吾輩は魔族である。   作:砂巴羅

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葬送のフリーレン、めっちゃハマりました。
なお、単行本派なのでもしかしたら原作の設定と異なる事を書いてしまうかもしれません。ご了承ください。


第1話:ある魔族の話

 

 吾輩は魔族である。名前はまだない。

 

 吾輩……と言うのは、偉い人間が自分の事を呼ぶときに使う言葉だ。

 本の中で『王様』と呼ばれた強そうな人間が、自分の事を吾輩と呼んでいたから、吾輩も吾輩の事を吾輩と呼ぶようにした。

 これで吾輩も、偉くて強い人間の仲間入りである。

 

 

 吾輩は魔族である。

 

 一本の角がおでこから真っ直ぐに生え、桃色の髪を腰まで伸ばしたすーぱー美少女。

 水に写る自分の顔のあまりの美しさに、何度腰を抜かしたことか。

 

 だが、どうやら人間は吾輩の事があまり好きではないらしい。

 昔、橙色の髪をしたぐらまらすな美女と、耳がとんがった白い髪のまないt……すれんだーな美少女に勇気を振り絞って話しかけたのだが、物凄い殺意ましましな魔法をぶちかまされた事があるのだ。

 

 その時は、何とか吾輩自慢の最強魔法である『変身する魔法(めたもるふぉーぜ)』の力でもふもふ兎に変身して切り抜けたのだが、あれ以来魔法が怖くて誰にも話しかけていない。

 

 だが、吾輩は知っている。

 『失敗は成功のもと』だと言う事を!

 

 いつか必ず、吾輩は人間と仲良くなってみせる!

 

 

 

[第一話:ある魔族の話]

 

 

 

 今でも思い出す。あれは私……じゃなくて、吾輩がまだ生まれて間もないよわよわ魔族だった頃の事。

 

 吾輩はとても強い魔族に虐められていた。魔法の実験台にされたり、いっぱい嫌な事を言われたりしていた。「お前は弱い」だとか、「魔族の恥晒し」だとか。

 その時はそれが当たり前の事で、そうなのか〜としか思ってなかった。

 

 そんなある時、一人の人間が吾輩達の棲家までやって来た。

 その人間はとても強くて、吾輩を虐めていた強い魔族をかっこいい剣であっという間にぼこぼこにしてしまった。

 

 そして強い人間が、吾輩を虐めていた魔族にとどめを刺そうとしたその時、魔族が吾輩を掴んで盾にしたのだ。

 

 すると突然、人間が攻撃してこなくなった。さっきまで真っ直ぐだった瞳が震えていた。吾輩も、人間が怖くて震えていた。

 吾輩を虐めていた魔族だけが、人間を攻撃した。

 

 ───魔法が、人間のお腹を貫いた。

 

 あれだけ強かった人間が、何故か吾輩が盾になっただけで弱くなった。強い魔族は笑いながら、吾輩を投げ捨て人間を喰らおうとした。

 

 その時、人間が最後の力を振り絞って魔族の首を切り裂いた。

 人間はまだ生きていたのだ。

 

 強い魔族が粉々になって消えていく最中……人間が、弱々しく吾輩の頭を撫でた。

 

 死ぬのは怖い。痛いのも怖い。私がそうだから。

 なのに人間は、死ぬその時まで私の頭を撫で続けた。

 

 それから私……じゃなくて、吾輩は人間の事が気になるようになった。

 頭の中が人間の事でいっぱいになった。

 

 何であの時、人間は吾輩を攻撃しなかったのだろう。

 何であの時、人間は穏やかな目で死んでいったのだろう。

 

 吾輩は、あの人間のようになりたい。

 強くて、死ぬ事も恐れない……そんな人間に。

 

 

 

 吾輩は魔族である。名前はまだない。

 

 人間になった時に、人間の名前が欲しいから。

 

 

───────────────────────

 

 

 

 そこは、かつて人間達がたくさん住んでいた村と呼ばれる物の成れの果て。

 今はもう、人間は一人もいない。

 

 吾輩は人間になる為に、まずは人間の家に住むことにした。

 吾輩が今いる場所は、村の中でも一番大きく、本がいっぱい置いてある家だ。

 

 この本は吾輩にいろんな事を教えてくれる。

 物の名前や歴史、食べ物の作り方。

 

 そして……魔法。

 

 魔導書と呼ばれる本を読む事で、その本に書かれた魔法を使えるようになるらしい。

 

 吾輩はこの村で三つの魔法を覚えた!

 

 一つは『火がしっかり通っているか分かる魔法』

 二つめは『太鼓を叩く時に手が痛くならない魔法』

 最後に、『土を栄養満点の肥料に変える魔法』

 

 

 

 つ、強すぎる……

 

 この村はかつて、とんでもない勢力を誇った人間界最強の村だったに違いない。

 

 これで吾輩は、最強魔法である『変身する魔法(めたもるふぉーぜ)』を含めて、四つの魔法が使えるようになったと言うわけだ。

 

 この村で手に入れた三つの魔法が全部使えるようになるまで100年ほどかかってしまったが、これでようやくりべんじが出来る。 

 

 

 人間の友達を作ると言う、とんでもなく難しい目標のな!!

 

 

 吾輩はこれまで、三人の人間に出会ってきた。

 その内一人は吾輩の頭を撫で、二人は吾輩を殺そうとしてきた。

 

 即ち……三分の一の確率で、吾輩は人間と友達になれる!!

 

 

「ふっふっふ……」

 

 

 吾輩は知っている。この家の本にそう書いてあったのだ。

 三分の一と言うのは、1を三回に分けた数字のこと。

 これはつまり、三分の一を三回繰り返せば1になるということだ!

 

 だから……つまり……えーっと……

 

 と、とにかく三人に声をかければ一人は友達になれる!

 この家の本にそう書いてあったのだから大丈夫!

 ……多分!

 

「いざ出発!」

 

 

 

 

 

 ……と、村を出発したのが十年前の事だ。

 あれから吾輩は人間と友達に……なれるどころか、一人も人間と出会えていない!

 

 あの三人と出会えたのは、まさに奇跡だったのだろう。

 

 その代わり、魔物とはいっぱい友達になる事ができた。

 体がぴかぴかかちかちで角と翼の生えた大きい魔物や、ふわふわもこもこの大きい四足歩行の魔物。他にも、体から炎が噴き出ている岩のような大きい魔物に、大きい鳥と大きい鳥、そして大きい鳥。

 

 皆良い子達だった。背中に乗せてくれたり、撫でさせてくれたりした。

 

 

 だが、吾輩が仲良くなりたいのは人間だ!

 魔物とばかり仲良くなってどうする!

 

「こんな筈では……」

 

 これまた大きい鳥の足にしがみついて青空を旅しながら、吾輩は独り言を呟く。

 この独り言、実は吾輩なりの特訓なのである。

 こういう風に独り言を言い続けるうちに、いざ人間と会話する時にすむーずに話す事が出来るようになっている、という寸法だ。

 

 もしかして、天才……?

 

 

 

「……って、あれは!?」

 

 む、村だ!人もいる!

 遂に村を見つけたぞ!

 

 成る程……空高くから見渡す事で、遠くの方まで見る事が出来る。

 それ即ち、遠くの村も見つけ易くなると言う事……!

 

 何と言うことだ……

 吾輩は無意識のうちに、村探しの最適解を導き出していたのか!

 

 もしかして、天才……?

 

 

「ふっふっふ……吾輩は天才である!これなら、人間ともすぐに友達に……ん?」

 

 あの村の人間達、何か魔法を発動してないか……?

 いや、確実に発動している。だって、魔法がこっちに向かってきているのだから。

 

 ……こっちに向かってきている!?

 や、やばい!!逃げ……

 

「うわーー!!」

 

 爆発。

 魔法による攻撃が大きい鳥に直撃し、その足にしがみついていた吾輩も当然大だめーじを喰らってしまう。

 

 あまりの衝撃に耐えられず、鳥の足から手を離してしまった。

 そのまま地面へと真っ逆さまに落下していく。

 

 ああ……こんな時、あの強い魔族のように空を飛べたらな……

 吾輩の旅路もここまでか……

 

 

うおぉぉぉおおお!

 

 

 この、声は……人間?

 

 

「うおおおおお!!!あぶねぇー!」

 

 地面に落下する直前、間一髪の所で吾輩を何者かが抱き留める。

 見れば、髪を掻き上げた筋骨隆々の若い男。

 

 ───あの時吾輩を撫でた人間のような、真っ直ぐな瞳をしている。

 

「お嬢ちゃん、あのデケェ鳥にとっ捕まえられてたのかよ!?全然気付かなかったぜ!」

 

 ありがとう人間よ、おかげで助かっ……とっ捕まえられてた?

 何か勘違いしているようだが、あの鳥は吾輩の友達で……って死んでるー!?

 ひ、ひぃぃ……人間怖い……!

 

「ひ、ひぃぃ……怖い……!」

「完全に参っちまってるな……無理も無え」

 

 むきむきの腕の中で震えるしかない吾輩を、なにやら可哀想なものを見る目で見てくる人間の男。

 このままさっきの魔法で、あの鳥のように殺されてしまうであろう吾輩を憐んでいるのか……

 しかし、恐怖はそれだけでは終わらない。

 

「お、おい!急に走り出してどうした!?」

「何かあったのか?」

 

 追加で二人、人間がやってきた。

 一人は吾輩を抱き抱えている男のように筋骨隆々の男。そしてもう一人は、長い杖を持った細身の男。

 

 何と言う事だ……

 恐らく長い杖を持った男は魔法使いだ。最初の村の本で見たから分かる。

 

 つまり、さっきの魔法を放ったのもこの男という事……

 

 

「た、助けて……死にたくない……」

 

 

 吾輩は、無意識に命乞いをしていた。

 気付けば口から言葉が出ていた。

 これは───

 

 

 ───あの独り言の特訓のおかげだ!!!

 

 

 間違いない。吾輩はこの時のためにずっとぶつぶつ独り言を言いながら旅をしてきたのだ!

 

「ん?その子は?」

「さっき空から落ちてきたのって、まさか……」

 

 た、頼む!見逃してくれ……!

 

「ああ、この嬢ちゃんはあの鳥に食われかけてたんだ。見ろよこの子の服、ボロボロだぜ……」

 

 ……ん?

 そ、そういえばこの人間、さっき吾輩の事を『とっ捕まえられてた』と言っていたな……

 やはり勘違いされている。これは……

 

 

「ち、違う!あの子は友達で、一緒に旅をしていたのだ!」

 

 しっかりと訂正しなくてはな!

 ……まぁ、もう死んでいるが!

 

「え!?そ、それはどういう……」

「いや、よく見ろ。その額の角……そいつは魔族だ」

「魔族……実物は初めて見たな」

「じゃ、じゃあホントに友達なのか……」

 

 なにやら不穏な空気が流れる。人間達が、吾輩の事を警戒しているのが分かる。

 どうやら何か選択を間違えてしまったようだ……

 

「おい、どうする……?」

「……殺した方が良いんじゃないか」

「し、しかしだな……こんな幼い子を殺すなんて……」

 

 や、ややややや、やばいっっ!このままでは殺される!

 な、何とか助かる方法を探し出さねば……!

 

「わ、吾輩、魔族だけど、人間と友達になりたくて……!そ、それでまずは、人間以外の友達を作ろうと思って……だから、その……吾輩っ、悪い魔族じゃないぃ……!」

「わ、吾輩……?」

 

 駄目だー!絶対怪しまれるー!

 どうか命だけは!命だけは……!

 

「……俺には無理だぜ。こんなに震えて……よく見たら服だけじゃなく、体も傷だらけじゃねえか」

「そう、だな……お前はどう思う?」

「……この子の魔力量は全然大したことは無い。何か事を起こそうとしても、対処するのは簡単だろう」

 

 お?こ、これは……?

 もしかして見逃して貰えるのか?

 

「よし、この子を歓迎しよう!村の皆も分かってくれるさ!」

「疑って悪かったな、魔族の嬢ちゃん」

「……見張りをつけておけば、まぁ大丈夫か」

 

 ふ、ふぉおおおお!きたーーー!

 朗報!やはり吾輩は天才だった!!

 

「あ、ありがとう!」

「よろしくな、魔族の嬢ちゃん」

「よし、帰ったらまずは風呂だな!そんで嬢ちゃんに似合う服も見繕ってやろう!」

 

 

 人のいる村に長く滞在すれば、いつしか本当に魔族から人間になれるかもしれない。

 これは吾輩の人生……そう!“人”生において、あまりに大きな一歩となる!!

 

 

 ……予定である!

 

 





初めての一人称視点に挑戦してみました。
魔族ちゃんがこんなにおバカなのには深〜い設定がある……とかでは全然無く、まだ物心ついていない時に頭を打ってしまったというだけです

因みに作者の推しは黄金郷のマハトさんです。
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