So, this story isn't begun.
「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」
「ハーイ!なにするんですか!?」
午前の授業も終わり、ヒーロー基礎学の時間。
相澤先生が切り出した言葉に、瀬呂くんが反応する。
A組の担任である相澤消太先生は、抹消ヒーローのイレイザーヘッドだ。
そもそもこの雄英高校の教師たちは皆、プロヒーローである。
相澤先生自身が相澤と名乗ったから、相澤先生とみんな呼ぶけど、他の先生はみんな大抵ヒーロー名で呼ぶ。
英語担当のプレゼントマイク先生や、国語担当のセメントス先生。
誰も彼も有名なトップ級のヒーローばかりだ。
…けれど、相澤先生は初対面でイレイザーヘッドだとはわからなかった。
というか、ぶっちゃけあんなくたびれた人がヒーローだとは思わないというかなんと言うか…その…。
…話を戻そう。
このA組は、総勢25人の男女からなるヒーロー科のクラスだ。
先程発言した瀬呂くんもその内の一人。
個性はテープ。
両腕から切り離し可能なテープを発射する。
字面だけだとわからないかもしれないけど、捕縛性能も高く、バリケードも作れる。
優秀な個性だと思う。
「災害水難なんでもござれ、
「レスキューか!こりゃキツそうだな…!」
「レスキュー…。今回も大変そうだな」
「ねー!」
「バカお前!これこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」
「水難なら私の独壇場ケロケロ」
「…相澤先生」
クラスのムードメーカーたちが盛り上がるなかで、静かに、一つの手が挙がった。
その挙動の静けさに、一人、また一人と違和感を覚え、静まっていった。
「災害の中での人命救助ということは、
「それは誘拐や人質の案件の対処はしないのかということか?」
「はい」
発言をしたのは、昨日の雪ノ下さんだった。どうにも、思いつめた表情に見える。他にも何人か、強張った顔の人が見えるけど…。
「今回はそこまではしない。あくまで相手は災害だ。…だが、甘く見るなよ」
「…はい」
「…ま、お前ならそんな心配はいらんか」
…?
どういうことだろう。
二人は知り合い…?
「雪ノ下…。あんたちょっと焦り過ぎじゃない?」
「…何のことかしら、川崎さん」
「自覚ないの?そんなわけないよね」
雪ノ下さんにつっかかるような言い方をしたのは、青みがかった黒髪のポニーテールの女の子。どうやら名前は川崎っていうらしい。
個性は良く知らない。
一昨日の戦闘訓練では、僕は一戦目で気絶してしまっているから、後の皆の個性を見られていない。
その日の放課後、皆で集まって少し話したから個性を知れた人は知れたけど、彼女のことは良く知らないんだ。
惜しいことになってしまった…。
かっちゃん同様、彼女を含めた何人かはすぐに帰ってしまったんだ。
「はっきり口にしたらどうかしら?いくらでも反応してあげるわよ」
「はっ…。それはつまり、やろうってこと?」
「ちょっ…君たち!やめないか!」
うわっ…いきなり険悪な雰囲気!
慌てて飯田くんが仲裁に入る。
委員長にもなったし、クラスのまとめ役として張り切っているみたいだ。
「良いって良いって眼鏡くん!それに見てみ、この二人!」
「!? 突然なんだ!?」
「ウケるっしょ?」
「どこがだ!!?」
「雪ノ下さん見て」
「うむ」
「サキちゃん見て」
「うむ」
「ウケるっしょ!!」
「全くわからん!!」
いきなりウケる~と笑い始めたのは、確か折本さんって人だ。
由比ヶ浜さんと並んでいわゆるギャルっぽい女の子。
ヒーロー科にいるからヒーロー志望には間違いないんだろうけど、正直イメージがわかない。
個性に関しては、「えー?まあねー!うん!」とかなんとか言われて結局聞けなかった。
多分、はぐらかされたんだよなぁ…。
「あまり気にしなくて良いってことじゃないかな。雪ノ下さんと川崎さんはいつもこんな感じだし」
「ぬっ…。しかしだな戸塚君。委員長として、クラスの争い事を些事と捨てるわけにはいけないんだ!というわけで君たち!少し落ち着き給え!!」
飯田君をさりげなく宥めようとしているのは、戸塚彩加君。
背が低く、顔も小さく、端正な顔立ちに大きな目。
百人中百人は彼のことを女子だと思ってしまう…そんな男子だ。
ただ、そのことが彼にとってはコンプレックスらしい。
それも、初日に上鳴くんというチャラめの電気という個性を持つ彼は、戸塚君に対して、「君可愛いね~!俺、上鳴っていうんだけどさ!なんで男装?してんのかな~なんて…ですね…」と、声をかけて戸塚君を落ち込ませていたからだ。
ちなみに上鳴くんの声が尻すぼみになっているのは戸塚君が途中で泣きそうになったのと由比ヶ浜さんが猛抗議してきたから。
曰く、「性別間違えるなんて有り得ないし!!そんなの一人で十分だし!!」と、怒っていた。
「アンタの方が落ち着きなよ」
「委員長なら泰然自若としていなさい」
「うっひょー…雪ノ下さんも川崎さんもマジこえぇ…」
「いやでもあの目…良いな。オイラも蔑まれてぇ」
「なー。マジであの二人可愛いし…」
「おいまだ途中…」
ぎろりという擬音が聞こえてきそうなほど目力の入った相澤先生の声に、一瞬で黙ってビシリと前を向くA組の面々。
ため息をつきながらも、話を進めていく。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上準備開始」
リモコン操作でコスチュームを出しながら一息に説明を終える先生。
僕の脳裏では何千回、何万回と見たあの英雄の動画が再生されていた。
『はーはっはっはっはっはっはっは!!』
燃え上がる瓦礫に、崩れゆく建物。
『もう大丈夫!何故って!?』
一度に十数人も背負いながら、背負われた人々とは対照的に笑う彼に。
『私が来た!!』
僕は、憧れた。
オールマイトのようなヒーローに、僕もなる。なってみせる!
オールマイトの個性を受け継いだ、その資格を得た、僕が!
──────────
「由比ヶ浜さん、コスチュームは持った?」
「うん!」
「そう、では早速いきましょうか」
「雪ノ下さん、結衣ちゃん、一緒に行こー」
「…ええ」
「さいちゃん、サキサキ行こう!」
「あ、うん」
「…レスキューか」
先程少し騒がしかった五人が連れ添って教室を出ようとしていた。
「あの五人妙に仲良いねぇ」
「雪ノ下さんと由比ヶ浜さんも一緒だし、もしかして総武組なのかな?」
「ううむ、癖の多そうな人たちだ。上手くまとまってくれるのか…?」
「いや、私は違うよもじゃもじゃくん!」
「おお!?」
「よすー」
折本さん!!ちかちかちかちかちかちかあぁ!!
「んー?どしたもじゃもじゃくん」
「離れてあげてくれたまえ、折本君…」
「で、デクくん大丈夫?」
「だ、大丈夫…。OK、大丈夫…」
「それで、違うとは?君だけ違うということなのか?」
「あー、まあね。中学のころに雪ノ下さんたちと知り合う機会があってね。そこから一緒にヒーローの訓練してたんだー」
中学のころから個性を使った訓練をしていたという折本さんに、驚きを隠せなかった。
オールマイトもこの前言っていたけれど、雄英の敷地内にその校舎を構える総武中学校は、中学の時点からヒーロー科としての訓練を行う。
そんな生徒はごくごく稀で、ほとんどの生徒が普通科にいくらしいけど、そのごく少数の生徒は相当優秀となる。
僕らが高校から始めるヒーローの訓練を、中学から一年も二年も前倒しして行うんだ。
僕らよりも圧倒的に進んでいる筈。
けれど、そんなことを出来る中学校は、全国の中でも片手で数えるくらいにしかない。
安全性、倫理観の問題を、ほとんどの中学が解決できていないんだ。
「まあ、私は違うけど…雪ノ下さんたちが総武中出身なのはあってるよ」
「雪ノ下君か…。どうにも、俺も川崎君と同意見だ。彼女は明らかに焦燥感を持っている」
「…焦るだろうね」
「何でなん?折本ちゃん」
「かおりで良いよお茶子ちゃん!…雪ノ下さんたちはさ、ある
「
「もしかしてそれって…全身が黒い霧の男のこと?」
「…え?」
僕が黒い霧の男と言った瞬間、明らかに折本さんの目が変わった。
元々大きな目が更に見開かれ、息をのみ、一瞬手を動かした。
「…それ、何で知ってんの?」
「こ、この前、雪ノ下さんから直接…」
「…はぁ。ほんっとうになりふり構わないねー雪ノ下さん」
「…でも、それが正解なんだけどさ」
ため息とともに、表情も元に戻っていく折本さん。
「その
「大事な…もの?」
「もしみかけたりしたら問答無用で通報してね。多分、ヒーローや警察たちにとっても大事なもののはずだからさ、そいつ」
「あ…。うん」
折本さんはささっとその場を離れて四人の方へと走っていく。
「…多分、折本さんも…なんだよね」
「だろうな」
「…あの人たちは、既に助けなきゃいけないものが出来とるんだね…」
助けなきゃいけないもの。
麗日さんの言葉が妙に耳に残る。
…もしかして…二年前の、黒い霧の男の事件は…。
誘拐…?
──────────
ゆきのんは、きっと選べない。
それが分かっていても、私はヒッキーとゆきのんに宣言した。
わたしが全部もらうって。
そこをヒッキーが止めるとは思わなかったけど。
それで、ゆきのんに小さいけれど、初めての願いが生まれた。
「私も…いえ。私は比企谷くんと由比ヶ浜さんと一緒に居たい。由比ヶ浜さんとは、友達として」
そして、わたしとゆきのんからの二つの依頼と、ヒッキーからの依頼。
わたしたち二人の依頼を受けたヒッキーは、迷いながらも答えを出してくれた。
ようやく、歩き始めることが出来る。
…でも…、あの時…。
『…あれ?』
『おおお?なんだ由比ヶ浜。まだ結論を急ぐのは早いというか流石に決めきれてないというかちょっと待っていただきたいなーだなんて』
『なんか、黒いのが…』
『雲…ではないわね。近すぎるわ。まさか、個性によるもの…?』
『…!!お前ら、下がれ!!逃げるぞ!!』
『え!?』
『あんな個性を持ってるヒーローはいない!間違いない、
『流石に判断がはやいですね…。黒い新星』
『えっ!? 回り込まれ…!』
『由比ヶ浜!!』
『比企谷君、後ろからも…!!』
『くそっ!!!』
『初めまして比企谷八幡。貴方を迎えに来ました』
『え…』
『何ですって!?』
『…!!……なるほど。逃がしてくれる気はないみたいだな』
『そ、そんな…』
『…貴方、今何を考えているの?』
『!! 何もさせませんよ!』
『いやぁ…こんくらいは、させてくれっ……よ!!』
『ひ、ヒッキー!!!』
『ダメ、今すぐ下ろしなさい!!比企谷君!!!』
『ワープの個性だぞ。無理なものは無理だ。大人しく、目的だけ果たして帰ってもらう。雪ノ下、すぐにヒーロー事務所に駆け込め。あとエンデヴァーと…ミルコは…無理か。遠すぎる』
こんなときでも捻くれた、諦めたような笑い方をするヒッキー。
ヒッキーに声をかけようとしたその時、あたしとゆきのんは波打つ地面にさらわれていた。
『待って!!止めて、止めなさい!!!!』
『!! そんな…!やだ!!やだよひっきいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』
流動する地面。
動けないあたしと、ゆきのん。
遠ざかる、四人の気持ち悪い大男たちと、黒い霧の男と……ヒッキーの背中。
海浜公園の施設が爆発し、黒煙を上げるのが見える中、わたしとゆきのんは、泣きながら一番近かったヒーロー事務所へ駆け上った。
1年A組は原作20人+5人です。
B組、サポート科、普通科、教師陣、プロヒーローにも参入者はいます。
ヒッキーは最初辺りは出番なし。
組分けに関しては大分適当です。
個性は今のところほぼ全員決まっています。