遊戯王 Another GX   作:RABOS

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 またやらかしました。
 デュエル描写の一部を変更しました、ごめんなさい。

 


第四話:タッグデュエル! 恐怖のアンデッド・ワールド!

 

 暁が、ざぶりざぶりと産声をあげる太平洋の波間を白ませ、神殿のようなデュエル・アカデミアの荘厳な外観を輝かせる。日は登り始めて浅い。

 まだ学園で起きている人は少ない。購買部の人が養鶏場で卵を取ったり、夜番の事務員や食堂のスタッフが働いているくらいだ。

 遊座はそういった学園内の例外の一人だ。ラー・イエローの制服ではなくスポーツ用のジャージを着て、向田と対戦した森のすぐ近くまで来ていた。童顔はまだ眠たげに弛緩していたが、何とか眠気を殺そうと口をもごもごとさせている。大欠伸をかくカードの精霊、《カオス・ソルジャー》とは正反対だ。

 

「んん……まだ早すぎるかなぁ」

『俺だって眠い……早すぎる』

「ファラオの戦士が早起きくらいで弱音を吐かないでよ。訓練で慣れてるんでしょ」

『お前と一緒に居てからは、遅めに起きてきたんだ。夜明けと共に起きるのが俺の日常だった……ような気がする。まだまったく思い出せんが』

「そうなの」

『嗚呼、だるい。学園に来ていきなり生活習慣を変えるのはきつい』

「ま、いいじゃない。精霊にも健康管理は必要でしょ」

「下柳さん!」

 

 森の傍を通るように、ジャージ姿の原麗華が近付いてきた。なかなか堂に入った姿なのは、華奢なわりに体の輪郭がしっかりとして背筋をまっすぐにしているからだろう。

 どこぞの混沌の戦士が、眩しそうに若さを見下ろしてくるのを無視して。

 

「おはよう、原さん」

「おはようございます。御早いですね」

「そう? ま、慣れたことだしね。今日は一緒に付き合ってくれて有難う。こんな朝早くからからさ」

「これでも小学生の頃は父の薦めで武道を嗜んでいまして。ちょっとだけですけどね。だから私も早起きには慣れているんです」

「へぇ、背筋がぴんとしてるのはそれかぁ」

「ふふ、これも日頃の成果です。さぁ、早速始めましょう」

 

 そう言って、彼女は地面に置いてあったラジカセのスイッチを押す。聞こえてきたのは一縷の眠気も吹き飛ばす、《ラジオ体操第一!!》の叫び。《カオス・ソルジャー》が地面にしゃがんで、死んだ魚の眼を小鳥に向けていた。

 早起きが常である遊座が、特に早起きした時にはこのようにラジオ体操をする。彼の習慣を聞いた原は、「自分もリフレッシュしたい」と申し出て、二人は今日に至るのだった。

 ピアノの音色に合わせて、二人は体を動かす。手足を伸ばし、腱をほぐす。ちらり、と動く遊座の眼。薄い産毛があるすらっとして艶やかな首筋を視界に収めると、蜘蛛の巣に引っ掛かったかのように目が離せなくなってしまった。品性と瑞々しさと色気のある肌は、遊座の胸を拍動させる。

 

「一、二、三、四」

「ごぉ、ろく、しち、はち……」

 

 脚に向かって上半身を大きく倒す運動をしながら、遊座は赤くなった顔を運動中の少女に向ける。彼女は何も気づいていない様子だった。

 ふと、後ろから忍び寄る影。蒼い鎧に包まれた彼は、悪戯げに遊座の背中に手をつけて――

 

「ごぉ、ろく、しち、はち……」

『ほれ、もうちょい背中が曲がるだ、ろッ!!』

「あいでででで……!!」

 

 ――思いきり倒してやった。腰から「ばきぼき」という快音が鳴る。 

 

「な、なにやっているんです? 逆海老ぞり?」

「あだだ、腰が、死ぬ!」

『ハッ! 小娘のうなじ如きに見惚れるからだ! むははは!』

「大丈夫ですか? 起きれます?」

 

 二人はラジオ体操を中断。

 遊座は地面にうつ伏せとなり、原はその腰を入念に調べていた。

 

「ここですね」「あいでぇっ……」

「いつも姿勢が悪いせいですよ。大分凝っています」

「多分、デュエルの時の姿勢が一番悪いんだと思う」

「自覚があるのなら、直せばいいのに」

「そうもいかないよ。立体映像(ソリッドビジョン)の再現度は僕らの想像を超える。この前、向田さんとのデュエルの時も、熱波を受けて倒れそうになったから」

「……そんなに、悪いんですか? その、体が」

「いんや、眼の方かな。まだ足下がよく見えてなくて、それで体の軸をどこに置けばいいか分からないんだ。

 これでも、昔よりは大分マシさ。あの頃は歩くのに補助が必要だったから」

「そう、ですか……苦労しているんですね。周りの人が良くされていましたか」

 

 原はそう優しげに尋ねた。

 一瞬の空白を置いた後、遊座は何気なく語っていく。

 

「凄く良くしてくれた。病院や、学校の先生も気を遣ってくれて、義父さんも親切だった。不自由ではあったけど、幸せだった」

『遊座。お前の同級生はどうした』

 

 言及を無視して、遊座は起き上がる。その表情にある種の硬さがあるのに気付いて、原は軽く頭を垂れた。

 

「すみません。不快なことを思い出させたりして」

「え? そ、そんな。気を遣わなくてもいいよ。そ、そうだ、原さん。今度でいいから良かったら、デュエルしない? ほら、デッキを組んでくれた時の御礼も兼ねて、カードパックもあげたいから。本土から送られてきたレアパックなんだ」

「本土って……いいのですか?」

「勿論だよ」

 

 柔らかに頬に笑みを浮かべる彼女に、遊座もつられて笑みをたたえる。

 軽めの運動をして、朝の運動を終えた後、原はすっきりしたように額の汗をタオルで拭いながらオベリスク・ブルー寮へと戻っていった。遊座もまた息を吐いて寮へ戻っていく。ラジカセを肩にかつぎ、杖を突きながら。 

 相棒が気遣うように声の調子を落して。

 

『不愉快な過去があったらしいな』

「……今は話したくない」

『ああ。楽になりたい時まで胸にしまっておけ。我慢できなくなったら、思いっきり叫べ。それが一番だ』

「有難う」

『礼を言うなら――』

「――デュエルでね。頼りにしてるよ、相棒」

 

 

 ――――その日の午後、四時限目――――

 

 

「いいか、下柳。一流のデュエリストになるためには、やらなければならないことがある」

「なんでしょうか」

 

 遊座の目の前に、カイザーと呼ばれる男がいる。巨大な三つ首の機械龍を背後に控えさせたその姿は、まさに勝利の覇者。立ち向かう者のプライドを踏み潰すような、圧倒的なフィールを放っている。

 彼は、自らに揺るぎなき自信を抱くように、咆哮した。

 

「デュエルの前にはイカサマをしろぉっ! カードの積み込みは常套手段だァッ!!」

「ハッ!?」

 

 ばちりと、遊座は激しく瞬きをする。彼の前からは、いつのまにかカイザーも機械龍もいなくなっている。常識外の妄言が体を貫いた気がしたが、何も覚えていなかった。

 横向きとなった視界で、原がジト目で見下ろしてくる。頬の冷たい感触から察するに、机に突っ伏していたらしい。

 

「おはようございます」

「あ、ああ。おはよう」

「もうすぐ先生がいらっしゃいますよ。起きなさい」 

 

 デュエル・アカデミアの入学式から、約半月ほどが過ぎた。入学当初は右も左も分からぬ新入生も、今や学園独特の孤島ならではの閉鎖感と、それに反駁するかのような団結力を身につけて、寮の仲間と愉しい学園生活を過ごしていた。

 教室がやがやと騒がしくなっている。先程まで新入生らは体育をしており、そのせいで落ち着きを欠いている様子。だがクロノス先生の登壇により、波を打ったように一気に静まり返った。流石は学園随一の実力者だ。

 ちなみに遊座と原は、いつものように隣り合わせに座っていた。それを羨ましげに周囲のロンリーメンズが見ていたことに、二人は気付く由もない。

 

「ボンジョールノ!!」

『ボンジョールノ、カルボナーラ!!』

 

 《カオス・ソルジャー》、体育でやったドッジボールに興奮したままの儀。遊座は蠅を相手にするように相棒の尻を叩く。

 

「サテ! 三時限目が体育だったということもあって、ミナサンお疲れだと思うノーネ。そんな疲れを吹き飛ばすタメに、今日は特別授業を行いたいと思うノーネ」

「特別授業?」「なんでしょうか」

「題して、『リスペクト・トゥ・バトルシティ スーパータッグデュエル』! アプロディッスマン!」

 

 ぱん! ぱん! どこからともなく弾けるクラッカー。そして拍手。

 生徒達がつられて拍手をする中、遊座らは顔を見合わせた。

 

「さてさて、一体何をやるのやら」

「クロノス先生のことですから、意味のないことなんかやりません。生徒を信じての特別授業の筈です」

「ところでアプロディッスマンって?」

「フランス語で拍手喝采という意味です」

「『へぇー』」

「皆さんが小学生かそこいらの頃ですガァ、童実野町で最強のデュエリストを決める大会があったノーネ。その名もバトルシティ! KC(海馬コーポレーション)の命運を賭けて行われた大会は、数々の名デュエル、そしてキング・オブ・デュエリスト《武藤遊戯》の誕生によって大成功を収めたノーネ。みんな、記憶していると思うノーネ」

 

 一、二もなく誰しもが首肯し、遊座は重々しく顔を強張らせる。彼にとっては良くも悪くも印象のある日だ。 

 

「その中で私は、武藤遊戯・海馬瀬人ペアと、光の仮面・闇の仮面ペアによるタッグデュエルに注目したノーネ。

 タッグデュエルは、御互いにサポートしながら戦っていくデュエル。互いのコンビネーションを合わせたデュエルは、自分の思わぬ強みや弱み、そして思いもよらない戦術を発見できるだけに留まらず、自分がやりたかった理想のデュエル像すらも見付けることができる。私はそう考えて、今回の提案に至ったノーネ」

 

 クロノスは熱弁を振るう。 

 

「今日は、皆さんにはそれぞれペアを作ってもらいィ、その後テーブルでデュエルを行ってもらうノーネ。授業終了後、デュエル内容と、その反省・改善点をレポートにしてもらうノーネ。私が手を鳴らしたら、自由に動いて構わないノーネ。

 それでは、スタァァト!! なんですーノ」

 

 一気に騒々しくなる教室。目当てのパートナーを見つけるために、赤・黄・青の服の有象無象が室内を動き回る。

 一部、座席から動かない生徒は最初からパートナーと隣に座っていた者達だろう。遊座も一例となるべく……。

 

「原さん、どうかな。一緒にペア組まない?」

「嗚呼、お誘いは嬉しいのですが……実は、前々から組みたいと思っていた相手がいまして、今日はその人と一緒にやってみたいのです」

「え! 組んでくれないの? 残念」

「すみません」

「いいよいいよ、いつも無理を言っちゃさすがに悪いから。頑張ってね」

 

 良い結果が出せるように。そんな応援の意味も込めて、遊座は原と握手を交わす。彼女の顔にさっと赤みが差した。

 

「あ、あの……いきなり握手されるのは、ちょっと」

「ご、ごめん。嫌だよね、デリカシーがない行為」

「いえ、嫌では無かったのですが……べ、別に、嬉しかったわけでもないですからね!? ただ、心の準備もなしに男女が手を重ねるというのはちょっと――」

「――おや。もうペアを組んでしまったのかね、下柳くん」

「……向田さん?」

 

 通路の方から声を掛けてきた向田。今日もキリリと流された髪型だ。

 原が慌てたように席を立って離れてしまう。遊座は口元に苦笑を浮かべた。

 

「ああ。今、ふられちゃったところ。フリーだよ」

「君も運がないねェ。いや、ある方なのかもな。レアカードを何枚も持つことができるのだから」

「それは関係ないでしょ。今日はどうしたの、向田さん? あの子分二人は?」

「子分じゃない! 二人は、ちょっと心理的なダメージを負って保健室で寝ている。記憶があるとは思うのだが」

「え?」

「そ、そうか、ないか。……いや、記憶にあるのは彼女の方か、うむ。ところで下柳くん。フリーだというのなら私とペアを組みたまえ」

 

 一瞬の困惑。そして驚いたように「エェッ」と声を上げる。その大きさに肩をそびやかしつつ、向田は自らの狡猾さに頬が緩みそうになるのを我慢した。

 

(ふん。タッグデュエルなど、所詮クロノス教諭の気まぐれに過ぎない。私はそれを利用するだけなのだよ。私に、二度の失敗は許されないのだ。

 先ずはこいつのデッキ運用と、思考ルーチン、そしてデッキの中身を把握せねば。次のデュエルでは、封殺してやろう)

 

 おどろおどろしい内心を隠せているのは、両親から受けた道徳教育の結果なのか。

 彼の薄い笑みの意味に気付かず、遊座はただ安堵していた。

 

「良かったぁ。最後の手段で先生と組むしかないのかなぁって、不安だったんだ。さ、互いのデッキの確認をしよう」

「ああ。……ふん、君は戦士族中心のファン・デッキか。私はアンデッドによるバーン・デッキだ。それこそ上手く回ればカイザーなど2ターンで倒せる」

「比較対象がどんな人なのかわかんないよ」

「デュエルすれば分かる。……それにしても厚いな。下柳くん、君はデッキに何枚のカードを入れてある」

「ん? 55枚くらいだけど」

「なんだそれは!? ダイエットしたまえ! 君はどうしてそんなにカードを入れる!?」

「だって、好きなんだから仕方ないでしょ? 5枚余裕を作ってあるのは、また好きなカードが出来た時のためにさ」

『ガリガリよりデブが役に立つぞ!!』

「そう! だからデブでも強いんだ!」「そう、意味が分からないね!」

 

 効率最重視のデュエリストが多い中で平然と愛着でのみ行動するリベンジの相手と、その一途な想いによって作られたハチャメチャかつ統一性のある究極のデッキに、向田は半ば戦慄を感じる。

 不意に、横合いから声がかけられた。

 

「ねぇ、ちょっといい?」

 

 溌剌として、自信に満ち溢れた声。振り向いた先には二人の女学生がいた。

 片や桃色の髪をカチューシャでまとめて勝気そうな瞳をしており、誰を相手にしようと怖気づかなような「ヘ」の字の口をした生徒。仄かに色付いた唇が尖っているのは、その戦意の現れか。

 片やこざっぱりに切った淡いブラウンの髪で、嘘一つ疑うことのできないような素直で柔らかな瞳をした生徒。やや不安げそうである。どちらも学園の女子の中では、第一級に可憐な容姿の持ち主だった。

 遊座は彼女らを見て、思い出す。前者は体育のバレーボールで高速スパイクを連発し、後者はレシーブ以外がダントツで下手だったこと。そして男子の間でも有名な、凄腕デュエリストであることを。

 

「暇してんでしょ? 僕たちとデュエルしない?」

「ああ、構わないよ。私は向田慶介、この杖持ちが……」

「下柳遊座でしょ、有名よ。ボクはツァン・ディレ。こっちが宮田ゆま」

「あううぅ……ディレちゃん、本当にやるんですか? どちらも凄く強そうですぅ」

「なによ。あなたの方から言ったんでしょ。強い人と戦ってHEROを活躍させたいって。もう覚悟決めたんだから、今更止めますはナシよ」

「でも、あうぅぅ……プレッシャーを感じますぅ。ガクガク……」

「それが面白いところじゃない。さっ、いい場所を取られたら嫌だし、さっさとやりましょ」

「いい場所って?」

「見てれば分かるわ。すみません、クロノス教諭! 教壇をお借りしても宜しいでしょうか?」

「シニョーラ・ディレ。どういうことナノーネ」

 

 つかつかと近付いて、ディレは何やら説得し始める。訝しげに聞いていた先生だったが、話を理解していくにつれて面白そうに頬を吊り上げる。 

 

「なるほど。大体のことは把握したノーネ。シニョーラの積極性を、私は評価しようと思うノーネ」

「ありがとうございます」

「では、シニョーラのペアとその対戦相手は特別に教壇で立体映像(ソリッドビジョン)を使った、つまりいつものデュエルをしていいノーネ」

「はい! 本当にありがとうございます」

「皆の手本となるので、模範生らしいデュエルをするようニ」

 

 勢い任せの交渉を成功させたディレは振り向くと、笑顔を浮かべて、顔の傍でサムズアップする。子犬のような八重歯が光っていた。

 四人は登壇して教卓を端に置き、ディスクを構える。他の生徒達から視線が殺到するのを、クロノスは喜ばしいことと感じていた。

 

(四人とも入学試験では試験官を撃破った実力者。これは期待ナノーネ。授業をやっていなければ、お茶を飲みながら観戦したい……ですが私は教師。自分の本分を忘れちゃ駄目ナノーネ)

 

 名越惜しげに教壇から目を話し、クロノスは生徒達の様子を見て回り始めた。

 遊座はいつものように杖をディスクに嵌めて、前傾姿勢となる。腰痛は無視した。

 

「準備はいい? 相手してあげる!」「あうぅ、あう、あう……こうなったら、やるしかないですぅ」

「無様な真似で、私の足を引っ張るなよ?」「君こそ。あの時よりもっと凄いデュエルを、期待しているよ」

 

 

 ――デュエル!!

 

 

 ―――――――

 

 手札:ペンギン・ソルジャー カオス・ソルジャー 死者蘇生 和睦の使者 ガイアパワー 

 

 ―――――――

 

 

 思わず遊座は喝采を上げたくなる。デッキの中で、最も信頼しているカードが手札に来た。あとはそのための必要条件を整えるだけだ。

 相棒も喜色を露わにして声をかけてくる。

 

『今回は俺にも出番があるようだ』

「期待して待っていてよ……」

「ルールを確認するわ。互いのプレイヤーはLP8000、フィールドを共有し、墓地と手札・デッキはそれぞれ持つ。そしてプレイヤーは自分のカードのみをプレイすることができ、パートナーのカードを使うことはできない」

「付け加えて言うがね、特定のカードを対象にした効果が発動した場合、影響を受けるのはそのカードのコントローラーのみだ。パートナーには影響がない」

「そして最初のターンは誰も攻撃できない。先攻は……宮田さんだね。宮田さん!」

「は、はいぃ! 私のターンです、ドロー!」

 

 意を決したドロー。おずおずとした手付きでありながら、しかし全幅の信頼を託すかのように堂々と宮田はカードを行使した。

 

「私は、『E・HERO フェザーマン』を召喚します。さらにカードを1枚伏せて、ターンエンドですぅ(手札6→4)」

「序曲は始まった。規律よく、丁寧に指揮させてもらおう。

 ドロー。『ゾンビ・マスター』を召喚。さらにカードを二枚伏せて、ターンエンドだ(手札6→3)」

 

 まるでアメコミのような、翼ある緑色の全身タイツを履いた異人が現れる。それに対するかのように、男とも女とも分からぬ子供のゾンビが現れた。

 ここまでは普通の展開。どこにでも有り触れた序盤の読み合い。しかし、ディレの順番に回ってきた時、室内だというのに風を受けたように第六感がざわめく。相棒は目を鋭くさせた。

 

『……感じるぞ』

「?」

『あの小娘、相当やる』

「いくよ、ボクのターン! 魔法カード、『六武衆の結束』を二枚発動。「六武衆」と名のついたモンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに武士道カウンターを1つ置く。僕は『六武衆-ザンジ』を召喚。さらにフィールドに「六武衆」と名の付くモンスターがいる時、手札から『六武衆の師範』を特殊召喚可能。『師範』を特殊召喚」

 

 薙刀を持った鎧武者、そして眼帯をした白髪の老人が現れる。二人の風格たるや、天変地異に動じぬかのようだ。

 

「カウンターが二つ乗った『六武衆の結束』を破壊することで、デッキからカードを1枚ドローできる。二枚の『結束』を破壊して、二枚ドロー。カードを1枚伏せて、ターンエンドよ(手札6→2→4→3)」

「……油断は禁物だね。僕のターン……ん? こんなカード入れたっけ」

 

 思わずそれ――『暗黒の扉』――を凝視してしまう。デッキに入れた覚えがないカードだった。

 向田がほくそ笑んで言う。

 

「さっき、こっそり入れておいたぞ。有難く使いたまえ」

「……こんにゃろ、後で覚えてろ。永続魔法『暗黒の扉』を発動。互いのバトルフェイズでは、1体のモンスターしか攻撃できない」

「ああっ! ずるいわよ、そんなピンポイントなメタカード!」

「て、手札に来たからには使わない訳にはいかないでしょ!? 僕はモンスターとカードを伏せて、ターン終了!(手札6→3)」

 

 

 ―――――――

 

 ③ツ・①宮:【LP】8000

       【手札】3・4

       【場】(伏) (伏)

          ザンジ 師範 フェザーマン 

 

 

 ④遊・②向:【場】(ペンギン) ゾンビ

          暗黒の扉 (和睦)(伏) (伏)

       【手札】カオス・ソルジャー 死者蘇生 ガイアパワー : 3

       【LP】8000

 

 ―――――――

 

 

 ぎゅうぎゅう詰めとなったフィールドを見て、遊座は苦笑を禁じえない。

 タッグデュエルならではの無尽蔵な展開力。フィールを一掃するカードが来たら即終演な状況だ。教壇という名のフィールドが狭いせいもあってか、モンスターが満員バスに乗っているようにも見えなくはなかった。

 

(テーブルでやれば、もう少し、彼らも窮屈しないで済んだのかもね……そういや、原さんはどうしたんだろう)

 

 遊座はちらりと座席の方を見る。見目麗しくも人混みに隠れやすいタイプで、探すのに時間がかかってしまう。そうこうするうちに宮田の番が始まり、遊座はデュエルに集中する

 

「で、では、これからが本番です。HEROさん、行きましょう!

 ドロー!(手札4→5) 私は『融合』を発動! 手札の『E・HERO バーストレディ』とフィールドの『フェザーマン』を融合させ、『E・HERO フレイムウィングマン』を召喚します!」

 

 二つの異人が交わり、光り輝く渦に吸いこまれていく。赤い龍の右手と白い片翼をした新たなHEROが現れた。

 

「私はそれに罠を発動する! 『昇天の角笛』!」

「駄目よ、『魔宮の賄賂』! その効果を無効にして破壊。けど、あんたは1枚ドローできるわ」

 

 悪徳な商人が、懐から小判を投げよこす。向田は仏頂面にカードをドローした(手札2→3)。

 

「ありがとうですぅ、ディレちゃん!

 私は魔法カード『団結の力』を『フレイムウィングマン』に装備! 自分フィールド上のモンスター1体につき、攻撃力が800ポイントアップです! モンスターは全部で3体。よって2400ポイントアップで、攻撃力は4500です!

 『フレイムウィングマン』で『ゾンビ・マスター』を攻撃ですぅ! スカイスクレーパーシュート!」

 

 獲物を見付けた鷲のように、またアンデッドの庭を駆け抜けるように異人はその翼で飛行し、紅蓮の炎を身にまとう。

 

「『フレイムウィングマン』は破壊したモンスターの攻撃力分、さらに相手にダメージを与えます! 一気に大ダメージですぅ!」

「「だったらこうするよ! 『和睦の使者』!」

 

 神聖なる壁を突き破った異人だったが、敬虔な信者の祈りを前にしてたじろぎ、攻撃を止めてしまう。

 1ターンの間に行われた攻防の応酬に、生徒らはどよめく。口惜しそうに、宮田は胸の前で手を掲げた。

 

「あうぅぅ……惜しかったです」

「平気平気。それよりも凄いわね、ゆま! いきなり攻撃力4000オーバーのモンスターを出すなんて」

「えへへ。私、頑張っちゃいましたぁ! このままターンエンドですぅ(手札5→2)」

「私のターンだ、ドロー(手札3→4)。『天使の施し』を発動して、さらに三枚ドローして二枚捨てる(手札3→6→4)。

 ……序曲は終わり、第一楽章へと入った。死霊たちが手をかざし、呻きを上げている。君達を仲間にしたいとな」

「な、なによ急に」

「私はフィールド魔法、『アンデッド・ワールド』を発動する!」

 

 向田が掲げたカードから、まるで流砂のように世界が広がる。

 異形の森……その奥地にある、名も知らぬ墓地。耗弱した子供が描いたような不気味な木が生え、暗澹とした霧はまるで死者の呻きが耳元から聞こえさせるような、重苦しい空気を放っていた。

 教室内の誰しもが嫌悪感を抱くようなフィールドで、向田はただ一人、これぞ我が求めし世界といわんばかりに笑みを輝かせる。

 ディレと宮田は、自らのモンスターを見て驚く。彼等の体が、まるでロメロ映画のような変貌を遂げている。

 

「そんな、私のHEROがゾンビみたいに!」「ろ、六武衆がただの落ち武者じゃない! なによこれ!」

「生者の時代は終わり、世界は死者の手に委ねられた。『アンデッド・ワールド』が発動する限り、フィールド・墓地のモンスターすべてはアンデッド族となる! そしてすべての生者は、死者を踏み台にして舞台に上がることは許されない!」

「くっ。アンデッド族以外のアドバンス召喚を規制する効果ね!」

「……向田さん。この前のデュエルじゃ、使わなかったよね」

「ああ。モンスター効果があれば十分勝てると思ったからだ。だが間違っていた。サポートがあってこそ、私のデッキは本領を発揮するとね。君の御蔭だよ」

「そう? 光栄だよ」

『割と仲良くやっていけるじゃないか、お前等』

 

 そうゴチる相棒。召喚したときにどんな姿になっているのか楽しみだ。

 

「私は永続魔法、『不死式冥界砲』を発動! アンデッド族が特殊召喚されることで、1ターンに1度、相手に800ポイントのダメージを与える。

 そして伏せてあった『リビングデッドの呼び声』で、墓地の『スカル・フレイム』を特殊召喚! 『スカル・フレイム』の効果で、手札から『バーニング・スカルヘッド』を特殊召喚! ンンンっ、フォルティッシモォ!!」

 

 炎の髪をした骸骨が、ドクロで作られた大きな大砲にまたがり、大砲の発射と合わせて自らも火球を放つ。

 二つの弾丸が相手の陣地に着弾し、ディレらは軽く悲鳴を上げる。

 

「カードを一枚伏せて、ゾンビ・マスターを守備表示に変更。ターンエンドだ(手札4→0)」

 

 デュエルは、徐々にクライマックスに近付きつつあった。

 




 
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