水族館初心者の俺たち二人は手を繋いで館内の奥へと向かう。
まず目に入ったのは、地下へと繋がる長いエスカレーター。
地上から下界へと落ちた先は海洋生物たちの楽園があった。
「水族館ってさ、俺の感覚ではもっとつまらない場所だと思ってたわ」
「あたしもこんなに凄い場所だとは思ってなかったかも」
「社会科見学とかで行く工場ぐらいつまらないかなって」
水族館は別次元の世界という表現が近いかもしれない。
ガラス張りの水槽を泳ぎ回る色鮮やかで大小形が異なる魚たち。
照明が薄暗い館内に響き渡る、幻想的なヴァイオリンの音色
誰もが心を奪われる静寂で神秘的な世界がここにあるのだ。
「あれ? この魚、見たことある!! あの映画で有名な!!」
目前の水槽を優雅に泳ぐ、オレンジとブラックの縞模様の魚。
所々に白が入り混じっている。
ええと、と俺は考え、遂にその有名な作品の名前を口に出す。
「ファイティング・ニモだ!!」
「戦わないから!! 戦うお父さんの話っぽく感じるけども」
「え? それじゃあ、何なの?」
「ファインディング・ニモ。直訳で、ニモを探し出すことだよ」
ちなみに、と結愛は解説を付け加えてきた。
「お父さんの名前はマーリンで、息子の名前がニモだよ」
「マジかよ。ゼルダの伝説の主人公がゼルダじゃないってぐらいの衝撃だわ」
「その衝撃さがイマイチ伝わらないんだけど……」
「天才バカボンの、バカボンが主人公じゃない感覚?」
「あぁ、それなら分かるかも」
「世代的に絶対に分からないだろ!!」
自分の中では分かり辛い説明だなと思っていただけに……。
結愛がそれを理解してしまい、思わず笑ってしまった。
「実はね、このカクレクマノミって性転換ができるらしいよ」
「LGBT化が進められる現代社会では優遇される存在だな」
「種の存続のためにって意味合いが強いけどね」
「へぇ〜? どんな感じで変わるんだ?」
「クマノミはね、数匹のグループで生活してるの。で、そのグループ内で一番大きな個体がメスになって、二番目以降はオスになるんだって」
「……それはそれで困りものだよな。昨日までオスだった奴がメスになるなんて。逆の立場なら……ちょっと考える時間が欲しくなるぜ」
考えてみろ。
自分の友人や知り合いが、突然性転換してメスになった日のことを。
種の存続のために、そのまま交尾するハメになるとか……うん、考えたくねぇーな。
「勇太が考えているような妄想は起きないと思うよ。クマノミは両性生殖腺を持ってるから」
「何それ? 両生類とかの難しい分類方法?」
「違う違う。一個の生殖腺で精子と卵子をどちらも作れること」
「なるほど……俗に言うところの、ふたなりってことだな。エロ漫画で見たことある!」
「この問題、進研ゼミで見たことがある感覚で言わないでよ!!」
その後も、俺たちは水族館内を歩き回った。
千差万別様々な海の生物たちを鑑賞し、お互いの意見を言い合う。
雑学チックな内容から小学生並の感想を漏らしながら。
普通の恋人同士は、もっとロマンチックなことを話し合っているのだろうか。
そんなことを思いながらも、俺たちは俺たちのペースでいいよなと耽っていると。
「そろそろイルカショーが始まるけどどうする?」
「もちろん、行く」
当然ですとでも言うように、無邪気な笑みを浮かべる結愛。
そんな彼女の手を強く握り返して、俺たちは屋外のスタジアムへと向かう。
「やっぱり結構埋まってんな」
水族館屈指の目玉スポットであるため、客足は多く、席を取るのにも一苦労だ。前側だとイルカの姿を間近で見られるのだが、その分水飛沫を浴びてしまう。逆に後ろ側すぎると、折角のショーを楽しめない。これは悩みどころであった。
「ここでいいのか?」
「うん。ここがいい。折角の機会だし」
結愛が選んだのは、最前列であった。
水飛沫が掛かるので座る人たちが少ないのだ。逆にそれがショーの醍醐味なのかもしれないが、服が濡れるのを忌避するのだ。
イルカショー以外にも、まだまだ水族館には遊べる場所があるのだ。ビチャビチャになった服を着たまま歩き回りたくはないだろう。
「みなさーん、今からイルカの——」
イルカショーが始まる開演十分前。
舞台の上に立つのは、ウェットスーツを身に纏う大人のお姉さん。彼女は簡単なイルカの解説を交え、客との触れ合いを楽しんでいる。同じく前列に並ぶ子供たちが質問を投げかけ、それに対して懇切丁寧に返事を送る。
そのやり取りが何とも微笑ましく、俺の頬は緩んでしまうのだ。
「それではみなさんー。カウントダウンお願いしますー。掛け声と共に手拍子もよろしくお願いしまーす」
開演が迫り、お姉さんは高らかに言う。
「それでは——10、9、8、7」
多くの人々がカウントダウンに参加する。
手拍子を弾ませ、会場全体が揺れ動くのだ。
それはまるで終末世界を救うヒーローを懇願するように。
俺も会場の波に呑まれて、一緒に手拍子を送る。
すると、ふと俺の隣に佇む少女の横顔が視界に映った。
「イルカっていいよね、人気者だから」
誰にも聞こえない程度の小さな声。
ただ、ハッキリと俺の耳には聞こえてきた。
彼女は俺の手をギュッと握りしめて。
「みんなに愛されて、みんなに褒められて、みんなに喜ばれて」
白い肌を流れ落ちる小さな水の粒。
それは頬を伝っていくと、アスファルトの地面へと落ちていく。
彼女は溢れ出る涙を拭うこともなく、ただ本音を漏らした。
「——あたしよりもずっと幸せな生き物だ」
その言葉と同時に、観客の歓声が飛び交った。
体長2〜3メートルほどあるイルカが水中から飛び出し、空中を大きく舞ったのだ。
その大きな身体を『く』の字にさせ、自慢げに口元から牙を剥き出しにさせるのだ。
迫力は凄まじく「おおっ」と声を漏らしてしまうほどである。
新体操のオリンピック選手がクルクルと回る姿をテレビで見たことがあるが、それと同じぐらいの感動があった。イルカってあんなに飛ぶことができるんだと。
「あっ!!」
と言えども、イルカは海の生物だ。空を飛ぶことは叶わない。
大きく飛び上がれば、急落下することになる。
太陽が水面に反射するほど透き通ったプールへと戻った瞬間——。
「ううううう!!!!」
俺と結愛を襲ったのは、大量の水飛沫。
顔面に直撃した俺たちは顔を見合わせて大声で笑った。
◇◆◇◆◇◆
イルカショーが終わった後、俺たちの服はビチョビチョになってしまった。
濡れたままの服で館内を回るのはどうかと思ったが、これも一つの思い出と割り切ることにした。
白いワンピースを着ている手前、結愛の下着が透けてしまうのではないか。
そんな危惧をしていたものの拝むことはできなかった。他の奴等には見えずとも、俺だけに見せる少しエッチな姿というのを期待していたのに……それは残念だった。
「ペンギンだぜ!! やっぱり生で見ると、その可愛さが際立つな」
「うん。可愛い。ペタペタと歩く姿がもう最高!!」
彼氏失格と言われるかもしれないが、結愛の好き嫌いを俺は詳しく知らない。
長い付き合いだから、他の人よりは彼女のことを理解しているつもりだ。
と言っても、最近まで彼女がドーナツ好きだと知らなかったがな。
「ねぇ、知ってる? ペンギンの恋愛事情について」
「何だよ、それ。気になるんだが」
「ペンギンはね、生涯一人のパートナーのために尽くすんだって」
「それだけ夫婦の絆が強いってことだな。俺たちみたいに」
「…………その言葉信じてもいい?」
「当たり前だろ? 俺のパートナーは生涯結愛ただ一人に決まってるだろ?」
そう愛を囁くと、結愛は俺の腕に絡み付いてきた。ふふっと頬を幸せそうに緩ませ、彼女は俺の肩に寄りかかってくる。その姿が愛くるしくて、俺には堪らなかった。
◇◆◇◆◇◆
水族館をグルグルと見て回り、そろそろ帰るかと思っていた頃合い——。
「結愛……こんなところで何をしてるんだ?」
結愛はとある水槽の前で立ち止まり、ジッと真剣な眼差しを向けているのだ。
その先に居たのは——クラゲだ。
ぷかぷかと浮かぶそれは自由自在に水中を動き回っている。
「あたしに似てるなぁ〜と思って」
「結愛に似てる? このクラゲが?」
「うん。誰からも見向きもされない存在だから」
結愛が言う通り、クラゲコーナーは人気が低かった。
少年少女の人気は、イルカ、サメ、エイ、ペンギン、ウミガメなど。
それに比べて、クラゲというのはあまりにも地味すぎる。
ただぷかぷかと浮いているだけで、何の面白味もないのだ。
「俺たちが見てるだろ? だから誰からも見向きされないわけじゃないだろ?」
「見てる人はちゃんと見てるってこと?」
「そういうことだよ。水族館に来る前に言ってたこと忘れたのか?」
数時間前に結愛が話していたことを思い出しながら、俺は続けた。
「この水族館に端役は存在しない。全員が主役なんだろ?」
俺の軽口を聞き、結愛は「そうだね」と優しく微笑んだ。
「今日の主役は間違いなくクラゲだった!!」
そう力説する最愛の彼女を眺めていると、質問が飛んできた。
「勇太の主役は何だった?」
「主役? それはもう決まってるよ」
「エイ? ウミガメ? やっぱりイルカ?」
「違うよ」
俺は言葉を溜めて断言する。
「——人魚姫」
「何それ〜? どこにいたの?」
空調が行き届き涼しい館内を舞うように移動する幻想的な人魚姫。
俺は彼女に腕を引かれて水族館に至る場所へと連れ回された。
その微笑む姿を目にするだけで、俺の心は何度も奪われたのだから。
今回のMVPは間違いなく——人魚姫だ。
◇◆◇◆◇◆
「あぁ、楽しかったな。水族館」
「うん。最高だった!!」
入口がエスカレーターを下るのならば。
出口はエスカレーターを上がっていく。
ガラス張りの水槽には、優雅に泳ぐ魚やサンゴの姿があった。
俺たちは彼等に別れを告げながら、無事地上へと戻ってきた。
幻想的な世界への余韻に浸りたい気分なのだが——。
「水族館のレストランは、どうして海の幸があるんだろうね?」
「いや、気持ちは分かるぞ、結愛。うん、物凄く分かるぞ」
水族館側の配慮として、水槽とレストランを別々にしているのは分かる。
だが、もう少し余韻に浸りたい俺たちにとっては——。
このレストラン自体がなくてもいいんじゃないかと思ってしまう。
勿論、お腹を空かせる客がいる以上、レストランはあってもいいのだが……。
「さっきまでアレだけ魚を見てたのに……何か悲しい気分になるよね」
「海の幸を食べることも水族館側の一つの楽しみなんだろ」
「サイコパスの考えだよ!! 絶対にそれは!!」
結愛はプルプルと震えながら言う。
「あんな元気に泳いで、あたしたちを幸せにしてくれたのに?」
「統一性が欲しいんだろ? 水族館ならではの独自メニューがさ」
「納得できない」
「観賞用と食用の魚は違う。これでいいんじゃないか?」
俺の提案を聞き、結愛は渋々と言った感じで「……うん」とうなずいた。
「お土産屋さんってさ、何かパッとしないよな」
「勇太……それはご法度だよ」
「実用性が高いものを選びたいけど、地味に値段が高いんだよな」
俺と結愛はお土産を物色することにした。
本日見て回った生物たちをモチーフにしたお菓子やグッズが販売されている。
と言えども、これってのがなくて、俺は悪戦苦闘してしまう。
結愛は「これにする」と言い、迷うことなくクラゲのぬいぐるみを購入していた。
某子供から大人にも大人気なモンスターゲームに登場するクラゲの最終進化系に若干似ているものの、色合いは黄色と白を織り交ぜた感じだ。
パッと見、キノコと見間違えそうな代物を抱き抱えながら、結愛は訊ねてきた。
「それで勇太はどうするの?」
「ん? 俺は——」
結局、俺はお土産と呼べるものを購入しなかった。その代わりと言っちゃなんだが、通行証メダルを発行することにした。一枚500円なのが、金欠気味な俺には痛手だ。
「体験型ツアーがあるみたい。ちょっと気になる!!」
お土産コーナーを離れようとした瞬間、結愛が目をキラキラさせてそう言った。
ポスターに描かれた体験型ツアーの紹介文。
貝殻などを使って自分だけのアクセサリーを作るというもの。
オシャレな女性陣に人気との触れ込みも書かれている。
「残念。予約制みたいだぜ?」
「……う、ウソ。よ、予約制……!!」
肩をグダァッと落とす結愛。
彼女は不貞腐れた子供のように。
「…………何かやる気を失った」
そう呟いた後、結愛は他のポスターへと目が止まったようだ。
「こういう日は炭酸を飲みたくなる!」
「結愛は炭酸苦手じゃなかったけ?」
「炭酸は苦手。でも、ラムネだけは特別」
この水族館限定のラムネ。
地元特製の塩を使用しているらしく、ここでしか飲めないとのことだ。
結愛が自分から意見を言うのは珍しい。彼女の意見を尊重しなければならない。
「よしっ!! ラムネを飲みながら帰るか」
俺の提案に対し、結愛はコクリと頷いた。
それから水族館限定のラムネを購入し、俺たち二人は帰路に就くのであった。
◇◆◇◆◇◆
「もう夕方になっちまったな」
海で遊び気満々だったのだが、もう既に夕刻になってしまった。
愛する彼女の水着姿を一目みたい気持ちもするが……。
カナヅチな彼女と泳ぎに行く必要はないのかもしれない。
と言えども、折角の海だし、二人で浜辺を見て回るのも悪くないだろう。
ていうか、浜辺を歩く恋人同士というのは最高の絵になるはずだ。
そう思い、俺が「浜辺にでも行ってみるか」と言おうとした瞬間——。
「ねぇ、勇太」
隣を歩いていたはずの結愛が立ち止まり、後ろから俺の服を掴んでいた。
立ち止まった彼女へと振り向くと、白い肌を僅かに赤く染めている。
彼女は辿々しい口調で言う。
「実はね、こっちのほうに恋愛成就の祠があるんだって」
「祠……?」
「うん。一部では有名なスポットになってるらしいの」
俺は神様なんて信じない。恋愛成就なんてあるはずがない。
そこに足を運ばせた人間全員が幸せになれるはずがない。
そんな冷めた目でしか物事を見ることができないが、これとそれと話は別だ。
愛する彼女が行きたいというのならば、俺は火の中、水の中、あの子のスカートの中でも行ってみせるさ。うん、犯罪で捕まらない限りは。
「あれじゃないか?」
「ん〜? どれ? 見えない」
「あれだよ、あれ。遠くにあるけど、鳥居っぽいのが見えるだろ?」
俺と結愛は恋愛成就の祠を探していた。
話を聞く限りでは浜辺を歩いた先——岸壁にあるようだ。
早くその場所に向かおうと、俺は残っていたラムネを一気に飲み干した。
シュワシュワと炭酸が口の中で弾けた。傾けると中のビー玉がカランカランと音を立てる。その音を聞くだけで涼しく感じる。海側は強い風が吹き、蒸し暑さは殆どない。逆にもっと過ごしたいと思ってしまう。
結愛も俺と同じくラムネを一気に飲もうとするのだが、飲み干すことができない。炭酸が苦手なのだ。目尻を横に伸ばし、「うう〜」と皮らしい唸り声を上げている。
「結愛、別に俺を真似しなくてもいいんだぜ?」
「真似したいんだよ。勇太と思い出を共有したいから」
そう呟き、もう一度結愛はラムネとの格闘を行った。
お次は渋そうな表情を浮かべつつも、一滴残らず飲み干すことができた。
カランカランと鳴るビー玉の音が、やけに鮮明に聞こえてきた。
「ここが恋愛成就の祠?」
「そうらしいよ。猫神様がいるんだって」
「猫が神様? 恋愛成就で聞いたことないぜ」
「そ〜いう珍しいところもいいんじゃない? 本物っぽくて」
「今の言葉、怪しげなセミナーで使われてそうな気がするな」
名付けて、逆張り理論。
マニアックっぽい場所を提示することで、相手の心を鷲掴みにする感じ。
女性をデートに誘うならどこかという質問に対して、「遊園地」「水族館」「映画館」などの人気スポットを出さずに、「少しオシャレな雑貨屋」みたいな感じの……。
この何とも言えない、けれども言いたいことは分かる程度の一部層に理解を得られる答えを出すことで、相手に「コイツできる!」と思わせられる技術。
「で、どうしたらいいんだ? お賽銭でもすればいいのか?」
「どうなんだろ? 一応やったほうがいいのかな?」
「それならやっとくか。でも、どこに置くべきなんだろうな」
「海に投げ入れるでいいんじゃない? ローマの休日っぽく」
俺と結愛は二人揃って並び、後ろを向いたまま海へとお金を投げ入れる。
波が強く、それが入った音は全く聞こえなかった。
ただ入ったと信じ、俺と結愛は真正面で向かい形を取った。
それは、まるで今から結婚式で愛を囁く新郎新婦のように。
「それでは、時縄勇太さん」
コホンと咳払いをしたのち、結愛は真剣な表情で続ける。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、本懐結愛さんを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
俺の答えは決まっていた。
その答えを口に出すと、彼女は幸せそうな笑みを浮かべてくれた。
「それじゃあ、永遠の愛を誓うためにここでその証明をしてよ」
証明しろ。そう言われたら、もうやるべきことは一つしかない。
そう思い、俺は彼女の肩を抱き寄せ、永遠の愛を誓うキスを行った。
ねっとりとした舌触りと、触れ合う吐息。ラムネを飲んだ後ということもあり、お互いの口内は甘かった。脳がとろけそうなほどに、幸せな気分でいっぱいになる。
「にゃぁ〜」
そんな折、俺たちの元に謎の黒猫が現れた。
首元には首輪と鈴がある。毛並みが整った小柄な黒猫だ。
人懐っこい性格なのか、もう既に結愛から抱き寄せられていた
「猫……?」
「可愛いね。こんなところに住んでるのかな?」
「ただの野良猫じゃないのか?」
「もしかして恋愛成就の神様だったりして……」
「でも、首輪があるし、飼い猫なんじゃねぇーか?」
ってあれ……?
この猫……俺がよく知る猫に似ているような……。
いや、待て待て。ここは地元から遠く離れた土地だぞ。
まさかな……うん、そのまさか……。
「にゃこ丸〜〜!?」
飼い主と思しき、背丈がある女性がこちらへと走ってきた。
見事なたわわを持つ彼女は、たぷんたぷんとその果実を揺らしている。
浜辺で遊んでいたのか、その女性は水着の上から上着を羽織っているのみだ。
それにしても……にゃこ丸だと?
「ごめんなさい〜。ここに黒い猫が——」
背丈がある女性。
そう認識していた人物は、俺がよく知る女の子であった。
彼女は俺とその隣に居る結愛を見比べ、驚きの表情を浮かべたままに。
「って、あれ? どうしてここに時縄くんがいるの?」
「それはこっちのセリフだよ!!」
俺はそう強く言い放った。
「どうしてお前がこんなところにいるんだよ、彩心真優」