何がヒーローたらしめるか   作:doraky333

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暗い顔、つまらなさそうな目。
声をかけたのはたまたまだった。
話してみれば意外と面白い。
ただ、いつだったかの授業参観の時。

──暗雲とした表情すらない、無表情だった彼を今でも思い出す。


Hero's Episode13.いざ夏 誘う猫

「それが今回のことの顛末か」

「…まあ。ていうかよく入ってこれましたよね先生たちも」

 

一週間後、雄英高校教師寮。

すっかり固体操作の酷使による怪我が治った八幡は、雪乃と平塚と小町の四人で朝食の時間である。

いやいやー、と首を振る小町。

 

「びっくりしたよほんとに。今から行こうとしてたI・アイランドでテロ!?しかもお兄ちゃんや雪乃さんが(ヴィラン)と交戦!?オールマイトだって怪我したっていうし、何より事件を解決したのがお兄ちゃんとクラスメイトたちって!」

「私はほとんど戦ってないわよ。…何も、出来なかったわ」

「お前はパーティ会場にいたから仕方ないだろ」

「そうだ。比企谷たちが動けたのはたまたまだ。…何にせよ、仮免未取得だった彼らの功績も上手く讃えられた。敵の首魁を倒したのはオールマイトで、

それ以外のタワーの中にいた(ヴィラン)は全てお前が倒したことになってる」

「…らしいすね。その他の最上階までの到達に協力してもらった、という形が一番妥当でしょ。80階に居た奴らとかは爆豪と轟に中々手ひどくやられてましたからね」

「ああ。…だが、やはり全員無事に切り抜けられたのは、能力が高い証だろう。一種の自信になってると良いな」

「…うん、お兄ちゃんが無事で良かった」

 

しおらしく笑う小町。

そんな小町に少し微笑む八幡。

だが、次の瞬間にはしかめ面になる。

 

「そう言ってお前、I・エキスポが再開されたらすぐにはしゃいでたでしょ…」

「だあって!楽しみにしてたんだもん!お兄ちゃんのクラスメイトさんたちとバーベキューとか、楽しかったなあー!」

「お前、よく歳上の連中と混じれるよな…。何なら俺より輪に入ってたし」

「いや、お兄ちゃんにそれ言われたくないから。お兄ちゃん同級生よりも明らかにおじさんやお姉さんの方が初対面ウケいいよね」

「…そうか…?」

「自覚ないのね」

 

エンデヴァーやミルコ、平塚に陽乃と次々と名前を思い浮かべる雪乃。

ベストジーニストとは悪くない関係を築けた様で、デヴィット博士とも研究協力を終えた。

同級生はというと、耳郎、障子、葉隠、上鳴、緑谷辺りだろうか。

その他のクラスメイトととも、本人が積極的に関わろうとしないだけで何も悪いことはない。

一般的な人は大抵の友人関係が広く浅く、そしてわずかに近く深くという感じだろうが、八幡の場合は関わる人間のほぼ全てが狭く深くといったところだろう。

この後ろ向きな捻デレは、そこら辺が自覚がない。

 

「…人たらし」

「?」

「何でもないわ、早く食べなさい。…あら?」

 

ピンポン、と呼び鈴が鳴った。

思わず顔を見合わせる四人。

こんな朝早く、しかも雄英教師寮に珍しい客である。

誰だろう、と赤のタンクトップだけだった平塚が上着を羽織り、玄関へ向かう。

 

「誰かしら」

「普通に教師の誰かだろ」

「こんな朝早くに?平塚先生は合宿行かないし、今日は休みのはずよね」

「さあな。……小町、ご飯食べながらスマホを見るのはやめなさい」

「はいこれ」

「?」

 

小町が八幡に、スマホのメッセージアプリを見せる。

その内容に顔を顰める八幡。

まさか、と玄関の方を見る。

玄関から戻ってきた平塚の後ろに、あざとい笑顔の少女がいた。

 

「おはようございまーす♪」

「あら、おはよう一色さん」

「いろは先輩!おはようございます!」

「んん?返事が聞こえない人がいますねー」

「…ああ、はいはい。おはようさん」

「何ですかその挨拶は。せっかく可愛くて頼りになる後輩がわざわざお家に遊びにきたというのに」

「ここ借家だしそもそも可愛い普通の後輩は朝7時に人ん家訪ねたりしねーんだよ」

 

初夏にふさわしいワンピースを着た一色いろは。

先の小町のスマホには、“その男を逃すな”といういろはからのメッセージがあり、そのメッセージを見た瞬間に寒気がしてしまった。

その男、とは誰のことかまではすぐに読み取れなかったが、読まなくてもわかる。

罰が悪そうにそっぽを向く八幡。

いろはの額には青筋が浮かんでいるように見えた。

 

「せんぱーい?せっかくぅ、可愛い女子中学生の後輩がメッセしたのにぃ……既読つけて終わるだけってなんですかバカなんですかなに自分から世の男どもが羨むアド捨てて何考えてんですか」

「こわいこわいこわいこわい」

「ていうかエキスポ!!行ったんですよね!?何でわたしも連れて行ってくれないんですか!!」

「いや、小町からサッカー部の大会期間だって言われたからじゃあいいかって…」

「無理とわかってもとりあえず誘ってくださいよそしたら既成事実でサボるのに!!」

「いろはす変わんねえな…」

「いろはす言うな!!」

 

がるる、と唸りながら八幡の肩をビシバシ叩くいろは。

本当に口でがるるなどと喋っているからあざとい、と嘆息する八幡。

その息にまたカチンときて更にいろはのチョップがヒートアップ。

そろそろ痛い。

 

「…んで何の用だよ?」

「ふっふっふ、知ってるんですよ。今日から先輩たち合宿行くんですよね?」

「…何で知ってんの、なんて聞かなくても分かりきってたな」

「小町じゃないよ?」

「ん?」

「…ごめんなさい、私」

「いや何でだよ」

 

こちらも罰が悪そうにそっぽを向く雪乃。

似たもの夫婦め、とジト目の平塚。

 

「その…ね、猫カフェなるものに連れて行ってくれるって言われて…その…」

「…猫、ね」

「あ、そういえばお兄ちゃん。かーくんのことだけど」

 

猫、と言われて思い出すのはカマクラ。

父親を亡くした小町の寂しさを紛らわすかのように、八幡がペットショップで買ってきた彼の人生で一番高い買い物として、灰色の猫──カマクラは比企谷家にやってきた。

 

「ああ…ペットショップかなんかに返したんじゃないのか。俺いないし、お前の性格なら雪ノ下に迷惑かけないように」

「え?雪乃さんの実家に預けてるよ?」

「は?」

「とりあえずしばらく教師寮の暮らしをして、慣れたらまたここで引き取ろうという話を小町さんとしていたの。平塚先生も了承してくれたし」

「ほーん」

「私もペットは別に不得意ではない。よく逃げられるがな」

 

上着を脱ぎ、再びタンクトップになって朝食の続きを始める平塚。

その姿に慌てていろはが八幡の目を覆う。

 

「ちょっと一色さん?食えないんですけど」

「いやいやいや、何感覚麻痺ってるんですか!?」

「?」

「平塚先生服着てくださいよもっと!!」

「ん?心配いらんぞ、これはブラと一体になってるタンクトップだ」

「違いますよ!肌色面積考えてくださいこの人男ですよ!?むしろ先生が男らしすぎるんですよ!!もっと女の恥じらい持ってください!!」

「ぐはっ」

 

信じられないといういろはの様子に、血反吐を吐いて机に伏せる平塚。

その姿は見えないが、簡単に想像できた八幡。

思わずいろはに声をかける。

 

「あのな、その人のあられもない姿とかもう見飽きたしこっちが照れるだけ無駄というか…」

「はあ!!?」

「ソファで酔っ払って寝るし、脱衣所の鍵閉めずに着替えてるし、この前なんか酔っ払って下着…」

「うわあああああ!!比企谷のバカぁ!!!」

 

顔を真っ赤にした平塚の高速の拳が、目の見えない八幡の胸に突き刺さり、息が一瞬止まってしまう。

咳き込む八幡、更に顔を机にのめり込ませる平塚。

雪乃は最後のは知らない、と八幡と平塚を睨む。

小町は我関せずだ。

 

「…先輩。十以上も歳上の人に手を出すより、瑞々しい肌を持ったお年頃の女子にしておいた方が得ですよ?」

「アホか…」

「お米ちゃん。…いや、小町ちゃん。ちゃんと止めてね」

「小町は別に平塚先生でも良いですけど?」

「雪乃先輩!」

「平塚先生が未成年淫行で捕まらないように、その男は見張っておくわ」

「これが模範解答だよお米!」

「えー」

(模範解答とは)

 

普通先生を見張るだろうに、と思う八幡だったが口には出さない。

とにかく、と話を戻すいろは。

ちなみに平塚は恥ずかしそうにまた上着を着直している。

どうせ夜には忘れているだろうが。

 

「先輩、合宿行くんですよね?」

「そうだな」

「連れて行ってください♪」

「却下」

「えー」

「良いわけないだろ、雄英の今の立場考えろ。小町と俺を離すと警備上問題があるってのに小町まで今回ダメだからな。部外者のお前は論外」

「どうしてもダメですか?」

「ダメだな」

「こほん」

「うん?」

「…どうしても……ダメ…ですか…?」

 

ぐっ、と言葉を詰まらせる八幡。

言葉を一切変えていないのに、喋り方と上目遣い、それから手を口元にやっているだけでこうも変わる。

あざとい一色の手口だとわかっているのに、俺ってチョロいのかな、と思ってしまう八幡。

ちなみに雪乃たちからすれば断じてそんなことはない。

単に歳下に弱いだけである。

だが、いろはの本気の演技から目を逸らし、それでも何とかダメと言い張る八幡。

 

「ダメ…なんですね?」

「…お、おう。ダメ」

「…そう…ですか」

「…」

「なら」

「?」

「埋め合わせが必要ですよね?」

「は?」

 

呆気に取られる八幡。

いろはの方はうつむき顔はどこへやら、とても良い笑顔だ。

そのままペラペラ独自理論を並べていく。

 

「体育祭でかわいいかわいいいろはちゃんは先輩の為に個性を頑張って使って助けました。それはそれはお疲れで、お礼の荷物持ち何回分になるやら途方もつきませんが、とにかくお礼が必要だったのです!」

「はあ…?」

「それなのにこのダメ男と来たら!なんといろはちゃんのお誘いを拒否!」

「いや、お誘いじゃなくてどっちかっていうとお願いだろ。あと自分でちゃんづけてそろそろ恥ずかしく」

「とにかく!!その埋め合わせが必要なんです!!体育祭の分と今日のわたしをフッた分!!」

 

肩で息をするいろは、勢いに押された八幡。

勢いそのままにはいと頷いてしまう。

ほかの3人もポカンとしている。

了承を取ったいろはがニヤリと笑う。

 

「では、この夏休みにお願いしますね、荷物持ち。勿論二人きりで」

「…いや無理だろ。護衛のプロヒーローが必要なんだぞ」

「なら、二人きりで出掛けられるようになるまではプロにも荷物持ちさせましょう。やだ、先輩ったらヒーローをアゴで使えるなんてすっごーい」

「絶対行かねえ…」

「まあこの際、コブつきでも何でもいていいんでとりあえず行きましょう」

「ヒーローをコブって言ったぞこいつ」

「貴方と時間を過ごしたい。健気な女の子の細やかな願いです」

「…!」

 

いろはの真剣な言葉に、目を見返す八幡。

今のは嘘も偽りも建前もない本音だったと感じたのだ。

彼が追い求める、ある形の一つ。

 

「…合宿終わった後だぞ」

「はい♪」

「平塚先生、お願いします」

「う、うむ」

「いや、もっと空気とTPO読める人で」

「…比企谷、そんなに私は魅力がないガサツ女か…?」

「雪ノ下、弁明してやれ」

「…とりあえず、味付けに困ったら焼肉のタレを持ち出すのはやめてください」

「ぐはっ」

「トドメを刺すんじゃない」

 

 

──────────

 

 

約1時間後、雄英高校敷地内バス乗り場。

八幡と雪乃は小町、いろは、平塚たちと共に合宿へのバスに向かった。

しかし、小町やいろはがクラスメイトたちと交流する中、何故か八幡は峰田と上鳴に囲まれていた。

 

「おい、比企谷ぁ…!」

「は、はい」

「オイラたちが、何言いたいかわかるよなあ…?」

「…何となくは」

「何でお前こんなに女子の知り合い多いんだよおっ!!」

「逆に男子の知り合いがほとんどいねえのは何でだ!?」

「知らん」

「何だあの理想の後輩系女子は!!」

 

峰田の指差す先にはやはりいろは。

葉隠や芦戸に囲まれ、キャッキャと笑ってガールズトーク中である。

流石初対面で男子に好かれる率98%のあざとい女子。

ちなみに、2%の数少ない男子は八幡と今いろはに話しかけに行った葉山である。

 

「紹介しろ!!」

「いいぞ」

「「え」」

 

戸惑う上鳴と峰田を連れ、一色たちの方へ行く八幡。

葉隠が3人に気がつき、ちょんちょんといろはを気づかせる。

 

「…一色」

「なんですかぁ?」

「あのな、コイツら…」

「デートの日程、決めてくれたんですか?」

「…また後で」

「はい♡」

 

興味ないんで掃けさせてください。

副音声がそう聞こえた八幡。

わずか5秒で踵を返す。

一言で上鳴と峰田を撃退した手際を見て、拍手する芦戸と葉隠。

 

「…すまん、また今度」

「うおーい!!」

「てかデートってなんだよ!!」

「デートじゃない。…荷物持ち。ヒーロー同伴で」

「デート…じゃ……いや、デートだなギリ」

「オイラのスコープ的にはデートだ死刑」

「極刑までの思考が早すぎる…」

 

「また、無茶をされたのですね」

「ん…」

 

声の方へ振り向くと、塩崎と骨抜。

八幡の両腕に巻かれた包帯を見ている。

骨抜もポン、と八幡の肩に手を置く。

 

「I・アイランドでは大変だったみたいじゃん」

「…まあ、運は悪いなと思う」

「今回の合宿はA組B組合同だからな。何か困ったことあったら言ってくれよ、手伝う」

「いや、この手はそろそろ治るはずだ。リカバリーガールに治してもらってないだけで」

「それでもです、比企谷さん」

「…」

「ほら、塩崎の気持ち無視していいのか?」

「…それはずるくないかお前…」

「こう言えばお前は頷くって睨んでるからな」

「…んん」

 

骨抜の予想は当たっている。

ほとんど関わってないのにこの性格の読まれ方はなんだ、と八幡。

骨抜柔造、推薦入学枠の一人。

優秀なのは個性の使い方だけではない様だ。

そういえば塩崎を前にして峰田が静かだ、と峰田をみる。

 

「よりどりみどりかよ…!!」

「お前ダメだぞ、そろそろ」

「あ?……ん?」

 

峰田の視線の先にはB組の女子たち。

合宿で共に時間を過ごすというので、峰田のエロスコープがフル稼働しているのだ。

これ、見張っとかないとダメかなあと八幡。

一応切島も峰田を静かに嗜めているが、ダメっぽい。

とりあえずと塩崎に声をかける。

 

「塩崎さん。これが何か変なことしでかそうとしたら遠慮なく手を下していいんで」

「わかりました」

「他の人にも言っておいてくれ」

「もう聞いたよ」

「! 拳藤。…なにその物間」

「まーた暴走しかけてたからやってやった」

「まだA組と出会って10分も経ってないだろ…」

 

よ、と声をかけてきた拳藤と、拳藤に引きずられる気絶した物間。

見事に気を失っている。

寧ろ拳藤がどうやったのか気になるところだ。

それは置いといて、と拳藤。

 

「また無茶したんだって?腕と足、大丈夫?」

「何で話広まってんだよ…」

「三浦がほら、由比ヶ浜に話聞いたんだって。それでね。ニュースにもなってたし」

「…ヒーローなら怪我はつきもんだろ。お前らもそのうちそうなる。あと三年後くらいに」

「なら今なってるあんたは?」

「…社畜の予行演習だよ」

「比企谷、それ答えになってないぞ。ほとんどお前の行動原理の問題だろ。緑谷たちを止め置くこともできたはず」

「…」

 

骨抜の指摘に、再び沈黙する八幡。

結局のところ、セントラルタワーで最上階を目指した責任は、その場にいたプロヒーローである八幡に降りかかる。

最終的に緑谷たちにGOサインを出したのはノーアームズなのだ。

戦力不足と判断して、緑谷たちを避難させて他に救援を出すという手も取れただろう。

それでも動いたのは、比企谷八幡という人間が人を救ける為に簡単に動いてしまう性格故にである。

溜息を吐く拳藤。

 

「全く、ヒーローしてるよ。あんたもバカだね…」

「…その場にいたのに、何もしない方が問題になるからな」

「そういうことにしといてやるよ」

「比企谷さん、次があったら私も行きますからね」

「俺も」

「まず次がないことを祈れ」

「それならそれでいいんだよ。私も行くから」

 

微笑みながらバシッと八幡の背中を叩く拳藤。

何とも楽しそうだ。

骨抜と塩崎にぐいぐい詰め寄られて困ってる八幡、そんな彼の顔を見て楽しんでる節がある。

 

「お前な…止めてくれよ」

「良いじゃん。A組とB組でもっと仲良くしたいしさ」

「それならまず物間(これ)どうにかしてくれ」

「それはごめん」

「おい」

「私も比企谷に蹴りや拳教わりたいんだよ。あんたミルコだけじゃなくて平塚先生の弟子でもあるんだって?」

「げ、どこから聞いた」

「平塚先生」

「…あのアラサーめ」

「仲良くしような、比企谷」

「…わあったよ」

 

「A組のバスはこっちだ!席順に並びたまえ!」

 

飯田の号令にゾロゾロとバスへ入り始めたA組生徒たち。

B組の方もバスへ集まっていく。

そういえば、と拳藤を見る八幡。

 

「B組の学級委員長じゃなかったか?引率しなくていいのか」

「流石にバスに乗るのに引率は要らないでしょ。小学生ならわかるけど」

「…俺、飯田で感覚麻痺してるかもしれん…」

「とりあえず、また後でな」

「合宿では共に研鑽を。比企谷さん」

「お、おお…」

 

既に峰田も上鳴もバスに行ったようだ。

くるり、と八幡もバスの方へ反転すると、そこには目を見開いた小町。

心底驚いていますという顔だ。

 

「お、お兄ちゃん……B組の人とも仲良いんだ」

「俺は小町が俺よりクラスメイトかそうでないかの判断つきそうなとこに驚いてるよ」

「さっきの拳藤さんと骨抜さんはわかるけど塩崎さんはなんで!?」

「試験で一緒だった。…てか、名前覚えてんのかよ…」

「体育祭で見たし」

 

これが小町のコミュニケーション能力の高さの理由の一つかね、と八幡。

そんな二人の元へいろはと平塚もやってくる。

 

「先輩?」

「ん?」

「…怪しそうなのがいたので、気をつけてくださいね?」

「…何が怪しいんだ?」

「もちろん、先輩に手を出しそ」

「じゃあ行きますんで」

「無視は良くないです先輩。聞いてるんですか、もう!」

「お前、葉山は良いのか」

「ちゃんと挨拶しましたよ?抜かりなく」

「…あそ」

「気をつけろよ。…何かあったら、君が守ってやれ。級友も、君自身もな」

 

プンスカ怒るいろはを無視し、平塚の言葉に頷く八幡。

こういう些細なことでヒーローの顔を覗かせるのはいいギャップかなと平塚。

満足そうに微笑み、八幡を送り出す。

小町もぶんぶんと八幡に手を振り、バスに乗り込む八幡を見送った。

 

バスに乗り込むと、既に八幡以外の全員が座席についているのが見えた。

問題は、席が一つもないことだ。

 

「…26人用なのかよ…」

「比企谷、悪いが補助席で良いか」

「良いっすよ」

 

相澤の言葉に、表情を変えずに頷き返す八幡。

そこへ声をかける結衣。

結衣、雪乃、戸塚に沙希、更に折本は最後尾の5人席に座っている。

 

「ヒッキー、あたしたち後ろの席で5人座ってるけど、みんなで詰めて6人で座らない?」

「別にいい。そんな肩身の狭い席で座れるかよ」

「ゆきのんもヒッキーも細いから平気だよ、ね?」

「…いや、いい」

「ぶー、別に良いのに」

「あのな、そんなところに俺が入ってみろ。…お前らに近すぎて俺は死ぬ」

「八幡、僕の隣は?」

「それも死ぬ」

「え?」

 

戸塚の誘いに間髪いれずに返事を入れる八幡。

不思議そうな戸塚、八幡は顔を赤らめる。

頭痛が痛い、という表情の雪乃。

 

「…ダメね。早く何とかしないと」

「比企谷、こっち来なよ。補助席出したよ」

「…悪いな」

 

耳郎の言葉に、轟と耳郎の間の補助席へ座る八幡。

まだクラスメイトの中では関わる方の二人だったので、とりあえず安堵して座る。

轟が八幡へ声をかける。

 

「代わるか。痛くねえか」

「もし仮に痛かったとして、代わっても轟が今度はケツ痛めるだろ。意味ねえよ」

「…そうか」

「あんた…これが捻デレって奴か…」

「どこから聞いたお前耳郎」

「あんたの妹。良い子だね小町ちゃん。あんたのこと心配してたよ。お兄ちゃんのことよろしくお願いしますって言われたし、よろしくしてあげるよ」

「小町ェ…」

 

 

──────────

 

 

バスが雄英高校を出て、約1時間後。

森が一面に広がる山地、その丘にA組御一行を乗せたバスは停車した。

休憩だ、と言われて皆バスから降りて行く。

しかし、アレと面々を見渡す緑谷。

 

「比企谷君は?」

「寝てた。起こしたら悪いと思って、俺の席に移してきた」

「I・アイランドから帰ってきてからもクラストのとこにチームアップ要請に行ってたし、疲れてるのでしょう。ありがとう轟君」

 

轟に雪乃が礼を言うが、そこで雪ノ下が礼を言うのはなんか変な感じがする、と尾白。

やはり、八幡と雪乃の間には妙な結束がある。

そのままパーキングエリアの物産品でも見に行こうかな、と店を探す。

が。

 

「…アレ?お店は?」

「トトトトト、トイレは…?」

「つか何ここパーキングじゃなくね?」

「ねえアレ?B組は?」

 

バスが停車した場所は、道路脇に少し広い面積があるだけのただの丘にしか見えない。

丘に停まっているのは少し古めの乗用車一台のみ、B組のバスもない。

丘の下には森だらけ、特に建物も見えない。

不思議そうな生徒たちに、遅れてバスから降りた相澤が告げる。

 

「何の目的もなく、では意味が薄いからな」

 

その時、停まっていた乗用車の両ドアが唐突に開き、二人の女性が姿を現す。

その二人に見覚えがあった緑谷がわっ、と興奮の声を上げる。

 

「よーうイレイザー!!」

「ご無沙汰してます」

 

珍しく敬語を使い、ぺこりと頭を下げる相澤。

ババっとポーズを決めにかかる猫を模したミニスカートコスチュームの女性二人。

 

「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

「今回お世話になるプロヒーロー・プッシーキャッツの皆さんだ」

「……猫」

 

プッシーキャッツ、マンダレイとピクシーボブ。

ちなみに相澤は30歳、二人は31歳であり、ミッドナイトや平塚と同世代である。

ポカンとしたA組の一同に、相澤が建前の紹介を行う。

猫に反応したのはもちろん雪乃である。

そして、一人だけテンションを爆上げする緑谷。

 

「連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!山岳救助等を得意とするベテランチームだよ!!」

 

ベテラン、という言葉にピクリと反応するピクシーボブ。

ギロりと緑谷を睨む。

 

「キャリアは今年でもう12年になる…」

「心は18!!」

「へぶ」

 

コスチュームの猫爪をギラつかせ、緑谷の顔面を抑えながらにこやかに笑うピクシーボブ。

 

「心は…?」

「じゅ、18!」

 

「「必死かよ…」」

 

女って怖い、と切島と上鳴。

ちなみに平塚やミッドナイトがいれば同じように頷いていただろう。

 

「お前ら、挨拶しろ」

「「「よろしくお願いします!!」」」

 

そんな彼らを、車から遅れて降りた小さな男の子は見ていた。

むすっとした顔、彼の目にはヒーロー候補生たち。

ケッと悪態をついてそっぽを向く。

バスを見ると、一人だけまだ少年がバスの中で眠りについていたのが見えた。

一方、黒髪の女性ヒーロー、マンダレイが生徒たちに説明を行う。

 

「ここら一帯は、私たちの所有地なんだけどね…あんたらの宿泊施設は、あの山の麓ね」

「「「遠っ!!!」」」

 

マンダレイの指差す先は、視界の遠くにある山。

軽く10kmは離れているだろう。

嫌な予感がするわ、と雪乃。

彼女にとって一番苦手な何かが開催されるのではないかと危惧する。

 

「あれ、じゃあ何でこんなところに?」

「…これって…もしかして…」

「いやいや〜…はっはっは」

「…ば、バス…戻ろうか?な?はやく…」

「そ、そうだな。そうすっか…」

 

嫌な予感がひしひしと皆に伝わり、おそるおそるバスの中へ戻ろうとする一行。

グースカ寝てる八幡が待つバスへと戻ろうとする。

 

「今は午前9時30分。早ければぁ…12時前後かしら?」

 

ニヤリと笑うマンダレイ。

ピクシーボブはコキコキと手首を鳴らして馴らしている。

 

「ダメだ…おい!」

「バスに戻ろう!」

 

切島と芦戸の声に一斉にバスへ駆け出す生徒たち。

異変にまだ気が付かない八幡は夢の中である。

 

「比企谷ー!!」

「何であいつ起こしとかなかったんだ!!」

「すまねえ!」

 

ピクシーボブの個性を知っている者たちは思わず叫んでしまう。

八幡なら彼女に対抗できるはずだからだ。

楽しそうに生徒たちに後ろから声をかけるマンダレイ。

 

「12時半までかかったキティはお昼抜きねー」

 

ドタバタと駆けていく生徒たちを、無情と言わんばかりに見ている相澤。

 

「悪いね諸君。合宿はもう…始まってる」

 

バスと生徒たちの間に割り込んで飛び入ってきたピクシーボブ。

にひっ、と笑って両手を地面に着ける。

げ、と生徒たち。

叫ぶ緑谷。

 

「やばい!!」

「ヒッキ──!!」

 

ピクシーボブの手が置かれた地面が急に盛り上がり始め、土流となって生徒たちを丘の下へと流していく。

慌てて個性を使う戸塚。

ビリリと制服の背中を破って白羽の翼が出現し、近くにいた峰田を掴んで浮かび上がる。

しかし、そこへ追撃をかけるピクシーボブ。

 

「残念♡かわいこちゃん、いってらっしゃーい!」

 

二人を土流が呑み込み、そのまま流し込んでいく。

しかしその時、横から伸びてきた土の手が二人を土流から掻っ攫い、掬い上げた。

 

「!」

「ピクシーボブ!?」

「いや、私じゃないね!」

 

よく見ると、生徒たちは一人も丘の下までは落とされていない。

一人残らず土流とは別の土の腕が20本以上、生徒たちを掴んで空中で留めていた。

 

「…起きたか」

「何してんすか……夢見心地で良い感じだったのに」

 

バスに手を添えたまま、バスから降りてきた八幡。

欠伸をしていてかなり眠そうだ。

その横には折本、更に雪乃がバスの上から降りてくる。

土流が発生するよりも前、八幡の横にワープして八幡を叩き起こしたのだ。

八幡の顔には折本による平手の跡がついている。

一方、雪乃は間一髪足元から水を噴射することで土流から逃れていた。

戸塚が逃げられずに雪乃だけ逃げられたのは、本人の反射の問題である。

 

「比企谷ぁ!!お前遅いよありがとう!!」

「ヒッキーかおりんナイス!!」

 

「いや、よく寝てるよねー。みんなが大変な時にさ」

「逆に一発で起きたことを褒めろ」

「どうでも良いとこで自分に甘いのウケる!」

「ウケねーよ…」

 

とりあえず、と相澤とピクシーボブを見る八幡。

二人の目を見て安全な意図を確認したので、土の腕をそのまま丘の下へと動かし、生徒たちをゆっくり降ろしていく。

 

「え、ちょっと!!比企谷ー!?」

「バスに戻してくれー!」

「そういう訓練らしいから諦めろ。とりあえず、落とされるのだけは防ごうとしただけだ俺は」

「マジかよぅ!」

「マジだよう」

 

瀬呂の叫びに真顔でふざけて言葉を返す八幡。

折本もやれやれ、と笑いながら八幡の作った土の腕に乗り、そのまま丘の下へ降りていく。

雪乃は丘の下へ土流伝いに飛び降り、結衣たちと合流する。

残った八幡は相澤を見た。

文句を言ってから降りようと思ったのだ。

 

「無茶苦茶過ぎません?」

「それは私も思った。無茶苦茶なスケジュールだよ。これ、あの子ら大丈夫?」

「いやスケジュールは知らないですがって無茶なスケジュールですかそうですか…」

 

八幡に賛同するマンダレイ。

二人に対して淡々と言葉を返す相澤。

 

「まァ…通常2年前期から“修得予定のモノ”を前倒しで取らせるつもりで来たので、どうしても無茶は出ます」

 

修得予定のモノ。

そう言われて、ピンとくる八幡。

かつて八幡と雪乃が中学2年の夏に取得したもの。

 

「緊急時における“個性”行使の限定許可証。ヒーロー活動認可資格、その“仮免”。(ヴィラン)が活性化し始めた今、1年生(かれら)にも…自衛の術が必要だ」

 

(ヴィラン)連合。

オールマイト、雄英、更には比企谷八幡。

彼らに目をつけられる要素が悉く集まっている。

彼らの悪意はその内、生徒たちにも及ぶかもしれない。

そう言われては、八幡は返す言葉は全くない。

だからといってこんな高さから土流で押し流すなよ、とは思うが。

さて、と八幡も降りようとするが、ガシリとピクシーボブに頭を掴まれる八幡。

 

「え?」

「…ふーむ。君…良いね」

「はあ…?降りても?」

「まだダメ。ヒキガヤキティにはハンデあげるね」

「要りません」

 

ピクシーボブの手で無理矢理バスの方へ顔を向かせられる八幡。

首が痛い、と身体も回す。

 

「あのバスの中にみんなの荷物あるよね?」

「…ありますね」

「アレ全部持ってGO♡」

「…」

「アレがないと、みんな困るにゃあ?」

「クソっ、理不尽過ぎる」

「ねこねこ!ふふっかわいいかわいい後輩にプレゼント!」

 

ピクシーボブの個性は土流。

比企谷八幡の個性は接続操作。

異なる個性だが、できることは似ている。

5人目のプッシーキャッツ候補…!と笑うピクシーボブ。

バスから全てのキャリーバッグや手荷物を出し、それら全てを乗せた地面を丸々固体操作。

地面ごと荷物をずらして運んでいく。

地面と荷物の総重量は700kg近くあるだろう。

固体操作の副作用によって八幡の体重も約70kgにまで増している。

 

「ファイトー!」

「…相澤先生、恨みますよクソッタレ」

「お前がわざわざピクシーボブに目をつけられるからだろう?」

「いやでも助けるのは普通でしょ…」

「普通はバスの中にいた寝起きの奴が外で土流に巻き込まれた人間二十数名を助けるなんて出来ないんだよ。それをやって目をつけられたお前が悪い」

「理不尽…」

 

地面から伸びた土の腕が荷物をそれぞれ掴み、丘の下へそれらと共に降りる八幡。

恨み言をぶつぶつ言ってはいるがそれでも降りていく。

ハンデは請け負ったようだ。

 

「ヒキガヤキティに私の土魔獣を対処されるとあっさりクリアされそうだからねー」

「その魔獣いくつつくったんですか?」

「100超えた辺りから数えんのやめたよ。それが森の至る所に!戦闘、探索、疲労との戦い!目的地まで上手くつけるかな?っていうのがこの魔獣の森のコンセプト!」

 

 

──────────

 

 

八幡が丘の下へ降りると、土魔獣が早速一体、破壊されるところだった。

やったのは緑谷・爆豪・轟・飯田の四人。

雪乃はそれを眺めていただけだ。

動く必要はないと考えたのだろう。

それどころか遅れて降りてきた八幡の異様な姿に目を細めている。

 

「…無様ね」

「あのな、お前の荷物もこの中にあるんだぞ」

「ええ、きちんと運びなさい。土の汚れはある程度目を瞑ってあげるわ」

「何で上から目線…魔王の妹め」

「何か?」

「いえ」

 

雪乃の冷たい目から逃れつつ、皆の荷物を乗せた土の荷台を引き摺りながら森へ入っていく八幡。

木々の間を通れるように荷台が細長く変形し、木々を避けて進んでいく。

 

「あ、比企谷。ウチらの荷物…ありがと」

「…まあ、お前らに持たせるわけにはいかんし。自分の身だけ守れ」

「う、うん」

「良いのか比企谷君!俺たちも…」

「要らん。それに見ろ」

 

八幡が森の奥を睨んだまま、耳郎と飯田を促す。

八幡の視線の先。

巨大な何かが蠢く音。

それが地面や木の上から、至る所から聞こえてくる。

油断なく構える爆豪、轟。

背中合わせになる上鳴、芦戸、砂藤。

 

「おいおい、何体いるんだよ!?」

「どうする?逃げる?」

「冗談!12時半までに施設に辿り着かなかったら昼飯抜きだぜ!」

 

そんな3人にへっ、と笑う八幡。

 

「お客様をご案内しねえとなあ?」

「ちょ、何で楽しそうなわけ」

「俺は荷物持ちだからな。楽できる」

「おいおい比企谷!やべえ時は助けてください!」

「いいけど」

「よっしゃ勝ちだぜ!いっちょ頼みます先生!!」

 

上鳴の調子に乗った態度に、ジロリと睨む雪乃と耳郎。

 

「最初から彼に頼るのはやめなさい。何故比企谷君が荷物を持たされたか。手を出すなと言われているのよ」

「上鳴、あんたね。比企谷だけにやらせてたら成長も何もないでしょ」

「いや、まあ…はい」

「……ヤバそうな時だけ手を出してやるよ」

「比企谷ぁ……俺、頑張る!!」

「お、おう」

 

行動方針を決めようとしている飯田、八百万の二人。

その会話に聞き耳を立てる八幡。

特に口出す気はなく、雪乃も同様に聞いているだけだ。

 

「お前も参加しなくて良いのか?」

「この合宿、仮免目的なのでしょう?なら、私と貴方が前に出たら意味がないじゃない」

「昼飯はいいのか」

「荷物にパンがあるのよ。食べる?」

「…もらう」

 

言外に、昼食時間までに施設に辿り着くのは無理、と言い切った雪乃。

確かに無理だろうな、と八幡も思う。

そもそも、施設までは20km程度の距離がある。

約束の時間まで、残り3時間もない。

作戦会議で少し時間を使うだろう。

それを魔獣を倒して一々方向確認して正しい方向へ向かう、などするとなるとかなり厳しいだろう。

普通の道のりを急いでも、3時間で20kmは難しい。

それを森で、尚且つ敵あり道案内なしとなると相当難しい。

八幡も荷物を持って空は飛べない。

一人だけ先に行くのはできるだろうが、サポートを上鳴たちに頼まれたのでやめておこう、と八幡。

 

「索敵に長けた障子さんと耳郎さんと由比ヶ浜さん、荷物を持った比企谷さんを中心に、正面と左右の三方向と四チームに分けましょう」

「ああ、それが良いだろう。正面には戦闘に長けた者を多めに配置し、左右にはそれぞれ一人ずつキーパーソンを置いておきたい」

 

委員長と副委員長の会話で着々とフォーメーションが練られていく。

中心チーム──障子、耳郎、八幡、雪乃、結衣。

正面チーム──緑谷、爆豪、轟、飯田、沙希、麗日、蛙吹。

右翼チーム──瀬呂、切島、砂藤、葉隠、芦戸、口田、八百万。

左翼チーム──上鳴、峰田、青山、尾白、常闇、戸塚、折本。

 

「A組、行くぞ!!」

「「「おう!!!」」」

[newpage]

障子の複製腕が口と目を形成し、それに八幡がおお、とマジマジ見る。

周辺にいる土魔獣の情報を喋る複製腕の口。

 

「前方から3匹!左右に2匹ずつ!」

「総数7匹…くるよ!」

 

耳郎が木にイヤホンジャックを刺して地面から伝わる音の情報を取得し、更に情報精度を高めていく。

それを聞き遂げ、飛び出していく瀬呂。

 

「よっしゃあ、いくぜぇ!」

 

木に貼り付けたテープで土魔獣の方へと飛んでいき、空を飛ぶ土魔獣の両翼をテープで絡め取り、地に落とす。

それを見て角砂糖を食べる砂藤、硬化する切島。

 

「砂藤、切島!」

「おお!!」

「オゥラオラオラオラオラァ!!」

「オリャア!!」

 

砂藤力道の個性はシュガードープ。

糖分10gにつき、3分間パワーが5倍になるという個性の持ち主。

ただし、個性を使いすぎると副作用で脳機能が低下するというデメリットを持つ。

切島が硬化した拳のラッシュで、砂藤が一撃で土魔獣の顎を吹き飛ばしていく。

 

黒影(ダークシャドウ)!!」

「アイヨ!」

「青山、今だ!」

「トドメね!」

 

常闇が従えるモンスター、黒影(ダークシャドウ)と尾白によって手足を狙われ、転倒する土魔獣。

それを、木の上に登って全体を見渡せる位置にいた青山がレーザーでとどめを刺す。

ウインクまでする青山に、余裕だなと八幡。

 

「いつでも心に、僕のキラメキはあるのさ」

「早よ戦え」

「次行くよー青山」

「OK!」

 

どうやって木に登ったのか不思議だったが、折本がワープで現れて青山を次の狙撃ポイントへワープで連れて行っていた。

そういえば戸塚は、と見ると一人で土魔獣相手に鉄剣の翼で戦っている。

 

「やあ!」

 

鉄剣の羽を土魔獣に飛ばし、あっさり土魔獣を倒す戸塚。

だが、次々と土魔獣が戸塚の方へ向かっていく。

それを見ていた八幡が荷物を引きずりながら手を出そうとするが、雪乃がそれを止める。

 

「やめなさい、まだよ」

「いや、でも変だろ。何で戸塚にだけ」

「よく見なさい」

「爆豪君や轟君にも集まってきてる…」

「…派手に戦ってるやつの方に集まるようになってんのか?いや、まさかピクシーボブが直接操ってるんじゃないのかこれ」

 

峰田と上鳴は連携して戦っているが、二人は土魔獣に特に集られていない。

ちなみに上鳴は個性の使いすぎでもうアホ顔になっており、峰田の方は何故か泣きながら戦っている。

正面チームは戦闘能力が高いメンバーで固めたので特に不安はない。

麗日と蛙吹、飯田と緑谷はチームで戦っているため安定感があり、残りの3人は単体で高い戦闘力を持つ。

今も沙希が衝撃波一発で土魔獣を吹き飛ばして粉々にしてしまっていた。

 

「…あいつ、手加減要らない相手だと容赦ねえな」

「それはそうでしょう」

「あんたらほんとに見てるだけだね…」

 

耳郎がジト目で八幡と雪乃を見る。

ちなみに結衣は雪乃が作った氷の鳥をアニミズムで生物化し、全体の見張りを氷の鳥たちにさせていた。

 

「いや、ほら。俺荷物運んでるし」

「まあそうなんだけどさ…」

「それに、私たちは万が一の大仕事があるもの」

「ないと良いがな」

「?」

 

八幡と雪乃の意味がわからず、耳郎は首を傾げる。

二人の懸念を何となく察する障子。

全体の行軍速度は遅い。

土魔獣を撃破して数歩進み、新たな土魔獣の対処で止まるか二、三歩下がるかを繰り返している状況だ。

 

「…確かに、今のままだと追い付かれてもおかしくはないな」

「追いつかれる…?って…」

「も、もしかして!?」

「可能性としてはあり得るぞ」

「…八百万!」

 

八幡の示唆を受けて障子が八百万に向かって叫ぶ。

口田、芦戸、葉隠と共に戦っていた八百万が振り向く。

大砲を創って土魔獣たちに砲撃をしており、他3人はスニーキングによる囮、酸による足崩し、生き物ボイスによる先制と搦手たらけでかなり楽に土魔獣を撃破していた。

 

「どうされましたか!?」

「行軍速度を上げた方がいい!」

「昼食の時間に間に合いそうにないのはわかりますが…!」

「違う、そうじゃない!後ろから来る可能性がある!」

「後ろ…!?」

 

障子の言葉に、そんな筈はないと考える八百万。

後ろから追撃されることを防ぐため、基本的に土魔獣は全て撃破している。

雪乃も口添えをする。

 

「土魔獣は土で出来ているのよ。土があればいくらでも作れる」

「!! まさか…確かにその可能性はありますわね…!」

「どゆこと!?」

「基本的に土魔獣たちは森の奥から現れていたので、元々作られた土魔獣がこの森に配置されていたと考えていました…!しかし、もしかしたら土から今すぐに土魔獣を作ることが…ピクシーボブには可能なのかもしれません!」

「げえっ!!」

「いやらし過ぎるよそれ!!もしそんなのきたら…」

 

悲鳴をあげる芦戸と葉隠。

その悲鳴に反応するかのように、氷の鳥たちが騒ぎ始めた。

氷の鳥が得た視覚情報や聴覚情報はすぐに結衣に共有される。

その為、一番初めに気がついたのは結衣だった。

 

「後ろ!!土魔獣がどんどん増えてる!!」

「なっ」

「んだとぉ!!?」

 

結衣の声に、土魔獣たちと戦いながら驚嘆の反応を返す生徒たち。

すぐにイヤホンジャックで後方の音を確認する耳郎。

 

「…14、15…やばい、20体こえた!挟み撃ちされる!」

「挟み撃ちとかいうレベルじゃねえだろ!全滅しちまう!」

「くっ、仕方ない!全体を二手に…!」

「いや、良いよ」

「比企谷君!?」

 

荷物を固体操作で引きずりながら、飯田の案を静かに却下する八幡。

八幡の横に雪乃も立つ。

二人の視線の先は、後方。

 

「後ろは私たちが受け持つわ」

「私たちって…たった二人でか!?無茶だ!」

「比企谷、俺も戦うぞ」

「ウチも!」

 

障子と耳郎の提案にチラリと二人を見るが、後方を向き直して断る八幡。

 

「二人とも索敵役だろ。寧ろ由比ヶ浜、お前借りるぞ」

「うん!ヒッキーに頼んで良い!?」

「どんなのが良いんだ」

「デッカくて強そうなの!」

「…あそ」

 

固体操作でピクシーボブと同じように土から生物の形を作っていく八幡。

4足の獣を模した土塊。

しかし、工夫しないとピクシーボブの土魔獣と同じ性能が出来上がるだけだな、と力を入れる。

 

「スター・クリエイト。固体圧縮率…300%…!」

 

土を圧縮し、より硬くなった大地の虎が造られていく。

固体操作によって造られた大地の虎に手を当て、アニミズムをかけて生物化する結衣。

大地の虎が土の瞼を開き、雄叫びを上げた。

 

「よし!クッキーGO!!」

「ガルルルルァ!!」

 

魂を得た大地の虎が一体の土魔獣を軽く切り裂き、次の獲物へと飛び掛かっていく。

それを見ていた雪乃が、由比ヶ浜さんに負けていられないわね、と霧を後方に流し込んでいく。

 

「霜天氷結」

 

土魔獣たちの周りを覆っていた霧が唐突に氷へと変換され、たちまち全身を凍りつかされる土魔獣たち。

一度に7体の土魔獣を戦闘不能にさせてしまった。

それを見てうわあ、と声をあげる八幡。

 

「…川崎よりもお前の方が容赦ねえよ…」

「貴方も早く戦いなさい」

「へいへい…。…さて」

 

やるか、と荷物を前方に進めながら首をコキコキ鳴らす八幡。

八幡のすぐ後ろ、荷物を乗せた大地の荷台のそばには障子と耳郎だ。

いくら後方に対処すると言っても、それで進むのが遅くなっては意味がない為荷物を乗せた大地は固体操作で進めたままだ。

 

「スター・クリエイト。固体圧縮率、500%…」

 

ずずず、と視界に入った土魔獣たちの足元まで固体操作による範囲を伸ばし、土魔獣の足元から巨大な大地の拳を出現させ、土魔獣たちが一体残らず殴り飛ばされる。

 

「大地の撃鉄」

 

あんぐりと口を開けてその光景を見届ける一同。

質量300kgは優に超えるであろう土魔獣たちが遥か上空に打ち上げられ、そのまま落下して地面にぶつかって粉々になっていくのだ。

空を飛ぶ土魔獣は逆に叩き落とされている。

そして、土魔獣だった土は更にまた八幡の武器となる。

ピクシーボブと八幡の個性のお陰で一行の後方の森は凄まじい荒れ様だ。

その森を見た人は、ミサイルでも落ちてきたのかと勘繰るであろうくらいには荒れ果ててしまった。

 

「障子、耳郎。……後ろは気にすんな。前だけ見てろ」

「私たちが後ろを守るわ」

「うん!あたしもやるときはやるんだからね!」

「由比ヶ浜さんは大丈夫よ」

「案外一番しっかりしてるしな」

「案外って何だし!!」

 

通常運行の奉仕部3人。

やっぱり総武枠はとんでもない、と見直す耳郎。

前方から来た土魔獣を20人以上で対処してるのに対し、後方から来た土魔獣をたった3人で対処出来ている。

実は川崎や戸塚、折本もまだ実力を見せ切ってないのか、と3人を見る障子。

特に八幡と雪乃はレベルが違う。

個性の範囲と強さが明らかに一般のプロ以上だ。

しかも雪乃は体育祭で八幡相手に全力を見せたかもしれないが、八幡の方はまだ個性についてわからない部分があるという。

 

「あんたさ…よく、人とは違うねって言われない?」

「いや、言われない。会話するやついないし」

「…比企谷。あんたやっぱりすごいわ…」

「? よ、よくわからんけどお前もすごいぞ。索敵能力負けてるし…俺」

「え。そ、そう。……うん、あんたの背中から来る敵は…ウチが聞いといてあげる」

「は、はい」

 

後方の堅実っぷりを確認した飯田。

全体に檄を入れる。

 

「よし!このまま進むぞ!目指すは宿泊施設!!A組、ファイトー!!」

「「「おー!!」」」

 

ヒーロー候補生たちの受難は続く。




合宿編。
雄英白書やアニメのネタを使用します。
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