何がヒーローたらしめるか   作:doraky333

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貴方がいなかったら、私はヒーローになろうと思いませんでした。
貴方がいなかったら、私はいつまでも、誰かの顔色を伺って生きているだけでした。
貴方がいなかったら、私は本当の恋を知らなかったでしょう。

──貴方がいなくなったから、私はヒーローになると決めました。

If it weren't for you, I wouldn't have thought of becoming a hero.
If it weren't for you, I'd just be living by listening to the looks on someone's face.
If it weren't for you, I would never have known true love.

──Now that you're gone, I've decided to become a hero.


Episode9.フェスティバれ有精卵

「コスチュームなしか…」

「緑谷君のコスチュームは破損しているままなんだろう?」

「うん。ある意味、体育着のままの方が僕にとっては都合が良かったね…」

「うう〜…緊張してきた!あかん、人…人を飲まんと」

「お茶子ちゃん、まだ緊張には早いわよ」

 

雄英USJ襲撃事件から、二週間。

1年A組は雄英体育祭を迎えた。

この二週間、皆それぞれ準備やトレーニングを重ね、体育祭という一大行事に真剣に向き合ってきた。

彼、緑谷出久も同じ。

オールマイトの後継者…次の世代の台頭者として、ヒーロー社会に緑谷出久という存在を見せつけなければならないと意気込んでいる。

体育祭といえば、二週間前留学生としてA組に編入されたウルフ・エイティスは、特にA組と交流を持つことはなかった。

常にヒーロー二名が彼を従え、時にはA組の授業に、時には施設の見学にと連れ立ち、A組の面々とはほとんど顔を合わせることがなかったのだ。

 

「ウルフ君…か。そういえば個性も何も分かってないよね」

「そもそも言葉も通じるのかわからないのだが…どこの国から来たのかも知らないぞ」

「でもよー、自己紹介んとき日本語で名前喋ってたことね?」

 

瀬呂の意見に確かに、と頷く緑谷たち。

そのウルフは、顔を俯かせて椅子に座っている。

アレでは誰も話しかけようと思わない。

誰にでも噛みつく爆豪ですら、噛みつきに行っていない。

そもそも彼はウルフを敵とも思ってないようだ。

 

ウルフ──比企谷八幡は、そのことを好都合だと考えていた。

特に、総武組が全く話しかけてこない状況で逆に安堵していたのだ。

話しかけられたらボロが出る可能性がある。

雪乃も、今回の経緯が経緯だけにこちらには気をかけないよう努めているらしい。

 

(…いや待てよ?そもそも雪ノ下から声かけられることなんて2年前もなかったことね?)

 

ならいいか、と少し気を抜く八幡。

顔をあげると、狼のマスクが少し目線とズレていることに気づき、手で直す。

本番は個性でマスクと顔を固定できるから良いと思っていたが、今のうちに固定してしまおうか。

そう画策しているうちに、カタンと静かに椅子を引く少年が一人。

立ち上がり、緑谷出久の元へ向かう──轟焦凍。

 

「緑谷」

「轟くん……何?」

 

八幡の目にもその二人が映る。

片方のもじゃもじゃ頭は確か、オールマイトを助けようと飛び出してきた一人だ。

同時に飛び出した平塚先生と変わらないスピードだったことを、思い出していた。

もう一人も確かUSJにいた。

だが、轟という苗字にあの目。

恐らく、エンデヴァー──轟炎司の息子。

いつぞや、エンデヴァーに特訓という名の扱きをされた時の話を、八幡は思い出していた。

 

『俺の息子と、アイツらの息子──比企谷八幡。いずれ、ヒーローとして凌ぎ合う日々が来るだろう!それまで精進しておけ』

『いや、貴方の息子さんなんて化け物に決まってるじゃないですか。無理です』

 

あの時の予想が、不完全ながらも成されようとしている。

 

「おまえオールマイトに目ぇかけられてるよな」

「!!」

「別にそこ詮索するつもりはねえが……おまえには勝つぞ」

 

轟から緑谷に対しての一方的な宣戦布告。

敵意というわけではなく、熱意というわけでもない。

ただの宣言。

轟の目は平常なまま。

その目は、エンデヴァーとは少し違うようだ、と評する八幡。

 

「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか…は、わかんないけど…」

「そりゃ君のほうが上だよ…実力なんて大半の人に敵わないと思う…客観的に見ても…」

「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねえ方が…」

「でも…!!」

 

轟を諌めようとした切島が差した言葉を遮り、緑谷は言葉を続ける。

 

「皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって…遅れを取るわけにはいかないんだ。…僕も本気で、獲りに行く!」

 

八幡の中で、緑谷に対する評価が気弱そうな奴から強い意志を秘めた気弱そうな奴に変わる。

だが、正直なところ興味は湧かなかった。

オールマイトによく見てもらっているというのは少し印象的だったが、それだけだ。

今回八幡が行うことには関係ない。

ただの一生徒の一人、何かあれば対処するまで。

だが。

 

(…こいつらの個性、ほとんど知らないんだけど…)

 

知っているのはあの爆発頭、もじゃもじゃ頭の二人のみ。

先が思いやられる、と心の中で頭を抱える。

そうこうするうちに選手入場の準備に入る時間となり、飯田がA組の面子に声をかけ、真っ先に控室を出る。

ゾロゾロと出て行くA組生徒たち。

 

その中で、雪乃はウルフ──八幡を一瞥する。

だが、彼は目を合わせなかった。

 

 

──────────

 

 

『雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!』

 

ボイスヒーロー・プレゼントマイクのアナウンスが場内に響き渡る。

ここは、雄英体育祭1年会場。

司会進行は別として、1年会場の実況役にマイクが手を挙げた。

そして、全会場中()()警備が厚い会場がこの1年会場である。

プロヒーロー・エンデヴァーは観客席の一つに座りながら、通信機器を手にした。

 

「報告しろ」

『はい!東ゲート現状異変なしです!』

『こちら西ゲート、異常ありません』

「よし。警備を続けろ」

 

会場を見渡すと、一人の女性が目に入る。

プロヒーロー・サンアイズ──雪ノ下陽乃が、知人数名と観客席に座り、談笑していた。

横にいるのは比企谷小町。

比企谷八幡の妹。

2年前、事件の折に我が家に来るかと誘ったが、お気持ちは嬉しいですが、と丁重に断られたことを思い出す。

更に横にセーラー服を着た亜麻色髪の少女が目に入る。

アレも確か見覚えがあるな、と考えていると、陽乃と目が合った。

くすりと笑う陽乃。

すぐに小町の方へ振り向き、会話に戻る。

警備の発案をしたのはサンアイズからだと聞いていたエンデヴァー。

今回の警備依頼、会場内部は武闘派のヒーローと感知派のヒーローが半々といったところか。

二週間前の襲撃事件ではワープゲートの個性で侵入されたという話だったので、そのせいではあるのだろうが。

だが、サンアイズの性格からして単に警備に関わっているとは考えにくい。

何かしら企んでいるのだろう、と睨む。

ただ、流石にサンアイズにその手の脅しも謀略も通用するとまでは思わない。

今はそれより体育祭か、と息子である轟焦凍の出番を待つ。

 

『どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?(ヴィラン)の襲撃を受けたにも拘らず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』

 

ピクリ、と反応して入場ゲートを見やる。

始まるようだ。

 

『ヒーロー科!!1年!!!A組だろぉぉ!!?』

 

プレゼントマイクのシャウトと共に、二十数名の生徒たちがゲートから姿を現した。

流石に緊張している子らが多い、と見る中、目敏く息子の焦凍を見つけるエンデヴァー。

にやり、と笑う。

そうだ、おまえは今日ここから駆け上がるのだ。

 

(…なーんて考えてんだろうねー。あの顔は)

 

サンアイズ──雪ノ下陽乃は、エンデヴァーを横目に見る。

エンデヴァーの親バカっぷりはある程度知っていた。

だが、まさかアレ程とは思わなかった陽乃。

アレでは親バカ通り越して過保護まで行くんじゃないか、というくらい轟焦凍を見ていた。

 

『なお、今年は外部から留学生が1人、A組に参戦しているぜぇ!乞うご期待!』

 

あ、それ言っちゃうんだ、と再びA組の面々を見やる。

もちろん、見るのは雪乃、それから留学生ウルフ──八幡である。

警備依頼にあたり、プロヒーローたちには八幡や(ヴィラン)連合のことは一切説明していない。

前回のUSJ襲撃の様なことが起きる可能性は示唆したが、それだけだ。

陽乃は今作戦の実行人として、雄英並びに雪乃から全ての事情を聞かされていた。

作戦の詰めは陽乃が行うのだ。

 

「…似合わない仮面だねえ」

「どしたんですか?陽乃さん」

「んーん?何でもないよ。それより雪乃ちゃんやガハマちゃんを応援応援」

「おお、そうでした!では陽乃さんもこれを!」

「…何これ?」

 

渡された団扇には雪乃や結衣の名前が、大きなハートマークを背景に書かれている。

小町の向こう側を見ると、現総武中学生徒会長である一色いろはもその手に同じような団扇を持っていた。

だが、よく見るとこっちは雪乃や結衣の名前以外に隼人という名前が記された団扇も持っている。

 

「雪ノ下せんぱーい、結衣せんぱーい、ファイトでーす!」

「ほら陽乃さんも!」

「おっけー!雪乃ちゃーん、お姉ちゃんが見てますよー!」

 

心をシャットアウトし、いつもの仮面を被る陽乃。

これも良いカモフラージュだ、と自らに言い聞かせる。

本当ならこの名前を八幡にして声をかけて遊ぶところだが、流石に作戦を自壊させる気はなかった。

 

何せこれは、比企谷八幡の逃げ場をなくす作戦なのだから。

 

 

──────────

 

 

「ううう……人、多いね…」

「そうね」

「雪ノ下さんは平気そうだねー」

「ええ。所詮ほとんど関わりのない見知らぬ存在に何を遠慮することがあるのかしら。不思議だわ」

「マジで心臓ぶ厚いね…見習いたいわー」

「川崎さんも平気そうだね」

「まあね」

 

A組の後方に総武出身の5人が固まっている。

正確に言うと折本かおりだけは途中転校して総武に入ったのだが。

その5人を最後尾から眺める八幡。

総武中学の雄英ヒーロー科進学枠を勝ち取ったのだろうな、と彼らの努力を想像する。

総武中学校には、ある風習がある。

それは、強力な個性や珍しい個性を持った生徒は総武中学に行くというもの。

必ず全員が行くわけではないどころか、殆どの者は行きはしない。

だが、毎年必ず十名はそれに当たる者たちがいるのだ。

強力な個性を持つ者たちが集まる理由としては、後ろめたい理由から正当な理由までいくつかあるが、1番はやはり力を持つ少年少女たちに対して正しい道徳を説くという為だろう。

結衣のような無生物を生物に変える個性や、かおりのような瞬間移動をほぼノーリスクで使える個性など、それらの個性を悪用されたら、その被害は想像に難くない。

その中でヒーロー思想を持ち、適性があると判断された者だけが、雄英高校へと進学する。

 

(…つまり、雪ノ下たちは相応の強さの個性の持ち主ってことが証明されてるわけだ)

 

雪ノ下は水というありふれたものをいくらでも変化させて戦う個性。

由比ヶ浜は無生物を生物に変えるというレアはレアでもレジェンドレアに分類されるような個性だ。

戸塚の個性はウィング。しかも、ただ羽を生やすような個性じゃない。

川崎は確か、衝撃転換とかいうよくわからない個性だった気がする。

折本は瞬間移動、言うまでもないほど珍しく強い。

 

そういえば、B組にも総武組は居るのか、と目を向ける。

B組も毎年ヒーロー科の筈だ。

 

「結衣!」

「あ、優美子!姫菜!」

「はろはろ〜」

 

やっぱりいた、と目を逸らす八幡。

三浦優美子、海老名姫菜。

2年前、由比ヶ浜と親しかった友人。

あの様子を見る限り、交流は現在まで続いているようだ。

他にも葉山はいるんだろうな、と思い浮かべる。

戸部もそれなりに強い個性だったから、戸部もいるんだろう。

A組の総武組の人数は5人なので、B組にも同数分だけいてもおかしくはない。

あともう1人いるんだろう。

ただ、誰かまでは思いつかないし、パッとB組の方を見てもわからない。

そもそも総武の中で顔と名前が一致するのは10人程度しかいない。

そのほとんどが雄英に来ているとは思わなかった、と心の中で呟く八幡。

偶然だ、と首を振り、A組の方へトボトボと歩いて行った。

 

 

──────────

 

 

「今のところ動きはありません。A組生徒の後方に位置するままです」

「了解。…スクリームフィスト」

「はい?」

「奴ラノ狙イハ…ドウ思ワレマスカ?」

「…やはり、オールマイト抹殺というのが濃厚でしょう」

 

観客席脇の関係者用通路にて、ヒーロー・エクトプラズムとヒーロー・スクリームフィスト──平塚静が声を潜めて会話していた。

2人の視線の先には、ウルフフェイスの少年──もとい比企谷八幡。

 

「アレニソレガ可能ダト?」

「可能性としては10%あるかないかですが…」

「評価ガ高イデスネ」

「元教え子ですから。しかも、奴の個性は2年前より進化しているように思えます。それに、一対一で仕掛けるとも限らない上に、この場にはいくらでも人質がいる」

「ソノ対策ハ出来テイル筈。感知系ノヒーローニ協力ヲ依頼シマシタガ、現時点デ爆発物ハ確認サレテオラズ、不審人物モ侵入ハナイ」

「ワープゲートの対策も行なったと聞きましたが…。それは誰に?」

「スピードノアル個性ハ雄英(ウチ)デハスナイプガイマス。ソレデハタリナイノデ対多人数用トシテシンリンカムイト…スピード系ノミルコニ」

「ミルコ!?アレが来てるんですか!?」

 

知りたくなかった、と苦い顔をする平塚。

ラビットヒーローミルコ。

個性は兎。

サイドキックを連れない、事務所もないという異端のヒーロー。

そんなミルコだが、平塚はミルコを苦手としていた。

平塚はミルコに良い格闘相手になると目をつけられている。

ミルコの方が歳下なのだが、彼女の辞書に遠慮という言葉はない。

自由という類の言葉はたくさん載っているだろうが。

時折パトロールついでだと総武に遊びに来て、何度か無理矢理手合わせをされた事があるのだ。

 

「ぐうっ…逃げたい。警備依頼は出しはしましたが、まさか本当に来るとは…」

(比企谷の名前は出していない。ただの気まぐれか…)

「流石ニ仕事中ナノデカカッテハ来ナイト思イマスガ…」

「…今日は定時退勤しますので」

「無駄ナ抵抗デスヨ?多分。…ホラ」

「おーうフィストォ!!」

「早すぎるんだお前は!!」

 

噂をすれば何とやら。

通路の突き当たりの角から、白い兎の長耳を揺らしてミルコが現れる。

ヅカヅカと歩き、平塚の肩に手をかけるミルコ。

 

「よーう、仕事終わりに遊ぼうぜ!」

「断る。今日の私は残業をたんまりやるつもりだからな!」

(サッキト言ッテルコトガ180°違ウ…)

 

そんな都合の悪いことは口には出さないエクトプラズム。

後で平塚の怒りを買うのは目に見えている。

とりあえず、邪魔になりそうだからと観客席の方へ向かう。

 

「んでぇ?何でこんな日に私に警備依頼なんだよ!いつもよりギャラたけーから受けたけどよ、なんかあるんじゃねーの?」

(相変わらず勘が鋭い奴だな…野生のそれと変わらん)

「先の襲撃事件を忘れたのか?それだ」

「ハッ、雄英もビビリだな!…ところで、あのヤローはまだ見つかってねえのかよ?お前の生徒は」

「…まだだ」

「……何か糸口は掴んだみてえだな」

 

何でバレるんだこれが!と嫌な目をミルコに向ける平塚。

兎の個性は伊達ではないようだ。

少し溜息を吐き、観客席出入り口の方を向く。

 

「心配するな、奴は必ず連れ戻す」

「ったりめーだ!アイツは格闘も出来る良いヤツだ」

「お前の影響で奴は蹴り技主体になったんだからな…」

「でもあのやろーエンデヴァーにも教えてもらってたろ!?そこがねーよな、私だけにしとけよ」

「バカ言え。最初はエンデヴァーに個性の使い方を教えてもらってたのに、お前がやってきて格闘を教え始めたんだろうが」

 

比企谷八幡の個性は実に強力な個性だった。

だが、その強すぎる個性にはあるリスクが常に付き回っていたのだ。

それをうまく解消・回避する方法をエンデヴァーに教わっていた。

八幡の恩師である平塚は肉弾戦の教えはできても、2人の個性は全く似ていなかった為、戦い方全般を教えることを難儀していたのだ。

平塚静の個性は感情起因。

彼女の気持ちがそのまま身体能力に繋がるという個性で、平塚の心が燃え上がれば、決して倒れぬ不屈の闘士となる。

逆に、気持ちが冷めていればパワーは出ず、身体のスピードや反射神経が少し加算される程度。

故に、放出型個性のエンデヴァーに教えをもらっていた。

だが、そこにミルコが平塚目当てで総武にやってきて話が拗れた。

ミルコがエンデヴァーにすでに師事していた八幡に目をつけたのだ。

実際のところは、面白い奴がいるから見てやれと平塚がミルコを八幡にけしかけてみたら、思った以上に2人の歯車がうまくはまったというのが真相である。

 

「でもアイツ、個性の応用で肉弾戦もできるだろ?絶対私やフィスト向きだぜ!」

「近距離戦はあくまで保険であってだな……。…いや、良い。今この話に意味はない。奴がいないことには…」

「しみったれたツラしてんじゃねーよスクリームフィスト!アレはよく頭を使う奴だ!頭を使える奴はそう簡単にくたばりゃしねーよ」

「わかった、わかった!奴が戻ってきたらお前に教えさせるから、とりあえず警備に戻れ」

「よっしゃ戻るぜ言ったな!?」

 

言質取ったぜ!?という顔で走り出すミルコ。

早まったかもしれないと苦笑いする平塚静。

 

「比企谷、君はたとえ戻ってきたとしても……大きな試練がいくつも待っているのが目に浮かぶよ」

 

その一つを作り出した原因が自分にあることをすぐに頭の隅に追いやる平塚。

それにしても、サイドキックを持たないミルコがなぜ八幡に教えたがるのだろうか?

ウルフフェイスの少年に目を向け、首を傾げる平塚であった。

 

 

──────────

 

 

八幡の目線の先には選手台の上に上がった18禁ヒーローミッドナイトがいた。

彼女の主導のもと、選手宣誓を爆発頭の爆豪が終え、ミッドナイトが手に持った采配をピシャリと振る。

 

「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう!」

「雄英って何でも早速だよね」

「早速ではないよね」

「いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)!!」

 

お茶子と耳郎のツッコミをスルーして司会を続けるミッドナイト。

いちいちツッコミを入れていたら司会進行できないだろう、懸命な判断だなと頷く。

決して彼女に見惚れているわけではないと自らに言い聞かせる。

ジロリ、と八幡を後ろに見る雪乃。

バカかお前こっち向くなよ色々バレるだろうがと顔を逸らす八幡。

 

「さて運命の第一種目!!今年は……コレ!!!」

 

会場の中心に浮かんだ空中モニターが文字列を表示する。

障害物競走。

雄英1年のクラスは11クラス、生徒数合計二百名以上。

ゲンナリする八幡。

何つー学校だ、と溜息をつき、逆に感心してしまうほどだ。

数百名によるマラソンならごくありふれた話だが、数百名による個性ありの障害物競走となると、そう単純な話ではなくなる。

大多数の人間が個性を使用しながら同時にゴールへ向かう、妨害アリの障害物競走。

個性を使う参加者に向けた障害物、個性による事故、怪我。

それを全てカバーできるのが雄英なのだ。

相当の人員、予備知識、更には資金が必要となる。

改めてとんでもないとこに来ていると自覚する八幡。

 

「さあさあ位置に着きまくりなさい…」

 

ミッドナイトの誘うような声に言われるがまま、生徒たちの後方に位置する八幡。

予選は通過するんだというAFOの言葉を思い出す八幡。

面倒だが、とりあえず上位に入る必要がある。

 

(けど、無理して前に出る必要はないな)

 

3個のスタートライトのうち、一つが消灯する。

 

個性を使えば特に問題なく人混みを抜けられる、と前方のゲートへ目を向ける。

前方のゲートを抜ければ障害物競走スタートなのだろうが、ここで既に問題が一つ。

ゲートが明らかに狭い。

数百名どころか、一度に10人も抜けられないような横幅だ。

スタート時は混雑するに決まっている。

なら、その上を行くまで。

 

スタートライトが二つ目、三つ目と点灯し、ミッドナイトの号令が轟く。

 

「スタ──────ト!!」

 

雄英体育祭1年の部、開始。

この日、ヒーロー社会は少々様相を変える。

積もった雪が溶ける様に、新たな風景を見せる。

飛び出していく生徒たちの中で、少女は紡ぐ。

 

「待っていなさい。貴方を必ず、繋ぎ止めてみせる」




本格的に体育祭編始まります。
かなり変則でいきます。
ちょいちょい変えていますが、まあ気にしなくてもいいことです。
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