでなにかと俺と張り合ってくる。

 

 ただ呼びかけにはちゃんと答えてくれのであまり問題視はしていない。

 

 最初に目をかけたバンダナくん(七星くん)は体力テストをなんとかこなせていたみたいだったが、後で練習したら割と飲み込みも早いし、パスも上手だったから彼をこのチームの心臓(パサー)にするのも悪くないと思った。

 

 志熊くんとも練習したが、彼よりパスはうまいし周りに合わせられる献身性も持ち合わせている。でも、シュートやドリブルは下手だから前線で活躍してもらう機会は薄いかな。

 

 

 3日目の体力テストが終わり、就寝タイムに入ろうとする前にアナウンスが鳴る。

 

 『3日間にわたる体力テストの集計が終わりました。速やかに最新ランキングを確認せよ』

 

 服に縫い付けられていた順位が変動した。Wチーム内のランキングは変わってないが、夢が近づいてきている実感が湧いているのか、喜んでいる人は多い。

 

 七星くんも最下位だが全体の順位があがったことに興奮している。志熊くんは目の上のたんこぶである俺を相変わらず睨みつけているが、なんだかんだ俺の実力は認めてくれたのか、前よりもその形相は穏やかだ。

 

 

『やあやあお疲れ、才能の原石共よ。青い監獄(ブルーロック)の最新ランキングは確認しましたか?』

 

 モニターに絵心甚八が映る。あれだけランキングが上がって喜んでいたのに、彼の姿が現れた瞬間、今までの不満が溢れ出す。

 

「こんな環境で楽しめるか! 本当にこんなんでサッカーうまくなんのかよ!」

「ごはんもしょぼいし、もっとちゃんとしたご飯食べたいよー」

「早く試合したいよ」

 

『黙れ。環境がクソなのはお前らがサッカーが下手くそだから当然だバーカ』

 

「……あ?」

 

『……ただまぁ、このままじゃお前らのモチベーションも上がらないだろうし少し青い監獄(ブルーロック)の仕組みについて教えてやろう』

 

 ずっと知りたかった仕組みがやっと知れることで、全員が静かに絵心の言葉を待った。

 

『この施設は5つの棟で構成されていて、[B]~[Z]の全25チームが5チームずつに分かれてそれぞれ同じ棟で生活しています』

 

「……じゃ、じゃあ俺たちが今いる棟って最下位の伍号棟……ってコト!?」

 

『そうだ。ちなみに”オニごっこ”で各部屋ずつが既に脱落していて、現在青い監獄(ブルーロック)の残り人数は275人。つまり、お前たちは順位は上がったが誰にも勝っていないということだ』

 

「まじかよ……。志熊や時光でさえこんな順位なのかよ」

「1位のやつとかもはや人間じゃないだろ」

 

 ざわつくチームWに向かって、注目を集めるよう声を張る。

 

『ここでは仕事(サッカー)ができるやつが王様だ。良い生活がしたけりゃ勝ってのしあがれ! それではこれより青い監獄(ブルーロック)一次選考(セレクション)を始めます』

 

 

 

 

 ■□■

 

 

 

 

「最初の相手はチームYか。俺たちよりも順位は低いところだけど、弱いわけがない。気を引き締めていこう」

 

「……ああ。俺はFWだ。他は好きにしろ」

 

「俺もFWがいいけど、多分足手まといになってしまうっぺ。だから今回はMFでパスを出すことにするべ」

 

「ありがとう七星くん。そういってもらえると助かるよ」

 

 時光、志熊、七星を中心にそれぞれのポジションを考える。チーム最上位である時光と志熊がツートップで点を取り、七星がパスで援護をする。この3日間で力の差を理解した他のFWは、今は彼らに従うことに決めた。勝てれば上にいけるし、負ければ今度は交代で自分がFWをやる。この時光の提案はひとまず全員が理解をしてくれた。

 

「今回は時間がなかったからポジションを決めるくらいしかできないけど、次回からは相手の選手の偵察もしっかりしよう」

 

「……了解」

 

「わかったべ!」

 

「よし、じゃあいこうか」

 

 第伍号棟センターフィールドに移動すると、既にチームYは集まっていた。

 

 互いに言葉を交わす間もなく、試合開始のホイッスルが鳴る。

 

『それでは第1試合、チームW vs チームY 開戦(キックオフ)

 

「よし、じゃあ手筈通りにいこう」

 

「あいよ!」

 

 今回は時間が無かったから作戦という作戦はない。ただただシンプルなもの。

 

「時光さん!」

 

「ナイスパス」

 

 七星くんから俺にボールが渡る。それと同時にチームYが複数人で俺を抑えにくる。

 

「させっか!おさえろ!」

「おう!」

「いかせるか!」

 

 3人。難しそうだけどやってみるか。

 

 俺はあえて3人のど真ん中に向けてドリブルしていく。俺の身体(フィジカル)なら体を思いっきりぶつけられても耐えられる。

 

「時光さん! こっちいけるよ!」

「俺に寄越せ」

 

 七星くんと志熊くんもいいポジションニングだ。パスすれば一気に前線までボールを持っていけるだろう。でも、今回だけはわがままを許してほしい。

 

 3人が目の前まで来た。俺の武器である俊敏反応(クイックネス)で左右に揺さぶる。相手のスピードが止まった瞬間、俺の爆発的な速さで置き去りにする。持続力はない力だが、一瞬のスピードならそれなりのものだろう。

 

 抜いた瞬間に今度は2人が仕掛けてくる。もう一度同じ戦法で抜けるかもしれないが、後ろのDFに追いつかれてしまう。

 

 ならばここは無理やり通らせてもらうよ。

 

 スピードを落とさずに今度は小細工なしでぶち抜こうとするが、相手はファウル覚悟で体を掴んできた。

 

 俺は相手の掴みを気にせずそのまま押し通った。掴んでいた人間は地面に叩きつけられ追ってくるはできない。彼がいい感じに後ろへのバリケードとなったおかげで俺は悠々と前に進む。

 

 そのままペナルティエリアに入って既に射程圏内。俺は右上のゴールの隅を狙いボールを蹴り上げる。残りのDFは間に合わず、キーパーも触ることができずにボールはゴールへ吸い込まれる。

 

 作戦は至って簡単、身体能力(フィジカル)によるゴリ押しだ。

 

 GOAL!

 

「よっしゃあ!!」

「ナイス時光さん!」

「……ナイス」

 

 よかった。俺の武器は青い監獄(ここ)でも通用することがわかった。上澄み300人といっても全員が全員化け物ってわけじゃないらしい。新しい手札はもっと必要だが、これまでの力は十分通用する。それがわかっただけでも、一人でゴールを決めた甲斐があった。

 

「チームYに特別な才能(タレント)はいなさそうだ。焦らず確実にゴールを決めていくぞ」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

  1点先に決めれたという精神的安心は大きく、その後みんな確実に自分の役割をこなしていった。志熊くんは相変わらずだったが、七星くんのパスも終盤になるにつれて精度が上がっていった。あまり体力のない七星くんの代わりに俺と志熊くんが走り回ったのもあるが、確実に成長している。

 

 まだここに来て数日だが、やはりライバルが身近にいるといないとでは成長倍率が全然違うように感じる。

 

 七星くんだけじゃなく、志熊くんも夜な夜な新しい技術を求めて練習している。俺ともよく1on1をやっているせいもあって、最近ではその肉体を生かした突進を体得しようとしている。

 

 この第1試合で得られたものは多い。次の試合ではそれぞれの課題を持って試合に臨むのも悪くないかもしれないな。

 

 試合終了まで残り僅か。最後に七星くんが志熊くんへのパスを出し、志熊くんの十八番である高さとフィジカルを生かしたヘディングシュートがゴールしたタイミングで試合終了だ。

 

 スコアは7-1。

 

 俺と志熊くんが3点。七星くんが1点だ。途中油断して一点決められてしまったが、概ね良かったと言えるだろう。寧ろここで油断がでてよかった。接戦時に油断で負けたなんて悔やんでも悔やみきれない。

 

 ここで油断をそぎ落とせてよかった。次の試合では、油断せずに行こう。

 

 

 

 

 ■□■

 

 

 

 

「絵心さん。この試合どう見ますか?」

 

「この試合は最初の1点で決まったようなものだ.。時光のエゴむき出しのプレイによってチームWは一瞬で統率されたのに対し、チームYはチームの中心たる人物が最後まで現れなかった。途中1点返せてはいたが、あんなものは再現性のない運任せのシュートだ。」

 

 絵心の言葉に同意しながら、アンリはこの試合の中心だった時光の評価を聞く。

 

「時光はとても好奇心の高い人間だ。俺の考えるエゴとは少し違うが、自分のやりたいことを即座に実行できる技術と精神は中々のものだ。彼を一言で表すと子供といったところだろう」

 

「子供……ですか?」

 

「ああ。好奇心の赴くまま行動するのはまるで子供のようだよ。相手が罠を張っていても、面白そうだと感じてしまえば脇目も振らずに突っ走る。そんな印象だよ」

 

 子供というよりまるで赤子ではないか。そんな生まれながらの遊び人が存在するのか。

 

「まあ楽しいことが好きといっても、無意味なことはしない。強敵と戦うことになれば、きっと本気を出すよ」

 

「……そうですね」

 

 彼の本気がどれほどのものか想像しながら、アンリはチームWの行く末を案じた。

 

 




エピ凪で柊くんが登場しましたね

この調子で志熊くんももっと出してやってください
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