全身の武装は大義を為すための刃。
その男は暗がりにいたとある少年を見かけた。
光のない目に黒髪から飛び出たアホ毛、変哲のない灰色のローブを羽織った暗い顔。
──ただ、その立ち姿にはまるで隙がないことに戦慄した。
ヒーロー殺し・ステインについて、八幡は多くを知らない。
何せ一度も関わったことがない上に、特に調べたわけでもない。
ただ、雄英体育祭当日。
八幡の人生が180度回転して戻ったあの日に、ヒーロー殺しがその活動を行ったと後に病院で知った。
粛清対象はターボヒーロー・インゲニウム。
多くのサイドキックを抱え、数々の難事件を解決した経歴を持つ、高速のヒーロー。
場所は西東京保須市。
ちなみに今八幡達がいる場所は東東京だ。
インゲニウムはヒーロー殺しに襲われ、重傷を負った。
一時は意識不明にまで陥ったが、何とか一命を取り留めた。
西東京と東東京、一応隣同士だが何せ街が多い。
距離はある程度あると考えて良いだろう。
二週間で保須市からこのサンアイズ事務所がある地区まで来た。
狙いはサンアイズかと思ったが、八幡本人を狙いに来たと考えていいだろう。
だが、ジェントルもそうだがどうやって八幡がこの地区にいると把握したのか。
「全く、なんで俺ばっかりこんなのが来るんだ。…俺がこの場所にいるってのは何故知った?」
「ニュースで動向を知った」
「ニュース?」
同じく地面に埋もれたままのジェントルを見るが、ジェントルも同じように頷いている。
いくら渦中にある八幡とはいえ、あくまで学校行事である職場体験の行き先まで報道されるとは思えない。
「…なんだっけ?」
「…ハァ、昨日の交通事故を未然に防いだ件だ…」
「げ、あれか。あんなの報道するほどじゃないだろ…」
「人の命を救った所業はそんなに軽いか?」
「そういう意味じゃない。けど…人を助けるなんてのはヒーローとしてごく普通の仕事だ。その結果敵組織が壊滅した、とかならまだ報道が出るのはわかるけど」
「…なるほど。報道は無駄だと?」
「正直無駄だな。もっと国民の為になるモノを報道すれば良い」
無駄と言い切った八幡だが、心の奥底ではわかっていた。
恐らくマスコミに漏らしたのは陽乃だろう。
ニュースの内容は見ていないが、恐らく雄英体育祭で良い意味でも悪い意味でも注目された八幡が、ヒーローデビューを果たしたという内容だろう。
今後の八幡の動き次第では、醜態を晒せば後ろ指を差されるし、活躍すれば称賛を浴びる。
だが、それは八幡本人だけではなく雄英やオールマイトも同じくなのだ。
何せ、八幡を受け入れたのは雄英とオールマイトなのだから。
それが今後は恐らく陽乃にまで伝播するだろう。
つまり、メディアは八幡や雄英に注目を集めてしまったのだ。
ここ1ヶ月で一番大きなニュースなのでそれは仕方がないが、それを仕向けたのは陽乃ではないかと八幡は考えていた。
体育祭やその翌日の記者会見でしかけたのは陽乃なのだ。
何故か彼女は八幡に人々の目を集めている。
ステインに対して報道なんて無駄と言ったが陽乃の思惑を考えると、陽乃と、また不本意だが八幡にとっては報道は恐らく目的達成の為の手段になる。
「…なんだ、思惑でもあったか」
「いや、まあ…気にしない方向でお願いします」
「…不可思議な男だ。気負ってすらない。…ハァ…ふざけているのか…それとも、道化を演じているのか…」
「…真面目だよ。買い被りすぎだろ」
「それとも…愚者を演じているのか」
何も気を抜いてくれないステインに、更に警戒度をあげる八幡。
割と買い被りだと思うが、勝手に警戒されて隙を無くされている。
「さあ…構えろ!」
「構えてるぞ」
「…お前は…ヒーローの風格がないな」
「ほっとけ」
「だが、先日の大立ち回りでは…ハァ、確実にヒーローだった。違いはなんだ…?」
「気分だろ」
「…ハァ、やはり愚者か…。それとも賢人か…。何にせよ、平和の象徴とは随分違うな。彼は…真のヒーロー。そんな彼がお前の何に…?」
「平和の象徴とかいうけどその前にだな、オールマイトはヒーローだぞお前の言う通り。ボロボロの人間を目の前にしてヒーローが手を差し出さないわけないだろ」
「…貴様という人間を量るのは時間がかかりそうだ……手間がかかる!」
手間がかかるって思うならもう来ないでくれ、と思うが口には出さない。
逆に言えば、ステインは八幡と事を構える気満々と言う事だ。
だが、並いるヒーローを数々とその手にかけたヒーロー殺し相手にそう簡単に敵うとは思えない八幡。
相対して初めてわかる。
脳無とはまた別種の脅威がステインにはある。
(この前の体育祭…自分で言うのも何だがかなり上手くやった。けど、その功績と経験は無いものと考えて戦った方が良さそうだ。こいつは確かに普通の
──────────
手加減などしてはいられない、と土中で圧縮硬化した土を作っていく。
先程は一太刀で土の防壁を真っ二つにされた。
切断する個性か、それとも単に抜刀術の心得でもあるのか。
改めてステインを見る八幡。
細身だが、全身無駄のない筋肉をしていた。
武器武装が多いが、どうにも統一性がない。
単に相手を傷つけるだけの武器。
一手で相手を殺せる武器が手に持つ二刀のみ。
目の前のボロ布の殺人鬼は油断なく構えている。
八幡の後方のジェントルは拘束されたまま、固唾を飲んで二人の戦いを見守ろうとしていた。
とりあえず、と硬化した土蛇をステインの足元からぶつけようと思った時、ほとんど予備動作なしでステインが八幡に駆け出す。
遅れて飛び出る土蛇と、二人の間に迫り出した防壁。
土蛇を躱し、防壁を飛び越えて迫るステインだが、八幡はその間に既に距離をとっていた。
「地中の振動を察して避けたのか、どういう反応してやがる!」
「お前の個性は実に強力だが準備に時間が要るようだな」
「ああそう、参考にしとくありがとー」
ステインの指摘に棒読みで返す。
迫るステイン、逃げる八幡。
ステインのスピードが速すぎる。
オールマイト用脳無の単純なスピードとは違う、どちらかというと相模のようなしなやかさを持つ俊敏さ。
「何の個性だ、って聞いても教えてくれねえよなあ…!」
「貴様は敵に訪ねるのか」
「勝ちに必要であれば」
「甘すぎる、悪は敵に利など与えない」
「ヒーローは時には与えるだろ、他にも大事なモノを守る為に」
「…」
土流を躱して八幡を追いかけるステイン。
対する八幡は土流を操作しているため、体重が100kg近くあるものの、身体操作によってデメリットをカバー。
ステインによる投げナイフを土壁で防ぎ、接近されたら逃げる。
ヒーローが逃げ、
だが、そこは狭い空き地の中。
素早いステイン相手に、八幡は苦戦していた。
「身体強化の個性とかでもなさそうだな…。さっさと出さねえと瞬殺しちまうぞ」
「ブラフだな。そう言って貴様は俺の手を晒け出し、俺の持つ手札を把握するつもりだろう。ヒーローらしからぬ輩め」
「なら尚更出せよ。個性なしで
「その気がない貴様に出来るのか?」
「ああそう、なら遠慮なく」
ぶわりとステインの周りを土壁が覆い始める。
ステインの足場の地面に変化はない。
足場から動かせばステインに勘付かれる。
(ステインは異常に勘が良い。反応も良い。スピードも速い。欺こうとしても正直成功率は低いな。由比ヶ浜がテストで百点取るより可能性が低い…!)
土中には既に圧縮硬化した土が10t程度あったが、それは使わずに何も圧縮していない土を武器として使っていた。
硬化した土が通用するかもわからない以上、スピードのあるステイン相手に、硬化した土はそう簡単に作れない。
「脳無も相当だったが…お前は考える頭がある分また別に面倒だ!」
土壁が迫る。
土壁が周りを覆う一瞬前に抜け出すステイン。
「アレでも逃げれるのか…!虫並み…以上!」
ステインの動きは速い。
どんなに強大なパワーも、当たらなければ意味はない。
まずはステインのスピードに慣れる必要がある、と土を操っていく。
(…なんだ!?)
荒れ狂う土流。
その動きに、少し変化があることにステインは気がついた。
いや、気付かされたというべきだろう。
迫る土流の動きが、ほんの少し加速したことに気がついたのだ。
そのことは、地に伏せっていたジェントルも気がついた。
明らかにうねりかき混ぜられる土流がその勢いを増していく。
「本気を出し始めたか」
「いや、最初から全力出してるぞ。じゃないと戦いが終わらんし」
「…!?」
「ま、まさか……彼は今成長しているのか!?今この瞬間に、土の操作性を上げている…!?」
ジェントルの言葉に、ステインは黒霧から事前に受けた説明を思い出していた。
──────────
一日前、西東京保須市。
夕闇の裏路地に立つステイン。
一月前、インゲニウムを斬ったステインは未だ保須市に潜伏していた。
ステインが保須市で目をつけているヒーローは他にもいた。
しかし、ヒーロー殺しによるインゲニウム襲撃事件と、雄英高校根津校長から全国に発せられた
その為、未だステインは闇からその姿を晒すことなく保須市に滞在していたのだ。
そんな彼の背後に、黒靄のワープゲートが出現する。
黒霧である。
『ステイン、貴方スマホも持ってないんですね。探すのに手間取りました…』
『…何の用だ』
『ニュースは見ましたか?コネクタ…比企谷八幡の居場所が判明しました。会いたいのでしょう?』
『…貴様らに利益がないだろう』
『仲間になるのです。仲間の要望には応えないと、こちらも仲間として立つ瀬がありませんからね』
黒霧がステインを誘うようにワープゲートを開いていく。
ただ、とそのまま言葉を続ける黒霧。
『いくつか注意事項を。アレを殺してはなりません。その時は、貴方を我々が止めます』
『…ハァ。奴は、貴様の言う仲間というモノなのか?』
『いえ。彼は個人的に好ましい人物ではありますが…なにより、うちの先生が彼を求めている。今は野に放っている状態ですがね。彼は必ず取り戻します』
『…』
『それと、彼は戦闘経験及び個性使用経験が3年程度しかありません』
『個性使用経験が3年?どういうことだ…』
訝しげに黒霧を見るステイン。
戦闘訓練の経験の短さはわかる。
何せ、まだ15歳。
寧ろ15歳で3年もあるなら経験を積んでいる方だ。
だが、個性使用期間が3年しかないというのは不思議な話である。
個性の発現は漏れなく4歳まで。
公的な場所での個性使用はライセンスがなくては認められていないが、自宅や私用地はもちろん、はたまたそこらの公園で個性が使われることにまでは厳罰化はされていない。
つまり、自分の個性に慣れ親しむ機会など誰にでも平等にあった筈なのだ。
『詳しい事情は省きますが、個性への慣れというならそこらの小学生の方がまだ自分の個性に慣れているでしょう。そういう意味で、彼は幼い。貴方の期待に叶うような結果は得られないかもしれない』
『…アレで…3年か』
『体育祭の戦い方は全て彼の考え方によるモノです。確かに強力な個性ですが、身体強化、大地という普遍の武器、トップヒーローによる仕込み、何より生物操作。それら全てが合わさってあの時の彼があった。…彼は普通の人間と順番が逆なのです』
『成長ではなく、先に武器を手に取ってしまったと?』
普通のボクサーは、身体が成長してから腕力を鍛え始め、相手を打ち倒す技術を学ぶ。
八幡の場合は違う。
彼は、歩けるようになった幼児の状態で腕力を鍛え、相手を打ち倒す技術を学んだ。
通常、そんな育ち方をした幼児が相手を倒せるわけがない。
相手は大人のボクサーなのだ。
あり得るはずもない。
だが、そんな無茶苦茶な状態だった彼は大量の脳無たちを一人という前代未聞の戦い方で打ち破った。
それが問題なのだ。
そんな幼児が、成長して少年へ、そして大人になったら?
『そう。今後、ヒーローとして活動する彼は、学習の場を大量に手に入れると考えて良いはず。彼は今から個性に慣れていく…いえ、慣れている途中なのです。だから、もし彼と戦うなら彼を見誤らないように』
『…戦い方を、戦いの中で洗練させていくというのか』
『体育祭での最後の脳無との戦い。圧縮した土を手足に纏い、水をジェットのように使った連撃。あんなのは彼は見せたことがなかった。アレは彼があの場で生み出したのでしょう』
『より強くなる
『そして、もう一つ可能性があります。……恐らく、彼の個性もまた…未だ成っていない器。先生の器…』
──────────
そして今。
黒霧の予感は的中していた。
命のやりとり、その最中。
次の瞬間を生きる為に、ヒーローとしての務めを果たす為に、比企谷八幡は成長していた。
土の振るい方、相手の行手を阻む土壁の作り方、固体操作の神経の接続速度。
(恐るべき成長速度…。奴の個性は簡単に相手を殺せる個性。調整に苦労しているのだろう、殺さずに相手を捕らえるというのは余程力量差がないと難しい…!それを今、無理矢理広げようとしている)
加えて、とジェントルの方にナイフを投げるステイン。
土で拘束されているジェントルは躱せない。
ひいっと声をあげるジェントルだが、ジェントルの前に瞬く間に土の盾が出現してナイフが防がれる。
ステインから見たジェントルは、ただ世の中を騒がせるお調子者である。
ステインからしたらただの粛清対象の1人だが、八幡にとっては違うようだ。
「ハァ…!何故奴を助ける。奴は
「
「…ヒーローとして、か」
「時には
「ハァ…!そんな悠長に事を進めては、世の腐敗の方が足が早い!誰かが血に染まらねば…ヒーローは正せない!俺はその役目を自ら手に取っただけに過ぎん!止めたければ止めてみろ!貴様が真のヒーローなら、俺を殺せるはずだ!!オールマイトのように!」
「オールマイトに殺されたことでもあんのか…」
ステインに真面目に取り合うのは馬鹿らしいと耳を塞ぐ八幡。
オールマイトを神聖視しているのはわかる。
オールマイトがありとあらゆるヒーローを超越しているのも、誰よりも偉大なヒーローであるということも理解できる。
だが、誰でもオールマイトにはなれないし、誰もがオールマイトになる必要はない。
土流の動く速度が更に増す。
まるで荒れ狂う水面のように、滑らかにステインを掬おうと濁流が出来上がっていく。
また速度が上がった、とジェントル。
「お前の意見は分からんでもないけど、根本が間違ってるよ。お前が言うその意見には意味がない。トップヒーローが言うなら話は別だけどな。トップカーストの奴が言う褒め言葉と、おっさんが言う褒め言葉だと同じ言葉でも捉えられ方がまるで違う」
「美醜の問題だと?」
「立場の問題だろ、ヒーロー殺し。お前がどれだけ正論語っても、暴力に頼ってる時点で相手の欠点を指摘するなんてのは無理に決まってるだろ」
「正論か…。貴様は俺の主張が正しいと感じているのか?」
「…ある程度は。やり方は問題だけどな」
迫る土流を一刀両断するステイン。
八幡と接続している物体は、切り離してしまえば切り離した部分は神経操作の及ぶ範囲ではなくなる。
見抜かれてんな、と八幡。
だが、八幡も大分ステインの動きに慣れてきていた。
何よりほんの一瞬前よりも、今その瞬間。
八幡は固体を操る速度が上がってきている事を感じていた。
対するステインは、八幡の攻撃に対して守勢となっている状況を打開する手を考えていた。
ステインの個性は凝血。
相手の血を摂取することで対象の動きを止める。
だが、相手が血を見せなければそもそも個性が使えない。
その為の多数の刃、刀。
何か掠ればステインは絶対に勝てる。
だが、八幡のように無限に土の盾を作られてはそもそも起点が作れない。
その起点を作る鍛錬を、ステインはここ10年で重ねていた──はずだった。
(たとえどんな相手でも血さえ舐めれば相手を殺せる。しかし、この男に血を流させるには…今まで正したどのヒーローを殺すことよりも難しい)
投げナイフも、全身武装も八幡の身体に触れられなければ意味はない。
加えて、八幡の成長速度。
いつの間にか形勢は逆転していた。
八幡に対して刀を振れなくなったのだ。
その余裕もなく、ただ避けて逃げ続ける。
このままではいずれ土に捕まる。
(賭けに出る必要があるな)
土蛇から逃れつつ、蠢く地面の流れを読むステイン。
二手先三手先、その瞬間が訪れるのを土の波の上で踊り避ける。
そして、その時が来る。
ステインと八幡の間に土流が無くなり、一直線で跳べるその瞬間。
八幡に向かって針を縫う様に土流を避けて跳ぶ。
それすら反応して土壁を作る八幡。
だが、圧縮硬化していない土壁が来ると見抜いていたステインは、土壁を自分の身体が通れる分だけ瞬時に切り抜いた。
「どういう剣捌きだよ!!」
八幡が操作する固体から切り離された物体は、八幡の操作が及ばなくなる。
土壁から切り離された土塊を切り崩して土壁を抜けたステイン。
八幡まで、残り3m。
身体強化をしたままガントレットを構える八幡。
ステインが振るう刀をそのまま右手のガントレットで受け、迫る二刀目も左手のガントレットで受ける。
更にお互いに膝をかち合わせ、刀とガントレット、レガースの応酬が始まる。
「速いな、マジで何の個性だ。それとも個性なしでこのスピードかよ忍者だな」
「パワーは完全に俺の負けか。何という恵まれた個性」
「個性は良くてもあと全部ダメだからな、俺の場合!」
主に社会性と性根が。
言葉尻にガントレットを振り上げて刀を防ぎ、そのまま地面から土を持ち上げてステインに1mほどの土の拳を振るう。
しかし、唐突に真下に現れた拳ですら八幡に刀ごと身体を押しつけて躱すステイン。
「ちけえよ照れちゃうだろ」
ふわりと跳び、八幡による横薙ぎのミドルキックが振るわれる。
ミルコ直伝、
しかもご丁寧に膝を折りたたみ、レガース部分がステインに当たるように仕向けている。
これでは刀を防御に使うついでに血を回収するということができない。
なんとか刀で蹴りを受けるステインだが、刀は折れ、そのまま真横に吹き飛ばされる。
人を叩き折るような蹴りではなく、蹴りごと身体を押し退けるような蹴り。
パワーでは負けているとは思ったが、やはり身体強化の分が大きすぎる。
吹き飛ばされながら八幡に向かって正確に投げナイフを三本飛ばすステイン。
だが、二連続で出た蹴りに三本ともあらぬ方向へ弾き返してしまう。
「普通蹴り飛ばされてる時にナイフを投げようって考えねえだろ。本当にあんたどうなってんの…」
地面に散乱したナイフを見る八幡。
そこらに放っておいてステインやジェントルに使われては困る。
接続した地面を介してナイフと接続し、ナイフの刃を曲げて円形にしてしまう。
「何…!?」
「予習が足りてないな、ヒーロー殺し。体育祭ちゃんと見たんだろうな?」
「…貴様の個性は報道されていたわけではない。…貴様…地面や大気という自然物だけではないのか」
「その気になれば生物や現象以外はなんでも操作できるんだよ、悪いな。あんたにとっては相性最悪だな。最近は素手でかかってくる奴が多くてな…武器使ってくるやつなんて格好の的だよ」
最近の敵、というとオールマイト、雪乃、脳無等だが誰も武器を使っていない。
そもそも、現ヒーロー社会において、個性以外で武器を使用する者はヒーロー、
相手を殺傷するような武器は大きく、規制されやすい。
それに、武器などなくても個性が武器だ。
八幡の個性、接続操作の物質に対する接続速度は、一つ目の物体は0.1秒もかからない。
だが、一つ目の物体を介して更に二つ目に接続する場合は、0.5秒ほどかかる。
さらにその次は約1秒だ。
その時間は物体と八幡との距離や構造によって多少前後するが、0.01秒単位の世界である。
だから、ガントレットを介してステインの刀をいきなり操作するというのは簡単には出来なかった。
鍔迫り合いのような形に持ち込んだらあっさり操作できるが、ステインは一切止まることがなかった。
近接戦闘を得意としているな、と八幡はステインを見定める。
オールマイトやエンデヴァーのような巨躯とは違う、細身の強者。
ここまで身体の使い方が上手い戦闘巧者と八幡は初めて会ったのだ。
パワーがないが為に、武具に頼って回避を武器に戦うタイプ。
「あんたみたいなのが
「想いが先で手段は後であるべきだ。思想に基づかない行為はただハリボテのように破れやすい」
「だからあんたは強いってか」
「そう見えるなら重畳だ。貴様には俺の思想を是非理解してもらいたい。貴様は惜しい。貴様のヒーローとしての在り方は素晴らしいが、ヒーローらしくない言葉と態度が良くない」
「…言動がダメで在り方はいいってなんだよ」
「貴様はオールマイトのようになれる。いや、雄英体育祭では正にオールマイトの代わりだった」
「…」
この手の称賛は初めてだった。
お世辞でも建前でもない、思想犯の純粋な称賛。
なんと返したらいいか分からず、黙ってステインの言葉を聞き込む。
「これから、貴様はより一層世間の目が集まるだろう。次第に貴様の真価が問われていくだろう。それを見届け、貴様が道を踏み外した時はこの手で首を斬ってやろう」
「いや、せめて踏み外しそうになったら止めるくらいにしてくんない?」
「
「俺はオールマイトじゃねえよ」
バッと八幡から離れるステイン。
斜に構え、言葉を繕わずに不平不満を簡単に漏らすヒーロー。
だが、その言葉と行動はある意味純粋だと感じていた。
窮地に真価を発揮し、命を懸けて戦う、戦ってしまう自己犠牲の塊。
あの記者会見の場でも、八幡が一番に出した言葉はサンアイズ──陽乃への疑問と心配の声だった。
八幡にとって自分は第一ではない。
「…貴様を見る目が…俺にはまだ足りてないようだ」
「…日を改めるとか言って逃げる気じゃないだろうな」
「勘違いするな、見逃すのは俺だ」
「もちろん俺は見逃す気ないですけど?」
地面とステインの履いているスパイクを接続しようとするが、それよりも早くステインの元に雪と氷の嵐が降り注いだ。
間一髪で躱すステイン。
まさか、と吹雪の方を見る八幡だったが八幡の方にも大量の水の手が迫っていた。
がしり、と水の手に掴まれる八幡。
水の手になすがままにされ、現れた雪乃の後ろに引っ張られる。
「おい、扱い酷くね?」
「ヒーロー殺しね?」
「無視か」
「この男は殺させないわよ、何があっても」
「…仲間か」
雪乃の姿を見とめたステインが、雄英体育祭で八幡が抱きかかえていた少女だと気がつく。
それと同時に雪乃の目を見て、その意思が並外れたほどの強さを誇る、自分と同類だと見抜いていた。
この手の輩は、自分も含めて相手取るのは時間が必要である。
「…ハァ、潮時だな…」
「ここまでやってきて、はいさようならなんてさせるわけないだろう。いくらでも話せよ留置所で」
「俺の使命を邪魔されるわけにはいかん。退かせてもらう」
逃げ切ると宣うステインだが、そんなことは不可能に近いと雪乃は確信していた。
水と氷を操り、そのどちらかに触られたら一気に凍らすことが可能な雪乃。
大地と大気を自在に変形させ、武器とできる八幡。
この二人に狙われて逃げ遂せるのは二人の個性に直接の対策がある者か、ワープ持ちくらいしかいない。
「いくわよ、比企谷君。ヒーロー殺しを捕らえます」
「…まて、雪ノ下!」
ステインの丁度背後。
ステインの身体と重なるように出現した黒い靄。
八幡にとっては何度も見慣れた光景だ。
「…最悪だ。その可能性はないと思ってたけどなあ…オールマイトオタクが!」
「俺もそう思っていた」
「言っとくけど、そいつらはマジでただの
「俺と奴らの間には現状に対する改革という共通点がある。…それをどう壊すか…見届ける」
「死柄木か…!あんなのただのガキの癇癪だろう」
「それは俺の見極め次第だ…ハァ…。お前と同じでな。お前も、今は生かす価値がある」
「他人から価値なんてもらう必要がないな」
「そういう利己性のないところが貴様が英雄たると見なされる点だ……ハァ」
「悠長に話してる場合じゃないでしょう!」
雪乃が小さな水球を生成してステインに銃弾のように撃ち出す。
体育祭で上鳴に使った技、“穿水”である。
それを手に持ったランボーナイフで斬り裂くステイン。
「雪ノ下雪乃…貴様は俺と同類だ」
「殺人鬼と同じと言われるなんて侮辱の極みね」
「貴様のその男に対する想いは…究極の期待」
「?」
「…ハァ…俺の、オールマイトに対する期待と同じ…」
「…」
ワープゲートに呑まれていくステイン。
彼の言葉を雪乃はゆっくりと呑み込んでいく。
「…例えそうだとしても…私は貴方とは違うわ」
「?」
「貴方はただ、オールマイトの正しさに縋って過ちを犯しているだけ。私は
八幡の隣に立つ雪乃。
何があっても良いように、万が一の時は自分が彼を守れるように。
雪乃は、その男を一人でいさせる事をやめた。
「その過ち…いずれ、この男と共に止めてみせる」
「…その日が来る事を…俺も願う。この所業が必要なくなる世になったその日を」
ステインの姿がワープゲートに消え、ワープゲートも跡形もなく消え去った。
その場に残った八幡、雪乃。
少し息をつく二人。
雪乃が八幡に声をかける。
「貴方、本当に有名人ね」
「雪ノ下さんに言ってくれ。色々仕向けてるのあの人だろ」
「なら無駄ね。…職場体験二日目でこんな大物と出会うとは思わなかったわ」
「俺に会いにきたらしいぞ。後ろのも」
「後ろ?誰のことかしら」
「へ?」
後ろにいるはずのジェントルの方を見る八幡。
しかし、いつのまにか覆いかぶさっていた土ごと居なくなっている。
「おいおい、弾性の個性で抜け出せるような土の量じゃなかったぞ…!?」
「まだ
「…はい」
「…貴方のそういうどうでも良いところで失敗するところを忘れていたわ。折角ヒーロー初仕事で
「そういうお前はさっきの人はどうした。落とし物の人は」
「一緒に探し当てて、お礼の言葉をもらって別れたわ。その後貴方に連絡を取ろうとしたら取れないから、城廻先輩と連絡を取って貴方を探していたのよ」
「そういや、なんで連絡取れなかったんだ?……今は通信できるっぽいけど」
「それには私が答えよう!」
声高々に響いたその言葉に、見上げる二人。
空き地横のビルの上に、二人の影があった。
一人はジェントル・クリミナル。
もう一人は、今日最初の遭遇者の人形のように可愛らしい女の子だ。
だが、ジェントルの方は八幡と戦っていた時とは様子が違う。
何やらピンクの煙が全身から出ており、全身が少し大きく見えた。
「…もしかしなくても、
「やっぱり誘導されてたのかよ」
「ご明察!我が名はジェントル・クリミナル!」
「そしてその相棒ラブラバ!」
「我が相棒のお陰で見事窮地を脱したところだよ!そして、連絡不可能に陥らせたのは我が相棒の手管!パートナー・ラブラバは機械通信に強い!」
「機械通信という言葉選びがもう情報弱者ね…」
「ああ、道理で抜け出せたわけだ。あんた一人じゃ抜け出せないだろうと思ってたし」
「…何だか、間の抜けた男ね」
八幡と雪乃の言葉がぐさりとジェントルの胸に突き刺さる。
倒れ伏すジェントル、そんなジェントルを支えるラブラバ。
「ストレートな言葉が私の髭を曇らすぅ…」
「ジェントルしっかり!ジェントルのお髭は素敵よ!」
「誰も髭のことは言ってないのだけれど…」
ステインとの雰囲気の落差に苦笑いする八幡。
これが同じ
愉快犯と思想犯といったところだろう。
「んで、わざわざ声かけてきてなんか用か?」
声をかける暇があればとっとと逃げれば良いという意味合いで声をかける八幡。
だが、そんな2人を捕まえようとまでは思っていなかった。
ワープゲート間際のステインもそうだったが、この段階では既にジェントルとラブラバは逃げ切る算段がついているだろうと考えているからだ。
八幡たちとジェントルたちとの高低差は約8m。
八幡なら地面とビルの壁、彼らの靴で接続すれば捕らえられる可能性があるが、ジェントルたちは2人とも既に靴は脱いでいた。
抜け目のない愉快犯である。
「何、今回の許可をもらおうかとね」
「許可?」
「実は、このビデオカメラに先程までの戦いを撮っていてね。ほら、私と君の華麗な戦いも、君とあのヒーロー殺しとの手合わせもね」
「…はあ?許可ってまさか、肖像権気にしてるとかじゃないだろうな」
「もらえるかな?」
「…ツッコミきれねえ。雪ノ下、任せる」
「私に振らないでちょうだい。あの男、そもそも何者なの?」
「ジェントル・クリミナルとかいうTuber愉快犯だよ」
「No!現代の義賊だよ、可憐なアウトスノー!」
「可哀想に、厨二病というやつね。知ってるわ」
「心を抉る何とも厳しい指摘だ!!」
HAHAHAと涙を流しながら高笑いするジェントル。
そんな彼の目元をハンカチで拭うラブラバ。
何とも、熟年夫婦のような連携ねと雪乃。
ジェントルの方は銀の髭を生やしている為少し老けて見えるが、その肌を見る限り30代といったところだろう。
「お似合いね。
「なに?お前の好み歳上なの?」
「氷漬けにされたいのかしら。それならそうと言いなさい」
「ごめんなさい。だから手ェ離せ氷止めろちょっとまってマジで凍ってるぞこれ!!」
「あの2人よ」
「そっちかよ」
雪乃に凍らされた腕から氷を操作して剥がす八幡。
雪乃なりの抗議だろうが、少し情を感じるのは気のせいだろうかと隣の少女を見る。
「今日の戦いはそう遠くない将来、君の始まりとして語り継がれる事だろう。君には是非とも正義のヒーローとして名を残してほしい。そして、私はその男と最初に戦った
「…あんた、さっきから思ってたけど
「そう!私もかつての超常黎明期のスーパー
「…ステインに真っ先に殺されそうだな…」
「かっこいいわジェントル!今回の動画も…!?」
ラブラバの言葉を遮るように現れた羊毛の壁。
ジェントルとラブラバを覆うように四方に現れる。
「これは…パウンドシープの!」
「2人とも大丈夫!?」
「城廻先輩!」
「久しぶりに先輩の個性見たな…」
城廻めぐり、個性羊毛。
全身から羊毛を生成できる。
羊毛繊維の強度は高く、刃物で振った程度では傷つきもしない。
羊毛の元は野菜に含まれる食物エネルギーであるため、野菜を良く摂ればその分羊毛が生成できる。
「あの人、ジェントル・クリミナルだね!?2人には手を出させないよ!逃さないし!」
「いや、多分無駄ですよ」
「無駄って…あれ?」
ぼうん、という軽い音と共に弾け飛ぶ羊毛の壁。
見ると、ラブラバを抱えたジェントルが羊毛を突き破ったところだった。
ジェントルにはあんなパワーはなかったはず。
強化系の個性、それも他者を強化する個性。
「あれー、私の羊毛が…」
「あの人の個性か」
「私の愛とジェントルの力が!あなたたちの力を上回った!素敵よジェントル!!」
「ハハハ!ノーアームズ1人に敵わないのに、流石に3人相手にするのは無謀というもの!ここは退かせてもらおう!」
「勝手に来といて何また身勝手なことを…どうせならギャラ置いてけ」
「後日送付します!!」
あ、なら良いやという顔をした八幡を睨む雪乃、ほわーっとした顔で2人を見送る城廻。
空中で跳ねたジェントルは、ラブラバを抱えたまま一跳びで100mほどを跳び抜け、瞬く間に視界から消えていった。
「アレのおかげで動画投稿なんて半分自首みたいなことしても逃げ切れてるのか…」
「2人とも、大丈夫だった!?ごめんね、見てあげられなくて…」
「問題ありません。貴方も怪我はないわね?」
「ああ。ま、仕方ないですよ。ヒーローの困ってる人を助けないといけない性質を上手く突いてきたあの2人を褒めましょう」
「貴方、
「あいつらはこんなまどろっこしいことしないからな。美女使って誘き出すとかもしないだろうし」
「貴方、お父様から美人局の対策を受けているのではなかったかしら?姉さんから聞いたわよ」
「何でも話すなよ……俺のプライバシーが…いや、小町のせいでないも同然だったわそもそも」
辺りを見渡す城廻。
空き地がまるで不可解な芸術品のように成り果ててしまっていた。
「何があったか、教えてくれるよね?」
「ヒーロー殺しですよ。警察に情報提供お願いします」
「…比企谷君ってさ」
「はい?」
「人たらし?いや、
「不名誉すぎますよそれ…」
──────────
ステイン、ジェントル・クリミナルとの遭遇から二日経過後。
八幡と雪乃は保須市の病院、その一室に来ていた。
「災難だったわね、3人とも」
「いや、多分比企谷ほどじゃねえ…。お前は直接狙われたんだろ?」
「それで退かせてるのもすごいけど…」
「俺たちは、エンデヴァーに助けられたからな…」
病室のベッドにそれぞれ座る緑谷、轟、飯田の3人。
3人とも腕や足に包帯を巻き、痛々しい姿だ。
ステインたちとの戦いの翌日、八幡たちはテレビ局やメディアの取材を受けた。
ターボヒーローインゲニウムが襲われてから約一ヶ月、ステインの目撃情報は一切出ていなかった。
そのステインが、渦中の少年の元へ現れ、その真贋を見極めに来た。
メディアの囃し立て様は想像に難くないだろう。
だが、更にその翌日。
ヒーロー殺しが再び現れ、エンデヴァーによって拿捕されたという知らせがサンアイズ事務所に入ってきた。
その際、ヒーロー殺しは1人のヒーローとヒーロー事務所へ職場体験中だった3人のヒーロー科生徒を襲撃。
職場体験と聞き、まさかとお互いの顔を見合わせた八幡と雪乃。
ステイン関連の事情聴取を兼ねたお見舞いに病院へ行ってきてと陽乃に言われ、やってきたらやはり知った顔が2人を待っていた。
「まあ…命があってよかったな。アレは本物の人殺しだ」
「比企谷君は怪我はなかったの?」
「俺のところには殺しに来たって感じはあまりしなかったからな」
「そういう問題なのかなあ…」
「撃退したと聞いたが」
「撃退ってのは雪ノ下さん…サンアイズの方便だ。その方が聞こえがいい。実際はお互い有効打入れずに計りあっただけ。ジェントルの方は一度捕まえたんだがステインと争ってる時に逃げられた」
「ジェントルって…ジェントル・クリミナル!?」
「誰だ?」
「あのおっさん有名じゃないのね…」
ジェントルの名を聞いてピンと来たのは緑谷だけだったようだ。
ジェントルの頑張りは虚しいものかもしれない。
だが、合点が入ったような顔をした飯田がスマホを掲げて皆に見せる。
画面はある記事の特集が引用したある動画を示していた。
再生回数は200万回超にまで登っている。
「ジェントルとはこの男のことかい?」
「ん?…ああ、コイツだ」
「これ、比企谷君との戦いの動画じゃないかしら?」
「…おいおい、本当に流すなよな…」
「この動画の後半を見てくれ」
「…これは」
大分ジェントル寄りに編集された動画を早送りする飯田。
すると、八幡とジェントルの戦いが終わった後に、八幡とステインとの戦いまでが動画には盛り込まれていた。
「この戦いが、ヒーロー殺し終焉の序章だったのではないかと取り上げられているんだ」
「だから今日私と比企谷君までここに呼ばれたのね…。この後警察に呼ばれてるのよ」
「…つっても、この動画で出てること以外には真新しい情報ないんだけどなあ…。働きたくねえ」
「貴様のそのサボり癖は治らんのか」
「治りませんよって…げ」
病室の扉がガラリと開き、燃え盛る大男が姿を現した。
No.2、フレイムヒーロー・エンデヴァー。
「貴様、良くも俺の指名を蹴りおったな」
「いや、蹴ってないです。サンアイズに義理を果たさないと後が怖いので。ああ、あとヒーロー殺しの捕縛お疲れ様です」
「…まあ良い。来週の話は既に聞いているだろうな?」
「何のことですか?」
「知らんのか?」
「?」
「…後でサンアイズと根津校長に話を聞いておけ」
「はあ…」
猛烈に嫌な予感がする八幡。
雪乃も、また姉さんが何かやったわねと勘繰る。
緑谷も同様に首を傾げる。
職場体験は今週まで。
来週からはまた普通の授業のはずだ。
すると、轟がエンデヴァーに向かって刺々しい口調で話しかける。
「…おい、何の用だ。事情聴取は昨日簡易にだが終わったはずだ」
「悪いが、今はお前に用があるのではない。お前は明日退院だろう、今日はゆっくりしておけ。…ノーアームズ、アウトスノー。事情聴取だ」
「No.2を使いっ走りにするとか警察も偉いもんっすね」
「ついでだ。お前たちが来ているのはサンアイズから聞いていたからな」
「ここで待つよう姉さんに言われたから、どちらかというと使い走りにしたのは姉さんね」
「…怖いもの知らずだよな、あの人」
「うちの姉がすみません、エンデヴァー」
雪乃の謝罪に構わんと返し、2人を連れて病室を出るエンデヴァー。
後ろの八幡を見て、怪我のない姿に一先ず息をつく。
今は亡き友人2人を想って心中で呟く。
(…貴様らの息子は、大きく、そして強く育ったぞ…)
2歳時に起きた悲劇も、2年前に起きた惨劇も、
全て乗り越えて進んできた少年。
また一つ、試練を超えた。
──────────
「…はるさん、これ何の書類ですか?比企谷君の名前が前面に出てますけど」
城廻が手に取った書類をチラ見する陽乃。
ここはサンアイズ事務所。
八幡も雪乃も二人ともに西東京の保須病院に呼ばれたため不在。
今のうちに書類を片付けようと整理していた城廻が、見覚えのない書類を陽乃のデスクの上に見つけたのだ。
「読んでいいよ。そのうち全国に知れ渡る内容だし」
「では、失礼して。……これ…は?すみません、読んでもちょっと理解ができないというか……本当にやらせるんですか?」
「うん」
比企谷八幡とノーアームズという名前。
リストに挙げられたヒーローたちの名前に、ゴクリと緊張の唾を飲み込む。
高校一年生のヒーロー科生徒がやるようなことではない。
恐らく雪乃ですらやらないだろう。
特殊過ぎる、と城廻が八幡の境遇を嘆く。
「比企谷君、倒れないと良いですけど…学業と並行して、プロヒーローとのチームアップなんて。しかも、この顔ぶれは…」
「どんどん顔と知名度、それから安全性を示してかないとねー。彼がヒーローだってことを、皆に知ってもらわないと。今回のヒーロー殺しとの遭遇も総じて言うならプラスかなー。何せ、あの正義の差別者に認められたってことだからねー」
「ちょ、ちょっとはるさん!」
「ありゃ、問題発言だったかな?とにかく、今後は彼の立場を確保する為に動いてくから。めぐりもサポートよろしくね〜」
「か、彼が潰れちゃわないようにサポートします!おー!」
「おー!」