何がヒーローたらしめるか   作:doraky333

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ようこそ、英雄の成り損ない。
かつての英雄たちの忘れ形見。
さて、彼が本物を得るのはいつの日か。
そして、本物と成るのはいつの日か。
さあ、お立ち会い。

──無垢な夢は始まった。


2nd.The Defect and Scar's Hero
Hero's Episode1.はぐれ者の迎合


『雄英特別中途入学枠…ですか』

 

時は遡り、前日。

セントラル病院の特別個人病室にて、八幡は根津、陽乃の訪問に対応していた。

 

『今回、君のために作られた制度さ』

『マジか。アメリカンすね』

『君は全国的に知られ、その動向が注目されてるからねー。君の受け皿に雄英がなるってわけ』

『…いや、そうなるように仕向けたのって雪ノ下さんですよね』

『あらやだ。人聞きがわるーい』

 

コロコロ笑う陽乃に、げんなりする八幡。

2年前にはよく見られた光景である。

 

『ま…この話を受けるかどうかは君次第だよ。受けなくても良い。その時は要人保護プログラムにかけられるだろうけど』

『…いえ、ありがたく受けますよ』

 

八幡の答えに意外そうな顔をする陽乃。

もっとゴネるか、これ以上の被害拡大を防ぐために隠居します等を言って逃げると思っていたからだ。

正直な話、体育祭がうまく片付いた後の問題は八幡本人の説得とまで思っていた。

根津も一応の意思確認を行う。

 

『…こちらから聞いといてなんだけど、良いのかい?きっと、困難な道だよ。他の雄英生徒と違って、君は既にいくつものしがらみや枷を嵌められている状態だ。将来も、普通のヒーローにはきっとなれない』

『良いですね、普通じゃないってのは。特別、英語で言うとスペシャルですよ』

『本心はどうなの?』

『…面倒なことに、オール・フォー(アレ)・ワンから逃げるわけにはいかないんで』

 

陽乃の問いに、目を見返して言葉を発する八幡。

公安委員会認可による特例のヒーロー免許。

巨悪オール・フォー・ワンに目をつけられ。

ヒーロー特集にあるような悲劇を既に背負い。

現在日本で一番動向を注目されている高校生。

そんな道でも、歩んでいこうと決めた。

 

『…あの体育祭で、まあ…その、ありがたいことに…色々期待されてるってことに気がついちゃったんで。あとはアレです、約束を守るだけです』

『約束?』

『…ふーん』

 

雪乃と結衣との約束。

流石に口にはしないが。

 

(ていうか喋ったら多分一生イジられるこの大魔王に)

 

『ふ〜ん?』

(いやもうこれバレてますね)

『まあいいや。あ、雪乃ちゃんやガハマちゃんにだけじゃなくて私にも借り返してね』

『……ぁぃ』

(やっぱバレてたなんでだよ絶対他2人も喋ってはねえぞちくしょう)

 

どんどん小さくなる八幡。

にこやかに笑う陽乃。

微笑ましいけど素直に笑うと毒かなと止める根津。

 

『じゃ、明日行くからよろしくね』

『明日から?』

『雄英に』

『…すみません、まだ腕ついてないんで』

『もう動くでしょ?助かったよ神経の個性で』

 

診断書でひらひらと扇ぐ陽乃。

何もかも見透かされている。

というか、その上で方針を決めているのだろう。

仕方ない、と諦める八幡。

押してダメなら諦めろ。

 

『でも、生徒たちに拒否られたらどうするんですか。彼らには俺を拒否する権利があると思いますけど』

『まあその可能性はあるよね。半分(ヴィラン)みたいなものだし』

 

根津たちから言いにくいことを自分から言い出す八幡。

陽乃も当たり前のようにその問いに返答する。

 

(話が早くて助かるけど……いや、これが彼の性格かな?)

 

『…僕たちから、事前に君について説明するよ。納得してもらえるように説得もする』

『…いいんですか?そんな無理矢理』

『実際問題、君は公安委員会からの命令で雄英に通う必要はあるのさ。オール・フォー・ワンと対抗できるオールマイトがいる学校なんて、雄英しかないからね』

『まあ…そうでしょうね』

『酷なことを言うようだけど、生徒たちには最悪納得してもらわなくてもいい』

『…だが、生徒の意思はなるべく尊重したいってとこですかね』

『そういうことさ!…これも君を守る為。上手く飲み込んでほしい』

『嫌われるのは日常茶飯事なんで。アンチがいるくらいの方がヒーローは良いでしょう』

『最初からハリネズミになるスタンス!』

『ハリネズミ八幡…』

『ツボが妹と一緒なんだよなあ…』

 

 

──────────────

 

 

さて、受け入れられるかどうか。

根津の目から見ても、陽乃の目から見ても、生徒たちの八幡に対する印象は悪くなかった。

だが、共同生活をするとなると話は変わるかもしれない。

何せ、経歴上は(ヴィラン)として一年以上も活動している少年だ。

世間的にはスパイ行為であったと公表されたが、それを裏付ける証拠はない。

体育祭での英雄的な戦闘行為と、雄英並びにオールマイトの擁護があって両天秤に掛けられているような状態だ。

 

「特別中途入学枠って…マジですか!!?」

「マジなのさ!」

 

切島の問いにおどけて答える根津。

根津の答えに、機械仕掛けのブリキのように首を回して八幡の方を見る生徒たち。

思わず慄く八幡。

 

「マジなのか!!」

「どんなサプライズだこれ!!」

「よろしくなー!!」

「個性をともに研鑽しましょう」

「その両手に花なのどうにかしろぉ!!!」

「それ関係ないわよ峰田ちゃん」

「比企谷氏と呼ばせていただきますぞ!」

「後で話が」

「オオカミの顔より表情豊かだな!負の面に!!」

 

呆気にとられた顔の八幡。

これは珍しい顔を見たと総武生。

どぎまぎする顔や照れるような顔は何度も見たことがあるが、情報量が脳をパンクさせたような思考停止する彼は稀にしか見ない。

あまりにも予想と違ったためだろうか。

 

「えーと…なんだこれ」

「ちょっとお兄ちゃん、何か答えないと!ほら、雪乃さんたちとの関係とか!」

「小町ちゃんお願いこれ以上かき回さないで」

「と、とりあえずみんな落ち着こうか!一度に色々訊かれたら比企谷少年も困るし…」

「オールマイトとの関係は何ですか!?」

「緑谷少年!?」

 

あたふたする八幡、オールマイト。

そんな様子を、物珍しそうに見ながら笑う陽乃。

予想していた展開とは少し違うが、まあ上々の滑り出しかなと微笑む。

 

「笑ってないでフォローください首謀者なんだから…」

「フォローとか世界一似合わない言葉だね。第一首謀者じゃなくて救世主の方が正しくない?」

「メシア、お祈りします…」

「あ、ごめんちょっとキモかったかな」

「キモいとか言われるとストレートに効くのでおやめ下さい…」

 

 

──────────────

 

 

「…お前ら、盛り上がってるとこ悪いが……わかってるのか?そいつが今後同じ教室にいるということを」

 

相澤の言葉にピタリと止まる生徒たち。

 

「相澤先生。それは…」

「雪ノ下、お前はわかってるだろうから良い。曲がりなりにもそいつは元(ヴィラン)だ。もちろん、既に読心や虚偽判定の個性による判別でシロだってことは確定している。それでも、だ」

 

「…あの日の比企谷君を、僕は信じます」

「…緑谷」

 

緑谷が一歩前に出て、八幡の方を見る。

耐え凌ぎ、常に動き続け、勝利をもぎ取ったヒーロー。

 

「あの日の彼のような…あんなヒーローに、僕もなりたい」

「…」

 

ぷい、とそっぽを向く八幡。

笑顔のオールマイトと目が合い、更にまた別の方向を向く。

捻くれ者の照れ屋さんめ、と笑う。

 

「…お前らも、それで良いか」

 

ぐるりと生徒たちを見渡す相澤。

否定の意を示す者は誰もおらず、それぞれの表情で八幡を受け入れることを決めた。

続いて根津を見る相澤。

頷きを返され、八幡を最後に見る。

 

「…ま、そういうわけだ。ようこそ…雄英高校ヒーロー科へ。ここでは様々な受難を我々が全力で与えていく。乗り越えてこい、知ってるだろ?Plus Ultr──(更に向こうへ)でな」

「すみませんあの日のは黒歴史確定なんでほじくり返さないでください」

「か、かっこよかったよ!」

「おお!俺もあんな風に叫びてえ!」

「…入学初日に同級生に殺されそうな俺」

「慣れなさい。間違いなくしばらくはこんな感じよ」

「ヒッキーが褒められてるの見ると、なんかこっちまで嬉しいようなむず痒いような…」

 

顔を抑える八幡を横目に、時計を見る相澤。

授業開始からわずか10分程度。

 

「…さて、これでこの話は終わり。戻るか」

「えええ!?」

「戻るって校舎に!?」

「1時間もらうとか言ってたのに10分じゃないすか!!」

「お前らがもっと揉めると思ってたんだよ。まさかこんなにすんなり話が通るとは思わなかった」

「いやいやいや、もっと聞きたいことはあるんですけど!!」

「そうだ、質問コーナーにしようよ!」

 

芦戸の提案に嫌そうな顔をする八幡。

質問に答えるよりも人前で喋る方が嫌だ、という顔だ。

顔を見合わせる相澤、ブラドキング。

 

「…いいぞ」

「ダメ出しする理由もないしな」

「は?良いんですか」

「授業内容も指導方法も教師の自由。雄英(ここ)は自由な校風が売りだからな」

「校風をきちんと授業に反映させてる学校初めて見たわ…」

 

「じゃ、ヒッキー前出てね」

「…小町ー、助けてくれー」

「お兄ちゃんの勇姿はちゃんと撮っとくからね!」

「おい笑いのネタにする気だろそれ」

「いろは先輩とのチャットはー」

「待って一番ダメなやつ送ったら」

 

 

──────────────

 

 

「ではでは!比企谷八幡へのドキドキ質問!コーナ〜!司会進行はこの愚兄の妹!小町でーす!よろしくお願いしまーす!」

 

「可愛い!!」

「待ってました!」

「歳幾つ!?」

 

「今歳聞いたそこの玉チビお前は小町に近づくな。目がヤバい」

「シスコンか!?」

「シスコンじゃねえ小町が大好きなだけだ」

「まごう事なきシスコンじゃあん…」

 

峰田に小町への接近禁止令を出す八幡。

目が本気と書いてマジと読む。

 

「質問したい人は挙手で!」

 

小町の声とともにぶわっと一斉に手を挙げる生徒たち。

おおお、と小町も八幡も目を見開く。

お兄ちゃんにこんなに注目が集まるなんて、と割と驚いている。

 

「ではでは!そこの〜…金髪メッシュのアホそうな人!」

「アホ!?」

「初対面にも見抜かれてんじゃん上鳴…」

「笑ってんじゃねーぞちくしょう耳郎!!えーと、腕どしたの?」

 

いきなりばっさり皆が聞きたがっていたことを訊ねる上鳴。

ああ、と何でもなさそうに答える八幡。

これならただの事実なので答えられる。

 

「二年前誘拐された時に左腕が切断されて、それがエンデヴァーさんの意向で培養保管されてたからくっつけた。神経系の個性だから割とさっさとくっついた。以上」

「…なんかごめんなさい」

「へ?」

「お兄ちゃん、もっとオブラートに言えないの!?」

「オブラート…。……今回も腕切られたけど腕あったからラッキー?」

「…ダーメだこりゃ」

 

誘拐されただけでも不幸なのに、その時点で腕を切られてたなど目も当てられない。

確かに妹を人質に取られてオールマイト抹殺を命じられた方が気の毒なの間違いないが、比較対象がそもそも重すぎる。

 

「き、気を取り直して次の方〜…。で、ではではそこの半分イケメンさん!」

「…俺か?…エンデヴァーとの関係を教えてくれ」

 

轟が八幡に訊くのは上鳴の質問に対する答えにも出てきたエンデヴァーのことだ。

関係、と聞くとまあ一つしかないなと言葉を選ぶ。

 

「師弟関係。以上」

「いつどこで会ったんだ?」

「…総武中で、中学一年時」

「私が比企谷を一度見てやってほしいと思ってな、エンデヴァーに総武生の個性訓練を頼んだんだ。その時から師弟関係が始まっている」

 

聞かれたことしか答えない八幡に平塚が補足を入れる。

あと、と更に言葉をつづける。

 

「エンデヴァーと比企谷のご両親は雄英の元同級生だ」

「…同級生?」

「…まあ、そうらしいな」

「エンデヴァーさんは、お兄ちゃんが同級生の息子だって知ってたらしいですよ?」

「比企谷のご両親がヒーロー活動をしていた頃はチームアップも何度かしたと聞いている。関係は悪くなかったそうだ」

 

平塚の説明を聞いて、こういうことを喋りなよと八幡を睨む小町。

そんな気を上手く使えてたらぼっちなんてやってなかったよ、と返す八幡。

 

「ではでは次の人!お、川崎さん!」

「小町。さっきも聞いたけど何であんたここにいんの?」

「あ、忘れてましたね。小町うっかり!」

「…可愛い」

「おい」

 

ギロリと峰田を睨む八幡。

元々目つきが悪い為、本腰入れて相手を睨むと流石に目力がある。

 

「これから小町とお兄ちゃんは一緒に住むんですけど、その場所の相談に来ました!」

「相談?」

「暫くは(ヴィラン)連合から匿う為に、プロヒーローと過ごす様に言われたんだよ。んでそれをどのヒーローと過ごすかって話だ」

「いやー、小町としては雪乃さんちに残りたかったんだけどなー。ていうか、雪乃さんもプロヒーローだし小町的にはありというか寧ろ推奨なんだけど!」

 

小町の提案に八幡と雪乃はすぐに三人で暮らす様子が頭に過ぎる。

雪乃が朝ごはんを作り、小町が八幡を叩き起こし、3人でご飯を食べる。

 

「…そ、そうね。それでも良いかもしれないわね」

「ゆきのん!?ズルい!!あたしもその家住みたい!!」

「いやよく考えろ。一応俺も雪ノ下も未成年だぞ。小町と雪ノ下ならまだわかるが、俺と雪ノ下はダメだろ…」

「あら、成人していたら良いのかしら」

「…いや、成人してたらその…もっとダメじゃないのか。ほら、俺が雪ノ下と……なあ?」

「もっとはっきり言いなさい?」

「…とにかく、今の所の候補は平塚先生だな」

「おい待て。雪ノ下がダメでなんで私が良いんだ?」

「いや間違いとか起きそうにないですし」

「衝撃の…」

「こんなことで必殺技出さないでくださいよ!」

「乙女の死活問題だろうが!!」

 

わちゃわちゃする総武組に、これが日常風景なのかとほんわかする生徒たち。

峰田だけ血の涙を流し続けている。

 

「ふーん、そっか。小町となら私の家でも良いかなって思ったけど、ダメだね」

「お前の家は大志がいるだろうが。絶対ダメ」

「私は?」

「…まあ、ダメだな」

「そういや、今度京華と大志に会いに来てやってくれよ。2人ともあんたが帰ってきたって知って会いたがってる」

「了解。けーちゃんでかくなったろうな」

「…そういや、あんたも背が伸びたね」

「あ、それ思った。今ヒッキー身長いくつ?」

 

中学2年時から高校1年までの二年間で、ほとんどの人間は身長が伸びる。

だが、八幡はその中でもよく成長していた。

 

「病院で受けた健康診断では173cmだったな」

「…背が曲がってるからあまりそんなに高く見えねーな!」

「隼人いくつだっけ?」

「176cmだね」

「ぐふ、良い身長差…」

「うわあ久々だこの感覚…」

 

八幡が海老名と葉山から距離を取る。

その反応にもっと鼻血を出す海老名。

引かれたら興奮するってもう別次元すぎてわからん、と八幡。

 

「ではでは次の方〜…そこのナイスバディなスタイルのお姉様!」

「では私から。中途入学されるそうですが、私たちが今まで受けてきた授業内容はどうされますの?」

 

座学1位の八百万らしい質問だった。

学校に関する真面目な質問がようやく来た、と思うがこれは自分よりも教師に投げた方が良いだろうと平塚、相澤を見る。

 

「暫くは放課後に補習だな。かなりキツいがまあ頑張れ」

「個性把握テストはこの後受けてもらう予定だ」

「ええ、それ見たい!」

「僕も見たいです!」

「ん?じゃあ今からやるか!」

「は?」

 

芦戸と緑谷の声に、平塚がさらりと予定変更する。

良いのかよ、と唖然とする八幡にボールが手渡された。

 

「なんだこれ…」

「体力テストは中学でもやったろう?だが、今度のは個性を使って良い」

「…へえ。そりゃ中々…平均値荒れそうですね」

「平均なんて気にする必要はない。お前の思うがまま思いっきりやれ」

「…了解」

 

 

──────────────

 

 

 

ボール投げ。

半径1mの円の位置からボールを投げて、その飛距離が記録される。

参考値として、爆豪、緑谷共に700mを超えた記録を出している。

 

「…ヒッキー。それなに?」

「あ?円から出なければ何しても良いんだろ?」

「…まあ、うん」

「なら…まあ打ち出すよな」

 

バッターの如く。

八幡の真横には全長7mほどの土の巨人が出来ていた。

しかもご丁寧に圧縮硬化して作製した土バットまで持っている。

 

「俺は円から出てないし問題ないだろ」

「良いんすか!?」

「あり」

「良いのかよ!!」

「そいじゃまあ…ほーい」

 

ボールを巨人の手元に向かって投げ、巨人はそれをフルスイングで打った。

瞬く間に見えなくなるボール。

相澤が手元の飛距離計測器の数値を示す。

 

「908.1m」

「すげえええ!!」

「ていうかこんなモンスターみたいなのも作って動かせるのか!!」

「脳無相手には意味なかったから作らなかったけどな。基本こういうの動きが遅いし」

「汎用性の塊!」

 

次々と個性を駆使してテストを進める八幡。

 

50m走。

足元の大地ごと動かし、50mを滑走。

記録2秒23。

 

「に、二秒?」

「時速換算すると時速80km以上ですわよ…」

「でも、ゆきのんを助けた時の方が速くなかった?」

「あんなスピードで50mも走れんしもう一度出せる気がしない」

「…そう」

「ゆきのちゃーん、顔が赤いよ?」

 

 

握力測定。

これまた大地を動かし、測定器を大地で挟み込んで測定。

記録10.2t。

 

「…圧倒的1位だな」

「ヤオモモが1.2tだったのに…」

「B組は拳藤の440k──が1位だった」

「そもそも操ってる質量が大きいもの。当然の帰結ね」

 

 

立ち幅跳び。

空気と接続し、浮かぶ。

そのまま100m程度空中を浮かんで進み、着地。

 

「…アレやろうと思えばいくらでもいけるの?」

「空中浮遊は疲れるんだよ…。…まあ多分数kmは行けるけど」

「汎用性の塊ぃ…」

 

 

反復横跳び。

これだけはズルが出来ないな、と身体強化。

普通に競技をこなして152回。

 

「いや身体強化使ってるからズルだろ!!」

「真っ当に受けたでしょ…」

「確かに今までのと比べたらな!?」

「今までのがおかしすぎて感覚が狂うよ…」

 

 

持久走。

50m走と同じやり方で挑戦。

10kmをわずか6分強で走り切る(走ってない)。

記録6分14秒。

 

「いや走ってないし!!」

「ツッコミが追いつかん…」

「無敵が過ぎる…」

「これとんでもないライバル出現じゃないのか…」

「散々な言われようね」

「…悪い気はしないな」

「顔、気持ち悪いわよ」

「言葉の刃が突き刺さるからやめてね。特にお前のは効く」

 

 

上体起こし。

これも特にズルはできないと身体強化の上あくせくと身体を前後させる。

記録181回。

 

「そういえば身体強化はどの個性を使ってるの?」

「…一応固体操作だ。個性による神経を使って自分の身体能力の限界まで引き出してる」

「神経を使う?」

「自分の神経を物体に接続してその物体を俺の身体の一部にするっていうか……。…それ、何書いてるんだ?」

「え?こ、これは趣味で……皆の個性をノートにまとめてるんだ!」

「…ね、熱心ですね」

「…引かれてる?ぼく」

「ていうか記録についてはもうコメントなしか…」

 

 

長座体前屈。

記録57.2cm。

 

「普通だ!」

「これが普通ってことなんだね!感動する!」

「…いやだってこれ逆に工夫のしようがないだろ、身体が伸びない限り」

「梅雨ちゃんは19m越えだよ!ベロが伸びるからね!」

「梅雨ちゃんと呼んでちょうだい、蛙の個性よ」

「…蛙吹、さん」

「梅雨ちゃんね」

 

記録のトータル点数を数える雪乃。

改めて並べるととんでもない記録が目立つが、基本的に大地を操作すれば何でもできるというだけだ。

何でも作って対応できた八百万がA組1位をとったが、その八百万と比べても確か点数は遜色ないくらいだ。

両名とも反復横跳び、上体起こし、長座体前屈はそこまで大記録を残していない。

 

(A組では恐らく1位か2位ね。…B組では…)

 

そこまで考えて、はたと気がつく雪乃。

 

「比企谷くん、貴方……どちらの組に入るの?」

「組?」

「ヒーロー科はA組とB組があるのよ。そのどちらに入るかと聞いているの」

 

 

──────────────

 

 

その雪乃の質問が響き渡った瞬間、場の空気が今日一番に張り詰められる。

八幡も空気の変化には気がつくが、何が起きているのかまではわかっていない。

人の機微には過敏だが、その原因を察するところがとても鈍い。

 

「…?」

「比企谷」

「…葉山」

「Bだよな?」

「え?」

 

ポン、と葉山の手が置かれた肩。

心なしか置かれたどころか掴まれているような気がする。

2年ぶりの会話がクラス分けかよ、と思うがそんなことより葉山の様子が変だ。

 

「いやいやいや、隼人くん」

「結衣」

「由比ヶ浜…」

「Aだよね?ヒッキー」

 

左手の袖を結衣に掴まれる八幡。

 

「え?なにこれ」

「留学生としてはA組に参加してたんだし、Aだよねヒッキー?」

「それは留学生として、だろう?比企谷八幡としてじゃない。そう考えたらB組に来るのは自然じゃないか?A組は26人いたんだし仮にも」

「ああ、人数的にはちょうど良いっしょ!」

 

戸部がピンと指を立てるが、結衣にギロリと睨まれてそそくさと引いていく。

そんな戸部と入れ替わりに、拳藤と骨抜が八幡の方に歩み寄った。

 

「比企谷」

「…拳藤?と…骨抜」

「Bだよな?」

「…お前らもかい」

「なあ骨抜。Bの方が比企谷似合うよな?」

「Aって感じはないな。2番手って感じする」

「まあ影役って言われたら影役だけどお前らはそれで良いのか」

「体育祭は完全にA組に食われたしねー」

 

拳藤と骨抜に囲まれた八幡をぐいっと左手から引っ張る結衣。

雪乃は八幡の前へと出て、いつの間にか轟も八幡の隣にいた。

 

「これは私と由比ヶ浜さんの備品よ。よってA組のものね」

「俺もこいつはAのほうが都合がいい」

「…轟」

「聞きたいことがあるんだ、比企谷」

「エンデヴァーのことならお前のほうが詳しいだろ」

「それでも、お前の主観で話が聞きたい」

「…」

 

雪乃にはノータッチの八幡。

雪乃に抵抗したところで無駄とわかっているからだ。

 

「これは…やはり白黒決める必要がありそうだね」

 

顔に手を当ててしたり顔で笑う物間が相澤たちの前に出た。

確か騎馬戦で爆豪に負けたチームのB組の生徒だったと八幡。

まさか。

 

「比企谷八幡がB組に相応しいのか、それともA組にお似合いなのか!?勝負で決めるべきですよねえ!?」

「えー…」

「なぜ君が嫌そうな顔をする!?」

「いや、そんなお姫様になりたくないんだけど」

「僕的には君にはB組に来てほしいからねえ!A組打倒の貴重な戦力として」

「倒しちゃうのかよ同級生」

 

物間の言葉に、ニヤリと笑う切島、それから爆豪。

A組でも好戦的な生徒が前に出る。

 

「てめーは一度俺に負けてんだ…どいてろ端役が」

「あの時は騎馬戦での乱戦だっただけだよ?君が後ろから奇襲をかけるような狡い真似をしてくる輩だと判れば次はない!」

「誰が狡いんだてめーのやり方のが狡いわ!!」

「勝負なら負けないぜ!な、爆豪!!」

「どうやら思い知らせてあげる必要がありそうね」

「喧嘩じゃオラァァぁぁ!!」

「ヒッキーはAの方がいいよね!?」

「ともに研鑽を…」

 

「比企谷くん、止めないと!」

「あの中に入っていきたくないんだが」

「そこを何とか!!」

「…イレイザーヘッド、お願いします」

「この時間は特に課題もないし好きにしたら良いんじゃないか」

「何寝袋に入って我関せずの姿勢してるんですか。担任でしょうがあんた。…平塚先生」

「いいぞいいぞ、私好みの展開になってきた!」

「は役に立たなかったな忘れてた。雪ノ下さんお願いします」

「私ただのOGだからね!」

「あんた楽しんでるだけでしょ」

 

 

──────────────

 

 

「というか、比企谷少年が入るクラスって決まってなかったっけ?」

「「「へ?」」」

 

今にも戦闘を始めようとしていた生徒たちとそれを止めようとしていた生徒たちがそれぞれオールマイトの言葉で停止する。

 

「…もしかして私、まずいこと言ったかな?」

「まあ生徒の自主性は消えましたね!」

「余計なこと言わないでください雪ノ下さん」

「くうっ」

 

「ど、どっちのクラスなんですか!?」

「普通に考えろ、普通に」

 

鬼気迫る表情でオールマイトに訊ねる結衣だが、八幡と雪乃は落ち着いた様子で結衣を宥める。

そんな2人の様子に首を傾げる切島。

 

「2人はわかるのか?」

「Aだろ」

「そうね」

「え!?」

 

何の相談もなしに意見が一致している2人に、首を傾げる結衣、切島。

爆豪は2人の教師を見遣る。

 

「…イレイザーヘッドか」

「そういうことだな」

「どゆこと??」

「説明くれ説明!」

「もしまたこの操作野郎が裏切った時、こいつを止められるのがイレイザーヘッドしかいねえってことだろ」

 

爆豪の言葉に、まさかと耳を疑う結衣。

その理論でいくと、雄英は八幡が(ヴィラン)連合に与して裏切るのではないかと疑っているということになるからだ。

 

「あ、相澤先生!?」

「本当だ」

「何でですか!?ヒッキーは疑いがないってさっき!」

「もちろん調べられる方法では調べ尽くした。だが、まだ万が一の可能性が残ってる」

「そんなのあり得るわけないですよ!ヒッキーにそんな度胸ありません!」

「おい」

「あり得ないと捨て去るほどお前らの安全は安くない」

 

結衣の言葉に思わずツッコミを入れる八幡だが、相澤の言葉には反応しない。

間違っていると思ってないからである。

 

「もし万が一比企谷と戦う羽目になった場合、とりあえず五分の状況に持ち込めるのは俺だけだ。だから俺が比企谷の面倒を見ることになった」

「あとは私だね!」

「オールマイトと相澤先生の2人がかりで来られたら誰でも抑えられますよ…」

「でも…そのくらいしないと比企谷君を抑えられないって考えてるってことですか?」

 

緑谷の発言は的を得ていた。

そこら中にあるほぼ全ての物を武器にしてしまう八幡の前では、圧倒的なパワーを持つ近距離タイプか個性そのものを封じる個性が必要になる。

その両方が揃っている為問題はないが、オールマイトら以外のヒーローだと確実性に欠けるという判断が根津から下されたのだ。

 

「心配要らねーよ、由比ヶ浜の言うとおりそんな度胸ないし必要もない」

「そ、そうだよね!」

「おい」

「ん?」

「質問だ」

 

爆豪が八幡に話しかける。

質問、と言われて首を捻るが、さっきの小町の質問コーナーのことだと思い出す。

 

「…律儀だな」

「ではではそこの爆発頭さん!」

「ば!?」

「爆発太郎さん!!」

「てめえクソ髪!!……お前と俺、どっちがつええ?」

 

切島の頭をがしりと掴みながら、八幡を睨みつける爆豪。

爆轟の真意はわかる。

けれど、言葉を間違えたわねと雪乃。

 

「お前」

「…あ?」

「後何分だ?授業」

「え?20分くらいかな」

「待てや操作野郎!!てめーはそれで良いのか!!?」

「どっちが強いとか必要か?」

「ったりめえだ!!俺が目指すのはNo.1を超えるヒーロー!まずは雄英(ここ)で一番にならねえと話になんねえだろうが!!」

「体育祭で優勝してただろう」

「てめえは明らかに手を抜いてた!あの半分野郎もだ!!んな舐めプされて取った一番なんざ要らねえんだよ!俺と戦え操作野郎が!!」

 

No.1への激情。

燃えるような闘志。

一切妥協のない姿勢。

どこかの誰かさんに似てるな、と燃え盛るNo.2を思い返す。

 

「…わかった。相手をしてやる」

「えええ!?」

「どういう心境の変化かしら?」

「ああいう手合いは真剣に戦わないと納得してくれないんだよ。エンデヴァーによく似てる」

 

ふらりと誰もいない広場の方へ歩いて行く八幡。

八幡を追いかけて行く爆豪の口元は笑っていた。

それでこそ超えるべき壁。

 

「ていうか、良いんですか!?」

「まあ良いんじゃないか。爆豪は戦闘訓練でやり過ぎることの愚は学んでるし、比企谷もそもそも怪我が完治していないはずだ。激しい戦闘にはならんだろう」

「…うちも、行こっかな」

「へ?さがみん!?」

 

今まで沈黙を保っていた相模が広場の方へ歩いて行く。

相模まで八幡と戦う気のようだ。

それなら、と雪乃や葉山までやる気を示している。

 

「ちょちょちょ!ゆきのんはだめでしょ!?2人が戦うと訓練じゃなくなっちゃうよ!」

「…」

「雪乃ちゃん。比企谷君に甘えたいのはわかるけど、時間ないしまた今度にした方がいいんじゃない?」

「…甘えてなんていないわよ。ただ彼がこの二年でなまってないか腕を見るだけよ」

「十分見たと思うけどなあ…」

 

広場で対峙する爆豪、八幡。

爆豪の後方では相模が順番待ちしている。

何で相模まで、と思うがとりあえずは爆豪の相手だ。

 

「言っとくけど、軽くだからな」

「死なねえ程度にしてやる」

「それは大前提だよどういう倫理観してんだよ」

「行くぞ操作野郎!!全力で来ねえと殺す!!」

「結局殺すんかい」

 

飛び出した爆豪、迎え撃つ八幡。

いきなり空中へ飛び出した爆豪の初動は正解だといえる。

八幡のことを知っている相手は、ほとんどが宙へ跳ぶ。

地に立っていたら固体操作で地面と靴を操られ、あっという間に大地に絡めとられる。

だが、それは2年前の八幡を相手取る場合。

 

「さて」

 

ぶらりと下げられた両手から、空気砲が宙へ跳んだ爆豪へ向かって行く。

見えない空気砲を掌の向きと空気の動きだけでそれらを読む爆豪。

そのまま全て躱していく。

 

「全部躱したのか!?」

「見えねえからわかんねえ!」

 

「しかし、あの爆豪くんだっけ?よく今の比企谷君に挑むよねー」

「…どういう意味、ですか?」

 

陽乃が笑いながら2人の戦いを眺める。

そんな陽乃の言葉の意味がわからず、聞き返す緑谷。

 

「あ、自損覚悟のヤバい子だ」

「え!?あ、ハイ!?」

「んふふー、そうだね。君は、オールマイトに戦いを挑もうと思うかな?」

「え!?無理です!!」

 

爆速ターボで八幡の元へ一直線に飛ぶ爆豪。

だが、爆豪の足元から土の円柱が飛び出す。

飛び出す円柱を水平方向に爆破して、更に躱す。

上空へ伸び続ける土の円柱の先端が、爆豪の上空で破裂する。

全方位へとカーテンのように広がる大地の幕が、瞬く間に大地のドームを作る。

 

「んだこりゃ…!」

 

「そう、誰もオールマイトには挑もうとしない。何故か?簡単だよね、敵うわけがないと思ってるから」

「は、はい」

「じゃあ簡単だよ。よく比企谷君に挑もうと思うね?」

「え…」

 

大地のドームに囲まれた爆豪。

だが、八幡も同ドーム内にいた。

逃げ場を無くしたつもりか、と好戦的な爆豪は読む。

 

「これで上下左右前後どこからでも大地が操作し放題。手加減はしねえよ。なるんだろう、No.1ヒーロー」

「なるんじゃねえよ!!超えるんだよ!!」

「そうか、超えてみろ。超えてみせてくれ爆豪。俺もそれを見たい」

「ああ!?」

 

「比企谷君はね、私の見立てだと同世代では誰も勝ち目がないね」

「誰もって…高一でってことですか!?」

「同世代って言ったでしょ?全国のヒーロー高校を雪ノ下の名代として見て回ったけど……今の高校生では、誰も勝ち目がないね。雄英の3年に1人、個生の相性差で何とかなりそうなのがいるくらいかな」

「そ、そんなレベル!?」

 

左右前後から伸びる土柱、それを再度躱す爆豪。

間髪入れずに、両手をドームの方へ向け、そのまま大爆破を起こしてドームの一部を破る。

 

「判断が早いな。土柱を迎撃せずに躱したのは早々に脱出する為か」

(ブチのめしてえのは山々だが…この状況でやり合えば野郎の思う壺!!抜け出して外から榴弾砲(ハウザー)着弾(インパクト)で吹き飛ばす!!)

 

「アレはね…将来、トップヒーローになると見込まれた子なの。トップヒーローって言うけど、厳密には違うんだよ」

「…?」

「“トップ”になると見込まれてたんだよ」

「トップ…って…そんな…!?」

 

空中の爆豪に目掛けて突如嵐が吹き荒れる。

崩された態勢を立て直そうとした爆豪だったが、その一瞬で大地のドームは塞がれてしまう。

それと同時に嵐が止む。

これでは脱出のしようがない。

 

「大気と大海と大地、普遍にあるものを操る個性。地球に居る限り、逃れられない武器を持つ。彼はね、オールマイトの次に育てられるべきとヒーロー公安委員会に見込まれてたの。No.1ヒーローとしてね…」

「ヒーロー公安委員会が、未成年の一個人に…!?」

「…初耳だわ。姉さん、それはいつ?」

「2歳の頃からね。彼が個性事故を起こしたあの時から」

「そう。ヒーロー公安委員会…話には聞いていたけど、やはり個性とその使い方しか見れていないのね」

 

あの個性事故から、八幡のヒーローとしての価値を見出すのは視点がおかしいのだ。

その個性事故は、八幡にとってもトラウマとなった事故だった。

それを解決できたのはエンデヴァーや雪乃、結衣のおかげだったが、解決までは一切個性を使おうともしなかったのだ。

比企谷君の心に負ってしまった傷は大きかったでしょうね、と雪乃。

 

 

──────────────

 

 

ドーム外の相模は、地面の変化に気づいた。

目の前の地面が膨れて穴が空き、中から八幡が這い出てきたのだ。

眉を顰める相模。

 

「…次はお前か?」

「…あの爆豪って人は?」

「そのうち出てくるだろ」

 

ドームには次々と土が覆い被さり、その厚みを増していた。

中からは爆破音が響いている。

何ともないように動いている八幡だが、地面と接続して土を動かし続けているのだ。

 

「あんた今体重いくつ?」

「…今操ってる土の総量は多分30tくらいだろ。土は密度小さいからな。360kgとかそんなもんだな」

「ハッ…見た目細いクセして」

「しゃあねえだろそういう個性なんだから。…んで、お前やんの?」

「やるに決まってんでしょ、手加減なんてしないでよ比企谷」

「…随分変わったな…相模」

「ハア!!?あんたが私の何知ってんのよこのストーカー!!」

「おいコラ飛躍しすぎだろ。勝手に人を犯罪者に仕立て上げるな一応ヒーローなんだから」

 

「あ、もうさがみんと戦おうとしてる…」

「え!?爆豪はどした!?」

「比企谷だけドームの外に出たのか」

「まだ爆豪はドームの中にいるな。随分暴れてる」

 

障子が複製腕を耳に変化させ、大地のドーム内部の様子を探る。

その過程で、ドームの下にモグラが作ったような地下通路があることを察知する障子。

 

「…成程、土を操作すれば人1人分だけ通れるような通路も作れるわけか」

「マジで何でもありじゃん…」

「色々出来そうな個性だね…」

「正面戦闘にこだわるような性格でもないから、抜け道を作るような戦い方をさせれば天下一だったね中学の頃も」

「個性の性能が良いことも相まって、大地を軽々掘削するようなパワーがないと追い詰めることもできないわね」

 

爆豪の爆破も強力な個性だが、先程のような大爆破を起こす回数には限度がある。

それ故に、オールマイトのようなシンプルのパワー持ち相手が八幡は苦手だ。

そして、相模はオールマイトのような強化系。

 

(だからめんどいんだよなあ…)

「…何よ、その目。どうせめんどい女だとか思ってるんでしょ」

「…いや、そこまでは思ってないぞ」

「多少は思ってるってことじゃないの。デリカシーないわよあんた相変わらず」

「お前もねえだろそんなもん」

「…その顔に引っ掻き傷入れてやる」

 

何やら言い合っている2人を遠目で見て、首を傾げるB組一同。

 

「相模ってあんな性格だっけ?」

「もっと大人しい感じだったと思うけど」

「体育祭でベスト8入った割には、全然自信なさげで…もっとヒーローっぽく自己主張すれば良いノコ。なんであんなに、ってずっと思ってたノコ」

 

B組の様子に、中学の頃の相模とは全然違うと逆に首を捻る結衣。

 

「個性っぽく猫を被ってたってことでしょ」

「お、サキサキ冴えてる〜」

「サキサキ言うな」

「…でも、中学の頃のように他者を蔑むような姿勢が鳴りを潜めたのは良いことだと思うけれど」

「じゃあなんでヒッキーにはあんな感じなの?」

「それこそ中学の文化祭と体育祭のせいでしょうね。終始彼に良いように上手を取られていたもの」

「…うーん、それだけなのかな」

 

結衣は、相模の様子の変化が気になっていた。

雄英高校に入学してから、相模と話す機会は数回だがあった。

だが、その時も結衣や雪乃に対しても大人しくなっていた。

相模と葉山が話すところも見たことがあったが、中学の頃とは雲泥の差だ。

他の誰に対しても大人しく、自らを主張せず一歩下がっていた。

 

(…でも、ヒッキーにはだけは…素を見せてる?いや、気を遣ってないのかな?)

 

「お前も軽めにしろよ」

「は?真剣にやるに決まってるでしょ。あんたもそうしろ」

「…」

「その顔イライラするから辞めて。もっと間抜けな顔しててよ。あ、元からだっけ?」

「…なんだ。大人しくなったって思ったけど全然そんなことねえな」

「…っ!」

「顔赤いぞ」

「死ねボケ!!」

「ストレートにひどくね?」

「猫度20%!!」

 

相模の頭から赤い猫耳が生え、人の耳が退化していく。

人の背丈ほどの猫の尾がジャージのズボンからはみ出、目が猫のように金色に、そして縦に長くのびていく。

猫人間となった相模が靴と靴下を脱いで四足の構えをとる。

 

「…ガチ対策してくるじゃねえか」

「……比企谷」

「?」

「……う」

 

言い淀む相模。

四足の姿勢で俯いているので、表情がまるで見えなくなっている。

何かの作戦かと勘繰る八幡。

 

「…うちを…見なさいよ!!」

 

次の瞬間、その場から消える相模。

スピードに徹した相模の動きは速い。

レシプロバーストを使った飯田並みの速度を出す相模に、目を追いつかせようと宙へ飛ぶ八幡。

 

「見えねえじゃねえか」

「見えないなんてことはないでしょあんたは!?」

「まあそうだけどよ」

 

疾風のように相模が疾走する中、巨大な嵐を巻き起こす八幡。

だが、その影響をものともせず疾走する相模。

相模は個性を発生させると、筋肉が増えて体重も増える。

とはいえ、普通の人間は立っていられないような強風を起こしたつもりだった八幡は、その頑強さに驚く。

 

「本当に変わったな。良く鍛えてる」

「見透かしたような発言をすんなぁ!!あんたのそういうところがムカつくんだよ!!」

 

空中の八幡に飛びかかる相模。

だが、相模の軌道上から浮かび上がることで逸れて躱し、そのまま空気砲で追撃する。

 

「ぐっ」

 

「まあそうなるよねー。比企谷君に挑むならまず対空手段持ってないと話にならないよ。それをどうするか考えがあるって思ってたけど」

「…今の相模さんは、そう考えなしに動くような人間ではないわ」

「あのハリボテみたいだった委員長ちゃんがねえ…」

 

陽乃の発言に思わず眉を顰める拳藤。

サンアイズの性格はよく知らなかったが、クラスメイトを馬鹿にされるような発言には賛成しかねる。

だが、どうやら元々知り合いらしいねと拳藤。

 

(…相模の様子が豹変したのも、比企谷の前だから?)

 

「そんな豆鉄砲効かないしバカ!!」

「いや効いても困るというか…これ訓練だろ」

「うっさい!絶対に引き摺り下ろしてやる!!」

 

地面に着地し、手足に力を込める相模。

バネのような脚力が相模の身体を上空へと押し出し、八幡へとまた向かっていく。

またそれか、とふわりと動いて躱す八幡。

八幡の横を通り過ぎようとしたその時、相模が雄英ジャージを脱いでいることに気がついた。

 

「げ」

「捕まえたわよ!!」

 

ジャージの片袖を掴んだまま、ジャージを八幡へと被せるように飛ぶ相模。

ジャージが八幡に触れた瞬間、ジャージに引っ張られる形で八幡が引き寄せられる。

 

「え!?」

「な、何であんな軽いジャージで空中の比企谷が動いてんだ!?」

「…比企谷くんの個性のデメリットを突いてきたわね」

「デメリット?」

「ヒッキーは、個性を発動してモノを操る時は体重が変化しちゃうんだよ」

「彼より重い物体と接続したら体重は重くなるわ。けど、軽い物体と接続したら体重は逆に軽くなる。どうやら気体操作でも同じデメリットがあるようね」

「あの引き寄せられ方だとジャージなんかよりもよほど軽いみたいだね。比企谷君を浮かせてる空気の総質量なんて多分1k──程度しかないはず。それを読み切ったってわけだ。…やるねえ、ちょっと見直したよ」

 

けど、それなら話は早いはずだよね。

陽乃が溢した言葉に反応するかのように、気体操作を解除して体重を元に戻す八幡。

八幡に元の質量が戻った為、ジャージから離れて急激に落下していく。

そして、再び気体操作をして落下を停止させる。

 

だが、その隙を相模は見逃さなかった。

一足先に着地していた相模が再び大砲のように八幡へ向い、拳を握る。

浮かび上がるまでには届く、と確信した相模。

しかも狙いは八幡の背後から、猫のようなしなやかさで無駄もない。

音無き奇襲は、八幡の背後から迫り──宙でバク転されて打ち出された八幡の蹴りが、相模の拳とぶつかった。

 

「え」

 

読まれていた。

身体強化をしたお陰で体重が元に戻っている八幡の蹴りは、相模の拳を弾いて余りある強さだった。

ここまで接近して逃げられるわけにはいかない、とそのまま乱打戦に持ち込もうとする相模。

だが、遅れて出た二本目の蹴りが相模の拳を振り上げた方の脇に差し込まれる。

そのまま身体を足で抑え込まれ、横転させられる相模。

 

「あっ!」

 

地面にもつれながら転がる2人。

咄嗟に相模が差し込まれた八幡の左脚を掴んだおかげで2人とも上手く着地できなかったのだ。

 

「痛っつ……やっぱり近距離タイプは苦手……!?」

 

地面と接続して次に備えようとした八幡だったが、相模の綺麗な顔が目の前にあることに気がついて血の気が引く。

絶対に罵倒されると思いながら顔を引こうとするが、相模が八幡の後頭部を掴んでいた。

 

「ちょ…え?なに!?」

「……」

「…あの、相模さん?離して欲しいんですけど」

「…ねえ」

「は、はい?」

「うち…どうだった?」

「…今の、か?」

「言わなくてもわかるでしょ」

「そりゃ…軽くなってることを見抜いてジャージ使えてたしな。悪くはない…と思うぞ」

「何それ。上から目線むかつく」

 

一応褒めたのにどう答えりゃ正解なんだよ、とげんなりする八幡。

だが、相模は更に他方の手をするりと伸ばし、今度は八幡の腰に手を持ってくる。

何考えてるんだこいつ、と思うが無理に抵抗すると後が怖い。

相模は目を瞑ったまま、安心するかのように息をついていた。

そんな相模の吐息がかかってくすぐったいのと恥ずかしいのとで、更に訳が分からなくなる。

 

「…マジでなんだ」

「…ねえ」

「お、おう」

「これからは、うちのことをちゃんと見なさいよ」

「は?」

「見てよ」

「…具体的に、何を…?」

「デリカシーないわね、死ね」

「突然の罵倒の方がむしろ安心するわ…」

「ドMじゃん」

 

戦闘が終わったと見て、生徒たちがバタバタと走り込んでくるのが見えた相模。

途端に八幡の頭と腰から手を離し、両手で八幡を転がして上からどかす。

無抵抗でなすがままの八幡。

 

「なんなんだマジで…」

「返事は?」

「…まあ、よく分からんけど…見ておくわ」

「…ふん」

 

澄まし顔で歩いていく相模。

地べたに座ってそれを見送る八幡。

何とも奇妙な関係が、また戻ってきた。

それを想って歪な笑みを浮かべる相模。

 

(…ああ、久しぶりの充足感)

 

二年前まで自分より下だと思っていた奴が、本当は凄まじい個性とヒーロー向きの思想の持ち主だった。

そんな奴が消えて、心に空いた大きな穴。

それを埋めるかのように、何故かがむしゃらにヒーローになるための努力を始め、遂に雄英高校に入った相模。

 

(だから、うちがヒーローになるのはあんたのせい。…なんて、言えたら話が早いのに)

 

「…責任取りなさいよ、って言えたら…どんなに楽か」

 

今はまだ、この距離で。

あの男の視界の隅に在るだけで良い。

今はただ、彼が戻ってきたことを一応喜んでやろう。

そうほくそ笑みつつ、歩いていく相模の歩調は軽やかだった。

 

 

──────────────

 

 

「…よく分からん奴」

「何をデレデレしているのかしら。気持ち悪いわよ」

「してねーよ。この顔を見てそう見えるかお前」

「気持ち悪いじゃない」

「…そうか。デフォルトがダメなのか…」

 

雪乃の自然な罵倒とそれを自然に受け止めている八幡とを見て、ドン引きする生徒たち。

結衣も別に不思議はなさそうにそれを受け入れている。

それどころか相模との距離の近さにご立腹である。

 

「これがこの人たちの普通なのね…」

「上鳴、アンタも比企谷を見習いなよ。アホなのは事実だし」

「比企谷、もっとプライド持とうぜ!?」

「ぼっちのプライドならあるぞ」

「何それ!?どんなのだよ逆に知りたいわ!」

「まず施しを受けない」

「いきなり分からん!!」

 

一方、大地のドームから自力で抜け出した爆豪が、八幡を睨んでいた。

八幡が相模と戦い始めた時点で固体操作は解除されていたのだ。

固体操作でほぼ完封されたと思い知ったが、それでも負けたとは思わないし、思いたくもない。

次は必ず勝って決着をつける、とより睨みつける。

 

「お前ら、そろそろ時間だ」

「相澤先生」

「比企谷。これからの話をさせてもらおう。…お前に職場体験の指名が来てる」

「は?」

 

職場体験?指名?と首を傾げる八幡。

それを補足する緑谷。

 

「職場体験はね、ヒーロー事務所に一週間体験入所させてもらうんだよ、サイドキックとしてね!」

「ああ、中学のと同じやつか」

「え、やったことあるの!?」

「総武は雄英を習って一足先にやってるからねー、中二の夏ん時に!」

「希望者だけやったんだよ。確か、比企谷はミルコのところへ行ったんだっけ?」

 

葉山の言葉に、頷く八幡。

普段はエンデヴァーによく面倒を見てもらっていたので、職場体験ではそれ以外のヒーローに頼みたいと考えた当時の八幡。

後は知り合いのヒーローだとオールマイトとミルコしかいなかったのだ。

そうなると消去法でミルコしかおらず、ミルコは八幡の申し出を何と快諾した。

 

「あたしは行かなかったなー」

「私はギャングオルカのところへ行ったわね」

「んで…指名とは?まさかヒーロー側が生徒を指名したんですか?」

「そういうことだ。お前には…6件来てるな指名が」

「あれ?少ないッスね」

 

切島が常闇を見ながら呟く。

同じベスト4の常闇は300件以上指名が来ていたのに、八幡はたったの6件なのが不思議だったのだ。

それを平塚が解説する。

 

「比企谷の場合、生徒の癖に無駄に強いのと、やはり仮とはいえ(ヴィラン)に与していたのが指名を敬遠されたんだろう。もし比企谷が暴れたら、抑えられるほどの強者でなければ受け入れなどそもそもできんからな」

「無駄って…」

「ということは、それでも指名をくれたのは…」

「超がつくほどの武闘派しかいないんだよ」

 

渡された名簿を見て、げんなりする八幡。

それを覗き見た雪乃も顔を顰める。

 

「…エンデヴァー、ベストジーニスト、ミルコ、クラスト、サンアイズ…って姉さん…」

「いやあ、あーんなに強いサイドキック欲しいなあ〜」

「わざとらしいわ、不愉快よ」

 

挙げられた名前は確かに武闘派しかいない。

武闘派というか、トップヒーローしかいないのだ。

八幡を抑えることが可能で、尚且つ八幡に対して何かしらを提示したいと考えているヒーローがそれだけしかいないのだ。

 

「あと1人は誰なの?ゆきのん」

「…ウォッシュね」

「マジ?俺あの人好きなんだよな」

 

ウォッシュ好き、という八幡の発言に信じられないようなモノを見る目で八幡を見る雪乃たち。

確かに子供にはえげつない人気を誇るウォッシュだが、まさかこの捻くれ者が好きだと言うとは思わなかった。

 

「…どうやら(ヴィラン)連合に頭まで弄られたようね」

「いや、あのウォッシャ!って喋ってクリーンバブル出してるだけでめちゃくちゃ金もらえてるの見ると俺もああなりたいな、と」

「貴方のその腐った目では泣かれるわよ、子供に」

「…いやほら、けーちゃんには泣かれてないし」

「そこで京華の名前を出すな。京華はあんたの目が腐ってるのにウケてるだけだから」

「マジかよ魔性の女になりそうだなけーちゃん」

 

京華に戦慄している八幡。

バカを見る目で八幡を見る沙希。

 

「…なんか、総じて思うけど…比企谷君って意外とユーモラスだね」

「だべ?ヒキタニ君、めっちゃ良いやつだから仲良くしてやって欲しいわー」

「おい、親友キャラ感出すな戸部。仲良くないぞ別に」

「酷くねヒキタニ君!あ、じゃあ隼人くんならどう?」

「戸部、仲良くしような」

「…おい、どういう意味だ比企谷」

「おいおい、わからないのか葉山?名前を正確に呼べるくらいにはマシになったかと思えば、随分と察しが悪くなったな?それが一番の取り柄なのに」

 

八幡と葉山の間に見えない壁があるかのように睨み合う2人。

だが、とりあえず2人とも笑っているのでまあ仲はやっぱり良いのかな、と思う緑谷。

 

「あ、改めてよろしくね比企谷くん!僕は緑谷出久!」

「…ああ、うん」

 

緑谷の友好的な態度が眩しくて目を閉じる八幡。

握手を求められ、一応返しておこうと右手を差し出す。

緑谷と握手した瞬間、ばちりと脳裏にオール・フォー・ワンの顔が思い浮かび、思わず固まる八幡。

 

(…なんで、あの老害の顔が出てくる?)

 

まさか、とオールマイトを見遣る。

オールマイトも八幡の意味深な視線に気がつき、こちらも感づく。

 

「…とりあえず、職場体験の行き先決めないとな」

「あら、それなら…」

「ああ、僕もその話聞きたいな!」

 

話を逸らした八幡に、雪乃が声をかけようとするがそれよりも早く緑谷が反応する。

 

「どのヒーローもそれぞれの特色と強みがあってどこでもおすすめだよ!!エンデヴァーなんてNo.2ヒーロー!事件解決数は最多!ミルコがサイドキックをとるなんて異例だし、ベストジーニストはファッションリーダーとしても破格の人気があって!比企谷君の個性的には似ているのはベストジーニストだね!クラストは」

「長い長い長い」

「デク君、オタクやし…」

 

「ゆきのん、元気出して。ヒッキーなら後でちゃんと話を聞いてくれるよ」

「…まだ何も言ってないわ」

 

 

──────────────

 

 

「…比企谷少年、後で話が」

「…了解」

 

「あ、比企谷くん。また後日、お話ししよっか」

「お手柔らかにお願いします…」

 

「比企谷、ミルコがお前を呼んでたぞ。後で連絡入れろと」

「…」

「そんな顔をしてもダメだ。それと、とりあえずお前と小町君には私の家に来てもらうからな」

「…」

「…比企谷、なぜもっと嫌そうな顔をする」

 

「比企谷、俺も後で話が…」

「…わかったよ、話すからまた今度で頼む」

「ああ」

 

 

 

都内某所。

 

「……ハァ、比企谷?…コネクタか」

「ご存知なのですか?」

「お前たちが子飼いにしていた腕利きだろう。…ハァ、噂には聞いていた。…奴は英雄の道に戻った。その後の奴は見聞したいとは思うがな……ハァ」

「…殺すなよ、アレは俺たちの物だ」

「…殺害に値するかどうかは、今の奴次第だ…。…比企谷八幡……ノーアームズに接触する……奴の動向を調べる。話はそれからだ……」




投稿再開します。
ここからおまけがまず出てくるので、おまけは10話くらいでまとめて1話にして出そうかと。
おまけはほぼ会話文だけですが、気が向いたら地の文も書きます。
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