左隣にはとても卑屈だけどかっこいい男の子。
もう、この両手を離さない。
どこかへ行ってしまいそうな左手を握りしめて、彼女は少女と少年と共に行く。
──この二人に、相応しいあたしになる。
職場体験最終日夕方、サンアイズ事務所前。
八幡と雪乃は荷支度を済ませ、陽乃とめぐりに見送られるところだった。
結局、ステイン関連の取材と事情聴取で二日が潰れてしまい、陽乃の元で職場体験活動が行えたのは一日目と二日目の前半、最終日だけだった八幡たち。
「貴重な体験できてよかったねー比企谷君」
「あれを貴重と言ってしまえるあなたが恐ろしいです」
「希代の強者。強烈な異なる思想の持ち主。どう?感想は」
「確かに、異物感が半端なかったですけど。それだけですよ。ああいう手合いはどこにでもいます。ヒーロー殺しには思想を広める力と覚悟があっただけのこと」
「ふーん。雪乃ちゃんは?」
「そうね。私も、今を変えたいと足掻いていたことがあるから…彼の気持ちも、私は理解できるのでしょうね。理解しようとは思わないけど」
「…そっか。なら良いかな。ヒーロー殺しは確かに大層な考えを持ってたみたいだけど、だからと言って正当化される行為じゃない。どうせなら正規の手続き踏んで味方たくさん作ってやらなきゃね!」
「貴方の場合は味方じゃなくて下僕でしょ」
「なってみる?いやもうなってたかー!?」
「はるさん、そろそろ」
「あ、そうだね」
2人を見送りましょうと声をかける城廻。
改めて八幡と雪乃を見る。
とても優秀な後輩で、中学の頃からの付き合い。
城廻からしたら可愛くて仕方がない。
本当は由比ヶ浜さんも来て欲しかったけどと心で呟くが、職場体験で事務所が指名できるのは2人まで。
「また来てね!比企谷君、雪ノ下さん!今度はサイドキックとして、由比ヶ浜さんと一緒にね!」
「是非」
「比企谷君、貴方城廻先輩を毒牙にかけるような真似をしたら永久冷凍するわよ」
「しねえよ…。ただ、めぐりっしゅ☆パワーを分けてもらおうかと」
「ごめんなさい、この不良品は持ち帰りますので」
「人をリコール対象商品にするな、お持ち帰りされたくねえ実家に帰る俺は」
「貴方の実家は今私と同じ家よ」
「…ぐすっ」
「え、ちょ、城廻先輩!?」
「あ、なーかしたーなーかっしたー」
「婦女暴行で現行犯…」
「
唐突に涙を流し始めた城廻に、オロオロ戸惑う八幡。
だが、陽乃も雪乃も見てるだけで止めようともしない。
八幡だけが何故城廻が涙を流しているかがわかっていないだ。
「ご、ごめんね?悲しくて泣いてるわけじゃないから…」
「は、はあ」
「絶対、また一緒に仕事しようね…!」
「…そんなことでよければいくらでも」
「うん、指切りしよっか!」
城廻の言うことをなすがまま聞く八幡。
とりあえず元に戻ってくれた、と安堵している為である。
城廻の手の柔らかさと小ささにどきまぎしつつ、声を揃えて指切りする八幡。
「ゆーびきった!」
「ゆ、ゆーびきった」
「うん!」
「…と、ところで…雪ノ下さん」
「ん?」
城廻の満面の笑顔に吸い寄せられた視線を何とか外しつつ、陽乃に声をかける八幡。
陽乃が答えたことで気恥ずかしさが少しだけ軽減された。
「後が怖いんで聞いときますが……エンデヴァーの言ってた来週のことって何ですか?」
「エンデヴァーとのチームアップのことだよ」
「…何故?俺の力なんていらんでしょ、No.2に」
「君の経験値稼ぎだと思っていってきなさい。これ正式な命令ね。サンアイズ事務所サイドキックとして」
「…誰が、サイドキックですって?」
「比企谷八幡、ノーアームズが」
「俺が?」
「我がサンアイズ事務所のサイドキック♡」
「…おい?」
「その件はまだ未定だったはずだけど、何を勝手に…!」
「ただ、雄英所属のヒーローも兼ねるけどね。立場的には静ちゃんたち雄英教師と似たようなもんだよ」
続けて出た陽乃の言葉にピタリと口を閉じる雪乃。
そのまま考えに耽る。
恐らく、この案は陽乃と根津の折衷案だろう。
陽乃は八幡を手元に置いてサイドキックとして育て上げたい。
根津は雄英高校として、八幡を守りたい。
両者の狙いを組み込んだことで、今の八幡の立場が出来上がった。
「さ、もう日が暮れちゃうよ。詳しい日程と指示はイレイザーヘッドから聞いてね」
「…いま、凄いため息つきたいです」
「わざわざ幸せを取り逃がしたいなんて奇特だねー」
「そんなのあんた信じるような可愛らしい性格じゃないでしょ…」
「お、それは仕事を倍にしてくれっていう比企谷君なりのラブコールかな?」
「帰るぞ雪ノ下!迅速な帰宅が求められてる!」
「あ、また学校でねー比企谷くーん!」
いつになく俊敏な歩き方で駅に向かっていく八幡。
その後を慌てて追いかけようとして、陽乃の方へ向き直る雪乃。
「ひとつ教えて、姉さん。何故彼にそこまでするの?」
「ん?雪乃ちゃんと同じ理由だよ」
「…」
「…雪乃ちゃん。わかってると思うけど…
「…有象無象に渡すほど彼は安くないわよ」
「エンデヴァーや私も有象無象に入るの?」
「ええ」
「…ふーん?言うようになったじゃない」
陽乃のいつもの獲物を見る笑みが雪乃の前に現れる。
だが、それを決意の表情で見返す雪乃。
それも一瞬だけ、すぐに八幡の後を追いかける。
「…嬉しそうですね、はるさん」
「んー?わかっちゃう?久々に雪乃ちゃんと勝負だからね」
早歩きで八幡を追いかける雪乃の後ろ姿。
姿を消した八幡を探すが、すぐに曲がり角で待っていた八幡を見つけて頬を緩め、2人並んで歩き始めた。
「子供の頃はいつも私が勝ってたけど…今回も負けてあげないよ、雪乃ちゃん」
──────────
その夜。
雄英教師寮の一室。
八幡と雪乃の2人に平塚を加え、3人で机を囲んでいた。
ちなみに小町は既に夢の中である。
一週間ぶりなのに妹が冷たい、と八幡。
「ああ、チームアップ要請か。聞いているぞ。私もそのうちお前の付き添いで行くからな」
「付き添い?」
「比企谷1人を移動させるわけには行かんだろう。今回の職場体験で比企谷を含む生徒だけの移動許可が降りたのはプロヒーローである雪ノ下が同行していたからだ。来週のエンデヴァー事務所はサイドキックが雄英まで迎えに来てくれるから良いがな」
「…つまり、私的外出するとなると誰かヒーローを連れて歩けと?」
「お前の強さは雄英では信頼されているがな、オールマイトですら手を焼く
「あれ毎回毎回攫われてるじゃないですか。ダメでしょ縁起悪い」
「ちゃんと主人公になってるのもあるだろ」
「よくそんなの知ってますね…」
「二人ともレトロゲームに造詣が深いのはわかったので、本題に戻りましょう。来週はエンデヴァー事務所に比企谷君を預けるのはわかったのですが」
「完全にモノ扱い…」
「まさか、これ以降も続けるのですか?」
雪乃の確認するような質問に、ゆっくり頷く平塚。
結局のところ、陽乃の目的は八幡のヒーローとしての知名度の向上である。
その為、まずは人気ヒーローとチームアップすることで八幡の安全性を示し、彼がヒーローであると世間に認めさせるのだ。
「その次はミルコの予定だ」
「…サボらせてください学校行くんで」
「絶対に連れてくるよう頼まれている。何なら私が連れていくぞ」
「何か握られてますね?」
「…すまん、実は売ったお前のこと」
「俺の人権はないんですか…」
「…これを続けられると、本当にサンアイズ事務所のサイドキックとして認知されるわね」
「それがあの人の狙いだろ」
「貴方はそれで良いの?私と由比ヶ浜さんとの約束は?」
「あのな、世間の認識なんてどうでも良いだろ。俺たちでチーム組んでヒーローやりゃ良い」
「それはそうだけれど、ヒーローは人気商売でもあるわ。身辺整理を確実にしないと疑いの目を向けられるわよ」
「…サイドキック扱いされても卒業する」
「自信は?」
「…」
どんどん声が小さくなる八幡。
実際、陽乃から逃げ切る自信はまるでない。
いつしか葉山が言っていたが、陽乃は好きなものを壊れるまで構い続けるか、嫌いなものを徹底的に潰すのみ。
そして、八幡は壊れるほど諦めは悪くない。
「心配するな。陽乃もヒーローだ。いくらなんでも比企谷に不利益のあることはやるまい。最終的には比企谷に決めさせるはずだ」
「その選択肢を一つしか持たせずにさあ決めてね、って言いそうなのがあの人なんですけどねえ…」
「陽乃は今の状況を楽しんでいるんだろう。比企谷を手中に入れようとする過程も、雪ノ下とやり合おうとしている勝負もな。何せ奴も我々も既に山場は超えているんだ」
山場、と言われて八幡を見る雪乃。
そう、ここ二年の最大の懸念だった八幡の行方は判明し、既に社会情勢に彼は受け入れられつつある。
ここ一月の報道でも、八幡は好印象でニュースに取り上げられていた。
個性複数持ちの
外見も目だけ腐っているが悪くないと言われている。
悪い印象を持たれがちの異形型ですらない。
状況は好転しているのだ。
「私は陽乃との勝負を、君も雪ノ下も楽しめば良いと思うがね」
「楽しむ前に胃が痛みます」
「…私は、勿論この男を渡す気はありません」
雪乃の言葉に、平塚は目を見開く。
暗に八幡は私のものですと雪乃が言ったからだ。
パチパチと瞬きし、八幡を続けて見る平塚。
平塚の様子に不思議そうにしている八幡だが、ハッと気がついて目を逸らす。
雪乃も二人の様子がおかしいことに気が付き、何かしらと首を捻る。
そうしてまた八幡と同じように自分の言葉の意味に気がつき、顔を赤くして俯く。
「い、いえ違います今の言葉は綾です言葉の綾大体そもそも人はものではなく遺憾ながら彼も人なので姉さんがモノ扱いしてるように見えて私も別に彼を所有物だと言っているわけではなくて単に」
「いや、もう良い!な?寝よう雪ノ下」
「…比企谷、雪ノ下。同じ部屋で寝るなよ。ましてや同じベッドで…」
「何言ってるんですか教師が!!」
「教師だから言うんだよ。なんかそのまま結ばれそうな勢いだし…。いや、まあ不純異性交遊を止めるほど真面目な教師ではないんだが。比企谷に先を越されそうなのはムカつくがな」
「ひ、比企谷君と同じベッド…」
「…廊下で寝ます」
「ま、待て比企谷!私が悪かった!私のベッドで寝ろ?な?」
「平塚先生落ち着いてください、それもおかしいです」
「あ、戻ったな雪ノ下」
「普通に自分の部屋に行きますよ…。早々に意識なくなさいと何か起きそうで怖いです」
「何故私を見て下がる!?」
──────────
翌週。
久々にお互い会ったA組の面々は、朝のホームルーム前に職場体験談に勤しんでいた。
中でも取り囲まれたのはステイン関連の5人。
緑谷、飯田、轟には直接被害に遭っている為心配の声が。
八幡、雪乃には興味本位の声がかけられていた。
「てめえら何仲良く登校してきてんだおしどり夫婦かクソが…」
「峰田、爆豪みたいな口調になってるぞ…」
「ゆきのん、大丈夫だったって電話で聞いてたけど、やっぱり心配だったよー!」
「ありがとう由比ヶ浜さん。私はほとんど戦っていないから。声をかけるなら比企谷君に」
そう言われて八幡に視線を向ける結衣。
その八幡はというと、川崎と戸塚、折本の3人と話し込んでいた。
「外出許可!?そんなんいんの!?過保護すぎウケる!」
「過保護ってほどじゃないでしょ。比企谷の為ってんならわかるよ。…そっか。じゃ、京華たちに会いに来てくれるのは」
「いや、行くぞ。ただ、誰かプロヒーロー呼ばないといけないんだが」
雄英から呼ぶとしたら誰がいいか。
相澤は論外だろう、子供受けするような体面じゃない。
オールマイトならえげつないほどウケるだろうが、どう考えても呼べるようなスケジュールをしていない。
プレゼントマイクやミッドナイトは教育に悪い。
エクトプラズムは人間味を感じづらく、パワーローダーも同じ理由で却下。
(…雄英教師って子供に優しい形したヒーローいないのかよ。教師なのに)
「近隣のプロヒーローに警護を頼むのなら良いんじゃないかな?」
「流石戸塚いいアイディアだ!!」
「あー、なら千葉のヒーローっていうと…ハイ・エースとか?」
「…あの人はちょっとな。この前謝罪に行ったばかりだし」
「謝りに行った?」
「何にせよ、雄英として正式に依頼する必要があるんだよ」
「…めんどくさい一生徒だね」
「言うな、自覚してる」
「八幡のことがそれだけ大事なんだよ」
「俺も戸塚が大事だぞ!」
「もう、八幡ったら…。僕も大事だから、ね?」
「…戸塚君の時だけテンション違いすぎてウケないわ逆に」
「…なんかあの、比企谷と戸塚って危ない香りするんだけど」
「砂藤君、多分触れたらあかん奴や。…沙希ちゃん妹さんいるんやね!」
「まあね。なぜか弟共々比企谷に懐いててさ…なんでだろ」
「姉に似たんじゃない?」
「は?」
「サキサキ怖すぎ!」
教室の喧騒をシャットアウトしつつ、今後のチームアップ依頼のリストをスマホで見る八幡。
とりあえず現状、エンデヴァーとミルコは確定している。
そのうち職場体験の依頼にあったベストジーニストたちからも来るだろう。
予定としては土曜日を使う、また平日を一日二日使う程度。
今回のチームアップは雄英認可ということで、特別にヒーロー基礎学やヒーロー情報学の授業単位として扱われると平塚から告げられた。
だが、通常科目の国語や数学、英語等は補習が必要となるらしい。
「比企谷」
「…轟」
「大丈夫だったか?」
「あのな、怪我してんのはお前の方だぞ。それに、よく勝ったもんだな」
「…聞いたのか?」
「エンデヴァーから事実を全部聞いたよ。一応関係者としてな…凝血か。確かに俺と戦った時はこっちは怪我しなかったからな。アレじゃあ個性使えねえよ」
先週、病院から出て保須警察署へ向かい、事情聴取を受けた八幡と雪乃はその日起きた全ての真実を知った。
保須市に突如現れた3体の脳無。
保須が混乱に陥った中、ヒーロー殺しによる凶行が遂げられようとしていたこと。
そこに飯田が駆けつけ、ヒーロー殺しと単独で交戦。
その後、緑谷と轟も駆けつけ、1対3で辛勝。
ネットで物議を醸しているステインの最期という動画は、その後に起きたことだということ。
エンデヴァーが、資格未取得の立場で個性使用による重傷を負わせた3人を庇う為に、ヒーロー殺し拿捕の立役者として神輿にあげられたこと。
「何にせよ…とりあえず大人しく怪我治しとけよ。エンデヴァーも心配してんだろ」
「…心配なんてされなくても、怪我くらい治すさ」
「本当に嫌いなんだな、エンデヴァーのこと」
「好きになる理由がない」
「まあ、俺はエンデヴァーの家庭での顔なんて知らないからな…どうでもいいし。ただお前がエンデヴァーからそっぽを向くと被害被るのは周りの人間だからな?おっさんのご機嫌取りとかしたくもねえ」
「不機嫌にさせとけ…」
──────────
「ハイ私が来た。ってな感じでやっていくわけだけどもね、ハイヒーロー基礎学ね!久し振りだ少年少女!元気か!?」
「ヌルッと入ったな」
「久々なのにな」
「ネタが尽きたのかしら」
「尽きてないぞ、無尽蔵だっつーの」
「でも比企谷よりはハキハキしてるよね」
「俺を引き合いに出すな折本。ネタなら負けないけどな。各ヒーローの登場パターンとか真似できるし」
「相変わらずオタクウケるー」
一週間ぶりの授業初回は、オールマイトによるヒーロー基礎学。
しかしオールマイトのあまりのインパクトのない登場の仕方に、生徒たちは拍子抜けの顔をする。
とりあえず職場体験期間は雄英とオールマイトには何も起きなかったようね、と雪乃。
今年の雄英はUSJ事件、体育祭襲撃事件、保須事件と悪意という名の災難に三度も見舞われている。
だが、全てがマイナスに転じているわけではない。
この状況も利用していかなければ、雄英は立ち行かなくなる。
「職場体験直後ってことで今回は遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!!」
「レース?」
「救助訓練ならUSJでやるべきではないですか!?」
「あすこは災害時の訓練になるからな。私は何て言ったかな?そうレース!」
「解答待つんじゃないんかい」
「ここは運動場γ!複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯!5人5組に分かれて1組ずつ演習を行うぞ!救難対象者がどこかで救難信号を出したら街外から一斉スタート!誰が一番に救難対象者を助けにきてくれるかの競争だ!!もちろん、建物の被害は最小限にな!」
「指さすなよ」
ススススと爆豪に指さすオールマイト。
何のこっちゃと首を捻る八幡だが、爆豪なら必要以上に物を壊すなど日常茶飯事だろう。
「5人5組…26人いますけど」
「確かに」
「比企谷君は救助対象者役だぞ!」
「サボって良いんすか」
「サボりじゃないぞ!」
「確かに、比企谷君にこの手のレースをさせると飛んで行かれて確実に一位ね」
「お前本当に汎用性の塊だよな…」
「持つ者め!」
「ヒッキーズルい!」
「お前も大概ズルい個性だぞ忘れんな」
やれやれ、とオールマイトの方へ向かう八幡。
オールマイトと要救助者の待機場所の打ち合わせである。
一組目の生徒は芦戸、飯田、尾白、瀬呂、そして緑谷。
5人は指定の位置へ走っていく。
「比企谷少年、少し工夫をしたい。良いかな?」
「はあ…?」
「君のアカデミー賞顔負けの演技、期待してるぞ!」
「…嫌な予感半端ないです」
「はっはっは、君はまだまだ個性使用に慣れてないのでそっちを伸ばしてくれとサンアイズに頼まれててね!それもカバーできるので安心したまえ!」
「…まあ、特に流体操作は慣れてないっすね」
「ならそれだ!」
「?」
5人が分かれた様子と、ぽつんと高い給水塔の上に座る八幡をモニターで観戦する残ったA組一同。
オールマイトも八幡のそばで待機中である。
「飯田まだ完治してないんだろ、見学すりゃ良いのに…」
「クラスでも機動力いい奴が固まったな」
「うーん、強いて言うなら緑谷さんが若干不利かしら…」
「確かに、ぶっちゃけあいつの評価ってまだ定まんないんだよね」
「何か成す度大怪我してますからね…」
「トップ予想な、俺瀬呂が一位」
「あー…。うーん、でも尾白もあるぜ」
「オイラは芦戸!あいつ運動神経すげえぞ」
「デクが最下位」
「爆豪それワースト予想!ちゃんとモジャモジャ緑谷くん応援してあげなよー」
「ケッ」
「怪我のハンデはあっても飯田君なら気がするなあ」
「ケロ」
トップ予想を勝手に始めた切島たちを横目に、モニターの八幡とオールマイトを見る結衣。
八幡は怠そうな顔だった。
「変ね」
「確かに、変ですわね」
「何がだ?」
「どしたの、ゆきのん、ヤオモモ」
雪乃と八百万の疑問に障子、結衣が反応する。
「オールマイトがあそこにいるのに、何故比企谷君を要救助者にしたのかしら?」
「比企谷さんは何か役割があるのかもしれませんね」
「え?どゆこと?」
「…要救助者がオールマイトでも良かったんじゃないかということだな」
「その通りよ、障子君」
「またPLUS ULTRAなことしてくるってことかよ…」
「受難…」
ブザー音が鳴り、5人が一斉にスタートする。
速いのはやはり瀬呂。
テープで一息にパイプの上を行き、そのまま八幡の元へ目指す気だろう。
次いで尾白が尻尾をパイプに引っ掛けて障害物の上を目指す。
飯田はとりあえず八幡がいる給水塔の地点まで地面を走っていくようだ。
芦戸は指から酸を出して建物の壁を溶かして指掛けを作り、クライミング。
そして、緑谷は。
「うってつけ過ぎる!修業に!」
ぴょんぴょん障害物を飛び越えて進んでいく緑谷。
スピードで言えばなんと瀬呂より速い。
身体強化。
それも体育祭で見せた自損による骨折がない。
その様子を、遠目で八幡とオールマイトは見ていた。
「緑谷少年…!正解に辿り着いたようだな」
「アレが…あんたの後継者なんだな?」
「…やはり、知ってたのかい?」
「まあ…オールマイトの個性のことはあの老害に聞いていたからな。この前緑谷と握手した時、オール・フォー・ワンの顔がチラついたよ。…あんたの個性とオール・フォー・ワンは、元々一つだったからな」
「なるほど、それでか…。…その話は後でしよう。準備は良いかい比企谷少年」
「…あいよ」
ふわりと浮かび上がる八幡。
気体操作による浮遊である。
そのまま風を起こして更にぽーんと宙を跳ねるように動く。
そして、マイクを持つオールマイト。
『緊急連絡緊急連絡!!各ヒーロー候補生に告ぐ!!』
「なんだあ!?また
「落ち着きなさい」
「そうよ峰田ちゃん。これ、オールマイトの声よ」
その声に気を取られる芦戸たち。
ついでに、着地先の濡れたパイプに気が付かずにずるりと落っこちた緑谷。
『あ、緑谷少年!?』
「ちょ、オールマイト」
『し、失礼!…要救助者がパニックに陥り、自らの個性を使用してしまった様子!現在北北東へ高度を上げて浮遊中!』
緑谷を気遣ってシナリオを折りかけたオールマイトを白い目で見る雪乃。
変なところで英雄は間が抜けている。
「おい、これって…」
「見ろ!比企谷が浮いてるぞ!?」
「比企谷の気体操作…宙を風船のボールみたいに跳ねて動いてるね」
「何もないところで跳ねてるから完全に自演ね」
「まさか、空中で動くヒッキーを捕まえろってこと!?」
「本気で逃げる気があるわけじゃなさそうだぜ!?あいつもっと速いだろ!」
「それが自演…演習なんだろ。ナメやがって…どうせ逃げんなら本気で逃げろや」
八幡が逃げる方向に一番近いのは芦戸だった。
建物の壁を登り切り、おーいと八幡に向かって声をかける。
「比企谷ー!こっちこっちー!」
「たすけてー」
「は?」
「こわいよー」
「何その棒読み!?って、ちょっとぉ!?どこいくの!?」
無表情で怖がるフリをする八幡に何言ってんだこいつという顔で見る芦戸。
しかも、建物の上に立つ芦戸をスルーしてそのままふわふわと水平浮遊していく。
「へるぷみー」
「まさか、これも演習なのぉ!?」
必死に八幡を追いかけ始めた芦戸をモニター越しに見るA組生徒たち。
「おい…比企谷演技下手くそ過ぎだろ」
「でも、芦戸さんの声掛けはあまり良くありませんわ。要救助者はパニックにある」
「まずは安心させることから始めねえといけねえのか。無理矢理宙に浮く比企谷を捕まえられる個性は別に良いだろうが、芦戸にはそれは無理だろうな」
轟の言葉に、参加者を思い浮かべる結衣。
芦戸と飯田は無理。
尾白と緑谷はタイミング次第。
瀬呂ならテープをつければ簡単に捕獲できる。
だが、緑谷はまだ地面に落ちたダメージから復帰していない。
「ってことはやっぱり一位は…」
「瀬呂君ね」
結局、駆けつけた瀬呂が宙に浮いていた八幡をテープで引き寄せ、一位となった。
芦戸も途中から安心させる方針を取ったが少し遅かった為、二位。
三位以降は飯田、尾白、緑谷の順でまた宙に浮き始めた八幡に声掛けしてゴール。
一位になった瀬呂は八幡から「助けてくれてありがとう」というタスキを受け取っている。
「一番は瀬呂少年だったが、皆入学時より個性の使い方に幅が出てきたぞ!この調子で期末テストに向け準備を進めてくれ!」
「期末?中間は…」
「実は体育祭直後に済んでるんだよ!」
「テストなしでラッキーって喜ぶとこすかね」
「その分君の期末は厳しくするよう相澤君から指摘が出てるぞ!」
余計な進言しやがって、とこの場にいない相澤を恨む八幡。
次の組の準備を始める為、次の所定の位置へ移動し始める。
「比企谷少年」
「なんすか」
「後で話がある。授業が終わったら私のところへ来なさい」
「…さっきのですか」
「ああ。緑谷少年も呼ぶ」
「…了解」
その後もふわふわしたり地面に潜ったりついうっかり周囲のパイプ捻じ曲げちゃったりして生徒たちを困らせる要救助者役を続けた八幡。
それぞれの一位は雪乃、爆豪、結衣、戸塚だった。
ついでに一番タイムが早かったのは戸塚で、一番恐ろしかったのは爆豪である。
捻じ曲げたパイプを一息で爆破してそのまま突っ込んできたのは流石の八幡もひいた。
──────────
授業の終わりに更衣室に戻り、制服姿へと戻るA組生徒たち。
「久しぶりの授業、汗かいちゃった」
「俺機動力課題だわ」
「情報収集で補うしかないな」
「それだと後手にまわんだよな。お前とか瀬呂が羨ましいぜ」
「と、戸塚…もう少し離れて着替えるわ俺」
「え?う、うん」
隣の戸塚からそそそと離れて目を逸らしながら着替える八幡。
二年経っても戸塚を男だと思えなかった八幡であった。
どうしたのかな、と首を傾げる戸塚、彼に罪はない。
そんな二人や他生徒たちと話し込むこともなく壁に貼られたポスターを凝視している峰田。
峰田が向いている方向は女子更衣室がある方である。
その方向に不自然に貼られたポスター。
まさか、と夢見る気持ちでポスターを少し剥がし、桃源郷の入口を発見する。
逸る気持ちを抑えて近くにいた緑谷に声をかける。
「おい緑谷!!やべぇことが発覚した!!こっちゃ来い!!」
「ん?」
「見ろよこの穴ショーシャンク!!おそらく諸先輩方が頑張ったんだろう!!隣はそうさ!わかるだろう!?女子更衣室!!」
峰田が発見したのは女子更衣室に通じる覗き穴。
直径は2cmほどしかないが、十分壁を貫通していた。
ぐへへへと笑う峰田。
思いっきり犯罪者の顔である。
そんな峰田を嗜める委員長飯田。
「峰田くんやめたまえ!!ノゾキは立派なハンザイ行為だ!」
「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよォォ!!」
ビリッとポスターを壁から剥がす峰田だが、なかなか酷い失言である。
とても雄英ヒーロー科の一生徒とは思えない。
ガバッと壁の穴を覗こうとする峰田。
「八百万のヤオヨロッパイ!!由比ヶ浜のガハマパイ!!芦戸の腰つき!!折本の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!川崎の引き締まった身体つき!!麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱいに雪ノ下の貧にゅ」
峰田の目が穴にいく前に、がしりと更衣室の床が変形して伸び、峰田の身体を掴んでいた。
きょとんとしたのも束の間、膨大な殺気をその背中に受ける峰田。
誰のかなんて聞かなくても振り向かなくてもわかる。
だが、
「ひ、ひ…」
「…」
途端に萎む敵意。
ほんの一瞬だった。
峰田もほっと息をつく。
「おい、お前な…殺されるぞ。あっちにマジで容赦ない奴が二人いるからな」
「ひ、比企谷にじゃなくて?」
「なんでだよ。…ん?」
覗き穴の方を見ると見覚えのあるプラグが伸びていた。
目の前の峰田は八幡の方を向いていてまだ気がついていない。
少し考えた八幡だったが、まあ身から出た錆だなと床のコンクリを操作して峰田を壁の方へ少し押す。
「へ?の、覗けってことかな?」
「おい、いいぞ」
「ま、マジ!?許可がでってぎゃああああああああああああ!!!!」
ぷすり、と壁の穴から出てきたイヤホンジャックが峰田の目を突き刺し、そのまま爆音を流し込む。
あーあーと思いつつも止めはしない八幡、飯田。
「目から爆音がああああぁぁぁぁ!!!!」
「自業自得だいわんこっちゃない!」
「名前何つったっけ。もうそろそろ移動しないとまずいからもういいぞ耳の人」
八幡の声が聞こえたのか、すすすとプラグが元に戻っていく。
ついで、と言わんばかりに床のコンクリを壁にくっつけ、穴を塞ぐ八幡。
そして峰田からコンクリを全て剥がし、床も元通りにする。
床のコンクリが壁の覗き穴を塞いだ分少し量が減ったが、まあ誤差の範囲だろとそのまま更衣室を出ていく。
「耳郎さんも比企谷君も鮮やかな手際だ…!」
「手際ってお前な…まあいいけど。オールマイトのとこ、さっさと行けよ緑谷」
「え?う、うん」
がちゃり、と更衣室から出る八幡。
女子更衣室の前を通ろうとすると、扉が少しだけ開き、中からイヤホンジャックが伸びて八幡の腕に巻き付いた。
「へ?」
そのままイヤホンジャックが腕を扉の方へ引き寄せ、抵抗しない八幡も自然に更衣室の扉の方へ引き寄せられる。
「ちょ、待てなんだ!?」
「…うち、耳郎響香」
「へ?」
「うちの名前。ちゃんと覚えてよ」
「いや、その…」
「言って」
「…じ、耳郎さん」
「さん要らない。体育祭ん時みたいにロックに決めなよ」
「…耳郎」
「ん。よろしくね、比企谷」
「…おう」
「比企谷君、覗きを注意しておきながら自身も覗こうとするなんて感心しないわね」
顔を赤らめた八幡に冷水のような雪乃の声が更衣室の中から降りかかる。
慌てて扉から離れる八幡。
イヤホンジャックだけはまだ巻きついたままである。
「き、機嫌悪いな雪ノ下。アレ呼ばわりされるとこだったしな」
「それ以上口に出したらわかってるわね?」
「い、いやまあお前の姉がああだから、将来期待はできるぞ。…でも、中二の頃から特に変化があったようには」
「霜天──」
「逃げる!!」
「あ、比企谷…」
イヤホンジャックを急いで、しかし丁寧に腕から外して逃げ去る八幡。
しゅるり、とイヤホンジャックが女子更衣室の中に戻り、扉が閉められる。
雪乃の方を振り向く耳郎。
雪乃は自分の胸を見下ろしつつ、流石に成長しているはずと二年前時点を思い浮かべていた。
「…雪ノ下、比企谷と仲良いんだねやっぱり」
「え?…そ、そうね。他の生徒たちよりは…知った仲ね」
「あたしも、ゆきのんとヒッキーと仲良しだからね!響香ちゃん!」
「由比ヶ浜には聞いてないんだけど…まあ良いや。確かに、アイツ普段の感じは微妙だけど…やる時はめちゃ頼りになる奴っぽいし。うちも仲良くしたいね」
上機嫌になった耳郎が着替えの続きを始め、そんな彼女をまさかという目で見る雪乃、結衣。
折本は、本人のいないところで勝手にイイハナシが進んでいるのを感じ、やはりウケると笑った。
──────────
「し、失礼します」
仮眠室の扉を3回ノックした後、扉を開ける緑谷。
オールマイトに呼ばれてやってきたのだ。
中にいたのはソファーに座るトゥルーフォームのオールマイトと──壁間際に立っていた八幡。
なんで比企谷君がここに、と心底驚く緑谷。
だって、オールマイトの秘密は。
「え…」
「早く入れ。誰がこの人の姿見てるかわからないだろ」
「う、うん」
「掛けたまえ」
「はい…」
扉を閉め、オールマイトの向かいに座る緑谷。
八幡はそばにあった可動式の座椅子に座る。
「ひ、比企谷君もこっちにきたら?」
「いい。それより、訊きたいことがあんだろ…俺から訊くことは今回ない」
「…なんで、比企谷君がここに…」
「オールマイトから話を聞く為だ」
「そう、私が彼を呼んだ」
トゥルーフォームのオールマイトは、基本的にいわゆるNo.1ヒーローのオールマイトだとは知られていない。
マッスルフォームの姿が認知されているのだ。
しかし、八幡はトゥルーフォームのオールマイトを前にしても驚いてもいない。
「ど、どうして比企谷君がオールマイトのことを知ってるの!?」
「さっき説明された」
「さっき!?」
「比企谷少年は、私の個性のことを知ってたんだよ。…もちろん、緑谷少年の個性のこともね」
「えええええ!!?」
「おい、声抑えろ…。それに、緑谷のことはなんとなくオールマイトの後継じゃないかなって思ってただけです」
「緑谷少年、それと比企谷少年も認識合わせのために聞いてほしい。…ワン・フォー・オールとオール・フォー・ワンについて」
それから、オールマイトは二人に現状知る全てを話した。
ステインのこと。
ワン・フォー・オールの詳細。
そして、それの元となった個性であるオール・フォー・ワンのことも。
ごくり、と唾を飲み込む緑谷。
オール・フォー・ワンの話を聞き、少しオールマイトに聞き返す緑谷。
「ネットとかでは噂話はよく見ますけど…創作じゃないんですか?教科書にも載ってないし…」
「噂だけなら全然よかったんだがな」
「
静かに緑谷の質問を否定する八幡とオールマイト。
その雰囲気に、両者冗談の一つですら言っていないと感づく。
「…その話が、ワン・フォー・オールとどうつながってくるんですか?」
「オール・フォー・ワンは「与える」個性でもあると言ったろ。彼は与えることで信頼…あるいは屈服させていったんだ。ただ…与えられた人の中にはその負荷に耐えられず、物言わぬ人形のようになってしまう者も多かったそうだ。ちょうど脳無のように………ね」
「……!」
「そして、耐えられた者の一人が比企谷君になる」
「え!!?だって、今の話は大昔の話じゃ…」
「オールマイト、その話はまた後でお願いします」
「うん。…一方…与えられたことで個性が変異し、混ざり合うというケースもあったそうだ」
オール・フォー・ワンには、かつて無個性の弟がいた。
体も小さく、ひ弱だったが正義感の強かった弟は、兄の支配から争い続けた。
「そんな弟に彼は“力をストックする”という個性を無理矢理与えた。それが優しさ故かはたまた屈服させる為かは、今となってはわからない」
「まさか…」
「うん…。無個性だと思われていた彼にも一応は宿っていたのさ。自身も周りも気づきようのない、“個性を与えるだけ”という意味のない個性が!!力をストックするという個性と、与える個性が混ざり合った!これがワン・フォー・オールのオリジンさ」
驚愕する緑谷。
そんな彼を横目に、オールマイトは八幡の方へ向く。
「認識は合っているかな?」
「…本人に聞いた通りですね」
「そうか。騙すようなことはしてないようだね、奴も」
「ほ、本人って…大昔にいた悪人の話ではないんですか!?」
「…奴は今もいるんだよ」
「個性を奪える人間だぜ?何でもアリさ。成長を止める個性…そういう類を奪い取ったんだろう。半永久的に生き続ける悪の象徴…覆しようのない戦力差と当時の社会情勢…」
超常黎明期、世界は混沌の最中にあった。
誰もが自分の身体に起きた異変と、周囲との偏差に苦しむ日々。
その中で、いち早く自らの異変を武器に変え、悪意のまま勢力を拡大させ始めたオール・フォー・ワン。
勝負は火を見るより明らかだった。
「故に、敗北を喫した弟は後世に託すことにしたんだ。今は叶わずとも…少しずつその力を培って…いつか奴を止めうる力となってくれ…と。そして、私の代で遂に奴を討ち取った!!」
「!」
「ハズだったのだが…奴は生き延び、
「
「…まあ、そういうことだ」
八幡に目を向ける緑谷。
オール・フォー・ワンが今も生き続け、
生物操作の個性は、オール・フォー・ワンによって八幡に与えられた個性だったのだ。
「ワン・フォー・オールは言わばオール・フォー・ワンを倒す為受け継がれた力!君はいつか奴と…巨悪と対決しなければならない…かもしれん」
オールマイトの懸念に押し黙る緑谷。
昔ならいざ知らず、オールマイトがもたらした平和の現代では、正直ピンと来ないかもしれないなと八幡。
今の時代、誰かを斃す使命を背負うなどヒーローでもない。
何せ、他にも斃せるヒーローがいくらでもいるからだ。
だが、オール・フォー・ワンは違う。
アレを斃せる者など、現状オールマイト以外には存在しない。
「酷な話になるが…」
「頑張ります…!!」
「…緑谷」
「オールマイトの頼み…何が何でも答えます!あなたがいてくれれば、僕は何でも出来る…出来そうな感じですから!!」
「──!」
「そこ尻込みすんのかよ」
「が、頑張るよ!」
緑谷の言葉に、口元を抑えるオールマイト。
その様子を訝しむ緑谷、八幡。
ゆっくり口を開き、緑谷に向かって出した言葉は。
「…………ありがとう」
残酷さを抑えた、表面的なお礼の返事だった。
「…ま、とりあえず現状は気にするな。お前のやらなきゃいけないことはとりあえずヒーローになることだろ」
「う、うん」
「…オールマイト。一つだけ訊きたいことがあったのを忘れてました」
「…聞こう」
「六年前、俺の親父が戦いを挑んだのは…オール・フォー・ワンですね?」
「え…」
「…そうだ」
六年前、比企谷八幡10歳。
比企谷八幡の父、ヒーロー“ヒキガヤ”は。
その身を再び戦いの場へと躍らせ、そして死んだ。
オールマイトと共に、オール・フォー・ワンと戦うことで。
「まあ、そうなんじゃないかと思ってましたよ。じゃないと俺がオール・フォー・ワンに目をつけられる理由がない」
「…比企谷少年」
「わかってます。俺の親父のせいでもないし、ましてやあんたのせいでもない。悪いのは全部あの老害です」
「…」
「緑谷はまだ仮免取得前ですが…俺は既に戦う資格も立場もあります。オールマイト…オール・フォー・ワンにケリをつけるなら、俺も参加させてください」
「そ、それは…」
「アレをどうにかしないと、俺はいつまで経ってもヒーロー同伴で外出ですからね。俺のプライバシーがあの老害のせいで全部無くなってるからそこだけどうにかしないと」
「そんな理由!!?」
冗談めかす八幡、それにわざと乗るオールマイト。
少しだかその場の雰囲気が柔らかくなった。
「緑谷」
「!」
「お前はあの老害のことを覚えておく必要はない。…俺たちでやっとくから、お前はさっさとワン・フォー・オール使いこなしてヒーローになれ」
「…うん、ありがとう比企谷君」
緑谷の言葉には応じず、仮眠室を出る八幡。
その目には、固い意志が込められていた。
(緑谷たち次代のヒーローに、俺たちの不始末を押し付けてはいけない)
──────────
しばらくした日の夕方のホームルーム。
夏休みが近づいていた。
四月の分を丸々補習地獄をほとんど進め、更には先週エンデヴァーとのチームアップがようやく終わった八幡は机に突っ伏したままである。
ちなみに相澤からは無視されている。
「えー…そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らがら30日間一ヶ月休める道理はない」
「まさか…」
「夏休み林間合宿やるぞ」
「知ってたよ──やった──!!!」
相澤の言葉にわっと湧くA組一同。
雪乃も八幡を叩き起こし、無理矢理話を聞かせる。
「肝試そー!!」
「風呂!!」
「花火」
「行水!!」
「カレーだな…!」
「湯浴み!!」
「峰田…やかましいよなんだ?」
「いや何でお前そんなにローテンションなんだよ比企谷!!テンション上げてけオラ!!」
「キャラ変わってるぞお前…」
峰田だけではなく、湧き立つ生徒たち。
やはりまだ高校生、合宿と言われると学生らしい楽しみな部分が多いのだろう。
「自然環境ですとまた活動条件が変わってきますわね」
「いかなる環境でも正しい選択を…か。面白い」
「寝食皆と!ワクワクしてきたぁ!!」
「ただし」
皆を一言で黙らせる相澤。
その後に続く言葉で皆を戦慄させる。
「その前の期末テストで合格点に満たなかった者は…学校で補習地獄だ」
「「みんな頑張ろーぜ!!」」
「期末ね…」
「ヒッキー勉強大丈夫?」
「お前な、俺よりも自分のこと心配しろ」
「そうよ、由比ヶ浜さん。比企谷君は今補習を沢山受けてるから割と勉強がわかるはずよ。割と」
「2回もいうな、元々国語とかは成績いいんだよ」
期末テスト、襲来──。
「…ていうか、期末前にミルコのとこ行かなきゃいけねえんだが」
「…そっちの方が受難ね」
「ヒッキーファイト!!」
「川崎、代わらないか?あの人お前のことも気にしてたぞ」
「私もアレは無理。諦めな」
「…畜生」
ついでに八幡にだけ、ミルコ襲来──。