何がヒーローたらしめるか   作:doraky333

18 / 44
手を伸ばした。
だが届かず、心に傷を負った。
再度手を伸ばした。
やはり届かず、腕を落とされた。
三度手を伸ばすか、否か。

──決めるのは、誰であるべきか?


Episode17.雪道を闇が覆う

医務室のベットで横たわる雪乃を、八幡は傍らで見守っていた。

観客席には戻らず、医務室で次の試合を待つ。

雪乃との試合で色々やらかした為、A組──中でも、総武枠の連中に顔を合わせなくなかったのだ。

 

「それがここから離れない言い訳ってことでいいかしら?」

「…他にも理由がある。お前何考えてんのほんとに」

「私は私の思うがままに事を進めただけ。貴方はそれにまんまと乗っただけよ」

「俺の奥にいる奴らを刺激して何になるって言うんだ?好戦的とかいうレベルじゃないだろ」

「私が見ているのは貴方よ。オール・フォー・ワンなんてどうでもいいわ」

 

雪乃の言葉を聞き、益々状況がわからなくなってしまった。

何のために、大観衆の面前で八幡に固体操作を使わせたのか。

それとも、準決勝に行かなければいけないという八幡の目的を見抜いて、わざわざその答え合わせをしたというのか。

何にせよ、これで雪乃から離れられなくなってしまった。

黒霧を使って死柄木が雪乃に何をするかわかったものじゃないからだ。

もし、八幡の見ない間に雪乃に何かあったら。

 

「…本当に、心臓に悪い…」

「…貴方の考えていることはある程度わかるけど、ストーカーはやめてちょうだいね」

「そう思うならもう少し大人しくやれ…」

「大人しく戦えというのは無茶な注文だと自分でも思わないかしら?」

 

何を言っても聞く気がないなという諦観と、もう終わったことだと溜息を吐いて押し黙る八幡。

とりあえず、オール・フォー・ワンも死柄木も特に何かをするわけではなさそうだ。

オール・フォー・ワンはそもそも雪乃に興味がないだろう。

本当は計画の成否すらどうでも良いはずだ。

死柄木に関しては、雪ノ下を直に見張ると伝えたので、恐らく納得はしているはず。

通信機を通して今も雪乃の様子を見ているだろうが、今のところ何もする気はなさそうだ。

 

(…雪ノ下が望むことはわかる。俺に帰ってこいということだろう…)

 

だが、それはできない。

小町のことももちろんあるが、小町を守ったからといってそれで諦めるような奴らじゃない、と心中で言い切る八幡。

オール・フォー・ワンは小町の個性に目をつけたわけではなく、比企谷八幡の妹として目をつけただけ。

肉親は確かに小町しかいない八幡だが、小町並みに大切な人間として八幡の身近な人間に目をつけかねない。

それならオール・フォー・ワンの元から逃げ出したとして、小町や雪乃、結衣から離れて一人で生きるか?

…恐らく、簡単に見つけられる上に、どれだけ無関係を装っても奴は彼女たちに手を下すだろう。

比企谷八幡は既に理解していた。

 

「…魔王からは、逃げられない」

「!」

「本物だよ。…アレは、有史以来最悪の巨悪だ」

「…そう。けれど、それは貴方の望むものとは何ら関係のないことよ」

「なに?」

 

どういう意味だ、と聞き返そうとすると、控えめなノックの音が医務室の外側から聞こえた。

誰だと考える間も無く、雪乃が入室を促す。

 

「どうぞ」

「ゆきのん!」

「由比ヶ浜さん…」

 

勢いよく開いた扉に、勢いよく入り込んでくる結衣。

誰が入ってくるかなんて考えるまでもなかった。

八幡の方を一瞥し、雪乃の側まで駆け寄る。

 

「ゆきのん、だいじょうぶ?怪我はないよね!」

「問題ないわ、心優しい誰かさんのおかげでね」

 

それ皮肉言う時の言葉の使い方じゃね、と思うが口にはしない。

口にしたところでもっと口撃が来る上に、何も事情を知らない結衣がいる。

もし雪乃が結衣に今回のことを全て話していたら、結衣の性格上すぐにでも八幡(自分)のところにくるはず。

やはり何も話してはいないのだろう。

情報を広げて混乱を招き、(ヴィラン)連合を刺激しないのは賢明だ。

 

「もう少しここで休んでいくわ」

「まだ動けないの?ゆきのん…」

「心配しないで、動けはするの。ただ、少し回復する必要があるわ」

「そうなの?じゃ、お水買ってくる!ゆきのんの個性に必要だもんね!」

「ありがとう由比ヶ浜さん。お願いね」

 

「…あの」

「!」

 

踵を返して出口へ向かうはずの結衣が、ウルフの横を通り過ぎて何故か止まる。

今結衣に声をかけられたのは、会話の流れ的に雪乃ではないだろう。

黙ったまま結衣を横目で見るウルフ──八幡。

 

「…ゆきのんのこと、診ててもらっても…良いかな?」

「…」

 

少し考えた後、無言で頷き、椅子を一つ引いて座る八幡。

何もおかしいことはない。

ただ、結衣がウルフに対して少し距離感が近いかなと思うくらいだ。

まあ由比ヶ浜はこんなものだろうと頷く。

今度こそ結衣が医務室を出ていき、雪乃は中継モニターへ目を向けた。

三回戦第三試合が始まろうとしていた。

 

 

──────────

 

 

『三回戦第三試合だぁ!二回戦で折本との接戦を制して勝ち上がった闇の使い!常闇踏陰!!VS!一回戦二回戦と楽々上がってきた大猫!相模南!!異色の個性同士の戦いだぜぇ!?』

 

「接戦を制した、か…」

 

常闇が油断なく相模へと目を向ける。

異色と言えば先ほどの折本の方が異色の個性、そして考え方の持ち主だった。

この相模は極めて正当な考え方をしているだろう。

何せ、一回戦でも二回戦でも無駄な試合はせず、少ない試合時間で勝ちあがっている。

それに対して、自分は情けで勝ちを譲ってもらったようなもの。

接戦というより、折本の戦い方からすれば仕方のない結末といったところだ。

自らと相模との明確な差を見つめる常闇。

彼のような在り方を、隙がないと人は呼ぶ。

 

「…強敵と見受ける」

「え…え?そ、そうかな?」

「油断も慢心もない、全霊を以て勝ちをいただく」

 

常闇の言葉に、少し嬉しく思う相模。

だが、すぐにその気持ちは萎み、本当にそうなのかなと自己嫌悪に陥る。

現状、総武枠でトーナメントに残っているのは自分と葉山くんのみ。

あの雪ノ下さんでさえ負けた。

本当に今の自分はここに立つほどの実力を持てているのか。

中学二年の文化祭以来、自分に自信が持てないでいた。

体育祭で少し持ち直したものの、それも奉仕部や城廻先輩たち生徒会のサポートがあってこそ。

そして、憎たらしいアイツからのまた最低な提案に、Noと突きつけた。

 

『レディ…START!!』

 

黒影(ダークシャドウ)!!」

「猫度…100%…!」

 

「!? 巨大化を…」

 

体育祭でも、一人では何もできなかった。

アイツに発破をかけられた形になって、人前で大泣きすると言う醜態を晒して、何とかやり遂げた。

そんな時に、比企谷や雪ノ下さんを見て思った。

きっと、こんな風に物事を円滑に進めて、人を助けられる人がヒーローになるんだって。

 

「速攻で攻勢に出ると見ていたが…!」

「そっちの影…力強いかなって」

「速度重視の人型と膂力重視の獣型を使い分けているのか!」

「個性伸ばしてこうなったの」

 

だが、そんな時に比企谷はいなくなった。

しかも、なんと(ヴィラン)にやられたという噂が立っていた。

その場には雪ノ下さんや結衣ちゃんもいたらしくて、二人を逃すためにその場に残ったと。

その話を聞いた時に、なんでバカなやつだと思った反面、比企谷らしいとも思ってしまった。

 

「ガアアァァ!!」

「組み合え黒影(ダークシャドウ)!」

「アイヨ!」

 

『常闇の操る影と大猫になった相模ががっぷり四つ!!だが──!!』

 

文化祭でも、体育祭でも、噂に聞いた修学旅行でも、何かしら比企谷は人が馬鹿だなぁって思うようなことをしている。

でも、文化祭はそのせいで上手く回ってしまい、体育祭も比企谷の提案をうちが受け入れていたら、比企谷の最低な提案のせいで体育祭は上手く回っていただろう。

そんな自分を切るようなやり方を、何故しているんだろうとずっと考えていた。

比企谷が(ヴィラン)に攫われたという噂が立った時に、さらにその悩みは深まった。

次第に、進路をどうしようかと朧気に考えていた時、ヒーローの在り方というテレビ特集を見た。

メインコメンテーターは、オールマイトだった。

 

「力では勝てんか…この太陽光下では!」

「フミカゲ!モウ抑エラレナイ…!」

 

『ヒーローは…プロはいつだって命懸けさ!確かに(ヴィラン)や事故に向かっていくのは誰でも怖い!だが…本当に怖いのは、それらによって命を救えなかった時だ!だからこそ、人は動く!自らを犠牲にしてでも!自己犠牲の精神を持ち、咄嗟に身体が動いちまう奴らを、人はヒーローと呼ぶのさ…!』

 

オールマイトの言葉が、ストンと心に落ちた。

きっと、それは命なんて尊いものだけではなく、色んなことに当てはまるものなんだと。

比企谷には、文化祭でも体育祭でも、きっと修学旅行でも、自分を貶して貶めてでも、守りたい何かがあった。

だから、自分を犠牲にして…結果、(ヴィラン)の手に落ちた。

そんな比企谷は、多分ヒーローの生き方そのもので、羨ましいと思ってしまった。

自分は趣味もなくて、特技もなくて、あったのは少し恵まれた容姿と個性、カーストで上の方に座れる程度。

だから、自分の中に何もなかった。

比企谷や雪ノ下さんのように、日夜ヒーローを目指して努力することも、その身を削れるほど誰かを想うこともなくて。

そんな自分と、根暗で今まで見向きもしなかった比企谷を比べてしまって。

 

「…」

「…か、考え事か…」

「…ああ、ごめんなさい。今試合中だったね…」

 

いつの間にか、常闇くんを地面に押し倒していたようだ。

左前足には常闇くんの影も踏んでいた。

 

「考え事している相手にこうも押されるとは…情けない」

「…いや、それはうちが全面的に悪い。ごめんね」

「どうにも気が弱いな…相模。何故そんな強さを持ちながら、そんな性格になる?」

「…」

 

「…多分、うちはまだ認められてないから、だと思う」

「? 誰にだ?」

「…きっと、言ってもわからないよ」

「…比企谷という男か」

「!! ど、どうしてそれを…」

「雪ノ下も、由比ヶ浜も…折本もその名を口にした。恐らく、戸塚や川崎もそうなのだろう。…俺も…興味が出てきたところだ…!」

 

グググ、と黒影(ダークシャドウ)が膨らみ始めた。

先程よりも明らかに力が強い。

力だけでなく、黒影(ダークシャドウ)そのものが大きくなっているような。

 

「浅慮だったな、俺に時間を与えたのは…!相模!お前の影で闇を補充することができた」

「や、闇!?何のこと!?」

「そして、一時的に太陽光を遮ってくれたおかげで…!一瞬だけ全力を出せる!黒影(ダークシャドウ)!!押し飛ばせ!!!」

「オ…オオオオオオオ!!!」

「いっ」

 

観客たちは、突如として相模の下の影から出現した、黒くて大猫の相模の3倍はある巨躯の化け物を目にした。

だが、相模が吹き飛ばされて太陽光に当たった瞬間、勢いよく萎んでいく光景に、見間違いかと思ってしまう。

そして、宙高くに打ち上げられた相模は。

 

(やりすぎた!)

「観客席に突っ込むぞ!!」

「やばい!セメントス!!」

 

(猫度…20%!)

 

まずは身体を小さくして、観客席への被害を最小限に。

人がいないところを探していると、セメントスが操るコンクリートが相模と観客席の間に高速で向かってきていた。

くるりと足と手を下へ向け、柔らかい状態のコンクリートに四つ足で着地する相模。

とりあえず、大惨事は回避できたと一同が息をつく。

そして、相模が着地した位置を確認し、ミッドナイトが判定を下す。

 

「相模さん、場外!勝者…常闇君!準決勝進出!!」

 

蓮のような形のコンクリートから観客席へ飛び降り、舞台を見つめる相模。

負けた。

だが、悔しさがまるでない。

勝っても負けても、まるで心にその事実が入ってこない。

どうしてだろうか、なんて考えなくてもわかる。

ぽっかり空いた胸の穴は、自分では埋められない。

今までのヒーローになる為の努力も、死んでも口にはしないが、比企谷みたいになりたいと心に宿った想いも、自分の虚無感を打ち消すまでには至らなかった。

ぽろり、と口から言葉がこぼれる。

 

「…早く、うちを……見てよ…」

 

 

──────────

 

 

相模(アイツ)、変わったな」

「そうね。…思えば、貴方がいなくなってからヒーローへの努力を始めていた気がするわ」

「…」

「わざわざ私のところまで来て、変身系のヒーローへのツテを持ってないかと訊ねられたわ。…相当努力したわよ、相模さん」

「…まあ、良いんじゃねえの。俺は関係ないと思うけど」

 

どうかしらね、と雪乃。

八幡がいなくなってから、猛烈に努力を始めたのは結衣だった。

葉山や三浦、平塚先生に至るまで、色々な人に訓練相手を頼み込んでいた。

訓練場に行くと、いつでも結衣の姿は目にしたものだ。

だが、ある日の訓練場の隅の方に、相模もいた。

彼女はヒーロー志望だったかしら、と首を傾げた雪乃だったが、更に雪乃が驚く事態が起きた。

数ヶ月後、3年生になってからのこと。

 

『ゆ、雪ノ下さん。その……今いいかな?』

『相模さん』

『お、お願いがあって…』

『…貴女が、私に?』

『う、うん。……うちのこと、鍛えてほしいの』

 

あの時は心底驚いた。

雪乃は自分が相模南と相性が良くないとわかっていたし、相模自身もそう思っていると考えていた。

その相模が、雪乃に頭を下げたのだ。

しかし雪乃もプロ試験が迫っていたために、代わりに知り合いだったリューキュウを訪ねてみてはと紹介した。

結果、転校してきた折本かおりと同じくして、彼女は雄英進学枠を手にしたと聞いた。

 

本当に、関わった者は少ないがその在り方による影響が凄まじい、と狼顔を睨む雪乃。

睨まれる理由はよくわからないが、とりあえず申し訳なくしておこうとそっぽを向く八幡。

医務室の扉を開き、二人の様子に何を話してたんだろうと首を傾げる結衣。

 

「ゆきのん、お水買ってきたよ!」

「ええ、ありがとう由比ヶ浜さん。貴女が出ている間に第三試合終わったわよ」

「うん、見てた。さがみん…負けちゃったね」

「そうね。けれど、これでプロへのアピールは十分だと思うわ。またリューキュウの所へ行くのかしら…」

「あ、そうだよね!?さがみんって中学の頃リューキュウさんのところにいたよね?あの二人が個性使って並ぶと派手だったなー」

 

試合の感想で盛り上がり始めた二人を前に、中学の頃の奉仕部の光景を思い出してしまった八幡。

だが、これも今日この時だけ。

もう、こんな未来は訪れない。

心の底に湧き出た感情に蓋をして、再度モニターを見る。

この試合が終わればまた自分の番か、とモニターに映った人物──葉山と爆豪の両名を見た。

 

 

『三回戦ラストの試合だ!これで四強が出揃うぜ!!爽やかな笑顔に光る個性!葉山隼人!!えげつない爆撃がそのセンスから放たれる!爆豪勝己!!』

 

「よろしく、爆豪くん」

「…てめえ、B組で一番強えやつか?」

「ん?いや、それはどうかな。鉄哲とか、相模さんとかも相当強いよ」

「一番じゃないって否定しねえんだな」

「…まあ、そうありたいとは思ってるからね」

「俺にかかってくるモブにしちゃ上等だ…!全力で来やがれ、爽やかモブ!!」

 

これは名前を覚える気がないな、と困った顔をする葉山。

 

(…ま、俺も比企谷に似たようなことしてたし、仕方ないか)

 

『レディ…START!!』

 

「行くよ」

 

葉山が両手を爆豪に向け、掌から光弾が発射される。

だが、既に今までの試合で個性の内容はお互いに把握されている。

更に言えば、爆豪の対処能力は高い。

迎撃にピッタリの爆破の個性に、本人の反射神経の良さ。

高速で飛んでくる光弾を確実に爆破し、葉山に迫る。

 

「なら、これはどうかな?」

 

一気に掌から四発ずつ発射される光弾。

だが、それすらも爆豪のスピードの前には堕とされる。

こんなチンケな攻撃で、自分をどうにかできると思っているのか。

 

「こんなんで俺をヤレると…!」

「思ってないよ。今のはただの前準備だ」

「!?」

 

光弾が爆破された時の爆煙で、ほんの少しだけ両者の視界が遮られる。

その間に、葉山は爆豪を確実に仕留める為の準備を行なっていた。

葉山の周囲に、30発もの光弾が浮かんでいた。

 

「さあ、どうする!」

「バァカが!それを俺じゃなくてテメーの周りに浮かべてる時点でテメーの底が知れてんだよ!!」

「実は君の後ろに一つ光弾が浮かんでいたとしたら、どうする?」

「あ!?」

 

顔半分だけ後ろに向けると、光弾が後ろから迫っている所だった。

そして、爆豪が後ろを向いた瞬間に全光弾を爆豪に向けて撃ち出す葉山。

ブラフでも何でもない、全方位攻撃。

 

「フラッシュコリジョン!」

「オラァアアアアッ!!!」

 

左手で光弾を爆破し、右手で更に大きな爆破を起こして光弾の群れを破裂させる爆豪。

だが、その動きに変だなと首を傾げたのは切島だ。

 

「爆豪の奴、なんで攻撃を躱さねえんだ?全部迎撃してるぞ。アイツ、広範囲攻撃は手が痛くなるって言ってたなかったか?」

「躱せないのではないでしょうか?」

「?」

「どゆこと?ヤオモモ」

 

八百万が推測ではありますがと前提を置いて、切島と耳郎の疑問に答える。

 

「葉山さんが出した光弾ですが、アレは一度宙に浮いて止まった状態から、葉山さんが動かしているように見えます」

「それはそうだ…な?」

「うん、そうだろ」

「その状態から、葉山さんは光弾に何のモーションもかけずに動かしている。つまり、葉山さんは一度放出した光弾を自在に操れるのではないでしょうか?」

「あ、そっか!かっちゃんは光弾を躱しても即座に追尾されると考えて全部撃ち落としてるってことか!」

「恐らくは」

「そういや、騎馬戦の時も雪ノ下さんが葉山の出した光弾を全部破裂させてたっけか…」

 

八百万、緑谷、砂藤の発言に、うんと頷く戸塚。

 

「そうだね、葉山君はそれが強いからね…。でも、すごいのは爆豪君もだよ。葉山君の光弾の特性に初見で気付いたってことだからね…」

「相変わらず才能マンだなアイツ…。どこに見抜く要素あったんだよ」

「でも、葉山くんの光弾って確か耐久性なかったよねー」

「そこが狙い目ってことか…!」

「狙い目…に、なれば良いですけど…」

 

何かに触れれば即座に破裂する光弾だが、それは使い方次第では相手に縛りを与えることも出来る。

そして、それは葉山自身が熟知していること。

最初の爆煙時点でアドバンテージは葉山に与えられた。

それを無碍にするような隙のある男ではないことに、爆豪自身も気がついていた。

 

(調子に乗りやがって…!!だが、今んとここの飛んでくる玉に合わせるだけで手が埋まる!!どうやって弾幕ぶち破るか…!!)

(信じられない反射神経だ。爆煙で直前までは光弾が見えていないはずなのに、前後左右上下から飛んでくる光弾を全て撃ち落としている。あの超反応…どこぞの誰かを思い出すな)

 

葉山の掌からは、光弾は一つずつしか生成できない。

だが、そのスピードが速い。

1秒間に3発は出している。

対する爆豪だが、こちらは爆破のスピードは1秒間に3発は出せていない。

それを爆破の威力と範囲を大きくし、掌と腕、身体全体を的確に動かすことで数発の光弾を一度にまとめて破裂させている。

従って、状況はほぼ五分。

お互いに掌の汗腺と光を出す波長の水晶部分が傷つきつつあった。

 

「クソが!」

「このまま消耗戦をするには…後の決勝を考えるとお互いに良くないな」

「ならテメーが先にくたばれ!!」

「賭けに出るとするよ」

「あ!?」

 

葉山の言葉と共に、爆豪に迫る光弾の数が目に見えて減る。

何の真似だと警戒する爆豪。

爆豪に襲い掛かる光弾の数は確かに減ってはいたが、葉山から生み出される光弾の数は変わっていない。

では、どこにも飛び出していない光弾の行方は。

迎撃を続けながら周囲の状況把握に努める爆豪。

すると、光弾同士がまるでお互いを食べ合うかのように絡み合い、複数の光弾は一つへと成っていく。

 

「でかく…破壊力と範囲を増したってわけか」

「意外と冷静だな。見た目とは裏腹に」

「どういう意味だピカピカ野郎が!!」

 

爆豪が爆破で光弾を事前に破裂させてダメージを回避しているところへ、更に光弾を増やして弾幕を増やすというのは現実的ではない。

そもそも現状最大速度で光弾を生成しているのだ。

なら、どうせ破裂させるなら大きい光弾を破裂させた方がいい。

光弾二つ分なら直径50cm、光弾三つ分なら直径80cm。

 

「さあ、勝つぞ」

「バァカ言ってんじゃねえ!!勝つのは俺!No.1になるのも俺だ!!」

 

手数は葉山の方が上。

威力は爆豪の方が上。

だが、状況作りでは葉山が有利。

 

「行くぞ爆豪!」

「やってみろピカリが!!」

 

合体した光弾に、通常の光弾。

大小合わせて30もの光弾が爆豪に迫る。

四方八方を埋められ、逃げ場がない。

だが。

 

「結局芸がねぇ!!」

「!?」

 

両手から同時に爆破させ、その場で身体を時計回りに回転。

加速していく爆豪。

数ある爆豪の技のうち、子供の頃から考えていた必殺技。

回転の勢いとまさしく最大火力と呼ばれる、その技の名は。

 

榴弾砲(ハウザー)着弾(インパクト)!!」

 

爆豪を中心として渦が巻き、爆発の嵐が巻き起こる。

全ての光弾が爆発に巻き取られ、破裂の光を生み出す。

──そして、爆豪が大技で全ての光弾を撃ち落とすまでが、葉山隼人の読み。

 

「終わりだ!!」

 

「! 爆豪!」

「やべえ!!」

 

榴弾砲(ハウザー)着弾(インパクト)のような大技の直後では、最高速度で生み出された光弾の数をもう一度撃退するなんていうのは無理な話。

だからこそ、そこを狙う。

爆煙が晴れ始めた時には、既に爆豪の周りをまた30もの光弾が囲っていた。

息をつく時間は与えない、とすぐさま光弾を爆豪にぶつけにいく葉山。

 

「ハッ…」

 

爆豪の表情を見た葉山はその目を見開いた。

光弾に迫られる中、その男は笑っていたのだ。

何がおかしい。

それとも、その状況を抜け出す術でもあるのか。

はたまた、単にそのピンチに笑ったのか。

爆豪という男の器を、見誤っていたのではないかと疑う葉山。

そして、両手を下に向けて同時に爆破させ、上へと浮かび上がる爆豪。

 

「今更抜け出そうなんて無駄だ!」

 

もちろん、爆豪の上にも光弾は待機させてあった。

一番爆豪に近い光弾から動かし、他の光弾も全て爆豪に集める。

爆豪に最初の光弾が襲い掛かり、破裂し──。

 

「俺をヤろうなんざ!!」

「なに!?」

 

──破裂の勢いそのまま、両手の爆破、爆速ターボで急加速して葉山へと突っ込んでいく。

急な方向転換に虚を突かれ、光弾たちの操作を誤る葉山。

 

「ぐっ!!」

 

片手から1発だけ光弾を生み出し、爆豪へ向かって撃ち込む。

他の光弾も急いで爆豪を追わせる。

だが、たった1発の光弾では、爆豪阻止には足しにもならない。

 

「百年はええんだよ!!」

「ぐあっ!」

「てめえ、そのタマは30までしか使えねえんだろ!?それを二回も見せびらかせばそりゃ数えるわボケが!!」

「あの状況でそこまで見てたのか!?」

「ったりめえだ!!てめえとは見てる景色がちげえんだよ!!」

 

葉山を吹き飛ばした爆豪。

だが、背後からまだ光弾が29個迫ってきている。

しかし、動きが直線的だと爆豪は見抜いていた。

葉山が動揺した分、操作性が落ちているのだ。

 

「メンタルよええ雑魚が!!出直してこい!!」

 

腕の一振りで、数個を一気に爆破させる爆豪。

だが、全ての光弾を撃ち落とすような真似はしない。

至近距離に迫った光弾だけ破裂させ、残った片手の爆速ターボで葉山との距離を詰める。

葉山と爆豪の距離、残り2m弱。

 

「終わりだピカリ!!」

「…本気で立ち向かわせてもらう!」

「最初からそうしろ!!」

 

両手を近づけ、両手で一つの光弾を生成し、撃ち出す。

だが、その光弾の飛ぶスピードが速かった。

そのスピードは、爆豪の顔付近まで一瞬で接近するほど。

咄嗟に顔を庇うように右手を出せた爆豪は流石である。

光弾の破裂と爆破で、顔が仰け反ってしまう。

今ならいける、と攻勢に出ようとする葉山。

だが、葉山の眼前にも爆豪の左掌が迫っていた。

それに反応する間も無く、爆豪の左掌から大爆発が起きる。

吹き飛ばされる葉山、そして爆豪。

光弾のカウンターに出された左手の爆破は、二人を大きく吹き飛ばした。

両者共に地面に激突し、すぐに身を起こす。

だが、その結果は明らかだった。

葉山は既に舞台端に追い込まれていたのだ。

場内に訪れた一瞬の静寂を、ミッドナイトの鋭い声が切り裂く。

 

「葉山君場外!!爆豪君の勝ち!!準決勝進出!!」

 

再び湧き上がり、歓声を上げる観客たち。

三回戦だが、まるで決勝のような盛り上がりだ。

爆破で身体に付いた煤を払いつつ、事実を受け入れる葉山。

 

「…負けた、のか。負けるなんていつぶりだろう」

 

勝った爆豪は、頭から流れる血も気にせずジッと葉山を見つめていた。

間違いなく爆豪が戦った同年代では、一番強い奴だったと認める。

総武枠はプロヒーローの雪ノ下だけかと思っていたが、各分野に絞ればかなりの強者が揃っていやがると認識を改める爆豪。

 

「…おい」

「ん?」

「お前…雪ノ下よりもつええのか?」

「…いや、俺は雪ノ下さんには勝ったことがないよ」

「んじゃお前が二番目か」

「…二番ではない、ね」

「あ?あの猫女か?それともうちのクラスにいるヤンキー女か」

「そいつは、今はいないよ」

「いねえ奴の話なんざいらねえ」

「でも…絶対に無視できない奴だ。ライバルとして俺は見ている」

「…そいつは今どこにいんだよ。それとも、ソイツがいなくなったって奴か?」

 

爆豪の最後の問いには答えず、悲しそうな笑みを浮かべて立ち上がる葉山。

その様子に、雪ノ下たちがUSJに行くときのバスで話していた奴のことだと察する。

そんな奴がいるなら、戦ってみたかった。

だが、それはそう簡単に叶うことではない。

 

「…」

「…いつか、君にも会わせたいよ」

「そんときゃ戦わせろ」

「ははっ、そうだね。…でも、アイツをそういう訓練に立たせるのは苦労するよ…」

「んだそりゃ。クソサボりか」

 

「…なんか、アイツら気が合いそうだな」

「爆豪にダチが…!」

「どうしたんだい、切島くん!そんなに震えて…」

「委員長、多分喜んでるだけだから気にしなくて良いよ」

 

 

──────────

 

 

 

三回戦第四試合を見終わった八幡が、席を立った。

次は準決勝、相手は轟。

師匠(エンデヴァー)の息子。

だが、既に準決勝まで進んだ時点でオール・フォー・ワンの言いつけは守り、もうこれ以上勝つ必要がないのだ。

さて、どうするか。

棄権しても良いだろうとは思う。

雪ノ下との戦いでそれなりに疲労したのだ。

それに、今の轟は。

 

「…」

「迷っているのね」

「!」

 

雪ノ下には何もかもを見透かされているらしい。

というより、自分の推測が全て合っていると考えているようだ。

 

「…私としては、貴方には思う通りに動いて欲しいけれど」

「…ゆきのん?」

「それが自身でわかっているのなら…私から言うことは何もないわ」

「…俺の…やりたいこと?」

「!!」

 

その声を間近で聞いた結衣が即座にウルフの方へ向く。

本当に、そんなことが。

 

「喋るのね。意外だわ」

「絶対に何もさせるなよ。もうすぐ終わるんだ」

「貴方が、終わらせるんでしょう?」

「…俺には、希望なんてない。なかったよ…昔からそうだ。だったら、せめて守りたいものを守って堕ちるとこまで堕ちるだけだ」

 

足のつま先が医務室の扉へ向く。

一歩踏み出し、舞台上へ向かおうとした八幡。

だが、後ろ手である左手を結衣に掴まれる。

 

「待って!!」

「…」

「…ね、顔を……顔を、よく見せて…!」

「…悪い、無理だ」

「その顔…それ、マスクじゃないの!?ねえ!…ヒッ」

 

その名前を続けようとしたとき、ピタリとその口が止まる。

声が出ない、と思うが身体も動かない。

その異変に、雪乃も気がつく。

よく見ると、ウルフの左手が結衣の手首を掴んでいた。

 

「…貴方…それも、個性かしら?」

「…」

「しばらく会わない間に随分物々しい個性を手に入れたわね。…その左腕がそうかしら?」

「…会場へ行く。試合に遅れるからな」

 

ウルフが結衣から手を離すと、身体が動くようになった結衣がペタンと地面に座り込む。

結衣に歩み寄り、身体に異変がないか確認する雪乃。

固体操作でも流体操作でもない、更に別の個性。

オールマイトの話では、オール・フォー・ワンは個性を奪い、与える個性を持っているという。

もしかしすると、とんでもない超個性持ちが造られてしまったのかもしれない、と雪乃。

彼が元々持つ個性に、先程結衣に使った個性を組み合わせたら。

 

「…ゆきのん」

「大丈夫、由比ヶ浜さん」

「知ってたの?」

「…ええ。いま、この体育祭は…複雑な事情のもと行われているわ。そして、今貴女に全てを話すわけにはいかないの」

「…でも!!何が何だかわからないよ!なんでヒッキーが居るの!?ヒッキーは…さらわれて!この前、USJに!!それがなんで今日ここにいんの!?ヒッキーとは話せないの!?」

「…そこまで気づいていたのね。お願い、由比ヶ浜さん。今だけは我慢して。…後一時間で、全てが終わるわ」

「…え?」

 

言いたいことが多すぎてパニックになっていた結衣に、雪乃が冷静に諭す。

雪乃は、現状を把握している。

その上で、何かをやろうとしていることに気がつく結衣。

雪乃と結衣の思いは共通している。

比企谷八幡に、2人の元へ戻ってきてほしいという願いだ。

雪乃はその為に動いているはず。

だから今、冷静になって動くことが大切なんだと理解する。

目尻に浮かんでいた涙を拭い、結衣は立ち上がって雪乃に向き直る。

 

「…ゆきのん、ごめん。でも、ちゃんと話して!」

「…わかったわ。今から全てを話しましょう。そして、貴女も準備してほしいの。きっと、貴女にしかできないことがあるわ」

[newpage]

『準決勝第一試合!!ここまで瀬呂、飯田を瞬殺し、超パワーの緑谷との激突すら制した!轟焦凍!!VS!試合を経るごとに様々な技、奥の手を見せ、未だ底が見えない留学生!ウルフ・エイティス!!勝利の女神が微笑むのはああぁぁ…どっちの男だあああぁぁぁ!!?』

 

轟とウルフは無言で舞台へと上がり、特に何も言わずに向き合う。

お互いに無駄口を聞くような間柄でも人柄でもないので、場はとても静かだ。

2人の間に、妙な緊張感が漂っていた。

間に挟まれる形で立つミッドナイトも、2人を後方で見守るセメントスも同様だった。

個性の使用に際して、父親との確執を持つ轟。

緑谷戦では左側の炎熱を使って大爆発が起きたが、三回戦の飯田戦ではそれを見せていない。

対して、体育祭潜入中のウルフ──八幡。

元々の個性は固体操作で、それが流体操作が発現している。

この体育祭では空気をメインウェポンとして使っていたが、三回戦の雪ノ下戦では氷を操るところも見せた。

しかも(ヴィラン)連合に従わされている。

 

正直、2人とも何をしでかすかわかったものではない。

だが、試合は始めなければならない。

実況席のイレイザーヘッドも再び目の周りの包帯を取り、人目を忍んでマッスルフォームになったオールマイト、ウルフ側の入場者ゲートで待機する平塚もいつでも手出しできるよう準備する。

既に二年生と三年生のステージはそれぞれ全プログラムが終了し、観客たちも全員雄英の敷地から出た。

二年三年ステージにまわっていたスナイプ、ハウンドドッグ等の戦力も既に一年ステージの守備に着き、何が起きても良いように厳戒態勢を敷く。

試合を行う2人だけではなく、会場中の雄英ヒーローたちに緊張が走る。

 

『レディ…START!!』

 

無情に号令が下され、準決勝が始まった。

轟から、まずは様子見と言わんばかりに氷の波が八幡へと向かう。

だが、八幡は一切動かない。

 

「!?」

「…避ける必要ないなら避けねえよ」

 

使わせてもらうだけ。

氷が八幡に触れた途端、地を這って地面を凍らせていた氷が全て八幡に元へ蠢き、八幡の後ろに集まっていく。

やはり、氷を操作するかと轟。

空気を操り、氷を操る個性。

 

「…触れた物を操る個性か」

(実際はもっと複雑だけど、まあ見抜かれたな)

 

轟は確かに膨大な氷を放出できるが、一度出した氷を操作できるわけではない。

普段は古い氷に新たな氷を重ねて、古い氷を先頭にして無理矢理移動させているだけだ。

そこが雪ノ下や葉山との違いだろう。

これは梃子摺るぞ、とイレイザーヘッド。

氷という固体を攻撃手段にする轟では、比企谷との相性は最悪。

そもそも、近接格闘系の個性以外では、恐らく比企谷には丸で歯が立たないはず。

だが、もろ近接格闘系だった拳藤も八幡に負けている。

元はトップヒーローから生まれ、武闘派であるエンデヴァー、ミルコ、スクリームフィストに英才教育を受け、14歳で仮免資格を取得した少年。

苦手なはずの近距離戦も鍛え上げられ、(ヴィラン)の下でも戦闘の経験値を稼がれていたという、正しく戦闘のエキスパート。

本来ならヒーロー見習いが勝てる相手ではない。

 

(轟も…炎を使えばわからんが。火は確か酸素が燃焼する“現象”に当たる。そもそも物質じゃない。比企谷には操れない上に、攻撃に使われる氷も溶かし、現状の問題を全てクリアできる)

 

それも、轟の心情が邪魔をしているのだろう。

先程から操られた氷に対し、なんとかその身一つで躱している轟。

続いて、観客席のエンデヴァーを見る。

 

黙って腕組みをするエンデヴァーは、轟を見て──次いで、ウルフを見ていた。

息子焦凍が何故左側の個性を使わないかはわかる。

自分への当てつけだろう。

だが、ウルフが何故氷だけで攻めているのかがわからなかった。

氷と空気を同時に操れることは、さっきの雪ノ下戦でわかっている。

 

「クソっ…こんなに相性が悪い奴がいるとはな」

「…」

 

八幡が操る氷の荊に対し、迎撃のために氷壁を用意する轟。

だが、氷の荊が氷壁に触れた瞬間、氷の荊が氷壁を取り込むように蠢き、氷壁の氷の分だけ大きく膨らむ。

 

「まさか…直接触れなくても、操っている氷に氷が触れたら操れるのか!!」

「そうじゃなきゃ嵐なんて起こせねえだろ」

 

これでは、八幡の氷の荊を防ぐことすらできない。

持ち前の身体能力と判断だけで何とか攻撃を躱しているだけ、何れ捕まるのは明白。

やはり、左側の炎熱を使わないと話にならない。

だが、まだ。

まだ自分の中で、エンデヴァーら家族と自らの力に対する整理が出来ていない。

 

「…ダメそうだな」

「!?」

 

途端に、氷の荊が急激にスピードを上げ、一瞬で轟の周囲を囲う。

一手で逃げ場がなくなる轟。

まさか、手加減されていた。

 

「くっ…」

「棄権しろ。やる気ねえならやめとけ」

「…」

「その恵まれたものを上手く利用できないなら、ヒーローなんてやめとけ」

「お前に何がわかる!これは単に恵まれたなんてもんじゃない!!俺にかけられた呪いそのものだ!」

「…何のことだ?」

「この左側は!俺にとって…!」

「いや、そっちは知らん」

「…なに?」

 

「…俺が言っているのは、この場のこと。お前に与えられた環境だ。個性なんて使いたくなければ使わなきゃ良い。俺だって、まだ使ってない技なんていくらでもある」

「どういう意味だ…」

 

お節介かな、と思う八幡。

こんな所で説教垂れるなんてらしくないにも程がある。

だが、元々面倒見がいい性格ではある──歳下限定だが。

それに、全てが終わる前に、何かを残したいと考えたのかもしれない。

立つ鳥跡を濁さずと言うが、美しくなくても見苦しくても、鳥とて何か自分が居た証を残したいのではないか。

そう自分を納得させ、言葉を続ける八幡。

 

「お前、バカだろ」

「いきなり罵倒かよ…」

「こんなトップヒーロー育成校の頂点を決める舞台に立って、面倒見てくれる家族もいて…それで自分が出せる手札を自分で捨てて降伏(サレンダー)か?」

「…アイツを家族だなんて思ったことはない」

「他にはいないの?家族」

「…」

「まあいい。それでヒーローになる道のりから大きく逸れて…勝てる試合を捨てるって言うなら、ヒーローなんてやらなくていいだろ。今の時代、ヒーローなんて腐るほど居る」

 

現代日本、平和の象徴オールマイトが君臨するこの国では、ヒーロー飽和社会と言われている。

街に出て三歩もすればヒーローなんてすぐに見つかるし、緊急通報をすれば30秒でヒーローは駆けつける。

 

「そんな中、自らが持つ力を十全に使わず、それで負けるような醜態を晒すなら、そんなヒーローは要らないだろう。やめとけよ、勿体ない。お前がいる場所が勿体ねえよ」

「…違う」

「何がだ」

「俺だって…ヒーローになりたいと思ってここにきた」

「…エンデヴァーは関係なしにか?」

「エンデヴァーに対して、確執があったのは間違いない。恨みも、怒りも。アイツの力を使わずに、アイツを完全否定してやるってていうくだらない気持ちは…確かにあった」

 

くだらない。

そう言い切った轟。

二回戦での緑谷戦で轟の内情に変化が起きたのか、と推測する八幡。

あの時、轟は炎を使って緑谷との戦いを制した。

中学時代、エンデヴァーからある程度轟焦凍については聞いていたが、話の中の轟とはその様子が明らかに違う。

確か、轟が炎を使う場面は最近ではまるで見ないと言っていたはずだが。

 

「けど…緑谷が、この力は俺のものじゃないかと言ってくれた。確かに、この力は俺自身のもの。それは事実だ。…家族を蔑ろにして俺をNo.1にするなんていうエンデヴァーの戯言に、恨みを持っていたのも…事実だ」

「…」

「…けど、さっきの試合…緑谷と向き合っていた時は、エンデヴァーのことを忘れることができた」

「!」

「それが良いことなのか。家族との諍いがあったという過去が俺には要らないことなのか。それがまだ、俺の中で整理がついてねえんだ…」

 

エンデヴァーは語らなかったが、おそらく両者の間ではまだ他に何かあったのだろう。

エンデヴァーから八幡が聞いていたのは、息子の轟焦凍は炎と氷の個性を使う最高の息子だが、今は反抗期で氷しか使わない、また将来は雄英に入れるというくらいだった。

他にエンデヴァーに不都合なことでもあったか。

なるほど、と息をつく八幡。

轟はいま、変革期の中にいるのだ。

この期間を経て、どのようなヒーローになっていくのか少しだけ興味が出た。

元々八幡は、純文学・ライトノベル・漫画・アニメに加えてヒーローオタクだったのだ。

…だが。

 

「それがお前の言い分か」

「…?」

「それでも言うぞ。…例えそうだとしても、今わざと負けちまうようなことはやめろ」

「…お前、俺の話を聞いていたのか?」

「聞いてたよ。要するに家族と向き合うかどうか決心が着いてないだけだろ」

「!!」

 

どきり、と轟の心臓が鳴る。

最初に向き合うべき人間は、間違いなく母親だとわかっている轟。

なるべき原点…なりたいヒーローを示してくれた人。

エンデヴァーのあまりの重圧に、轟に煮え湯をかけて精神病棟へ入ってしまった母。

 

「お前と家族との間に何があったかなんて知らんし、興味もないけど…でも、今のお前がこの場に立てている以上、やっぱり勿体無い奴だと思う」

「…この場に立てていない奴のことを考えろってか」

「考えろってわけじゃない。ただ……」

「?」

「…そうか。そういうことか…」

 

轟がウルフの様子に首を傾げるが、八幡はふと雪乃の言葉を思い出していた。

 

『貴方の本物を…否定しないで』

 

本物。

それは、奉仕部の間で求め合おうとしていた人間関係。

恋人や友達なんてちゃちな言葉ではなく、相手のことを完全に理解したいと言う悍ましく醜い自己満足を、お互いに許容できるという関係。

それを否定するなと告げた雪乃。

だが、その本物はまだ3人の中では築けていなかった。

それを見つけ、探し求めて行く途中だった。

 

「…アイツ…俺の望むものって…」

「…何だ?」

「……いや。こっちの話だ…」

 

本物は、多分雪乃が選んだ最適の比喩表現だった。

勿論、本物という関係を探しに行こうという雪乃なりの提案でもあるだろうが、それだけではないだろう。

自分の感情に対して不確実な推測を立てる八幡。

多分、今の自分が目の前の轟に持った感情の名は。

 

「…嫉妬か。そうか…俺は、あんたが羨ましかったのか…」

「…」

「ヒーローになれるであろう、あんたに。俺にはなれないものになれる轟に…」

「…なれないのか?ウルフ…」

「なれないな。…今のままだと…」

 

その時、首元に電子音が響いた。

小さくしゃがれた声で、その男は言葉を告げる。

 

『終わらせ給え、コネクタ。…オールマイトの為に、準備を進めろ』

 

オール・フォー・ワン。

痺れを切らした…というわけではないだろう。

八幡が良くない方向を向き始めた、と判断した為に声をかけてきたのだ。

仕方ない、と操作する氷を解除し、氷の荊が全て地に落ちる。

困惑する轟、ミッドナイトら。

 

「…ミッドナイト、棄権します」

「え!?」

「なっ…待て!待ってくれウルフ!!」

 

踵を返して入場者ゲートへ戻ろうとするウルフ。

八幡を追いかけ始める轟。

だが八幡は再度氷に触れ、轟との間に即座に壁を作る。

 

「っ!」

「…頑張れよ、轟。月並みだけど、応援してるわ」

「何でだ!お前ほどの力を持ってる奴が…そんな考え方してる奴が、何でヒーローになれないんだ!?」

「…決まってる。俺に、力と覚悟がないからさ」

 

オール・フォー・ワンを仕留める力と、自らの周辺の人たちと共に、オール・フォー・ワンを敵に回す覚悟が。

再びゲートの方へ歩き出す八幡。

突然の棄権に、次第にざわつき始める観客たち。

ゲートでウルフが戻ってくるのを待っていた平塚が、ウルフに手を伸ばした。

がしりと頭を掴み、八幡を自らに抱き寄せる。

 

「…何ですか、セクハラですか」

「バカを言え…愚か者」

「…」

「本当に…遅い、ノロマだ……!」

 

ようやく、彼は見つけたのだ。

妹の命がかかった極限の状況で、焦がれるほどなりたくて欲しいものを。

だが、何もかもが遅すぎた。

巨悪は既に、彼を掴んで離さない。

そんな巨悪の指の隙間を縫うかのように、平塚は今だけでもと八幡を抱きしめる。

 

────運命の幕が閉じるまで、あと少し。




さがみんとゆきのんの絡みを少し変えています。
正直体育祭編で終わるつもりでしたが、読者希望に便乗してもう少しだけと伸ばしているうちにいつの間にか三月決戦まで行ってしまいました。
なので、つじつま合わせです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。