遊戯王 Another GX   作:RABOS

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 ヤリタカッタダケー、な一話です。

 こ、今回こそ、ミスはない筈……。
 主人公に好都合な展開なのは察してください(全裸靴下白目土下座)。



第六話、後半:ダイ・グレファーのイメチェン

 ――デュエル!!

 

 

 森林に響く、戦士の声。

 デュエルディスクのライフゲージが4000の値まで回転し、カード板がスライドして展開される。遊座はディスク底部に杖を固定せると、素早くカードを引いた。

 気弱な少年の誘いに乗り、袋の鼠のような立場におかれた。小男はデュエルでもって犯していない偽りの罪を自分に着せようとする。ならばその枷を拒むのも、デュエルでなければならない。

 舞台は整った。ピーターはその昂ぶった闘志を奮然と胸を張ることで表現している。野性味あふれる浅黒い肌に血管の筋を浮かせるかのようだ。

 

「俺の先攻だ、ドロー! 『エンシェント・エルフ』を攻撃表示で召喚! さらにカードを2枚伏せ、『凡骨の意地』を発動! ターンエンドだ(手札6→2)」

 

 紫の軽装の鎧を着た、物憂げな顔をした美女が現れる。相棒が色めいた。

 

『おお、結構好みだ。だが俺でも分かるくらいの雑魚だ!』

「……もしかしたら彼、結構いい人かも。今どき、あのカードを使うなんて。粋だ」

『デュエルに集中しなくていいのか? やつを倒すのだろう?』

「わ、分かっちゃいるけど、ああいう懐かしいカードを使われると嬉しくなって、ね。ほら、僕も大体同じ身だから」

『……気持ちは分かるが、戦いは真面目にな。彼女のためにも』

 

 うっ、と言葉を詰まらせて原を見る。

 出で立ちの分からぬ不審な輩に囲まれて不安を感じているのだろう。だがそれを露わにするよりも、彼女は純真に遊座の勝利を、無実を祈るかのようにこちらを見ている。

 緊張を解すつもりでいった冗談は、場違いだったようだ。遊座は、杖の立たせ方を調節しつつ、息を整える。

 

「……今から、本気でやる。行くよ、スーパー・ピーター! 僕のターン!」

 

 

 ―――――――

 

 手札:魔装戦士テライガー ガード・ブロック ダメージ・コンテンザー バトル・フェーダー 融合失敗

 ドロー:未来融合-フューチャー・フュージョン

 

 ―――――――

 

 

 上々の仕上がり。

 このデッキは学園最強、丸藤亮との対戦を見越して構成されたデッキだ。ゆえにこれまで使っていたデッキとは一味も二味も違う。融合召喚はそのための調味料の一つだ。

 

「さて相棒。君はこのフィールドと手札を見て、どうしたい」

『ふむ……相手の伏せ札と、発動している札が厄介だ。『凡骨の意地』とはなんだ』

「強力な永続魔法だ。対象となるカードが引けたら、さらにドローできる」

『……となると、やつの勝負は決め手となる強力な魔物(カー)を引いた時だ。それが来ていない今は、攻めるべきだろう。罠が張ってあろうともな』

「分かってきたじゃないか、相棒」

『当然だ。俺は常に学びの精神を貴ぶ!』

「ああ、恐れていても仕方がない。反撃を喰らおうと、相手の手段を消費させる!

 僕は、『魔装戦士テライガー』を召喚! 彼が召喚に成功した時、手札からレベル4以下の通常モンスター1体を守備表示で召喚できる効果がある。だが手札には通常モンスターがはいない。従ってこのまま続行する」

 

 ピーターが眉をひそめ、フィールドに参陣した白銀の戦士を睨む。

 遊座は手札から魔法カードをディスクへ滑らせた。

 

「更に魔法カード、『未来融合-フューチャー・フュージョン』を発動!」

「なに、あやつも融合使いだと! 聞いていないぞ、小野木ぃ!!」

「ば、馬鹿者! 名前を出すナッ!」

「小野木、ね。覚えたよ。

 『未来融合』の効果で、デッキから融合素材モンスターを墓地に送り、2ターン後のスタンバイフェイズにその融合モンスターを特殊召喚する。墓地に送るのは『戦士ダイ・グレファー』と、『スピリット・ドラゴン』。よって2ターン後に、『ドラゴン・ウォリアー』を特殊召喚する」

 

 墓地にモンスターを2体送り、遊座はぴしっと腕を伸ばした。

 

「バトルだ。『テライガー』で、『エンシェント・エルフ』に攻撃!」

「リバースカード、オープン! 『ジャスティブレイク』! 自分の通常モンスターが、相手モンスターの攻撃対象となった時、攻撃表示で存在する通常モンスター以外のモンスターを全て破壊する」

 

 エルフの杖に光が宿る。彼女が枯葉を払うかのように杖を振ると、鋭い雷が放たれて白銀の戦士を消炭にしてしまう。

 やはり、伏せられていたのは強力な罠だった。早めに消費できて助かったかもしれない。

 

「ふぅん。カードを2枚伏せて、ターンエンド(手札6→2)」

「下柳さん。伏せカードがたった1枚ですけど……大丈夫ですか」

「勝負はこれからだよ。ワンターンじゃ、絶対にやられないさ」

「……下柳、俺が持って、お前には持っていないものが一つある。何か分かるか?」

「筋肉」『筋肉』

「くくっ。それもそうだろう。だが決定的に違うのは、俺には経験があり、お前にはないということだ。人として持ち得るべきものを、すべて失った経験! それがお前にはあるか?」

「似たような感じだけど、あるっちゃぁ、ある」

「……そうだな。みな、それぞれの人生がある。だが、俺ほどすべてが一変した人間はいまい。どん底から這い上がった男の力を、金持ちのボンボンに見せつけてやろう!

 ドロー(手札2→3)! 『凡骨の意地』の効果を発動! ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、それを相手に見せる事でもう1枚ドローできる! 俺が引いたのは、『水の踊り子』。よってもう1枚ドローする!」

 

 すっ、と風のように。ピーターは新たな手札を見て口端を歪めた。嫌な予感が遊座の背中を駆け巡る。

 

「『マグネッツ1号』だ。よってさらにドロー……『ワームドレイク』! ドロー、『真紅眼の黒竜』!!」

「真紅眼ですって!?」『凄いのか?』「山手線沿線の一軒家が三棟だったかな?」

「驚くな、眼鏡、小僧。ドローフェイズは終わらない! ドロー、『暗黒騎士ガイア』! ドロー、『岩石の巨兵』。『カース・オブ・ドラゴン』。『メテオ・ドラゴン』。『ワームドレイク』……」

『ど、どうなっている。どこまで引くつもりだ』

 

 見る見るうちにピーターの手札に厚みが出来ていく。2枚だったものが7枚、10枚、13枚と増加し、都合13回目のドローで漸く彼の手が止まった。引かれたモンスターカードは、計12枚。彼のゴリラのような手に収まっている。

 遊座はそれらの共通するある一点を思い出した。すべてのモンスターが融合素材と成り得る。ピーターの手の内が読めた。

 

「……魔法カード。これで終わりだ」

「はは、冗談を。ここからが始まりってやつでしょ。手札だけで15枚もある。次はどうするつもりさ」

「ならば括目して見よ! 俺は、最後に引いたカード、『フュージョン・ゲート』を発動!」

 

 一変。森閑として綺麗な森が、グラフ表のような地面と渦巻く黒雲の空に様変わりした。そこにいる生命を一個の数値として計算し、式を表し、数字を叩きだす世界だ。

 天を覆う渦を見て、遊座の胸、記憶の欠片がなぜかざわめき、視界が一瞬白く濁った。どこか遠い昔に、あれに極限まで近付き、自らの根源を揺るがすような真実に触れたような気がする。そこで自分は、何を見たのか。 

 

「見たまえ! 融合モンスターの大量召喚! スーパー・ピーターは大量のモンスターを使った、『融合』のスペシャリストなのダ!」

 

 両手を万歳させた小野木の喝采で、遊座は気を取り直した。

 

「融合使い、か」

「では、名前についているスーパーとは、どういう意味なのですか?」

「……俺はアメリカのシカゴで育ってな、貧困層の移民一家だった。誰からも疎外され、まともに飯にもありつけない。自分の居場所がどこなのか分からない日々だ。

 ある日、両親がギャングの抗争に巻き込まれて神の御許へ行き、俺は天涯孤独の身となった。俺はゴミ同然の財産をもって別の街へ逃げ出して……そこでカードマニア倶楽部と出逢い、チャンスをつかんだ!

 俺はデュエルで勝ち進み、必死に己を鍛え、伸し上がった! デュエルという戦場こそ俺の居場所だ。曇りなき俺の舞台! これがスーパー・ピーターのデュエルだ、覚えておけ!」

「スーパー・ピーター! もう結果は見えてマス! 彼を倒し、彼の罪を証明してやりナサイ!」

「イエス、ロード! 『フュージョン・ゲート』の効果で、ターンプレイヤーは手札・フィールドから決められた融合素材モンスターを除外することで、融合モンスターを特殊召喚できる!

 さぁ、先陣を切るがいい! 『真紅眼の黒竜』、『メテオ・ドラゴン』!(手札14→12)」

 

 彼の手札から、天の渦に向かって二つの光が走った。ブラックホールに消える星のように残滓の光粉を撒いて、光は渦の中心で交わった。

 

「赤き瞳の龍よ! 鋼の甲羅を持つ龍よ! 血濡れた鉛の道に、無限の可能性を示せ! 融合召喚! 出でよ、『メテオ・ブラック・ドラゴン』!!」

 

 空から一つの隕石が降ってきた。赤く発光して蒸気を吹きだすそれは、線形の地面にあたる直前で止まり……白い双眸を光らせた。

 冷えたマグマのような菖蒲(しょうぶ)色の鱗から、ぶわりと翼を広がった。龍の証たる巨大な翼。かつての姿を思わせる亀のような寸胴の胴体。生物の証拠である真っ赤な血筋が、肉肌と鱗に走っていた。

 原はその威容に慄然とする。

 

「武藤遊戯が、海馬瀬人に繰り出した伝説のドラゴン……攻撃力、3500……」

「驚くのは早い。融合素材はいくらでもいる! 可能性の龍に続け! 『竜騎士ガイア』! 『紅陽鳥』! 『ヒューマノイド・ドレイク』! 『砂の魔女』!(手札12→5)」

 

 さらに光が天に注ぎ、モンスター達が悠然と降りてきた。細身の竜に乗った双槍の騎士、紅の鳥、トカゲのように変形したスライム、そして真紅のローブと三角帽子を着た美しく颯爽とした魔女。

 『融合』の名の下、五体のモンスターがピーターの下へ参集した。そのすべてが効果を持たぬバニラモンスターであるのは、ピーターの誇りのためだろうか。

 油断なく相手を睨む遊座――その手は既に伏せカードの起動ボタンへ添えられている――とは対照的に、原はとても驚いているようだ。

 

「い、一気に五体もの召喚……なんてこと!」

「見たか、これが俺の力だ! 先ずは『竜騎士ガイア』! 一番槍はお前だ!」

「リバースカード、『ガード・ブロック』! 戦闘ダメージを0にして、僕は1枚ドローする!」

 

 突貫してきた竜騎士の槍は突然力を失ったように垂れてしまい、悠々と遊座の頭上を通過するだけに終わった。

 

「だが、これで伏せカードは消えるな! 行け、『ブラック・メテオ・ドラゴン』! バーニング・ダーク・メテオ!!」

 

 寸胴の巨竜の口に、溶岩のような色をした特大の火球が生まれる。

 それが放たれて猛然と遊座に迫っていき、いざ炸裂せん……という時、遊座のフィールドに一陣の風が吹き火球をかき消す。風を起こしたのは、時計台の鐘を体に吊るしたコウモリだった。

 

「悪いけど、戦闘を強制終了させてもらったよ」

「『バトル・フェーダー』! やはり引いていたか。情報が正確のようで安心したぞ、小野木」

「だから、名前を出すナッ、このタワケ!」

「いい加減自分を偽るのは止めた方が良いよ、小野木」

『もう隠し通す意味もないと思うぞ、小野木』

「最初から堂々とした方が恰好がつきますよ。オベリスク・ブルーの3年生で、先月彼女にフラれた学年一のチビの小野木さん」

「チビって言うなぁぁ! あとフラれてもいなぁぁい!!」

 

 小男が思わずフードを脱いで反論した。眼つきの悪い眼鏡の少年で、鳶色の眼はまるで独り身のカラスのようだ。

 遊座は小野木に向かって呆れつつ、先程の効果で手札に加えた最強のドローカードにほくそ笑む。 

 

「大丈夫なのか、あんなチビ助に倶楽部を任せて……俺はこれでターンエンドだ!(手札5)」

「僕のターン、ドロー!(手札2→3 ドロー:決闘融合-バトル・フュージョン)。 カードを1枚伏せ、手札から『天よりの宝札』を発動! 互いに手札が6枚になるようにドローする」

 

 

 ―――――――

 

 スピ:【LP】4000

    【手札】5

    【場】 凡骨 (伏)

        砂の魔女 ドレイク メテブラ 竜騎士 紅陽鳥

 

    【TURN 4】

 

 遊座:【場】 バトル・フューダー(守)

        未来融合(@1) (ダメコン) (融合失敗)

    【手札 決闘融合-バトル・フュージョン

    【宝札 トランスターン 戦士ダイ・グレファー カオス・ソルジャー しっぺ返し 高等儀式術

    【LP】4000

 

 ―――――――

 

 

(さて、どうするか。この場面で一番厄介なのは『メテオ・ブラック』、次点に『ガイア』だ。あの2体をどうにかしないと勝機はない。

 そしてこの手札と、フィールド……相手モンスターを一掃する手段はない。それに、エースを出そうにも攻撃力が足りない)

『遊座、引き際を考えろ。今は攻め時ではない』

「ははっ。同じことを考えてた。

 『戦士ダイ・グレファー』を召喚! そして手札から、『トランスターン』を発動! フィールド上に存在するモンスターを墓地へ送り、そのモンスターと種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスター1体をデッキから特殊召喚する!」

 

 筋骨隆々の戦士が機械仕掛けの椅子に座り、ビリビリと電流を全身に流される。そのあまりの眩さに見る者は目を伏せてしまう。

 光が収まったのちに椅子を見ると、そこに戦士の姿はなく、ウジャトの眼をあしらった巨大な盾が屹立していた。五つ星地属性の戦士族モンスター。攻撃力0、守備力3000。

 

「『千年の盾』! あれなら、『メテオ・ブラック』以外倒せない。手を出さねば直接攻撃もできず、その時には『メテオ・ブラック』も攻撃に参加できない。いい牽制です」

「更にカードを1枚伏せて、ターンエンド(手札)」

「俺のターン、ドロー! 『デーモンの召喚』だ、更にドロー……魔法カード(手札6→8)。

 メインフェイズ! 『凡人の施し』を発動する。2枚ドローして、手札から通常モンスターを除外……ならば、『押収』を発動! 1000ポイントライフを払い、相手の手札からカードを1枚捨てる!」

「なっ……くそ」

「ほう。来ていたか、『カオス・ソルジャー』。迷うまでもない。それを捨てろ」

 

 遊座は惜しみつつも、相棒が宿ったカードを墓地に送る。 

 

「どうだ。もっとも頼みとするカードが手の届かぬ所にいった気分は」

「はっ。墓地は2つ目の手札さ。まだ彼は僕の手中にある!」

「ほざけ! バトルフェイズだ! 『砂の魔女』で、『バトル・フューダー』を攻撃! そして『千年の盾』を破壊せよ、『メテオ・ブラック・ドラゴン』!」

 

 魔女が箒に乗って繰りだされた火球の上を滑るように滑空する。火球が盾を粉砕し、魔女はコウモリをひき逃げした。

 

「『竜騎士ガイア』で、やつにダイレクトアタック! ダブル・ドラゴン・ランス!」

 

 今度こそ一撃を加えんと、騎士は龍を操って遊座に槍を振るった。LPが一気に1400まで削られる。

 

「これで終わりだ。『ヒューマノイド・ドレイク』で、やつに止めを……っ!」

 

 ピーターは口をつぐみ、瞠目する。遊座のフィールドに残ったままの電脳椅子がひとりでに震え、再び発行している。

 その光が止むと、椅子を踏み砕くように金色の戦士が出現した。後光が差しているかのように鎧はまばゆい。遊座のエース、『光帝クライス』が召喚された。

 

「なっ……なぜ、『光帝』がそこにいる!」

「『ガイア』の攻撃が通った瞬間、『ダメージ・コンテンザー』を発動していた! 手札を1枚捨てて、受けたダメージ以下の攻撃力を持つモンスターを、デッキから特殊召喚する!(捨→しっぺ返し)」

「な、なんだと……。情報を出し渋ったか、小野木!?」

「し、知らない! 私はそんなカードなどっ!」

「『光帝クライス』の効果発動! 召喚・特殊召喚に成功したとき、フィールド上のカードを2枚まで選択し、破壊する! 対象となるのは『メテオ・ブラック・ドラゴン』と、『竜騎士ガイア』だ! 裁きを受けよ!」

 

 光り輝く帝が大きく手を広げた。彼の両手に雷が宿り、龍と竜騎士に電撃を食らわせ、消炭になるまで焦がしてしまった。 

 

「『光帝』の効果対象となったカードのコントローラーは、破壊されたカードの分だけドローできる」

「ぐっ……攻撃は中断! バトルフェイズを終了する(手札7→9)。 

 だがまだメインフェイズ2が残っている! 『D・D・R』を発動! 手札を1枚捨て、『真紅眼の黒竜』を帰還させる。そして『フュージョン・ゲート』の効果を発動!」

「なんてこと……次はあのモンスター!ですか?」

「現れよ、『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』!!(手札9→6)」

 

 先ほどとは違う、また新たな巨龍が天から舞い降りた。二本足で背筋をぴんと伸ばし、漆黒の鱗と、紫色の肉肌。2体の融合素材の面影をはっきりと残している。

 『メテオ・ブラック』ほどではないが、しかしその攻撃力、3200は厄介なことに変わりない。

 

「……相棒」『ん?』

「今日は、デュエルできて良かったよ」

『な、なんだ突然』

「キング・オブ・デュエリストが使ったという、三体の融合モンスター。それを見ることができた。ちょっと不愉快な始まりだったけど、ふたを開ければなんてことはない。良いデュエルをできた」

『……好きなのか? その、キングとやらが』

「ああ、キングは偉大だ……僕の中じゃキングはあの人、ただ一人さ。DDとか、そういうのが出てきても、武藤遊戯こそが最高のデュエリストさ。

 ピーター! 最高のサプライズだったよ!」

「……なに?」

「だからお返ししてあげるよ! リバースカードオープン! 『融合失敗』!!」

《なにぃっ!》

 

 重なる皆の声。ピーターも、小野木も、そして原すら声を合わせた。誰しもが予想し得なかったカードが、猛烈な嵐となってグラフ表の世界を襲った。

 龍が、スライムが、鳥が分裂して消えていく。魔女は肌蹴そうになるスカートを何とか抑えようとしていたが、風の勢いには逆らえず、肉付きと血色のいい下肢を露わにしながら吹き飛ばされてしまった。

 ピーターのフィールドが、がら空きとなる。ふんすふんす。機嫌のいい相棒の鼻息……何がそんなに嬉しいかは聞かぬが花。 

 

「融合モンスターが特殊召喚された時、フィールド上の全ての融合モンスターを融合デッキに戻す……『融合失敗』」

「お、お前……デッキを変えたのか!?」

「まさか。『カオス・ソルジャー』は僕のエース。彼が主役だよ」

「だが、そのカードは『融合』を使う前提でなければ……」

「……ピーター。あなたは運が悪かった。僕のデッキは今、あなたのようなデュエリストと戦うために姿を変えていたんだから! 間が悪かったのさ!」

「ぐっ……手札の『マグネッツ1号』と『マグネッツ2号』を融合させる! それでターンエンドだ(手札6→4)」

 

 ピーターのフィールドに、紫紺のプレートアーマーをまとった戦士が現れる。

 しかし、『カルボナーラ戦士』とは驚きだ。今の環境下で、これほど古風なカードを愛用する者がいるとは思いもよらなかった。

 ちょっとだけど、気分がいい。目の前でデュエルモンスターズの歴史が揃い踏みして、こちらに立ち向かってくる。ピーターは初めから計算してそれらを召喚した訳ではない……きっと、一番上手く使いこなせるからそれを使っているだけなのだろう。

 しかしそうであっても、遊座は感謝したい気持ちがあった。小さかった頃にテレビで見た憧れのモンスター達を、この眼で観ることができたのだから。彼のデュエルタクティクスが、粋とさえ思えてしまう。

 

「ピーター、今日のデュエルは愉しかった! 僕からの御礼を受け取ってくれ! ドロー!」

 

 

 ―――――――

 

 スピ:【LP】4000

    【手札】4

    【場】 凡骨 (伏)

        カルボ

 

    【TURN 6】

 

 遊座:【場】 光帝

        未来融合 

    【手札】 決闘融合-バトル・フュージョン 高等儀式術

    【ドロー】貪欲な壺

    【LP】1400

 

 ―――――――

 

 

「先ず第一手! 『未来融合』の効果で、『ドラゴン・ウォリアー』が召喚される!」

 

 過去に放たれた融合の光が、その未来である今に届く。

 竜の鱗を重ねて作られた兜と肩当を着た、ダイ・グレファーに筋肉のつき方がよく似た男が現れる。

 

「第二手! 『貪欲な壺』を発動! 墓地のモンスター5体を選択してデッキに加えてシャッフル。その後、デッキからカードを2枚ドローする」

 

 戻したカードは、『カオス・ソルジャー』・『テライガー』・『千年の盾』・『ダイ・グレファー』・『スピリット・ドラゴン』。

 そして2枚のドローカード……欲していたカードが、その1枚に来た。『マンジュ・ゴッド』だ。

 

「第三手! 『マンジュ・ゴッド』を召喚する!」

「こ、これ以上はやらせんぞ! 罠発動だ、『激流葬』!」

「ば、馬鹿者! ピーター! 相手の融合モンスターは……」

「『ドラゴン・ウォリアー』の効果! ライフを1000払い、相手の通常罠の発動を無効にする!(LP1400→400)」

「うぐっ……」

「しまった……ピーターはバニラカードを使うあまり、効果モンスターの効果を把握しきれていナイ!」

「下柳さん、一気に決めて下さい!」

「ああ! 『マンジュ・ゴッド』の効果を発動! デッキから儀式モンスター、『カオス・ソルジャー』を手札に加える!

 第四手! 手札から、『高等儀式術』を発動! 手札の儀式モンスター1体を選び、そのカードとレベルの合計が同じになるようにデッキから通常モンスターを墓地へ送り、儀式モンスターを特殊召喚する!

 デッキから、『ダイ・グレファー』と『バトルフットボーラー』を墓地に送り……来い、相棒!」

 

 地面のグラフを突き破るように炎の祭壇が現れ、巨大な二振りの曲剣が交差した。

 遊座が最も頼りとする最高の相棒がその一振りを掴み、ゆっくりとフィールドに歩いてくる。王の君臨ともいうべき威風堂々たる様に、相手の戦士は茫然としていた。

 

『さぁ、幕を引いてやれ』

「ああ! バトルだ! 『ドラゴン・ウォリアー』で、『カルボナーラ戦士』を攻撃! スピリット・スラッシュ!!」

 

 竜鎧の戦士が、ばんっ、という勢いで地面を蹴り付けた。その肩当が翼のように風をきる。瞬く間に両者の間が詰まっていき、すれ違ったと思ったときには紫のフルプレートアーマーが見事に両断されていた。

 

「『光帝クライス』、そして『カオス・ソルジャー』!」

『応!』

「敵を食い破れ! 光輝の、カオス・ブレード!!」

 

 二人の戦士が肩を並べ、ピーターに向かって疾走する。光り輝く戦士は跳躍すると両手から光のレーザーを放ち、混沌の戦士が下段から大振りの一撃を放った。

 防ぐ手だではすべて消え、ただ待ちて決着を受け入れるより他ない。ピーターは瞳を瞑り、敗北の刃と閃光をまともに受けた。合算して攻撃力5000以上の攻撃は、彼が立っていた地面に粉塵を巻き起こし、地面のグラフ模様と空に渦巻く黒雲を晴らす。モンスター達はその役目を終え、幻のように消えていく。

 元の穏やかな森に戻ってきた。

 黒ずくめの者達が包囲を解いて、地面に臥していたピーターを神輿のように担ぐ。

 

「今日は勝利に免じて退いてやりまショウ! だが覚えておくがイイ! 我等カードマニア倶楽部は、お前の悪事を必ずや暴いてやルゥ! 撤収!」

 

 そう言うと、集団は小野木を先頭として森の奥へと遁走していく。始まりと同じくらい、終わりも唐突だった。 

 遊座はディスクを仕舞い、老人のように腰を軽く叩く。腰の痛みを意識してからというもの、頻繁に凝るようになっている。これは整骨院にでも行った方がいいかも……。 さくさくと、原が草を踏みつけるように近付いてきた。勝利の安堵だろうか、秀麗な顔立ちに可憐な笑みが浮かんでいる。カードマニア倶楽部を追い払ったのもそうだが、彼女の笑顔を見れたのもこの勝利の御蔭だ。

 

「これは、僕の冤罪が証明されたってことで、いいのかな」

「あの口ぶりだと、また何かするという宣言に聞こえますが」

「まぁ、その時はその時で、またデュエルをすればいいさ。……なんだか、途中から蚊帳の外みたいにしちゃってたね。ごめん、原さん」

「い、いえ。あなたが勝てたのならそれでいいのです……あの、下柳さん」

「なんだい?」

「……あの人たちの話は、嘘なんですよね。あなたは無実で、彼等は罪を着せようとして」

「ああ。『サイバー・ドラゴン』は、正規の手段で手に入れた。それで終わりさ。……しかし、まさか僕ですら知らない情報があったなんて」

「え?」

「『サイバー・ドラゴン』が非売品だってこと。帰ったら義父さんに聞いてみるかな」

 

 懐のサイドデッキから、その1枚を取り出す。メタリックなウナギは、その外観に似合うほどの価値を計上する。これが遊座にもたらす危難は、一体何を意味するのだろうか。

 遊座は原をちらりと振り返り、心配をぶり返したような顔をしているのを見ると「あっ」と呟き、表情を真剣にさせる。

 

「原さん。僕はカイザーに勝つよ。絶対に、勝つから」

「……はい。応援しています」

 

 それでも、彼女の顔が晴れることはなかった。いつもの凛とした椿のような笑みを引っ込め、思考に耽っている。生真面目で聡明がゆえに、彼女の考えは遊座では及びもつかぬ域に達することもある。今の遊座が、それに触れることはできない。

 わざとらしく杖を持ち直すと、遊座は原を学園までエスコートして、いつも通りに午後の授業に臨んだ。そして筆談ではあったが、ディレや宮田とカードマニア倶楽部の危険性について意見を交しあう。その間、原がずっと考え込んでいたのが、遊座の意識を捉えて離さず、御蔭で「話を聞きなさい」とディレに頭を叩かれる破目になってしまった。

 

「ヘへー、ざまぁみろ、ざまぁみろ! 一緒に立たせてやんのー!」

「うっさい、この馬鹿ァっ!」

「静かにするノーネっ!!!!」

 

 学園の平和な日々は過ぎ、決闘の時は近付いていく。

 戦意を保つようにカイザーはデッキを見直し、遊座は心を穏やかにし……そして藤原雪乃は、心を揺らす男の顔をその眼に焼き付けていた。

 

 

 

 

 




 
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