すんません。
9/5 色々とまた修正しました。ごめんなさい。
遊座は杖をディスク底部に固定させて起動し、いつものようにやや前屈みとなる。ディスクの電光板が「4000」という数字を表示する。緊張が胸を打つせいで、視界にまた虹色のみみずが湧いて出てきた。
――デュエル!!
『お前の力を見せてやれ。俺は山札で待っている』
「頑張ってください! あなたならできるはずです!」
「見ていてよ。僕と原さんと、カードの絆の力を」
遊座はシャッフルされたデッキから、手札を引いた。
―――――――
手札:鎖付き爆弾 戦士ダイ・グレファー マジック・アームシールド 団結の力 サイレント・ソードマンLV3
―――――――
上々の手札。
フェイバリット・カードの『ダイ・グレファー』。そして、原の薦めで入れたレベルモンスター。二体とも手札に来ている。
「私の先攻だ。ドロー! 『おろかな埋葬』を発動し、デッキからカードを一枚墓地に送り……。
手札から『ゾンビ・マスター』を召喚し、効果発動。手札からモンスター一体を墓地に送ることで、墓地に存在するレベル4以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。私は『スカル・フレイム』を墓地に送り、『ピラミッド・タートル』を召喚!」
長い白髪ををした男の子だか女の子だか見分けがつかない子供が現れる。稲妻を手に宿すと地面にそれを打ち付け、ピラミッドを背負った亀を引っ張り出した。
亀は守備表示だった。
「カードを一枚伏せて、ターンエンド(手札6→2)」
「僕のターン、ドロー!(ドロー:レベルアップ!)……『サイレント・ソードマン LV3』を召喚!」
青いコートを羽織り、身の丈ほどの大剣を担いだ金髪の少年が現れる。
向田の取り巻きが驚愕した。
「あ、あれは!」「デュエルキングが使ったという、伝説のモンスター!?」
「君は……やはり、レアカード使いか」
「カードの価値に目が眩んで、本質を見過ごしては駄目だ! 魔法カード、『レベルアップ!』を発動! フィールド上のLVモンスター墓地に送り、手札・デッキからレベルアップ後のモンスターを召喚できる! 『サイレント・ソードマン LV5』、ゴー!」
「……駄洒落のつもりなんでですか?」
「こ、細かいことはいいでしょ?」
少年が白い光のオーブに覆われる。それが取り払われると、一回り成長した姿となっていた。顔付もより精悍となり、武器も巨大化している。
遊座は思案する。手札の魔法カードを使って、更なる強化をしてもいいが向田の伏せカードが気になる。効果発動型か、または攻撃反応型の罠か。今は使う時ではないだろう。
「(『ピラミッド・タートル』は、デッキからカードを召喚するモンスター。怖いのはそっちの方だ)……『サイレント・ソードマン』で、『ゾンビ・マスター』を攻撃! 沈黙の剣LV5!」
「罠発動! 『シフトチェンジ』! そいつの攻撃対象を入れ替える! 君が攻撃するのは『ピラミッド・タートル』だ!」
一瞬のうちに、ゾンビの少年と亀の立ち位置が変わった。剣士の大剣が振り落とされ、亀は二つに割れて、消滅した。
「『ピラミッド・タートル』は戦闘で墓地に送られると、デッキから守備力2000以下のアンデッドをフィールドに呼ぶことができる。出るがいい、『スカル・フレイム』!」
紅のマントを羽織った、燃え盛る長髪がゆらゆらと揺らした骸骨が現れた。
沈黙の剣士が立ち位置に戻る。剣士と骸骨の攻撃力の差は、300。遊座が不利だ。
「攻撃力2600……僕はカードを二枚伏せて、ターンエンドだ(手札6→2)」
―――――――
向田:【LP】4000
【手札】2枚
【場】 スカル・フレイム ゾンビ・マスター
遊座:【場】 サイレント・ソードマンLV5
(マジック・アームシールド) (鎖付き爆弾)
【手札】戦士ダイ・グレファー 団結の力
【LP】4000
―――――――
「私のターン!(手札2→3) 死せる者が集いし時、私のデッキは更なる力を発揮する。
永続魔法、『一族の結束』を発動! 私の墓地に存在するモンスターの元々の種族が1種類のみの場合、フィールド上に表側表示で存在するその種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする」
「なら、『スカル・フレイム』の攻撃力は3400か!」
「ま、またですか。攻撃力が3000を越えた……」
「見たか、これが!」「向田さんのアンデッドデュエルだ!」
骸骨の炎の髪がさらに乱れ、広がり、フィールド全体を覆うまでに至った。
ゾンビの少年も、自分を忘れるなといわんばかりに手に大きな雷球を造り出す。
「『ゾンビ・マスター』もアンデッド族。よって攻撃力が上がり、2600となる……どっちから攻撃しようが、結果はァ、大ダメージというやつだ! 『スカル・フレイム』で、『サイレント・ソードマン』を……と、言いたい所だが」
「?」
「君の伏せカードは二枚。どちらかは罠、そう考えよう。無策で攻撃するのは愚鈍な者がすること。
……『スカル・フレイム』の効果を発動!」
骸骨が胸の前に両手を掲げて、大きな火球を生み出していく。
「『スカル・フレイム』は1ターンに1度、バトルフェイズを行わない代わりに、手札から『バーニング・スカルヘッド』を1体特殊召喚する事ができる。
そして『バーニング・スカルヘッド』は、手札から特殊召喚された場合、相手に1000ポイントのダメージを与える!」
火球が爆発して、中から怨霊のようにドクロが飛び出してきた。それは沈黙の剣士の横を通り過ぎて、遊座の腹部に痛恨の一撃を与える。
「下柳さん!」
「この『スカルヘッド』もまた、アンデッド族だ。『一族の結束』の効果により、800ポイント攻撃力が上昇、1800となる。
メインフェイズ2に移行し、カードを伏せてターンエンド(手札3→1)。どうした、弱気になったかね」
「けほっ、けほ……大丈夫だ。続けよう」
「……君は肝が据わっているね。虎の威を借りる狐と戦うよりも、よっぽどやり甲斐があるというものだ」
「君だってそうさ。歌の上手さだけじゃない。手本のようなデュエルタクティクス。オベリスクブルーにこんな凄い人がいるなんてね」
「オベリスクではなく、私が強いのだ」
「ああ。今、身をもって知ったよ」
賞賛を口にしながらも、向田は油断なく相手を見据える。強力なモンスターとバーンを相手にして、遊座は臆することなく立ち向かう。その姿からは、障碍者というハンディキャップを感じさせないものがあった。
遊座は腹部の痛みを堪えて、闘志の笑みをキープする。両者はそれぞれの勝利の方程式を脳裏に描き、自分達の戦意を揺るぎのないものへとしていく。その頃、混沌の戦士はまとわりつく炎の髪を鬱陶しげに払いのけていた。
「ちっ、LPで負けてるくせに強がりやがって」「向田さんに敵うもんかってんだ」
歯噛みする取り巻き達。片割れが原に目をつけた。
「おい。お前もあの杖野郎の仲間か? 俺たちとデュエルしろ」
「失礼ですが、今俺たちと仰った?」
「お前にも分からせてやるのさ、この学園の上位関係ってやつを」「レアカードだけが取り柄の奴に引っ付くなんて。その眼鏡、雲ってんじゃねぇの?」
「……あなた方のような輩にこそ、本来なら、法的手段による制裁が必要なのでしょうね。いいでしょう。向こうが終わるまで何度でもやりましょう」
「へ。なら遠慮なくやらせてもらうぜ……」「覚悟しろってんだ」
「「「デュエル!!」」」
森林に、三つのディスクが起動する音が響く。
「……どうやら、向こうでも盛り上がっているようだ。協奏の参加者が増えて、嬉しい思いだ」
「ふぅん。その余裕、崩してあげるよ。
僕のターン、ドロー!(手札2→3 ドロー:強欲な壺) 『強欲な壺』を発動。2枚ドローする(手札2→4)」
―――――――
手札:戦士・ダイグレファー 団結の力
ドロー:光帝クライス 二重召喚
―――――――
原麗華が薦めた、第二のエースが手札にきた。見えてきた勝利の兆に、遊座の柔らかく頬が緩む。
「その炎の死霊には退場願おうか! 僕は『戦士ダイ・グレファー』を召喚。さらに伏せていた『鎖付き爆弾』を発動し、『ダイ・グレファー』に装備させる!」
「はっ! 木偶の棒の攻撃力を500上げるだけかね! 『スカル・フレイム』の攻撃力には遠く及ばない」
筋骨隆々の戦士が現れ、その大剣に鎖だらけの爆弾が巻き付く。
ちっち、と得意げに指を振る炎の骸骨。一泡吹かせてやろう。
「だからこうするのさ! 魔法カード、『二重召喚』!」
「なに……」
「このターン、もう一度だけ通常召喚が可能となる。『サイレント・ソードマン LV5』を生贄に捧げ……現れろ、『光帝クライス』!!」
そして『サイレント・ソードマン』が湯水のように湧きでた光の粒子に消え、入れ替わるように、金色のフルプレートアーマーを纏った戦士が現れた。
向田は呆れたように肩をすくめる。
「初歩的なプレイングミスだ。『サイレント・ソードマン』の方が、攻撃力もモンスター効果も強力だ。どうして雑魚モンスターを残すのかね」
「『ダイ・グレファー』は、僕が初めて買ったカードパックに入っていたカード。僕が初めて出遭ったモンスターだ。これからどんなことがあろうとも、僕はその絆を大切にしたい。だから僕は彼と戦うんだ」
「ハッ! たかがカードを人間扱いとはっ、殊勝なやつだ!」
「カードには心が宿る。そう心から信じていた時があった。君にもそんな時期があったんじゃないのか?」
「君と僕を一緒にするんじゃない。私はクラシックの世界で生きてきた! スリリングで、リアリティのある大人の世界だ! カードゲームは、人生を深めるための手段に過ぎん!」
「……なら、カードの力を思い知るがいいさ。『光帝クライス』は、帝の名の下に裁きを下す! フィールド上のカード二枚を選択して、破壊! 選択するのは『一族の結束』、そして『鎖付き爆弾』!」
金色の戦士はその腕を大きく広げた。レーザーのように二つの光が走り、向田の永続魔法と、『ダイ・グレファー』の剣を縛る鎖を破壊した。巨漢の剣士は自由となった爆弾をつかむ。
「破壊されたカードのコントローラーは、破壊された分だけデッキからドローできる(手札1→2 ドロー:カオスの儀式)……よし」
「……(手札1→2)……ほぅ」
「『一族の結束』が破壊されたことで、君の場のモンスターは攻撃力が元に戻る。
そして破壊された『鎖付き爆弾』の効果! フィールド上のモンスターを破壊する。塵と化せ、『スカル・フレイム』!!」
オラ、くれてやるよ。
にへらと嗤った『ダイ・グレファー』が御手玉のように爆弾を放り投げ、骸骨に着地。爆発。肋骨一つ一つに至るまで破砕させる。
遊座は、先程使うのをためらった魔法カードを指でつかむ。出し惜しんだのが生きてきた。
「さらに『団結の力』を『ダイ・グレファー』に装備! 自分フィールド上のモンスター一体につき、攻撃力が800ポイントアップ!」
「くっ……君のフィールド上のモンスターは二体。『ダイ・グレファー』の攻撃力は、1700。1600アップで……攻撃力3300だと!?」
「お返ししてあげよう! 『ダイ・グレファー』、『バーニング・スカルヘッド』を破壊しろ!!」
紫紺のオーブに包まれた戦士が、自慢の筋肉を躍動させて浮遊するドクロに斬りかかる。
一刀両断。ドクロは激しい爆発を起こして木々を揺らし、熱波を向田に浴たる。ドクロの破片が向田の鼻っ面を直撃した。
「『光帝クライス』は召喚されたターン、攻撃できない。僕はこれでターンエンドだ(手札2→1)。
どうだ、僕の実力は!」
―――――――
向田:【LP】 1700
【手札】2枚
【場】 (伏)
スカル・フレイム ゾンビ・マスター
遊座:【場】 光帝クライス ダイ・グレファー(ATK1700+1600)
(マジック・アームシールド) 団結の力(→ダイ)
【手札】カオスの儀式
【LP】3000
―――――――
ゆっくりと煙が晴れていく。向田の顔――鼻の辺りが赤らんでいる――に現れた闘志には一部の陰りも見当たらず、遊座は息を呑む。
「調子に乗るんじゃない。私のターン、ドロー!(手札2→3) 『天使の施し』を発動し、さらに三枚ドローして二枚を捨てる(手札2→5→3)。
ふ、ふハハハ……」
『なかなか邪悪な笑みだ。都の神殿では、よくああいうやつが罪人の処刑を行っておった』
「怖いよ」
喉の奥から鈴を鳴らすような哄笑。向田はその美顔を不敵に歪める。
「下柳くん。つくづく思っていたんだ。デュエルモンスターズに、通常モンスターは必要なのか」
「なに?」
「考えてみたまえ。デュエルモンスターズは発展し、新しいカードがどんどんと増えていく。私ですら知らないカードだって増えてくるだろう。
そんな中、人々から不要の烙印を押されて消えていくのはなんだ? 鼻紙にもなりゃしない、雑魚カードではないか。取り分け、消えていくモンスターの数といったら……呆れて物も言えない」
「何が言いたいんだ」
「私はね、通常モンスターが大嫌いだ。常々! 我々の希望を荒らし、腐らせる! イナゴのようなカスども!
ゆえに、私は一つのデッキを作った! 効果モンスターによる、一方的な蹂躙を行うデッキを! 君はこれから、私が作り出した地獄の協奏に、土下座するのだヨ!
私は墓地の『スカル・フレイム』をゲームから除外し、『スピード・キング☆スカル・フレイム』を、特殊召喚!」
『スカル・フレイム』の隣に、下半身をギリシャ神話のケンタウロスのように変化させた骸骨が現れる。『スカル・フレイム』よりも、さらに巨大だ。
二体の骸骨の攻撃力は共に同じ、2600。だが放たれる威圧感はケンタウロスの骸骨の方が強く、物々しいものがあった。
「見たかね!? これが効果モンスターが、これからのデュエルを支配するのさ!! 通常モンスターごときが、勝てるはずがない!」
「……覚えているぞ。あれは、父さんが昔売り捌いたカードだ……確か、その効果は――」
「――1ターンに1度、自分の墓地に存在する『バーニング・スカルヘッド』の数×400ポイント、相手にダメージを与えること。今、私の墓地には三体の『スカルヘッド』がいる!」
「三体だって!? ……そうか、今の捨てカードは!」
「『スピードキング』の効果発動! セメタリー★ファイア!!」
ケンタウロスが小さな隕石を彷彿とさせる大火球を作りだし、空へ投じた。
放物線を描きながらそれは落下して、枝葉を貫いて遊座に直撃した。ケンタウロスの炎に焼かれ、思わず遊座は杖にしがみいてしまう。
「ぐぅぅ……(LP3000→1800)」
「これで終わりではない! 私は魔法カード、『サイクロン』を発動し、『団結の力』を破壊する。これで攻撃力はダウン……。
さらに、『死者蘇生』を発動! 『バーニング・スカルヘッド』を特殊召喚、そして除外! そのモンスター効果により除外されていた『スカルヘッド』を、フィールドに帰還させる!」
―――――――
向田:【LP】1700
【手札】0
【場】 スカル・フレイム スカル・フレイム スピードキング ゾンビ・マスター
遊座:【場】 光帝 ダイ・グレファー
(マジック・アームシールド)
【手札】0
【LP】1800
―――――――
「どうだ、私の美しき炎と地獄の協奏は!? 壮観ではないかね!!」
「ぐっ……」
「バトルだ。『スピードキング』で、帝気取りの無礼者に攻撃! スカル★ファイア!!」
骸骨の上半身をしたケンタウロスが、猛然と駆け出していく。まるで暴走した車のように金色の戦士に突進していき、彼の体を正面から轢いてしまう。地面にせんべいのように張り付いた帝は、情けない声をあげて消滅した。遊座のLP、残り1600。
「ハハハっ、なんと無様な声よ! これが帝を僭称した者の末路よ! さらに私は『ゾンビ・マスター』で、『ダイ・グレファー』を攻撃!」
「リバースカードオープン、『マジック・アームシールド』! 相手モンスター一体のコントロールを奪い、攻撃の盾とする! 僕は、『スカル・フレイム』を選択!」
「なに、ここで発動だと!?」
ゾンビの少年が放った雷を、マジックハンドで捕まった骸骨が受け止める。頭から湯気を出した骸骨は、助命を懇願する少年を思いっきり殴りつけ、地面にめり込ませてしまった。
少年は両目に×印を作って、消滅。LPが900まで減少し、向田は頬に汗を流した。
(まさか、ここまでやるとは。光帝を見殺しにしたのはこのためか。レアカードだけが取り柄の人間ではないらしい……ふふ、これだからデュエルは面白い。
だが次の攻撃は防げまい。次のターン、『スカル・フレイム』の第二の能力で墓地の『スカルヘッド』を手札に戻し、そのまま召喚。終幕の総攻撃を加えて、勝利だ。君のフィナーレは炎で飾ってやろう!)
勝利の道筋を想像して、向田はライフで負けているに関わらず頬を歪めた。
「バトルフェイズを終了。この瞬間、君に奪われていた『スカル・フレイム』のコントロールも元に戻る。
私はターンを終える。さぁ、君の番だ。このターンでどうにかしたまえ。次のターン、我が炎の軍の総攻撃が君を襲うだろう」
だが、どう足掻こうとたった一枚のドローではどうにもできないだろう。凡庸な人間なら、ドロー力もたかが知れている。そのような確信を抱く向田。
果たして遊座も、同じような一抹の不安を抱かずにはいられない。バトルフェイズが終了し、すべての攻撃を防ぎ切った。だが、手札がない。場に伏せていた罠も切れ、エースカードも引けていない。儀式魔法を引いても当人が来なければ意味がない。
小さな安堵と大きな不安の間に挟まれ、遊座の胸は弾けんばかりに高鳴る。
ばん、ばん。二次試験で聞いた『火炎地獄』が炸裂する響き。原は優勢を保っている様子。それが遊座に一段とプレッシャーを与えていた。
(……これがおそらく、ラストドロー。これでデッキが応えなければ、僕は負ける)
喉に溜まった唾を飲みこんで、デッキトップに指をかけた。
その時、ずっと沈黙を保っていた彼の相棒が姿を現す。その口に、秀麗で、不敵な笑みを浮かべながら。まるで彼にはデュエルの行方が分かっているかのようだ。
『臆したか、遊座』
「冗談……まだ僕は勝てる。カードの力を借りて」
『……いや、負けるだろうな』
「なんだって?」
なにを根拠にそんなことを。
普段は見せぬ怒りを顕にした遊座に、相棒は諭すように。
『お前は最初に言った筈だ。お前と、あの少女と、カードの絆で戦うと。なのに最後は力頼りか? お前は最後には、自分に力を貸したすべての者の手を振り払い、たった一人で勝利を掴む男なのか? 執念で勝利の栄光を独占するのは、独りよがりな支配者がやることだ』
岩清水のように、涼やかに、静かな言葉。それを耳にしていく内に、遊座の顔から怒りが消え、瞳が開いていく。
戦士の言葉で、遊座は己を省みる。そして気付いた。強力なカード効果とそのコンボに人知れず酔っていた自分を。光帝が現れて相手ライフを一気に削ってから、どこか心が傲慢になっていたのかもしれない。
(……僕は、自分の言葉を、絆を無視して戦っていたのか)
遊座は恥じ入るようにほぞを噛む。そして相棒の言葉を噛みしめると、瞳を閉じる。
「ごめん。自分をちょっと見失っていた。自分勝手に、カードの力を頼っちゃだめだね」
『ああ。お前の勝負は、お前だけのものじゃない』
「……相棒。僕はこの勝負、勝つよ。僕と、原さんと、カードの絆を信じて!」
『ああ。勝て。この勝負、俺を頼らずとも勝てるものだ!』
バッ! 遊座は開眼し、向田を見据えた。彼は訝しげに目を細める。
「向田さん。あなたの言う通りだ。効果モンスターはとても強い。これからのデュエルモンスターズは、一芸に秀でたカードが支配するようになる。彼等を使うのが世界の王道となり、なんの取り柄のないモンスターは脇役になる。僕にだって分かるさ。
けど、忘れちゃいけない。デュエルモンスターズの始祖を。何の力も持たぬ彼等が地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る。それがすべての始まりであり、僕らはそれを尊敬しなければいけないんだ。他に強いカードがあるからって、彼等を脇に押しのけて捨ててしまうのは、デュエリストとしてやってはいけないことなんだ!」
「ほざけ! どうあがこうと君は勝てないのだよ」
「ならしかと見ておけ。僕が勝利するその瞬間を! ドロー!!」
森の静けさを奪い取る、風のようなドロー。それを見て遊座は、はっとしたように思い出す。
(そういえば、このカード。原さんがもしものためにって渡してくれたカード。……なんだ。もっと早く、デュエルに決着がついていたじゃないか。僕は本当に未熟だ。真のデュエリストに、遠く及ばない。
カードは常に、僕に応えてくれた。原さんも応えてくれた。僕だけが、それを心のどこかで信じていなかったんだ。
……今日は、そんな自分にサヨナラだ。僕だけを、僕の力だけを信じる僕と決別して、もっと人を信じる、人との絆を信じる自分になる。このカードに誓って)
「何をしている! さっさと敗北を認めろ!」
「……向田さん。この勝負、絆の勝ちだ」
「なに!?」
「僕のカードが、原さんとの絆が応えてくれたんだ! 絆が僕を支えてくれる! なら僕はそのすべてを信じて、自分の全力を出すだけさ!
魔法を発動する! 『アームズ・ホール』!!」
「な、なんだ。そのカードは」
「デッキトップのカードを墓地に送り、装備魔法をデッキから手札に加える! 僕が咥えるのは……」
デッキ中程から、カードを指でさらう。魔法カードの枠は緑――
「『下克上の首飾り』!」
――『ダイ・グレファー』の胸元に、見開いた目玉を飾る星型のアクセサリーがつけられる。
「このカードは、通常モンスターのみに装備可能。装備モンスターが、自分よりレベルの高いモンスターと戦闘を行う場合、その攻撃力はレベル差1つにつき、500ポイントアップする。
バトルだ! 『ダイ・グレファー』、『スピードキング』を攻撃!」
金色と、混沌の戦士を振り返り、『ダイ・グレファー』は鷹揚に頷く。そして、オリンポスの神に挑むかのように勇ましく、猛然と駆け出していく。
「ま、まさか……」
「『ダイ・グレファー』のレベルは4! 『スピードキング』のレベルは、10! よって攻撃力はッ!」
――3000ポイントアップっ!!
『ダイ・グレファー』が突進する。その攻撃力は4700。必殺の間合いだ。
ケンタウロスを眼中に収めた戦士は龍のような咆哮をあげながら一閃。大剣を振り抜く。太平洋の孤島にある森林から、神罰のような火炎が生まれ、何事も無かったように消えていった。
疲労で固くなった足を動かし、遊座は原の下へつかつかと歩く。
杖で落ち葉を払いのけつつ進むと、向こうの方からやってきた。すっきりしたような笑顔は勝利の証だ。
「終わりましたか?」
「うん。ありがとう、原さん。君の助言のおかげだ」
「いえいえ。デッキのほとんど、下柳さんが決めていたでしょう? 私が手を加えたのは、ほんの少しですよ」
「でも助かったよ。最後の決め手は、原さんのカードだったから」
そう言って、勝利を飾った二枚の魔法を見せる。フェイバリット・カードである『ダイ・グレファー』をどうしても外そうとしない遊座に対して、ならばと原が差し出したのがこのカードだった。
どうしても好きだというのなら、せめてそれを活躍させる術を見付けてあげなさい。彼女の優しさと真摯さ、そしてデュエルに対する鋭敏でロジスティックなセンスを見せつけたカード。
それが今日、勝利をもたらしてくれた。この言葉では表せないくらいの感謝を、どう表現したらいいか。
遊座は杖を自分の方へもたれさせると、自分の両手で、原の両手をしっかりと握る。原の顔が林檎のように赤らんだ。
「本当にありがとう。これからも、宜しくね」
そう言って、何度も手を上下させる。原は握られていた手を見詰めてわなわなと口を震えさせると、背を翻し、いつも以上に凛とした口調で話す。
「……ふ、ふん! 分かればいいのです。あなたはまだまだ新米デュエリスト! 常に精進するためには、私のようなパートナーがいないと始まりません!」
「パートナー? いいの、これからも頼って?」
「あ、甘えないで下さい! もしこれからタッグデュエルの課題が課せられたら、あなたにも責任があるんですからね!? ちゃんと強くなってくださいよ!?」
「ああ。もっと強くなっていくよ」
『ヒュー、お熱いねぇ。顔から汗が出るゼェ』
「うっさい!」
「ど、どうしました?」
「あ、いや。蚊が飛んでたみたいで……ってまずい。もう12時だ!」
「なんてこと! 走りますよ! ほら、急いで!」
二人は、警備員に見つからぬことを祈りつつ寮への道を急いでいった。
彼等が去った後、向田は足をもつれさせながら、森を歩いていた。整った髪はちりちりと燻ぶり、顔には転んだ拍子についただろう土がこびりついている。
「こ、この敗北……決して忘れぬぞ……お前達、いったいどうした」
「怖いよォ……お母ちゃん」「やめてぇ。『大火事』で炙らないでェ……」
樹木の影で、二人の大きな子供が啜り泣き、ひしと抱き合っている。
原麗華、そして下柳遊座。月光の差す森の中、向田はリベンジの炎を胸に宿した。