遊戯王 Another GX   作:RABOS

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 わりと短めに済んだので、前後編分けずに書きました。
 相変わらずデュエルは短期決戦です。すんません。


第七話:激突! サイバー・エンドvs究極竜騎士

 ―――――公開デュエル、当日―――――

 

 

 その日、デュエル・アカデミアは一年でもっとも社会に注目される日となった。

 一年から三年にわたる全ての生徒、教職員、そして外部から招いたマスコミ関係者とプロリーグのスカウトなど……。学園で最大の収容人数を誇る大デュエル場――ローマのコロッセオのように四方からフィールドを見れる――に彼等は集まり、試合の開始である午後1時の到来を待っている。メディチ家の末裔が提案した公開デュエルの開始を。

 大々的に喧伝された割に、外部の人間の本音は統一されている。《期待していない》だ。デュエルを行うのはラー・イエローの1年生、下柳遊座。バトルシティの予選で敗退した経歴を持つ、ごくありふれた名無しのデュエリスト。片や、プロ・アマチュア問わず活躍するサイバー流に若くして名を連ねる、オベリスク・ブルーの2年生、丸藤亮。名前でも実績でも、勝負は戦う前からついている。マスコミはサイバー流の良い絵面を撮るため、スカウトはサイバー流の師範たる鮫島と逢うために学園に来たに過ぎなかった。

 外部の人間でこれであるなら、まして学園内部の人間がどれ程期待していようか。

 カードマニア倶楽部の小野木は後輩を従えて、客席前席に座る丸藤亮に向けてカメラを合わせていた。フィールド全体が見渡せる最高の場所、つまりマスコミ関係者の隣に陣取っている。

 

「んー、今日も凛々しいですネ。カメラ班」「準備OK!」

「データ収集班」「いつでも!」

「宜しい。今日のデュエルは見物デス! 一瞬たりとも捉え損ねてはなりまセン! サイバー流のエースと、狡猾な盗人が所持する更なるレアカードを記録するのですカラ!」

「すべてはカード界の平和と、正義のために!」

《ビバ・デュエっ!》

 

 大人たちの白い視線に、純粋な子供らが気付くことはなかった。

 クロノスは遅めの昼食代わりにヨーグルトを食べていた。ベリーを頬張る口に邪な笑みが浮かんでいるのに、鮫島校長は気付かないふりをする。

 

「ムフフ。テレビ局のカメラがいっぱいナノーネ。頑張った甲斐がありまスーノ」

「クロノス教諭。興奮されるのは分かりますが、マスコミ関係者に聞こえますぞ」

「こ、校長……これは失礼ヲバ」

「先程、社長から連絡があった。『腑抜けたデュエルをするようだったら容赦せん』とのお達しだ」

「オゥ、ディーオ……。これは一念発起しなければ! シニョール・マルフジに、発破を入れてきまスーノ!」

「彼に限って緊張することは、って、行ってしまった」

 

 クロノス教諭もそして鮫島校長も、他の大勢と同じように丸藤がなぜカイザーと呼ばれているか、その所以を知っている。サイバー流の力を知っているからこそ、彼の勝利を確信しているのだ。

 一方、大デュエル場の外……通路脇の控室に、数少ない遊座の応援団が詰めていた。男子・女子も、ラー・イエローとオベリスク・ブルーの一年生によって構成されていた。

 

「ゆ、ゆま。本気でやるつもりなの? こんな恥ずかしい恰好で!」

「やるしかないですぅ! 下柳さんも男の子ですから、きっと喜んでくれます!」

「で、でも、丈が短すぎない?」

「ホットパンツですから足を上げ過ぎでも平気ですよ?」

「そういう問題じゃないでしょ!?」

 

 溌剌として笑う親友に向かってディレは抗議する。宮田は不思議そうに首を傾げて、スレンダーな体にフィットする薄っぺらいチアガールのユニフォームを撫でた。彼女も緊張しているのか、肌に僅かな汗が浮かんでいる。

 そう、チアガールだ。スーパーボウルにでも参加して男達の眼を惑わすような本格的で、華美で、色気のある衣装。首元から胸の谷間まで大きく開いたオレンジの上着は、健康的な下腹部は完全に露出している。下肢に着ているのは宮田の言う通りホットパンツだ。だが黒色のそれは、上は臀部の割れ目がぎりぎり見えないくらいであり、下は臀部の肉付きが若干隠れる程度でしかない。身体が少し太っていれば、確実に裾からはみ出ていた。

 ディレが顔を真っ赤にしているのは、過激な服で自分の身体――ふくよかな谷間と丸い臍――を晒しているからだけではない。ユニフォームを着るためにブラは外し、下はティーバッグを履かなければならなかったのだ。慣れぬ感触で羞恥心がさらに掻き立てられ、ツァン・ディレは立っているだけで精一杯。

 そんな同級生をよそに、藤原は余裕のある艶美な笑みを崩さない。学園の誰よりも美しい女子生徒は、エロティシズムの食指を動かす女神のような黄金律の四肢を飾っていた。張りと均整の取れた胸、柳のように引き締まった腰は、同性の嫉妬すら起こさせぬほど完璧。彼女一人で、パリコレを制圧できる。

 

「ところで、なんで私まで巻き込まれているのかしら?」 

「暇してたんでしょ? だったら、死なば諸共よ……」

「一緒に遊座さんを応援して、あの人のヒロインになりましょう!」

「勝手に殺さないでほしいわ……でも、ヒロインというのはいいわね。彼が私を見て興奮するかと思うと、ぞくぞくするわ」

「……こうなったらヤケクソよ、ボク! 一気に行って、バァって応援する! よし、オッケー! 嗚呼、やっぱ恥ずかしい……」

 

 僅か三人のチアリーダー。だが意気軒昂ぶりは、百人のデュエリストに勝る。

 対して男子、番長のような学ラン姿。遊座に親しいラー・イエローの僅かなメンバーは皆、魅力的な女子に見惚れて遊座の事など考えていない。オベリスク・ブルーの三人……向田とその取り巻きは、憂鬱そうに顔を見合わせている。

 

「……なぁ。どうして俺たちも一緒にやらなくちゃいけないんだ?」「そりゃお前、六武衆とHEROにボコられたからだろ。いいじゃないの、近くでカワイコちゃんの匂いを嗅げるんだし」

「最低ですぅ!」「この変態」「死ねばいいのに、この馬鹿男!」

「「ありがとうございます、姉御!」」

「……こいつら、いい加減見捨てるべきか?」

「ちょっとちょっと、向田さん! あなたが一番声が大きいんですから、一番頑張って下さいね」

「こんな恰好は不本意だ! 指揮者はタキシードが正装なのだぞ! 優雅にタスクを振らせたまえ! そして君達を指揮させたまえっ!」

「そういえば麗華から教わったんだけど、あんた、恥ずかしくて身悶えするようなことを中等部でやったんだって?」

「ふぅん? さぞかし、面白かったんでしょうねぇ。当時は」

「う、ぐぐぐ……どうしろというのだ、この私に! 恨むぞ、下柳遊座め!」

 

 屈辱に肩を震わせつつ、向田は白手袋と翼神竜印の鉢巻を着る。かくして応援団の心は一つとなり、時間の到来まで打ち合わせに励むのだった。

 彼等の思いが試合前に届けばきっと、遊す座の緊張は少しばかり楽になったかもしれない。今の遊座は、張りつめた糸まではいかぬものの、緊張で手足が震えていた。

 

(また目が白んできた。嗚呼、緊張してる)

 

 会場内。彼は、杖とデュエルディスクを抱き締めるようにして最前部の席に座っている。あちこちから、視線が彼に注がれている。無遠慮で温かみがない。ペットショップで商品を吟味するような、そんな感じだ。

 ふと、彼の肩に重みが増した。遊座にだけ伝わる、相棒の手の感触だ。彼の容姿が最も頼みとするカードであることが、心の支えとなっていた。

 

『震えているぞ。そんなに緊張するのか?』

「……針の筵だよ。これから僕のすること一つ一つに皆が反応さる。それがちょっと気になっちゃうんだ……分かるでしょ」

『ああ。だが余り深く考えるな。ド壺に嵌る。もし考えたいのなら、こうだ。「やってやる、やってやるゾ!」』

「はは、なにそれ?」

『開き直れと。観衆が求めるのは圧倒的な勝利ではない。心を動かすような戦いだ。お前のデッキなら、それができる。後はお前の覚悟次第。違うか?』

「……僕のデュエルにそんな力があるか、分からないや。けど……今日は、勝ちたいな。それに、藤原さんとの約束がある。今日だけは負けたくない。彼女のために、勝ちたい」

『……ほう。頬を生娘みたいに染めて。惚れたか?』

「ば、馬鹿言わないでよ! 不謹慎だよッ、デュエルの前に惚れた腫れたなんて!」

『緊張を解してやったんだ。ほら、少しは落ち着いただろう。その感じで後ろの彼女とも接してやれ』

 

 にたりと、通路の方へ笑いかける混沌の戦士。

 そこには原麗華が、朝露に濡れる菊のようにしおらしく立っていた。

 

「あ、あの、下柳さん」

「あ、ああ! 原さんか。よかった、緊張しててどうしようかと思って。ともだ、いや、知り合いが近くにいると安心できるね、ハハ」

「……なんだか、下柳さんのそんな姿を見るの、初めてな気がします」

「ん?」

「いつも冷静で、余裕をもってデュエルに臨まれていましたから。今日の下柳さんは、ちょっと興奮されているように見えます。小動物みたいです」

「し、小動物? まぁ、下手なデュエルを見せちゃ恰好がつかないからね。カメラもあるんだ。テレビの前のじゃりん子達のために、エンターテイメントのフィールが味わえるデュエルをしないと! 僕もデュエリストだからね!」

「なんだか、やる気満々って感じですね」

「うん。なんだか体が火照って仕方ない。落ち着かないんだ……こんな気持ち、初めてだよ」

 

 彼のおどけたようで、しかしシッカリとした笑みを見て、原は俯く。

 普段こそ冷静だが、大舞台では緊張して尻込みするタイプ。それが原から見た下柳遊座。入学試験の二次選考の時もそうだった。だがそれを抑えて、気丈に振る舞っているのはどうしてか。どんなきっかけがあって、彼は変わったのか。

 彼女の脳裏にふと、艶やかな女性の微笑み……藤原雪乃がちらつく。そして彼の表情が、初恋を叶えんとする女子のそれにソックリだと気が付いて……原は合点がいってしまった。じわり。心の奥底に鉛のようなものが広がる。

 

「……藤原さん、ですか?」「えっ!? ど、どうして彼女のことを?」

「……何を言われたんですか、あの人に」

「え、えっとぉ、私の悔しさの分まで戦って、とか。だから戦うんだ」

《ンッン、レディースアンジェントルメーン。これより、学期末公開デュエルを執り行うノーネ。シニョール・マルフジ、シニョール・シモヤナーギ。壇上に上がるノーネ》

「……じゃあ、行ってくるよ」

 

 かつん。杖を片手に、遊座はフィールドへ上がろうとする。

 原は慌てたように彼の背に向かって言う。

 

「あ、あの! 月並みな言葉しか言えませんが、頑張ってください。私はあなたのことを、その、応援してます!!」

「ああ! 勝ってくるよ、原さん!」

 

 振り替えって笑みを一つ。焦がれるような顔をする原から目を離して、遊座は勇むように壇上にのぼっていく。

 フィールドの反対側から、丸藤亮が上がってきた。まだ鳴りを潜めている闘犬のような顔付だ。彼の端正な口が、くいっと吊り上がった。

 

「今日という日を心待ちにしていた。良いデュエルをしよう、下柳」

「はい。全力全開で、やってやります! 先輩、倒してますからね!」

「ああ、かかってこい!」

 

 

 遊座はデュエルディスクを嵌め杖を底部に固定すると、肩幅に開いた両足の間、体のすぐ前に杖を落とす。ピンと背筋を伸ばす。

 立体映像(ソリッドビジョン)による爆風で、体が吹っ飛ぶかもしれない。だが今日だけは、どんなに格好悪くても自分のデュエルをする。そして勝つ。

 遊座は武者震いしながら叫んだ。

 

 

 ――デュエル!!

 

 

 その瞬間、大デュエル場の入口から、幾人もの影が走ってきた。

 彼等は前列と後列を別つスペースに並ぶと、煌びやかなボンボンを、翼神竜の応援旗を振り上げた。

 

《フレー、フレー、ゆーざー!》

「えっ……ええっ!?」「……なんだあれは」

 

 やや白んでいた遊座の眼に、見知った者達の姿が映り……遊座の顔が見る見るうちに赤くなった。

 桃、茶、淡白な紫……スポーティに揺れ動く女性達の髪の毛。オレンジ、黒、金色……肉体的でアダルティなチアリーダーの服。そして白、また黒……ヤケクソ気味な男達の学ランと鉢巻だ。

 彼と縁のある女性達が、思春期の若者を挑発し大人の視線を釘付けにする、ド派手な格好をしていた。緊張でぼやけつつあった目が一気に覚醒したのは、彼女達のエロティックな肉体に反応したためか。

 

《フレー、フレー、ゆーざー! 頑張れ頑張れ、ゆーざー! 殺れ殺れ、ゆーざー! カイザーぶっ倒せェェっ!》

「と、突然どうしたノーネ!?」

「ふ、フレーフレー、ゆーざー!! フレーフレー、ゆーざー! 嗚呼、恥ずかしい……」

「あ、あうぅ、いざやると緊張しますぅ……負けたら承知しませんよぉ! がんばれー! がんばれー!」

「気合だー! 根性だー!」「やけっぱちだー!」「戦いたまえぇぇっ!!」

 

 オペラ歌手顔負けの雄大な声量が、向田の存在を誇示している。

 

「私にこんなことをさせるんですもの。男を見せなさい、ぼうや」

 

 遊座の視線が数秒ほど、藤原にのみ集中された。彼女は会場のすべての視線をそのメリハリのはっきりした肉体でさらい、しかし全てを無視して遊座だけを見詰める。

 情念に訴えかけるように腕を振り、足を晒す。ちらりと唇を一舐め。蠱惑の眼差しには、沼地の泥濘よりもドロドロとした彼女の心が現れており……遊座の胸を、ひどく弾ませていた。

 深く深呼吸して、遊座は相手に向き直る。さすがはカイザー、動揺しつつもあれを見て顔色一つ変えてない。

 

「……なんか、すみません」

「気にするな。それより君の方こそ大丈夫か。致命傷の顔色だ。サレンダーするか?」

「いいえ。今日はあなたを倒します! 男の子には意地があるんですよ!」

『そうだ! 思いっきりやれ!』

「ああ! 絶対本気でカイザーを倒す!! 僕の先攻、ドロー!!」

 

 

 ―――――――

 

 手札:バトルフットボーラー ミラーフォース 融合武器ムラサメブレード 魂のリレー スピリット・ドラゴン

 ドロー:ダメージ・コンテンザー

 

 ―――――――

 

 

 さてどうするか。

 何度も丸藤亮の対戦ビデオを見て理解したことは、彼を相手に守勢を張るは愚の骨頂ということだ。だが遊座のデッキは、今は少し待てと告げている。それを遊座は信じた。

 手にするのは守備力が2100のからくりアメフト選手。そして2枚の攻撃反応型の罠と、今は不要の装備魔法。

 

「『バトルフットボーラー』を守備表示で召喚。さらにカードを3枚セットして、ターンエンド(手札6→2)」

「俺のターン、ドロー。手札から、『タイムカプセル』を発動。デッキからカードを1枚選択してゲームから除外。発動後2回目の自分のスタンバイフェイズにこのカードを破壊し、除外したカードを手札に加える」

 

 丸藤の手元から、青瀝(せいれき)を施したミイラを入れる棺のようなものが現れた。

 その中に収められる1枚のカード。厳重に仕舞われたそれを、相棒は睨む。

 

『あれは、やつの切り札だろう。このデュエルの趨勢を決める』

「……タイムリミットは、あと2ターンか」

「これをどう捉えるかは君次第だ。

 手札から『サイバー・ドラゴン・コア』を召喚。このカードは、フィールド・墓地に存在する限り『サイバー・ドラゴン』として扱う」

 

 数珠のように丸っこい『サイバー・ドラゴン』が現れる。ビデオで度々出てきた二つ星機械族モンスターだ。

 

「『サイバー・ドラゴン・コア』が召喚に成功した時、デッキから「サイバー」、または「サイバネティック」と名のついた魔法・罠カードを1枚手札に加えることができる。その効果で、俺は『サイバー・リペア・プラント』を手札に加える。

 さらに魔法カード、『融合』を発動。フィールドと手札の『サイバー・ドラゴン』、この2体を融合させ、『サイバー・ツイン・ドラゴン』を召喚する(手札6→4)」

『きたなっ、双頭の機械龍!』

 

 フィールドに、白銀の衣をまとう双頭の竜が現れ、観客のどよめきを招く。

 首から胴にかけて、そして胴から尾鰭にかけて走る背中の棘が興奮しているかのように逆立っている。まるで闘志の塊だ。

 

「速攻魔法、『サイクロン』を発動。君の右側の伏せカードを破壊する」

「ミラーフォースが……」

「バトルだ。『サイバー・ツイン・ドラゴン』で『バトルフットボーラー』に攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト、第一打ァッ!」

 

 機械龍の片方の首に、青白くフラッシュが唸り、一つの光弾となってアメフト選手を灰燼に帰した。

 

「『サイバー・ツイン・ドラゴン』は二回攻撃が可能なモンスターだ! エヴォリューション・ツイン・バースト、第二打ァッ!」

 

 もう片方の首から光弾が放たれ、それは真っすぐに遊座に襲いかかる。

 攻撃力2800の猛威は体の芯を揺さぶるくらい凄まじい。倒れそうになる足をなんとか踏み止まらせていると、観客席から可憐な声が飛んできた。

 

「たった一撃ですぅ! 気張っていきましょー!」

「あんた、そのくらいでへばってんじゃないわよぉ!」

「誰がヘバるかってんだ! 戦闘ダメージを受けた時、罠発動! 『ダメージ・コンテンザー』!」

「受けたダメージ以下の攻撃力を持つモンスターをデッキから特殊召喚させる……何を召喚する?」

「切り札、その1です。発動のコストとして手札を1枚捨てて(捨→スピリット・ドラゴン)……『光帝クライス』を召喚します!」

 

 黄金の戦士が現れた。その両手に宿りはじめる光を見て、丸藤は思い出す。

 

「『光帝』のモンスター効果で破壊できるカードは2枚まで、だったな。俺のフィールドを蹂躙するつもりか」

「半分正解です! 僕が選択するのはあなたの『サイバー・ツイン・ドラゴン』、そして自分の伏せカードです!」

「俺の『サイバー・ドラゴン』は、そうやすやすと破壊させん! 手札から『融合解除』を発動! 破壊の前に、『サイバー・ツイン・ドラゴン』を分離させる!」

 

 レーザーのように走る光を回避するように、機械の龍はそれぞれ元の姿に分裂する。双方とも守備表示だ。

 

「破壊対象がいなくなった場合、効果は不発です。僕の伏せカードだけを破壊。そして『光帝』の効果により、1枚ドローできる(手札1→2:高等儀式術)」

「ならばカードを2枚伏せて、ターンエンドだ(手札6→1)」

「僕のターン、ドロー(手札2→3 ドロー:カード・トレーダー) バトルです。『光帝クライス』で『サイバー・ドラゴン・コア』に攻撃! 裁きの閃光!!」

 

 戦士がその手に、稲妻でできたジャベリンを生成して、丸っこい機械龍めがけて投げつける。体に深々と穴を開けた龍は爆発四散し、破片を散らした。

 双方ともにリバースカードの発動をまったく恐れていない。向田はその強気に舌を巻く。

 

「よくもこの舞台で攻める。恐れていないのか。……それにしても帝か。あのシリーズ、私も欲しくいな」

「こら、向田! あんたなにサボってるのよ! 一緒に腕振りなさい!」

「も、もう十分やったではないか! こういうのは、私の得意とするところでは……」

「ぼうや、やりなさい」「マム、イエス、マム! フレー、フレー、ば・か・も・の!!」

 

 会場中に罵声が響く。すぐ近くの人にとっては大迷惑かもしれないが、遊座にとっては心強い大声だ。

 

「カードを伏せ、『カード・トレーダー』を発動します。ターンエンドです(手札3→1)」

「俺のターン、ドロー(手札1→2)。『強欲な壺』を発動。デッキから2枚ドローする(手札1→3)。

 手札から魔法カード、『サイバー・リペア・プラント』を発動。自分の墓地に『サイバー・ドラゴン』が存在する場合に発動。デッキから機械族・光属性モンスター1体を手札に加える」

「ああ、『コア』の効果ですね」

「そうだ、『ドラゴン・コア』は墓地にいるとき『サイバー・ドラゴン』として扱われる。そして手札に加えた『サイバー・ヴァリー』を守備表示で召喚。ターンエンドだ」

 

 

 ―――――――

 

 丸藤:【LP】4000

    【手札】1

    【場】 タイムカプセル(@1) (伏)

        サイバー(守) ヴァリー(守)

    

    【TURN 5】

 

 遊座:【場】 光帝 

        (魂のリレー) トレーダー

    【手札】高等儀式術

    【LP】1200

  

 ―――――――

 

 

 遊座から数えて3ターン目。相手フィールドには機械龍と、もう一体の見知らぬ龍。遊座の場には黄金の戦士……そして念の為伏せておいた、命綱が一枚。

 此処が勝負の分かれ目だ。次のターンには相手の手札に切り札が入る。それを阻止する手段は今の遊座にはない。彼が最も恐れているあのモンスター……攻撃力4000という桁違いの力を持つあれがフィールドに出た時、サイバー流は真の力を発揮する。今までモンスターの攻撃力で勝利してきた遊座では、到底辿り付けぬ次元。攻撃力1万代の攻撃。

 熱に侵されつつあった頭で、遊座は結論付ける。エース・オブ・エースが必要だ。

 

「僕のターン、ドロー!(手札1→2:スフィアボム)……ここで、『カード・トレーダー』の効果を発動! スタンバイフェイズに手札を1枚デッキに戻す事で、デッキからカードを1枚ドローします!

 手札の『スフィアボム』をデッキに戻し、ドロー! よし! 『強欲な壺』を発動し、2枚ドローする!(手札1→3)」

 

 力強いドロー。カードから心を熱くさせるような力を感じる……1枚は、筋骨隆々の武骨な剣士。そしてもう1枚は、蒼い鎧をまとった混沌の戦士の絵柄。

 

『今しかあるまい、行け!』

「手札から、『高等儀式術』を発動! デッキから四つ星モンスター、『戦士ダイ・グレファー』と『闇魔界の戦士 ダークソード』を墓地に送り、合計レベル8の儀式モンスターを召喚する!」

「来るわよ、ゆま!」「はい!」

 

 二人の戦士が剣を交差するとそれは光を帯びて、彼等の身の丈ほどの曲大剣となる。そして彼等自身もまた一筋の光となり、炎の祭壇を顕現させる。

 がしゃがしゃ。鎧の響き。混沌の戦士は一振りの曲大剣を掴むと、祭壇から跳躍して、フィールドに降り立つ。

 

「『カオス・ソルジャー』、降臨!!」

《イケイケ、ゆーざー! ゴー、ゆーざー!》

 

 思わず頬が緩むような援護の声援。だがここは彼にとってファラオの土地に代わる新しい戦場だ。瞳を爛々と燃やし、正眼に剣を構える。贄となった勇士の遺志を継ぐように。 

 藤原雪乃は熱っぽく、誰にも分からぬように身震いする。汗伝う頬に、艶やかな紅が差した。

 

「いいわよ、ぼうや。もっと体の芯から熱くなって……」

「バトルだ! 『カオス・ソルジャー』で『サイバー・ドラゴン』を攻撃!」

『応っ!!』

 

 大剣を手に戦士は駆け出し、間合い――フィールドのちょうど真ん中――に入るやいなや地面を滑るように跳び、丸まった機械の龍に接敵する。 

 

「『カオス・ブレード!!』」

 

 呼吸を合わせ、敵を屠る。

 機械の龍は縦一文字に両断され、光の粒子となって消えた。その光景にどこからか溜息が聞こえてくる。

 

「続いて、『光帝』で『サイバー・ヴァリー』を攻撃します!」

「『サイバー・ヴァリー』の効果発動! このカードが攻撃対象となった時、このカードを除外してバトルフェイズを終了させる! 更に俺はカードを1枚ドローする!(手札1→2)」

 

 角ばったロボットのような頭をした龍がけららと一鳴きして、不可視のバリアで黄金の戦士から主を守る。

 カイザーのフィールドからモンスターは消えた。だが手札を増強されたことは痛い。まさかとは思うが、次のドロー、そして『タイムカプセル』を含む4枚で形勢を逆転する気なのだろうか。

 だとすると出てくるのは、やはり『サイバー・エンド・ドラゴン』。その召喚には『サイバー・ドラゴン』が3体も必要。うち1体は墓地に送った。残る2体のうち1体が手札にあると考えると……丸藤がそれを呼び出すとするなら、彼は墓地のモンスターを利用する。『サイバー・ドラゴン・コア』という例外の存在が、遊座の警戒心を煽る。

 『ダイ・グレファー』を出さなくて良かったかもしれない。何故から知らないが、嫌な予感が背筋を走った。

 

「これで、ターンエンドです(手札3→1)」

「……なかなかやるじゃないか、後輩。ラー・イエローでいるのが勿体ないくらいだ」

「先輩こそ。さすが学園最強って言われるだけあって、油断も隙もない。でも、先輩はまだ本気じゃない」

「俺がまだ手加減していると?」

「……『サイバー・エンド・ドラゴン』。サイバー流に伝来する最強のカード。それがあなたの最後にして、最高の切り札。そうでしょう」

 

 獲物に飛びかかる前の闘犬の顔にさらに戦意の皺が寄り、瞳孔が細くなる。マスコミのカメラがそれを注意深く捉えている。

 客席で、藤原と原はそれぞれ思いを馳せる。この場にいる誰よりも遊座の健闘を祈っていると……そう心のどこかで自覚している二人だ。

 

(私が越えられなかった壁を、彼は越えた……ここからが本番よ、ぼうや)

(下柳さん……気を付けて。カイザーの本気はここからです)

 

 カイザーはちらりと手札を見る。そして一拍間を置けて、デッキに指をかけた。

 

「俺のターン、ドロー(手札2→3)……見せてやろう、下柳! この俺のパーフェクトを!

 『タイムカプセル』の効果発動! このカードを破壊し、除外していたカードを手札に加える。加えるのは、『パワー・ボンド』!」

「っ! 機械族専用の融合魔法!」

『始まったか、サイバー流の本気とやらが!』

「俺は『サイバー・ドラゴン』を特殊召喚! 更に魔法カード、『エヴォリューション・バースト』を発動! 『サイバー・ドラゴン』がフィールドに存在するとき、相手フィールドのカードを1枚破壊する! 『光帝』を破壊しろ、『サイバー・ドラゴン』!」

 

 機械の龍が怪獣映画を彷彿とさせるようなレーザーを放ち、戦士をフィールドから消し去った。

 なぜわざわざ攻撃力が低いモンスターを破壊したのか。その答えを示すかのように丸藤は最強のカードカードを展開し、遊座の表情からありったけの余裕を奪う。

 

「そして『天よりの宝札』を発動! 互いに手札が6枚になるようにドローする!! 俺は5枚ドロー!」

「僕も、5枚ドロー……!」

 

 

 ―――――――

 

 ドロー:沼地の魔神王 融合賢者 決闘融合 千年の盾 サイバー・ドラゴン

 

 ―――――――

 

 

 カイザーの攻勢展開が止まらない。その手札1枚1枚がオーラとなり、彼の背後に不可視の守護霊を作っているかのようだ。いつの日か夢で見たような、巨大な三つ首の龍……機械仕掛けの八岐大蛇。

 胸が拍動して、視界の隅から虹色のみみずが点滅し始めた。強い緊張が遊座を襲っている。

 

「手札から、『サイバー・ジラフ』を召喚し……俺は『パワー・ボンド』を発動! そして伏せてあった速攻魔法、『サイバネティック・フュージョン・サポート』を発動!」

「『サイバネティック・フュージョン・サポート』……?」

「このターン、俺はライフを半分支払う。機械族の融合モンスターを召喚する場合、手札・フィールド・墓地から融合素材を除外。除外したカードを、このカード1枚で代用する!」

「まさか……まさか!」

「俺は墓地の『サイバー・ドラゴン』、『サイバー・ドラゴン・コア』、フィールドの『サイバー・ドラゴン』を選び、『パワー・ボンド』の効果で融合!(手札6→4)」

 

 三体の龍が、渦の中へと吸い込まれていく。

 丸藤が融合デッキから紫色の枠をしたカードを引いた。絶対的な信頼をおく最強のカード。サイバー流のサイバー流たる、カイザーのカイザーたる所以を担う、融合モンスター。

 

「現れろ、『サイバー・エンド・ドラゴン』!!」

 

 光渦巻くフィールドに地割れのような響きが走らせて、遂にそれは姿を現した。

 三つ首の巨龍だ。その鎧のようなメタリックな肌と大翼は美しく、あたかも皇帝が玉座に座っているかのように圧倒される。天然の高純度の金剛石が、龍に形を変えているかのようだ。

 あれが、『サイバー・エンド・ドラゴン』。『パワー・ボンド』の効果で、機械族の融合モンスターは攻撃力が2倍となって召喚される。すなわち攻撃力は4000の2倍、8000だ。

 大歓声とどよめきが会場から湧き起こる。誰しもが――特にオベリスク・ブルーの生徒ら――巨龍に見惚れ、カイザーの忠実なる僕は遊座の応援団から意気を奪った。

 

「こ、攻撃力、8000……」「あ、あうぅ。こ、こんなの、初めて見ました……」

「こりゃぁ」「ひでぇな」「ど、どうするのかね? 下柳よ」

「勝ちましたな」「やはり、カイザー流ナノーネ……」

「きたァァァッ!! 録画デス! 録画! マスコミどかシテ! レアカードを撮りなサァイ!!」

 

 巨龍の睨みが戦士達の間をすり抜けて、遊座を捉える。妖しく無機質な六つの瞳が彼を茫然とさせ、さらに彼の心を竦ませようとする。

 

「これが、先輩のエースカード……」

『馬鹿、圧倒されるな!』

「とどめだ! 『サイバー・エンド・ドラゴン』で、『カオス・ソルジャー』に攻撃! エヴォリューション・エターナル・バースト!!」

 

 機械龍はその三つの口に大いなる光を貯め始めた。遊座の胸中に、火山の噴火を予期するかのような、どこか現実離れした感覚が去来する。

 そして瞬きの後、巨龍は光線を放つ。あたかも波動砲のようなそれは、混沌の戦士を飲みこみ、遊座ごとフィールドのすべてを飲みこもうとする。

 相棒はその体を消炭にされつつも、力を振絞って叫んだ。

 

『遊座っ! 弱気になるなァッ! 最後まで勝利を信じろォッ!!』

「ああ! まだ僕は負けてない! 罠発動!」

「何人たりとも『サイバー・エンド』は止められん! 攻撃は、続行だ!」

 

 龍が一度首を引いて、より強力な光線を放つ。レーザーがフィールドに炸裂して、爆炎をまき散らす。強風が会場を吹きつけて、前列にいた者達の髪をばさばさと揺らした。

 歓喜の響きがそこら中から木霊する。ディレや宮田、向田は、悔しげに歯噛みした。藤原は瞳を閉じて、小さく息をこぼす。そして原は、立ち上る煙の中心から一瞬たりとも視線を逸らさない。

 丸藤は満足げに息を吐こうとして……薄れていく煙の中に仁王立ちする、武骨な戦士の姿に眼をかっと見開いた。

 

「馬鹿な、そのモンスターは……」

 

 曇天から快晴となるフィールドで、遊座は不敵な笑みを浮かべていた。原が小さく、ガッツポーズをする。

 

「……先輩。僕は攻撃のタイミングで、罠を発動しました。ですが先輩はそれがどんな効果か聞く前に、バトルステップを続行した。そうですね?」

「……気が緩んでいたな。久しぶりに、愉しいデュエルだと感じたからか」

 

 丸藤は遊座のフィールドでめくれ上がる、一枚の罠カードを見詰める。死にゆく者から生き残る者へ、その者の魂を手渡す絵。

 

「手札からモンスター1体を特殊召喚。そのモンスターがいる限り、プレイヤーが受けるすべてのダメージは0になる」

「……そしてそのモンスターがフィールドから離れたとき、プレイヤーは敗北する」

「文字通り命をかけた召喚。そのプレイング、リスペクトに値する。下柳……その不屈の闘志はどこからくる?」

「言ったでしょ。今日だけは、今日だけは、勝つんです! 勝って、僕は……」

「……バトルフェイズを終了する。この瞬間、俺は『サイバー・ジラフ』をリリースして効果発動。このターンに受ける効果ダメージを0にする。よって『パワー・ボンド』のリスクを回避する。

 さらにカードを2枚伏せて、ターンエンド(手札4→2)」

 

 

―――――――

 

 丸藤:【LP】2000

    【手札】2

    【場】 (伏) (伏)

        サイバーエンド(ATK:4000×2)

    

    【TURN 7】

 

 遊座:【場】 戦士ダイ・グレファー 

        魂のリレー(→ダイ・グレファー) トレーダー

    【手札】沼地の魔神王 融合賢者 決闘融合 千年の盾 サイバー・ドラゴン

    【LP】1200

  

 ―――――――

 

 

 遊座は手札を見詰める。可能性の束だ。『ドラゴン・ウォリアー』は使えないが、まだそれでも戦うことはできる。手札に来た機械の龍は、自分に何を告げているのか……問うまでもない。カイザーがやったように、自分も戦えと、それは言っているのだ。

 遊座は客席に目をやった。今や応援団のほとんどが、敗北の兆に肩を落としている。だがそれでも一部の者は、それを感じてもなお健気な意思を自分に送ってくれる。デュエルの間、ずっと応援してくれたのは、カイザーが負ける姿を見たいからではない。デュエリストが勝利に向かって、死力を尽くすことを信じているから……。そして、紛れもなく自分の為に彼等は声を上げ、腕を、旗を振ってくれた。

 丸藤亮という最強の壁に立ち向かう、自分の意思を後押してくれた彼等のために、ここで諦める訳にはいかない。

 

(原さん、藤原さん、ディレさん、宮田さん、向田。皆が応援してくれてる。僕のデュエルを心から!)

 

 遊座は友を見返り、一途な思いで頷く。そして油断なく、しかし期待しているかのように構える丸藤を見据えた。

 

「先輩……今日は僕が勝ちます! 男の意地を、見せてやるんですよ! 僕のターン、ドロォッ!!」

 

 勢いよく、遊座はカードを引いた。引いたカードは……『アームズ・ホール』。

 これが遊座のカード達の答えというのなら、最早迷うまい。

 

「これでラストターンです!! 『カード・トレーダー』の効果で、『千年の盾』をデッキに戻し、もう一度ドロー(ドロー:死者蘇生)!

 『死者蘇生』を発動! 墓地から『カオス・ソルジャー』を復活させる!」

 

 再び蘇る混沌の戦士。遊座の昂ぶりを受けたかのように、秀麗な口許が引きつっている。

 

「『アームズ・ホール』を発動! デッキトップを墓地に送り、デッキから『巨大化』を手札に加える! そして『融合賢者』を発動! 『融合』を手札に加える!」

「……そうか! 下柳、君はッ!」

「僕は手札の、『融合』を発動! 手札の『沼地の魔神王』と……」

 

 ヘドロに塗れた巨人が相棒と肩を並べた。

 そして遊座は渾身の力を振絞り、相棒を指差す。

 

「『カオス・ソルジャー』を融合!!!」

 

 中空に渦巻く黒雲に、二体のモンスターが吸いこまれていく。

 誰しもが、まさかという想いで渦を見上げた。『カオス・ソルジャー』と融合素材モンスター……その二つの組み合わせからなり、召喚されるモンスターを皆が知っている。デュエルモンスターズの神か、キング・オブデュエリストでなければ召喚すること自体できないモンスターだとも。

 渦から遠雷のように咆哮が聞こえる。力持つ者を虜とする、美しい龍の嘶きだ。遊座は融合デッキからカードを引き、鷹揚に、神を正面から見据えるがごとくディスクに滑らせた。

 

「君臨せよ、『究極竜騎士(マスター・オブ・ドラゴンナイト)』!!」

 

 一声を受け、再び嘶きが響いた。ばさり、ばさり。翼を羽ばたかせて、空気を揺るがす。

 デュエルモンスターズの始まりから何時の日か訪れる終わりまで、その龍は伝説となるだろう。青き瞳をした白き龍。最強の名を欲しいままとした黎明期……そしてこの時代には更に名を馳せ、デュエルアカデミアと童実野町を支配している。

 今、その龍は三つ首となり、勝利の女神をも虜とさせる美麗な姿となって舞い降りた。どんな青空よりも澄み渡り、払暁のように美しい蒼い肌。頭に邪悪の印を刻み、鉤爪のような翼を広げる姿は王者のごとく、凛として中空に浮く姿は覇者のごとし。

 『青眼の究極竜』。KC(海馬コーポレーション)社社長、海馬瀬人が最も愛するモンスター。世界でたった3枚しか現存しない『青眼の白龍』を3体融合させて召喚することができる、彼のみが扱うことを許されたモンスター。連綿とする殺戮兵器の系譜を撃破り、この世に至高の娯楽を広めんとする男の夢想を体現する、デュエルモンスターズの化身だ。

 その背には、遊座が最も信じ、最も頼りとする男の姿があった。王に拝謁するような厳粛な面持ち。兜から垂れる赤い髪は、まるであるはずのない白龍のたてがみのように見えた。

 

『いい顔だ、遊座』「そっちこそ、相棒」

 

 歓声が爆発した。

 声を上げ、目を開き、すべてのデュエリストがその姿を記憶に焼き付けんとする。マスコミがこぞってカメラを向け、スカウト陣は口を半開きとさせた。

 遊座は更にカードを展開する。

 

「手札から、『巨大化』を『究極竜騎士』に装備。攻撃力を倍にします!」

 

 『究極竜騎士』の攻撃力は、単体のモンスターとしては最高値である5000。メーターがぐるぐると回転して、桁を一つ跳ね上げた。

 

「攻撃力、1万……」「……美しい」「凄いですぅ! 勝てますよ、ディレちゃん!」

「『究極竜騎士』で、『サイバー・エンド・ドラゴン』を攻撃!」

 

 究極の竜が首をもたげて口を開き、混沌の戦士が天に向かって剣をかざす。神々しいばかりの光が、剣に、竜の口に光球となって収束する。

 丸藤は心の高揚のあまりその頬に凶悪な笑みを浮かべ、己の僕へと命ずる。

 

「迎え撃て、『サイバー・エンド』!!」

「ギャラクシー・クラッシャァッ!!」

 

 神秘的な青白い光線、メタリックな銀の光線……二つがフィールドの真ん中でぶつかり合う。究極と最強の衝突。光の余波で世界が眩み、衝撃で風が会場内を吹き荒れる。

 遊座の視界は光で覆われ、モンスターやフィールドに存在するすべてが見えなくなっていた。子供の頃、実の両親が消えた日を想い起させる光の世界……。そこへ、丸藤の叫びが届き、遊座の戦意を駆りたてる。

 

「見ているか、翔! この俺のデュエル、その眼に焼き付けろ!! リバースカードオープン、『決闘融合』! 自分の融合モンスターが相手モンスターと戦う時、相手モンスターの攻撃力と同じ数値を、己のものにする! よって攻撃力は、18000!」

『それがどうしたっ!!』

「さすがはカイザー! けど読んでたよ、そのリバース!! 手札から速攻魔法、『決闘融合』を発動!! これで攻撃力は……28000だ!!」

 

 

 たとえ光で世界が眩もうとも、手中の希望は見失わない。藤原が託してくれた『決闘融合』にかけて、それだけはずっと抱き続ける。

 強化に強化を重ねた『サイバー・エンド』の攻撃力は、圧巻の18000。その力を更に上回る力を『究極竜騎士』は得た。攻撃力28000。

 限界の壁を突き破った一撃。藤原はそれに見惚れ、原は腹の底から声を出した。

 

「……最高よ、ぼうや」「下柳さん!! 勝って下さい!!!」

「これで終わりだ、カイザーッ!!」

 

 『究極竜騎士』の攻撃が、さらに勢いを増し、『サイバー・エンド』の光線を押し込んでいく。

 青が、徐々に銀のそれを圧していかんとした時――

 

「ああ、終わりだ! 速攻魔法、『リミッター解除』を発動!!!」

 

 ――銀の力が一気に増して、究極のモンスターを逆に飲みこんだ。

 

『……及ばなかった、か』

 

 膨れ上がる光の奔騰の中、相棒の声が微かに、遊座の耳に届いた。

 アルティメットが最期に悔恨の咆哮を上げた直後、会場中を揺るがすような爆風が襲った。断末魔とも、大噴火ともつかぬ風の唸りに、会場中から悲鳴が上がる。

 やがて光が収まっていき、フィールドが晴れていく。丸藤は、心から感じたような、誇らしげな微笑みを浮かべた。 

 

「下柳。君のデュエル、確かに俺の闘志に届いたぞ」

 

 遊座のフィールドに、竜の姿はいなくなった。そこに跨る戦士の姿も、また。

 一つ、大きく溜息を吐きかけて、遊座は口を噤んだ。まだフィールドには『ダイ・グレファー』が存在している。自分を見ている人たちがいる。そして勝機を失くしたからといって、デュエルは続いている。 

 最後まで毅然たるべし。相手にリスペクトを抱き、その勝利を讃え、自らの敗北を受け入れるべし。亡き実父が、自分がデュエルモンスターズを始めたばかりの頃に言った言葉が、遊座の凛然とした眼差しを作った。

 

「…………見事です、先輩。ターンエンド」

「『リミッター解除』を発動したターンの最後に、この効果を受けたすべてのモンスターは破壊される」

 

 三つ首の機械龍が消え――

 

「俺のターン。『死者蘇生』を発動し、『サイバー・エンド』を復活させる! 『サイバー・エンド』の攻撃! エヴォリューション・エターナル・バースト!!!」

 

 ――再び現れる。なんたる強運、なんたるカードへの信頼。

 思わず笑みをこぼした遊座に向かって、最後の光の奔騰が襲った。体全体を覆い尽くす白を耐えぬき、フィールドから立体映像(ソリッドビジョン)が消失するまで、背筋を曲げず、そこへ立ち続けた。

 万雷の拍手が会場に響いたのは、二人が握手を交わした時だった。

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