怪力の肉食動物   作:もこきち

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お久しぶりです


チームX

「……動画を見てもらった通り、チームXの警戒すべき人間はこの2人。"青森のメッシ"西岡初と”高校No.1高身長”石狩幸雄だ。」

 

 画面に2人がゴールした映像が映る。

 

「西岡の武器はメッシのような細かなドリブルとスピードだ。持ち前の速さとドリブルテクニックで敵を翻弄してぶち抜く、1人で完結した力だ。守備は並だけど速さは折り紙付きだ」

 

 スピードはチームWのだれよりも早い。ドリブル状態なら止められるかもしれないが、単純なスプリントなら少し手こずるかもしれないな。

 

「次に石狩幸雄だが、こいつはわかりやすい。高身長を活かしたゴール前でのポストプレイを中心に攻撃してくる。どちらかというとこいつは守備よりの人間で、長い四肢とその身長であらゆるパスをハエたたきしてくる厄介な存在だ」

 

 まあ石狩はうちの巨神兵がお相手致そう。巨神兵も久しぶりの強敵に滾っているようだし。

 

「わかってると思うけど、西岡は俺がマークする。俺が付く以上問題ないと思うが、もし抜かれたら七星くんがカバーしてくれ」

 

「わかったべ! 俺は二人のカバーが仕事ってこと?」

 

「守備はそうだ。攻撃はチームYと戦ったときと同じでいい。問題があったらその都度修正しよう」

 

 七星は気合をいれるように大きな声で『やるぞー!』と叫んでいる。元気があっていいな。

 

「志熊くんの相手は石狩だ。負けるなよ」

 

「当然だ。たっぱだけの雑魚に負けてたまるか」

 

 うんうん。みんな威勢があってよろしい。1試合目よりも纏まりができて精神的に強くなったからだろう。志熊も最初よりこちらに寄り添ってくれているし、勝っても負けてもよりこのチームWは強くなれる。無論、負けるつもりはないが。

 

「役割が決まったところで、最後に課題の話をしよう」

 

「課題?」

 

「そうだ。昨日話したとおり、まだまだ俺たちには弱点が多い。それをお互い補うことで試合に勝利できると思うんだ」

 

「……まあ、納得はできるが。具体的な課題というのは? 決められた仕事をこなすだけではダメというのは絵心も言っていたが、わざわざ強敵なこのチームとやることか? まだ試合はあるし、最下位のチームZまで待っても良いんじゃないか?」

 

「志熊の考えもわかるが、俺はこの試合でやると決めた。この先を勝ち抜いていくためにも、ここで課題の1つもこなせないようじゃ世界一のストライカーになんかなれないだろ?」

 

「……まあな」

 

「そこでアイデアがあるんだ」

 

 俺は志熊くんと七星くんにこそこそっと、作戦と課題を伝えた。2人は最初ワクワクしていた顔だったが、徐々に渋い顔に変わっていった。なんとか納得してもらえたけど、やってもらうしかない。

 

 少し詰め寄られたけど問題ない。2人ならきっとやり遂げてくれるはずだ。

 

 

 

 

 ■□■

 

 

 

 

 

 試合当日

 

 チームWは落ち着いていた。チームX対策の練習も山ほどしたし、何より牽引する時光青志とライバルの志熊恭平が負けるところが想像つかなかったからだ。最近頭角を現していた七星もパスはうまいし、状況判断力も高い。

 油断はしないよう釘を刺されているからしないが、心の無駄な荷物は背負う必要がなかった。

 

「よし、時間だ。行くぞ!!」

 

「「「「「おう!!」」」」」

 

 時光のかけ声は不思議と良く通る。声量は決して大きくないが、魂のこもった激を飛ばすことのできる才能があった。

 

 

 チームXと対面する。要注意人物は作戦会議で話した通り、西岡初と石狩幸雄だ。チームXは前回チームVと試合して3-6で敗れている。得点は西岡が2点で石狩が1点だ。彼らの力を以てしても適わないというチームVに少しだけ畏怖の念を抱くが、この試合で勝利すれば幾ばくか強さに予想がつく。

 

 スタートの合図が鳴ると同時に西岡を起点として雪崩のごとく攻め立ててくる。

 

 情報通り、西岡がチームXの手綱を握っているようだ。石狩は西岡のサポートと攻撃と守備の中継役。わかりやすく強力な陣形だ。

 

「……お前が俺のマークか」

 

「そうだ。俺がつく以上、ゴールは諦めた方がいい」

 

「ふん。どうかな」

 

 西岡は時光を抜こうとスピードのギアを一段階上げる。トップスピードではないが、そのスピードは既に並の選手より早い。スピードは全体の約7割といったところだろうか。西岡はスピードもそうだがドリブルも一級品。スピード重視ではなく、ドリブル重視で勝負を仕掛けてきた。

 

「ドリブルで勝負か。これは面白そうだ」

 

「動画を見た限り、お前の武器は桁外れの俊敏反応(クイックネス)と体力くらいだ。俺のドリブルで崩してやる」

 

「お生憎様、高速ドリブラーの相手は得意なんだ」

 

 激しいドリブルで揺さぶる西岡だが、時光は全く崩れない。それどころか西岡のリズムやテンポに徐々に慣れだしていた。このままだと負けると悟った西岡は、あえて大きめのドリブルで時光を抜くフェイントをかける。時光はフェイントに引っかからないまでも、西岡との間に少し距離ができてしまった。その僅かな距離を利用し、西岡は近くにいるチームメイトにパスを出した。

 

 その結果に俺は笑みを浮かべた。

 

「冷静な判断だ」

 

「1回目の勝負はくれてやる」

 

 良いプレイヤーだ。自分にとって不都合な結果を受け入れられる冷静な判断力。あの僅かなやりとりで俺が西岡の動きに順応してきたとわかった洞察眼。本気ではなかったが、今ので少し掴めた。

 

 

 西岡からボールはチームメイトを経由して石狩まで辿り着く。

 味方から来たパスを、圧倒的な身長を活かした誰にも到達できない高さからヘディングシュートを放つ。マークについていた志熊は、パスの連携と予想以上の石狩の高さに対応できずにシュートコースを限定するだけに終わる。焦った志熊はカバーに入る七星に向かって叫ぶ。

 

「飛べ!」

 

「あいよっす!」

 

 シュートコースを限定したおかげで弾道が僅かに下がり七星のジャンプでギリギリ届いた。ボールはゴールの脇を通り、惜しくも点にならなかった。

 

「ちっ」

 

 石狩は志熊を睨みつける。動画で見た以上のジャンプ力とスピードにコースを変えざるをえなかった。普段なら楽々打ち抜けるはずの自慢の武器が封殺されたことにイラついた。

 それは志熊も感じていたことであり、動画で見た以上の高さと対空力に驚きを隠せない。実際にマッチングしてからしかわからないこともあるが、あとがないチームXの必死さが伝わってきた。

 

「油断できないな」

 

「お前こそ思ったより早いじゃねぇか。あの七星(チビ)もそうだが、前の試合では手を抜いてやがったな」

 

「確かに全力ではなかったな」

 

「……ふん、まあいいぜ。俺達は勝つしか道がないんだ。邪魔すんじゃねぇぞ」

 

 石狩は志熊を再び睨みつけると自陣に戻る。

 

「いいんですか志熊さん。言われっぱなしで」

 

「実力は修正した。気を抜かなければ負ける相手じゃない」

 

「なんだかんだ志熊さんも負けず嫌いですよね。……俺もですけど」

 

「時光を見ていると、こんなところで停滞している時間はないと思い知らされる」

 

「俺も時光さんは少し他と違う気がするべ」

 

 仲間に指示をしている時光を見ながら2人はコーナーキックに備えた。

 

 

 結果としてチームXのコーナーキックは失敗し、逆にチームWが得点する形になった。

 

 西岡が石狩に向けて蹴られたボールを志熊と七星が2人がかりでセーブ。万が一直接狙ってくるのではないかと配置を内側に固めておいたおかげで、ボールの奪取に成功。味方がボールに触れた瞬間、時光は一気に敵陣へ加速。

 

 パスを受けた時光は苦手だったドリブルで仕掛ける。志熊と七星と一緒に練習した成果はしっかり発揮され、苦手なミドルレンジまで上がってくる。

 

 視界に障害物がなくなった瞬間を見計らって右足のスイートスポットで蹴り上げる。時光の恵まれた肉体と何度も練習して向上したシュート精度を合わせた一蹴は、キーパーに触れることなくゴールする。

 

「よっしゃああ!!!」

 

「ナイス時光さん!」

 

「……よくやった」

 

 チームWはお祭り状態である。この先制点をとることは流れを引き寄せることでも重要だが、苦手分野(・・・・)でゴールを決めたことが大きい。

 

 試合前に決めた各々の課題。その課題は苦手分野でゴールを決めること。志熊と七星は今のプレイで闘志を燃やす。負けられないライバルが目の前であっさりとゴールを決めたことは、少し浮ついた2人の気を引き締める。

 

「……俺、できるっすかね」

 少し不安げに七星は呟く。

 

「待てば海路の日和あり。必ずチャンスは来るはずだ」

 

「う、うっす! 俺だってやってやります!」

 

「……負けてられないな」

 

 仲間に囲まれている時光を睨みつけながら、志熊は脳内でゴールへの方程式(・・・・・・・・)を無意識に弾き出した。

 

 




またおそくなるかも
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