吾輩は魔族である。   作:砂巴羅

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第2話:人の心、魔族の言葉

 

 吾輩は魔族である。名前はまだ無い。

 

 そんな魔族である吾輩だが、実は人間になりたいという願望がある。

 かつて吾輩を虐めていた魔族から救ってくれた人間。その人間は、死にゆく時でさえ穏やかなままだった。

 

 その時から吾輩は、人間に憧れの感情を抱くようになった。

 強く、死さえ恐れない。そんな人間に、吾輩はなりたいのである!

 

 そうして人間へと至る旅路を開始して百年ほど。

 吾輩の年齢はもはや百五十歳を超え、魔族という枠組みでは括れない最強の魔族、うるとら魔族へと進化を果たした(ような気がする)吾輩だったのだが、そこで事態は急変する事となる……。

 

 なんと、人間の村を見つけたのだ!!

 

 大きな鳥の足にしがみつき、遠くまで見渡した結果発見したこの村で、吾輩は人間の友達を作ってみせる!

 ありがとう名も知らぬ大きな鳥よ、お前の事は決して忘れない!

 

 吾輩を見つけた人間達も、快く吾輩の事を歓迎してくれた。何も憂うことは無い。

 

 威風堂々。吾輩は、遂に人間の村へと足を踏み入れたのだ!

 

 

 

「う、うぅ……い、嫌だ!やめて!それだけはぁ!」 

 

 

 しかし、そこで吾輩を待っていたのは、想像を絶する程の地獄だったのである!!!

 

 

「や……やだ!や!お風呂入るのいや!あうっ!吾輩綺麗だもん!お風呂入るの痛いからやだ!」

「だめよ〜、お風呂に入って傷周りの泥とか落とさなきゃ」

「お嬢ちゃん魔族?って種族なんでしょ?よく分かんないけど、痛いの我慢しなきゃ強くなれないわよ!それにほら、入ってると段々痛く無くなってくるでしょ〜」

 

 お風呂と呼ばれる、暖かい水に体を漬ける謎の儀式。この儀式が、吾輩を地獄の責め苦のごとく痛めつけてくるのである!

 

 最初の頃は、吾輩、初めて見るお風呂に興奮しっぱなしだった。

 だが、それは人間が吾輩を騙すための罠だったのだ!

 

 まんまと人間の策に嵌り、わくわくどきどきでお風呂に飛び込んだ次の瞬間、吾輩の体についた傷が突如びりびりと痛みだした。

 そこでようやく、吾輩は騙されていた事に気付いたのだ。

 

「うぅ……よくも吾輩を騙したな……!んぅっ!……痛いよぉ……」

「大丈夫大丈夫!ほら、泥がこんなに取れた!」

「あらあら、だいぶ湯船が汚れちゃったわね……それにしても、何て酷い傷。今までいっぱい頑張ってきたのね……」

 

 こんな痛い思いをするのなら、人間の村なんかに来るんじゃなかっ……あれ?痛みが消えていく……こ、これは!

 

 凄い、凄いぞ!そうか、これが風呂というものなのか……!

 よく見れば、体も綺麗になっているではないか!

 

 

 やっぱり、人間は凄かった!

 

 

 

[第2話:人の心、魔族の言葉]

 

 

 

 お風呂、と言うものの素晴らしさを知った吾輩は、あれから数十分程お風呂を堪能していた。

 

「ふぃい〜……」

「そろそろ出ないとのぼせちゃうわよ〜?」

「お風呂から出たら、次はお洋服ね!うふふ……楽しみだわ」

 

 むぅ……のぼせるから何だというのだ。

 入れと言ったり出ろと言ったり……人間というのは難しいな、全く。

 

 

 ……って、違う違う。人間と友達になる為に吾輩はこの村に来たのだ。

 人間の言う事をちゃんと理解せねば!

 そんな事を考えながら、吾輩は重い腰を上げてお風呂から出る。

 

 

 名残惜しい……むっ!

 吾輩、良いことを思いついたぞ!

 

 人間は体の汚れを落とす為にお風呂に入る。ならば、体を汚せばもう一度お風呂に入れるということ……!

 よし、早速外に出て体に泥を……

 

「ちょちょちょっ、ちょっと!?何してるの!裸のまま外に出ちゃダメよ!」

「ふえ?」

「ああ、魔族だから分からないのかしら……?あのね、人間の世界では、外に出る時は服を着て体を隠すのが当たり前なの。裸のまま外に出るのはちょっと恥ずかしい事なのよ?」

「おばさん達についてきてちょうだいな。あなたに似合うと〜っても可愛いお洋服があるの!」

 

 

 そ……そうだったのか!!

 あの布にはそんな意味が……知らなかった。これは人間達の言う事に従った方が良さそうだな。

 裸のままだと、友達になってくれないかも知れないからな!

 

 お風呂のあった部屋から少し離れた場所に、そのお洋服とやらが置かれた部屋があるらしい。

 

 その部屋まで向かう途中、人間達が吾輩に話しかけて来た。

 

「ここは孤児院って言ってね、お父さんやお母さんのいない子供達を引き取る場所なの。そして、皆で一緒にご飯を食べたり遊んだりする所なの」

「私達も昔ここで育てられてね。二人でこの孤児院を引き継いだのよ」

 

 成る程……ここは孤児院と言うのか。この二人の女は、この場所の主人と言うわけだな。それは何となく分かったぞ!

 

 

 ……だが、一つだけ分からない事がある。

 

 

「おとうさんやおかあさん……って、何?吾輩にもいるの?」

「っ!」

「……そう、そうなのね。やっぱり、あなたをここに連れてきて正解だったみたい」

 

 おとうさんやおかあさん。それだけが何か分からなかった。

 でも、どうやらそれについて質問すると、人間は悲しい顔をするらしい。

 あまり、この話はしない方が良さそうだな!

 

 そんな話をしているうちに、目的の部屋に辿り着いたようだ。

 ドアを開けてみると、そこには大量のふわふわな布が吊るしてあった!

 

 これが服……!

 色んな形と色をしている!

 

 

「うふふ、悲しいお話の後は……楽しい事をしないとね?」

「ああ、私達はこの時のために、沢山の服を買ったり作ったりして来たんだわ……」

「え、えっと……?」

 

 な、何で吾輩の事見つめるんだ!?

 なんか目が怖いんだが!!

 

 大量の服を手に取って……そ、それをどうするつもりだ!?

 ひっ……こ、怖い!怖いよぉ!

 

 わ、吾輩の、吾輩の……

 

 吾輩の側に近寄るなぁーーー!!

 

 

「うわああぁぁぁあああ!?」

 

 

 

 それは、地獄だった。

 

 初めてお風呂に入った時、吾輩はそれを地獄と言った……だが、違った。

 

 本当の地獄はここにあった。

 

 

 目を血走らせながら、あーでもないこーでもないと代わる代わる服を着せてくる人間達。

 吾輩はあまりの恐ろしさに思考を放棄し、完全にされるがままになってしまう。

 

 だが、それもしょうがない事なのだ。そうでもしなければ、吾輩はおかしくなってしまう……!

 

 

「あう……あう……」

「ふぅ〜……」

「一先ずは、これで完成……って所かしら」

 

 や、やっと終わった……?

 良かった……地獄から解放された……!

 

 人間達が持っていた服を仕舞い、吾輩の前に長くて大きい鏡を置く。

 そこに写っていたのは……

 

 

「ふおぉぉぉ……これは……!」

 

  

 真っ白のひらひらの服。その上には、これまた白いふわふわした紐が、腕とかお腹とかに引っ付いている……!

 

「気に入ってくれたみたいね」

「フリルをあしらった純白のワンピース。本当はもっと色々試したかったのだけれど、最初はシンプルな服の方がいいと思ったの」

「ふふふ、私達の見立て通り。最高に似合ってるわ……!」  

 

 何と言うことだ……!

 今の私……じゃなくて吾輩は、これまでに見たこともないくらいのすーぱー美少女……否!

 

 あるてぃめっと美少女である!!!

 

「むふふ……ありがとう人間よ!これなら友達も作り放題間違いなしだ!」

「あら、お友達?良いわねぇ〜」

「そうねぇ。でもこの村はあんまり大きくないから、子供もそう多くはないのだけどね……」

「うちは今子供を三人引き取っているから、先ずはその子達と挨拶してみましょうか?」

「する!」

 

 何だか子供扱いされてるような気がしなくもないが、まあ良いだろう。

 これでも吾輩は、百五十歳のうるとら大魔族なのだがな!

 

 そうして、再び二人は吾輩を案内する。

 どうやらその子供達は今、孤児院の庭で遊んでいるらしい。

 

「はーい皆!こっち来て!」

「新しい家族を紹介するからねー!」

 

 人間達が大きな声を出して、庭で走り回っていた三人の子供を集める。

 男の子供が二人、女の子供が一人のようだ。

 男の方の二人は吾輩よりも背が高く、女は吾輩と同じくらい。

 

「この子が今日からうちで暮らす事になった……そう言えば、名前を聞いてなかったわね」

「ツノ生えてるー!」

「角が生えてるからって虐めたりしたら絶対ダメよ。もし意地悪な事したらお説教ですからね!」

「はーい!」

「はーい」

「……分かった」

「よろしい。それじゃあ、名前を教えてくれるかしら?」

 

 むっ、名前?

 名前か……困ったな。吾輩は人間になるまで名前をつけないと決めていたのだが、普通は名前がないと困るのか……

 仕方ない。ここは正直に言うしかなさそうだな!

 

「吾輩は魔族である!名前はまだない!」

「マダナイちゃん?変な名前ー!」

「なっ!?ち、違うぞ!吾輩は吾輩だぞ!」

「ワガハイ?マゾク?……なにそれ」

「吾輩というのは、偉い人間が自分の事をそう呼ぶのだ!」

「ふーん、偉いの?」

「いずれそうなる!」

「じゃあ今はまだ偉くないじゃん。ワガハイ使っちゃダメなんじゃないの?」

「んなぁっ!?」

 

 なんて生意気な……!

 女の方はなにやら頓珍漢な事を言うし、硝子で出来たよく分からん装置を頭につけた男は生意気だし、一番背の高い髪がつんつんの男はそっぽ向いて全然こっち見ないし……本当にこいつらと友達になれるのか!?

 

「よろしくね!マダナイちゃん!」

「マダナイじゃない!」

「えー!?じゃあ……ワガハイちゃん!」

「む、むぅ……それなら、まあ……」

「そう……名前が無かったのね……」

「でも、皆と仲良くなれそうでよかったわ!これからもよろしくね!」

「よろしく!」

「よろしく」

「……」

 

 なーんか納得いかんが、まあ良い!

 こいつらと仲良くなって、吾輩は友達を手に入れて見せる!

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 最初は不安だった吾輩だが、この孤児院で生活してみると、その不安は一瞬で吹き飛ぶこととなった。

 子供達は一人を除いて積極的に吾輩に話しかけてくるし、村の人間達も皆優しかった。

 

 孤児院での勉強も簡単に出来た。

 

「すごーい!何でわかるの!?」

「ふふふ……昔読んだ本に書いてあった!」

「へぇー、やるじゃん」

 

 村の農作業もいっぱい手伝った。

 

「おお!嬢ちゃん見た目によらず力持ちだなぁ!」

「ふふん!魔族だからな!」

「ホント助かるわ〜。お菓子あげちゃう!」

 

 魔法を披露した事もある。

 

「ちゃんと火が通ったかわかる魔法って凄い便利ね〜!大きいお肉とかだと不安なのよね〜」

「ワガハイちゃん、また今度土を肥料に変える魔法使って貰ってもいいかしら?」

「構わんぞ!」

 

 

 この村での生活は、まさに吾輩のこれまでの人生で最高の時間だった!

 

 

 ───しかしそんな最高の日々は、そう長くは続かなかった。

 

 

 

「もう知らない!!」

 

 女の子供が、泣きながら孤児院を飛び出して行く。

 吾輩が、彼女を悲しませてしまった……

 

「ど、どうしたの!?何があったの!?」

「いや、それが……」

 

 泣き声を聞いて、この孤児院の院長が慌てて部屋に入ってくる。

 一部始終を見ていた眼鏡─視力が低い者が掛ける物らしい─を掛けた男の子供が、吾輩のした事を説明する。

 

 

 それは、ご飯を食べ終え、三人で皿洗いをしていた時の事。

 

 吾輩が誤って、女の子供の皿を割ってしまった。

 

 その子はあっという間に泣き出してしまった。皿の破片を踏むのは危険だし、その子を宥める為に吾輩は声をかけた。

 

『割れてしまったものはしょうがない。吾輩が、この皿の代わりに新しい皿を買ってくるぞ!割ったのは吾輩だし、吾輩の貯めたお小遣いでな!』

 

 すると、その子は益々泣き出してしまった。

 

『なんでっ!何でそんな事言うの!そっその皿は、わた、私の大事な物なの!!』

『なっ……そっちこそ何を言っているのだ!?』

 

 

『皿は皿だ!ただの食器ではないか』

 

 

 そう言った途端、その子は泣き叫びながら何処かへと行ってしまった。

 分からない。あの子供は何故そんなにも激昂する必要があったのか……

 

 ……分からねばならない。

 

 

「そう……そんな事が……」

「うん。アイツ酷いんだよ、ごめんなさいの一言も言わないんだ」

 

 

 ごめん、なさい……?

 それは一体、どう言う意味の言葉なのだ?

 その言葉を言うべきだったのか?

 

 

「……そうだったのね。良い?ワガハイちゃん。悪い事をしてしまったら、ごめんなさいをしなくちゃいけないの」

「悪い事……?」

「あなたが割った皿はね、あの子の誕生日に皆で買った物なの。この世のどんな皿も、代わりになんてなれない」

 

 そうだったのか……あの皿には、吾輩には分からない価値のある物だったのだな。

 それなら分かる。大切なものを失えば、怒りが湧くのも理解できる。

 でも……

 

「でも吾輩、割ろうと思って割ったりなんかしていないぞ!」

「……そう、そうよね。わざとじゃない。悪気があったわけじゃない。それはちゃんと皆分かってるわ。でもね、あの皿が割れたのが貴方のせいだったのなら、謝らなければならない。それが、人間にとっての当たり前なの」

「む、むぅ……分かった。ごめんなさいって言う」

「うん!そうね、それならまずあの子を探さなきゃね!」

 

 

 それで怒りが収まるのなら、言うべきなのだろう。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

「どう!?見つかった!?」

「駄目、何処にも居ない!」

 

 あれから数時間が経過した。もう既に日は落ちかけ、夜が始まろうとしている。

 村中の何処を探しても、女の子供は見つからなかった。

 

「まさか……森の方に行ってしまったんじゃ……」

「まずいわね……もしそうなら、魔物に襲われてしまうかもしれない」

 

 魔物か……

 そう言えばここ最近、とても凶暴な魔物がこの近くに棲みついたと言う噂を聞いた覚えがある。

 吾輩は魔族だから襲われないだろうが、あの子は簡単に喰われてしまうだろう。

 

「一応、魔物とも戦える人にも探してもらってはいるけど……」

「夜になってしまったら、見つけるのなんて無理よ……」

 

 戦える人……最初に出会ったあの三人か!

 あの三人なら、その凶暴な魔物にも負けんだろう。なにせ、この吾輩が命の危機を感じるほどの猛者なのだからな!

 

 しかし、こんな事になるのなら、あの時ごめんなさいと言っておけば良かった。

 まだまだ勉強が足りないな……

 

「俺達、あっちを探してくるよ!」

「あいつの行きそうな場所なら覚えがある」

 

 つんつん頭の男の子供が大きい声を出す。

 お、お前……そんな声出せたのか!

 吾輩が話しかけても、ずっともじもじしてばっかりだったのに!

 

「分かったわ。でも、見つからなかったらすぐに戻ってきなさいね!」

「一人になっちゃ駄目よ!魔物がいたら逃げること!良いわね!?」

「おう!」

「言われなくても分かってるよ……ホラ、何してんの。お前も付いてくるんだよ」

「わ、吾輩!?」

 

 眼鏡をかけた生意気な奴が、吾輩にも付いてくるように言う。

 ……でも、そうだな。人間の子供だけでは危険だし、ここはつよつよ魔族である吾輩が付いていくのが最善か!

 

「一番先に、お前がごめんなさいって言わなきゃだろ」

「あっ、ああ、そうだな!うむ!」

 

 

 

 

 数十分後。二人に連れられて、吾輩はなにやら草が生い茂った所に辿り着いた。

 もうそろそろ、本格的に暗くなってきた。足元がよく見えない。

 

「うわっ!?」

「おっと!」

 

 草に足を取られ、危うく転びそうになった吾輩を、つんつん頭の子供が抱き留める。

 だが、ありがとうと言う前に手を離して歩き出してしまった。取り敢えずありがとうだけでも言っておかなくては!

 

「むむっ、助かった!ありがとうな!」

「お、おう……気ぃ付けろよ」

「うむ!」

 

 やはりそっぽを向いて急いで前へ歩いて行く。なんて素っ気ない態度だ!

 まあ、助けられてしまった手前、文句は言えないがな!

 

 

「……ふーん」

 

 

 

 

 そして、草むらを歩き続けて数分後。ついに鬱陶しかった草むらを抜け、曲がった木が空を覆い隠した、広い部屋のような所に辿り着く。

 

 その部屋のような空間の中心には、ランプが置かれ、部屋をおれんじ色に照らしていた。

 

「ここは、俺達の秘密基地だ。院長の目を盗んでよくここに来てた」

「アイツならここにいると思ったんだけど……やっぱりいた。単純だね」

「み、皆……と、ワガハイちゃん……」

 

 女の子供と目が合う。あの言葉を言わなければ……!

 

「「ごめんなさい!!」」

「えっ」

「むっ」

 

 吾輩がごめんなさいと言うのと同時、目の前の子供も、吾輩にごめんなさいと言った。

 

 これはつまり……どういうことだ?

 

 吾輩が頭を捻っていると、女の子供が話し始めた。その瞳は、泣き腫らした跡があった。

 

「ここで……じっとしてたら……なんだかムカムカしてたのが無くなってきて……わ、私、ワガハイちゃんに酷いこと言っちゃったって……おもっ、でぇ……ぐずっ、だ、だがら!」

 

 ごめんなさいと、女の子供は泣きながら言う。

 

 ……吾輩は、院長に言われて初めて、ごめんなさいと言わなければいけない事を知ったのに。

 この子は自分で判断して、吾輩にごめんなさいと言った。

 

 一体何故、ごめんなさいと言おうと思ったのだろう。

 聞かなければいけない気がした。

 

「なんで……なんでそっちがごめんなさいって言うのだ。悪い事なんて、何もしてないではないか!」

 

 

「人間だからじゃない?」

 

 

 眼鏡をかけた生意気な子供が、あっさりと言う。

 

 ……そうか、そうだったのか。

 それが、人間と魔族の違いなのか……

 

「……吾輩も、酷いことをして、ごめんなさい!」

「うん……うん!」

 

 ごめんなさい……その言葉の意味は、まだ分からないけれど

 人間と魔族の違いは、ほんの少しだけ分かった気がする!

 

 

「よし、じゃあ仲直りの握手を……」

 

 

 

 ───ばきり

 

 そんな音が、吾輩の耳に届く。それは、大きな体をした何者かが、木の枝を踏み締めた時に出る音だった。

 

 

 後ろを振り返る。

 

 そこには……見上げるほどに巨大な、大蛇の魔物がいた。

 

「ひっ!?」

「ま、魔物……!?」

「これは……まずいね」

 

 五つの目を持ち、体からは謎の液体が滴り落ちている。

 そいつは、吾輩と三人の子供をじいっ……と見つめている。

 

「あ……ああ……」

「お、落ち着け!院長に教えて貰った、魔物と遭遇した時の対処法を……」

「多分だけど、その対処法を考えた人が想定しているレベルの魔物じゃないよねコレ」

「じゃ、じゃあどうするんだよ!」

「そんなの一つしか無い……頼んだよ、ワガハイちゃん?」

「ほえっ?」

 

 わ、私!?……じゃなくて、吾輩!?

 た、確かに魔物と友達になるのは得意だが……友達になったとしても、お前達を見逃してはくれないと思うぞ!

 

 

 いや、そうか!

 この大きい蛇をこてんぱんにしてやれば良いのか!

 

 そう言うことだな、眼鏡の生意気な子供!

 

「よ、よし、分かったぞ!お前達、少し離れていろ!」

 

 

 見せてやろう……!

 吾輩自慢の最強の魔法を!!

 

変身する魔法(めたもるふぉーぜ)!!!」

 

 変身するのは、もふもふ兎……ではなく!

 この村に来る前に出会った、ぴかぴかかちかちで翼と角が生えた大きい魔物!

 

「形が変わった!?」

「ワガハイちゃんすごーい!!」

「凄いね……あれは竜だ!」

 

 むっふっふ……褒め称えろ子供達よ!

 これが吾輩の、真の力である!!

 

 どうだ蛇の魔物よ!

 吾輩の恐ろしき姿に、震えて逃げ出す事も……

 

 

「キシャアアアアア!!」

 

 あれー!?めちゃくちゃ怒ってるー!?

 そ、そうか。食事の邪魔をされて腹を立てているのだな!

 

 だが、後ろの人間達を食べられるのは困る!

 人間になる為の見本が居なくなってしまうからな!

 

 良いだろう!

 蛇の魔物よ……勝負!

 

 

 

 そこから始まった戦いは、まさにこの世界の頂上決戦。

 

 体に巻き付いて吾輩を締め上げる蛇の体を長く鋭い爪で切り裂き、撒き散らされる謎の液体から子供達を守り、噛み付こうとしてきた蛇の口を両手で押さえ、逆に吾輩も蛇の体に噛み付く。

 

 

 永きに渡る戦いの末、大蛇はついに逃げ出した!

 

 

 吾輩の……勝利である!!!

 

「やったー!」

「凄え……本当に勝っちまった!」

「正直、死ぬかと思ったよ」

 

 変身する魔法(めたもるふぉーぜ)を使い、吾輩は元の体に戻る。

 うむ!今にも意識を失いそうだが、勝ちは勝ちだ!

 

「どうだ……吾輩の力は凄いだろう……」

 

 なんとか言葉を絞り出す。吾輩の勇姿に、子供達も目を見開いて……ん?

 なんか違和感が……

 

「なっ!ななななんで裸なんだよ!?ふ、服は!?」

「あ、あそこに服だった物が落ちてるよ」

「二人とも見ちゃだめー!!」

 

 女の子供が吾輩の前に立つ。まるで吾輩を隠すように。

 

 服…?

 服がどうし……

 

「って、服が無くなってるではないか!?」

 

 も、もしや吾輩、また大事な物を壊してしまった!?

 こ、こういう時は……!

 

「ご、ごめんなさい!」

「おっ、ちゃんとごめんなさい覚えれたんだ。偉いじゃん」

クソッ……心臓に悪いぜ

 

 男の子供二人が、手で目を覆い隠しながら吾輩に話しかける。一人はなんて言ってるのか分からなかったが。

 

 そうだ、こんな時はごめんなさいと言わなければならないと、吾輩は学習したのだ!

 こ、これで許してはくれないか……?

 

「でも……今回ばかりはごめんなさいは要らないかな」

「……へっ?」

「そうだよ!助けてくれてありがとう!ワガハイちゃん!」

「俺達はお前がいなきゃ死んでたんだ。なんなら、こっちがごめんなさいって言う方だぜ」

 

 

 な、なん……だと……

 そんなの、そんなの難しすぎるではないか……

 やっぱり人間はよく分からん!

 

 

 でも、いつか必ず分かるようになって見せるからな!!

 

 





 ワガハイちゃんが話の都合上だいぶ強くなってしまったので、主人公最弱のタグは削除します。

 ただ、ネームドのキャラの中では未だぶっちぎりで最弱なのには変わらないです。
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