ふらつく少年を支える少女たち、傍観者たち。
さあ、手を引いて。
今こそ、手を上げて迎えましょう。
おかえりなさい、ヒーロー。
「自首って…ヒッキー!?」
「…比企谷くん」
八幡の発言に不満そうな顔の2人。
遅れて総武生たちや、さらにその後ろに寄ってきた生徒たちが駆け寄ってくる。
「…それよりも、だ。まずは手当を。本当に死んでしまうぞ」
「通信が使えるようになっているはずです!リカバリーガールをお呼びします」
「それに、死柄木もまだ…!」
死柄木がいた壁際を見る平塚、オールマイト。
だが、気絶していた黒霧と共に死柄木の姿は消えていた。
「ワープで逃げたか!?」
「スナイプたちに警戒にあたらせましょう!まずは比企谷を………!?」
その時、会場全体に通報音が鳴り響いた。
今日一日一切鳴ることがなかった、侵入者有りの警報。
まだ何かあるのか。
どこだ、とヒーローたちが見渡す。
次の瞬間、オールマイトたち5人の周囲に黒いワープゲートがいくつも出現した。
まだやる気か!と3人を抱えて離脱しようとするオールマイト、対処しようとする平塚。
だが、ゲートの先から溢れ出た膨大な殺気に、オールマイトが反応してしまう。
その気配に覚えがあったからだ。
「オール・フォー・ワン!!!」
オールマイトの顔近くのワープゲートに振りかぶるオールマイト。
ワープゲートから人の右腕が出現し、掌が顔に迫っていた。
がしり、と組み合う拳と掌。
「貴様……今度は貴様が出てくるか!!?」
「6年ぶりだねオールマイト。だが本命は君じゃない」
「!?」
「ヒッキー!!」
「離しなさい!!」
オール・フォー・ワンの左手が、ワープゲートから八幡の左腕を掴んでいた。
平塚が咄嗟に拳を振るうもびくともしない。
「何だこの腕は!?」
「…やあ、酷い怪我だね比企谷八幡」
「…何の用だ、なんてのは…まあわかる」
「ああ、君はあげてもいい。君がそちら側でどのように生きていくかは、興味があるしね」
「…そうかい。んじゃ……用事だけ済ませろ。んでオールマイトに捕まれ老害。もう……やる気ねーよ」
「君のそういう諦めの良いところは好きだよ。一部を諦めて大望を得る。気が合うねぇ」
「合わねーよ……」
次の瞬間、八幡の左腕は切り離されていた。
溢れ出る血がその重傷具合を示す。
その一瞬、顔を歪める結衣、雪乃。
だが、怯むことなく2人は動く。
左腕に近かった結衣は八幡の腕にジャージを当てて止血に入り、雪乃はチャンスとばかりに八幡と結衣を手繰り寄せる。
平塚も3人を抱き抱えてワープゲートの群れから離脱していた。
残ったオールマイトが返せと言わんばかりにオール・フォー・ワンの腕ごと掴みかかり、二本分の腕ごと右手で掴んだ。
「おのれ!!生物操作の個性を回収しに来たか!?」
「ああ。アレは元々僕のだ」
「抜かせ!!そもそもは他人の物!!貴様はただの掠奪者にすぎん!!」
「はは、そう意固地になるなよ。また腹に穴が開くぞ」
グラウンドにエンデヴァー、ミルコ、他にもヒーロー達が降り立ち、平塚達や生徒達と中央の2人を遮るように壁を作る。
力無く崩れ落ちる八幡。
リカバリーガールがハウンドドッグに背負われて彼と雪乃達に駆け寄る。
そんな様子を赤外線感知で感じ取るオール・フォー・ワン。
「潮時かな」
「逃すわけないだろう!!」
「そうかい?“個性強制発動”」
オール・フォー・ワンの左腕から黒い触手のような何かが伸び、八幡の元左腕に突き刺さった。
そして、その手を離してしまうオールマイト。
「生物操作を…!?」
「随分便利な個性だ、本当に。…残念ながら固体操作や流体操作は移ってないみたいだけどね」
「それが狙いで……少年に手を出したのか!!?」
「さあ。彼に聞いてみると良い。ではごきげんよう、親愛なる弟の残り火よ。精々足掻くんだね」
「待て!!オール・フォー…」
ワープゲートが一斉に消えた。
簡易搬送台に横たえられた八幡。
痛みに耐えつつ、リカバリーガールの治療を受ける。
雪乃と結衣の泣きじゃくる顔が目に入った。
結局、最後まで格好はつかないなと笑った。
───────────
戦いが終わり、その場は騒然としていた。
「お怪我された方や体調不良の方はこちらで受け付けます!」
「脳無を縛り上げろ!他にもいないか一色ちゃんやラグドールの協力を仰いで探せ!」
「ピクシーボブ!グラウンドに埋められた脳無を掘り出すから手伝ってくれ!」
「
右往左往するヒーローたち。
復活阻止の為に
それをやってのけた八幡は現在治療中。
本当から清潔な場へ運び込むべきだったが、その時間すら惜しいほどの重傷だった。
その為、セメントス、八百万百の協力のもとグラウンドで簡易的に手術室が作製された。
一方、逃げ遅れた観客たちは観客席で、生徒たちはグラウンドの隅で集められていた。
が。
「比企谷の傍に行かせてください!」
「雪ノ下ちゃんや由比ヶ浜ちゃんはいってるでしょ!?」
「まだ待て!奴の素性がわかってない…というより決まってないんだ!!」
「決まってないってなんだし!」
紛糾する総武生とブラドキング。
血液の柵を広げて、生徒たちを手術室の方へ行かせないよう通せんぼである。
他の生徒たちも不安そうに手術室を見つめていた。
「…死なねーよな」
「…結局、あの人って何者なの?
「でも、俺たちやヒーローたちが戦えないのに戦ってくれたぜ」
「…」
轟も同様に、手術室を見ていた。
その後、現場の後始末を続けているエンデヴァーを見る。
エンデヴァーの先程の様相が驚くべき物だったからだ。
『八幡!!…リカバリーガール、絶対にそいつを死なせるな!!』
エンデヴァーの焦る顔など、ここ数年見たことがなかった。
アレは、轟や兄弟たちに見せることがなかった他人への気遣い。
(…比企谷。お前は…親父のなんだ?)
「ねーヤオモモ!あの人の傍まで行ったんでしょ!?どうだった?」
「…どうして、あそこまで戦えるんだろうって、本当に疑問に思いましたわ」
芦戸の問いに答える八百万。
手術室の作製に個性で手伝ってくれと呼び出された時、治療を受ける八幡の横を通ったのだ。
ちらりと見た程度だったが、全身は傷と血だらけ、電撃によって煤けた部位もあったし、何より無くなってしまった左腕が、彼に今日起きたことの全てを物語っていた。
「怪我をしてない部分も…古傷のようなものがたくさんありましたの。今までずっと戦ってきた人の身体。どうしてそんなになるまで……あの人は戦ったのでしょうか」
そんな八百万の言葉に、言葉を無くす芦戸。
興味半分心配半分で訊ねた自分を恥じた。
「………わ、わかんないけどさ……今日、あたし達を守ってくれた人じゃん?きっと、今までも…そうやって色んなものを守ってきた人なんじゃないかな」
一方、戦いの一部始終を全国全世界に放送していたマスメディアたちも、それぞれ実況しながら会場内の様子を撮り続けていた。
雄英体育祭の終わり際に再び侵入を図った
しかも、そのうちの1人と思われる少年が既に生徒として体育祭に潜入しており、オールマイトを捕まえるというとんでもないことをしでかしたのだ。
だが、生徒の1人──雪ノ下雪乃が
惨劇が繰り広げられるかと思ったが、由比ヶ浜結衣の叫びに応じてその少年は雪ノ下雪乃を救出。
誰も戦えない状況下で
何が何だかわからないことが多すぎて、あらゆる推測や憶測が実況の中で飛び交っていた。
そして、その矛先が雄英に向かっていたのだ。
比較的メディア対応に厚いプレゼントマイク、ミッドナイトが記者達に囲まれていた。
「あの生徒は何者なんですか!?」
「
「納得のいく説明をしてください!」
「あの得体の知れない
「今しばらくお待ちください!この場で緊急の記者会見を開きます!」
「安全が確保されたと見做されるまで大人しくしてなリスナー諸君!シッダーン!シッダァァァゥン!!」
───────────
「…どうだ?」
「生徒達の中には脳無はいません。大丈夫です」
「うむ。…後で手当てと感謝状を出す」
「えー?良いんですかぁ?」
エンデヴァーに連れられた一色が、グラウンドに集まった雄英生徒たちを視ていた。
色覚の個性で残った脳無がいないかの確認である。
それを見守っていたヒーロー達が次々と一色に声をかけていく。
「いやしかし、すごい個性だなあ」
「将来はヒーロー志望?」
「いえいえー。あまりそんな気はなくてー。だってほら、さっきの人とか見たでしょ?死んじゃいますよー」
「あ、まあ確かに…危険な職業だしね…」
「…でも」
ピタリと言葉を止め、手術室を視る一色。
何人かが横たわった誰かに向けて手を動かすのがオーラで見えた。
弱々しい3つのオーラを携えた人影。
だが、それでも生きているのはわかる。
「…でも、もし私が…頑張ることで、誰かさんを助けられたのなら」
「え?」
「ヒーローも…やってみようかなって、思いますね…」
「…」
一色の言葉に、同じく手術室を見るエンデヴァー。
「心配するな、奴は死にはせん。…貴様のおかげでな」
「…はいっ!これでたっぷり貸しを作れましたし!」
「加減はしてやれ…」
「荷物持ち何回やってくれますかね〜?」
場違いに悪い笑顔を見せる一色、苦笑いするヒーロー達。
そこへ飛んできたヒーローがまた1人。
エンデヴァー事務所炎のサイドキッカーズ筆頭バーニンである。
燃髪を翼のように羽ばたかせて降り立つ。
「エンデヴァー!報告!!」
「しろ」
「ラジャ!戦いの余波と振動で擦り傷等の軽傷者が十数人出てる!重傷者はなしだ!」
「ご苦労。脳無の移送は?」
「観客に紛れてた脳無は全員
「よし。引き続き警戒に当たりつつ、観客達のメンタルケアを行うように」
「了解!」
再び観客席の方へ飛ぶバーニン。
被害状況がまとめられ、その現状を確認していくエンデヴァー。
「死者0。重傷者は…比企谷八幡のみ。この大掛かりな襲撃でこれだけの被害で済んだのは…やはり奴の活躍ありきだな」
「雪ノ下先輩とかヤバかったですからね…」
「雪ノ下…アウトスノーも軽傷だ」
被害状況も算出され、報告が可能となった。
後は、この状況を
エンデヴァーが陽乃を見遣る。
「2年前の時点で…あの誘拐事件が起きた時点でこのようなことが起きると読んでいた。今日まで信頼を築き、公安に擦り寄っていた奴の忍耐勝ちだ」
その陽乃は、手術室の傍で祈るように座っていた雪乃と結衣の元へやってきていた。
セメントスが気を効かせて手術室の脇にコンクリートの席を設置してくれたのだ。
「雪乃ちゃん、ガハマちゃん。お疲れ様」
「…姉さん」
「陽乃さん、ヒッキーは…」
「ごめんね、容態とかは多分2人の方が詳しいよ。私はこれからの話をしにきたの。…雪乃ちゃんにね」
「…わかってるわ。由比ヶ浜さんは比企谷くんのそばに居てあげて」
「…ゆきのん」
「大丈夫、上手くいくわ。…彼が頑張ってくれたもの。私たちも応えましょう」
セメントスが再び動き、記者会見が出来る壇場を作ってくれていた。
既に多くのマスメディアが待機しており、根津、オールマイトが席についているのが見える。
「…いこっか、雪乃ちゃん」
「ええ」
───────────
4人のヒーローにカメラとマイクが向けられた。
No.1ヒーロー、オールマイト。
雄英高校校長、根津。
サンアイズ事務所兼公安委員会専属、サンアイズ──雪ノ下陽乃。
雄英高校所属(事務所未設立)、アウトスノー──雪ノ下雪乃。
その面子に訝しむメディアたち。
オールマイトと根津は当然、アウトスノーも当事者だ。
だが、何故かサンアイズが座っている。
サンアイズとアウトスノーが姉妹だということは知る人は知っている。
というより、アウトスノーのことを知っている人間は知っているという言い方が正しい。
そもそも彼女はメディア露出していないのだ。
だが、だからと言ってこの場にサンアイズが出てくるのは不可解であると考えていた。
「では、今回の襲撃事件…そして、
話し始めたのはサンアイズ。
根津ではない。
オールマイトでもない。
何故貴女が、と記者たちは首を傾げつつ、陽乃の言葉を待っていた。
そんな彼らを見て、心中で笑う陽乃。
さあ、始めようか。
英雄譚の序幕を──。
「詳細については翌日以降に再び行いますが…どうしても知らしめたいことがあると、このサンアイズより報告させていただきます。まずは…
「え?」
「二年前…?」
「きっかけは二年前。若くして仮免を取得していた将来有望な少年がいました。彼には類い稀な個性と戦闘センスがあり、いずれトップヒーローになると私やエンデヴァーが目にかけていた少年です」
「エンデヴァーが!?」
遠巻きに会見を耳にしていたエンデヴァーが眉を顰める。
陽乃に責任は取ってやると言ったが、No.2の肩書きをとことん使う気らしい。
「それが彼──比企谷八幡。今日全てを背負ってくれた少年です。ですが、そんな彼に目をつけたのは我々だけではなく、
ここでサラリと嘘をつく陽乃。
半ば拉致された、と言ったが当時の八幡の状況と素振りから察するに完全に拉致である。
ここで嘘をついたのは、八幡の意志が多少含まれていたことと示す為。
「彼がそれについていったのは、比企谷くんが組織の規模と危険度にすぐに気がついたためです。
ここで最大級の嘘をかます陽乃。
八幡は潜入など一切していない。
完全に誘拐され、小町を盾に従わされていた。
それは事実だ。
「しかし、何故潜入を?オールマイトやエンデヴァーなど、トップヒーローたちの総力なら…」
陽乃の説明に横槍を刺すような記者。
けど、良いアシストになると笑う陽乃。
「彼らは用心深く、2年間潜入を続けた比企谷くんにも…本拠地や支部などは一切把握できませんでした。ほとんどを独房に閉じ込められ、個性の使用訓練の際に外に出された。ほとんどモルモットのような状況だったそうです…」
これは陽乃の推測だったが、ほとんど事実である。
結局八幡を目につけたのはその年の1月初頭に起きたららぽでの
「…しかし、そんな折…今年の春、組織が大きく動き始めました。それがUSJ襲撃事件。それに参加するよう彼は命令されました」
「…それは、彼はUSJへの襲撃を知っていたということでしょうか?それを雄英側に通知することはできなかったのでしょうか?」
「知らされたのは当日。しかも、彼とていつでも私に連絡を取ることができるわけではなかった。…彼も苦悩したと思います。ですが、彼がUSJ襲撃事件に参加することで、
ざわつき始める記者、横で会見の様子を窺っていた生徒たち。
陽乃は笑う。
流れが出来始めればこっちのものだ。
「彼は当日、
そして名を出される雪乃。
記者たちの目線とカメラが彼女に集まる。
「事実です。私はその日まで
雪乃は、コネクタ──比企谷八幡に一時的に人質に取られたのはわざとであると言い切る。
上出来だね、と陽乃は言葉を続ける。
「そして今日。
これは全て事実である。
雄英側はウルフ=八幡だとも知っていたし、八幡は自爆用脳無のことを一切知らなかった。
知っていたら、ヒーローが人質を取られて戦えない状況を続けさせるわけがない。
「ここで、再びアウトスノーと彼の時間稼ぎが始まりました。比企谷くんは
「…つまり」
「はい」
言葉を発した記者の意図を察し、頷く陽乃。
「比企谷八幡は
これだ。
この結論を述べたかった。
前提から理論立て、結論を最後に持ってくる。
ヒーロー社会への彼の一歩を、ここで踏ませて見せる。
「し、しかし!信用はできるのですか!?」
「そうです!2年間の間に
「そもそも彼はまだ15歳かそこらでは!?
「不安はわかります。ですがサンアイズ事務所としては、将来のサイドキックとして、彼を皆さんに信頼して頂くよう人事を尽くして真摯に対応していく所存です」
「え!?」
「サイドキック!!?」
「そ、速報、速報です!サンアイズがサイドキックと!!」
陽乃の発言に更に騒めきが大きくなる記者たち。
ちゃっかりしているわ、と雪乃。
後で撤回させようと強く心に決める。
「詳しいことはまた明日以降の会見でお話ししたいと思います。ですが、皆さんは今日その命を懸けて戦っていた彼の姿を見ていたはずです。私の言葉などよりも、皆さんが目にした事実が、彼の在り方の全てを語っています」
陽乃の言葉でピタリと静まる記者陣。
血反吐を吐きながら戦い続けた少年。
年齢など関係ない、その姿は確かにいつも彼らが目にしているものだったのだ。
話し終えた陽乃が座り、根津が続けて言葉を話し続ける。
「雄英高校としましても、彼を──…」
「こら!!待ちなさい!!あんた本当に死ぬよ!!」
言葉をつづけようとした根津の口が止まり、ぽかんと表情も止める。
訝しむ記者陣に、後ろから狼狽したリカバリーガールの声がかかる。
なんだと後ろを振り返ると、医療処置が一旦終わった渦中の少年が息絶え絶えになりながら立っていた。
無くなった左腕の切断部分も止血が終わっている。
「ひ、比企谷くん!?」
「なにをしているの!!」
雪乃ががたりと立ち上がり、すぐに八幡の元へ走る。
手術室からも結衣と小町が走ってきていた。
記者陣が急いで彼に焦点を当てる。
「ひ、比企谷八幡です!もう立ち上がっています…!」
「信じられません!手術や怪我の影響はないのでしょうか!?」
「…そっか。相変わらず呆れちゃう精神力だね」
陽乃がぽつりと喋る。
昔皮肉で理性の化け物なんて言ったことがあるが、これだとそのまま理性の化け物である。
「…ゆ、雪ノ下さん……何故…?」
「喋らなくていーよ、君のことはわかるし大体」
「いや…」
「何で俺に対してそこまでしてくれるのか、でしょ?」
わざと柔らかな言葉を使う陽乃に対し、と言葉に詰まる八幡。
図星である。
「わかってないなあ、前も言ったでしょ?私は君を気に入ってるの。
陽乃の容赦のない一面が見えた一言。
このギャップがサンアイズの人気の一つだと、陽乃自身が知っている。
「私だけじゃないよ。由比ヶ浜ちゃんも言ってたでしょ?君を救けるヒーローに、ってさ。アウトスノー…私の妹も、君の妹も…雄英高校も、オールマイトも」
陽乃の言葉を受けてオールマイトが立ち上がり、そのままゆっくりと八幡の元へ歩み寄る。
その顔はいつも絶えない、テレビで見る笑顔そのものである。
「比企谷くん。今日の私は何もできなかった。それを君に助けられたんだ」
「……いえ、そもそもそれは…」
「アレは君のせいじゃない。君は君の守るべきものを守ろうと全力で戦っていたんだ。そうだろう?」
チラリと小町を見るオールマイト。
その言葉で、自分が兄の枷になっていたと気づいてしまう小町。
だが、オールマイトが小さく首を振って小町を宥める。
「私はね、比企谷少年。いつも誰かに助けられているんだ」
「…」
「それは応援してくださるファンの1人であったり、新人教師の私に様々なことを教えてくれる我が校の同僚であったり……今日の君のような者であったりするのさ。そうして今の
拳を握りしめて八幡に向けるオールマイト。
「そんな私に出来ることは、次の誰かを救けることだ。そのうちの1人に、君がいるんだ…比企谷少年。私も君を救けたい。ヒーローである君をね」
「…!」
オールマイトの発したヒーローという言葉が、記者陣に更なる波紋を起こす。
オールマイトがその少年を認めているということになるからだ。
「かつてサンアイズも、エンデヴァーも…比企谷八幡はいずれトップヒーローになる人材だと確信し、2年前の措置を取った。雪ノ下少女も由比ヶ浜少女も、君を救けたいと今日の勇姿を見せた。生徒達も同じだ。君だから応援したんだ」
「…」
「だから、今度は私の番だ…!」
八幡の背にその大きな手を添えて、記者陣の方へ向くオールマイト。
平和の象徴と渦中の少年。
最早答えは出ていた。
「私は…今日、比企谷八幡に救けられた!今度は私が彼を救ける!
未成年ながら
世間からの好奇の目も。
八幡の後ろ楯になることでそれを背負う。
「だから今日は何も考えずに、この少年に賞賛と栄誉を贈って欲しい」
もう十分だ。
だから、休んで良い。
その目を閉じて、今日はおやすみ。
そんなオールマイトの声なき声が聞こえた気がした。
「彼は今日、紛れもないヒーローだった」
オールマイトの手からその背を滑らせ、崩れ落ちる八幡。
医療処置中ですら意識を半分保っていた少年は、ようやくその日、意識を絶った。
雪乃と結衣がそんな彼を抱き止め、小町はその光景を見て泣き笑いを浮かべた。
「お父さん、お母さん…。お兄ちゃんが帰ってきたよ…」
───────────
「ありがとう、オールマイト」
雄英体育祭一年ステージの後始末が続けられる中、生徒達は一度雄英校舎へ戻された後。
オールマイトは陽乃、エンデヴァー、ミルコと共に集まっていた。
「貴方のおかげで、比企谷くんはとりあえず世間に受け入れられた」
「いや…アレは紛れもない私の本心だ。私は必ず、彼を守るよ」
「貴様の手を煩わせることはない。奴は俺の弟子だ。貴様は世間にだけアピールしてろ」
「エンデヴァーは人気ねーからな」
「ストレートに言うな貴様!!」
ぎゃははと笑うミルコ。
ヒーロー支持率で言えばオールマイトは1位、エンデヴァーは4位である。
ちなみにミルコは7位だ。
「No.1ヒーローによる賛辞。世間の信頼に対するこれ以上の保証はない」
「…サンアイズ。今後、彼をどうする気だい?」
「そうだねー…。厳密に言うと、彼はまだヒーローではないんだよ。本免持ってないからね。だからどの事務所に所属しているとかいうわけでもなし」
「さっきはああは言っていたが…本当に奴はヒーローになれるのか?」
「ヒーローなんて一般人からの人気とヒーロー免許が降りるかどうかでしょ。人気云々は明日以降判明することだけど…SNSを見る限り、良い反応が目立ってる」
いくつかのSNSをスマホで確認する陽乃。
比企谷八幡、ノーアームズ、雄英、オールマイトと検索を続けていく。
怪しい、態度が
「強い、強すぎ、やりすぎ…やりすぎってなんだ?あんくらい普通だろ」
「脳無に対してやりすぎってのは見る目がないね。特にあの黒い脳無に対しては」
「相澤くん…イレイザーヘッドによるサポートがラストに入ったとはいえ、最後のショック吸収と強制覚醒相手によくもまあ勝てたものだよ!私あんなに苦労したのに、2回もね…」
「だが…生物操作と言ったか?奴の左腕は無くなった。オールマイト、最後のアレはなんだ?あの腕の持ち主が黒幕か」
エンデヴァーに問われて押し黙るオールマイト。
オール・フォー・ワン。
だが、その詳細を世間に漏らせば世は間違いなく混乱に陥る。
100年以上昔から悪として栄え、個性を奪い与える個性の持ち主。
そんな存在が日本にいるのだ。
「その話はまた今度、お茶でもしながらどうかな?」
「一度断った話を蒸し返すな」
「…奴が比企谷くんを狙った張本人と見て間違い無いないね。個性を弄る手段を持っている、間違いなく最悪の
「奴のことは私に任せてくれ。アレを倒すのは私の役目だ…!それより比企谷くんだよ」
「なんなら私が引き取ってやっても良いぜ、あいつ」
ミルコの言葉にピクリと眉を動かすエンデヴァー。
「…俺が引き取る。貴様は事務所もないだろう」
「別にアイツを抱いて跳ぶから良いぞ」
「そんなヒーローとサイドキックが居てたまるか!!」
「私も面倒を見たいが…」「オールマイト」
「さ、サンアイズ?」
「無理はしちゃダメですよ?」
「………はい」
陽乃の圧力に屈するオールマイト。
続けてエンデヴァーとミルコに声をかける。
「2人とも、お取込み中悪いんだけど彼の行く道は既に決めているから」
「…貴様が将来サイドキックに、と言ってはいたが…今すぐにではないのだろうな」
「今すぐではないね。私も人気はある方だと思うけど…流石に
「…では、今からはどうする」
エンデヴァーの問いに、ニヤリと笑う陽乃。
スマホを掲げて、ある連絡先を示す。
その画面を見た3人は、まさかという顔で見合わせる。
「悪いね。こんな形になるとは思ってなかったけど…一応の着地点はもう作ってあったんだ♪」
「ヒーロー公安委員会…」
「話はつけてある。根津校長にもね」
「世間にはどういうスタンスで行く気だ?」
「彼は元々総武推薦枠もらってたし、中学は卒業扱いだし。何とかなるでしょ。あとは公安委員会から本免の書類もらうだけだねー」
「本免の発行時期はどうする」
「明日」
「は!!?」
「…サンアイズ…まさか、雄英でそれをさせる気かい?」
「結局、未成年の仮免ヒーローがスパイなんてのもまずいからねー。解決出来る方はしとくのが当然」
「お前話には聞いてたけど無茶苦茶だなー」
「ミルコには言われたくないけど、まあ無茶を通してる自覚はあるよ」
物理的な無茶をするのがミルコ、あらゆる無理をねじ曲げて道理を通すのが陽乃。
でもね、と陽乃は続けていく。
「そのくらいさせるくらい、彼は魅力的だよ。自己犠牲の塊…。アレほどヒーローに向いてるからこそ、とても破滅的なんだよ。それを雪乃ちゃん達は補おうとしている。私は乗っかってもらってくだけ」
「…最終的にどうするか決めるのは八幡本人だろう」
「えー?それエンデヴァーが言うの?」
「…」
「まあ間違ってないけどね。でも、彼は間違いなく私たちの提案に乗るよ。実はすごい義理堅いからね。ヒーロー社会とオールマイト、私たちにここまでお膳立てされたら、めちゃくちゃ嫌そうな顔しながらそれでもやってくれるね」
「…その重圧が、彼を押し潰さなければ良いんだが。そこは心配じゃないのかい?」
「押し潰されたらそこまで」
「え!?」
「でも…大丈夫だよ、きっと」
だって、彼はもう1人じゃない。
───────────
安全確認の後、生徒達は教室に戻っていた。
だが、雪乃と結衣、それから飯田はA組の教室にはいない。
比企谷八幡がセントラル病院に搬送され、雪乃と結衣は小町と共に付き添って行った為だ。
飯田に関しては、兄のターボヒーロー・インゲニウムが
3人の空き椅子ができたA組の壇上に、イレイザーヘッドが上がる。
「今日は一日お疲れ。本来なら振替休日を含めて二日休みだが…恐らく、臨時休校分も含めて三日は休みになるだろう。追って連絡をする」
「あ、相澤先生!さっきの男の子はどうなるんですか!?」
葉隠がハイ、と手を挙げる。
その言葉を待っていた、と皆がイレイザーヘッドに注目し、返答を待つ。
「…それも追々だ。お前らは自分のことに集中してろ」
「でも!」
「葉隠」
イレイザーヘッドの視線が葉隠を貫く。
いつもの厳しい抹消の目ではないが、諭すような目だ。
「そのうち説明する。今は我慢しろ」
「…はい」
「今回のことは忘れろとは言わん。だが、まだ決まっていないことが多すぎる。奴のことを含め、職場体験の指名の件についてもな」
今日の光景を思い出す緑谷。
異形の怪物達の猛攻を縫い、正に鬼気迫る表情でその痛みを武器に戦う少年。
続けて、職場体験の話を始める相澤。
「職場体験だが…本来なら二週間後に始まる予定だったが、恐らくそれもズレる。だが、気を緩めずに準備しておけ」
雄英体育祭。
その波乱の1日が終わった。
この日を境に、彼らを取り巻く環境は大きく変化する。
うねり、渦巻き、呑み込むかのように。
霧のような悪意を添えて。
───────────
「デクくん、指名が来たってほんと!?」
「う、うん。グラントリノっていう方なんだけど…」
「…知らん人だ」
「うん、僕も調べたけどあまりヒーロー活動してないみたい…」
雄英体育祭から二週間後。
僕たちヒーロー科は、再来週から行われる職場体験に向けて準備を進めていた。
体育祭襲撃後、世間は大いに雄英体育祭での事件を取り上げた。
表彰台に上がった4人はもちろんのこと、その後が本番であったと言わんばかりの盛り上がり様だ。
良くも悪くもオールマイトや比企谷八幡君、サンアイズに焦点が当たり、その行動や意志の是非が問われた。
比企谷君に関しては賛否両論が至る所で起き、本人の知らぬ間にあらゆる議論が進んだ。
彼のスパイ行為と時間稼ぎは正しかったのか、もっと良いやり方はなかったのか。
だが、犠牲者なしで異形の
現在の彼は、未だ入院中ということでその経過は良好であること。
警察から事情聴取を受けれるようになるまで回復したこと。
また、スパイ行為に伴い本免を特例として発行され、晴れてヒーロー資格を手に入れたことが発表された。
代わりに、ヒーロー公安委員会からいくつか条件を課されるということに。
その詳細は未だ不明で、今後の公安委員会の発表と彼の動きに注目が集まるだろう。
「あ、雪ノ下さん、由比ヶ浜ちゃん!おはよー」
「おはよう!」
「おはよう麗日さん、緑谷君」
「やっはろー!」
あの日から、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんは毎日比企谷君のお見舞いに行っているらしい。
最も、入院してからは面会謝絶で、一度も会えていないとのこと。
唯一の肉親である比企谷君の妹さんでも会えてない、と川崎さんが雪ノ下さんと喋っているのが聞こえた。
多分、また
今回も逃げた死柄木、黒霧、そして比企谷君の左腕を奪って行った
そして、比企谷君やヒーロー達が倒し捕えた31体の脳無。
脳無は警察や研究機関で捜査が続いているけど、その実情が出てくることはないだろう。
明らかに普通の
「さあ!皆席につこう!!」
「あ、飯田君」
「もうすぐ職場体験だ!雄英生として軽率な行動を慎むように!今のうちから行動を見直そう!」
飯田君の兄、インゲニウムは一命を取り留めた。
飯田君も普段と変わらないように見え、ひとまずは落ち着いたってことで良いんだろう。
職場体験については、中止になるかもしれないという噂が出たけど、基本的にはやるという方針になった。
多くのヒーロー事務所が、雄英体育祭とその後の事件を目にして、こう語ったんだ。
『あの日、1人のヒーローが雄英を守った。我々はそれに応える為に、雄英との提携と次代のヒーロー育成に協力する』
二週間ほど職場体験は延期になったけど、雄英高校は今後も生徒の安全管理を徹底するという姿勢と共に、職場体験や文化祭のような行事を続けていくことになったんだ。
「おはよう」
「「「おはようございます!!」」」
相澤先生が教室に入り、速やかに着席するA組。
ここら辺皆すごい団結力だよなあ…かっちゃんとか轟君とかは最初から座ってるけど。
相澤先生は、雄英体育祭後にUSJで負った傷が完治し、目元に傷痕が残った。
少し痛々しいけど、本人は気にした様子がない。
「今日のヒーロー情報学だが…全員ジャージに着替えてUSJに集合だ」
「え…情報学でですか?」
「そうだ。早くしろ行くぞ」
何だろう…?
更衣室に向かい、同じように着替えた女子たちと合流してUSJにバスで向かう。
USJで何をするんだろうか?
しかも、今度は前回と違ってヒーローコスチュームでもない。
「…なんだろね?」
「うーん…何だろう?ていうかなんでヒーロー情報学でなのかな?」
「ヒーロー基礎学でも良さそうだよなあ!」
「USJでってのも気になるねえ」
切島君、芦戸さんの言葉に頷く一同。
バスがUSJに着き、バスから飯田君の先導の元降りていく。
USJの入り口前には、A組が乗ってきたバスと全く同じバスが停まっていた。
関係ないけど、オールマイトがこの前吹き飛ばした扉もう直ってるな…。
「あれ、バスがもう一台ある…」
「もしかして…!」
USJのゲートを通り、入っていくと予想通りの人たちがそこにいた。
「B組!」
「マジか!今日B組と合同訓練なの!?」
「って思うだろ?違うらしいよ…ふふふ」
不敵な笑みを浮かべて瀬呂君の言葉を否定する物間君。
B組総勢25人が同じように雄英ジャージで待機していた。
由比ヶ浜さんが三浦さんと海老名さんの元へ駆け寄っていく。
「優美子、姫奈!今日って何するか聞いてる?」
「いや、あーしらも着替えてここに連れてこられただけだし」
「はろはろ〜。50人も集まって何するんだろうねえ」
「全員集まったな」
相澤先生とブラドキング先生が同じようにA組とB組を整列させ、その場で座らせる。
そして、再び入場ゲートが開いた。
「あれ、オールマイトだ」
「と…校長先生!?13号先生まで」
マッスルフォームのオールマイトに、校長先生を抱えた13号先生が登場し、これでこの場に先生が5人も集まったことになる。
「…なんか、変だな」
「校長先生がいるのが違和感半端ねえ」
「すげえことさせられそうでこええよ…」
怯えるように峰田君が呟く。
けど、実際何をさせる気なんだろう?
「…悪いが、お前らのこの1時間をもらうつもりで今日は集まってもらっている」
「え?」
「その言い方ですと、授業ではないように聞こえますが…」
「ああ、違う」
「え!!?」
「なんだよかった…」
相澤先生の言葉にホッと一息の峰田君。
いや、じゃあなんでこの場に集められたか余計気になるんだけど…。
「今日は、君たちに体育祭で起きたことについて、真実を知ってもらいたくて呼んだのさ!」
ぴょんと13号先生から地面に降りた校長先生の言葉に、緊張が走る僕たち。
もちろん、あの事件のことだろう。
「真実…ですか?」
「そうさ!そして君たちに考えてほしいのさ……何がヒーローたらしめるかを」
「何が…?」
「ヒーローに必要なのは何か?強さか?心か?経歴?資格?なんでも良いのさ!でも…君たちには君たちなりの考えを持ってほしい。それを前提に、全てを知ってもらうべく今日は集まってもらったのさ!…比企谷八幡君の身に起きた真実を」
───────────
そして、校長先生は全てを話してくれた。
比企谷君は、その個性の有用さと戦闘センスから
スパイではなく、二年前に誘拐されたこと。
二年もの間、妹を人質に
誰にも連絡が取れず、助けを求めることもできなかったこと。
USJでは生徒たちに危害が加えられないように立ち回ったこと。
体育祭ではやはり妹の命を盾にされ、オールマイトを殺すよう命令されたこと。
雪ノ下さんと由比ヶ浜さんの必死の思いを受けて、
世間に公表されている内容とは少し違っていた。
スパイ行為なんてものはなく、必死に1人の少年が抗っていた実情だけがあったということが、僕らにも分かった。
「…この場で聞いたことは他言無用だ。連帯責任で頼む」
「な、何故そんなことを話してくれるのですか?」
「しかも、ヒーロー科の俺たちだけにッスよねこれ!?」
「そうだ。んで…どう思う?お前ら」
ブラドキングの言葉に、首を傾げる皆。
「どうって…」
「お前らならどうする。唯一の肉親を盾にされたとしたら。比企谷の行いは正当化されるべきだと思うか?」
その言葉に、誰も言葉を発せなくなってしまう。
危うくオールマイトが殺されるかもしれなかったあの日。
雪ノ下さんも同じだ。
「もしあの日、比企谷のせいで誰かが死んでいたら。それは奴の罪になると思うか?それとも、
「…いや、でも悪いのは…
「それは間違いないと思いますわ…。…けど」
僕の場合に置き換えてみる。
もし、母さんが人質に取られて、誰にも助けを求めることも出来なくて、オールマイトを殺すように言われたとしたら。
それ以上、誰も言葉を発することは出来なかった。
ただ1人、雪ノ下さんだけが気丈に奮ってブラドキングに答える。
「…あの日、彼は敵に見張れている中、私に異常を伝え、小町さんが人質に取られていることを私に教えてくれました。彼はどんなに絶望的な状況でも諦めていなかった…」
「そうだ。奴はそれでももう終わりだと諦めず、雪ノ下の計らいで比企谷小町の安全を確保させるところまで辿り着いた」
「オールマイトに手を下したのは事実。だが、それすら時間稼ぎに一役買い、最終的に雪ノ下並びにその場の全員を守ったのも事実…」
相澤先生が言葉を続ける。
そうだ、と鉄哲君が叫ぶ。
「比企谷は間違ってねえよ!アイツはやんなきゃいけねえことをやり通した漢だ!!」
「そ、そうだよ!人として、ヒーローとして…立派だった!」
次々と皆が言葉をあげる。
僕も、あんな姿を見せられて、正直羨ましかった。
あんなヒーローになりたい。
オールマイトのような、どんな時でも笑って人々に安心を振る舞うようなヒーローはもちろんかっこいい。
けど、比企谷君のようなどんな時でも諦めず、その身と心を使い切ってでも絶望的な状況を切り抜けようとするヒーローも、とてもかっこよかった。
アレがきっと、僕たちが目指すべきヒーロー像の一つなんだ。
「…そうか。なら、それは本人に直接言ってやれ」
相澤先生の言葉に、静まり返る一同。
「…いま、なんて?」
「そのままの意味だ。オールマイト」
「ああ。入っておいで!」
入場ゲートが3回目の開閉を行った。
4人の姿が見えた。
1人はサンアイズ。
1人はスクリームフィスト。
1人はセーラー服を着た女子中学生。
そして最後の1人は顔を両手で覆った少年。
サンアイズと中学生の子にずるずると引っ張られ、その少年はオールマイトと相澤先生の間に連れてこられた。
「何してんだお前」
「…今諸事情につき顔がアレなんで」
「早よ自己紹介しろ」
「…うぃっす」
観念したかのように、顔から両手を外し、赤い顔をした少年は卑屈そうに笑った。
「…比企谷八幡です」
全員の絶叫がUSJ内に響いた。
いや、なんで!!?
なんでここにいるの!?
───────────
「姉さん!!どういうこと!?」
「ヒッキー左手!!左手が!生えた!!?」
「比企谷退院したの!!?」
「小町!あんたもなんでいるんだ!?」
「八幡!元気そうでよかった!」
ああ、やかましい。
生えるわけないだろ。
矢継ぎ早に話しかけるな聖徳太子じゃないんだこっちは。
戸塚の声だけで癒されるからまだましだけど。
「二年ぶりの戸塚ボイス…」
「比企谷くん?」
「ナンデスカ雪ノ下サン」
「呼んだ?」
「いえ、貴女は呼んでないですサンアイズ」
「ややこしいなあ…。これを機に陽乃って呼んでよ」
「わかりました、サンアイズ」
「貴女たちの親密度なんてどうでも良いから説明してちょうだい…」
生徒たちの方もイレイザーヘッドとブラドキングに落ち着かされて地面に座る。
ただ、なんで雪ノ下と由比ヶ浜はこっち側に立ってるんですかねえ…。
お前らも生徒だろうが。
ネズミのような何かが説明を続ける。
いや、この人?はなんだ…。
校長だって説明された時本当にビビったぞ。
「比企谷君には、今回のスパイ行為に伴ってヒーロー本免許証が発行されたのはニュースで皆も見たと思う。だが、公安委員会から条件が課された」
「条件…ですか?」
「仮免は既に取得済みだったからね、それは良かったんだけど…本免について、カリキュラムと試験をほとんどすっ飛ばしているから、それを習得することが条件になった。まあ道理だよね」
「まあ、道理ですね…」
「…まさか!!」
ハッとする雪ノ下。
はい、そのまさかですビビってますこっちも。
ていうかよく通ったなこれ。
「それを雄英で取得するよう命令が出たんだ」
「え?」
「は?」
「はい?」
ほとんどの生徒が唖然となっているのがわかる。
いや、まあ俺もだけどね。
話聞いた時耳を疑ったわ。
あと雪ノ下さんにも3回くらい本当かって聞いた。
全部同じ答えが返ってきたけど。
「じゃ、改めて紹介しようか。お願いするよ比企谷君」
「…えーと、はい」
「流石にさっきのは自己紹介にならないのよね。名前と顔なんて今日本一知られてる高校生だし」
「俺…高校生の自覚まだないんで」
「早くせんか馬鹿者」
ゴン、と頭に拳骨が入った。
久々に平塚先生の拳もらったよめっちゃ痛い。
神経操作の弊害なんぞよりもよほど痛いぞ、涙出るわ。
「あー…雄英高校ヒーロー科1年特別中途入学枠。ナーブヒーロー・ノーアームズ、比企谷八幡です。…なんか横文字多くね?」
再び絶叫に包まれるUSJ。
カッコつかないなあ、とまた卑屈に笑う。
その日、俺の高校生活が始まった。
そして、その日から俺は再び歩み始めた。
ヒーローへの道を。
これで一章は終わりになります
次回から第二章です
少し期間空けます