何がヒーローたらしめるか   作:doraky333

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その子と会ったのは、五年前のことだった。
奴との戦いを終え、ナイトアイが私の元を去ってから少しした後。
あの戦いの犠牲者の遺族と会いに行き、その場に少年はいた。
虚ろで、だがとても優しい目で、彼の妹と思しき少女を抱きしめ。

その目は──少女ではなく、まだ虚空を写していた。


Episode11.紫紺が飛ぶ

競技開始五分前、雪ノ下チーム。

 

「相模さん。私たち3人を乗せて動ける?」

「あ、うん。ちょっと待ってね…」

 

グググ、と相模の身体が大きくなり始める。

女性らしい身体が獣の身体へと変化し、全身に獣毛が生えていく。

 

「さがみんの個性はね、化猫化なんだよ」

「…」

 

声を出さずに結衣の方を見るウルフ──八幡。

恐らく八幡に気を遣って個性のことを教えてくれたんだろうが、生憎返事ができない。

せめて反応くらいはしよう、と無言で頷く。

 

「…よし、変身できたよ」

「そ、そう。…失礼。…」

 

一言断ってから大きな化け猫と化した相模に触れる雪乃。

こいつ、猫好きなのは変わってない上にデカくても問題ないのか、と雪乃を見つめる八幡。

こんな時でもブレない彼女は筋金入りの猫好きだ。

 

「大丈夫、3人くらいなら乗せられるよ」

「わかったわ。なら、前騎馬…というより、騎馬が相模さん一人。騎手は私がやるわ。二人は私の後ろでサポートを」

「うん!いつものだね!ゆきのん、氷の…鳥でいいかな?お願いね!」

「そうね。氷の鳥で後方を見張ってくれる?私は前面、貴方は側面を見張りなさい」

 

八幡にだけ命令口調をする雪乃。

まあ、雪ノ下は自分の正体を知っているからな、と普通に受け入れる。

2年前の比企谷八幡と雪ノ下雪乃の関係だと、間違いなく八幡が下で雪乃が上だった。

逆に雪乃が八幡に対して下手に出たら、八幡は熱か裏でもあるのかと勘繰るところだ。

 

「その、留学生…なんだよね?個性って、何かなって」

 

化け猫になった相模がウルフに尋ねる。

騎馬を、つまりチームを組む上で戦力確認は重要で当然のことだ。

そういえば、正確な個性は知らないと結衣も聞きたそうにウルフを見る。

ちらり、と雪乃を見る八幡。

仕方ないわね、と雪乃が口を開く。

 

「彼は空気を操作することができるのよ。大気を操ることができるの」

「あ、風ってわけじゃないんだ?」

「ええ」

 

核心を話さずに二人の質問に答える雪乃。

虚言はつかないというのが彼女の言い分だったが、まあ確かに嘘は言ってない。

ただ、ウルフ──比企谷八幡の個性は、空気も操れるというだけだ。

空気も、水も、土も。

 

彼の両親がそれぞれを操れる人間だったからこそ、彼は何もかもを操る可能性を秘めてしまった。

だからこそ、巨悪に目をつけられたわけだが。

 

「空気って…どういう感じなのかな?ロボ吹っ飛ばしてたのはいつでも使えるの?」

 

ウルフに訊ねる結衣を、当然の質問だが面倒なことしないでくれという目で見る八幡。

声を出せないのに質問に答えるなど、不合理以外の何者でもない。

とりあえず、頷きを返すウルフ。

その返事に、声出せないのかな、と心配しつつもほえーと感嘆の息を出す。

何かの無生物が周囲になければ力を発揮できない結衣からすれば、轟やウルフの個性はいつでも周囲に火力を発揮できる砲台のようなものだ。

それに空気は直視することができない。

 

比企谷八幡の個性は、その内容と経緯からして少し複雑である。

一つ、彼の両親は個性婚を利用して結婚した。

一つ、彼は幼い頃の個性事故から中学一年生になるまでの約10年間個性を一切使わなかった。

一つ、彼の個性は固体操作と言われてきた。

一つ、彼は失った左腕を、AFOの命により別の者の腕に繋ぎ換えられた。

 

だが、2年前に(ヴィラン)に拐われてから今日この日に至るまで、彼は個性の発展をAFOに期待されていた。

その結果が今の彼の個性である。

 

比企谷八幡。

個性──接続操作。

彼は自らの神経を体の表面から伸ばし、物体に接続することでその物体を自在に操作できる。

更に、接続した物体は同じ状態の物体と接続することで別の物体とも接続できる。

固体となら固体と、液体となら液体と、気体となら気体と。

個性の副作用として、彼の体重は接続している物体の質量によって変化する。

彼より重い物と接続したら重く、彼より軽い物と接続したら軽くなる。

 

故に、空気や土を使う。

だが、2年前の時点では彼が操れたのは固体のみ。

十年という個性不使用期間のブランクが、個性の成長を留めていたのだ。

よって、比企谷八幡を知っている者は、固体しか操れない個性という認識である。

完全に余談だが、オールマイトによる、空気を操るようになったのはAFOの個性によるものという推測は誤認である。

 

「このチーム数だと…トーナメント形式の次に行けるのは恐らく4チーム程度ね」

「やっぱり、次がトーナメントかな?」

「恐らくは。そう考えると…合計ポイントは1000は超えたいわね。それに、上位チームのポイントを一つ奪っておきたいわ」

「うう、やっぱりそうだよね。轟くんや爆豪くんとか取れる気しないなぁ…」

「違うわよ由比ヶ浜さん」

「へ?」

「取る気、じゃないわ。取るのよ」

 

弱気な結衣に、強気な雪乃。

雪乃の場合は強気ではなく、ほとんど未来予知の域にまで到達しているが。

そんな二人を見て、仲の良さを改めて確認する相模。

 

(結衣ちゃんに誘ってもらえたのは良かったけど、2年前奉仕部に迷惑をかけたのを思い出すと本当に居心地が悪いなぁ…)

 

実際は奉仕部ではなく、雪乃と結衣、ついでに悪者になってくれながらもこちらをわざわざ被害者にしてくれたあの根暗の3人別々に迷惑をかけたんだけど、と溜息を吐く。

 

ちら、と見ると狼顔の少年が相模を見ていた。

 

(…んで、コイツは何?A組の…留学生だっけ)

 

確かに強力な個性のようだが、それだけでプライドの高い雪ノ下さんが誘うとは思えない。

結衣ちゃんが誘ったのかな、と勘繰る。

 

「狙いたいのは…そうね。爆豪くんは相性が悪そうね」

「轟くんは?氷だけならゆきのん完封できそうだよね」

「ええ。けれど、炎を使われたら勝ち目は薄いわね」

「緑谷くんは?」

「彼の持ちポイントは1000万。超パワーの持ち主…パワーだけなら何とかなるけれど、取れた後が問題ね」

「ゆきのんの体力考えると確かに…あたしも戦うの向いてない方だし…」

「…い、いいかな?戦闘回避だけならウチができるよ」

「へ?」

「そうね。騎馬という仕組み上、貴女に速度で勝てるのはいなさそうね。A組の飯田くんが怪しいくらいね」

「あとは戸部くん…かな。海老名さんのサポート受けたらわからないけど」

 

3人の会話を聞きながら、戸部のチームを探す八幡。

目に映ったのは、かつて嫌いだと言い合ったあの男。

 

(…葉山)

 

葉山隼人。

総武で常に2位だった男。

学業でも、個性訓練でも。

もちろん一位は雪ノ下だ。

 

傍には三浦優美子、戸部翔、海老名姫菜もいる。

総武でも同じグループにいたから、お互いの連携が取りやすいと騎馬を組んだんだろう。

八幡の視線の先に気がついたのか、雪乃もそちらを見ていた。

 

「…彼は確か11位だったわね。あとは13位、18位、33位…」

「いや、あの…せめて名前で呼んであげようよ…」

「えーと、705ポイントだね合計で」

「結衣ちゃんほんとに計算は早いね…」

「えへへー。計算だけは得意だからね!」

「あそこも狙い所ではあるわね。あとはB組の鉄哲…と言ったかしら。この辺りが700ポイント以上あるチームね」

「どこも強そう…」

 

俺的にはギラギラ目──鉄哲のとこが楽かな、と見る八幡。

葉山の出すものは八幡が操れないものだ。

轟の氷は八幡も操れるが、炎は操れない。

氷は物体だが、炎は空気が燃えるという現象だからである。

空気を一瞬で移動させることで真空を作り出したら多分炎を消せるのだろうが、その真空の中にもし人間がいたら大惨事に繋がりかねない。

同じ理由で爆豪も却下。

 

改めてルールを確認する。

騎馬戦バトルロワイヤル。

制限時間15分。

通過チーム数不明。

他チームの鉢巻を取ってポイントを稼ぐ。

騎馬が崩れてもポイントがなくなっても騎馬は続行。

他騎馬への崩し目的による攻撃は退場、即失格。

 

基本的に個性によって騎馬を崩すのはルール違反になる為、大量の空気を高速でぶつけてまとめて吹き飛ばすというのはできない。

つまり、この騎馬戦は攻める側と守る側に分かれるのが普通ということになる。

攻撃に対して攻撃で防ぐのは匙加減が難しいのだ。

 

「後は“下位ポイントのチームの鉢巻をいくつか奪う”だけれど…これは推奨しないわ」

「どうして?」

「単純な話、戦闘に向いてるチームが下位にいる可能性があるから。それを複数相手取るとなると効率が悪い。それだけね」

「レースで遅い人間がバトルで弱いというわけではない…ってことかな?」

 

相模の言葉に、はてなを浮かべる結衣。

今回各々に与えられたポイントは障害物競争での成績であって、戦いでの成績ではない。

雪乃も相模も先ほどの八幡と同じ考えだろう。

雪ノ下はまだしも、相模も直ぐに雪ノ下の考えを察するとは。

雪乃も首を捻る。

 

「…貴女、何故そこまで考えられるのに2年前はああだったの?不思議だわ」

「……ごめんなさいぃ」

「ゆきのん、ダメだってば!」

 

意気消沈していく相模、慌てて慰める由比ヶ浜、罰が悪そうに目を逸らす雪乃、横で眺めるウルフ──八幡。

大丈夫かこのチーム。

 

 

─────────

 

 

『よォーし組み終わったな!!?準備はいいかなんて聞かねえぞ!!いくぜ!!残虐バトルロワイヤルカウントダウン!!』

 

プレゼントマイクの声が始まりを告げる。

競技開始まで、残りわずか。

 

「冷静に、落ち着いて」

「う、うん!」

「…」

「はい!」

 

『3!!!』

 

「隼人くん、誰から行くん!?」

「やっぱ1000万!やるなら一番っしょ!」

「…そうだな…」

「妄想捗るところが良いなぁ…」

 

『2!!』

 

「戸塚、タイミングはあんたに任せるからね」

「緊急回避いつでもいけるよ!」

「う、うん…!」

 

『1…!』

 

『START!!』

 

開始の号令と共に、緑谷チームに迫る騎馬が二つ。

いや、二つどころではない。

ほとんどのチームが緑谷チームに向けて動き、単に距離が近かったチームが緑谷に向けて動いたように見えただけだ。

動かなかったチームは、これまた二組。

一つは漁夫の利を狙おうと考え、周囲を見渡して警戒した物間チーム。

もう一つは。

 

「戸部、待った!」

「へ!?」

「これだけの数が1000万のところに行くなら話は別だ!1000万を狙うチームを横から狙うぞ!」

「おお、成功しそうな作戦じゃん!それノリ!」

「ぐふ!意気投合する二人!普段は受けなのにピンチの時は攻めに回るまさかのどんでん返し!?き、キマ…」

「ちょい姫菜!今鼻血吹くのやめな両手塞がってんだから!」

 

葉山隼人が冷静な判断を下す。

物間とは違い、始めから他の騎馬を狙おうとしていたわけではないが、チームの為なら策は変える。

 

一方、緑谷チーム。

来襲した鉄哲、葉隠チームの突撃を発目によるアイテム(ベイビー)で乗り切り、宙へと浮かび上がった、その刹那。

獣の刺客が飛び込む。

 

「もらった!」

「上出来ね」

「ねこ!?」

 

空中なら騎馬戦という性質上、誰も追ってこないと踏んだ緑谷。

そこを勝機と見て飛んだ──相模南。

緑谷チームの全員の顔が驚きに染まる。

空中に飛び込んできたことにではなく、大猫の上に3人も乗っていることに驚いたのだ。

それはつまり、両手が空いているメンバーが3人もいるということ。

雪乃、結衣の手が緑谷の頭へと伸びる。

 

「やばい!常闇くん!」

黒影(ダークシャドウ)!」

「みんな私片手離すね!」

 

常闇の身体から黒影(ダークシャドウ)が伸ばされ、麗日の左腕も結衣の腕に向かう。

黒影(ダークシャドウ)は雪乃の両手を弾き、結衣の右手は麗日が弾く。

否、弾いてしまう。

 

「へ?」

「!!」

「あかん!!!」

『なんだぁ!!?』

 

落下し始める緑谷チーム、雪乃チーム。

だが、結衣だけはふわりと浮き上がりかけていた。

麗日お茶子の個性は無重力(ゼロ・グラビティ)

その指先に触れたものは、重力が無効化される。

だが、今の上空では無重力になったものには危険が伴う。

緑谷チームが無重力下にあって落下できるのは、お茶子だけが重力下にある──個性を使ってない為だ。

このままだと結衣は上空へと浮かび上がり、最悪のタイミングで個性が解除されることになる。

 

「あ…」

「解除を!」

「止せ麗日!全員落ちるぞ!!」

「ひ……ウルフくん!!」

 

言われるまでもない、と空気を動かす八幡。

大量の空気が結衣を包み込み、突風で結衣を下へと押し戻す。

無重力の結衣は抵抗なく空気に捕まり、そのまま雪乃と八幡に受け止められた。

 

「わ、わわった!?」

「由比ヶ浜さん!」

「ゆ、ゆきのん!ウルフくん…!ありがとう!」

「…」

 

何も言わずに目を逸らす八幡。

流石に柔らかい近い良い匂い等はいえなかった。

比企谷八幡、現在15歳。

未だ思春期である。

その様子にあれ?と首を捻る結衣。

 

「大丈夫!?着地するよ!」

「結衣ちゃんごめん!…解除!」

 

緑谷チームは無重力(ゼロ・グラビティ)の解除と発目による着地サポートの足裏ジェットによって、雪ノ下チームは南の猫のように軽やかな着地で地面に降り立つ。

流石に今の事故直後にいきなり競技を再開しようとは思わず、結衣に再度声をかけようとする麗日。

 

『どうやら上手く対処できたな!流石留学生!空気というどこにでもあるモノを操る個性、かなりの強敵だぜぇ!』

(というよりも、仮にも(ヴィラン)が人を助けるとはな)

 

だが、そんな事情など露知らず、走り込んでくるチーム──否、走り込んでくる者が一人。

 

「ボサっとすんなぁ緑谷!この小さな魔の手が襲うぜェ!?」

「へ!?」

「障子くん!?アレ!?一人!?騎馬戦だよ!?」

 

A組障子目蔵がなんとたった一人でフィールドを駆け、緑谷チーム・雪ノ下チームの元へ駆けにくる。

一人の分他の騎馬よりも明らかに速い。

その姿に違和感を覚える雪乃。

相模は違和感を匂いで感じ取っていた。

 

「アレ!中に何かいる!」

「な、中って…もしかしてあの腕?触手?の中!?」

「まっさか!人を背負って動いてるのか障子くん!ってことは…!」

 

いくら身体の大きい障子とはいえ、普通の体型の人間を背中に乗せて走れるとは思えない。

つまり、背負えるのは小柄な人間に限られる。

この競技参加者で小柄と言えば。

 

「峰田くんか!」

「うそ、周りに峰田くんのもぎもぎが!」

「!? 何このきもいの!?」

「さがみん触っちゃダメ!くっつく!」

「半分正解だぜ緑谷ぁ!」

「半分!?」

 

障子の背中から飛ぶ嘲笑うような峰田の声。

だが、同時に細長い線のようなものが障子の背中から飛び出し、緑谷の頭を掠める。

咄嗟に反応し頭を守る緑谷。

緑谷チームの後ろから迫っていた鉄哲も、その細長い舌を何とか避ける。

 

「舌!?だよなこれ!」

「流石ね緑谷ちゃん」

「蛙吹さんもか!!すごいな障子くん!!」

「梅雨ちゃんと呼んで」

「クッキーGO!」

 

結衣により命を宿した氷の鳥。

氷片を散らしながら障子の腕の隙間へと飛ぶ。

勿論、鉢巻狙いである。

 

「綺麗だわ結衣ちゃん。けど」

「躱せる」

 

氷の鳥の軌道から横に跳び、攻撃を躱す障子。

騎馬戦において、なくてはならない機動力を、たった一人で二人を背負う障子は確保できているのだ。

 

「勝機!!ですぞ!!鱗氏!」

「その鉢巻もらったぁ!」

 

こりゃ続々と集まってくるな、と緑谷の方を見ながら空気で飛び掛かってきた二人を吹き飛ばす比企谷。

だが、吹き飛ばした二人はなんとサラリと着地する。

騎馬が崩れる様子もまるでない。

いやそもそも二人って何だ!?と吹き飛ばした二人を改めて直視する。

獣のような体格の男の上に後ろにおさげ結びをした黒髪の少年が乗り、不敵に笑っていた。

 

「アイヤー…やるじゃねえか留学生!俺もある意味留学生だけどな!」

「鱗氏!今は何やら止まっている様子!早めに彼らの鉢巻を奪い、緑谷氏の元まで行きますぞ!」

「え、えっと…B組の…誰だっけ?」

「宍田くんと鱗くん!ビーストの個性と鱗の個性!」

 

結衣の疑問に答える相模。

A組とB組の混合騎馬である雪ノ下チームはお互いの組の個性を教え合うことができる。

今の攻防の間に緑谷チームはまた空中へ飛んで一旦退避。

どうしようゆきのん、と雪乃の方を見る結衣。

が、雪乃の目に気づいて押し黙る。

雪乃の目から冷酷な冷気が発しているのを感じ取ったのだ。

明らかに怒っている。

 

「…早めに?」

「ゆ、雪ノ下さん?」

「…あちゃー……」

 

こいつ昔から喧嘩っ早いよな、と溜息を吐く八幡。

奉仕部3人の中では一番怒りやすいのは確実に雪乃だ。

ちなみに2番目は結衣。

 

「私たちを早々に片付ける。いま、そう言ったのかしら?」

「え、いやあの…」

「言葉の綾というか……雪ノ下氏?」

「そう。ならばこう言ってあげるわ」

 

パキキ、と雪乃の指先が冷える。

 

「やれるものならお好きにどうぞ?その戯言を出した口ごと氷漬けにしてあげる」

 

ひっ、と相模が顔をすくめ、その上を氷の波が通過する。

避けれない、と迎撃の構えを見せる宍田、鱗。

獣の腕を振り抜き、氷の波を砕く。

腕から発射された鱗の弾丸が波を穿つ。

だが、やはり止まらない。

前方からの氷の波を一時止めたが、波は左右に分かれ二人を襲う。

 

「なっ…」

「何で止まんねえんだ!?」

「私の氷は轟くんのとは違うわよ」

 

雪ノ下雪乃の個性は三態。

轟とは違い、自らが放出した氷や水以外の氷も操ることができる。

それ故に、一度放出した氷を再度操ることができる。

轟ほど強力な氷は出せないが、その分精密なコントロールをする。

いや、コントロールできるようになるまで修練したというのが正しいだろう。

彼女の姉、雪ノ下陽乃は強力な個性の持ち主だった。

更に、陽乃と雪乃は個性の相性が悪い。

パワー勝負ではとてもではないが雪乃に勝ち目はなかった。

だからこそ、コントロールに目を向けた。

 

「うご、けねぇ!宍田もダメか!?」

「こ、これは…一度ビーストを解いた方が良いやも…」

「その間に鉢巻を貰うけれどね」

「で、しょうなぁ!」

 

全身ではなく、宍田は両足、鱗は両腕を凍らされてしまった。

騎馬である宍田は動けず、鱗も個性を肌を晒して使用するため、腕を凍らされては個性が使用できない。

精密なコントロールの上、狙いまで正確である。

 

(個性の練度が違いすぎる…!!)

「雪ノ下さんすごすぎ…」

「由比ヶ浜さん、鳥たちに命じて鉢巻を!」

「うん!」

 

「させないよ」

 

光弾が、氷の鳥を貫いた。

破砕された鳥に、目を見開く結衣。

光弾の個性。

青山優雅のネビルレーザーとは異なる形状に、心当たりはたった一人。

その場の全員の視線を、葉山隼人は穏やかに受け止めていた。

 

 

──────────

 

 

「葉山…!」

「宍田くん鱗くん氷漬けじゃね!?いたそーだわー」

「何の真似ですかな!?」

「いや、氷漬けにされてるままならあーしらがポイント取ろうが雪ノ下さんらにポイント取られようが一緒じゃん?漁夫の利って奴」

「いやそれ盗賊と変わんね…」

「あ゛?」

 

三浦の眼光が鱗を貫き、押し黙らせる。

女王っぷりは高校でも健在かよ、と苦い顔をする八幡。

あの雪ノ下とはまた違う燃えるような眼光が、八幡は苦手だった。

だからと言って雪ノ下の冷徹な眼光に慣れたわけではなかったが。

 

「…どういうつもりかしら?」

「今優美子が言った通りだよ。もらえそうなポイントをもらいに来ただけさ」

「なら早く鉢巻を取って逃げればいいじゃない。何を固まっているのかしら」

「…勿論、君のポイントももらっていこうかとね」

「……面白いジョークね」

 

葉山は動けない鱗から鉢巻を取り、自らの首元へ掛ける。

これで葉山チームは830ポイント。

 

「いま、残り時間は…半分切ったよ!」

「順位は…アレ?」

 

会場の中心に浮かぶモニターを見ると、既にほとんどのチームのポイントが動いている。

だが、中でも注目のチームが一つ。

 

────────────

1位 緑谷チーム 10000385

2位 物間チーム 1475

3位 鉄哲チーム 1325

4位 葉山チーム 830

5位 雪ノ下チーム 810

6位 轟チーム 730

7位 拳藤チーム 725

8位 戸塚チーム 450

9位 角取チーム 70

10位 爆豪チーム 0

11位 鱗チーム 0

12位 小大チーム 0

13位 峰田チーム 0

14位 心操チーム 0

15位 葉隠チーム 0

────────────

 

「爆豪くんが…0!?」

「物間だね。上手くやったようだ」

「…何か仕掛けたのね?」

「俺は何も。やったのは物間たちだよ」

「何かー、手ェ抜きながらみんなのことを見るって!」

「手を抜くって…?」

 

あんまよくわかってないんだけどね俺!と笑う戸部。

つまり、物間──B組の面子は第一種目の障害物競争で下位順位の位置からA組の個性を見ていたというわけだ、と納得する八幡。

戦略としては合理的だ。

道理でB組は障害物競走に上位メンバーが少ないと思った。

だが、全員その人間個性観察に付き合ったわけではないようだな、と鉄哲や塩崎の方を見て思う。

彼らは明らかに全力でやっていたし、手を抜くなどは考えてないだろう。

それは葉山たちにも当てはまる。

葉山は11位、戸部は13位、三浦も高い。

海老名さんはどうなんだろうな、と目線を向けると、何故か目が合う。

 

「…?」

「…君、男だよね?」

「……???」

 

困惑しながらも頷く八幡。

なんだ、何を考えている。

まさかもう正体がバレたとかじゃないだろうな、と通信マイクが内蔵されている襟元を抑える。

AFOへの抵抗のつもりだが、恐らく意味はないだろう。

 

「…くふっ」

「は?」

「氷の城に野獣の番犬、囚われの狼王子!!それを救い出そうと挑む光の戦士!追従しながらも嫉妬の目を向ける疾風の男!!これはイケる!!き、キマシタワー!!!」

「…ウチ、犬じゃないんだけど。猫なんだけど…」

「姫菜ってほんとに姫菜だよね…」

 

絶句する八幡、能面のような顔になる葉山、たははと苦笑いしながらちらちらと海老名を見る戸部。

頭を引っ叩いてやろうか、と左横の海老名を見る三浦だが、やめた。

彼女の個性が上手く発動していたからだ。

 

想像(イマジネーション)!リアライズ!!」

「お…」

「おお、コレコレ!」

 

海老名姫菜、個性・妄想鼓舞。

彼女の妄想は、対象の人間に影響を与える。

個性の成立条件は彼女の妄想を耳にすること、それを思い込むこと。

今回の場合なら、葉山隼人は力強く。

戸部翔は脚が速く。

そして、ウルフ──比企谷八幡は。

 

(身体が…重い!?)

 

「おやおや〜?隼人くんやとべっちはともかく…君まで効いたんだ?…ふふふ、想像力豊かなんだねえ」

(やべ…個性忘れてた。すげーピッタリの個性だったじゃんこの人)

「…君、BLに興味ない?」

 

全力で首を横に振る八幡。

別にこの問いには正直に答える必要はなかったが、ウルフ=八幡だと知っている人間が目の前にいる。

その人物──雪乃は、引き気味の視線を八幡に送った後、葉山たちへと戻す。

 

三浦さんの個性は確か手を使うものだったはず、後騎馬のため戦力外。

海老名さんは既に個性を使用済み、これ以上の加勢は本人の趣味嗜好的にもない。

戸部くんは足についたジェットをいつでも使えて、海老名さんの個性によって強化済み。

葉山くんは両手から出す光弾が個性、速度・方向が自在。

 

「現在5位、彼らのポイントを全て奪えば…2位」

「葉山くんかぁ…勝てるかな…」

「さがみん…」

「あの人すごい強いし…隙がないし…雪ノ下さん以外だと中学でも誰も勝ってないよね…。あと五分で鉢巻取れるかな…」

「…相模さん、現状…私たちは5位なのよ。4位以上の誰かを蹴落とさなければこの先の予選通過は危ういわ」

「…」

 

例年、雄英体育祭ではトーナメントが最後の競技として開催される。

今年も然り、雪乃が話しているのはそのことだ。

トーナメント出場者は、例年通りならこれまた16人。

1チーム4人以下の騎馬戦なら、おそらく通過するのは4位まで。

 

「個性はお互いに知れ渡ってる。条件は五分だ。…それに、ここに来たのは鱗たちのポイント狙いってだけじゃない」

「…どういう意味かしら」

「俺は君に挑戦する。そう言ってるのさ」

「……良い度胸ね。その挑戦を受けましょう」

 

雪乃の言葉を聞き入れた途端、葉山の周りに光弾の数々が出現する。

その数──五十以上。

 

「えっ…!?は、隼人くんの個性って両手から出すんじゃ!?」

「ぐふふ…ノーモーションで攻撃するって映えると思わない?」

「これも姫菜の個性のせいなの!?」

 

とんだチート個性だ、と空気と接続しながら悪態を吐く八幡。

他者の個性に影響を与える個性はそうはいない。

八幡の知っている中だとAFOとイレイザーヘッドだけだ。

あの悪の親玉と同列とまでは思わないが、ベクトルが違うだけで力の大きさ的にはかなり近い。

 

「さあ、この数を捌けるかい!?」

「愚問ね」

「余裕だねっ!!」

 

光弾の群れが一斉に雪乃たちの元へ弾き出される。

硬直する結衣、相模。

これはヤバい、と八幡が手を出そうとするが、雪乃の右手を見て止まる。

彼女の右手の掌から、幾つもの氷片が生まれているのを目にしたからだ。

右手を翳し、小さな氷片たちがそれぞれ光弾へと襲いかかる。

氷片と光弾が反応し、空中で破裂する光弾。

同時に向かってきた光弾を全て氷片で破裂させてしまったのだ。

 

「…!」

「貴方の光弾…確かに速いけれど、物理的接触を受ければ破裂するのは変わってないのね。ならば話は簡単。全て叩き落とせば良い話」

「…この至近距離で撃たれた光弾を、全部個性の氷で叩き落とす君の方がすごいよ…雪ノ下さん」

「私は個性の精密なコントロールを磨いてきた。この程度わけないわ」

「…戸部!」

「OKっしょ!」

 

戸部の脚についたジェットが唸り、宙へと飛び上がる葉山チーム。

更に葉山は光弾を二十近く出現させ、上から雪乃を狙う。

 

「飛びかかってくる気だよ!」

「相模さん距離を!」

「はい!」

 

戸部の個性の使用には3秒というインターバルが必要である。

それを知っている雪ノ下たちは、葉山チームの方向転換は直ぐには出来ないと踏み、直ぐに相模に避けさせる。

 

「着地時がガラ空きね」

「それはどうかな?」

「いけるっしょこれは!!」

 

姫菜の呟きに反応するように右足を横に伸ばし、再度ジェットを発動させて方向転換・加速する戸部。

雪乃たちの目の前に葉山チームが急接近する。

 

「な」

「インターバルがない!?」

「良いねえ速いよ戸部っち!!」

「あざーす!!」

「やるじゃん戸部!もらった!」

 

光弾が先ほどよりも更に近くで発射され、対応を余儀なくされる雪乃。

瞬時に対応した雪乃の反射神経に舌を巻くが、同時に伸ばされる葉山の両手。

これは取った。

 

()()()()()()

 

その時、葉山の視界が揺れる。

風に煽られ、頭を逸らされ、手の狙いが外れる。

 

「なっ……!?」

「は、隼人!?」

「い…まの、は!?」

 

比企谷八幡の思考は元来ネガティブなものだ。

予防線を張り、自らに期待させないようにと斜め下から物をみる。

だからこそ、最悪の状況を常に予見する。

他チームの乱入、流れ弾、奥の手。

それらに備えるべく、雪乃と結衣の後ろで常に相手と周りを()()()()

そして当たった予想の一つが、海老名による戸部の個性強化は何かというもの。

インターバル無効。

戸部の個性を詳しく知っていたわけでは無いが、単に何かしてくると構えていたからこそ、ピンチをチャンスに変えることができた。

騎馬を崩すのではなく、葉山の頭ひとつ分だけを狙った突風。

狙いは二つ。

一つは葉山の視界をずらすこと。

もう一つは、宙に浮かび上がったアレだ。

 

「隼人!鉢巻が!」

「やられた…!」

「さがみん!!」

「おっけー!」

 

葉山の頭から外れた鉢巻──葉山チームのポイントの鉢巻が宙を舞い、それに向かって飛び上がる相模に乗る雪ノ下チーム。

一歩遅れて戸部が反応し、鉢巻に向かって跳ぶ。

牽制に光弾が放たれるが、やはり氷片で撃ち落とす雪乃。

騎手対決はここまで互角。

ならば有利になるのは、大猫の相模に乗って両手が空いた二人だ。

結衣の右手が鉢巻に向かって放たれる。

 

「届いてぇー!!」

「ちょこれは無理っぽい…!!」

「戸部!!しっかり隼人支えてな!!」

「へ!?」

 

三浦が戸部の手を離し、一瞬右手がフリーになる。

そのすこしの時間さえあれば、彼女は個性を使える。

 

三浦優美子、個性・飛手空拳。

彼女は両手のモーションを離れた位置に対して正確に伝えることができる。

彼女が正拳突きをしたら離れた位置でも正拳突きが起きたことになり、その衝撃が伝えられる。

いわゆる遠当てを行うことができる。

距離の制限は視界が届く範囲まで。

 

結衣の指先が鉢巻に届いたと同時に、三浦の右手はハエ叩きのようなモーションを取っていた。

パッと結衣の顔に浮かんだ喜色が、右手に叩かれたような衝撃が起きて驚きへと変わる。

掴めなかった鉢巻が、風に煽られて葉山の元へと落ちた。

 

「よし!ナイス優美子!!」

「危なかったー!!」

「とべっち下!着地!!」

「おわぁそうだったぁ!!」

「結衣!悪いけど負けてあげられないよ!!」

 

「着地するよ!まだ時間は…あるから!」

 

相模がまた軽やかに着地し、戸部は軽いジェットを噴射して着地の衝撃を和らげる。

残り時間、2分。

まだ時間はある、と時計を確認した相模が葉山たちに向き合う。

3人を振り落とさないようにスピードをすこし制限していたが、こうなったら本気で…と意気込む相模。

だが、ふと疑問が浮かんで留まり、雪ノ下の顔を窺う。

雪ノ下の性格なら、追撃の号令をかけるはず。

なのに、何も言い出さない。

由比ヶ浜にしてもそうだ。

彼女ならみんなを鼓舞するような言葉を言うはず。

なのに、何も言わない。

 

「…雪ノ下さん?」

「ご苦労さま…由比ヶ浜さん」

「うん!」

「なに?」

 

今度は頭から落とさないようにと首に鉢巻を掛けた葉山が、雪乃たちの会話に反応する。

ご苦労さま?

まるでもう戦いが終わったかのような言葉だ。

まさか諦めたわけじゃないよな、という考えが頭をよぎるが、それだけはないと首を振る。

じゃあ一体。

 

「…え?」

 

しゅるり、と衣が首を撫でたような感覚。

まさか、と首元に手をやると、鉢巻が両方ない。

 

「な、ん…!!?」

「隼人アレ!!」

「!?」

 

優美子に言われた方向をバッと振り向く。

葉山の目には、片方の鉢巻が、もう片方の鉢巻を引っ張ってゆっくりと飛ぶその姿が映っていた。

アニミズムによる生物化。

葉山チームの鉢巻が結衣の従順な生物になった。

あの空中で、結衣が触れた一瞬で、鉢巻は結衣の下僕となったのだ。

 

「結衣か!!」

「マカロン急いで!!」

「させ」

「させないわ」

 

バッと動こうとした戸部のジェット部分を氷の波を這わせて凍らせる雪乃。

機動力が戸部一人によるものなどわかりきっている。

 

「優美子!!」

「やらせてたまるかっての!!」

 

再び戸部の手から手を離し、鉢巻を叩き落とそうとする優美子。

だが、それもわかりきっていること。

再び突風が起き、三浦の腕のみが揺れる。

 

「きゃっ…!」

「なら俺だ!!」

 

駆け寄ろうとする相模の足元に光弾を撃ち込み、牽制する葉山。

鉢巻ごと撃ち落とそうと光弾を更に出現させる。

だが、三度強風が起きる。

風に煽られた二つの鉢巻は、結衣の手元へと踊り込む。

 

「ゲット!!」

「留学生くんすごい!!」

「何あの個性!!」

「チートすぎるっしょ!!」

 

違う、と内心首を振る葉山。

風なんて吹くとわかっていれば耐えることは容易い。

だが、あの留学生は基本的に風が起きると対処できない場面でしか起こしていない。

ロボ・インフェルノのような巨体であれば風の影響は受けやすいが、軽くて表面積が少ない人間ならそうは影響されない。

個性の使い所が半端なく上手い。

 

無言で個性を使い、予想外の点でこちらを翻弄してくるその姿に、ある男の姿が想起される。

中学時代、雪ノ下雪乃以外で初めて負けたと思わされたその男。

まるで比企谷のようだ、と二人の姿が重なる。

その思考は、プレゼントマイクの号令によって中断される。

 

『TIME UP!!!』

 

 

──────────

 

 

「え…」

「やった!」

 

葉山たちの有していたポイントを全て奪い、時間ギリギリで逆転、逃げ切った。

ガバッと雪乃に抱きつく結衣。

 

「やった!やったよゆきのん!!」

「ええ、あの時よく手が届いたわね。偉いわ、由比ヶ浜さん」

「ゆっきのーん!!!」

「うわあ…」

 

二人の仲の良さに少々引き気味の相模。

雪ノ下も抱きつかれて嫌がる様子がない。

この二人、こんな感じだっけ?特に雪ノ下さん。

 

喜ぶ一方、結衣はウルフを見る。

あの時、鉢巻は取れなくても良かった。

触りさえすれば、鉢巻は結衣の元へ自動で戻ってくる。

だが、もし葉山たちの元へ行けば、葉山が身につけていたもう一つの鉢巻も奪えるのかもしれないという考えがよぎった。

あの時、風が吹いて葉山たちの元へ鉢巻は舞い戻った。

まさか、あの風を起こしたのはウルフ?

だとすれば、何故?

鉢巻を葉山たちに与えればポイント的に負けていた。

そんなことをする必要なんてないのに。

それとも。

 

「…ね、ウルフくん」

「?」

「…もしかして、私が個性使うの…わかってた?」

「…」

 

プイッとそっぽを向き、何も言わずに相模から降りるウルフ。

どうやら当たっているようだ。

先程麗日の個性で浮かんでしまい、助けてくれた時もそうだったが、彼の仕草は誰かさんとそっくりだ。

その姿に、意中の人が思い浮かばれる。

 

(…ヒッキー)

 

ぎゅっと手を握る結衣。

そんな結衣を見ながら、何も言えずに黙る雪乃。

まだ真実は明かせない。

もう少し、後数時間。

 

それよりも今は順位ね、と順位発表のモニターを見る雪乃。

 

『それじゃあ早速順位見てこうかぁ!?1位…轟チーム!!10000385ポイント!!』

 

「あれ!?緑谷くん…取られてる!」

「ん?でもなんかポイント変だよ?轟くんのポイントも無くなってる」

 

確か緑谷チームの元々のポイントが轟たちが今持っているポイントのはず、と思い返す。

ポイントを交換するような激しい戦いだったようだ。

 

『2位!ばくご……いや!!逆転してんぞいつの間にだ!?雪ノ下チーム!!1515ポイント!!爆豪チームは3位!1475ポイント!!』

 

「や…」

「やったよゆきのん!!!」

「ええ」

 

「3位!?」

「んだとオラァ!!」

 

喜ぶ雪ノ下チームの一方、驚きを隠せない爆豪チーム。

直前でポイントを物間たちから全て奪い取った、その時点で2位だったはず。

葉山たちから鉢巻が全て無くなっているのを見て、自分達と同様、ポイントの逆転が起きたことを察する。

爆豪がバッと雪乃を睨むが、意にも返さない雪乃。

ウルフの方も睨むが、こちらはモニターを注視して動かない。

 

「…」

「いや、でも3位だし!これで予選は通過だよ!トーナメントで勝てば優勝なんだから、大事なのはそっちだよ!」

「おお、爆豪!この借りはトーナメントで返そうぜ!!雪ノ下たちにも、轟たちにもな!」

「…ったりめえだ」

 

意思がないのか、気力がないのか。

だが確実に実力はある。

トーナメントで、全力のてめえらを倒すと自らを昂る爆豪勝己。

彼に一切の妥協はない。

 

『そして4位!鉄哲チー…むぅ!?じゃない!!何だよいつ!?また逆転!?心操チーム!!1325ポイント!!』

 

「え…。し、塩崎さんたちは!?」

 

相模の言葉に塩崎──鉄哲チームの方を向くが、騎馬を未だ組んだまま固まっている。

どこか呆けたような表情に、何かされたなと、恐らく犯人──心操を見る。

鉄哲たちのポイントを全て奪ったようだ。

含み笑いをするその姿は、何処となく(ヴィラン)のそれに似ていた。

 

『以上が4位まで!ここまでがトーナメント…最終種目出場者になる!…本来なら、だけどな!!』

 

「!?」

「へ?」

 

『今年は趣向を変えてくぜ!?喜べマスメディア、ビッグサプライズだ!!最終種目出場者は────32名!!32名によるガチバトルトーナメントDAZEEEEEE!!?』

 

「は!!?」

「32って…上位8チーム!!?」

 

動き出したわね。

この場にいない、雄英高校校長・根津の言葉を思い出す。

 

 

『人数を倍に増やす!?しかし、それだと体育祭の終了が…』

『理由は二つ。まずはその終了だよ』

『え?』

『体育祭の終了時間をずらしたいんだ。来ていただいた方々に申し訳ないけどね』

『どういうことですか?』

『今回の(ヴィラン)連合、何もしてこないと思うかい?オールマイトの護衛だけで済むと?』

『…それは』

『敵にワープ持ちがいて出所の予想がつかない・多数の観客を前に秘密裏に実行される潜入。以上の二点を踏まえると、対策は非常に練りにくい。だからまずは相手のペースを狂わせる』

『それが終了時間をずらす事に繋がると?』

『何かあるのであれば大会中に秘密裏に、又は終わった後だ。秘密裏にっていうのは問題なく防げる。何かしでかしそうなウルフ(比企谷八幡)は常に見張るからね』

『…なるほど、もう一点は?』

『2年、3年ステージが1年ステージより早く終わる事で、戦力を1年ステージに集中できる、かな。他を警戒する必要もなくなるしね』

『確かに。爆弾(比企谷八幡)を抱え込むのは1年ステージですからね。そこにオールマイト、予備戦力を加えれば…片をつけやすくなる』

『何か小細工するとしたらその程度しかできない。だが、一つ仕込めば後は十分。君たちやヒーローの力だけでどうにでもなると思っているよ。…楽観的すぎるかな?』

『…いえ、慧眼です』

 

 

雪乃の目がウルフを映す。

だが、比企谷八幡はこの変更に対し、大して気にしていなかった。

とりあえずトーナメントに進めれば問題ない。

倒す相手が一人増えただけだ。

二回勝てばよかったのが三回勝つ必要が出ただけ。

疲れるが、大した問題ではない。

トーナメントの後の方がよほどの大仕事が待っている。

 

『つーわけで!!続けて5位発表だ!!緑谷チーム!!800ポイント!!』

 

ドバッと目から洪水のような涙を流しながら崩れ落ちる緑谷。

嬉し涙がまるで一つの個性のようだ。

 

『6位!戸塚チーム!!625ポイント!!7位!!拳藤チーム!555ポイントー!!』

 

わっと湧く2チーム。

ここまでは順当に決まるな、と頷くイレイザーヘッド。

だが、それ以降のチームはポイントが全て0だ。

どのように順位を決めるのか。

ミッドナイトが騎馬戦参加者全員を集め、声をかける。

 

「さて、現在出場者は27名!残り5人だけど…」

「待ってください、ミッドナイト先生」

「…何かしら?尾白くん」

 

身体ほどの大きな尻尾を持った尾白猿夫がミッドナイトに声をかける。

心操と一緒に騎馬を組んでいたA組の生徒だ。

心操のところはA組、B組、普通科の生徒の混成構成だったはず、と見る緑谷。

 

「俺、辞退します」

 

尾白の言葉に、生徒たち…特にA組の生徒が驚く。

すぐに声をかけにいくが、騎馬戦競技の最中、その終始ほとんどで意識がなかったことを告白する。

意識のない中、いつの間にか競技が終わって、気がつくと4位だった。

そんな何もしていない人間がプロへのアピールの場に立つなんて間違ってると思うと言い切る尾白。

それを言われると俺なんて雄英の生徒ですらないけどな、と心の中でこぼす八幡。

尾白に賛同し、自らも同様だとB組の庄田も辞退を申し出る。

尾白も庄田も心操と騎馬を組み、その両方が意識と記憶がなかったと告げるこの状況。

だが、心操は何も口にしない。

 

(…面倒な個性を持ってるみたいだな)

 

記憶を飛ばすような精神系か、または八幡と同じ操作系。

だが心操の方は人間向けか。

発動条件が分からないが、複数操れるような個性らしい。

 

『尾白に庄田、2名も辞退者が…何だか妙な事になってるが…!?』

「ここはミッドナイトさんの判断次第だろう」

 

だが、あの人なら多分了解するだろうな、と思うイレイザーヘッド。

彼女は青臭い青春ドラマが好みなのだ。

学生時代から何も変わらない。

ちなみに、イレイザーヘッドとプレゼントマイクはミッドナイトの学年一つ下の後輩である。

 

「そういう話はさぁ………好 み!!!庄田、尾白の棄権を認めます!!」

((好みで決めた…!!))

 

やっぱり。

ミッドナイトを知るその場の誰もが頷く。

 

「ってことは…本戦出場者は今25人!」

「そう!なので0ポイントだったチームから選出するけど…今からまたその中の順位を決めるわけにはいかないわ!そこで!先ほどの騎馬戦の順位変遷から決めます!」

「へ、変遷?」

「つまり、競技終了直前まで順位が高かったチームから決めるということね」

「そういうことね解説ありがとう!!」

 

雪乃の言葉にまた采配を鳴らして答えるミッドナイト。

だからもう口出すんじゃないわよと目が言っている。

 

「よって!!まずは…鉄哲チームより!4名!!」

「うおおおおおおお!!!」

 

B組の鉄哲轍鐵が雄叫びをあげ、予選通過を喜ぶ。

心操が鉄哲たちのポイントを奪ったのは本当に競技終了直前だったようだ。

何せ、競技終了直前までポイントが高かったチームは他にもいるのだから。

 

「そしてもう一つは…葉山チーム!!ただし、3名のみ…!」

「あ、じゃあ私やめときます」

「早い!!即決ね!?」

 

競技終了20秒前ほどにポイントを失った葉山チーム。

そのうちの一人、海老名が本選出場を辞退する。

 

「海老名、あんた…」

「いいのいいの、気にしないで。私性格的に自分に個性使えないし。BLに挟まる気ないし、1対1のトーナメントなんてできないから」

「いや、あんたが妄想の仕方変えたら良いと思うんだけど…。まあいいわ。んじゃ、遠慮なくもらうからね」

「うん。優美子、頑張ってね。二人もね」

「姫菜、ありがとう」

「海老名さん!!俺、めっちゃ頑張るから!!」

 

葉山チームでは話がまとまったようだ。

最終種目は一対一(タイマン)勝負。

八幡にとってはあまり問題ないが、問題ありそうなのが一人いるなと結衣を見る。

だが、結衣の表情を困ったときの顔ではなかった。

ただ、やるべきことを決めた顔。

あの顔は何度か八幡は見たことがあった。

あの表情の時の結衣は、とても心強かったことを覚えている。

 

 

──────────

 

 

出場者が32名全て決定し、一人一人くじを引いていく。

トーナメントの組み合わせを決めるためのくじだ。

そして、出揃うトーナメント。

 

「組はこうなりました!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「い、いきなり優美子と!?」

「結衣…」

「…二人とも当たらない、か」

「柳ちゃんは、えーっと個性は確かポルターガイストで」

「うええ塩崎さんと!?」

「…放電が相手、ね」

「えっと…僕はB組の拳藤さん!」

「青山…レーザーの奴か」

「三奈ちゃんかー。ヨロね!」

 

組み合わせが出揃い、確認しに行く生徒たち。

八幡の初戦の相手は骨抜と書かれているが、残念ながら誰かわからない。

A組の名簿は一度見たがそこにはなかった名前なので、B組の生徒だろう。

 

『…進捗は?』

 

唐突に電子音が流れ、耳元からくぐもって枯れたような声が聞こえる。

どうせテレビ中継見てるくせに、悪趣味な覗き魔だと思いつつ、皆から離れて応答する。

 

「…見ての通りだ」

『順調そうだね』

「どこが。さっきも危なかった」

『何せ君はまだ固体操作も液体操作も使っていない。それで競技を抜けているんだ、順調だろう?』

「…」

『何も言わないね。まあいい。オールマイト殺し、楽しみにしているよ』

 




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