怪力の肉食動物   作:もこきち

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覚醒

チームWが得点したが、チームXに動揺はあまりない。

 

 選抜された上位300人それぞれが、クラブやユースのトップ選手。何度も修羅場を潜ってきた実力者のみが青い監獄(ブルーロック)に入ることを許される。思惑はそれぞれあれど、自分こそが一番になるという抜き難い思いは精神の不安を抑圧した。

 

 そしてその思いはより上位者である大きい。

 

 

「石狩」

 

「なんだ西岡。いいアイデアでも思いついたか?」

 

「まだだ。難航している。時光を抜けるビジョンはいくつかあるが、一度見せたら対応してくる可能性が高い。次のゴールは死にもの狂いで取りに行くぞ」

 

「おう。無理だったらパス回せよ。決めてやるからな」

 

「……ふんっ」

 

 お互いに軽口を叩くがその顔は真剣そのものだ。時光によるゴールはもう後戻りができない現状を改めて意識させた。

 勝たなければ終わる。そんな当たり前で残酷な現実が目の前で起きようとしている。

 

 それを強靭な精神力で抑えつつ西岡は石狩にパスを出す。

 

「時光、勝負はここからだ」

 

「それは嬉しいね。しょぼくれたやつを相手にしても楽しくもなんともない」

 

「さっきはお前を試すための勝負だったが、次は違う。全身全霊でお前を叩き潰す!」

 

 石狩からパスを受け取った西岡は、ドリブル重視だった攻撃パターンをスピード重視に切り替えた。それも自分の全力で。

 

「!……はっやいな!」

 

「ついてくるか!」

 

 一瞬拮抗したかのように見えたが、西岡の速さは時光のそれとは次元が違う。時光は決して遅い選手ではないが、一瞬の速さだけではたどり着けない差がそこにはあった。

 

「高速ドリブラーの次元じゃないよ全く……!」

 

 徐々に差が開いていく背中を見ながら時光は冷静にあたりを見回す。

 何人かカバーの為に入ってくれてはいるが、西岡のスピードは全く落ちない。志熊と七星もようやく進行方向へカバーに入るが、その顔は険しい。

 

 だが、時光は状況をすぐに察して指示をだす。

 

「西岡を囲め! 1人で突破するきだ!」

 

 時光の一声で瞬時に理解したチームメイトは西岡を包囲しようと動き出す。既に抜かれた3人は後ろから、最も危険な前方には志熊と七星がいる。挟み撃ちを仕掛けようとするチームWの思惑に西岡は舌打ちをする。

 

 並の選手ならなんてことない作戦だが、こと相手が志熊と七星では別の話だ。人数不利など最初から分かっていたが、ドリブルを仕掛けるにはあまりにもスペースが狭すぎる。仮に抜けたとしても時光が間にあってしまう。石狩へのパスもケアされていてパスを出せる余裕がない。

 

 どうする。ここで点を入れられなければチームXの逆転は絶望的だ。同点で終わるとしてもここで決めなければそれこそだ。

 

 時間が無い。どうすればいい……!ここからの一手が見つからない!

 

 体の芯が沸騰しているような激情の中、突破する方法を必死で模索する。己の築き上げたプライドと技術が音を立てて崩れていく。そんな絶望的な状況下の中で、久しく忘れていたことを思い出した。

 

 『君のドリブルはバリエーションが少ない』

 

 昔の恩師だった人の言葉。高校に入って間もないころに言われた何気ない一言だ。

 

 既に県内には敵なしで、高校生の中でも上位の実力であった西岡にとってその言葉は侮辱も同然であった。高校でも余裕だと天狗になっていた鼻っ柱を叩きおられたようなそんな感覚。

 

 そのときは怒りで話の内容などどうでもよかったが、今の俺なら理解できる。危機的状況になってようやく心底理解できる。あの恩師の言葉。

 

『君は恵まれたスプリント力と繊細なボールタッチでここまで実力を伸ばしてきた。だが君のドリブルにはその速さを乗せた直線勝負だけしかない。ドリブルはあくまでゴールのための手段なんだ。その手段が直線勝負一つしかないのでは、このさき君より速い相手が出てきたときに勝てないだろう。だから君にはこれからスピードを殺さず敵を躱すドリブルを教える』

 

 チームVとの試合じゃあまりにも力の差があって思い出せなかった。……だが今の俺ならできる!

 純粋な速さ勝負じゃないのは癪だが、それでもやるときめた。

 

 西岡は進行方向とは真横へボールを弾いた(・・・)

 

「!……チョップドリブルか!」

 

 突然西岡の動きが変わって焦るチームW。前後での挟み撃ちを考えていた彼らにとって左右はカバーできないポジション。加えてなぜかスピードがほとんど落ちていない西岡の速さについていけるものはいない。

 

「くそがっ!」

 

 追いつけないまでも時間を稼ぐことに注力すると決めた志熊は、ゴールを決められないよう進行方向に飛び出す。

 

 志熊の粘りでシュートが消えたと確信したチームWは急いで西岡にチャージする。しかし西岡はそれをわかっていたかのように、ヒールリフトで悠々と前線に踊りでる。志熊という高さのある選手がいたため使えなかったこの技も潰れた今なら使える。

 

 全員が呆然としている中、西岡は簡単にゴールを決める。

 

 1-1

 

 同点ゴールを叩き込んだ西岡を中心にチームXは喜びを爆発させている。

 

 

 

「まじっすか・・・」

 

「あいつ、こんな状況で覚醒しやがった」

 

「いやー、すごいもん見ちゃったねぇ。こりゃこっちも負けてられないな」

 

 七星と志熊と情報交換をしながら、西岡の実力を大きく上方修正する。力任せの速さで突破するドリブルに、豊富なドリブルスタイル。剛から柔に。柔から剛に相手と状況によって変化するドリブルスタイルは、まるで環境に適応する(・・・・・・・)カメレオンのようだ。

 

「今までの彼とは考えない方がいいね。ただ速さで勝ちたい脳筋プレイヤーだと思ってたけど、なかなかどうして人を信頼しているらしい」

 

「どういうことだ?」

 

「うーんなんていうかな。彼のように自慢の武器を持っている選手って、大体周りに順応できないんだよ。あまりに周りと違いすぎるからね。・・・これは僕の勝手な予想だけど、自分は天才だと思っていたことが足枷になっていたのかもしれないね。天才だから周りと違うプレイをしないといけない。そういった思い込みが覚醒しなかった理由なんじゃないかなあ。環境のレベルが違いすぎて自分は天才だと思っていた選手が実は秀才だった。なんてありふれた話だよ」

 

「それが人を信頼することとどうつながるんです?」

 

「秀才は環境の中で変化し、成長していく人間のことだ。周りと共存するスペシャリストがはみ出しものを放っておくはずがない。きっと、周りに彼を理解する秀才がいてアドバイスなりしていたんじゃないかなぁ。その言葉を蔑ろにしていたけど、極限の状態でそれを思い出した。人のアドバイスは素直に受け取れないけど、こっそり練習するようなタイプだね」

 

「よくそんなことがわかりますね

。僕にはただ覚醒したようにしか見えなかったっぺ」

 

「俺も七星に同意する。時光のいうこともわかるが、あいつは活路を見出すために思考し、実行した。俺にはそう見えるな」

 

 僕の説明を理解してくれているようだけど、納得はできない感じかな。まあ、僕のはただの勘だし客観的にみたら2人の意見の方が正しく映るだろう。実際にマッチアップして彼の性格や気持ちは一通りトレースしたつもりではいたけど、まだまだ僕も未熟だな。

 

 それより驚いたことは、彼は天才の選手ではないという事かな。天才の粋に足を踏み入れてはいるけど、性根がまさかの秀才タイプ。技術や肉体は天才スペックだけど、思考が秀才タイプとは恐れ入った。こんな選手なんて初めて見たよ。面白いタイプだし、じっくり研究しよう。

 

「さて、後半残り30分。いけるかい? 2人とも」

 

「問題ない。おれもひとつ試してみたいことがある」

 

「うっし! 気合十分っすよ!」

 

 志熊くんの顔を見ると、さっきの西岡くんの覚醒に思うことがあったらしい。今日のキーマンは彼になるかもしれないね。

 

「OK。じゃあ志熊くんを中心に攻めよう。西岡くんは僕と七星くんで抑えておくから、石狩くんとの対決は任せたよ」

 

「任せておけ」

 

 キックオフで七星にボールが渡ると、志熊くんが石狩くんとマッチアップする。

 

「よう。なんかやりたそうな面してんな」

 

「どうかな」

 

「俺になら勝てると思ってるのかもしれないが、あんまり見くびるなよ?」

 

「・・・」

 

 警戒を高める石狩だが、相手との距離ができた隙を見計らって七星からパスが来る。

 

 手足の長い石狩がパスをカットしにくるが、体をねじ込むことでなんとかボールの保持に成功。お互いペナルティエリア内に向かって激しい猛攻を繰り広げる。高さと肉体が武器の彼らの攻防は凄まじく、他者が全く介在する余地がなかった。

 

 石狩がディフェンスのため、一足早くペナルティエリアに侵入する。しかし、志熊はそれをずっと待っていたようで逆に距離をおくように後ろへ下がってシュートモーションに入る。

 

「時光。これが試合前に行っていた弱点で倒す答えだ」

 

「やべぇ!」

 

 志熊のミドルレンジシュートなんて考えてもなかった。俺との勝負を投げるような性格に見えなかったし、鹿児島の巨人兵と呼ばれているときのデータでもそんなものは見たことがなかった。

 

 まさかここで新技を見せつけてくるとは。

 

 だが甘い。

 

「そんな距離、俺にとっちゃあ一歩で十分だ!」

 

 志熊との距離を持ち前の足の長さで一歩で踏み潰し、シュートコースを消す。それと同時に勝利を確信する。どんなに裏をかいたところで俺との差が覆ることはない。

 

「俺の勝ちだぜ巨人兵!」

 

「・・・見くびっているのはお前のほうだ」

 

 志熊はシュートモーションをやめ、大股になった石狩の股下を通し、悠々とペナルティエリアに侵入する。

 

「まじかよっ!」

 

 あいつがあんなことするなんて考えてもいなかった。時光への声掛けも、俺との差がギリギリ一歩でもうまる距離にしたのもすべてこのため。

 

「俺の弱点はペナルティエリア外でのシュートだが、なぜ鍛えないか教えてやろう」

 

 志熊はそのままシュートを決め、ライバルである時光に向かって振り返る。

 

「そんな小手先の技術を身につけなくても、大抵の敵は倒せるからだ」

 

 

 

 2-1

 

  

             

 

 

 




書かない間に原作が進みすぎてびびっています。
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