自らの自分勝手な拒絶で、あっさりと。
彼女は悲しそうな顔で離れていった。
それを再び繋いでくれたのはもう一人の関係を持つ彼女。
──また始めればいいと、至極当然のように宣った。
「ひ、ヒッキーその手どうしたの!?」
期末演習試験の翌日。
結衣の目の前には、両手を包帯で巻かれた八幡が顔を顰めて席に座っている場面に出くわした。
昨日別れた時点では八幡の手には包帯などなかったはず。
そんな驚く結衣に、八幡の席に遊びにきていた瀬呂が捕捉する。
「午後の試験で個性使い過ぎたんだってさ。オールマイト相手に」
「試験終わって校舎戻ってから変に手が赤いのに気づいたんだってさ。しかも気がついたのが比企谷本人じゃなくて、比企谷をB組で連れ回そうとしてた拳藤だって言うんだから呆れちゃうよ」
耳郎の言葉に、ぎろりと八幡を睨む結衣。
余計なこと言うなよと耳郎を見るが、耳郎本人は不思議そうに二人の様子を見ている。
どこに結衣が怒る要素があったのか。
「ヒッキー……その両手、気がついてたのに無視してたでしょ」
「…」
「もう、ヒッキーのバカ!!ちゃんと治さなきゃいけないのは治すの!」
「由比ヶ浜さん、そのことは昨日たっぷり説教してあげたから。とりあえず労ってあげて」
そっと結衣の肩に手を添える雪乃。
昨日、雄英教師寮で小町と共に八幡の帰りを待っていた雪乃だったが、平塚と帰宅した八幡の異変に気がついてからの雪乃の怒り様は、想像に難くないだろう。
勿論、結衣と同じ原因で怒っていた。
「本当にバカね」
「もう、本当!ヒッキーノート取れるの!?」
「足で接続操作しまくってペン操作するからどうにでもなる。相澤先生には許可取った」
「無理しちゃダメだからね!!」
「…はい」
「でもさ、何でそのこと言わなかったの?治して貰えば良いじゃん」
「何か理由でもあるのか?」
耳郎と障子の言葉に、気まずそうにそっぽを向く八幡。
ハァ、とまたしても雪乃が言葉を出す。
「来週の月曜日、チームアップ要請があるでしょう。それを受けようとしていたのね」
「チームアップ……そっか。また信頼を得る為のヒーロー活動の…」
「…比企谷。ヒーロー活動は危険が付き物だろう。まだデビューしていない俺たちが言うのも何だが、流石に手が使えないのではどうにもならんだろう」
「障子の言う通りだと俺も思うけどな」
「…わかってるよ」
観念したように言葉を絞り出す八幡。
これは来週のチームアップ要請はキャンセルせざるを得ないだろう。
「んで、どのヒーローから来てたんだ?」
「…ベストジーニスト」
「ベストジーニスト!?」
「No.4の!?」
「本当に大物から来るな…」
「職場体験でもスカウト来てたから、自然と言えば自然ね」
「ジーニストかあ、良いなあ…。あの人カッコいいよね」
「…おはよう……」
その声に、思わず驚きながら振り返る生徒たち。
八幡も例に漏れず、何だとドアの方を振り返った。
いつものテンションとはまるで違う、恐ろしいくらい暗い気分で教室に入ってきた人物──上鳴を見る。
「か、上鳴?」
「どしたお前、いつもの能天気さと明るさはどこいった!?」
「…何気にひどくないか、瀬呂」
「…だってよう……期末落ちて……林間合宿…」
「それかよ…」
顔が萎んでいる上鳴は、昨日の期末試験で根津の迷路を突破できず、制限時間内に脱出ゲートに辿り着くことができなかったのである。
何という落ち込みぶり、と上鳴を見つめる八幡。
「よく合宿一つでそこまで落ち込めるな…」
「うおおおお比企谷あああ!!!言ってはならんことをおおおお!!」
「ひっ」
八幡の小さな声にピクリと反応し、凄まじい勢いで八幡の元まで駆け寄ってくる上鳴。
あまりの勢いとその恐ろしい表情に、八幡は小さな悲鳴を挙げる。
「ていうかお前は試験どうだったんだよ午後試験!!そして手ェ大丈夫か!!?」
「そこは通常運行なのね…。受かったよ」
「ぐあああああおめでとう!!!」
「情緒不安定か」
「デンキン、落ち着いて」
「…よく見たら、似たような人がいるわね」
「ん?」
教室の各所からゾロゾロと集まってきた切島、芦戸、砂藤。
切島に関しては、昨日八幡を応援して見送る時などあんなに元気だったのに、今日は何故そうなるのかというくらいこれまた落ち込んでいる。
「ちくしょう…合宿…BBQ…」
「俺も、BBQ後にスモアとか焼くつもりだったのに…」
「スモア?」
「どっかの国の伝統菓子だよ。ビスケットの上にマシュマロとチョコ置いて焼く奴だ」
「アメリカやカナダのものよ」
「ヒッキーもゆきのんも二人とも物知りだね!さすが!」
「みんな…合宿、楽しんできてね…。土産話っひぐ!楽しみに…うう、してるっ…がら!」
通常運行の元奉仕部3人組を他所に、切島、砂藤、芦戸の3人はいつになく暗い顔だ。
芦戸など半泣きである。
上鳴も合わせてまるでお通夜だ。
そんな芦戸の涙をハンカチで拭く葉隠、気を遣って声をかける緑谷。
「まっまだわかんないよ。どんでん返しがあるかもしれないよ…!」
「緑谷、それ口にしたらなくなるパターンだ…」
四人を慰める緑谷に、カッと目を見開き超速で緑谷の懐に入る上鳴。
おお、と八幡がそのスピードに感心する。
「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄!そして俺らは実技クリアならず!これでまだわからんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!!」
「落ち着けよ長え」
緑谷にキエエエエと目潰しをかます上鳴、落ち着くように声をかける瀬呂。
一応瀬呂も試験は合格していたが、ミッドナイトを出し抜いたのは峰田一人の力によるものであり、瀬呂は試験開始直後にミッドナイトに眠らされてしまっていたのだ。
「とにかく、採点基準が明かされてない以上は…」
「同情するならなんかもう色々くれ!!」
「予鈴が鳴ったら席につけ」
予鈴のワンコール目と同時に教室のドアを勢いよく開く相澤。
期末試験直後で彼の態度は変わらない。
渋々席に着く不合格組。
観念した、という表情だ。
「おはよう。今回の期末テストだが…残念ながら赤点が出た」
相澤の言葉に、より顔を俯かせる切島たち。
上鳴など全てを悟ったかのような、はたまた能面のような表情である。
「したがって…」
処刑台の上に立つ不合格組。
相澤の無情な次の一言を待つ。
だが、そんな彼らをハッと嘲笑うかのような表情で言葉を放つ相澤。
「林間合宿は全員行きます」
「「「どんでんがえしだあ!!!!」」」
(文脈繋がってなくね?)
余りに力の入った顔の四人を他所に、心中で相澤にツッコミを入れる八幡。
「筆記の方はゼロ。実技で、切島・上鳴・芦戸・砂藤。あと瀬呂が赤点だ」
「行っていいんスか俺らあ!!」
「確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな…クリア出来ずの人よりハズいぞコレ…」
「クリアはクリアだろ。期末不合格になっただけで」
「追い討ちかけんなよ!死んじゃう!!」
無表情で瀬呂を追い詰める八幡。
特に悪気もなにもないのが余計タチが悪い。
「今回の試験、我々
「…オールマイトが相手の時点で勝ち筋もクソもないんですけど」
「裁量は個々人に任せたからな。…それでも、お前は上手くオールマイトの弱点を突いたように見えたが?」
「…」
落とし穴に落ちたオールマイトがそれ以上二人に追撃を仕掛けなかったのは、オールマイトの活動限界が既にきていたからである。
そこまで追い詰めるほど耐久戦を挑んだ八幡の粘り勝ちとも言えよう。
「ええ…ヒッキー、オールマイト相手だったの?」
「…まあな。なにが悲しくて雄英最強の武闘派二人相手に二連戦しなきゃいけないんだか」
「…比企谷って実はヤバいんじゃないの?てかオールマイトに弱点なんてあんの…?」
「今更だよねー」
「おいそこ。俺がヤバいんじゃない、追い詰める人たちがヤバい。…ていうか、赤点取ったら学校で補習とか言ってなかったすか」
「そういえば、どこいったその話!?」
耳郎と葉隠の会話に釘を刺しつつ、相澤に疑問を呈する八幡。
尾白も気になって相澤に訊ねる。
「本気で叩き潰すと仰っていたのは…」
「追い込む為さ。そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点取った奴こそここで力をつけてもらわなきゃならん」
またカッと笑う相澤。
「合理的虚偽ってやつさ」
「「「ゴーリテキキョギィイー!!」」」
「て、テンションがおかしくなってるね…」
「どんでん返しが嬉しかったんだねー」
苦笑いする戸塚、これもウケると5人の様子を写真に撮る折本。
そこへワナワナと震えていた飯田が、挙手をして起立する。
「しかし!二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!!」
「わあ水差す飯田くん」
「確かにな。省みるよ。ただ全部嘘ってわけじゃない」
相澤の言葉にピタリと止まる切島たち。
「赤点は赤点だ。お前らには別途に補習時間を設けてる。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツイからな」
「──!!」
みるみる表情を青ざめる赤点組。
顔を青くして赤くして青くして、忙しい奴らだなと眺める八幡。
忙しそうというより、正直楽しそうだとも思ってしまった。
あんなに表情を劇的に変化させることは八幡にはない。
「ヒッキー」
「?」
「合宿、また行けるね。今度はクラスのみんなと一緒に」
「…そだな」
「今度は、ちゃんと来るんでしょうね?」
「…相澤先生に依頼も貰ったしな。行くよ」
「依頼?奉仕部の?」
「…いや、ヒーローとしての」
──────────
「まぁ何はともあれ、全員で行けて良かったね」
尾白の言葉に、赤点組は嬉しそうに頷く。
時は放課後、教室。
既にその日の授業を終え、A組の生徒たちは帰宅するところだ。
合宿のしおりを開く飯田。
事前に入念な準備が必要だと意気込む。
「一週間の強化合宿か!」
「結構な大荷物になるな」
「暗視ゴーグル」
「水着とか持ってねーや。色々買わねえとなあ」
「…おい、暗視ゴーグルなんて何に使うんだお前」
「常識でわかるだろ?のぞ」
「きとか言ったらヒーローとして捕まえるぞお前…。だいたい何覗く気だ」
「そりゃ男のロマンってやつさ…」
「それっぽく言っても無駄だぞ」
峰田を呼び止める八幡。
この性欲魔人はどうにかならないのか。
「あ、じゃあさ!明日休みだしテスト明けだし………ってことで!A組みんなで買い物に行こうよ!」
パンッと透明な両手を合わせ、自分なりの自己主張をする葉隠。
そんな彼女の言葉に胸を膨らませる一同。
「おお良い!何気にそういうの初じゃね!?」
「おい爆豪、おまえも来い!」
「行ってたまるか、かったりィ」
「轟くんも行かない?」
「休日は見舞いだ」
「ノリが悪いよ空気を読めやKY男共ォ!!」
峰田の言葉に、今時KYって言わんよなと八幡。
そんな彼に耳郎が話しかける。
「比企谷、あんたもどう?」
「え?」
「買い物だよ。あんたまだまだ持ってないもの沢山あるでしょ?おすすめの服とか選んだげるよ」
「お、それ良くね!?俺も服選んでやるよ!比企谷そういうのダメそうだし!」
「…俺はそもそも、外出許可ないと出れないぞ。ヒーローも呼ばないといけなくなる」
「そんくらい頑張ろうよヒッキー!」
「そうですわ。私たちも相澤先生にお願いしに行きますから…」
上鳴、結衣、八百万も八幡の説得に参戦する。
さてどうする気かしらと面白そうに眺める雪乃。
助け舟を出す気がまるでない。
寧ろ、八幡が捻くれた反論を出してきたら反撃するつもりでいた。
どう断ろうか、と周囲を見渡す八幡。
別に買い物に行くのは良いが、八幡の買いたいものが少し都合が悪いものだったのだ。
そこへ、チラチラと八幡の方を見る沙希の姿が目につく。
「あ」
「え?」
「…わかった。良いぞ」
「えええ!?あっさり!!本当にヒッキー!?名前の通り引きこもりなのに!」
「おい。…いや、まあ良いけど。…川崎」
「っ!」
「行こう」
「へ?」
八幡の言葉に、雄英に入学してから一番の惚けた表情をする沙希。
「な、なんて?」
「お前も明日行こうって言った」
「え」
その日、ある美しい女子生徒の叫び声が雄英校舎に響いた。
──────────
翌日、木椰区ショッピングモールに集合した1-Aの面々。
本日来ないのはかったるいと断った爆豪と、母親のお見舞いで不在の轟のみ。
なのだが。
「まだ比企谷来ねえなあ…」
「一緒にいるゆきのんが、もうすぐ着くって」
「沙希ちゃんもまだだねー」
「…なあ、あの二人…なんかあんじゃねえのか?」
まるで探偵のような気分で皆に問いかける峰田。
それに反応した葉隠が、恐る恐る峰田に聞き返す。
「…な、何かって?ていうか二人って…」
「比企谷と川崎だよ。あの二人昨日めちゃくちゃ変だったじゃねえかよ…!」
確かに、と思う戸塚。
沙希の方は偶に見る慌てた格好だったが、八幡の方は例を見ないくらい潔く耳郎たちの誘いに乗った。
更に八幡から沙希……というより、誰かを自発的に誘うなど信じられない積極性だ。
そのことに、結衣も少し不安に感じていた。
八幡の奥手ぶり、人の避け様からは信じられないくらいの姿だ。
「もしかして、付き合ってるんじゃねえだろな…あの野郎!!あんなクールビューティと…!グキギギギ」
「ええ!?比企谷君が!?沙希ちゃんと!?」
「いやあ、流石にねえんじゃねえか?比企谷が誰かとくっつくとこはそう簡単には見れそうにねえだろ」
「ああいう誰にも興味ないですよとかいう姿勢の奴こそ本性はエロいんだよ!!」
「お前みたいなオープンどすけべより余程マシだと思うけどな…」
「…あ、ゆきのん着いたって。ヒッキーも沙希も一緒らしいよ」
不安の表情を隠しつつ、スマホを見て明るい顔をする結衣。
それを聞いて、峰田の憶測を一蹴する耳郎。
「付き合ってる二人が、他の女と一緒にこんなとこ来るわけないでしょ」
「いやいや、カモフラージュかもしれないだろ!?」
「何をそんな必死になってんだ峰田…」
「あのなんちゃってイケメンに先越されるわけにはいかねえんだよぉぉ!!」
「…比企谷の方が峰田よりは全然先行きそうだな」
砂藤の言葉に、うんと頷く芦戸。
すると、人混みの向こう側に見慣れたアホ毛が見えた。
「あ、比企谷たち来たよ!あっち!」
「おーい!こっちだー!」
「全力で手を振る切島君……って、あれ?」
緑谷の目に映る八幡の姿。
八幡、雪乃、沙希が横並びでこちらに向かって歩いてきていた。
だが、その背後に更に何人かが見える。
何より、緑谷たちを驚愕させたのは八幡の腕の中。
ニコニコとした表情で、八幡とにこやかに話す女の子。
沙希の方にも向いてこれまたにこやかに話しかけ、沙希も女の子に応じて彼女の頭を撫でる。
青みがかった黒髪に、髪を小さくツインテール。
その髪は沙希のものにそっくりであり、目元も似ている。
八幡の方もその女の子に笑みを向けていた。
次第に人混みを掻き分け、緑谷たちの待つ集合場所へ辿り着く八幡たち。
表情をいつもの気怠いものへと戻し、緑谷たちの方を向く。
「悪い、遅れた」
「「「彼氏彼女どころか子供!!!?」」」
「は?」
「沙希ちゃんの妹!?」
「かわさきけーかです!」
驚いた表情の麗日、葉隠。
八幡の腕から床に降り、ニコニコと二人を見ている。
「かわいい〜!」
「天使みたい〜!」
「えへへー」
そして、こちらも。
緊張しながら、切島たちの前でハキハキと自己紹介する男子中学生。
「か、川崎大志っす!川崎沙希の…姉ちゃんの弟っす!」
「おお、よろしくな!」
「弟さんもいるんだ」
「まだもう一人下に弟がいます!四人姉弟っす!比企谷さん…比企谷小町さんの同級生っす!」
「…お前、まさか小町にまだ付きまとってるんじゃないだろうな」
「ちょっとお兄ちゃん恥ずかしいからやめて。マジで」
大志を睨む八幡、そんな八幡を後ろから叩く小町。
そして、更に八幡と小町の護衛の為に来た平塚。
「比企谷…そろそろ妹離れしたらどうだ?」
「俺は一生小町を毒虫から守ります」
「そしたら小町はいつ結婚するの!?」
「しなくていい!俺が養う!」
「もうやだこのくそ兄…」
小町に足蹴にされる八幡を見て、拍子抜けする結衣。
「ヒッキーが沙希を買い物に誘ったのって…」
「この前、けーちゃんに会ってくれって川崎に言われてたろ。外出するのも一々大袈裟に扱われるからな。良い機会だって思ったんだよ」
「「「けーちゃん!!?」」」
八幡の言葉に一人残らず驚く総武組以外の生徒たち。
名前を呼ばれて、麗日たちのところからトテテと八幡の方へ走る京華。
「はーちゃん、だっこ!」
「よーし、おいで」
「わーい!」
「は、はーちゃん…?」
耳郎がワナワナと震えて八幡の変わりように驚くが、八幡は周りの視線を気にせずに京華を抱きかかえる。
「大きくなったなあ、けーちゃん。もういくつだ?」
「むっつ!」
「そっか、まだまだけーちゃんは大きくなるなあ」
「…はーちゃん」
「ん?」
「けーか、もっと大きくなったら……」
「…大丈夫、けーちゃんが嫌って言うまで、抱っこするぞ」
「…はーちゃん、すき!」
「ああ、俺も好きだぞー」
「…ちょ、ごめん。アレ誰?」
「比企谷だよ」
「変身の個性で誰か化けてるとかじゃなくて?ホントに?」
「耳郎の気持ちはわかるけど、比企谷だよ」
「昔から、小さい子相手にはあんな感じね」
「ええ…」
「小町で小さい女の子を相手にするのに慣れてるんですよー」
「留美ちゃん相手にも優しかったよねえ」
「そういえば、留美ちゃんも総武に入学したんですよ、今年」
「え、うそ!」
小町の言葉に食いつく結衣、雪乃。
総武といえば、あのあざとい後輩のことを今更思い出す八幡。
体育祭での借りを返せと言われていたのだ。
(…まあいいか)
「比企谷君、妹の小町ちゃんも連れてきたんだね!」
「小町も外出許可が必要で、普段は雄英の敷地内から出られてないからな。気分転換に連れてきた。…悪い」
「全然!これを機に小町ちゃんと仲良くなっちゃうから!」
葉隠がリストバンドをした透明な腕をブンブンと振り、その存在感をアピールする。
京華を抱きかかえたままの八幡も、妹に好意的なクラスメイトに息をつく。
「はーちゃん、誰と話してるの?」
「ん?ここに人がいるんだよ。この人はなー、いつでも透明なんだ」
「とうめい?」
「
「いんびじぶる…!」
「おお、なんか嬉しい…」
子供は特別なものに弱い。
目に見えない葉隠の説明に対して、英語でそれっぽく話して特別感を出すのは、相変わらずの手口ね、と雪乃。
そこへ、雄英の一団が集まっていることに気がついた通りすがりの人々が、麗日たちに向かって声をかける。
「お、あれ雄英生じゃね!?体育祭うぇーい!!」
「お、おお…!まだ体育祭覚えてる人おるんや…!」
麗日が照れながら笑顔を作り、手を振り返す。
満更でもない様子でポーズを取る青山、上鳴等を彼らの視線が通り過ぎ、次第に京華を抱いたままの八幡へと移る。
「…あれ、あの日の…」
「比企谷八幡…だっけ」
「
「…」
次第に彼らのようなただの一団から周囲の人々に雄英生への注目が広がり、更に渦中の少年──八幡へと注がれる。
ヒソヒソと声をひそめて飛び交う八幡への噂話。
興味、悪意、敵意、疑念。
人々の表情と空気感を読み取る緑谷。
(本当に、比企谷君にはまだ人々の疑念が…!これ、ちょっとまずいかも…)
「ひ、比企谷君!」
「ん?」
「とりあえず早く買い物に行った方が…」
「…まあ、そうだな。俺がいたら迷惑になる」
「いや、迷惑じゃないよ!?けど、比企谷君が……その、嫌だったり…しない?」
「…別に。小学校や中学校ではいつもこんな感じだったし」
「ええ…」
何でもなさそうに無表情で答える八幡。
本人はまるで気にしてない様子だが、彼を見る緑谷たちや雪乃たちの表情は明るくない。
だが、八幡も京華や小町に悪いと考えていた。
沙希の方へ歩く八幡。
「けーちゃん、さーちゃんにチョココロネ食べさせてもらいな」
「チョココロネ!?たべるー!」
「あんた…」
「頼むな、さーちゃん」
「……バカだね、ほんとに」
「わかってる」
「…はあ。後でまた会うからね。大志だってあんたと話したがってるんだから」
「了解」
勝手に帰らないようにと沙希が釘を刺す。
それに応じ、続いて平塚と雪乃の方へ歩いていく八幡。
「平塚先生。面倒かけて悪いんですが、一緒に買い物でもどうです?」
「あのな、私は小町君の護衛だぞ」
「俺と小町の私的外出はそれぞれプロ一人の同伴が必要ってだけでしょ。どちらでも良いはず」
「…わかった。仕方ない、生ラーメンでも調達するか」
「いいっすね。俺も他に寄りたいとこあるんで」
平塚は小町の護衛、雪乃は八幡の護衛だったが、八幡の意思を尊重して交代する平塚と雪乃。
そこへ声をかける耳郎、切島。
「比企谷…」
「…なんだ?」
「別にウチらは気にしないよ?」
「…」
「そうだぜ、俺らいつも教室で一緒だろ!?それにあんなの気にすることねえよ!」
「…いや、でもな」
「ウチらもついてって良いですよね?先生」
「もちろん、歓迎するよ」
「ヤオモモ、いこ!ウチ大きめのキャリーバッグ欲しいんだ」
「あら、私もですわ耳郎さん」
「比企谷ー、服屋よ服屋!メンズ扱ってるさあ、あんま服ないっしょ?俺靴屋も行きたいんだよ、アウトドア用品店の」
八幡、平塚の後ろにつく耳郎、八百万、上鳴、芦戸、飯田。
目的ごとにバラバラに分かれて行動すると決めたらしい。
それを見て結衣もそちらについて行こうとするが、雪乃が結衣に声をかける。
「あ、ヒッキー。私も…」
「由比ヶ浜さん、一緒に水着を見にいかないかしら?」
「え?うん!行く!」
「林間合宿いくんですよね!?兄の好みを教えますよ!」
「ええ!!?」
「私も行きたい!水着欲しいし!」
「オイラも…」
「女子だけの買い物だからダメよ峰田ちゃん」
「行くぞ峰田」
「障子ぃ、お前は女子たちの戯れ…天国に行きたくねえのかよ!?」
「今のままだとお前の行き先は拘置所だぞ」
「ちくしょおおおおお!!」
雪乃、結衣、小町と共に続く葉隠、蛙吹。
沙希も折本と戸塚に声をかけられ、京華と大志を連れて別行動。
峰田は血涙を流しながら障子に連れられ、切島や口田たちと共に行く。
ポツネンと残った緑谷と麗日。
「う……麗日さんはどうする?僕はウェイトリスト、ちょっと重めの欲しいんだけど…」
「私は──…虫よけ……」
『君、彼のこと──…』
「──────…む…」
「む?」
「虫よけ─────!!」
「虫!?」
ぴゅーっと走り逃げる麗日。
割とショックを受け、一人残される緑谷。
この後、緑谷はある悪意と偶然の再会を果たすことになる。
──────────
「比企谷、キャリーバッグは?」
「ない」
「アウトドア用の靴は?」
「ない」
「その千葉Tシャツ以外の服もないだろう」
「これが3枚あるから良いです」
「「いや流石にない」」
八幡の言葉に首を横に振って静かに否定する耳郎と上鳴。
ちなみに今日の八幡の服装は緑の綿パンに“I ♡ 千葉”と書かれたシャツというとても簡単な服装である。
そして、一行がまず向かったのはアウトドア用品店を兼ねた服屋。
上鳴がささっといくつかダウナー系のシャツや上着を集め、八幡に次々と合わせていく。
「やっぱ暗い服装似合うな!…似合いすぎて怖いわ。アウトローにしか見うぇねー」
「お前が持ってきたんだろうが」
「…ダウナー…いいね。ウチも一着買おうかな」
上鳴が持ってきた服と八幡を見比べて悩む耳郎。
そこへ更に靴を持った芦戸と飯田がやってくる。
「ねーねー、これとかどう!?この靴とか似合うんじゃない!?」
「いや待て芦戸君!こっちの方が耐久性に優れているぞ!」
「…靴は構造が簡単なものじゃないと地面を接続操作しにくい」
「むむむ、ではこれはどうかな!?単純構造だがクッション性に優れているそうだぞ!この靴なら簡単に地面に接続できるのでは!?」
「んじゃそれで」
「…実用性でしか服装を考えてないですわね…」
「ヒーローとしては正しいけどね」
「…そういや平塚先生どこいった」
「あの人、比企谷の護衛じゃないの…?」
「ふふふ、どーだ比企谷!」
「…!」
八幡たちの前に、服装を一新して現れる平塚。
アウトドア用のズボンにブーツ、半袖のシャツにデニムの上着を肩にかけている。
全体的に若く見え、おへそもチラリとのぞいている。
「お、やればできるじゃないですか。もうさんじゅう」
「歳のことを言うな愚か者。私は女子だぞ」
「すみませんだからアイアンクロー外してください。それに女子はもう流石に」
「衝撃の」
「やめて死んじゃう!マジで!!」
「…平塚先生スペックたけー」
「なんでアレで結婚出来ないんだろ?結婚願望あるのに…」
「理想が高いんじゃない!?平塚先生、乙女なとこあるし…平塚先生より優秀な人とかじゃないとダメそう」
芦戸の目の付け所は間違っていなかった。
平塚静、彼女の理想は高い。
それもあるが、最もな一番の問題が一つある。
理想の男が、というよりも気の合う男が既に近くにいるのだ。
趣味嗜好が合い、気も合い、二人でラーメンを食べにいく程気の知れた男が。
問題は、その男が十以上も歳が離れている為に、恋愛対象にならないこと。
そして、本人たちが自覚していないこと。
「比企谷、このサングラスとかどうだ!こっちの色眼鏡もいいぞ!」
「良いっすね、一般人に見えそうで」
「だろう!?お前にピッタリだぞこれは!よし!買いだ!」
「…なんか、比企谷と距離近くない?」
「中学の頃からの恩師らしいですけれど…」
「…平塚先生が結婚出来ない一番の理由ってアイツじゃないの?」
「…そうかも。てか本人たち気づいてなくね?」
「? どうしたお前たち!」
「い、いいえ!…そうだ、比企谷さんは資金はどの程度用意されてますの?」
「資金?」
「あ、そうだぜ!やべえ、ジャンジャン比企谷のカゴに入れてたわ!」
「ああ…」
変哲の無い黒の財布を取り出し、カードを取り出す八幡。
「20万までなら良いぞ。どうせ買い物なんて滅多にしないし」
「まさかのクレカ!?」
「チームアップの先月分の給料がもう入ってきてるからな。エンデヴァーんとこに行ったやつが。それに元々親父の遺産がある」
「え…遺産?」
「…もう死んでるからな」
「あ…」
顔を青ざめた上鳴の頬をイヤホンジャックで叩く耳郎。
何故八幡と小町が雄英で寮を借りて暮らしているかなど少し考えればわかる。
二人に保護者がいないからだ。
触れない方が良い話題だろう。
気を取り直して服を手に取る耳郎。
「…比企谷、これとかどう?良いんじゃない?」
「…パンクっぽいな。てかこれ肩出るぞ」
「もっと冒険した方が良いよ」
「そうか…?」
「ひ、比企谷!こっちのとかどうよ!」
「わ、私はこれをお勧めしますわ!」
「うむ、この襟シャツなどどうだ!?服装を正すことにより心を正しくできる!」
次々と八幡に服を合わせていく上鳴たち。
それに応じて八幡もポイポイカゴに服を入れていく。
提案された服装に何も断ることがない。
そんな様子を少し離れて眺める平塚。
よかった、と心底息をつく。
「…先生?」
「ん?なんだ芦戸」
「…比企谷のこと、心配してたんですね」
「当然だ。奴は…私にとって、最高の生徒だよ。死ぬほど面倒臭いところや、誰かのために頑張れるところも含めて、な」
「ふーん…。先生もかっこいいですよ」
「はは、ありがとう。…私も、奴が戻ってきて肩の荷が降りたよ。ようやく教職に集中できそうだ。奴を、両親以上のヒーローに育ててやるさ」
「私もお願いします!」
「ふふふ、私は厳しいぞ?」
「…そういや、平塚先生って林間合宿いかないっすよね」
「「「え!?」」」
「あ、忘れてた」
「小町の護衛、よろしくお願いします」
「ええい、仕方ないな。比企谷は林間合宿を終えたら感想文を書くこと!捻くれてない普通のやつだ」
「げ」
「捻くれてない…?」
「ふふん、聞きたいか耳郎!奴はな、中学2年の時にそれはそれはふざけた感想文を」
「人の黒歴史を!!」
──────────
八幡の買い物を一旦終え、店内でそれぞれ自分の買い物を続ける上鳴たち。
一方、八幡はある物に目をつけていた。
アウトドア用品の前で無言で商品を見つめる八幡に、芦戸が声をかける。
「比企谷、どしたの?それ…ゴーグル?」
「…まあ、ゴーグルだな」
「比企谷の趣味じゃなさそうな明るい感じだね!」
「ストレートだな…。いや、俺がつけるわけじゃない」
「プレゼント?」
「…」
無言で頷き、薄いピンクのデザインのゴーグルを手に取る八幡。
そのまま会計に行く。
アウトドア用品店だが、プレゼント用の包装は行なってもらえた。
「だ、誰に渡すの!?川崎!?雪ノ下!?」
「…? いや、違うけど」
「まさか他にもいるの!?B組の…」
「いや、それも…」
『お、お客さまにご案内します!』
続けて否定の言葉を投げようとした時、店内放送がかかる。
だが、放送主の声は酷く慌てていた。
その様子に、すわ緊急事態かと構える八幡。
『げ、現在当ショッピングモールに
「え…」
(逃走?)
『お客様は、係員の避難誘導に従ってください!店員や警備員は店内のお客様方を誘導し、逃げ遅れのないよう店内の見回りをお願いします!繰り返します…』
「比企谷!」
途端に慌ただしくなる店内、放送を受けてすぐに駆けつけにくる平塚。
飯田たちも荷物を持って集まる。
「私はお前とは離れて動けん!意味がわかるな!?」
「はい。荷物はここへ置いていきます。飯田、この場の全員を連れて避難してくれ」
「比企谷君はどうする気だ!?」
「平塚先生と一緒に
「待ってくれ!他のクラスメイトたちと連絡を取りたい!」
「わかってる、今一斉送信する」
「早いな!」
連絡先を交換しておいて良かった、と八幡。
余談だが一昨日の試験時に何故かB組の連絡先まで交換していた。
A組のグループチャットを開き、全員それぞれ避難誘導に従って逃げるよう通告しようとする。
だが、その時新たなメッセージの通知が来る。
「…!!」
「あれ、比企谷もう送った!?」
「…麗日って人からだ。緑谷が死柄木に遭遇したらしい」
「は!?死柄木!?」
「死柄木って
「…比企谷!」
「わかってます。場所はさっきの集合場所です」
「急行するぞ!」
「はい」
店を出て通路に飛び出し、吹き抜けから1Fへ飛び降りる平塚、八幡。
飯田たちも平塚たちの分の荷物を持って慌てて集合場所を目指し始める。
急いで緑谷の元へ戻ると、既に警備員が緑谷と麗日を囲って警備に当たっていた。
警備員を掻き分けて緑谷の元へ急ぐ平塚。
「緑谷、無事か!?」
「は、はい!平塚先生、死柄木が!!」
「比企谷!」
「わかってます」
平塚の呼びかけに応じ、ヒーロー資格を示すバッジを取り出す八幡。
警備員の一人に声をかける。
「警備員さん、プロヒーローのノーアームズです。近隣のヒーローに救援要請は?」
「ひ、ヒーロー!?…す、既に出しました。近場のヒーローがまず三名、こちらに向かっています!」
「ショッピングモール内に残っているとは考えにくいです。奴の人相を伝えるので、ヒーローたちには木椰区内での捜索にあたらせてください。警察にも同様の連絡をお願いします。ここは我々が守ります」
「了解です!!」
バタバタと走り去る警備員。
八幡は緑谷の方を向く。
「何があった」
「死柄木が、話しかけてきたんだ。偶然だなって。首を掴まれて、通報したら通行人を襲うって言われて……そのまま30分くらい会話してた」
「…んで、どこ行った」
「麗日さんが戻ってきてくれて、そのままあっちの出口へ行った…」
「なるほど。偶然ね…。実際に偶然なのかはわからないが。緑谷を捕捉できる個性なんて持ってない…と思いたいがな」
オール・フォー・ワンの個性の数を思えば、そんな個性も持っているかも知れないが、緑谷のところへわざわざ死柄木一人でやってきて、会話だけして帰っていくなどほとんど意味がない。
やはり偶然の再会になるだろう。
「…緑谷。事情聴取はされるだろう、そのつもりでいてくれ」
「はい」
「比企谷、お前も多分…」
「ええ、されますね」
「え?な、何でですか!?比企谷君は…」
「相手は死柄木だぞ。
「そんな!」
悲痛な顔をする緑谷と麗日だが、比企谷八幡は自身の立場をよく理解していた。
「心配すんな、どうせそれっぽい個性かけられて白だって判明するだけだ」
「こ、個性って!思いっきり犯罪者の扱いじゃ…」
「市井に安全をもたらすなら、そういうことだってするのが警察と公安委員会だ。そういうもんだ。ヒーローの輝かしいところだけが普段見えてるだけだ」
その後、
緑谷出久並びに比企谷八幡の両名は、事情聴取で警察署へ同行した。
「…ってわけだ。大変だったねえ」
「何でいるんすか」
「いるに決まってるじゃない。うちの新人が事情聴取受けるんだから。連絡が来たんだよ」
その夜。
事情聴取を終え、警察署を出た八幡。
警察署の前には、平塚と陽乃がいた。
他の生徒たちは帰宅し、緑谷も事情聴取を終え、迎えに来た保護者と共に先に帰宅していた。
「あら、いっぱい買ったね?お金足りた?」
「普通に足りてますよ、要りません」
「あげるとは言ってません♪」
「…」
「比企谷、どうだった」
「特には。単に死柄木の思惑を聞かれただけですよ」
「疑われていないのか?」
「あの塚内って警部の人はあまりこっちを疑ってる様子はないですね。死柄木と
「…そうか。なら良いんだ」
陽乃が乗ってきた雪ノ下家の車に乗る3人。
このまま雄英まで送ってくれるらしく、その言葉に甘えることにしたのだ。
「だが、今回のことで合宿先は変更されるそうだ。先程相澤から連絡が来た」
「妥当だね。雄英って、毎年合宿の行き先一緒だったでしょ?」
「ああ。行き先は当日まで知らされないともな」
「…真剣に対策しましたね」
「そうね。…そうだ、比企谷君。ベストジーニストとのチームアップだけど」
陽乃の言葉に、顔を上げる八幡。
陽乃──サンアイズ事務所を通じてベストジーニストには、両手の怪我を伝え、チームアップ要請のキャンセルを入れたのだ。
「返事きたんですか」
「両手使えなくても良いから来てほしいってさ」
「は?」
「なんでも、君のためにチームアップをしたいって。パトロールや戦闘はしないから、来てくれってさ」
「…何する気ですかね?」
「何となく想像つくけどね。あと、コスチュームに関する資料全部持ってきてっていう連絡来てるよ」
「…まさか、俺のコスチュームに何がする気ですかね」
「ベストジーニストだからねー。ファッションリーダーだし」
げんなりする八幡。
今日、ただでさえ八幡の服に関してあれこれ試着されて疲れたのに、まだやらなきゃいけないというのは気が滅入る。
「それともう一つ!」
「なんすか…」
「I・アイランドって知ってる?」
「…アメリカが誇る個性研究の学術移動都市でしょ」
「そ。そこに行ってきて」
「は?」
「夏休み入ってすぐ、合宿前ね」
「ちょ」
「私はいけないけど、雪乃ちゃんつけるから。あとガハマちゃんもつけて良いよ。同伴者は三人まで可」
「な」
「君、オール・フォー・ワンに個性イジられたでしょ?その結果を、世界一の個性研究者に診てもらいなよ」
「…まさか、デヴィッド・シールドすか」
「うん!」
陽乃の笑顔に、粘っても無駄だと判断する八幡。
この夏は、今まで経験したことないくらい忙しい夏になるだろうと予想する。
その予想は決して間違ってはいないのだが、八幡の予想以上に慌ただしく、そして凄惨な夏休みになってしまうとは、彼はまだ知らない。
──────────
月曜日。
7月に入り、あと少しで夏休み。
合宿を楽しみにしつつ、結衣は1-A教室へと入っていった。
少し早く来すぎたかな、とドアを開ける。
この時間ではまだ誰もいないだろう。
そう思っていたが、一人の男子生徒に目がつく。
見慣れたアホ毛に、その生徒が誰かはすぐにわかった。
「ヒッキー!?」
「…おお」
「おはよ!め、珍しくちょー早くない!?」
「まあな。今来たばかりだ。んですぐ出てく」
「出てく!?」
「ベストジーニストんとこに行くんだよ」
教室の壁からコスチュームボックスを取り出す八幡。
慌ただしく書類をかき集め、カバンに詰めている。
「チームアップは断ったんじゃなかったの?」
「戦闘はないから来てくれってよ」
「…なにすんの?」
「雪ノ下さんには行ってからのお楽しみって言われた。よくわからん」
「ふーん…」
「それと、これ」
「へ?」
カタリ、と八幡から結衣に手渡されたプレゼントボックス。
箱には、“Happy Birthday!”と書かれている。
「え…」
「…まあ、なんだ。先月祝えなかったからな。忙しくて」
「…開けて良い?」
「好きにしてくれ」
包装を丁寧に解き、箱を開ける結衣。
中には、ショッピングモールで八幡が最後に手に取ったピンクのゴーグルが入っていた。
「これ…」
「防塵用のゴーグルだ。…2年前と違って、風を使うようになったからな。一緒に戦う時に目が開けられないとか言われたら困るんで、まあ、なんだ……。…気が向いたらつけてくれ」
「嬉しい…。ありがとう、ヒッキー。あたしのコスチュームに合った奴選んでくれたんだね」
「…」
「ありがとうヒッキー!大事に使うからね!」
「…もう行くわ」
「もう、照れないでよ!…気をつけてね!」
「…おう」
早足で教室を出ようとする八幡。
最後に、ぼそりと結衣に向かって呟く。
「…誕生日おめでとさん」
「!!」
「…じゃ」
「ヒッキー!!」
「?」
「大好きー!!」
「ばっ……!」
「そういう面倒くさいとことか、照れ屋なとことか!」
顔を赤くしながら、ドアを開いて逃げ去る八幡。
そんな彼を花が咲いたような笑顔で見送る結衣。
二人の、そして彼らの青春は続く。
Bonus Trackが最新話に常に表示されてしまうので何とかしてというリクエストが来たので何とかしました。
Bonus Trackは基本本編の付属品なので、本編の該当部分の直後に挿し込むという形にします。
過去編や番外編は……。
…まあ考えます。