「キシャアアアアア!!」
大蛇が吼える。五つの目を持つ、禍々しい魔物。
その周りには、数十人の鎧を纏った人間達。彼ら全員が、鍛え抜かれた歴戦の騎士だ。
「はあああっ───!」
その騎士達の中でも、一層傷だらけの鎧を着た男が、空高く飛翔する。
たったの一太刀で、大蛇の首が断ち切られた。
「いやー、結構簡単に倒せましたね、隊長!」
「また一つ、隊長の伝説が刻まれちまったな」
戦いを終え、男達は談笑する。
彼等は帝国の誇る騎士団。この周辺の村から要請を受け、魔物を討伐する為に彼等はここまで遠征に来ていたのだ。
「お前達、油断はするな」
「えー!?どうしてですか隊長!」
「見ろ、この大蛇の体を」
隊長と呼ばれた男がそう言って、周りの人間達に呼びかける。
そして、大蛇の体にある『三本の大きな切り傷』を指差した。
「この傷がどうかしたんですかい?」
「これは、俺達が付けた傷じゃない。三本の傷……これは爪だ」
「つ、爪ぇ!?」
「この大蛇は既に弱っていた。戦いに敗れ、ここまで逃げてきたのだろう」
戦いに勝利した後だと言うのに、隊長と呼ばれた男の目は鋭い。
まるで、まだ戦いは終わっていないとでも言うかのように───
「恐らく……この森にはまだ、俺達が倒した大蛇よりも強い大型の魔物が潜んでいる。その魔物こそが、俺達の本当の敵だ」
[第3話:本性]
あの大蛇を追い払った後。
吾輩は、偶然にも秘密基地に置いてあった麻布を身に纏い、今にも折れてしまいそうな足をぷるぷると震わせながら、やっとの思いで村に帰宅した。
そんなぼろぼろの吾輩を見た村の人間達は、泣きそうになりながら吾輩達を抱きしめた後、長い長ーいお説教を始めた。
そして、それはもう長〜いお説教を終えた後、再び吾輩達を抱きしめながら精一杯褒めてくれた。
中々悪くない気分だった!
あれから一週間が経った。
苦難を乗り越えた吾輩達は、より一層仲良くなれた気がする。
つんつん頭の子供は偶に吾輩の目を見て話すようになったし、眼鏡の生意気だった子供も少し優しくしてくれるようになった。
そして……吾輩が泣かせてしまった女の子は、吾輩を見つける度に抱きついてくるようになった!
むふふふふ……!
これはもう、お友達と言っても良いのでは!?
吾輩、遂に目標を達成してしまったのでは!?
気になった吾輩は、実際に聞いてみる事にした!
……すぅー、はぁー
よ、よし!
「な、なあ……吾輩とお前達って、もう友達……だよな?な!?」
「……はぁ」
「もうっ!ワガハイちゃんなーんにも分かってないじゃん!」
……えっ、え?
え?え?え?
ち、違うのか……?
吾輩の勘違いで、まだ友達ではなかったのか!?
そ、そんな……
「私達……もう家族でしょ!!」
「友達なんてもうとっくに超えてるよ。そんな事も分からないとか、ほんと魔族って変な種族だよね〜」
「……お、おっ、おおおお!」
そうだったのか!!!
吾輩てっきり友達じゃないって言われるのかと思ったぞ!
全く分かりにくい奴らめ!!
この!この!
「痛い痛い、何急に殴ってきて……何でそんな嬉しそうなんだよ怖いよ……」
……しかし、そうかぁ。
ふふふ……いつの間にか目標を達成してたのか〜
もしかして吾輩って……天才?
「ほら、黙ってないでお前からもなんか言ってやりなよ。この鈍ちんにさ」
「えっ、お、俺!?いや、俺は別に……」
そう言って、つんつん頭はまたそっぽを向いてしまう。
むぅ……何だというのだ!
このつんつん頭が一番分かりにくいんだが!
「そ、そんな顔すんなよぉ!……まあ、俺もお前の事、か、家族と思ってるって言うか……いつか本当の家族になりたいって言うか……や、やっぱり何でもねえよ!!」
つんつん頭が何やらぶつぶつと言う。
聞き取れなくてもう一度聞こうとしたら、今度は顔を真っ赤にしながら孤児院を飛び出してしまった。
な、なんだよもう!
「はぁ……やれやれ。身内がこんなんじゃ、魔族の事もとやかく言えないな」
「変なのー!」
「もしかして、また吾輩のせいで怒らせてしまったのか!?」
「あー……いや、気にしなくて良いよ。いつかアイツからきちんと言わせるからさ」
「う、うむ?よく分からんが、よろしく頼むぞ!」
納得はいかんが、そう言われては黙るしかない。
吾輩達は、中断していた副院長から出された算数の宿題に取り掛かるのだった。
と思ったら、その数分後、部屋から飛び出したつんつん頭がもう戻ってきた。
何やら息を切らして、焦りながら吾輩を見る。
「お、おい!隠れろ!」
「え?……ちょ、ちょっと!何なのだいきなり!?」
「どうしたの!?」
「取り敢えずついて来い!」
つんつん頭が、吾輩の腕を掴んで何処かへと連れていく。
焦り様からしてただ事ではない。
吾輩は、大人しくつんつん頭に従う事にした。
「ここに隠れろ!俺が良いって言うまで出てくるなよ!」
「わ、分かったけど……本当にどうしたのだ?何か不味い事でも起きたのか!?」
「不味いどころじゃない!!」
つんつん頭に連れてこられたのは、皆が寝る部屋に置かれたくろーぜっとの中。
何が起きたのか聞くと、つんつん頭は汗を浮かべながら言った。
「帝国の騎士団がお前を探してる!多分、この村の誰かがお前の事を喋ったんだ!」
「え!?」
「な、何で!?」
「この前の魔物の事……とか?まぁ、穏やかな話じゃあ無さそうだね」
き、きしだん!?なんかやばそうな名前なんだが!?
吾輩の事探してるって……も、もしかして吾輩が魔族だから……?
ど、どうしよう……どうすれば!?
「絶対に出てくるなよ……俺が、何とかするから……!」
「う、うむ……!」
「知らんぷりすれば良いんだよね!?私もがんばる!」
「いや、下手に会話はしない方がいいんじゃないかな……大人達を騙せるとは思えない」
作戦会議をしながら、皆が部屋から出ていく。
吾輩もくろーぜっとの扉を閉め、暗闇の中で蹲る。
「きっと大丈夫……だい、じょうぶ……」
───不安が、独りぼっちの心を蝕んでいった。
──────────────────────
アイツをクローゼットに押し込んでから、俺達は孤児院の外に出ていた。
村じゅうの人間が、中央の広場に集められている。
その人間達の更に中心に、帝国からやって来た騎士団がいた。
傷だらけの鎧を纏った、鋭い目の男が前に出て声を上げる。
「我々は、帝国から派遣されてここに来た!安心して欲しい。貴方がたに危害を加えるつもりは無い!」
その男は続けてこう言った。
大きな蛇の魔物を討伐した事。その蛇の体に、大きな爪痕が付いていた事。その調査の為にこの村を訪れた事。
───そして、この村に魔族がいると聞いた事を。
「今俺がした話に、何か違う点があれば教えて欲しい!魔族は危険な存在だ!放っておけば、確実に死者が出る!これは、貴方がたの命を守る為に必要な事なのだ!」
「……た、確かに私達の村には魔族が居ます!で、でも……とても良い子なんです!」
皆が静まり返る中、一人の女性が騎士に言う。
あの人は……この村で一番の機織り職人だ。俺達の孤児院にも、何着も服を織ってくれた。
「そ、そうだ!一緒に農作物の収穫を手伝ってくれた!」
「俺も、あの子には恩があるんだ!」
「私もよ!あの子がそんな危険な存在の訳がないわ!」
最初の女の人を皮切りに、次々と村の人達が声を上げる。
そうだ……アイツはそんな奴じゃない!
「隊長……これはもう……」
「待て……ふぅ、骨が折れるな」
騎士団の一人が、前に出た男に近付いて声をかける。
上手く聞き取れなかったが、どうやらあの男は隊長らしい。
アイツさえ説得出来れば……!
「今から我々が言う事を、どうか信じて欲しい!魔族とは、人の言葉を巧みに操り、人を騙し、人を喰らう化け物だ!!」
そんな訳ない!
アイツが……俺達を助けてくれたアイツが、化け物の筈ない!
「決して騙されるな!!今まで貴方がたが見て来たその魔族は、そうやって善き存在を演じ、しかし心の奥では、人間をどう食べるかしか考えていない、人とは違う化け物なのだ!!」
男の声に村の人達が圧倒され、段々とアイツを庇う声が減って行く。
何でだよ……
俺達を助けてくれたアイツより、急に現れた奴らを信じるのかよ……!
「"魔王"という存在を、知らぬわけでは無いだろう!!」
魔王……魔族達を束ね、人々を襲う恐怖の王。
その魔王の軍勢が幾つもの村を滅ぼした事を、俺達は知っている。
でも、でも……!
アイツがそんな、人を食う化け物だなんて、到底信じられない!
「さて、魔族の居場所を教えて貰おうか……!」
隊長と呼ばれた騎士が言う。
その言葉に、村の人達の何人かが俺達の方を見る。
「ほう……子供か。そう言えば、この村にいる魔族は子供なのだったな」
「なっ……!?子供だからなんだってんだよ!」
「し、知らない!魔族なんて知らないもん!」
「……その魔族は、時々この村を訪れるんですよ。多分、森のどこかに隠れ家でもあるんじゃ無いですか?」
俺達の必死の言い訳に、騎士は鋭い目を更に鋭くする。
村の皆も、縋るように俺達を見ている。
……怖い。手も足も、ガタガタと震えていた。
「ふむ……それじゃあ君達、おじさんに証拠を見せてくれるかい」
「しょ、しょうこ……?」
「ああ。例えばそうだな……君達のお家に魔族が居ない事を、実際におじさん達に見せてくれる……とか」
隊長と呼ばれた騎士は、俺達に近付き、屈みながらそう言った。
不味い……そんな事をしてしまえば、アイツがいる事がバレてしまう……!
「どうかな君達。おじさんを、お家に案内してくれるかい?」
「それは、その……」
「う……うう……」
「めっちゃ怖がられてますよ隊長」
「慣れない事はしない方がいいっすよ隊長」
「やかましい!……ふむ、君達のお父さんとお母さんは、今どこに?」
騎士が俺達に問う。
にこやかな顔なのに、目がまるで笑っていなかった。
「僕達は孤児なので、お父さんもお母さんもいません」
「そうか……それはすまない」
俺の隣から、聞き慣れた冷静な声が聞こえてくる。
だが、長い付き合いの俺にはわかる。これは咄嗟の言い訳だ。今すぐにでも会話を終わらせたくて出た、拙い言い訳……
「では……今は孤児院にいるんだね?」
「ぁ……」
しまった……そう気付いた時には、騎士達が孤児院へと向かう準備を始めていた。
「ちっ、ちが……!」
「孤児院を探せ!」
「それなら多分あそこっすよ隊長。俺も孤児院出身なんで、雰囲気で分かります」
「む、確かにデカい家だ。因みに聞くが、あれは自分の家だという者はいないか!!……よし、いないな」
誰も何も言わない。ただ黙って俺達を見ているだけ。
きっと、騎士団が怖いんだ。
……俺も、怖くて声が出ない。
アイツが、見つかってしまうかも知れないのに……!
「失礼する!!」
隊長と呼ばれた騎士が、ノックも無しにドアを開ける
だ、駄目だ……ま、待って!!
「あらあら……そんなに大所帯でどうかしましたか?」
「やだ、お客さん?ここはただの寂れた孤児院ですよ〜」
そのドアの向こうには、俺達を育ててくれた、孤児院の主人達がいた。
「院長!副院長!」
「い、いつの間に!?」
「ついさっきね。買い物から帰って、紅茶を飲んで疲れを癒してたのよ〜」
「そしたらいきなり、こ〜んな男前が押し掛けて来るんですもの!ビックリしちゃったわ!」
「は、はぁ」
どこまでも普段通りに落ち着いた二人を見て、俺達もやっと冷静さを取り戻す。
そうだ……こんな頼りになる育ての親が、心強い家族が俺達にはいるんだ!
きっと何とかなる……そんな気がした。
「うわーん!」
「あらあら、そんなに泣いて。怖かったわね〜」
「それで、どう言ったご用件かしら?うちの可愛い子供を泣かせたんだから、しょうもない事言ったらタダじゃ済まないわよ!」
「う、うむ。それについては謝罪しよう。無礼な事をしてしまった……本当に申し訳ない。所でお二方は、この村に棲みついた魔族について、何か知っている事はあるか?」
「魔族ぅ?私は見てないわねぇ」
「噂程度には知ってるわよ?とっても可愛くて、とっても賢くて、と〜っても優しい、普通の女の子だってね!」
二人の醸し出す雰囲気に、先程まで強気だった騎士達がたじろぐ。
流石は俺達の育ての親だ。まるで怯んじゃいない!
───と、そんな時。
足元を、何か小さな生き物が通り過ぎた。
「ちゅう、ちゅう!」
「ね、鼠……?」
何処かで見たようなピンク色の毛をした鼠が、すばしっこく俺達の足の下を通り抜けて行く。
アイツはまさか……
「まぁ、鼠!アイツね、私達のご飯をこっそり食べてたのは!」
「きっと沢山の足音にビビって逃げ出したのよ!ありがとう騎士団の皆様!長年の悩みがやっと解決したわ!」
「あ、あぁ。どういたしまして……?いや、それよりも魔族の事についでなんだが……」
「魔族、魔族って……まるで私達の孤児院に魔族がいるみたいな言い草じゃないの」
「疑っていらっしゃるのなら、どうぞ見ていって下さいな。何処にでもある普通の孤児院で良ければ、ね」
「では、お言葉に甘えて」
よし……よし!
俺の予想が正しければ、もうこの孤児院にはアイツは居ない!
このまま誰も居ない孤児院を探していれば良い。
その間にも、アイツは遠くへ逃げて……
「……いや、待て」
「……どうか、なさいました?」
隊長と呼ばれた騎士が、孤児院の玄関で立ち止まる。
何かに気付いたのか……?
「先程の鼠……見た事の無い種だった」
「まあ、そうでしたか。それはもうこんなど田舎ですから。見た事の無い動物なんてごまんといるでしょう」
「ふむ……そう言えば、この辺りを調査していた時に、一つ不思議な事があった」
不味い……あの男の目、あれは何か確信を抱いた目だ……!
「我々が退治した大蛇の体に、大きな爪痕が刻まれていたのだ。我々は、この大蛇の他にもう一匹、巨大な魔物が潜んでいると予想した。しかし。探せど探せど見つからない。妙に思った我々は、大蛇が何処から来たのかを調べる事にした」
「ほう……それで?」
「その結果、この村の近くで、巨大な魔物と大蛇が争ったであろう場所を発見した。やはり巨大な魔物がどこかに居る。しかし見つからない……そして、本当に奇妙なのはここからだ」
ゴクリ、と誰かが唾を飲む音が聞こえる。
まるで名探偵かのように、隊長と呼ばれた男は自身の推理を語り続ける。
「……足跡が何処にも無い。少なくとも、我々がその場所に辿り着いた頃には、別の場所に移動していた筈なのに」
「空を飛べる魔物だったんじゃないの?」
「我々もそう思ったのだが、あの巨大な爪痕から推測できる体の大きさではそう遠くには飛べない。その周辺も調査したが、足跡一つ見つからなかった。ならば……可能性は一つ。その魔物は、体の大きさを変える事が出来る」
「いや……“変身”出来る、と言うべきか」
例えばそう……先程の鼠のように。
隊長と呼ばれた騎士はそう言って、部下達に目配せをする。
バレた……気付かれた……!
そうだ、きっとあの鼠は……変身したアイツだ!
俺達が何かを喋るよりも早く、部下の騎士達が孤児院から走り出す。
追いかけなければ……!
「待て、少年」
「っ!?……な、なんだよ!」
「あの部下を追いかけると言う事は、君達が魔族を匿っていたと言外に言うようなものだが……それでも、追いかけるのか?」
隊長と呼ばれた騎士に呼び止められる。
帝国の騎士に嘘をついた。
皆が協力してくれたのに、俺のせいで嘘だとバレてしまう。
それでも……行かなきゃいけない!
「ああ!」
「……そうか。魔族を信じても、碌な事にはならないぞ」
「アイツは魔族じゃない」
「なに……?」
「アイツは、俺達の───『家族』だ」
──────────────────────
走る、走る、走る───
ただひたすら、足を動かす。
クローゼットの中まで、あの男の声が聞こえてきた。
『魔族とは、人の言葉を巧みに操り、人を騙し、人を喰らう化け物だ!!』
違う。
『魔族は危険な存在だ!放っておけば、確実に死者が出る!』
違う……
『決して騙されるな!!今まで貴方がたが見て来たその魔族は、そうやって善き存在を演じ、しかし心の奥では、人間をどう食べるかしか考えていない、人とは違う化け物なのだ!!』
違う!!
「吾輩は……人間に、なるんだ!」
走る───ただ、ひたすら。
……何処まで?
せっかく友達が、家族が出来たのに……
吾輩が人間じゃないから、吾輩が魔族だから、失ってしまう。
分からない……分からないのだ。
だから……
「ごめん、なさい……!」
あの男の言った事は、きっと正しい。
吾輩を虐めていた魔族は、今まで大勢の人間を殺してきたとよく自慢していた。
この村を見つける前に出会った二人の魔法使いは、吾輩の話も聞かずに魔法を撃ってきた。
きっと、魔族は……“悪い”んだ。
悪いから、皆にごめんなさいと言わなければいけないんだ。
それが、人間と魔族の……たった一つの違い。
「あうっ!?」
木の根に足がぶつかる
体が、地面へと倒れていく───
「おっと!」
吾輩を、何者かが抱き留めた。
「ふぅ、間に合ったぜ」
「お、お前は……」
つんつん頭の子供!?
「な、何でここに!?吾輩、鼠になって真っ先に逃げ出したんだぞ!」
「やっぱりお前だったのか、あの鼠……何でここにいるのかって、そりゃあお前、この森は俺達の庭だぜ?お前もあの騎士団も知らない近道なんて、いくらでも知ってんだよ」
「そ、そうだったのか……」
な、何だかあのつんつん頭がとんでもなく頼もしい存在に見えてきた!
いつももじもじしてた癖に!
「ほら、行くぞ。なるべく遠くまで案内してやる」
「あ、ありが……いや、駄目だ」
「はぁ!?な、なんで!?」
「……吾輩が、魔族だからだ」
魔族は悪いのだ。悪いから、一緒にいるだけで迷惑をかけてしまう。
そんなの、吾輩のぷらいどが許さない!
「なんだそりゃ……はぁー、くっだらね」
「な、なんだとぉ!?」
「いいか、よく聞け」
つんつん頭が、吾輩の肩を掴む。
そして、じっと吾輩の目を見つめる。
こいつ……正面から見たら結構いけめんだな……
「俺は……お前の事が、好きだ」
「むっ!」
畏まって何を言うかと思えば……全く
「吾輩も好きだ!」
「うぇっ???」
ふっふっふ……やっと正直になったか!
うむうむ!
吾輩も、大好きだぞ!
だって……
「家族だからな!!!」
「……だと思ったぜチクショー!って違う!俺が言いたいのはそうじゃなくて……つまりだな……」
またもやもじもじしながら、つんつん頭が口籠る。
頼もしくなったと思ったら、すぐに頼りなくなった……やはりこいつが人間で一番分からん!
などと考えていると、意を決したのか、つんつん頭が再び吾輩を見つめる。
むむっ、やはり何度見てもいけめんだな……見間違いでは無かったのか。
「お前が、大切なんだ」
たい……せつ……
吾輩が……大切?
……なんで?
ようやく喋ったと思ったら、意味のわからない事を言い出した。
大切とは、どう言う事だ……?
「家族ってのは、大切なものなんだ。ただそこにいるだけで、生きていて欲しいんだ」
「……あ」
「お前が魔族?バカ言え。この世界の誰が何と言おうと、お前は俺達の家族だ」
家族
お父さん
お母さん
吾輩の知らなかった言葉。あの村で知った言葉。
魔族と人間の違いは、一つなんかじゃなかった。
吾輩は……それを知っている。
「生きろ。俺達も───生きていくから」
「……うむ」
後ろから、金属と金属がぶつかる音が聞こえて来る。
もうすぐ後ろに、あの男達が来ている。
「よし、急ぐぞ!」
「うむ!」
走る、走る、走る───
ただ、ひたすらに。
今度は、転ぶなんてヘマはしなかった。
──────────────────────
「ただいま……」
「おかえり。随分ボロボロじゃん。ウケる」
「ウケんな」
見慣れた孤児院に、ようやく辿り着く。
この村にアイツがやって来た時、それはもうボロボロの状態だったらしい。
今の俺も、そんな感じなのかな……?
「おかえり!ワガハイちゃんは!?ワガハイちゃんは大丈夫だったの!?」
「お帰りなさい!それで、あの子はちゃんと逃げれたの!?」
「まあまあ落ち着きなさいな。私達の家族が二人もいてしくじるわけ無いじゃないの!」
うるさい声が一つ、二つ、三つと増える。
ああ、帰って来たんだ。我が家に……アイツの居ない、ほんの少しだけ広くなった我が家に。
「おう、アイツはちゃんと走っていったぜ。きっと……俺達の知らない遠い所までな」
俺の言葉を聞いて、全員が安堵の表情を浮かべる。
冷静だった二人も、例外なく。
「ほら、頑張ったご褒美に、僕の肩貸してあげるよ」
「ありがとよ」
「……それで、ちゃんと好きって言えたんだろうね?」
「んなっ!?」
バレてないとでも?と、アイツは眼鏡をクイっと持ち上げる。
食えない奴だ。流石は俺の家族だな。
「半々……かな」
「なんだそりゃ」
「いや聞いてくれよ!アイツ信じられんくらい鈍感なんだぜ!?」
「あぁ、よく知ってる」
アイツの事を思い出しても、涙なんか出やしない。
ついつい笑みが溢れてしまうような、くだらない思い出ばかりだ。
そんなくだらなくて楽しい思い出を、俺達は時折思い出しながら───
───生きていくのだろう
今後の展開に行き詰まってしまったため、暫くの間投稿を停止させていただきます
本当に申し訳ありません