自らの力不足の証。
受け継いだ力を、使いこなせるように。
そんな少年に、授けられた赤い籠手。
私も、貴方の力になれたなら。
──きっと、誰かは誰かのヒーロー。
I・アイランドの中心に建てられたセントラルタワー。
タワーの内部には、様々な研究施設に留まらず、この島の防衛システムやセキュリティマシンが格納されており、I・アイランドの要と言える。
I・エキスポのプレオープンの夜、そのセントラルタワーの二階にてレセプションパーティが開かれる。
そして、セントラルタワー七番ロビーにて、レセプションパーティへ向かおうと飯田たちは集合しようとしていた…が。
七番ロビーに集まっていたのは、飯田、上鳴、峰田、轟のみ。
ちなみにバイトでI・エキスポに来ていた上鳴と峰田はレセプションパーティに参加する予定はなかったが、労働に励む二人を見ていたメリッサの計らいにより、二人ともレセプションパーティへの招待券を手に入れていた。
「何故時間を守れない…!既に約束の18時30分はとうの昔に過ぎているというのに!」
「まあまあ飯田、女子は支度なげえしさ!」
「そうだぜ、女子どもは今日この日を飾るために、時間かけて準備してんだよ!」
「むう…緑谷君は急いでこちらに向かっているそうだ。しかし、爆豪君と切島君は連絡がつかないし、総武組は…」
そこへ慌ててエレベーターでやってきた少年、緑谷。
緑谷も含めて、皆正装に着替えている。
「ご、ごめん遅くなって!」
「緑谷君、ようやく来たか!」
「あ、あれ?他のみんなは?」
「まだ来てない!団体行動を何だと思っているんだ!」
右手を忙しく上下させて憤慨する飯田。
彼は決め事に強く、約束とルールを守るクラス委員長である。
その時、また別のエレベーター入り口が開き、今度は正装のドレスに着替えた麗日がやってくる。
「ごめん!遅刻してもうた!」
「「おお〜!」」
麗日のドレス姿に歓声をあげる上鳴と峰田。
緑谷も頬を赤らめている。
肩が出ている大胆且つ可憐な、ピンクと白を基調としたドレスに、髪には白と黒の花のコサージュ。
いつもとは違うクラスメイトの姿に、1-Aのデカメロン峰田も満足そうである。
「申し訳ありません…耳郎さんが」
「「OH Yes!Yes!!」」
再びエレベーターが開き、中からライムグリーンのエンパイアラインのドレスを身に纏った八百万が現れる。
金のティアラで髪を留め、ポニーテールに下げてた髪をアップにまとめていた。
そんな八百万の姿に、轟も物珍しそうに目を惹かれていた。
その八百万に隠れるように現れたのは耳郎。
前髪を半分上げてピンクのコサージュで止めており、こちらもまたいつもとは違う印象を受ける。
少し濃いピンクのAラインのショートドレスに、黒の羽織上着を着た彼女は、自身のイメージを崩さず、且つ上品に仕上がっていた。
だが、そんな姿が慣れてないのか恥ずかしいのか、こちらは顔が赤い。
八百万は手慣れた様子だ。
「う、ウチ…こういうのは…その、なんというか…」
「馬子にも衣装って奴だな!」
「…女の殺し屋みてえ」
デリカシーがない二人に耳郎のイヤホンジャックが伸び、自身の心音を爆音でぶつける耳郎。
「黙れ」
「なんだよ俺褒めたじゃんか〜」
「褒めてないっ」
ちなみに上鳴は褒めたつもりだったようだが、馬子にも衣装は褒め言葉ではない。
そんな3人を冷や汗をかいて見ていた緑谷に、麗日が照れ隠しに話しかけに行く。
「正装なんて初めてだ、八百万さんに借りたんだけど…」
「に、似合ってるよ!うん、すごく!」
「デデデぇク君ったら!お世辞なんて言わんでいいって!!」
「麗日くぅん!?」
照れながら褒める緑谷、荒ぶる麗日、そしてそれを心配する飯田。
再度エレベーターが開き、現れる人物。
その姿に今日一番の興奮と鼻息を見せる上鳴、峰田のエロコンビ。
「デク君たちまだここにいたの?パーティ始まってるわよ!」
髪をアップにまとめ、眼鏡を外し、その美しさをふんだんに前面に出したメリッサである。
こちらも正装の夜会のドレスに身を包み、そして何故かそれに涙する上鳴と峰田。
「真打ち登場だぜっ!」
「やべーよ峰田俺どうにかなっちまうよどうしよ〜!!」
「…どうにでもなれ」
二人の感涙に呆れた様子で白い目で見る耳郎。
一体何が彼らをそこまでさせるのか、と言わんばかりである。
メリッサが皆を見渡し、その人数を確認して緑谷に話しかける。
「あら?全員はまだ揃ってないのね」
「はい。えっと…かっちゃんと切島君は?」
「二人はどちらも電話に出ない。雪ノ下君と由比ヶ浜君は先にパーティ会場へ向かって、主催者や来賓の方々に挨拶して回ってるそうだ」
「そういえば、雪ノ下さんは家の代表で来てるって言ってたっけ…」
「比企谷君、あと川崎さんもいないね」
「あの二人はさっき…」
飯田の言葉途中で、また再び開くエレベーター。
中から出てきたのは、オレンジの色眼鏡をしたオールバックの男。
灰色のスーツを身に纏い、ネクタイまで締めたその姿に身構える一行。
「…」
「…」
「…」
「…?」
「…その、何か変か?」
「も、もしかして比企谷君?」
「え?うん」
「「はいぃ!!?」」
色眼鏡を外したその顔は確かに比企谷八幡だった。
よく見ると、オールバックに仕切れていないいつものアホ毛が一本だけアクセントのように立っている。
「ど、どうしたんだその髪!そして眼鏡!!」
「いや、これは…」
「ちょっと、突っ立ってないで早く出な」
「ああ、悪い」
八幡の後ろには、細めの蒼いマーメイドドレスを身につけた沙希が現れる。
マーメイドドレスの流れる向きに合わせて髪は下ろし、一つにまとめていた。
いつも髪をまとめるのに使っていたシュシュは右手首につけている。
「うわあ、沙希ちゃん美人…!」
「泣き黒子美人だ、川崎半端ねえ…!」
「な、なんか…すごい見られてるんだけど。なんかした?あんた」
「…鏡見ろ」
「は?」
八幡の一言に怪訝に思うが、鏡と聞いて何かおかしいのかと首を捻る沙希。
(こいつも大概鈍いな)
自分の容姿がどれだけ優れているかなど、友達付き合いがあまりなかったと言わざるを得ない沙希にとってはわからない物なのだろうか。
そんな八幡に歩み寄る耳郎。
信じられないという顔である。
「ひ、比企谷。あんた…やればマジで出来るじゃん…」
「…お、おう。雪ノ下にちゃんとしてけって言われて、一応な…」
「ちゃんと背筋伸ばしたら上鳴やヤオモモより大きいんだね…。もっと普段から身だしなみ整えなよ」
「…善処する」
「いや絶対それしない奴だよね」
「…そっちも、アレだな…」
「え?」
「…その、なんだ…」
「どうしたの?」
「…服に着られてる感が出てないな」
「へ?…………………え?」
八幡の言葉を数秒考え、まさか遠回しに似合ってると言われたと自覚する耳郎。
思わず放心してしまう。
「…女の殺し屋とマフィアの若かな」
「また爆音食らうぞー峰田」
「いやだってそんな感じじゃね?…あれ、来ないぞ」
「…じ、耳郎さーん?」
「…どうやらショートされているようですわね」
「呼んだか?」
「い、いいえ!!わわわ私が名前呼びなんて、そんな…」
「?」
「…カオスや」
「い、飯田君」
「うむ!皆、レセプションパーティへ向かおう!」
───────────
同時刻、レセプションパーティ会場。
数多くの正装の来賓が食事をとりながら談笑していた。
中にはプロヒーローたちも多く見える。
彼らに混じって正装姿の雪乃は、結衣と共にデヴィット・シールドへ挨拶を済ませているところだった。
「そうか、君たちは比企谷君の友人の…」
「いえ、友人ではなく同伴者です」
「そ、そうかい?」
「ゆきのん…あのね…。…まあいっか…」
「この度はお招き、ありがとうございます。…比企谷君の調査結果は、どうだったのでしょうか」
「あ、それ私も気になります」
二人の言葉に、ポケットから昼間に八幡が身につけていた計測器を取り出すデヴィット。
「これには、今日の彼の戦闘記録が入っている。時間にして総計は30秒程度。だが、彼の個性については十分推論が立てられるよ」
「推論、ですか?」
「…君たちは、彼の個性についてどこまで知っているんだい?」
「…元々は固体操作という個性の持ち主で、実は母親の流体操作を受け継いでいることを知りました。両手両足から生物以外に接続ができ、それを繋げていくことができる。そして、かつてオール・フォー・ワンに生物操作を与えられ…強奪された」
雪乃の説明に頷くデヴィット。
二人の間の認識は大凡共通していた。
「そう、つまり彼の個性は一時的に4つあった。最も、正確に言えば接続操作という個性と生物操作という個性の2つだ。けれど、彼は生物操作の個性を再び奪われた…」
「はい。それが…?」
「奪われた後の個性の活性を、今日のこの計測器で確認したんだ。…だが、どの個性を使用する時にも全く反応しない個性因子の部位があった」
「えっと…反応してないって、使ってないってことですか?」
「そう。つまり、彼にはまだ未知の個性が眠っている可能性がある。もしくは…」
「…オール・フォー・ワンに与えられた個性が、実はまだ残っている?」
「の、どちらかになるだろうね」
デヴィットの推論に、心中で八幡を想う雪乃。
その話が本当なら、八幡は更に強さを得るか、それとも過去の強さを取り戻すかのどちらかになる。
もし未知の個性がまだあるなら、それはそれで良い。
だが、生物操作の個性がまだ残っているのなら。
それは、オール・フォー・ワンの遺恨が彼の身体に未だ残っていることに他ならない。
(オール・フォー・ワンの影響下にまだあることを、比企谷君は嘆くかしら。…それとも、清濁合わせて飲み干すような彼は…喜ぶかしら)
どちらにせよ、未だオール・フォー・ワンとの繋がりが断ち切れていないことを意味する。
奴が再び比企谷八幡の前に現れることは明白。
その時に備えて、私も準備しないとと雪乃。
結衣も、複雑な表情でデヴィットの話を聞いていた。
「ゆきのん、あたし…」
「…由比ヶ浜さん、貴女は比企谷君を支えてあげて。そして、ゆっくり仮免を取ればいいわ。大丈夫」
「…うん」
「おやおや、暗い顔は似合わないぞ由比ヶ浜少女!」
「へ?オールマイト!?」
「いらしてたんですか?」
ズン、と二人の後ろに立ったのはコスチューム姿のオールマイト。
平和の象徴も日本を離れ、I・エキスポに来賓として招かれていたようだ。
「やあトシ…いや、オールマイト」
「デイヴ!ほら、私は飲めないから君が飲め!」
「相変わらずノンアルか、しょうがないな…」
「お知り合いですか?」
「私の親友さ!私がアメリカに留学していた頃からのね」
「ええ、オールマイトの!?」
「…世界的個性研究の第一人者と、平和の象徴…まあ、適切ね」
HAHAHAと笑うオールマイト、こちらもにこやかに笑うデヴィット。
二十年以上の親友にして、共に平和の発展を願う立役者である。
そういえば、と言葉をつなぐオールマイト。
「比企谷少年も来ていると聞いたんだが、パーティには来ないのかね?」
「もうすぐ来ます。あの男の世話は今は川崎さんに任せてます」
「ヒッキーが引きこもらないように力ずくで、ってお願いしました!」
「HAHA…お、お手柔らかにね…」
雪乃と結衣の八幡に対する容赦のなさに、八幡を憐れむオールマイトとデヴィット。
デヴィットの方は、どこか憂鬱そうな表情で一人歩く彼には、引っ張り上げてくれる人がいる方が丁度いいくらいかな、と思ってしまっていたが。
その時、談笑する四人や会場の人々に、パーティ会場の壇上に上がっていた司会進行役の男性からアナウンスが入る。
『ええー…ご来場の皆様。I・エキスポのレセプションパーティに、ようこそおいでいただきました!』
「あ、もう始まっちゃう!?」
「そうみたいね。…比企谷君も緑谷君たちも、まだ来てないわね」
「うーん、連絡してみよっかな」
「そうね、そうしてもらえるかしら」
『乾杯の音頭とご挨拶は、来賓でお越しいただいたNo.1ヒーロー…オールマイトさんにお願いしたいと思います!皆さま、盛大なる拍手を!』
「ありゃ?」
「あら、頑張ってくださいねオールマイト」
「HAHA…デイヴ、聞いてないぞ…」
「オールマイトが来ると知ったら、そりゃそうなるさ」
「やれやれ…」
どうやら打ち合わせなしで唐突に決まったことらしい。
肩をすくめて観念するオールマイト。
グラスを置いて壇上へ向かう。
それを見ながらスマホを取り出した結衣。
八幡に電話をかける。
『…おう』
「あ、ヒッキー?今どこにいるの?」
『七番ロビー』
「そこまでは来てるのになんで来ないの、もう!始まってるよパーティ!早くごはん一緒に食べよーよー」
『まだ切島と爆豪が来てねえんだよ…』
「携帯は?電話したん?」
『ダメっぽいな』
オールマイトが壇上に上がり、スタンドマイクの前に立って一つ咳払い、そして挨拶を始める。
『えー、ただいまご紹介に預かりました、オールマイトです。堅苦しい挨拶は…』
その時、警告のブザーが会場に鳴り響いた。
会場に設置されていた全てのモニターに赤い画面が一斉表示され、その中心には
「…これは…」
「あ、あれ?ヒッキー?もしもーし」
「どうしたの?」
「ヒッキーとの通話が切れて…え、圏外!?」
「通信が遮断された?…嫌な予感がするわね」
『…I・アイランド、管理システムよりお知らせします』
何事だとその場の人間が事態の把握に努めようとしたその時、島内全体に機械音声による一斉放送が始まり、とりあえずその内容に耳を傾ける。
『警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を取得しました』
「爆発物…って…爆弾!?」
「…!」
『I・アイランドは現時刻を以て厳重警戒モードに移行します。島内に住んでいる方は、自宅または公共施設へ。遠方よりお越しの方は、宿泊施設にて避難及び待機をお願いします。今から10分以降の外出者は、警告なく身柄を拘束します。繰り返します──…』
アナウンスを聞き、顔を見合わせる雪乃と結衣。
想定外の事態が起きている、そのことを否が応でも理解する二人。
その時、パーティ会場の各入口が開いた。
外からパーティ会場へ自動小銃や拳銃で武装した覆面の男たちが踏み入ってくる。
悲鳴をあげて慄く人々。
その中から一人だけ鉄仮面をした男が人々の前に出て、口角を上げて話し始める。
「聞いた通りだ。警備システムは俺たちが掌握した。反抗しようなどとは思うな。そんなことをしたら…」
鉄面男が壇上のモニターの方を見遣ると、モニターの警告の画面が切り替わり、現在のI・アイランドの様子が映り始めた。
警備マシンが島の人々の前で何十台と並び、立ちはだかっている。
「警備マシンが、この島に住む善良な人々に牙を剥くことになる。…そう、人質は!この島にいる全ての人間だ!」
「す、全てって…」
「…万が一の被害想定は、数千人では済まなそうね」
「そんな!」
「当然、お前らもな…!」
鉄面男の言葉に、まさかと身構えるオールマイトやヒーローたち。
鉄面男が通信機に合図を出した途端、会場の床の警備システムが次々と発動し、ヒーローたちにセキュリティ用の捕縛装置が飛びかかる。
捕われるヒーローたち、オールマイトまで捕らえられてしまう。
この場で囚われていないヒーローは、正装のドレスに着替えていた雪乃のみ。
しかし雪乃も、拘束を外せるオールマイトも、動くに動けなかった。
「ゆ、ゆきのん…」
「…っ」
例え一瞬でこの場の
結果、やはり雪乃たちは動けなかった。
(せめて、外と連絡を…比企谷君はまだ外にいる。しかも七番ロビーなら…タワー内部。警備システムはセントラルタワーの中のはず。どうにか連絡を…!)
「…由比ヶ浜さん、今から言うことを…スマホに打ち込んでちょうだい」
「え?」
「早く、バレないように…」
「う、うん」
───────────
一方、セントラルタワー内部七番ロビー。
外へ通じるエレベーターは封鎖され、窓には隔壁のシャッターが降りて窓から出ることすらできなくなっていた。
こちらの緑谷たちも、先ほどの島内一斉放送を耳にし、事態をなんとか把握していた。
「携帯も圏外だ。通信手段は全て遮断されちまったらしい…」
「マジかよ…」
「エレベーターも反応ないよ!」
「マジかよっ!!」
八幡も、通話の切れたスマホを見つめていた。
やはり圏外になっている。
「…比企谷君」
「…」
この場にいるプロヒーローは自分一人。
だからといって頼らないでほしい、というのが八幡の本音だ。
「…本当にただの爆発物なら、まあ待ってりゃ何とかなるんだろうが…正直タイミングが良すぎる」
「良すぎる?」
「今はレセプションパーティの最中のはず。そんな全員の気が緩みそうな時に、わざわざ爆発物の情報が流れ込んできたってのは…タイミングも都合も良すぎねえか」
「…人為的な、テロじゃないかってこと?」
「そう考えてる」
「な、なんでそう悪い方に考えんだよ!?」
「そういう性格なんだよ、仕方ないだろ。…それに、最悪の状況を考えるのは悪いことじゃない」
峰田の泣くような声に静かに言葉を返す八幡。
とりあえず、現状を把握する必要があるというのは緑谷も八幡も同じ認識だった。
「何とか、セントラルタワーの管理システム部へ連絡取りたいが…通信は不可能。シールドさん、管理システムってのはどこに?」
「このセントラルタワーの200階にあるわ。そこまでエレベーターが使えないとなると…」
「…徒歩か。何にせよ、爆発物程度で通信を遮断する理由はない。連携取りにくくなるだけだしな。やっぱテロだろう」
「う、嘘だろ…」
「現実見ろ峰田。妄想の世界じゃ生きられねえぞ」
「ひぎぃっ…」
「比企谷君、パーティ会場に…オールマイトが来てるんだ」
「…そうか、そりゃ………あー、やべえな」
緑谷の言葉に少し安堵する一同だったが、八幡だけは違う反応を示した。
緑谷も浮かない表情だ。
「な、何でオールマイトが来てるとヤバいんだよ!?」
「違う、オールマイトがレセプションパーティの会場にいるのがヤバい。もし本当にテロなら、テロ側が真っ先に抑えなきゃいけないのは誰だ?」
「…オール、マイト…」
「…レセプションパーティ会場、見に行った方がいいな」
「うん。…最悪、オールマイトが既に捕らえられてる可能性がある。…メリッサさん、パーティ会場まで行けませんか?」
「そこから出られる非常階段を使えば、パーティ会場の近くまで行けると思うわ」
メリッサの指差す先には、エレベーター脇のドア。
電子式ではなく、手開きのドアだ。
その時、コツンという音がドアから響いた。
「え、え!?」
「…!」
「ひいいいっ!」
ドアに比較的近かった峰田、耳郎が後退り、八幡と沙希の近くに寄る。
ドアの向こう側に、誰かがいるのだ。
「…耳郎」
「うん!」
床にイヤホンジャックを刺し、ドアの向こうの音を探る耳郎。
「…おかしい。何かがドアを叩いてる音はする、けど…他は何も音がない。人がいないみたいだ」
「で、でも!ドアから音してんじゃんかよぉ!」
「どういうことだ!?」
その不可思議な現象に、思い当たる節があった八幡。
ドアへ近づいていく。
「比企谷!?」
沙希の呼びかけを無視し、ドアを無造作に開ける八幡。
中からふわりと小さなスマホが飛び出し、八幡の手に収まる。
「え…スマホ?」
「…由比ヶ浜のスマホだ。アニミズムかけてここまで来させたみたいだな」
「そ、そうか!伝書鳩みたいな役目を…!」
「…あー、やっぱりやべえな」
結衣のスマホの画面を見た八幡が、スマホを沙希に手渡す。
皆でスマホを覗き込み、今起きている事態をようやく理解する。
スマホの画面には、結衣がうちこんだであろうメッセージが書かれていた。
「…
「オールマイトやヒーロー、会場にいた人が全員捕まったって…」
「…まずいわ、警備システムが掌握されたということは…パーティ会場にいる人だけじゃない!島の人々全員が人質に…!」
「き、規模がデカすぎる…!」
「これ、雪ノ下だね。多分…」
「ああ。由比ヶ浜と一緒にいるはずだからな。…好戦的なあいつが大人しく捕まってるってことは、パーティ会場から状況ひっくり返すのは無理ってことだ」
さて、と思案する八幡。
現状、やるべきことはたった一つ。
セントラルタワーの警備システムを
それさえ叶えば、現状打破に気がついたオールマイトや雪乃達が反撃に出るはず。
問題は、警備システムがセントラルタワーの200階に位置していること。
そこまで
200階まで辿り着くルートを思案し始める八幡。
とりあえず、と緑谷達へ声をかける。
「…お前らは逃げろ。セントラルタワーの中にいたら
「比企谷君はどうするの!?」
「上に行く。奴らの目的がいまいちわからんが…放っておいて良い問題じゃないだろう。プロだからな、一応。やることはやる」
色眼鏡を外して胸ポケットにしまう八幡。
そのまま非常階段へ向かう。
そんな彼へ声をかける緑谷。
「比企谷君、待って!」
「…なんだ?」
「僕も行く!」
「…」
言うと思った、と八幡。
流石、オールマイトが目をつけた平和の象徴の後継者である。
そんな緑谷に驚き、慌てて待ったをかける飯田、八百万。
「待ちたまえ緑谷君!保須のことを忘れたのか!?」
「緑谷さん、私たちはまだ学生!ヒーロー免許もないのに
「…俺らはヒーローを目指してる」
轟がボソリと言葉をこぼした。
それに反応し、反論する八百万。
「ですから!私たちはまだヒーロー活動を…」
「だからと言って、何もしないで良いのか」
「…それは…」
轟の言葉に、顔を俯かせる八百万、飯田。
二人とも、ヒーロー資格のない自分達と窮地の現状を天秤にかけている状態だった。
助けには行きたい。
しかし、ヒーロー資格の重さを知るからこそ、簡単に違反をして良いはずがない。
そんな彼らへ、緑谷が声をかける。
「僕は、オールマイトを…みんなを助けたい!メリッサさん、I・アイランドの警備システムはタワーの200階にあるんですよね!?」
「ええ、最上階に…恐らく、
「比企谷君!」
「…まあ、そのつもりでいたけど」
メリッサの話を聞き、思案し始める八百万、飯田。
轟も、話を素早く飲み込み、今からすべきことを考え始める。
「…戦いを回避してシステムを元に戻す……成程」
「それならイケんじゃね!?」
「だよね!」
「デクくん、行こう!」
「麗日さん!」
意を決して緑谷の方へ走り寄る麗日。
彼女も覚悟を決めていた。
「私たちにできることがあるのに、何もしないでいるのは嫌だ!そんなの、ヒーローになるならない以前の問題だと思う!」
「…うん!人として、当たり前のことをしよう!困ってる人たちを助けよう!」
「おー!…比企谷君、良いよね!?」
「…」
「…私も行くよ」
「川崎…」
髪をシュシュでいつものようにポニーテールに戻した沙希が、非常階段の方へ続こうとしていた。
真っ直ぐ八幡の目を見返し、言葉を続ける。
「あんただけ行かせるなんて選択肢、元からないから」
「…まあ、そう言うだろうなとは思ったけどな。大人しくしてろって言っても、無駄か…」
「ウチも行くよ」
「俺も行くぜ…」
耳郎、轟も意思表明。
二人とも、緑谷の話がなくても既に八幡の方へついて行こうとしていた。
「比企谷、いいよね!」
「…あのな、まだ俺は…」
「…俺も行こう」
「飯田君!」
「君たちが無理をしないように…危険だと思ったら引き返す!それが条件だ!」
「そういうことでしたら、私も!」
「よっしゃ、俺も!」
「あーもー行けば良いんだろ行けば!!」
飯田、八百万、上鳴、後がなくなった峰田もぶわりと涙を流しながらGoサインを出す。
やれやれ、と頭をかく八幡。
観念して全員に注意事項を話し始める。
「…基本、
「う、うん」
「…それと、もし少しでも危ないって思ったら引き返せ、逃げろ。或いは投降しろ。命までは取られないはずだ。パーティ会場の連中も人質に取られてるだけみたいだからな」
「…わかった!」
「私も行くわ!」
「メリッサさん!?」
いざ階段の方へ入ろうとした八幡達に、後ろからメリッサが声をかける。
そこへ慌てて緑谷が対応する。
「でも、メリッサさんには個性が!」
「この中に警備システムの設定変更出来る人いる!?」
「あ」
「…
「そんなことする気だったの…」
「私はアカデミーの学生。役に立てると思う!」
「でも!」
「最上階までは、足手まといにしかならないと思うけど……私にも、皆を守らせて!お願い!」
メリッサ・シールドは無個性である。
かつて、ヒーローになろうとしたが、すぐに諦めた過去を持つ。
その後、研究者への道を歩み始め、今はアカデミーでいくつも賞を取る、優秀なサポートアイテム開発者の卵だ。
そんな自分でも、今、できることを。
「…緑谷」
「ひ、比企谷君」
「お前が守ってやれ。最上階までエスコートな」
「…うん!わかった!行きましょうメリッサさん!」
「はい!」
パーティ会場の上、3階部分。
非常階段を通ってパーティ会場に寄った八幡と緑谷。上からオールマイトやヒーロー、雪乃と結衣が捕まっている姿がガラス越しに覗くことができた。
床に手を触れる八幡。
拘束されたオールマイトの眼前の床を操作し、小さな文字を刻んでいく。
(…これは…!)
オールマイトだけがその異変に気がつき、上を見遣る。
自分を覗く八幡と緑谷の顔を見たのだ。
八幡は、床に小さな文字で『警備システムの奪還に行くんで奪還に成功したらとっととそいつらボコしてください』とだけ書く。
その文字を読んだオールマイトの目が、八幡ではなく緑谷の方を見る。
(…まさか、比企谷少年だけではなく、君も行く気か!?緑谷少年…!まさか他のみんなも!)
オールマイトの意図が伝わったのだろう、緑谷は首を横に振る。
「…なんか伝えたいことあるなら書くぞ」
「…行ってきます、だけ」
「わかった」
緑谷の意思を床に連ね、次に雪乃と結衣の目の前の床へ文字を書いていく。
二人とも拘束はされていなかったが、現状どうすることもできないと無抵抗だった。
(これ、ヒッキー?)
(…全く、任せたわよ…)
『後は任せろ』
短く、それだけが床に刻まれていた。
その文字に安堵していると、鉄面男が来賓達の顔を見渡し、呼びかける。
「…おい、この中に15歳くらいの男のガキがいるはずだ。…見た奴は手を挙げろ」
「…?」
「…チッ、隠してるのか、それとも本当にいないのか…まあ良い。どうせすぐ見つかる」
今度は鉄面男の近くに座らされていた、デヴィット博士の助手であるサムに目をつける鉄面男。
どうやら研究者を探していたようだ。
サムを立たせ、部下に連れていくよう命ずる。
「連れてけ」
「わ、私に何を!?」
「待て、サムは私の助手だ!彼をどうする気だ!」
デヴィットが鉄面男を呼び止め、サムを庇う。
しかし、鉄面男の方はこれは好都合とデヴィットを見た。
「デヴィット・シールドじゃねえか…。お前も来い」
「…断ったら?」
「この島のどこかで、誰かが死ぬことになる…」
「…わかった。言う通りにしよう」
それを力無く見送るオールマイト。
一方雪乃は、鉄面男の言葉が気にかかって頭の中で考えを巡らせていた。
(…15歳の男。15…年齢を指定していた?この会場に来る予定だと予め決まっていたのは…爆豪君と…比企谷君。…まさか!?)
───────────
非常階段をひたすら走り上がる一行。
その間に、どうにか上に行く方法はないかと話しながら駆け上がっていた。
「ひ、比企谷!空飛べるんだろ!?タワーの外に出て最上階まで行けねえのかよ!」
「無理。そりゃ行くことはできるが、タルタロスレベルのセキュリティのこの島で、上空からの襲来を考えてないと思うか?というか、行けたとしても俺一人だけだ。シールドさんを抱えては飛べん」
「ひ、比企谷君一人だけ行っても!警備システムは奪い返せるけど、それだとパーティ会場のヒーロー達の拘束が解けないし、何より警備システムを奪い返せたって伝えることが、できない!」
肩で息をしながら峰田の意見を却下する緑谷。
それと、と八幡は更に付け加える。
「このタワーで俺の固体操作にはあまり期待するなよ」
「な、なんで!?いざって時は管理システムごとぶっ壊すとかできんじゃねーの!?」
「そりゃできるが、壊すだけだ。警備マシンから人々を解放できるか保証がない。それに、俺の固体操作は電子機構を無視して操作することになる。機械の電子基盤や特殊構造を捻じ曲げたらもう使えなくなるだろ。タワーの警備システムに影響がありそうな固体操作はできない」
「っはあ!例えば!?」
「…警備システムのパネルがあるところ。後はサーバールームとか、エレベーターとかは多分ダメだな。エレベーターはちょい怖い。エレベーターにも多分隔壁が用意されてるだろうし、隔壁出されると俺一人ならともかく、お前らをエレベーターホールから吊り上げるのは…ちょっと危険だな」
「くっ、便利な個性なのに、そこら辺気にすると不便だな!」
「
「そ、そんなことできんの!?」
ゾッとする上鳴。
確かに、と緑谷も八幡の個性を考える。
普段は人を救ける為に個性を使っている為精密な個性コントロールが要求されている彼だが、もし
体育祭では、他に巻き込む人間も建物も何もなかったからあれほどの個性の出力を発揮したのかもしれない。
つくづく、ヒーローに舞い戻ってくれて良かったと思う緑谷だった。
「お、75階まで来たぜ…」
「まだ三分の一程度しか来てねえな…」
どんどん階段を駆け上る一行。
ヒーロー候補生でもないメリッサも、よくついてきている方だ。
ヒールを履いていた彼女だったが、既に素足になって動きやすさ重視の足へと変わっている。
先頭を走っていた八幡と緑谷。
しかし、唐突に足を止める。
「!?」
「ひ、比企谷!緑谷!?どうしたの!?」
「…これは」
二人に追いついた轟と飯田が、二人の前にあった障害に気がつく。
場所は80階。
そして、階段を塞ぐシャッター。
「シャッターが…!」
「どうする、壊すか!」
「そんなことをしたら、
これが問題なんだよな、と八幡。
警備システムがタワーを管理している以上、電子扉には全てセンサーが入っていると考えて良いだろう。
そんな扉を壊すなり固体操作で変形させるなりしたら、確実に警備システムに気が付かれる。
「なら、こっちから行けば良いんじゃ…」
息絶え絶えになりながら、階段途中にあった扉に手をかける峰田。
「峰田君!!」
「ダメっ!」
「バカ、それも電子扉…!」
3人の制止も虚しく、取っ手を引いてしまった峰田。
扉の取っ手に取り付けられていた電子光が解錠を知らせる赤い点灯を見せた。
「や、やべっ…」
「…バレたかも」
「ひいいっ、どうしよう!」
「メリッサさん、他に道は!?」
「反対側に同じ構造の非常階段があるわ!そこから上にいければ…」
「よし、廊下に出よう!比企谷君!」
「それでいくしかねえだろ…!」
階段から巨大な曲行通路に出た一行。
今いる位置の反対側の通路に非常階段はある。
急いで走り出す緑谷たち。
「急がないと、もしバレてたら…!」
「まあ、閉じ込めにかかるだろう…!?」
前方の廊下、その奥。
唐突に巨大な隔壁が廊下を塞ぎ始めるのが目に見えた。
「シャッターが!」
「後ろもですわ!」
最後尾にいた八百万が、後方の隔壁も閉じ始めたことに気がつく。
閉じ込められる。
「まずい…!閉じ込められても破壊してこじ開けるのは簡単だが、居場所は確実にバレる!」
「轟君!!」
「ああ!」
飯田の視線の先には、廊下からフロア中央へ続く扉があった。
フロアの中央を通れば必然と反対側の非常階段へ出られるはず。
轟も飯田の意志を察し、上下からせり出てきた隔壁に氷壁を差し込み、隔壁封鎖を止める。
隔壁に作られた隙間を飛び抜ける飯田、そのまま勢いよくフロア中央へ続く扉を蹴り破る。
「この中を突っ切ろう!」
「…良い動きするな」
「早く行くよ。あと、褒めるならちゃんと褒めてやりなよ」
「…気が向いたらな」
───────────
飯田によって破壊された扉をくぐり抜け、中のフロアへ入る。
開けたフロアは天井が高く、なぜか屋内だというのにいくつも伸びる木々や茂みがあるフロアだった。
フロアの天井付近には天井から吊られた細い通路が見えた。
フロア中央には下から天井まで伸びるエレベーターシャフトが聳え立っている。
恐らく、1階から最上階まで続くエレベーターだろう。
走りながら緑谷がメリッサに訊ねる。
「ここは…!?」
「植物プラントよ!個性の影響を受けた植物を研究…!」
「待って!!」
耳郎が全員を制し、エレベーターの方を見る。
げ、と八幡。
エレベーターの階数表示が、数字を上げて60付近にまで上がっているところだった。
「アレ見て!エレベーターが上がってきてる!」
「
「隠れてやり過ごそう!」
急いで脇の茂みに隠れる緑谷達。
だが、やはりエレベーターは止まることなく上がり、80階に迫ってきていた。
「隔壁閉まったしやっぱ80階にいるのはバレてたか。監視カメラがどこかにあるだろな」
「悠長なこと言ってる場合かよ…!」
「バレたら戦うしかないだろう」
「ひいっ!」
「…戦いか」
右手を見る轟。
まだ数字が上がるエレベーターを見て、上鳴が微かな希望に縋る。
「あのエレベーター使って、最上階まで行けねえかな?」
「無理よ…。エレベーターは認証を受けた人しか使えないし、シェルター並みに頑丈に作られてるから破壊もできない」
「…変形させてエレベーターシャフトに穴開けんのは簡単だが、シャフトを通って上がれんのは結局俺と…」
「あと峰田君くらいしか…。麗日さんが無重力にして120階分上がるのも出来るかもしれないけど…」
「ごめん、多分容量超過する…」
「…だよね」
「由比ヶ浜がいればエレベーターにアニミズムかけて上へ上がれそうだったんだが…まあいないもんは仕方ない」
「使わせろよ文明の利器…!」
エレベーターの階数表示はやはり80で止まり、エレベーターのドアが開いた。
中から、背が低いずんぐりした男と、背の高いほっそりした男が現れる。
「あの服装…!会場にいた
「緑谷、声抑えろ…」
「ガキはこの中にいるらしい」
「面倒なとこに入りやがって…!」
エレベーターから出てこちらへ歩いてくる二人の
まだ、緑谷達には気がついていない。
このままやり過ごす、と固まって押し黙る一行。
八幡、轟、沙希の3人はいつでも戦えるように戦闘態勢に入る。
祈るように二人の男が通り過ぎるのを待つ。
だが、背が高い方の男が次のように叫び、ぎくりと身体を揺らしてしまう。
「見つけたぞクソガキども!!」
(バレたか…!)
(どうする、どうする…!?)
仕方ない、と空気と接続する八幡。
バレてしまったならさっさと昏倒させた方がいい。
茂みから出ようとしたその時、八幡達でも
「ああ!?今何つったてめぇ」
(は?)
聞き覚えのある声に、一斉にそちらを見る。
そこには、正装姿の爆豪と切島の二人が堂々と二人の男と相対するように立っていた。
「かっちゃん、切島くん…!」
「嘘だろ…?」
「どうしたの比企谷」
「呆れてるんだよ…」
「お前らここで何してる」
「そんなの俺が聞きてえわ」
「ここは俺に任せろ!な?」
喧嘩腰の爆豪を抑え、切島が困ったような笑顔で二人に声をかける。
「あのー、俺ら道に迷ってしまって!レセプション会場ってどこに行けばー…」
「…嘘でしょ…」
「な?呆れるだろ?」
「道に迷ってなんで80階まで来るんだよ…!」
呆れた様子の沙希、峰田。
レセプション会場は2階、そしてここは80階。
それでも呆れるようなレベルだが、道に迷ったという切島と爆豪の様子だと、どうやらそもそもこの緊急事態に気がついてない。
(ていうか、色々あっただろ隔壁封鎖とか飯田が破壊したドアとか!どこから来たんだこの2人…)
まさか上から降りてきたんじゃないだろうな、と弛緩した様子で事態を見守っていた八幡だったが、
「見えすいた嘘ついてんじゃねえぞぉっ!!」
「個性をっ」
「切島君!!」
「俺がやる!」
「!」
切島は咄嗟の事態に構えることができなかった。
切島を救けようと固体操作を使おうとする八幡だったが、轟の要請に黙って止まる。
足元から氷壁を這わせて、切島の前に防壁を作る轟。
男の手から飛び出た何かは、壁に遮られて止まった。
「この個性は…!」
「轟!?あ、比企谷!?」
「…先に行け」
「あ?何言って…」
「比企谷、お前の個性はこのタワー攻略に要るはずだ!戦闘得意なあの二人と一緒に、アイツらを仕留める…!」
「っ…」
巨大な氷壁がガンガン揺れ、
真っ先に刺客として送られた男の二人は、戦闘能力が高い二人のはず。
そんな八幡へ、マーメイドドレスを裂いて動きやすい服装に変えた沙希が声をかける。
「比企谷、私も残る」
「…川崎」
「戦闘なら私は得意分野だから。あんたはアイツら連れて行きな」
「…無理だと思ったら即逃げろ」
「思ったらね」
「思わなそうだな…気をつけろよ」
「うん」
「轟、頼む」
「ああ」
巨大な氷の柱を緑谷達の足元から突出させ、緑谷達を上の吊り通路へ押し上げる轟。
八幡も気体操作で一人通路へと浮かび上がる。
「轟君!?」
「轟さん!」
「比企谷、引率頼むぞ!」
「お前らこそやばいと思ったら逃げろよ」
「ああ!ここを片付けたらすぐに追いつく!」
「…了解」
「はいっ!」
八幡と話をつけた轟と沙希に、切島と爆豪が駆け寄ってきた。
何が何だかという顔である。
「どういうことだよ、轟!?」
「放送聞いてないのか…!」
「あんたらどこにいたわけ?」
「とっとと教えろやヤンキー女!」
「あ?」
「ちょ、まあまあ…」
「…
「ええっ!?」
「んだとぉ…!?」
氷柱で全員を吊り通路に送り届けた轟が、すくりと立って揺れる氷壁を睨む。
「詳しい説明は後だ!まずは
氷壁に穴をいくつも開けて現れた二人の
その奇妙な穴の空き方に、爆豪も切島も構える。
「何だあの個性…!」
「油断すんなよ…」
「っせえ、わぁっとるわ!」
「私が前に出る。あんたらは後ろからぶっ放しな」
「俺もだ!」
「この…ガキどもがあっ!!」
背の低い方の
そのまま4人の元へ単騎突撃する変身
「うわっ!!」
「どいてな!」
「川崎!?」
前へ出る沙希。
変身
拳と掌が触れた瞬間、正反対の方向へ吹き飛ばされる変身
「ぐおおおっ!?」
「すっげえ!」
「あいつは私が相手する!爆豪、トドメはあんたが刺しな!」
「俺に命令すんな!!」
「あのアマっ!」
沙希を厄介と見た背の高い方の
「女の誘い方がなってないね」
「野郎っ!!」
轟が氷結を
続けて爆豪も爆破を撃ち込むが、
次々と見えない何かを沙希に飛ばし、それを躱す沙希。
「くっ、面倒だね!」
「空間に穴空けてんのか!?」
「野郎、なら特大火力で…!」
「っ!爆豪!!」
変身
轟が作った氷壁を破壊して尚吹き飛び、フロアの壁まで吹き飛んでしまう切島。
「切島ぁっ!!」
「まず1人!」
「お前ら、何者だ!?」
ニヤリと笑う爆豪。
「答えるか、クソ
「名乗るほどのもんじゃねえ…!」
「時間はかけられない、さっさといくよ…!」
───────────
一方、吊り通路に上がった緑谷達と八幡。
反対側の曲行通路に出ることには成功していたが、こちらの通路もやはり隔壁封鎖されていた。
「こっちもダメか…!」
「どうすんだよ、オイラたち袋の鼠じゃねえか!」
「ここまでかよーっ…!」
「仕方ない…位置がモロバレになるが、隔壁を破壊して」
「比企谷君、待って!」
「ん?」
「あれ!」
「!」
フロアの中に戻っていた緑谷の指し示す先には、天井にある小さな四角の扉。
壁際に設置されているその扉は、今彼らがいる通路よりも上の通路、その真上に位置していた。
「メリッサさん、あそこから行けませんか!?」
「…認証システムのメンテナンスルーム」
「あの構造なら、非常用の梯子があるのでは!?」
「確かに、手動式のがあるけど…中からしか開けることはできないわ!」
メリッサの言葉に、また俯く一行。
その横で、廊下に出て考える八幡。
廊下にも同じ扉が天井にあったのだ。
しかし、フロアにあった天井扉とは明らかに高さが違う。
廊下のものは80階のものだが、フロアのものは明らかにそれより上の階のものだろう。
八百万も同じことを考えていたのか、廊下に出てきた。
「比企谷さん」
「…あれ、何だと思う?」
「恐らく通風口ですわ。…お考えの通り、外へ繋がっているはず」
「…だよな」
「皆さんを呼んできます!」
八百万が緑谷達を呼びにいく。
80階には隔壁封鎖がされているが、それより上階はまだされていないだろう。
早い話、80階さえ脱出できれば更に進めるようになる筈だ。
全員が廊下に出て、八百万が天井の扉から通風口に入り、外壁へ出ることを説明する。
「そ、外に出てどうすんだよ!?」
「外壁を伝って上の階へ。同じように通風口に入れば…」
「そっか!中に同じものがあるかも!」
「狭い通風口に入れて、外壁を伝うことができる人…」
全員が一斉に小さな少年に振り向き、遅れてメリッサもその少年──峰田に注目する。
後ずさる峰田。
「…え」
「…出番だぞ峰田」
「ええっ、オイラが!?」
「峰田君!」
「あんたにしかできないんだよ!」
「バカバカ、ここ何階だと思ってんだよ!!」
泣いて嫌がる峰田。
そんな峰田の後ろに周り、がしりと峰田の肩を持つ上鳴。
八幡もニヤリと笑って峰田に目線を合わせてしゃがむ。
「みんなを助けた功労者になったら、インタビューとかされたりして、女子に大人気間違いなしだぞ〜?」
「本当にモテたいんなら、こういう時頑張らないとなあ?」
「か、上鳴…!ひ、比企谷ぁ…お前、こういう時だけそういう悪い顔すんのはズルいぞお前…」
「「お願い!!」」
「ハーレムハーレム♪」
耳郎と麗日も峰田の説得に入り、4人に囲まれた峰田。
呻きながら観念し、声を上げる。
「わ、わかったよっ…!行けば良いんだろ行けばぁっ!!!」
「…ガチ泣きかよ。まあ、気体操作で状況は把握しておくから、もし落ちた時は壁ぶっ壊して助けてやるよ」
「…なら最初からそうしろよぉ…」
「完全に位置バレるし、壁やら何やら破壊できる奴がいるってのもバレるけどな」
「ちくしょぉぉぉぉ!!!」
麗日に無重力化してもらい、通風口へ入っていく峰田。
「峰田君、大丈夫かしら…」
「エロの権化ですけど、やるときはやる奴なんで!安心して待ちましょう!」
メリッサにサムズアップする上鳴。
待つこと5分。
フロアの天井扉が開き、梯子が降り始めた。
「お」
「峰田君、やったか!」
「なんだ、落ちなかったか…。やりゃできる奴だな」
「だろう!?やっぱあいつも天下の雄英生だぜ!」
峰田が降ろした梯子を伝い、上へと上がる一行。
登った先には得意顔の峰田。
「さあさあ、オイラを褒め称えよ!」
「…さっきまであんなに泣いてたのに…」
「女子だけで良いぞ、女子だけで…ぶふっ」
「おい、エロの権化…」
「すごいわ、峰田君!流石ヒーロー候補生ね!」
最後に登ったメリッサの素直な褒め言葉と笑顔に、はわわと感動する峰田。
どうやら満足したどころか気合が入ったらしい。
顔つきがさっきとまるで違う。
「お前ら気合い入れて行くぞー!!」
「「「おー!!」」」
「あれで良いのか…」
───────────
「そらそらそらそらそらぁっ!!!」
「ちいっ!!」
セントラルタワー80階、植物プラントフロア。
対峙する轟と抉り取る
手から発生させた衝撃波に触れると、その物体は抉り取られるという個生の持ち主。
氷の壁を次々と抉り取り、轟に迫る。
一方、爆豪と沙希に相対する変身
こちらはシンプルな増強型個性。
タフネスもある強力な個性だ。
爆豪の爆破に何度も耐えている。
「埒があかねえ…!」
「爆豪、私がアイツを止める」
「ああっ!?」
「そこに強烈なのをお見舞いしてやりなっ!」
「てめえにできんのか!?」
「当然」
動き回るのをやめ、ピタリと変身
「あんなのに負けてたら、笑われちまうよ」
「良い度胸だ、おんなぁ!!」
沙希に、空高くからボディプレスをぶち込む変身
だが、その衝撃は床には一切伝わらなかった。
ボディプレスの衝撃ごと、
「なっ……」
「…あんた程度に、私は負けない。じゃないと…あのバカに追いつけないんだよ!!」
両掌から衝撃波を放ち、空中へ変身
そこへすかさず爆豪が飛び上がる。
「空中なら身動き取れないだろ!!」
「
巨大な爆炎が変身
その様子を見ていた抉り取る
「よくもぉっ!!」
「避けろ爆豪!!」
「ぐっ!」
抉り取られた爆豪の左腕の衣服。
なんとか腕自体は無事だったようだ。
その時、爆豪は掌の汗ごと
「なんだこりゃ!?」
「俺の手の汗だよ!…ニトロみてえなもんだ」
「っ!」
ニヤリと笑って轟を一瞬見る爆豪。
爆豪の意図を掴んだ轟が、左腕から炎を
その危険に
吹き飛ばされた
「ふう、終わり?」
「ああ」
「切島!」
壁に減り込んでいたままだった切島の元へ向かう3人。
どうやら壁から抜け出せなくなっているようだった。
「う、動けねえ!助けてくれ!」
「…アホかお前は。個性解除すりゃ良いだけだろが」
「おお、そうか。いやー、びっくりした!」
「…呆れた。頑丈だね」
「へへっ、まあな!」
「とりあえず、怪我がなくて良かった」
「おめえらもな!」
「ケッ」
くるりとそっぽを向く爆豪。
しかし、ボソリと切島に向かって喋る。
「…あんがとよ」
「んだよお前らしくねえ!気にすんな!!」
「してねえわ!!」
照れた顔の切島、焦る爆豪。
男の友情ってこういうことを言うのか、と沙希。
これは八幡には見られないものだろう。
「緑谷達を追うぞ!」
「命令すんな!」
轟が走り出し、それを追う3人。
急いで上階へ向かった緑谷達を追い始める。
「轟、詳しく教えてくれ!」
「ああ」
「…待った、上!」
「ん!?」
沙希の言葉に、前方を見る3人。
警備マシンが何十台と4人の前に立ちはだかろうと降りてくるところだった。
「チッ…連中本気になったみてえだな!」
───────────
一方、レセプション会場。
鉄面男が再び、200階にいる警備システムを操る部下と通信を行なっていた。
『ボス、アイツらただのガキどもじゃありません!雄英高校ヒーロー科…ヒーロー予備軍です!』
「80階は封鎖したな?…100階から130階までの隔壁を全て上げろ」
『え……でも!』
「言う通りにしろ。…それと、奴は見つかったか?」
『はい!奴はガキどもの中に…今、100階まで辿り着かれました!間違いありません、奴です!』
「よし、今から捕獲専用の奴らを130階より上層へ送る。しばらく警備マシンで足止めしろ。比企谷八幡を捕らえろ…!!」
「!?」
「え…」
「ヒッキー!?」
鉄面男の言葉に、なぜか八幡の名前が出る。
オールマイトは驚き、雪乃はここでもかと怒りを露わにする。
(デイヴ達を連れて行ったからセントラルタワーに目的があると考えていたが…違うのか!?比企谷少年…!)
「彼をどうするつもり!?」
「…ん?知り合いか…?」
「っ!」
「ふん、スポンサーから依頼を受けてんだよ…。…行け!」
鉄面男の指示に従い、1人の体格の良い男と、緩やかなウェーブの髪の女がレセプション会場を出て、エレベーターへ向かう。
「ヒッキー…!」
「…大丈夫。彼はあんなのに負けないわ。…問題は、誰が彼を狙ったか…!」
───────────
そして、130階。
緑谷たちは、さしたる障害もなくここまで辿り着くことが出来ていた。
道中の隔壁が100階から全て開いていたのだ。
だが、その誘いに乗らないと上に行くことはできない。
ただ、目の前の実験ルームに問題が一つあった。
百台近くの警備マシンが実験ルームにうろついており、突破ができないのだ。
「やはり敵は俺たちを閉じ込めるより、捕らえる方針に変えたか!」
「きっと、僕たちが雄英生だってバレたんだ!」
「さて、どうするか…。いや、関係ないか」
皆の前に出る八幡。
まさか、と上鳴が声をかける。
「や、やっちまうのか比企谷!」
「あれだけいたらもう潜り抜けるのは無理だろ。やってやるからどいてろ」
「俺がやろうか!?」
「発電に許容上限があるんじゃなかったかお前。アレなら一瞬で捻れる、お前のは取っとけ」
「お、おう!」
「比企谷、お願い!」
警備マシンがうろついていた十字路へ降り立つ八幡。
八幡に気がついた警備マシンが全機、八幡へと傾れ込む。
「悪いが、壊すぞ」
足から固体操作を発動させ、警備マシンを全て一息でひしゃげる。
その光景に、ゾッとする峰田。
「アイツ、ロボとか相手なら無敵じゃねえか…!」
「ロボ、だけじゃなくて何かを使って戦う相手にも無敵かも…」
「やっぱアイツがうちのクラスで一番やべえって!!」
「性格とかなら爆豪君の方がアレだけど…」
「何してんだ、置いてくぞ」
「比企谷、右から行こう!左から警備マシンが来る!」
「んん」
実験ルームを抜ける一行。
再び階段を上がり、更に上へ上へと上がる。
途中次から次へと警備マシンが一行に襲い掛かる。
「うぇえ!!」
「上鳴、あんた電撃起こさないでよ!?」
「緑谷君、右からのを頼む!俺は正面を!比企谷君は左からのと、耳郎君達を守ってくれ!」
「いやまあ適切な指示だけど仕事多くね俺!?」
密集して個性が使えない上鳴、非戦闘員の耳郎とメリッサ、八百万を守る八幡。
麗日や峰田はその個性でマシンを止め、飯田は蹴り技でマシンを吹き飛ばす。
そして、緑谷は。
(ワン・フォー・オール…!フルガントレット!)
メリッサから譲り受けたサポートアイテム、フルガントレットを起動し、右手に武装する緑谷。
警備マシンを十数台、一発のSMASHで吹き飛ばしていく。
「デク君何その腕!?すごいやん!」
「うん!…メリッサさん、バッチリです!」
「持ってきてたのね…!」
「は、外し方わからなくて…」
「あら」
そのまま駆け抜ける一行は階数を上げ、138階のサーバールームへ辿り着く。
両脇には所狭しと並べられた警備システム用のサーバー。
「ここを抜ければ139階!もうすぐ140階だ!」
「急ごう…!?」
「飯田、前!」
八幡の指摘に、前方を見る飯田。
向かい側のドアから数十台のマシンが現れる。
「罠か!」
「上からもですわ!」
2階部分のサーバー置き場からも更に警備マシンが降り注ぎ、どんどん数が増えてきてしまう。
「くっ!比企谷君頼む!」
「しゃあねえな……!?」
床とサーバーをいじらなければ問題ないと床と固体接続した八幡。
その時、マシンが地面を走る感覚、緑谷達が床に乗る感覚。
そして、耳郎の後ろに誰かが忍び寄る感覚が伝わってきた。
「耳郎!!!」
「え……うわっ!?」
ばちりと身体に電撃が流れ、身体強化を施した八幡が矢のように振り返って耳郎の元へ跳ねる。
耳郎を抱き抱え、耳郎の後ろに迫っていた誰かへ蹴りを振るう。
しかし、その蹴りは空を切り、その男の身体をすり抜けた。
「!!」
とりあえず耳郎を抱き抱えて距離を取る八幡。
「耳郎!比企谷!?」
「ひっ、
「…勘がいいわね」
「こいつがターゲットだな」
アーミーナイフを構えた体格の良い男に、スラリとした体型のウェーブの女。
どちらも80階で見た
前方の警備マシン、後方の
「挟み撃ちか…!」
「ターゲットだと?」
「スポンサーから依頼された。比企谷八幡、貴様を捕らえる…!」
「…!」
「ひ、比企谷…」
「…降ろすぞ」
耳郎を床に降ろし、身構える八幡。
否応もなしにピンチである。
「…お前ら、先行け!ここは俺がやる」
「ま、待ってくれ!比企谷君の個性はこの先必要だ!轟君も言ってただろう!?その
「良いから行け!コイツらは…ダメだ」
「!?」
冷や汗を流す八幡。
先程の80階の
チンピラに毛が生えた程度の所作だったからだ。
しかし、こちらは立ち振る舞いからまずい。
それに、男の方はアーミーナイフを持ってる癖して、いきなり耳郎に掴みかかろうとしていた。
つまり、殺すのではなく人質に取る気だったのだ。
そして、狙いは自分ときた。
ここで自分以外の誰かに相手をさせると詰みになる。
「お前らじゃアレの相手はできねえ、早く行け!」
「けど、あんたマシンはどうすんのさ!?」
「アレも俺が相手をするしかねえだろ!」
「無茶言わないでよ!ウチも残る!」
「響香ちゃん!?」
耳郎が八幡の答えを却下し、八幡と背中合わせになって警備マシンの方を向く。
「アイツらヤバいんでしょ!?あんたの背中くらいならウチも守れる!」
「いや、でもお前…コスチュームもないだろ!」
「今日、昼間の空港で言ったよね!?専門家に任せろって!ウチがあんたの肩代わりをするって!ウチがあんたの耳になる!」
「…!」
耳郎の言葉と共に、耳郎のイヤホンジャックが八幡の腕に伸び、巻き付く。
耳郎の決意は固そうだ。
よし、と頷いた飯田も警備マシンの方を向く。
「…俺も残ろう!警備マシンの相手は俺がする!これならどうだ、比企谷君!」
「私もですわ!」
「っし、俺も!」
「ええい、その怖そうな
八百万が人一人大の絶縁シートを創造して上鳴に手渡し、受け取った上鳴も警備マシンの方を向く。
峰田も頭のもぎもぎに手を添えて構えた。
覚悟を決めたようだ。
そんな彼ら彼女らに、思わず口角を上げる八幡。
「どいつもこいつも、立派にヒーローしてんな…!」
「比企谷君…!」
「…緑谷、シールドさん連れて上行け!アイツらを一瞬止めるから早く!」
「うん!…メリッサさん!」
「お茶子さんも一緒に来て!」
「え…でも!」
「麗日君、頼む!」
「…うん!」
そんな彼らに、呆れた様子の
「ねえ、目の前で作戦会議されたけど。なめられてないかしらこれ」
「そう言うな。比企谷八幡はともかく、他はヒーロー候補生と聞く。立派じゃないか」
「ここで死ぬのにぃ?」
「…お前らこそ、余裕だな。身体をすり抜ける個性…いや、もうちょい色々ありそうだな…!」
男の方は身体をすり抜ける個性だろうか。
女の方はまだ不明。
だが、男の方は明らかに戦い慣れている。
アーミーナイフを油断なく構え、微動だにしない。
「…軍人…いや、個性使った戦闘となると傭兵上がりか…!」
「まあな。良い目を持ってる、比企谷八幡」
「そりゃ余裕にもなるでしょ。室内戦…それもサーバールーム。もちろん、ここのサーバーに影響が出れば、警備システムは止まる。そして、島中の警備マシンに停止命令を出せなくなるわよ?貴方、気体操作も固体操作もここでは使えないわね」
「…ここに追い込んだのはわざとか…!」
用意周到。
八幡を狙いにきたというのは本当らしい。
八幡の個性の詳細まで知られている。
気体操作は周囲100メートルほどの大気がないと真価を発揮できないし、固体操作でサーバールームの床を武器にしようものなら警備システムがイカれてしまう。
だが。
「その程度で勝ちを信じてんなら、
「!?」
一瞬のうちに身体強化のまま二人の間に飛び込んだ八幡。
「
「きゃっ!?」
「むっ!」
両足で二人まとめて軽く蹴り飛ばし、扉の前に陣取る八幡。
それを見た緑谷がフルカウルを発動させ、麗日とメリッサに声をかける。
「二人とも掴まって!」
「メリッサさん!タッチ!」
「は、はい!」
メリッサと自身を浮かせた麗日。
二人で緑谷の首を掴み、緑谷が八幡のいる方の扉へ飛び出していく。
「ありがとう比企谷君!」
「止めてこい」
「うん!」
八幡の横を通り抜け、サーバールームを出た緑谷達3人。
それを見届けた八幡が、警備マシンと戦う飯田達の背中を守るように、二人の
「とっとと寝かせてやるよ」
───────────
警備マシンが何十台と襲い掛かる中、飯田は奥の手のレシプロバーストを使ってマシンたちの間を走り抜け、次々と蹴り飛ばす。
八百万は砲台を創造し、砲弾となるトリモチ弾を作って砲手を耳郎に任せる。
上鳴は飯田の猛攻を抜けてきてしまった警備マシンに対して共に絶縁シートを被り、警備マシンに電撃を放って一時的に止める。
峰田はもぎもぎを警備マシンの足元に投げ、警備マシンの進行を止める。
「うぇっ…あ、アホになりそう!」
「上鳴頑張れ!オイラもハーレムのために頑張る!」
「ハーレム目的かい!」
「お二人とも集中なさってください!」
「まだまだ来るぞ!皆頑張るんだ!!」
「数が多すぎる!」
だが、ここを突破されては後ろが危ない。
耳郎は自分達の背後、二人の
そこでは、二人の
「はっや…何よこいつ!」
「気をつけろ、こいつはあの方から直々の依頼なんだ。梃子摺るに決まってる」
「…あの方?」
あの方、と言われてもそんな呼び方をされる黒幕など世界のどこにでもいるだろう。
だが、わざわざ八幡を狙いに来る黒幕など日本関連に決まっている。
その中でも一番の有力候補といえば。
「ふん、こんな外国まで来てオール・フォー・ワンかよ…」
「…あの方が敵だと認識して、それでもそんな態度が取れるなんて…珍しいわね。あんた、ロクな死に方しないわよ」
「それでいえばあの老害の方がよほど色々なやつに恨み買ってそうだけどなあ」
「あの方は恐怖で民衆を支配されている。あの方に逆らおうなどという者は既に死んでいる」
「んじゃあ俺は何だ?」
「今から死ぬのだ!あの方に献上された後にな!」
アーミーナイフを持った男が八幡の方へ飛び出す。
腰を落とし、八幡よりも低い姿勢で攻める男。
ナイフで足の腱を切るつもりだ。
それに対し、とりあえず身体強化で応戦する八幡。
といっても、いつものコスチュームのようにレガースもガントレットもないので、ナイフに対して避けるしかない。
それにしても速い。
個性なしでこのスピードなら恐れ入る。
(ナイフの攻勢に対して隙間を縫って蹴りを入れるか。確実に一太刀食らうだろうが…だが、奴の個性が本当にすり抜けならリスクに対してリターンがない可能性もある)
身体と場所を入れ替えて攻防を続ける躱し続ける二人。
ここまでお互いにクリーンヒットなしである。
そこへ更に女の
「私も混ぜなさいよあんたたち!」
(こいつも近接タイプかよめんどくさっ!)
ただ、このサーバールームに追い込まれた以上、当然と言えば当然の話。
自らの戦い方の真価を発揮できる場所に追い込んだ
仕方ない、と飯田に声をかける。
「飯田、マシン一体こっちにくれ!」
「なに!?」
「壊れてても何でも良い!」
ナイフ、肘、膝、掴みと次々来る二人の攻撃を捌く八幡からの要請。
サーバールームを縦横無尽に駆ける
急いで近くにいた警備マシンを八幡たちの方へ蹴り飛ばす。
「これでどうだ比企谷君!!」
「上等」
飛んできた警備マシンに手を翳し、触れる。
途端に警備マシンの装甲が剥がれ、八幡の手足を移ろうように変形して取り巻いていく。
瞬く間に両手足にレガースとガントレットが作られ、男のナイフをガントレットで受けた。
「防具完成」
「何て汎用性の高い個性!」
「もちろん知ってるが」
ナイフ相手に蹴りはそう簡単に当たらない、と細かい手技を使い始める八幡。
先ほど装甲を剥がした警備マシンに触れ、警備マシンから金属の縄を形成して二人の
だが、縄は男の方はすり抜け、女の方は液状化して縄が身体を通り抜けてしまう。
その光景を見ていた耳郎、上鳴。
「え!?」
「なんだよあれ!!」
「まさか両方物理無効かよ…!」
「その通り。もちろん、貴様の個性に対抗できる個性持ちがここに来ている。こっちは霊体化」
「は?」
「私は液体化。さて…どうするかしら?比企谷八幡、ノーアームズ…!」
得意気にナイフを持って八幡へ斬りかかる女
舌打ちしながらナイフに合わせて蹴りを放ち、ナイフを一蹴りで蹴り飛ばす。
呆気に取られる女
「え」
「あんたは単に個性にかまけた怠け者だな」
「な、はあ!?」
憤慨する女
「…あんたは、ちゃんとしてそうだな」
「なぜその女が怠け者だと?」
「物理無効の個性持ちなのになんでナイフ真っ先に出すんだよ。普通もっと流動的に身体動かして隠しナイフとかするだろ。個性使った戦闘訓練を普段からしてない証拠だ」
「なるほど、良い目だ。だが、俺は違うぞ」
「まあ、だろな」
男の身体を改めて見遣る八幡。
明らかに常人離れした筋骨。
元々身体が大きい白人なのだろうが、更に鍛え上げ引き締まった身体はまるでしなやかな鋼。
その腕は簡単に人の首を捻るだろう。
物理無効で近接に強いなどとは流石に良い鍛え方をしている。
固体操作を十全に扱えれば話は楽だったろうが、ここはサーバールーム。
警備システムに影響を出さないために、サーバールームに設置されているものは何も変形することができない。
攻め手を十のうち九は封じられた気分だ。
上鳴も同じ理由で、絶縁シートを持って最小規模に抑えて放電している。
(…あ)
一つ、思いつく。
そんな八幡の思惑には気が付かず、八幡に接近する傭兵
肉薄する
高速で移動しながら打ち合う二人。
あまりの速さに流体
その距離の近さと戦闘時間の長さに舌を巻く上鳴。
「アイツら、あの距離で何でお互いに怪我とかしてねえんだよ!?」
「いや、よく見て!」
身体強化による拳が数発打ち込まれ、それを
しかし、一発だけ防御しきれずに
「当たりそうな奴だけ霊体化してすり抜けてんのか!?」
「んだよちくしょう、霊体化って反則だぜ!!」
「…?」
「ヤオモモ?」
砲弾を想像しながら、八幡たちの戦いを見ていた八百万は違和感を覚えた。
当たりそうな攻撃を個性で避けるのはわかる。
だが、個性を使わずにナイフや腕で拳を受ける理由は特にない。
「比企谷さん!」
「わかってるよ」
八百万の違和感は、何より実際に戦っている八幡の方が強く持っていた。
拳がすり抜けた感触は空を切る時と特に何も変わらない。
つまり、霊体化だか何だかの個性はある。
問題は、何故受ける必要のない拳を受けたか。
まさか、それが発動条件か。
それとも単に個性の使用にインターバルがあるのか。
とりあえず、と一度距離を取って密かに耳郎たちの方を狙っていた女
液状化して吹き飛ぶ女
「ぎゃっ!?」
「確かにあんたの言う通り諸々破壊するような気体操作はできないけどな、空気を高速で動かして風を作るくらいなら普通にできるぞ」
「てめえっ!!」
「口が悪い…」
「貴様の相手は俺だぞっ!」
語気を強めて二本目のナイフを取り出し、今日一番の速度で八幡の横から襲い掛かる傭兵
だが、ぎくりとその身を揺らしてしまった。
少年の暗澹たる黒目が、傭兵
予備動作なしで放たれた
2mを越す巨体が強制的に床に伏せられるのを見て、後退りする女
「っ…」
本音を言うと、こんな
だが、この二人は依頼を受けて誘拐に来たと言う。
彼らの背後には明らかにオール・フォー・ワンの悪意が見える。
その死柄木を挫けたのだから、まだ良かっただろう。
しかし、この傭兵
こんな
自分の中に、久しく覚えていない感情が湧き上がることを自覚した。
「おい」
今のは自分の声か。
まるで知らない誰かの声で、一瞬戸惑う。
「お前ら」
簡易ガントレットを握り潰してしまいそうなほどの力が拳に入る。
そして、彼はまだ自覚していない。
ただ、自分を受け入れてくれた彼らに手を出そうとした。
そのことに、ひたすら怒りが沸いていることに。
「いい加減にしろよ」
渦中の少年の怒りに触れた
流体
「それはこちらのセリフだ!!ただのヒーロー風情が、常日頃命を取り合う我々傭兵に歯向かうな!!」
高速でナイフを用いた近接格闘術。
速い。
明らかに人体が出せる速度を逸している。
やはり個性を混ぜられていたか、と八幡。
だが。
ガントレットでナイフを2本とも手掴みし、男の両手を止める。
「!! なぜこの速度が見える!?これは、あの方からの…!」
「軽い速度上昇系の個性もらってるな、あの老害から」
「何故だ、答えろ!!」
「そりゃ俺にいつも殴りかかってくる人らの方が速いからな。…あんた、日本で一、二に肉弾戦に強い女に追いかけられたことあるか?」
「なっ…」
傭兵
比企谷八幡──ノーアームズの師のうちの二人が、日本で一番目に強い女と二番目に強い女であるということを。
「それに比べりゃ安すぎてお釣りが出る」
「貴様っ!!」
「それと」
鈍い金属音とともにレガースとナイフがかち合う。
二、と八幡が数字を呟く。
その数字に、勘付かれたと判断する傭兵
「あんた、攻撃を五回受けたらすり抜けることができる個性だろ。しかもかなり短時間だ」
「!!」
「霊体化って言ったのは物理無効で俺のやる気を削ぐ為のブラフ。横に本物の物理無効が居るから信じ込みやすいしな。…違うか?」
「ぐっ…」
「すり抜ける回数はストックできるのか?攻撃にカウントされるのはどの程度までから?それとも衝撃の強さで回数を補えるのか?気になることは色々あるけど…」
トン、と懐へ男の飛び込む。
拳を握り、身体強化をフルに発動して全力で一撃を打ち込む。
“真ん前から打ち砕け”。
「ファースト」
「ごぼぉあっ」
「ブリット!!」
師匠譲りの右拳が巨体を空中へと吹き飛ばし、白目を剥く傭兵
サーバールームの外まで吹き飛ばされた傭兵
「結局すり抜けの条件が成り立つ前に一撃で終わらせりゃ良いんだろ」
「こ、固体操作や気体操作なしで……肉弾戦は大して強くないって言ってたのにぃっ……!!」
「そりゃオール・フォー・ワンの見込み違いだろ。俺の上にはとりあえず殴るとか蹴るとか言い出すおっそろしい人たちがいるしな。…それとも、アンタらが単に弱いだけだよ」
「抜かしなこのクソガキ!!なんだかんだ言って、アンタは私に傷ひとつ入れられないんだよ!!」
「俺は、な」
「!?」
チラリと横を見る八幡。
流体
──機を窺っていた、上鳴が流体
すぐにナイフを取り出し、上鳴へ振るおうとする流体
だが、ナイフは横から飛んできた金属縄に掻っ攫われてしまう。
そしてナイフは、八幡の手元に収まった。
「サンキュー比企谷!!」
「よく気づいたな」
「俺もやってやるぜぇっ!!」
八百万謹製絶縁シートで自分と流体
ニヤリと笑い、上鳴と流体
「ちょ、どこ触ってんのよこのエロガキ!!」
「へっ、そんなこと言ってていいのか!?」
「え?」
「限定放電っ…!!」
「ちょ」
「エレクト・アウトっ!!」
「ぎゃああああああああっ!!!」
絶縁シートの中で電撃音が響き渡り、ほんの数秒で静かになる。
絶縁シートがぱさりと剥がれ、中から気絶した流体
「うぇ〜い…」
「…かっこつかねえ奴だな」
「比企谷っ!!後ろ!!」
届いた耳郎の警告。
声に従い、振り向き様に
八幡に迫っていた警備マシンが数台、弾け飛んでいくところだった。
見ると、飯田や峰田、八百万も耳郎も既に警備マシンに捕縛されていた。
上鳴の方にも警備マシンが集っている。
耳郎が悲痛な顔で八幡に叫ぶ。
「ごめんっ!」
「いや、良い」
すぐに床と接続し、床を通してサーバールームにいた全ての警備マシンと接続する。
そのまま警備マシンを一台残らずひしゃげさせ、飯田たちを拘束していた捕縛縄を解かせる。
「時間稼ぎ、してくれたろ」
「比企谷っ…!」
安堵する耳郎。
上鳴もアホ顔がどことなく喜ぶ顔になっていた。
───────────
「すげえ、本当にロボ相手なら無敵かよ…ていうか傭兵の
「褒めてんのか」
「褒めてるよ!!」
羨む気持ちとすごいと素直に思う気持ちの2つが混ぜこぜになっている峰田を見る八幡。
頭から血が出ている。
もぎもぎの個性を使いすぎたのだろう。
八百万も創造のしすぎで疲れ果て、飯田はふくらはぎのエンジンから煙が出ている。
エンストしてしまったようだ。
上鳴は警備マシンと流体
耳郎だけは何ともないようだが、個性では戦闘に役立てない。
「…悪い、戦わせすぎた」
「何言ってるんだ、比企谷君。俺たちこそ…もっと上手くやれた筈だ」
「そんな疲労困憊で何言ってんだ。…八百万はもう無理そうだな」
「す、すみません…。少し休めば、脂質をまた創造に使える筈です」
「いや、良い。後はその知恵だけ使っててくれ」
「…はい」
「峰田、その頭は」
「へ、へへ…。オイラも、この血はそのうち止まる。個性は使えないかもしれねえけど…」
「…とりあえず、上鳴は俺が背負う。ここにいてもまた警備マシンが来るだろう。緑谷たちを追いかけよう」
「いや、上鳴君は俺が…」
その時、サーバールームに警告音が鳴り響いた。
先程の島内放送の直前に流れたものと同じもの。
まさか、と耳郎と八百万が顔を見合わせる。
『I・アイランド、管理システムよりお知らせします。I・アイランドの警備システムは、通常モードになりました。外出禁止令を解除します。繰り返します──』
「緑谷君たち、やってくれたか!」
「…上へ向かおう」
「な、何で上に行くんだよ比企谷!?」
「パーティ会場のヒーローたちの拘束はもう解けたはずだ。あそこはヒーローたちに任せとけばいい。それより、緑谷たちと轟たちの安否を確認した方がいいだろう。緑谷たちの方が戦力的に不安だからな…だから上」
「丁寧な説明ありがとよちくしょう!また走んのかよぉっ!」
「いえ、今ならエレベーターが使えるはずですわ!エレベーターホールへ!」
八百万の提案で、エレベーターへ走り出す一行。
八百万を耳郎が支え、上鳴を飯田が背負う。
走りながら思案する八幡。
(警備システムをすんなり元に戻せたとは思えん。必ず
───────────
迫り来る金属の塊や金属柱。
セントラルタワーの屋上、円盤状の戦場にて、オールマイトと鉄面男──ウォルフラムは激闘を続けていた。
警備システムが通常モードに戻ったものの、ウォルフラムは既にその目的を果たしていた。
それは、デヴィット・シールドの最高傑作、個性増幅装置の奪取。
そして、装置を量産するためのデヴィット・シールドの誘拐。
個性増幅装置を身につけたウォルフラムは、屋上からセントラルタワーのあらゆる機械や金属を無数の鞭のように操り、オールマイトを追い詰めていた。
デヴィットも既に電線やケーブルの束に囚われてしまっており、戦いを見守るメリッサ。
「パパ……マイトおじ様…っ!」
ウォルフラムによる金属操作によって荒れ狂う足場、ウォルフラムの周囲へ浮遊して集まっていく金属部品。
ウォルフラムの周りには金属の防壁が作られ、ウォルフラムの身体を取り巻いている。
セントラルタワー自体が金属や機械、特殊合金などで設計されている為、ウォルフラムにとっては武器の宝庫である。
八幡と違ってセントラルタワーや味方を気遣うこともない。
金属の塊の濁流に吞まれないようにメリッサを抱きかかえて避難する緑谷。
(オールマイト…!)
いくら個性増幅装置を身に着け、全長数十メートルを超える金属の大鞭を無数に操るウォルフラムとはいえ、オールマイトが金属の塊程度に力負けしている。
そのことにまさかと緑谷。
金属の塊とせめぎ合うオールマイトが身体から小々の煙を発し、血反吐が口からこぼれたのを見て、確信する。
(オールマイト!やっぱりそうだ…!活動限界なんだ…!)
ワン・フォー・オールを使用できる時間が残りわずかしか残されていないのだ。
メリッサをウォルフラムから離れた安全な位置へ避難させ、オールマイトの方へ駆け出す緑谷。
だが、ウォルフラムは追撃の手を緩めない。
「さっさと潰れちまえ…!!」
更にオールマイトに迫る複数の金属の塊。
オールマイトは動けない。
一つの金属塊を支えるので精いっぱいだ。
悲痛な表情で叫ぶ緑谷。
「オールマイトぉぉぉぉ!!!」
その瞬間、オールマイトに迫っていた金属の塊の群れが氷結して止まる。
氷結の出どころの方を見るその場の面々。
ウォルフラムの目に入ったのは、空中に飛び出してウォルフラムを狙う金髪の少年。
「くたばりやがれっ!!」
「ちっ」
爆豪による連発爆破を金属の大楯で防ぎ切るウォルフラム。
一方、爆豪は
しかし、痛みに耐えつつオールマイトに発破をかける。
「あんなクソだせえラスボスに、何やられてんだよ!!えぇ!?オールマイト!!」
「爆豪少年…!」
爆豪の姿を見とめた緑谷が、セントラルタワーの下層に繋がる通路の方を見遣る。
金属の塊を氷結させた轟や麗日たち、サーバールームから脱出した八幡たちがそこにいた。
「轟君…!みんなぁ!!」
「早く、
「金属の塊は俺たちが引き受けまあす!!」
「八百万君、川崎君!ここは頼む!!」
「…っ!」
爆豪、轟に続いて飛び出していく切島、飯田。
状況をすぐに把握する八幡。
敵味方の戦力を勘定し、自分のやるべきことを考える。
(オールマイト…活動限界が来てるなあれは!こっちの戦力になれるのは…轟、爆豪、切島、飯田、川崎、んで俺…!)
だが、荒れ狂う金属の塊は新たに来た戦力を捨て置かない。
轟を邪魔と見たウォルフラムが金属の大槍3本を轟たちへ向け、襲い掛からせる。
「っ!」
「ひいっ!」
「見境なしか!」
悪態をつきながら同じようにセントラルタワーの機械群を操作し、防壁を作る八幡。
金属槍と防壁の衝突で轟音と衝撃が響き渡る。
「うわああああっ!!」
「ぐっ…!」
「…比企谷、八幡だな…?」
「!」
周囲に響くようなウォルフラムの声に、ウォルフラムを見遣る八幡。
気怠そうに返事をする。
「そうですけど?誰だあんた」
「お前の迎えに行かせた二人はしくじったようだな…!わざわざお前の捕獲のためだけに連れてきた貴重な個性だったんだがなあ」
「アレで俺の対策が出来てるつもりだったならめでたい頭してるぞ、あんた」
「減らず口が!お前もデヴィット・シールドとともに連れて行ってやろう!」
オールマイトに割かれていた金属の塊のリソースが半分ほど八幡に向けられる。
ウォルフラムの周囲から一度に数十本の金属の塊がその首をもたげた。
その光景にひっ、と悲鳴をあげる峰田。
耳郎は思わず声を上げる。
「比企谷、逃げて!あんたアイツに狙われてる!!」
「わかってるが、逃げても無駄だ。お前らを人質に取られるのは目に見えてる」
「でも…!」
「川崎、ソイツら任せて良いよな」
「…負けたら叩き起こすからね」
「そんな痛い目にあいたくねえから頑張るわ」
「相変わらず後ろ向きにポジティブだね。…行ってきな」
麗日や峰田の前で腕を組んで仁王立ちする沙希。
沙希の言葉を聞き、悪いと謝ってから飛び出す
八幡。
サーバールームの時とは違い、最早遮るものは何もない。
迫り来る金属の塊を、同じような金属の塊で迎撃して相殺する。
「!!」
「個性ダダ被りか、同類」
「固体操作…!確かにこの場には金属しかねえからなあ!俺の金属操作と被ってはいる!」
「ヴァン!」
ウォルフラムを嘲る様に気体操作て空気砲をウォルフラムに撃ち込む八幡。
舌打ちしながら防壁を作るウォルフラム。
「わざわざこれ見よがしに空気砲を…!そんな豆鉄砲効かねえよ器用貧乏が!!」
「そりゃ悪かった!……オールマイト!!」
「比企谷少年…!」
オールマイトとせめぎ合っていた金属の塊へケーブルを伸ばし、塊と接続して一瞬で解体する。
その光景に目を見開くウォルフラム。
「なっ…」
「本当に引退するんすか!!」
「くうっ、良い挑発だよ!本当にね!」
オールマイトはいつかのUSJでの会話を思い出す。
飛び回って金属を爆破する爆豪、氷結波を金属に浴びせていく轟、生徒たちやオールマイトに飛んでくる金属の大柱を同じような金属の塊で相殺する八幡。
「生徒たちにこうも発破をかけられては…限界だ何だなどと言ってられないな!!限界を超えて…さらに向こうへええぇぇ!!」
全身の筋肉がバネのように伸び、飛び出していくオールマイト。
一気に五本の金属の塊を砕き、ウォルフラムへ迫る。
オールマイトの突撃に合わせて八幡も金属の塊をウォルフラムへ向ける。
「そう!!PLUS ULTRAだあああァァァ!!!」
高速でオールマイトを潰さんとする無数の金属の塊を、更に上回る速度で躱し、破砕していく。
八幡は固体操作で伸ばしたケーブルを金属の群れへ伸ばし、オールマイトを後ろから補佐して進む。
ウォルフラムもオールマイトの動きに合わせて金属の大柱をぶつけに行くが、オールマイト自身がそれをものともしないうえに、八幡のケーブルに触れられると、固体操作の力に負けないようにそちらへ注力しなければならない。
「目障りな野郎だ…!」
「こっちばかり見てていいのか」
「っ!?」
遠方の八幡から目を切り、オールマイトが自身に向かって超距離跳躍をした姿を見るウォルフラム。
咄嗟にいま生成していた金属の大柱を全てオールマイトへ向けて伸ばし飛ばす。
それを予想していたかのように腕をクロスチョップに構えるオールマイト。
「CAROLINA…SMAAAAAASH!!!」
二筋の閃光と共にはじけ飛ぶ金属群。
ウォルフラムの武器の金属の塊が全て砕かれ、オールマイト到着までにウォルフラムが武器をセントラルタワーから生成する時間はない。
「ようやく終わりか…」
「観念しろ!!
空中で跳躍したオールマイト。
そのままウォルフラムへ拳を向ける。
ウォルフラムへオールマイトが到達する、その直前。
四方八方から飛んできた数十本の通信用ケーブルがオールマイトを空中でとどめてしまう。
「!?」
「!! なんのこれしき…!!」
しかし、抵抗しようとするオールマイトの首を左手で喉輪にするウォルフラム。
その左手が不自然に膨張し、オールマイトを苦しめる。
右手はオールマイトの左脇腹を掴み、オール・フォー・ワンから受けた傷口を握りしめる。
ぐっ、と声が出てしまうオールマイト。
「ぐああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「オールマイトぉ!!」
すぐにオールマイトを助けに行こうとした緑谷だったが、緑谷も
ウォルフラムの様子を見た八幡は、その可能性を考えていなかった自分を恥じた。
(金属を操作する個性…だけじゃないのか!さっきの元傭兵みたいに、アイツもオール・フォー・ワンから個性を!くそ、恐らく筋力系…!)
「お前にはこれが効くだろう…?比企谷八幡!」
「ん!?」
オールマイトを助けるために動こうとした八幡にわざとらしく声をあげるウォルフラム。
オールマイトを苦しめながら、金属の大槍を形成して八幡の後方に次々と飛ばす。
その狙いに悪寒を感じつつ、それを振り払うように全力の身体強化と気体操作で狙いの先へ戻る八幡。
「性悪が!!!」
「!?」
「槍!?」
「っ!あんたたち逃げな!」
「川崎さ…」
飛行する八幡はなんとか金属槍より先に、防壁を作っていた八百万たちの元へ舞い戻り、息つく間もなくセントラルタワーに触れ、全員の足場を操作して金属槍から避難させる。
大槍はセントラルタワーへ次々と突き刺さり、更に足場が崩壊する。
「きゃああ!」
「うわああああああ!!?」
「あの野郎もうめちゃくちゃだぁ!!」
「比企谷!!あんたなんで…!」
「お前あんな大質量の大群は防げないだろうが!!」
「っ!」
「あの鉄仮面、操作する金属の質量は明らかに俺より上だ!あれが一個人の個性かよ…!馬鹿げてる!!」
個性増幅装置で強化されたウォルフラムの個性。
金属操作は触れずとも八幡の固体操作以上の大質量の金属を操れるようになり、オール・フォー・ワンから与えられた筋力増強はオールマイトを苦しめるほどの力を発揮できるようになった。
更に、オールマイトだけではなく、八幡、爆豪、轟といった面々を一度に相手している。
耳郎が飛んでくる瓦礫から身を守りつつ、八幡に叫ぶ。
「比企谷の個性で金属の操作権を奪うとかできないの!?」
「できねえよ…多分個性原理が違う。俺とあの鉄仮面が同じ金属に対して個性をつかったら、どっちが先に金属を思うように扱えるかの競争や鍔迫り合いみたいなことをしなきゃいけねえんだよ。そんなことを一つの金属の塊に対してやって対処するくらいなら、似たような何かで相殺した方が早い…」
「比企谷君、オールマイトが!!」
「!!」
麗日の声で、悔しそうな耳郎から目を離してウォルフラムとオールマイトを見る八幡。
空中のオールマイトがケーブルに拘束されたままウォルフラムから突き放され、金属の塊の挟撃を受けるところだった。
次々と塊がオールマイトを囲う金属の塊へぶつけられていく。
「おじ様…!」
「「「オールマイトぉっ!!!」」」
「まずい…!」
「お前はそこで止まっていろ!!」
再び沙希たちの元へ飛んでくる金属の大槍の群れ。
八幡は同じような槍で、沙希が衝撃波で相殺するが、大槍に対処できるのが沙希一人では八幡はここを離れることが出来ない。
「後でじっくり相手をしてやる…!」
(あの鉄仮面と距離がありすぎる!目算200メートル超…!)
「さらばだオールマイト…!!」
ウォルフラムの言葉と共に、金属の塊ごとオールマイトに殺到する大柱。
塊に柱が突き刺さり、その場の者たちは悲劇を想像してしまう。
メリッサの悲鳴が、セントラルタワーの屋上に響いた。
「マイトおじさまあああぁぁぁ!!!」
「DETROIT…!」
爆豪よりも。
轟よりも。
八幡よりも速く。
その少年は飛び出していた。
「っ」
「!」
「マジかよ…!」
「SMAAAAASH!!!」
緑谷のSMASHがオールマイトを覆う金属塊に炸裂し、轟音と煙を立てて金属塊は崩れ落ちていく。
それと同時に落下し始める緑谷、オールマイト。
オールマイトが瓦礫から緑谷を守り、二人とも地面に落下する。
「緑谷少年…!そんな身体で、なんて無茶な!」
「……だって…!」
「!」
ボロボロの身体、身体中の痛みを無理やり無視し、笑顔を作る緑谷。
「困ってる人を助けるのが、ヒーローだから…!」
その言葉にハッとするオールマイト。
オールマイトにとって、緑谷は自身の後継者であるとともに、子供だ。
だが、あることを忘れていた。
彼は、ヒーローになりたいのだ。
誰かにとってのヒーローであろうとするのだ。
憧れたオールマイトのように、困ってる人を笑顔で助ける、そんな男に。
にやりと笑うオールマイト。
「…ハッハッハッハ!ありがとう、確かに今の私はほんの少しだけ困っている!」
煙をあげながら立ち上がるオールマイト。
緑谷へ手を差し伸べ、立ち上がらせる。
「手を貸してくれ、緑谷少年!」
「…はい!」
二人の
立ちはだかる
「いくぞ!」
「はい!」
同時に飛び出すオールマイトと緑谷。
二人のもがきに怒りを募らせ、迎え撃つように金属の塊を差し向けるウォルフラム。
「くたばり損ないとガキが…ゴミの分際で!!往生際が悪いんだよおおおぉぉぉ!!!」
「そりゃてめえだろうがああ!!」
こちらも酷使した両手に鞭を打ち、二人に迫る金属の塊を爆破していく爆豪。
次に飛んできた金属の柱を、轟が凍らせていく。
「させねえぇっ!!」
そしてもう一人。
耳郎たちの防護を沙希に加え、飯田、切島に任せた八幡。
差し向けられた金属の大槍の側面を固体操作で滑走し、ウォルフラムへ迫っていた。
「さあ、タルタロス送りにしてやる!」
「邪魔だあ!!!」
ウォルフラムが腕を振るい、それが引き金となって戦場の至る所で爆発が起きていく。
八幡と八百万が作った防壁に隠れていた麗日たちの足元も崩れ、悲鳴をあげて自分たちの身を守る。
一人離れたメリッサも例外ではなく、バランスを崩して身を足場に滑らせるメリッサ。
「うぅ…」
何とか顔をあげ、オールマイトと緑谷を見るメリッサ。
緑谷よりも前面を走り、無限かと見紛うほどの金属塊による攻撃を迎撃し、打ち崩していくオールマイト。
緑谷もオールマイトから少し遅れるものの、ワン・フォー・オールを発揮し、流星のような蹴りで降り注ぐ金属たちを破砕して進む。
オールマイトのすぐ後ろに追いつく緑谷。
疾走する二人の後ろ姿を見たメリッサは、何かに気が付く。
髪も背格好も似ていないのに、何故か二人は同じだ、と思ってしまったのだ。
「ぬうううっ…!」
「今度はこっちがお留守になってんぞ、鉄仮面!!」
「っ!」
オールマイトと緑谷の迎撃をしようと構えていたウォルフラムに、槍を滑走しきった八幡が迫っていた。
金属槍から金属を固体操作で奪い取り、圧縮し、集約されて右足に巨大なレガースを作っていく。
「クソがあああああ!!!」
「
振り下ろされる鉄巨人の蹴りに対して巨大な金属の防壁を用意するが、一撃で防壁を砕かれてしまうウォルフラム。
八幡だけではなく、すぐそばまでオールマイトと緑谷も迫っている。
だが、ウォルフラムは邪悪な笑みを浮かべた。
「…!?」
その笑みを、虚勢ではなく何かあると察する八幡。
すぐに八幡たちの上空に浮いていく金属の塊に気が付く。
バッと上を見ると、セントラルタワー上空に今までとは比べ物にならないほど巨大な金属塊が出来上がりつつあった。
「同じ物体を操作する個性がいて、あんな塊落とせると…!」
「よそ見していていいのか!?」
「なに!!?」
ウォルフラムの指し示す方を見ると、後方。
今出来上がりつつある巨大な金属塊とは別に、もう一つ同じサイズの金属塊の立方体がちょうど沙希たちの真上に出来上がりつつあった。
八幡とウォルフラムによる金属塊の応酬の残骸が沙希たちの方には散乱しており、金属塊の形成はあちらの方が早い。
二つの巨大な金属塊の大きさは、セントラルタワーの直径を超えてしまっている。
ウォルフラムは二つの金属塊をセントラルタワーもろともオールマイトたちにぶつける気なのだ。
八幡を嘲るウォルフラム。
「やはりお前には、これが効くなあ…?」
「…オールマイト!!緑谷ぁ!!!」
八幡の強い声に、残された麗日たちを助けなければと動こうとしていた二人が振り向く。
八幡は黙って、ウォルフラムを指さした。
「っ!」
「行くぞ緑谷少年!!」
「…はい!!」
八幡の意図を掴み、再びウォルフラムへ走り出すオールマイト、緑谷。
反対に、八幡は一条の光のように飛び出し、沙希たちの方へ既に落ち始めていた巨大な金属塊へ向かう。
落ちて向かってくる巨大すぎる金属塊を見て、恐怖で動けなくなる峰田、麗日。
もうだめだ、と諦めてしまう。
沙希はせめて麗日たちだけは助けないと、と身構える。
逃げている時間はない上に、逃げ場もない。
そんな窮地の中、耳郎は紫の光を見た。
落ちてくる金属塊を高速で貫く紫電。
その主である八幡は、固体操作をフルに発揮して紫電を走らせ、金属塊と両手両足で接続する。
「んんのっ野郎!!!」
巨大な金属の立方体の大きさは、八幡の固体操作の有効範囲である約100メートルを大きく超えている。
それに、そもそもウォルフラムの金属操作に勝てるのか。
だが、やらなければ沙希や耳郎たちは死ぬ。
それに、セントラルタワーが崩れたら下で
先日のオールマイトととの期末試験時以上に両手足に力を込め、巨大な金属塊を支配しようとする。
目いっぱい手を、神経を広げろ。
届かなければ伸ばせ。
限界以上に伸ばせ。
一片の金属も彼らに当たってはならない。
更に伸ばせ。
何故この場に自分が居るのか。
この瞬間の為だろう。
この為に、戻ってきたんだろう。
亡き父と母のように、その手で守る為に。
更に伸ばせ、限界を超えて。
更に向こうへ。
「っ…あああああああああああああああ!!!!」
ピシリ、と巨大な金属塊にひびが入る。
手足のところどころから血を吹き、裂けていく。
次の瞬間、轟音を立てながら金属塊は四方に割れ、その身がばらけた。
ウォルフラムの金属操作に打ち勝ち、立方体の操作を成し遂げたのだ。
「え」
だが、四つに割れてもやはり巨大。
一本の手足分だけの固体操作でそれぞれの金属塊を更に操り、分割していく。
瞬く間に人ひとり分程度に分割された金属塊はいずれも爆豪や轟、耳郎たちを避け、セントラルタワーの人気のない方面へ落ちる。
その光景を呆然として見る一同。
はっと上を見たのは耳郎だ。
慌てて駆け出す。
次いで気が付いた沙希、飯田が飛び出して途中で耳郎を抜かし、二人で遅れて落ちてきた八幡を受け止めた。
「比企谷!!」
「比企谷君!!…手や足からの出血がひどい!八百万君、応急処置を!」
「今医薬品を!」
「………け…」
「え?」
八幡の口から声が漏れ出た。
思わず聞き返す飯田。
駆け付けたその場にいた全員が、八幡の言葉を聞き取ろうとする。
「…行け……!英雄…二代…!」
八幡の視線の先。
彼の所業を信じ、
「目の前にあるピンチを!!」
「全力で乗り越え!!」
オールマイトの、緑谷の拳に、ワン・フォー・オールの力が集約する。
「人々を!!」
「全力で助ける!!」
迫りくる金属塊。
死を意味する巨石へ、二人並んで飛び込む。
「それこそが!!!」
「ヒーロー!!!」
ウォルフラムも後のなさから、全力の金属操作で今度は巨大な金属塊をオールマイトと緑谷へ投げつける。
あまりの巨大さに、それを見た飯田たちは隕石を連想してしまう。
「タワーごと潰れちまえぇぇぇ!!!」
オールマイトの左拳と、緑谷の右拳が、それぞれ白い光を伴って同時に引かれる。
受け継がれるワン・フォー・オール。
本来なら起こりえない、二つの力が同時に発揮されるなど。
だが、その奇跡がピンチを乗り越えようとしていた。
「「DOUBLE DETROITOOOOO……!!!」」
極光とともに、二つの拳が放たれる。
「「SMAAAAAAAASHHH!!!!」」
ぶつかり合う金属塊、二人の拳。
血反吐を吐いても拳を打ち込むオールマイト。
フルガントレットにひびが入るも、本日二度目の全力のSMASHを打ち込む緑谷。
「「ううううううあああああああああ!!!」」
そして、金属塊は貫かれ、砕かれた。
ウォルフラムは一瞬慄くが、すぐにまだ二人の攻撃が終わっていないことに気が付く。
次々と金属の寄せ集めで二人の前を遮るが、何の障害にもならずに、二つの星はウォルフラムの元へたどり着く。
その姿に、一斉に声を上げ始める麗日たち。
「いけええええええええええ!!!」
「「オールマイトォ!!!」」
「「「緑谷ぁ!!!」」」
「「ぶちかませぇ!!!」」
{…見せてくれ…平和の象徴。その後継者…!)
沙希に支えられ、なんとか身体を決戦の方へ向ける八幡。
平和を求めて蓄えられ、受け継がれゆく力。
それは、平和の象徴と謳われた男が、消えゆくこと。
そして、これからの時代を担う、ヒーローの一人の誕生を意味していた。
今、光る。
「更に!!!」
「向こうへぇぇ!!!」
「「PLUS ULTRAAAAAAAA!!!!」」
断末魔のような悲鳴をあげ、二人の英雄に斃されるウォルフラム。
弾け飛び、葬り去られる金属の磔刑。
拘束が解かれ、解放されていくデヴィット。
朦朧とする意識の中、彼は確かに見た。
若かりし頃のオールマイト。
その姿が、拳を掲げて飛ぶ緑谷と重なった。
その時、彼は悟る。
自分のしようとした、オールマイトの力を守るというのは不要な所業だったのだ、と。
何故なら、後に育つ光は、既にともり始めていたのだから。
自分の娘であるメリッサが、自分の後を追って研鑽するように。
八幡も、それを見ていた。
ようやく、それっぽくなったと言わんばかりにニヒルな笑みを浮かべる。
皆が歓喜に沸く中、改めて誓う。
この英雄の卵たちを、悪の手にかからないように。
守っていかなければ、と。