何がヒーローたらしめるか   作:doraky333

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止まっていた時間が動き始めた。
かつて1人だった時間はもうない。
隣に立つ者たちと、手を取れるか。
難儀な性格、暗澹の過去。

──彼は、何を背負って何を捨てるのか。


Hero's Episode2.出立は霧と共に

「ここがヒッキーの席だよ!」

「…おお」

 

A組の教室に入り、5×5で並べられた席を眺める。

結衣の案内で教室の左端後方の席に案内される八幡。

26人目の席が窓際の壁近くに置かれていた。

 

「1人だけ後ろだけど、あたしとゆきのんがすぐ前だからね!」

「…ああ、五十音順で並んでるのか」

「貴方が居眠りしたら叩き起こしてあげるわ」

「いや、流石に寝ないぞ。…こんなに特別対応してもらってるし」

「…そ、それと…ヒッキー、制服似合うね…」

 

今回の入学にあたり、制服やジャージ一式が支給された八幡。

中学では学ランだったが、八幡には学ランよりもブレザーの方がより本人のイメージに合っているようだ。

 

「…お、おう」

 

結衣に返事をしながら、結衣の雄英制服姿を見る。

由比ヶ浜も成長してるな、とある一点を眺めて確信する八幡。

それを胸を抑えてジト目になる結衣。

 

「…ヒッキー、見過ぎ」

「! す、すみません」

「比企谷君?」

「ひぃっ」

 

「…何をしてるんだお前ら…」

「あ、相澤先生…」

 

雪乃の絶対零度のような吹雪を浴びつつ、相澤の方を見る八幡。

2人もなんでもないようにそのまま相澤の方を見る。

これがこいつらの通常運行か、とどうでもよさそうに得心する相澤。

 

「比企谷。職場体験が近いが…その前にお前はやらなきゃいけないことがある」

「はあ…」

「ヒーローコスチュームについてだ」

「あ」

 

忘れてた、という顔の八幡。

職場体験に行くということはヒーロー活動をするということになるが、その際に生徒はヒーローコスチュームが必要になる。

ヒーロー科生徒は皆、入学前に被服控除制度によってコスチューム制作会社に無料でコスチュームを作製してもらっているが、八幡はまだそれがない。

 

「中学の頃のじゃダメっすかね」

「貴方ずいぶん背が伸びたでしょう?もう入らないわよ」

「は、早くコスチューム会社のとこ行かないと!」

「流石にそんな時間は…」

「…サポート科の開発室に行ってこい、比企谷。色々手を回してくれてる人がいる」

「開発室?」

「サポート科が実習を兼ねてサポートアイテムを開発するのに活用される実習室ね」

 

サポート科、というと材木座を思い浮かべる八幡。

まだ会ってないな会わなくても良いけどと思いつつ、あることに気がつく八幡。

 

「…そういえば、俺ってそこら辺出歩いてもいいんですか?」

「お前が雄英に入学するニュースは明日全国で発表される。あれだけ注目されたからな、何も言われんということはない」

「…パンダですね」

「仕方がないと諦めろ。ヒーローなんて注目されてなんぼだ」

「アングラ系ヒーローに言われるとアレですが」

 

八幡の言葉にピクリ、と反応する相澤。

イレイザーヘッドの知名度は決して高くない。

相澤本人がメディア露出をしていないからだ。

基本的に(ヴィラン)退治しか行うことがなかった為、人気取りや地域貢献のようなことは一切しなかったのである。

そんなイレイザーヘッドを知っているのは、緑谷もそうだったが中々稀である。

 

「相変わらずヒーローオタクね」

「まあ、そだな。否定はしない」

「…言っておくが、2人はついていくんじゃないぞ」

「ええ!?ヒッキー1人だと初対面の人と話せませんよ!」

「いや、それは俺を舐めすぎだぞ。コンビニの店員に対してはいかいいえで答えられるし」

「それは普通よ」

 

バカなことを言い出す八幡を見送る雪乃と結衣。

そんな2人に後ろから声をかける相澤。

 

「…お前たち3人は、元々チームを組むつもりだったらしいな」

「はい!」

「彼に今心変わりがなければ、ですけど」

 

心変わり。

2年前と今とではまるで状況が違うと言っているのだろう。

今の八幡の隣に立つのにはそれ相応の実力と覚悟が要るのだ。

そのこと自体は雪乃も結衣も理解しているだろうし、八幡本人も理解しているはず。

だが、結衣は体育祭でその覚悟を示した。

雪乃は立場的には既に八幡と同じプロヒーローである。

 

「…より一層の努力が要るぞ」

「アレの隣にいる為に、努力程度で可能ならいくらでも」

「ヒッキーがその気になってくれてるから、すっごい楽だよねー」

「……比企谷、もしかして性格に難があるのか」

「かなり」

「あたしが会った中で一番の捻くれ者です!」

 

静かに笑う雪乃、にこやかに八幡に対するシビアな評価を叩き込む結衣。

面倒な奴が入ってきた、と八幡に対する評価を改める相澤。

そんな彼らを、彩加はにこやかに見守っていた。

 

 

──────────

 

 

教室を出て歩き始めた八幡だが、すぐに自らのミスに気がつく。

 

「…開発室の場所を知らねえ」

 

戻って聞こうかと思うが、恐らく既に授業時間だろう。

心優しい結衣が着いてこなかったし、今横を通り過ぎたB組などは既に全員が席に着いていたのが見えた。

ちなみに目が合った葉山に怪訝な目で見られた。

放っとけ。

 

どうしよう、とトボトボ歩いていると、階段のところに巨大な段ボールを両手一杯に持ってヨロヨロ降りている誰かを目にする。

今にも階段から落ちそうだ。

もう少し考えろ、と言いたくなったが何も言わずに近づく八幡。

目の前で怪我をされても気分が悪い。

段ボールに触れ、段ボールと固体接続してその人物から段ボールを奪い取る八幡。

 

「落とすぞ」

「おお、前が見えます!」

「いやそりゃ視界も塞がれるような持ち方してたら…」

 

段ボールを右の掌に2個分乗せ、相手の顔を見る八幡。

パイプがつなげられたようなゴーグルをつけ、髪の毛がドレッドヘアーのようにいくつかにまとめられた少女だった。

まさかこんな大荷物を持っていたのが女子だとは思わなかった八幡。

思わず退く。

それにしても、ラフな格好だと見遣る。

雄英の制服ではなく、縦縞のタンクトップに下は作業着のつなぎだ。

 

「…雄英生、だよな?」

「ええ、そうです!サポート科1年発目明です!」

 

そこまで言われて、騎馬戦で見た顔だと思い出す八幡。

緑谷と騎馬を組んでいた1人にサポート科がいたので、あの時ゴーグルをつけていた生徒だとわかったのだ。

ちょうどいい、と恐る恐る声をかける八幡。

 

「…あの、開発室の場所知ってます?」

「知ってますよ!今からそこへ行きます!」

「あ、じゃあ連れてってもらっても良いですか?これ持ってくんで」

「助かります!」

 

随分話がスムーズに進んだ、と安堵する八幡。

それにしても、八幡の顔を見ても特に何か言うことがないこの発目という少女。

セントラル病院に入院後、テレビを病室でよく見ていたが、八幡の顔は体育祭で撮られたものに限ってたがモロに出ていた。

羞恥に塗れてベッドで何度も悶えた八幡。

二週間を経過しているが、まだSNSのニュースでも取り上げられている。

単にテレビを見てないのか、興味がないのか。

 

(多分後者だな)

 

何故なら、八幡が右手に乗せた段ボールの中身からガチャガチャと物を取り出しながら階段を降りているから。

自分の興味を引くものにしか関わりありませんという感じだ。

発目が段ボールの中のガントレットのような物を引っ張り、段ボールが少し変形してしまう。

ありゃ、という顔で段ボールを見る発目。

だが、段ボールが八幡の右手から落ちることはなかった。

不思議そうに八幡の顔を見る。

 

「貴方の個性ですか?」

「…まあ」

「もしかして、比企谷八幡君ですか!?」

「…まあ」

 

二度同じ返事をする八幡。

それに対してパァッと明るい顔をして右手を差し出す発目。

 

「?」

「あ、左手じゃないと握手出来ませんね!」

「握手?」

「貴方のヒーローコスチューム開発を担当する発目明です!よろしくお願いします!」

 

先ほどよりもさらに明るい笑顔で八幡を見る発目に、唖然とする八幡。

相澤が言っていた色々手を回してくれてる人とというのはこの少女のことだろうか?

とてもではないがそうは見えない。

 

「私、ヒーローコスチューム開発は初めてなのでとてもワクワクしてます!一緒にドッ可愛いベイビー作りましょうね!!」

「…ベイビー?」

「この子たちです!」

 

発目が手に持つガントレットやマントを八幡の前に押し出す。

どうやら発目が作ったものらしい。

だが待てよと八幡。

 

「…これ、あんたが作った…ものか?」

「はい!貴方の個性を先んじて聞いていたので作っていました!」

「いつ?」

「昨日です!」

「…マジか」

 

八幡の雄英入学はヒーロー科の生徒たちも今日聴いたようだった。

この発目という少女も、恐らく聞いたのは昨日だろう。

あまり情報をいたずらに広めてゴシップ紙やメディアに情報漏洩するような真似は雄英も陽乃もしないはず。

つまり、この発目というサポート科の生徒は、たった1日で八幡が今手に持つ段ボールの量のサポートアイテムを作ったということになる。

舌を巻く八幡。

 

「…熱心だな」

「勿論、好きなので!」

「は?」

「このようなアイテムを作り続けて、ヒーローの活動を日々支えること!それこそ我々サポート科の務めです!」

「…」

「あ、勿論貴方のことも好きですよ!体育祭で雄英を守ってくれたおかげで、私は開発を進められます!」

「……」

 

あまりにストレートに好きという言葉が出たので勘違いしかける八幡。

勘違いしないように首をふってたら逆に勘違いされたようだ。

 

「さあ、行きましょう!コスチューム開発…腕と胸が高鳴ります!」

「…おー」

 

一階の開発工房へ着いた2人。

大仰な引き戸ががらりと勝手に開き、これまた大仰な人影が見えた。

げ、という顔をする八幡と発目。

 

「モハハハハハハハ!!2年振りだな!!息災で合ったかはちま」

 

咄嗟に靴、床、扉と接続操作して扉を閉める八幡。

八幡をパッと見てサムズアップする発目。

 

「グッジョブです!」

「…発目、さんも知ってる?」

「発目で良いです!ええ、正直苦手なタイプです!」

「アレは大抵の人類が苦手だから問題ない。アレと接することができるのは同じタイプだけだ」

 

再度がらりと開く扉。

黒縁の四角眼鏡。

中学の頃から変わらない二重マント。

八幡の2倍ほどある横幅、八幡よりも大きな身体。

老人のような白髪。

 

「何故閉じる!?貴様の仕業だろう八幡!!」

 

材木座義輝。

雄英高校サポート科一年、総武中学校から進学した、かつての八幡の友人である。

 

「いや、こう……めんどくさいなと相変わらず」

「何という言い草!!この2年、貴様の安否を案じて飯も水も喉を通らなかったというのに!!」

「むしろ太ったんじゃねえか」

「んぬううううう!!!」

「材木座さんどいてください邪魔ですので!」

「発目女史!!我も八幡のヒーローコスチューム作成を」

「話が来たのは私ですから、私が彼のコスチューム作成に手をかけます!」

「んぬぬうううううううう!!!」

 

材木座を押し退けて開発工房に入っていく発目。

その後ろをのろのろ歩いていく八幡。

材木座が、八幡の横顔に向けてポツリと話しかける。

 

「……八幡、また会えて嬉しいぞ…」

「…材木座」

「また、貴様のダークヒーローっぷりを見られるな」

「……んで、何しに来たんだお前」

「我もサポート科故、手伝いに参った!!」

「…大人しくしてろよ」

「八幡!!好き!!」

「キモいから死ね」

「ぶひぃぃっ!!」

 

2人揃って開発工房に入っていくと、開発工房の中の様々なサポートアイテムや開発に使用されるであろう機械が目につく。

発目はサポートアイテムが山のように重ねられた一角に既に向かっていた。

そして、部屋の中央に見覚えのある女性と見覚えのあるヒーローが1人。

 

「あ、やっと来た。私を待たせるなんて出世したねえ比企谷君?」

「…帰ったんじゃなかったんですか、雪ノ下さん」

「そんな口聞いて良いのかなあ?公安委員会御用達の優秀なコスチューム会社にツテを持つ私に」

「マジかよ…」

 

またこの人に借りを作ることになる、と溜息をつく八幡。

そんな彼に話しかける鉤爪をつけたような半裸のヒーロー、パワーローダー。

 

「お初にお目にかかる、ノーアームズ。会えて光栄だよ。クケケ…」

「…パワーローダー。地中での戦い方を勝手に参考にさせてもらってます」

「あんな天変地異は俺には出来ねえけどな」

 

ニヒルに笑うパワーローダー。

セメントスにパワーローダーと、八幡にとっての教科書が雄英には2人も揃っている。

それだけでも雄英に通う価値がある。

 

「ノーアームズ…。良い!良い響きだな八幡!羨ましいぃっ…!!」

「材木座、お前許可取れたのか」

「無論!我と八幡の仲故!!我ら前世より誓いし相棒」

「ちょっとうるさいから黙っててね」

「ひゃい」

 

ぴしゃりと陽乃に黙らされる材木座。

これから材木座がウザかったら雪ノ下姉妹のどちらかをけしかけよう、と心に留める。

さて、と陽乃が話し始める。

 

「職場体験に行くって話は聞いたね?けど、コスチューム作成まで余り時間がない。勿論、雪ノ下として家柄の力を使って会社に圧かければ別だけど」

「いえ、流石にそこまでしてもらうわけにはいきません。後が怖いし。…大体、雪ノ下さんって今サンアイズ事務所立ち上げてるんでしょ、雪ノ下家の力を使うのに抵抗とかないんすか」

「全然ないねー。使うものは使うよ、ただだし」

「…雪ノ下に見習わせたいくらいの厚かましさだな」

 

やはりこの姉妹は似ている部分もあるだろうが、他者と関わる部分で大きく差が出る。

他者と相容れないのが雪乃で、他者をこれでもかと上手く使うのが陽乃だ。

 

「時間短縮が必要なの。とりあえず、一時的なコスチュームをこの場で作成して、それをコスチューム会社に回すことでコスチューム改修という体で進めるから」

「そもそも、俺の個性だと両手両足さえ空いていれば何でも良い気がするんですが」

「君は今注目の的なんだよ?弱い部分や拙い点を見せたら受ける必要のない誹りも受けるよ」

「…そすか」

「そ。だから、体育祭で一番モチベを見せた発目ちゃんを呼んだの。宜しくね、発目ちゃん」

「かしこまりました!是非お力に、私と比企谷君のどっ可愛いベイビーを!!」

「…は?」

「雪ノ下さん、気にしてはダメです」

 

端から聞くと男女のあれこれにしか聞こえないが、発目の言い方が独特なだけだろう。

発目が作ったサポートアイテム=ベイビー、という意味のようだ。

それはそうと、陽乃のぽかんとした顔はレア中のレアだ。

発目のような奇抜な考え方をしている人間とは、陽乃は相性が悪いのかもしれない。

発目が陽乃や八幡に好意的な分、よりおかしな状況に持ち込まれかねない。

 

「ではまず、貴方の個性についてですね!」

 

グリンと八幡の方に顔を向ける発目。

そのままペラペラと八幡の個性について発目の見解を述べていく。

 

「貴方の個性は掌だけではなく足の裏でも発動出来るんですよね!?」

「お、おう」

「しかし、体育祭戦を見る限り肉弾戦も可能ですね!?」

「まあ、そうだな」

「ならば手と足は甲を押さえて内側は素肌を晒すというガントレットとレガースがおすすめですね!しかし、足を素肌で晒しながら走行をするのはやはりデメリットの方が大きいかと!!」

「…いや、そもそも足技をよく使うしな。普通のプロテクターレガースで良いぞ。単純な構造なら接続しやすいし、そこから地面に繋げて接続できる」

「その場合の神経接続速度の差異は!?」

「0.01秒単位で違いが出るだろうが、そこまで差はない」

「なるほどなるほど!!でしたらその方向で!後は全体的なデザインをですね!!」

 

ガサガサとカタログを出す発目。

カタログにあるコスチュームを参考に決めていくのだろう。

八幡の方も割とあっさり発目の興味本位な性格を受け入れて話し込んでいく。

これは珍しいパターンだね、と陽乃。

異性同性問わずに、初対面で八幡がこんなに接近を許した相手は初めて見た。

エンデヴァーやミルコも、始めは避けられるか逃げられるかをしたらしい。

平塚でさえ、平塚がアニメのネタを振ってそれに乗ってきた上でようやくまともに話をしてくれるようになったと言っていた。

 

「待てい!デザインのことなら我に任せよ!ここ二年貴様に似合うようなコスチュームをずっと考えてきたのだ!!」

「…一応見せろ。そして口はいくらでも出すからな」

「材木座君の尖ったセンスに彼が合いますかねえ?」

「はっはっはっ、笑止!!八幡大菩薩のお導きの声に我は従ったまでよ!!当然、似合の装いを」

「早よだせ」

「はい」

 

材木座に対する八幡の横柄な態度。

だが、材木座もそれを自然と受け入れて素で話しているように見える。

もしかしなくても、ヒーロー関係なら比企谷君は割と誰とでも話し込めるんじゃないかなと陽乃。

元々純文学からライトノベルまで幅広いネタを拾う八幡だったが、ヒーローも実は大好きだったんじゃないだろうか。

 

よし、と意を決する陽乃。

白熱する3人に声をかける。

 

「比企谷君のイメージ的には黒っぽくて全然良いよね。(ヴィラン)の下から生還したなんてのは他の誰にもない一種のアドバンテージだし、強調していこうよ」

「然り!清濁合わせ持つ、光と闇の狭間に生まれしヒーロー!!」

「おいコラ、俺を厨二ヒーローにする気か」

「オッドアイみたいですね」

「あの中二ヒーローか」

「…言っとくけど、私の下に来るならそれらしい格好でお願いね。これスポンサー命令だから」

「だそうだ。残念だったな材木座」

「我と八幡の夢が絶たれるぅ!」

「勝手に共同で夢見させるな1人で見てろ」

 

あーでもないこーでもないと話し込む4人を、お茶を啜りながら眺めるパワーローダー。

こうしてみると、ただヒーローを目指すだけの高校生くらいにしか見えないのだ。

だが、彼の経歴を考えると普通の生徒として接するのが正しいのか、それともそれ相応の対応が必要なのか、正直なところ判断しにくい。

 

「パワーローダー先生!こんな感じでどうでしょう!?」

「…それだとレガース部分で爆発するからやめとけ」

「待て発目お前」

 

とりあえず、発目に暴走させないことが仕事だなと決意したパワーローダーだった。

 

 

──────────

 

 

結局、その日の八幡はコスチューム作成の相談と、校舎施設の案内、そして授業見学をして周った。

総武中は雄英高校施設内にあるので、雄英の敷地の広大さは知っていたが、改めて周ると訳のわからない高校だと思う。

運動場という名前がついているが、その運動場一つにしても面積にして七万平米を超える。

そして、その日の最後の授業として、A組は再びUSJを訪れていた。

担当教師はオールマイト、ヒーロー基礎学の時間である。

 

「今日はここで、基礎トレを行なっていくぞ!見学者が居るからと言って、緊張せずにバシッと行こうな!」

「ふふっ、オールマイト。手が震えてますよ」

「OH!スクリームフィスト、お手柔らかにお願いするよ!」

 

たははーと笑うオールマイトの横に、平塚、八幡、小町が並ぶ。

途中まで平塚に連れられていた小町だが、最後の授業にと連れて来られたのだ。

 

「基礎トレって、また走り込みとかですか?」

「今日は趣向を凝らしたぞ!これ、なーんだ!」

 

ビシリとオールマイトが指差す先は、断崖。

断崖の上からはロープがいくつか垂らされている。

高さは底に立つオールマイトたちから20m程度はあるだろう。

問いに答える芦戸。

 

「…崖ですね」

「崖だね!そう、つまり今日の基礎トレは崖登りだ!ただし、個性を使って良い!しかし、使わなくても良い!」

「使わなくても良い?」

「君たちの個性の中には、崖登りには適していない個性も当然ある!要は使い分けだ!そのためにロープも用意されている!極論、ロープを使わなくても問題はないぞ!」

 

それでコスチューム着て基礎トレか、と生徒たちを眺める八幡。

個性を使うとなるとコスチュームを着ているに限る。

個性を使う前提で作られた装いだからだ。

 

「では早速やって行こうか!5人1組で5回に分けて行うぞ!まず一組目、GO!」

 

次々と訓練に臨む生徒たち。

それぞれ個性を使って登る連中は流石に速い。

中でも速いのは爆豪、瀬呂、常闇、雪乃、戸塚、折本。

他は、と見ると結衣はロープを生物化して結衣自身を引き上げていた。

川崎は素の身体能力だけで登っているようだが、それでも十二分に速い。

元々女子の中でも上背とそれに伴ってパワーもあった。

何回か訓練を繰り返し、その都度人1人分の質量の重りを背負う、個性は使用できない状態、等枷をつけられていく。

ヘトヘトになる生徒たちを見て、これを明日から自分もやるのね、と辟易する八幡。

疲れるのは苦手である。

 

「比企谷少年」

「何すか」

「君も、やってみるかい?楽しそうな顔をしているよ」

「…小町、お兄ちゃん今そんな顔してる?」

「うん?…うーん、まあそうだね!口元ニヤけてる!いつもの悪い顔だね!」

「…」

「行ってこい比企谷。授業参加が一日早まっただけだ」

「そこんとこ緩いですね、相変わらず…」

 

 

「あ、比企谷だ」

 

折本さんの声で、崖の前にいつの間にか歩いてきていた比企谷君を見た。

もしかして訓練に参加する気なんだろうか。

これは彼の個性をじっくり観察するチャンスだ!

 

「の、ノートを…」

「デク君、どんな訓練でもノート持ってきてるね…」

 

「比企谷ー、良いとこ見せてよー」

「ヒッキー頑張れー!」

 

比企谷君に野次を飛ばし始める折本さん、応援する由比ヶ浜さん。

それに釣られて囃子のように声を上げるA組盛り上げ隊。

気恥ずかしそうに頭を掻く比企谷君。

 

「よし、比企谷少年!まずは自由に登ってみたまえ!」

「…了解」

 

比企谷君の周囲に風が巻き始めた。

そしてそのままふわりと浮かび、あっという間に崖上に飛んでいく。

 

「おー…!」

「流石に簡単にいっちゃうねえ」

「空を自在に飛べるってのもズリいよなあ」

 

「よし、では次だ!」

 

オールマイトの言葉に、崖上から降り立つ比企谷君。

着地もふわりと体重を感じさせないかのような挙動。

体重が軽くなるというのは本当のようだ。

デメリットといえばデメリットだけど、上手く使えば麗日さんのような個性の使い方ができるだろう。

 

「次…両手を使わずに登りたまえ」

「ういっす」

 

「両手?」

「いや、そもそも今手なんて使ってなくないか?」

 

不思議そうな顔をする砂藤君と瀬呂君。

いえ、と首を横に振る雪ノ下さん。

 

「比企谷君は今、両手を使って空気操作をしていたのよ」

「それを使うなってこと!?」

「いやそもそも両手なしでどうやって崖のぼんだよ!?」

 

いや、まだ違う。

個性を使えないというのは、大きな勘違いだ。

彼は、体育祭では足から個性を使っていた!

バッと両足の靴を脱いで裸足になる比企谷君。

再びふわりと浮かび上がり、1回目と同じように崖上に飛び上がる。

 

「足でも同じように気体操作を…!」

「次はなんですか」

 

再び崖下に降り立つ比企谷君。

当たり前のようにオールマイトに向かって次を促している。

面倒はかけたくない、という顔だ。

 

「うむ!次は気体操作と両手なしでいこう!」

 

もう返事すらしない。

無言で崖に向かっていく。

いや、でも今度はどうする気だろう。

ズズズ、と比企谷君が立つ地面が蠢いた。

地面が隆起し、そのまま土の大蛇が比企谷君を持ち上げていく。

 

「今度は固体操作ね」

「あんな風にも使えるのか…!」

「足場作成もできるなんて器用だねー」

 

また崖上から崖下へ戻り、オールマイトを見る比企谷君。

まだ何か縛りをもらうんだろうか。

 

「よし!更に固体操作もなしで行ってみよう!」

 

「ええ!?」

「土も空気もなしでどうすんだよ今度は!」

 

けれど、オールマイトの言葉を分かりきっていたかのように比企谷君は歩き出す。

どこへ、と見ていると崖間際に向かっていることに気がついた。

崖間際に溜まった水、雪ノ下さんが崖を登るときに出した水だ。

まさか。

 

「水も使えるの!!?」

「え?」

 

驚きのあまりの大きな声に、びくりとこちらを向く比企谷君。

ごめんと謝りつつ、そういえば確かに体育祭でも雪ノ下さんが出した水を従えてジェットのように使っていたことを思い出した。

比企谷君がちゃぷりと水溜りに足を踏み入れ、途端に足を持ち上げるように水が動いていく。

 

「なんでも使える、なんでも武器にできる…」

武器なし(ノーアームズ)って…皮肉でつけられた名前だったのね…」

 

立ち昇る水流に乗せられて崖上に登った比企谷君。

そのまま再度崖下に着地し、またオールマイトの方を見る。

まさか、という顔をして麗日さんと顔を見合わせた。

 

「次!自分の身体だけを使って登ってみようか!」

「…はあ」

 

「「「やっぱり!」」」

 

どれだけ無茶振りだ、とA組生徒一同が声をそろえて叫ぶ。

けど、少し条件が先ほどと違うことに気づいた。

身体だけを使って。

つまり。

 

「身体強化…!?」

 

ばちりと比企谷君の全身から音が鳴り、跳躍。

一足で崖の中間地点あたりまで跳び、そのまま岩の突起を足で掴んでそのまま跳び、崖上にまで飛んでいった。

2歩で20mを飛び上がった比企谷君を見て、サンアイズの言葉を思い出した。

 

『“トップ”になると見込まれたんだよ』

 

移動手段がそのヒーローの全てではない。

けど、その立ち振る舞いを見て思ってしまった。

現時点では、確実にNo.1に近いヒーローの1人だ。

 

 

──────────

 

 

「さあ、ここが私の家だ!」

 

授業後、帰る八幡を引き留める結衣や折本を何とか宥めて振り解き、平塚と小町に連れられて向かった平塚の家。

だが、その場所は。

 

「…ここ、何すか」

「教師寮だ。特別に、二つ部屋をぶち抜かせてもらったぞ。お前たちのためにな」

「家じゃないし…ていうか、まさかの雄英敷地内かよ」

「これで遅刻をしないで済むな!」

 

「雄英に教師寮があったのは知っていましたが…立派ですね。流石雄英、福利厚生も豊富です」

「何でお前ここにいんの…」

 

雄英教師寮前に佇む4人。

小町、平塚、八幡…そして雪乃。

雪乃の後ろにはたくさんの段ボールや家具が並べられている。

 

「もちろん、小町さんの荷物を業者に依頼して持ってきたのよ」

「雪乃さん、ありがとうございます!」

「短い間だったけど、貴女は私の義妹よ。是非また遊びに来てちょうだいね」

「…雪乃さん、大好き!!」

 

がばちょと雪乃に抱きつく小町。

雪乃の方も満更でもなさそうに小町の頭を撫でている。

それを恐ろしい表情で見つめる八幡。

 

「二年見ない間に小町が雪ノ下に取り込まれてる……。…いや、元からか」

「お兄ちゃんなにぼーっとしてんの!ほら、個性で荷物運んで!」

「はいよー」

「キリキリ働きなさい」

「へいへい」

「返事は一回だよお兄ちゃん!」

「小町の雪ノ下化が進行してる…」

 

全ての家具と段ボールを接続して、そのまま地面と床に繋げてずるずると流動させていく。

 

「荷物持ちには最適ね」

「あの丸顔の個性の方が最適だろ」

「バカね、麗日さんにこんなこと頼めるわけないじゃない」

「ごもっとも」

 

「比企谷、こっちの二階だ」

 

案内された部屋は、二部屋が繋げられた特製の部屋だった。

だが、部屋の中はどこか見たことのあるような飾りのない家具が多い。

 

「…女子の部屋じゃないですね。生ラーメン置いてあるし」

「ぐふっ」

「あ、血」

 

小町の静かな言葉が平塚の胸を突き刺した。

手をついて落ち込む平塚。

この辺り何も成長してないな、と八幡。

 

「本当に結婚する気あるんですか」

「くうっ……!わ、私はヒーローとして生きるんだあ…!!」

「普通に既婚のヒーロー沢山いますけど」

「もう!!お前が取れ責任!!!」

「無理です」

 

今度こそ打ちひしがれる平塚。

さめざめと泣いているのがその様子からわかる。

 

「お兄ちゃん、あっちの部屋だって!」

「おう」

「…小町さんに悪影響がありそうな、女らしさのかけらもない部屋ね」

「まあ、平塚先生の趣味だからな」

「仕方ないわね」

「ん?」

「私も住みましょう」

「へ?」

 

 

──────────

 

 

翌日。

比企谷君は改めて1-Aで自己紹介を行い、合流した。

他の皆より1ヶ月半遅れた入学だったが、中学の頃もそうだったからと卑屈に笑った。

比企谷君の妹の小町ちゃんは、総武中に通い続けられることになったが、その登下校はスクリームフィスト──平塚先生が付き添うことになった。

そして、何と比企谷兄妹と雪ノ下さんは教師寮に住まうことになった。

(ヴィラン)連合に狙われている可能性を考慮して、戦力がこれでもかと雄英敷地内の教師寮に集められたのだ。

 

そして比企谷君と共に過ごしていく内に、僕らの比企谷君に対するイメージがどんどん変わっていった。

 

まず、クラスメイトとほとんど接することがない。

自分から話しかけることはなく、折本さんや由比ヶ浜さんから2回ほど声をかけられてようやく会話が始まる。

 

「比企谷!教科書あるの?」

「…おう」

「今日の授業の予習もやったの!?流石に成績良かっただけあるね!」

「理数系だけは無理だけどな」

 

けど、コミュニケーション能力がないわけじゃない。

比企谷君と折本さんが話しているのを見て頷く。

ただ、総武組の生徒は話しかけられているけど、僕たちはまだ比企谷君に話しかけることができていない。

 

「八幡、何か分からないことがあったら何でも聞いてね!僕、頑張って一緒に考えるから!」

「戸塚…大丈夫だ、難しいことは雪ノ下に投げるから」

「は、八幡。僕…八幡と一緒に勉強したいだけで……その…」

「何でも戸塚に聞いちゃうぞ!!」

 

比企谷君の印象がまた変わった。

戸塚君に対して何ていうか…すごい可愛がりようだ。

 

「比企谷君、変態行為はやめなさい。その道は生産性のないものよ」

「何を勘繰ってるか察しはつくが、俺は戸塚をトツカエルとして崇めてるだけだ」

「…変態ではなく悪徳宗教の司教になるところだったわね。ヒーローとして止めるわ」

「戸塚教は永遠だぞ」

 

雪ノ下さんとの奇妙な距離感も注目されている。

体育祭では、雪ノ下さんが比企谷君の大切なものを察し、小町ちゃんの保護を率先して手配したらしい。

教師寮に雪ノ下さんが入ったのも、比企谷君を守る為。

今のように歪みあっているけど、どこか息というかウマというか合っているように見えた。

 

「僕らも、あんな風に比企谷君と仲良くなってみたいんだけど…」

「どこか話しかけるなオーラあんだよなー」

「仕方ないよ、それがヒッキーだもん!」

 

上鳴君と話していると、上機嫌に話しかけてきたのは由比ヶ浜さんだった。

入学してからこんなにニコニコした由比ヶ浜さんは初めて見た。

 

「ヒッキーと!仲良くなりたいんだよね!?」

「う、うん」

「モチ!だよなみんな!」

「おー!」

「是非とも仲良くしたいわね」

 

後ろにいた麗日さんとあす…梅雨ちゃんも賛同する。

 

「じゃあ、行こう!」

「え?」

「てか呼ぼう!ヒッキー!!」

「へ?」

「あ?」

 

戸塚さんと雪ノ下さんに囲まれた比企谷君がこちらを振り向く。

逃げようとそっぽを向いた比企谷君の両腕を挟み込む戸塚君と雪ノ下さん。

 

「迅速な犯人確保だね…」

「ちょ、戸塚!近い…!」

「待ちなさい。それは私に向けて発するべき言葉でしょう」

「いや、お前も近い。離れろ」

「何を言ってるのかしら。体育祭では横抱きを2回もしてくれたじゃない」

「あの日のは黒歴史だやめろ」

「全国放送されたわね、黒歴史」

「俺の急所を抉るのが相変わらず上手いな」

「世界一要らない賛辞ね」

 

ずるずると両腕を引かれた比企谷君が僕ら4人の前に置かれていく。

由比ヶ浜さんにがしりと頭を掴まれる比企谷君。

 

「はい、どうぞ!」

「どうぞて!」

「何が…?」

 

「比企谷って好みのタイプはどんなの!?」

「好み?」

 

ぴしり、と空気にヒビが入ったように感じた。

上鳴君の質問だったけど、上鳴君自身も空気の変化を感じたようで押し黙った。

気のせいか、川崎さんがジロリとコチラに目を向けた気がした。

 

「うぇ…あれ?」

「…なんか…変な視線を感じるな…」

「比企谷の好みのタイプ!?聞きたい!ウケそう!てかすでにウケてるウケる!」

「どっから湧いて出た折本…。あとガハマさん、痛いですわよ」

「あ、ご、ごめん!力入ってたね」

「お前も痛いよ」

「女子との物理的接触なんて役得でしょう?」

「痛みはご褒美じゃないぞ、Mじゃないんだ俺は」

 

好みね…と押し黙る比企谷君。

上鳴君らしい質問だったけど、まじめに考えてくれているようだ。

うん、と頷いて顔を上げた比企谷君から出た言葉は。

 

「俺を専業主夫として受け入れてくれる人」

「専業主婦!?」

「字が違うぞ」

「つまり、歳上が好みってこと!?サンアイズみたいな!?」

「は?」

「待て落ち着け雪ノ下。てか、あの人は俺は絶対無理だ。城廻先輩みたいな天然ほんわか系な人が良い」

「しろ…?」

 

「呼んだ?」

「へ?」

 

教室の入り口に、見たことのない女子生徒がいた。

黒髪をお下げにして、ほんわかな笑みを浮かべている。

けれど、その目尻には涙が。

って、泣いてる!?

 

「比企谷君……無事で良かった!」

「城廻先輩…」

 

教室に踏み入り、比企谷君の元まで歩み寄る城廻さん。

どうやら上級生のようだけど…比企谷君や雪ノ下さんの知り合いかな?

 

「もしかして、去年の総武枠の城廻先輩!」

「ケロ?お茶子ちゃん知ってるの?」

「知ってるよ!確か…去年唯一の総武入学枠の人!」

「きょ、去年唯一!?」

 

「本当に、心配したんだよ!体育祭に比企谷君が現れたって、ニュースで知ったんだから!言ってよもう!」

「いや、いえませんよ…そういう状況じゃなかったですし」

「あ、そっか…ごめんね」

「い、いいえ。それより…どしたんすか」

「比企谷ードモりすぎうけるー」

 

「今の会話…聞かれてたかな?比企谷に申し訳ねえことしたかも」

「多分大丈夫だよ。聞いてても、城廻先輩天然さんで多分わかんないから」

「歳上天然ゆるふわ系…!?あの野郎、どこまで手を伸ばしてんだよ…!!」

 

峰田君がまた血の涙を流している。

君ってやつは…どこまでもブレないね…。

 

「比企谷君が雄英に入学するって、はるさんにきいたの。それに、はるさんが比企谷君を職場体験に指名したって。雪ノ下さんにも!」

「姉さん経由ね。道理で」

「そ、それで…」

「あ、うん。私からも誘ってあげてってはるさんに言われて、来ました!私も先月からインターンに行ってるの!」

「姉さん…外堀から埋めに来たわね…」

「それをサラッと俺たちに言っちゃうのが城廻先輩だけどな」

「どう、かな…?」

 

比企谷君を上目遣いで見る城廻先輩。

ぐっ、と顔を赤らめて城廻先輩から顔を仰け反る比企谷君。

なんか、今だけ比企谷君にシンパシーを感じる…!

 

「あ、もしかして他にも指名もらってる!?比企谷君、体育祭ですごかったもんね…あの(ヴィラン)たちとの戦いも見たよ!」

「え、ええまあ。他に5件だけ…」

「いずれもトップヒーローばかりです。姉さんのところ以外も検討するには十分の顔ぶれですよ」

「ふわぁ…すごい、エンデヴァーにまで!」

「エンデヴァーとミルコんとこにはまた別に顔を出そうかと。面倒ですが…顔出さない方が後で怖いんで」

「じゃ、じゃあクラスト?ウォッシュ!?ベストジーニストなんてかっこいいよね!」

「クラストは多分性格が合わないかと…。ウォッシュはヒーロー像が合いません」

「昨日好きって言ってなかったっけ?ヒッキー」

「俺があんなCMみたいなの出られるわけねーだろ。そうすると、ベストジーニストですが…」

 

そこまで言い淀んだ比企谷君の手を取る城廻先輩。

さらに顔の赤みを増す比企谷君。

ほう、と息をついて比企谷君の目を見て、城廻先輩が言葉を発する。

ていうか、2人の距離すごい近い…!

 

「もし、来れたら……また先輩と後輩だね」

「サンアイズのとこ行きます」

「ヒッキー!!?」

「これだからこの男は…!!」

 

まさかの即答した…!

 

「オチたぞ…アレ」

「あれ、城廻先輩なりのアプローチかな?」

「天然らしいよ?比企谷相変わらず女耐性ないねー!一色ちゃんや雪ノ下さんたちで慣れたかと思ったけど、やっぱないわー」

 

「雪ノ下さんも!」

「その男が愚行をしないか監視するつもりでしたので、問題ありません。遺憾ながら私も行きます」

「マジか、お前まで来んのかい」

「今回の教師寮への異動に姉さんの手も少し借りたのよ。雪ノ下家への説得にね。その借りを返す必要があるわ」

「お前…母ちゃんと話したのか?」

「…とっくにね。貴方が闇で耐え忍んでいた時、私がただ手をこまねいていたとでも?」

「流石だよ、お前は」

 

静かに笑う2人。

なんて言うか、絵になる2人だ。

性格はまるで似てないのに、不思議とひとつどころに収まる感じがある。

そこにハッと気づいて入っていく由比ヶ浜さん。

 

「ヒッキー!あたしも、頑張るからね!」

「お前…指名来てたのか?」

「来てたよ!ギャングオルカ!」

「マジか…アレも相当の武闘派だぞ」

「ヒーロービルボードチャートJPの上期、No.10ヒーロー!由比ヶ浜さんすごい!」

 

「うん、やっぱり3人は3人でいてこそだね!」

 

「あれ、城廻先輩いつの間に…!」

 

いつのまにか教室のドアのところまで戻っていた城廻先輩。

ニコッとみんなに向かって手を振る。

 

「1-Aの皆さん、お邪魔しました〜」

「ま、またいつでもどうぞ!」

「比企谷君、雄英でまた2年間よろしくね!」

「…はい」

 

「今度は君を…見誤ったりしないから」

 

最後の城廻先輩は先程までとは違う種類の笑みを浮かべて去っていった。

城廻先輩の言葉の意味はわからなかったけど、多分比企谷君にだけわかるメッセージだろう。

何せ比企谷君は、その言葉に照れ臭そうにして頭をかいていたから。

そんな比企谷君が、こっちを見て口を開く。

 

「…緑谷、だよな?」

「え?うん!」

「あ、もう名前覚えてもらってる。私は麗日!」

「私も覚えてもらいたいわ。梅雨ちゃんと呼んで」

「俺は上鳴な!」

「みんなの峰田だぜ!」

「お、おう。…お前…オールマイトを目指してるのか?」

「へ?」

 

比企谷君の言葉に一瞬呆けてしまった。

それは、わかる人にとってはわかる言葉だったから。

彼は、そのことをまるで知っているかのようだった。

ワン・フォー・オール。

僕がオールマイトから受け継いだ、平和の象徴の持つ力。

 

「え…と…」

「…」

 

何で答えるのが正解なのかわからなかった。

彼は(ヴィラン)の疑いが万が一くらいにはある、と相澤先生も言っていた。

可能性は限りなく低いけど、もしかしたらワン・フォー・オールのことが外部に。

 

でも。

比企谷君の目を見て、体育祭の光景を思い出して。

きちんと答えようと思ったんだ。

 

「僕は…オールマイトのような、どんな時でも笑顔を忘れない、最高のヒーローを目指して雄英(ここ)に来た…!」

「…そうか」

 

なれると良いな。

声はなかったけど、彼の目がそう告げた気がした。

 

くるりと踵を返して教室の出口へ向かう比企谷君に、由比ヶ浜さんが声をかける。

 

「ヒッキー、どこ行くの?」

「今からまたコスチューム作成の話煮詰めんだよ。発目ってのと材木座に呼ばれてる」

「発目さんに!?」

「アイツ、俺らよりも先にサポート科の発目と仲良くなってるぞ…」

「羨まけしからん…」

 

「ヒッキー…変なことしちゃダメだからね!」

「しねえよ。むしろ俺がされてるよ。アイツ距離感バグり過ぎてるよ…」

「な、なんかごめん」

 

比企谷君…さっきの質問は驚いたけど、どこか苦労人っぽいな。

いろんな人に振り回されてそう…。

 

 

──────────

 

 

二週間後、新たに比企谷八幡を加えて26人となった1-Aは、最寄りの新幹線が通っている駅に集まっていた。

職場体験先のヒーロー事務所へこの駅から向かっていくのだ。

相澤が諸注意を話して、解散となる。

 

「ヒッキー、ゆきのん!頑張ろうね!」

「由比ヶ浜さんは船で行くんだったわね」

「うん!ギャングオルカの事務所…まさか島だとは思わなかったよ…。200kmだって。沙希ちゃんは?」

「ガンヘッドのとこ」

「え?私と一緒や!一緒に行こ、川崎さん!沙希ちゃんって呼んでもいい?」

「…好きにしな」

「戸塚はエア・ジェットのところだったな」

「うん!飛行の個性だし、参考になるかなって!」

 

今回の職場体験で、緑谷、轟、そして飯田の3人は、のちのヒーロー人生に大きな影響を与える人物と遭遇する。

特に緑谷と飯田にとっては、転換点となる。

 

それは八幡と雪乃も同じだった。

2人は、ある人物二名と接触することになった。

だが、それは。

両名とも、(ヴィラン)だった。

 

事件は、職場体験二日目。

後の保須事件が起きる、一日前のことだった。




おまけはそのうちまとめて出します。
基本はヒッキー+誰かの小噺です。
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