何がヒーローたらしめるか   作:doraky333

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開いた扉。
黄色と黒のラベルのコーヒー缶を手に持った男が扉から出て、寒いと一人ごちた。
無防備な背中に声をかける。
見上げた目が、一瞬ヒーローの目と化す。
──次の瞬間にはスカートの中に目を向けたので、靴を蹴り投げた。

An open door.
A man walks out the door, carrying a coffee can with a yellow and black label, and sips to himself in the cold.
I call out to his defenseless back.
The eyes of him that looked up momentarily turned into the eyes of a hero.
──The next moment he looked inside my skirt, so I kicked my shoe and threw it away for him.


Episode10.群像劇に立たされて

雄英体育祭潜入において、比企谷八幡は個性を制限する必要があった。

それは、USJ襲撃犯のコネクタと雄英留学生のウルフとの線を結ばれるのを避ける為だ。

つまり、使い勝手が良いと重宝する土や地面は使えないということ。

では、何を使うか?

残っているのはほぼ二つのみだった。

一つは空気。

もう一つは、と自身の手を見遣る。

 

のろのろとスタートしようとした八幡のところへ、前方から冷気が到達する。

雪ノ下か、それともエンデヴァーの息子によるものか。

何にせよ、上に跳んだ比企谷八幡には影響がなかった。

 

先頭を行く轟焦凍。

スタートゲートの狭さを逆手に取り、通行止めの為の路面凍結を後方に流す。

そして、それを全て各々の方法で躱す1年A組。

 

「甘いですわ轟さん!」

「そううまく行かせねえよ!!半分野郎!!」

 

先頭を行くのは轟だが、その次を行くのは推進力のある爆豪だ。

だが、彼は掌の汗腺から爆発成分の含まれた汗を出して起爆させる個性。

故に、汗をかくとよく爆破ができる。

が、逆に言えばスロースターターである。

ここから爆豪はさらに加速していくのだ。

 

「うおおお、やべえっしょあのイケメン君!半端ねえ!」

 

その次を行くのはB組戸部翔。

個性、ジェット。

足に噴射式のジェットがついている。

3秒間だけだが、強力なジェット加速を足に対して並行に使える。

その3秒間もインターバルを挟めばすぐに次の3秒間が来る。

そしてそのインターバルも3秒間のみ。

よって、このレースは俺の勝ちっしょ!っと意気込んでいた戸部。

だが──。

 

「いやむりむりむりむり!あの2人の前に出るのは無理だわー」

 

轟と爆豪、凍結と爆破の個性を持つ二人。

攻撃性能が高すぎて、前に出れば何かしらの妨害を受けること間違いなしと言える。

大人しく二人の後ろについていこうと決める戸部。

 

「どきなさい」

「へ!?雪ノ下さん!?」

 

その戸部をサラリと抜かしていく雪乃。

足元には大量の氷が追従していき、雪乃を運んでいた。

つまり、雪乃は何と走っていない。

轟が出した氷の半分を雪乃が操り、自らを滑り運ぶソリのような扱いをしているのだ。

 

「ずっけえ!ていうかすげえ!」

「マジかあの美少女!」

「サンアイズの妹の雪ノ下さんだ!」

 

サンアイズの妹、という言葉に眉を顰めるが、今はそれよりもレースである。

先頭集団が細いルートから大きな広間に出る。

そして、先頭に踊り出そうとする──A組峰田。

もぎもぎを自分の前面に投げつけ、地面にくっついたもぎもぎをジャンプ台にして一気に轟との距離を詰める。

 

「轟のウラのウラを読んでやったぜざまあねえってんだ!くらえオイラの必殺…」

 

GRAPE…と叫んだ辺りで横から飛んできた機械の腕に吹っ飛ばされる峰田。

無理やり側転させられ、ゴロゴロ転がっていく。

無様である。

 

『ターゲット…大量!』

「入試の仮想(ヴィラン)!!?」

 

峰田を吹き飛ばしたのは体長2mほどの仮想(ヴィラン)ロボだ。

奥の方からぞくぞくと生徒たちの方へ迫る。

そして、その上にはそれと同じようなロボが十台以上、生徒たちを見下ろしていた。

 

『さぁいきなり障害物だ!!まずは手始め…第一関門!ロボ・インフェルノ!!』

 

こっちのロボ・インフェルノは明らかに大きい。

15mはあるだろう。

縮尺間違ってるのかと見間違えを祈って目を擦る参加者たち。

当然、何も景色は変わらない。

 

「入試んときの0P(ポイント)(ヴィラン)じゃねえか!!!」

「マジか!ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」

「多すぎて通れねえ!!」

 

「一般入試用の仮想(ヴィラン)ってやつか」

「どこからお金出てくるのかしら…」

 

A組の推薦入学枠の轟と八百万が言葉を零す。

二人はロボ・インフェルノに出くわすのは初めてなのだ。

また、総武入学枠のメンバーも初めてだった為、結衣は一瞬固まってしまう。

だが。

 

「もう、立ち止まることはやめたから!」

 

結衣はロボ・インフェルノではなく、峰田を吹き飛ばした中型ロボの方へと走る。

大ぶりの機械の腕の下を掻い潜り、中型ロボに触れる。

 

「アニミズム!」

 

本日一回目となる、結衣の個性使用。

彼女の個性は無生物を生物と変えるもの。

その数は一度に5体まで。

そして、その生物には自我があり、性格も少し異なる。

無生物を生物に変えるというより、結衣に付き従う自我が無生物に入って生物になるというものだろう。

今回生物と化すのに使われた自我は、結衣がクッキーと呼ぶ一番慣れ親しんだ自我である。

 

ロボに自我が入り込み、結衣に従順なロボ生物となる。

 

『ジジ…結衣!喋れるこれ!』

「わっ、クッキー!?そっか、さっきも喋ってたっけこのロボ!?すごい!」

『結衣、どうする!?』

「あのでっかいロボの足元を縫って、行くよ!』

『おっけー!』

 

結衣を乗せた中型ロボ・クッキーがモーターを駆動させて走り始める。

図体は大きいが、加速するとかなりの速度が出るだろう。

結衣のようにロボ・インフェルノを避けて攻略するのが一般的で最も手堅い策だ。

だが、ロボ・インフェルノに向けて飛び出す姿が三つ。

 

「せっかくならもっとすげえの用意してもらいてえもんだな」

「邪魔だね」

「…」

 

轟焦凍、川崎沙希、ウルフ・エイティス。

地面に氷を這わせる轟。

迫るインフェルノの掌に殴りかかる沙希。

両腕を後ろに逸らし、空気と繋がるウルフ。

 

一台のインフェルノは前面がつま先から頂点まで凍りつく。

一台のインフェルノは掴みかかった勢いが反転し、仰反る。

一台のインフェルノは強烈な暴風に煽られ、仰向けに倒れる。

三者三様にインフェルノは戦闘不能へと陥り、プレゼントマイクの絶叫が会場に響き渡る。

 

『なんっだそりゃあああ!!A組推薦入学枠轟!A組総武枠川崎!!留学生ウルフ!!!あのデカブツ仮想(ヴィラン)をものともしないぜえっ!!!』

 

さっむ、と身をさすりながら走り始めるウルフ──八幡。

轟はわかっていたけど、留学生もやるねとウルフを見る沙希。

轟も同様に、両脇の二人に目を向けていた。

 

「マジかサキサキすんごい!!」

「あの人も出鱈目つええのかよ!?」

「ていうか留学生は風の個性か!?氷炎爆発風って何うちのクラス強個性だらけか!!」

 

別に風だけじゃないけどな、と心中で呟く八幡。

ロボ・インフェルノの群れを抜け、第一関門を突破する3人。

次いで、インフェルノの上を個性で飛び越えた爆豪、常闇、瀬呂、戸部、足元をすり抜けた中型ロボに乗る結衣、氷の波に乗ったままの雪乃が続く。

 

「ゆきのんそれ疲れないの!?」

「走るよりマシよ」

「体力ないもんねー」

「…先に行くわ」

「あ、まってよゆきのーん!」

 

チラリと後ろを見る八幡。

後ろを追ってきているメンツは殆どがA組だ。

やはり、一度会敵した経験からか、行動が素早い。

実戦経験があるというのは大きなアドバンテージだろう。

 

 

──────────

 

 

『オイオイ第一関門チョロイってよ!!んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォ─────ル!!!」

 

聳え立つ無数の足場が、いくつかのロープで結ばれている。

足場と足場の隙間には奈落。

落ちれば失格扱いだろう。

下には安全装置があるんだろうな、と睨みながら足場から足場へ跳ねるウルフ。

先頭集団は特に問題なく進む。

ただ一人を除いて。

 

「わあ、ここだめだねクッキーじゃ…。クッキー、ハウス!」

 

結衣が中型ロボ・クッキーに手を差し伸べ、クッキーの自我が結衣の中に戻る。

後はロープを生物化して落ちそうになったら助けてもらうくらいしかできないだろう。

 

「よーし!」

 

結衣はロープの上を落ちないようにゆっくり歩き始めた。

ここで立ち止まるようなら、将来ヒーローになどなれはしない。

早く一人前のヒーローになって、ヒッキーを助けに行く。

それが彼女の願い、そして目的だ。

 

その当人が既に同じ場にいて、尚且つ第二関門を突破しかけてるのは、もちろん結衣は知らない。

 

「けぷこんけぷこん…ここだ、ここしかあるまいよ!我の見せ場は!」

「あ、中二」

「あいやしばらく!!材木座義輝剣豪将軍!!ここに!!見!!」

「先行くねー」

「ざんってあのちょっと、せめて口上を…」

「ざいもくざきくんちょっと通るねー」

「あ、はい」

 

アイツもいたのか、と後方を振り返る八幡。

材木座義輝。

総武中の同級生だったが、雄英に来ていたとは。

 

(個性は確か電波通信とかいう…。ヒーロー向きの個性じゃないが、雄英推薦枠はとってたはず。……にしては変だな?)

 

材木座の背中には仰々しい飛行機の両翼のような機器が身につけられていた。

まさか。

 

「我が発明の全てを見よ!刮目せよ!!喝采せよ!!この前方飛行推進背面オーパーツを!!」

(サポート科かアイツ)

「では装着!!いざゆかん!!あの空の彼方まで!!」

 

背中に飛行機のようなジェットがついた翼を背負い、ジェットを噴射させ始める材木座。

あの材木座がサポート科とは思わなかった、と驚く八幡。

総武中の雄英推薦枠はヒーロー科のみ。

他の科に行きたければ普通受験するしかない。

いや、そもそも一度は手にしていたヒーロー科への切符を手放すなんて。

ヒーロー科でもなく普通科でもなく、サポート科に行くという選択肢を取るとは2年前の時点では想像もつかなかったことだ。

ぶっちゃけ、B組の残り一人は材木座だとまで思っていたほどだ。

それほどまで、材木座義輝は中学の頃、ヒーローに憧れていたのを覚えている。

 

 

(待てよ…じゃあB組の最後の総武枠は誰だ?てっきり材木座だと…)

 

戸部、三浦、海老名は確認した。

葉山も確か雄英推薦枠第三号、恐らくB組にいるはず。

ちなみに第一号が雪乃で第二号が八幡だった。

結衣は八幡が在籍中にはまだ取っていなかったので、十か十一辺りだろう。

そこまで考えた八幡だったが、すぐに我に返って首を横に振る。

もはや自分には関係のないこと。

誰が雄英に進学してプロヒーローになろうが、この先関わることのないことだ。

 

 

「飛行!かい…」

「…」

「あれ、ちょ、飛ばない?お、重すぎるのか!?」

「…」

「あ、待って!緩やかに落ちてゆく!落ちてゆくぅぅぅ!!!」

「…」

 

ふわふわと浮力が足りない風船のように奈落に落ちていく材木座。

何も見なかったことにして進み、第二関門を突破する八幡。

同時に轟もゴールに辿り着く。

道中のロープを凍らせて滑って着いたようだ。

良いバランス感覚を持っているのだろう。

 

「留学生…」

「…」

「クソが!!」

「!」

 

二人の発した悪態ではない。

後ろを振り向くと、沙希を途中で抜かした爆豪が空中から飛び込んでくるところだった。

レース中殆ど爆破で空中推進して進んできたようだ。

どういうタフネスしてやがる、と呆れる八幡。

しかも先ほどより速度が速い。

 

「スロースターターか」

「…」

「待てや半分野郎に狼顔!!」

(まんまじゃねえか)

 

二人して同時に走り出し、爆豪から逃げる形で進む。

アレと関わるとめんどくさそうだ、と見切りをつける八幡。

 

『先頭が3人一足抜けて下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずに突き進め!!』

 

そう、この障害物競争は上位何名が予選通過なのか公表していない。

故に、順位下位は諦めず、上位は気を抜くこともできない。

最後まで戦わせるための施策だろう。

雄英はあくまで生徒に競争をさせるつもりなのだ。

勿論、障害物競走のことではなく、常に上を狙う姿勢が試されているということである。

 

『そして早くも最終関門!!隠してその実態は────一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!』

「マジかよ…」

『地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と脚酷使しろ!!』

 

高校の障害物競走に地雷を使うなんて頭おかしいんじゃねえかこの学校、と毒づく八幡。

プレゼントマイクの言葉を信じるなら殺傷力はないようだが、それでも爆弾には変わりない。

確かによくよく見れば地雷が埋まっている円形の模様が見える。

だが、走りながらそれを見定め、避けるのは中々困難だ。

現に、轟と八幡の両名はスピードダウンし始めていた。

それが、後ろから迫る爆豪にとっては好都合だった。

 

「はっはぁ俺は──」

「!」

「げ」

「関係ね───!!」

 

低空飛行する爆豪が先頭に躍り出る。

地面に一切足をつけず、器用な飛行を見せる。

破壊力抜群の個性かと思ったが、中々器用な奴だと見直す八幡。

 

「てめェ宣戦布告する相手を間違えてんじゃねえよ!!そして狼顔!!」

 

飛びながら器用にぐるっと顔を轟から八幡に向ける爆豪。

ビクッとしながらも爆豪の言葉を待つ八幡。

 

「ただの空気だと思ったがてめえも潰す!!」

(早く行けよそれより。ていうか顔怖いこいつ)

『ここで先頭がかわった──!!喜べマスメディア!!お前ら好みの展開だああ!!』

(煽んなめんどくさい!今度あったら呪いかけようグラサン割れる呪い)

 

密かにプレゼントマイクに恨みを募らせつつ、二人の後ろに位置する八幡。

八幡の役目は予選を通過し、本選に出て、4位以内に入ること。

3位なら問題なく抜けられるだろう、と後ろに下がったのだ。

この二人と競い合うなど危険極まりない。

 

『後続もスパートかけてきた!!だが引っ張り合いながらも…先頭3人がリードかあ!!?』

 

いや先頭二人と後続一人だろ、ちゃんと公正に実況しろメディアに媚びるな。

口に出さずにプレゼントマイクに注文する八幡。

その瞬間、後方の大気が揺れ、大爆発が起きる。

先程から地雷がいくつか爆発してるのは聞こえていたが、それよりも明らかに大きい爆発音だ。

空気が揺れ、八幡の神経にも障る。

後方から何かが空気を掻き分けて猛スピードで飛んでくるのが、後ろを見ずともわかった。

 

『後方で大爆発!!?何だあの威力!?偶然か故意か──────A組緑谷、爆発で猛追────!!?』

 

先頭二人も後ろを振り向き、緑谷の顔を捉える。

鉄板で爆発を防ぎつつ、爆風を受けて飛ぶ緑谷。

この勢いだと、八幡どころか轟と爆豪の二人を抜き去るだろう。

 

(ていうか…アレ死ぬんじゃねえか!?)

 

八幡の後ろに位置していた雪乃、B組塩崎茨も抜かし、八幡も飛行したまま抜き去る。

勢いそのまま遂に爆豪たちまで抜き去ってなお、空中を飛ぶ緑谷。

だが、空中を飛ぶまま失速し始めた。

アレなら惨事にはならないか、と助ける姿勢を止める。

再び先頭に出ようとする爆豪と轟、後ろでため息を吐きかけた八幡。

そして、爆豪と轟の間の地面に向けて空中から鉄板を振り抜く緑谷出久。

 

「は?」

 

鉄板に反応した地雷がカチカチと反応し、瞬時に爆発を起こす。

爆豪と轟は爆発から身を守るが、緑谷はなんとまた爆発で加速。再びを二人を突き放し、今度は失速せずに前へ躍り出た。

この間、わずか十秒足らず。

たった十秒で地雷原をクリアした緑谷、そのままゴールへと走り去る。

 

『緑谷間髪入れず後続妨害!!なんと地雷原即クリア!!イレイザーヘッドお前のクラスすげえな!!どういう教育してんだ!』

『俺は何もしてねえよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう』

 

なんという身を省みぬ戦い方。

ヒーローっぽいといえばぽいが、アレは自身のことを考えなさすぎなんじゃないかと思う八幡。

平塚の前でああいう戦い方をすれば確実にゲンコツだ。

ミルコからは誉められるかもしれないが。

勿論、八幡がそんなことを言えばお前が言うなと皆に言われること確実だが、その考えは彼の頭にはない。

彼は彼で自分のことが分かっているくせに直そうとしない為、緑谷よりも余計タチが悪い。

 

『さァさァ序盤の展開から誰が予想できた!?』

『無視か』

『今一番にスタジアムへ還ってきたその男────…緑谷出久の存在を!!』

 

プレゼントマイクと解説のミイラマン──もといイレイザーヘッドの実況が会場に響くのを聞き、何度も息を吐きながら会場へ舞い戻る出久。

息を整えつつ、観客席で誰かを探す。

その誰かを見つけたのだろうか、視点が止まり、誰かに向けて涙目になりながらガッツポーズをする出久。

その視線の先には、ガイコツのように痩せたスーツの金髪の男。

緑谷の親族かなんかか、と見る八幡。

どこかで見覚えがある気がする、と首を傾げるがわからない。

 

 

──────────

 

 

リタイア含め、全ての生徒がゴールしてから数分後、順位の集計が終わった。

障害物競走1位、緑谷出久。

2位は轟焦凍、3位は爆豪勝己だ。

そして4位にウルフ・エイティス──比企谷八幡。

5位に雪ノ下雪乃、6位に塩崎茨。

他も妥当な順位だな、とイレイザーヘッドは見る。

(ヴィラン)である比企谷八幡は個性の使用を抑え、プロ資格を持つ雪ノ下雪乃はその体力の無さから全力を出していない。

強いて言えば推薦入学者の八百万百が20位前後にいるのが気になるが、これは峰田に途中で個性によって引っ付かれたせいだろう。

B組は多少A組と混ざり合って上位にいる程度。

ヒーロー科50名、留学生1名、サポート科1名、普通科1名。

これらが合計通過者となった。

後の順位の者は明らかにゴールするのが遅かった為、不合格となったのだ。

サポート科通過者は異端児発目明。

普通科通過者はあの心操人使だ。

 

「予選通過は上位53名!!!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されてるわ!!…そして、次からいよいよ本番よ!!ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!!!」

 

ミッドナイトの声に力が入る。

ようやく本選か、と息をつこうとする八幡。

だが。

 

「さーて第二種目よ!!」

 

ピシリと固まる八幡。

まだなんかあんのかい。

毎年、雄英体育祭はトーナメントが最後に開かれて順位を決定するのは知っていたが、この人数ではトーナメントはダメらしい。

これで本選に入ると思っていた八幡を妙な疲労感が襲う。

 

「言ってるそばから〜…コレよ!!!!」

 

再び空中モニターが現れ、今度は騎馬戦という文字列を現す。

今度はヒビが入る八幡。

騎馬戦ということはチーム戦だ。

つまり、誰かとチームを組む必要がある。

八幡が。

顔を隠して個性を隠して一応(ヴィラン)という素性も隠してる八幡が。

チームを組む。

 

(…詰んだ)

 

「参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど一つ違うのが…先ほどの結果に従い各自にP(ポイント)が振り当てられること!」

「入試みてえなポイント稼ぎ方式か。わかりやすいぜ」

 

さらりとA組砂藤が理解するような言葉を吐くが、これは面倒だぞと眉を顰める八幡。

上の順位の方が当然ポイントは高いだろう。

だが、騎馬戦に向いた有力なメンバーとポイントの高さが比例しているわけではない。

先ほどのポイントは障害物競走で優秀だった順なのだ。

障害物競走で優秀だったから騎馬戦でも有能かと問われればそれは異なるだろう。

緑谷なんかも地雷原のところでの立ち回りが一番上手くいった結果が1位になっただけであって、特別爆発に強いとか足が速いとかいうわけではない。

機転が良く効くということだ。

 

「つまり組み合わせによって騎馬のポイントが違ってくると!」

「あー」

「あんたら私が喋ってんのにすぐ言うね!!!」

 

ピシャンと采配を振り、葉隠と芦戸の二人に叫ぶミッドナイト。

素が出てて怖い。

 

「ええそうよ!!そして与えられるポイントは下から5ずつ!53位が5ポイント、52位が10ポイント…と言った具合よ!」

 

更に、騎馬のポイントが高いとそれだけ狙われやすいということでもある。

八幡は4位なので250ポイント。

下位メンバー4人合計相当のポイントになり、八幡や爆豪のチームはよく狙われるだろう。

そもそも彼の場合はまず騎馬を組めるかどうかだが。

 

「そして…1位に与えられるポイントは──1000万!!!!」

「いや何でだよ」

 

思わずツッコんでしまうウルフ。

周りのA組が久しぶりに声聞いた、と驚いている。

せめて10000とかにしといてやれよ、桁間違ってるだろプルスウルトラすぎるぞそれ。

だが、これで緑谷の騎馬は確実に狙われることになるだろう。

1000万というポイントは他の全騎馬のポイントを如何に集めようとも、届くポイントではない。

それさえあれば確実に1位だ。

問題は、そのポイントを守り切れるかどうかだが。

 

 

──────────

 

 

さて、問題は騎馬を誰と組むかではなく、どうやって騎馬を組んでもらうかだが。

これは中学の頃の体育とは訳が違う。

ただ授業が終わるのを静かに待つなんてできるはずもない。

周りも真剣そのものだ。

この体育祭はヒーローになる為の確かな一歩となるはずのものであって、行事とは言うが試練の場でもあるのだから。

つまり、同情されて先生と組むとかも出来ない。

せめて材木座が残っていれば、どうせ奴も余っただろうから組めたのに。

あの野郎落ちやがった、と観客席で落ち込んでいる材木座を睨む。

それに、組む相手としては総武組は選べない。

彼らは比企谷八幡のことを知っているのだ。

近くにいればそれだけバレるリスクが高まる。

万が一バレた時など、AFOや死柄木が何をするか判ったものではない。

そんなリスキーなことはできない、と周りを見渡す。

何人かポツンと一人で佇んでいるのを見つける八幡。

一人は言わずもがな緑谷である。

1000万という持ちポイントのおかげで皆から全力で避けられているのだ。

哀れ…と思うが、八幡もそんな狙われまくるようなポイントは持ちたくない。

なるべく目立たないように競技に参加して、勝ち残る必要がある。

もう一人ポツンと佇んでいるのが見えた。

恐らくB組の人間だろう。

だが、赤みがかった茶髪をショートカットしたその少女に、どこか見覚えがあると首を傾げる。

まあいい、と他を見ると雪乃と結衣が二人で集まっているのが見えた。

元々は八幡も含めてチームを組むつもりでいたのだ、やはりその二人は組んだ方がお互いの為になるのだろう。

アイツらはどうする気だ、と考えていると唐突に声をかけられる。

 

「留学生!俺と組まないか!?」

「!?」

 

くるり、と振り向くとたらこ唇の大柄な少年がウルフのことを見ていた。

確か砂藤というやつだった、と思い出す。

が、個性がわからない。

 

「あ、私!私と組もうよウルフ君!」

 

今度はこっちだ、と振り向くと体操着が浮かんでウルフに声をかけていた。

──違う、これ透明人間かと思い直す八幡。

確か、A組には透明人間が一人いた為、それだろうと思い返す。

それを皮切りに次々とウルフ──八幡に声をかけ始める周囲の生徒たち。

声をかけてくる生徒には何とB組の者まで居る。

 

ここで客観的にウルフ──比企谷八幡を見てみよう。

障害物競走4位、途中までは轟と爆豪と競り合っていた。

道中ではロボ・インフェルノを倒すほどの強風も起こしていた。

強力な風の個性に、持ちポイント250。

寡黙でコミュニケーションが取りづらく、正確な個性までは分かってないが、もし協力し合うことができればかなりの優良物件だ。

性格を加味すれば爆豪よりも人気かもしれない。

これは騎馬を組めそうだ、と誰にするか思案しかけた時、優しく、だが冷たい手が八幡の左手を後ろから掴む。

 

「!?」

「行きましょう」

「…ハイ」

 

雪乃が、静かに微笑んでいた。

──たたし、目が全く笑ってない。

 

(こっわ!!え!?何かしましたか雪ノ下さん!?)

 

2年前、一色が雪ノ下に

「雪ノ下先輩って葉山先輩と付き合ってるんですか〜?」

とあざとく聞いた時並みの反応である。

恐ろしすぎて、雪乃どころか周りの顔すら見ることができない。

大人しく連れてかれよう、と為すがまま歩かされる八幡。

連れて行かれた先には結衣がいた。

どうやら最初から八幡と結衣を狙っていたようだ。

 

「あ、留学生の…ウルフくん!」

「彼がいれば3人で680ポイント。後もう一人、ポイントがある程度高い人がいれば…逃げ切るだけでも勝てる可能性が出てくるわ」

「そっか!ゆきのんが5位で、ウルフくんが4位…私が17位。平均順位が高ければ、それだけで勝てる可能性もあるんだ!」

「勿論、他の騎馬のポイントは取りに行くわ。けれど、取れなかった時の策も必要でしょう?」

「さすがゆきのん!じゃ、あと一人探さなきゃ!」

 

どこかにいないかなー、と周りを見渡す結衣。

それを横目に、何の真似だと雪乃を軽く睨む八幡。

小声でその問いに答え始める雪乃。

 

「貴方に助け舟を出してあげたのよ?感謝してほしいくらいだわ」

「…由比ヶ浜に近い方がこえーよ」

「何も喋らなければ問題ないわ。それに、今日は貴方地面を使わないつもりでしょう?大丈夫よ」

「…」

 

確かに、2年前の時点での基本戦法は地面を使った戦い方だった。

今日は一度もそれを見せていない。

八幡の声も覆面をつけているせいで少しくぐもって聴こえているはずだが、喋り方でバレるかもしれないので何も喋ってはいない。

また、このくらいではAFOは手を出してくる気はないというのが今わかった。

比企谷八幡の身体には小型カメラと集音マイクが内蔵されており、比企谷八幡の挙動は全て監視されていた。

だが、今は具体的なことは何も話していないし、暗号を用いて会話している訳でもない。

 

「…コミュニケーションは任せる」

「ええ」

「ゆきのん、見つけたよ!」

「ありがとう、由比ヶ浜さん………貴女は」

(…さっきぼっちでいた奴か)

 

といっても少女の方だが。

緑谷の方は丸い顔をしたにこやかな少女が声をかけ、緑谷の方が号泣していたのを目にした。

多分あそこはあの二人が組むんだろう。

連れてこられた茶髪の少女は、どこか申し訳なさそうに雪乃を見て、こちらを見て、すぐに目を逸らした。

見た目は少し派手そうな人だと思ったが、どこか遠慮してるようにも見える。

 

「…あ」

 

思い出した。

2年前、総武中での文化祭。

文化祭実行委員長をやりたいと、その仕事をサポートしてほしいと奉仕部に押しかけた少女。

当時奉仕部にはどことなく悪い雰囲気があり、それを増長させるきっかけを持ち込んだ人物。

彼女ともう一人、雪ノ下陽乃が文化祭をかき回したおかげで、雪ノ下雪乃は忙殺されて倒れる羽目になったとも言える。

最終的に、何とか文化祭は成功を収めた。

だが、彼女の依頼は果たされなかったということになるだろう。

彼女──相模南は、その文化祭を通して成長することができたとは思えなかったからだ。

 

(こいつがB組ラストの総武枠か…)

 

「相模さん…」

「…ゆ、ゆいちゃん。うち、やっぱり…」

「でも、騎馬は組まないと!それに、さがみんの個性なら…」

「貴女が差し支えなければ、是非組んでほしいわ。ええ、他意はないわよ」

 

うんうん、と頷く雪乃。

いつもより社交的だな?と首を傾げる。

相模の個性がまるで思い出せないが、どんな個性なのだろうか。

 

「……じゃ、じゃあ。お言葉に甘えます…」

「うん!」

「ええ。…では、作戦を立てましょうか」

「…」

 

 

──────────

 

 

『さあ起きろイレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経て!フィールドに15組の騎馬が並び立った!』

 

欠伸をしながらプレゼントマイクの呼びかけに応じ、目を開けるイレイザーヘッド。

フィールドとなった舞台へ目を向けると、フィールドに散らばった騎馬をいくつか目につけ、生徒たちの組み合わせを見る。

 

「…なかなか、面白ぇ組が揃ったな」

 

見所は、上位ポイントのチームかと全体を見渡す。

緑谷が麗日はともかく、まさか常闇に加えてサポート科の発目とも組むとは思わなかった。

轟のチームは堅実な組み合わせだろうと見る。

爆豪のチームは前騎馬が切島、後ろ二人が芦戸、瀬呂と完全に爆豪メインの騎馬だろう。

この騎馬の組み合わせ方は性格が出ると頷く。

また、まさか4位と5位が組むとは。

恐らく雪ノ下から誘ったのだろうが、仮にも(ヴィラン)であるウルフを捨て置くことができなかったのだろう。

 

中学の頃の雪ノ下と比企谷の関係は、平塚から聞いていた。

由比ヶ浜も含めて、普通の友人関係ではないが相手を心から信頼し合おうと何度も向き合い、ぶつかり、そして関係を進めてきた。

例え2年も(ヴィラン)の下にいたとしても、雪ノ下はまだ比企谷がヒーロー側の人間であると信じているのだ。

そうでなければ今回の作戦など立案できない。

だが、イレイザーや他ヒーロー達は比企谷を信頼しているわけではなく、むしろ警戒心の方が多分にある。

現状まだ比企谷は何もしていないが、USJでは疲労困憊だったとはいえ、オールマイトに土をつけたほどの男だということを、ヒーローたちは忘れていない。

 

その比企谷達に目を向ける。

大きな化け猫が雪ノ下、由比ヶ浜、比企谷の順に3人を背に乗せ、警戒しながらあたりを見渡すその姿を。

 

「よろしくね、相模さん」

「私たちもサポートするから!」

「…」

「…うん。うち、やれるだけやるよ」

 

普通自動車ほどの大きさの化け猫──相模南が喋る。

この二人を、自分のせいで負けさせるわけにはいかない。

この二人と今はいないあの男には借りがあるのだ。

後ろめたさはある。

また2年前の文化祭や体育祭の時のように失敗するんじゃないかという恐れもある。

それでも、一歩を踏み出すのだ。

そんな風に意気込む相模を、ウルフ──八幡は無言で見つめていた。

 

『さァ上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!!!』




[第二種目騎馬戦補足情報]
緑谷チーム 計10000385ポイント
・1位 緑谷出久 10000000ポイント
・10位 常闇踏陰 220ポイント
・23位 麗日お茶子 155ポイント
・52位 発目明 10ポイント

轟チーム 計740ポイント
・2位 轟焦凍 260ポイント
・ 8位 飯田天哉 230ポイント
・24位 八百万百 150ポイント
・34位 上鳴電気 100ポイント

爆豪チーム 計800ポイント
・3位 爆豪勝己 255ポイント
・12位 瀬呂範太 210ポイント
・14位 切島鋭児郎 200ポイント
・27位 芦戸三奈 135ポイント

雪ノ下チーム 計810ポイント
・4位 ウルフ・エイティス 250ポイント
・5位 雪ノ下雪乃 245ポイント
・17位 由比ヶ浜結衣 185ポイント
・28位 相模南 130ポイント

鉄哲チーム 計875ポイント
・6位 塩崎茨 240ポイント
・7位 骨抜柔造 235ポイント
・15位 鉄哲徹鐵 195ポイント
・19位 泡瀬洋雪 175ポイント

戸塚チーム 計450ポイント
・9位 川崎沙希 225ポイント
・26位 戸塚彩加 140ポイント
・37位 折本かおり 85ポイント

葉山チーム 計705ポイント
・11位 葉山隼人 215ポイント
・13位 戸部翔 205ポイント
・18位 三浦優美子 180ポイント
・33位 海老名姫奈 105ポイント

心操チーム 計325ポイント
・16位 尾白猿夫 190ポイント
・38位 心操人使 80ポイント
・44位 庄田二連撃 50ポイント
・53位 青山優雅 5ポイント

峰田チーム 計480ポイント
・20位 蛙吹梅雨 170ポイント
・21位 障子目蔵 165ポイント
・25位 峰田実 145ポイント

葉隠チーム 計430ポイント
・22位 砂糖力道 160ポイント
・29位 口田甲司 125ポイント
・30位 耳郎響香 120ポイント
・49位 葉隠透 25ポイント

物間チーム 計325ポイント
・31位 回原旋 115ポイント
・32位 円場硬成 110ポイント
・41位 黒色支配 65ポイント
・47位 物間寧人 35ポイント

小大チーム 計170ポイント
・35位 凡戸固次郎 95ポイント
・42位 小大唯 60ポイント
・51位 吹出漫我 15ポイント

拳藤チーム 計230ポイント
・36位 柳レイ子 90ポイント
・39位 拳藤一佳 75ポイント
・45位 小森希乃子 45ポイント
・50位 取蔭切奈 20ポイント

鱗チーム 計125ポイント
・40位 宍田獣郎太 70ポイント
・43位 鱗飛竜 55ポイント

鎌切チーム 計70ポイント
・46位 鎌切尖 40ポイント
・48位 角取ポニー 30ポイント
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