何がヒーローたらしめるか   作:doraky333

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唐突に日常は崩れる。
あっさりと、悪意の手によって。
残された子供に訪れる闇の帷。
なにもわからず、親を亡くした子供に出来ることなどない。

──ない、筈だった。


Hero's Episode14.過去は唐突に現る

夕暮れの山中、宿泊施設前。

相澤、マンダレイ、ピクシーボブ、更に1人の男の子が施設の前で佇んでいた。

3人のヒーローたちは森の方を見てじっと待っている。

男の子は興味がなさそうだが、仕方なくここにいるという感じだ。

ピクリ、と眉を動かすピクシーボブ。

 

「やーっと来たにゃん!」

 

森の中から、宿泊施設前の空き地に一歩踏み入れた少年──轟。

続けて爆豪、飯田、沙希、緑谷と現れる。

だが、轟は右半身の至る所に霜焼けがあり、爆豪は両手を痛めて顔を顰めていた。

飯田はふくらはぎのエンジンから煙をあげ、沙希は両掌と足に痛みがあり、こちらも珍しくポーカーフェイスを崩し、辛そうな顔をしている。

緑谷はヘロヘロになってまるで犬のように舌を出し、疲れ切っているのが丸わかりだ。

後に続くA組の生徒たち。

誰も彼も折角宿泊施設に着いたというのに、表情も身体も疲れ切っている。

そんな彼らにあっけらかんと声をかけるマンダレイ。

 

「とりあえず、お昼は抜くまでもなかったねえ」

 

お気楽に聞こえてしまった瀬呂、思わず叫ぶ。

 

「なぁにが3時間ですか!!」

「腹減った…死ぬ…」

「ごめんね、アレ私たちならって意味」

 

そう、今の時刻は16時20分。

とっくに12時30分は過ぎている。

わざわざお昼を抜くどころか、昼食の時間に間に合ってない。

座り込んだ砂藤が嫌そうに呟く。

 

「実力差自慢のためか……やらしいな」

 

個性の副作用で脳機能が低下していた砂藤だが、時間が経過し過ぎたため元の状態に戻っている。

皆もそれぞれ個性を使用する身体の部位を酷使して痛めていたり、疲労と空腹でもう動けないという表情がありありとしている。

麗日、折本、結衣などは個性の副作用で気持ち悪そうである。

青山など腹痛でずっと腹を抑えている。

雪乃は体力がないため、八幡の作った大地の荷台、その上の八幡と雪乃のキャリーバッグの上で横たわっている。

結局、後方から来た土魔獣は雪乃、結衣、八幡の三人で対処し切ったのだ。

そして、八幡は。

 

「…死ぬ」

 

両手の痛みと足の裏の痛み、それから身体の重みに耐えきれず、土の荷台を森から出し切った時点でパタリと倒れてしまった。

皆の荷物を運ぶのに個性を使い続ける必要があったため、生徒たちの中で唯一、常に個性を使い続けた。

そのせいで、その副作用が一番濃く出ているのだ。

そんな八幡へ楽しそうに話しかけにいくピクシーボブ。

 

「ねこねこねこ!どうどう、約7時間ぶっ通しで個性使い続けた感想は!?」

「…」

「絶対途中で投げ出すと思ったのに、根性あるね君!ハンデ与えて正解正解!」

「……こ」

「こ?」

「今生に悔いなし…」

「まだ余裕ありそうなヒキガヤキティ!B組の出迎えにもいく!?」

「行きません働き過ぎて死にます」

「しょーじき!!」

 

あまりに辛そうだった道中の八幡に、緑谷や砂藤等のパワー系が荷物を持とうか、と訊ねたがそれを全て断り、荷物を運び切ってしまった。

思わず頷く沙希。

 

「…改めてこいつはおかしい」

「人に助けを求めないし必要としない捻くれ者だとは知ってたけど……だからといって無茶振りを失敗もせずにやり切るのは頭も個性もおかしいよ。どうなってんの比企谷…」

 

呆れ笑いの折本。

障子が疲れ切った八幡を背負い、結衣が雪乃を支えて立たせる。

八幡も障子の善意に抵抗する気がない。

それほど疲れているのだ。

 

「みんなあっさり土魔獣攻略しちゃうし…将来有望そうなのが盛りだくさん!特に…」

 

ピクシーボブが轟、爆豪、緑谷、飯田と見て、続いて八幡、雪乃、沙希、結衣に目をいかせる。

ピクシーボブと目が合い、まさかと自分を指差す結衣。

 

「へ?あ、あたしも?」

「うんうん!君…アニミズムか。うーん、良いねえ!ヒキガヤキティとユキユキキティは個々でも強いけど…君のような性格の子は、これからのヒーロー社会で重宝されるんだよ」

「そ、そうなのかな?」

「…確かに、由比ヶ浜さんは現代のヒーローに必要な能力を持ってるわね…」

「??」

 

雪乃の納得した口調に、余計わからなくなる結衣。

それは置いといて、と轟たち男子の方の前に行くピクシーボブ。

 

「?」

「今のうちにつばつけとこー!」

「は?」

 

唖然とした彼らに本当に唾を吹きかけに行くピクシーボブ。

障子の背中にいた八幡の方にもププッと唾を器用に飛ばす。

何だこれ、と他の生徒たちがポカンと見守る中、相澤もマンダレイに訊ねる。

 

「ピクシーボブ……あの人あんなでしたっけ」

「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」

 

「……31」

「あ?」

「いえ」

 

ボソリと数字を呟いた八幡を睨むピクシーボブ。

ちなみに唾は戸塚がハンカチで拭き取ってくれていた。

 

「八幡、ダメだよ。女性に歳のことを言ったら」

「そうだな、悪い。戸塚は女性との接し方がわかっていて偉いなあ…」

「もう、本当のことだからね?八幡」

 

「て、適齢期といえば…」

「いえばて!」

「おい、緑谷(アイツ)の方がダメじゃね?」

 

ナチュラルに歳に触れる緑谷を顎で示す八幡。

指差す気力もない。

顔を掴まれた緑谷が、相澤とマンダレイの更に後ろで生徒たちを睨むように見ていた帽子の男の子を見る。

 

「その子はどなたのお子さんですか?」

「ああ、違うの。この子は私の従甥…従兄弟の子供。洸太!ホラ、挨拶しな。一週間一緒に過ごすんだから…」

 

それを聞いて子供──洸太へと駆け寄る緑谷。

膝を折って、握手しようと手を差し伸べる。

 

「あ、えと僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」

 

対する洸太。

右手をあげ、緑谷の右手──を、スルーしてちょうど目線の先にあった緑谷の股間に右ストレート。

白目を剥く緑谷、うわあと痛そうな顔をする男子たち。

アレは痛い。

 

「きゅう」

「緑谷くん!」

 

一撃でバタン、と倒れる緑谷を慌てて介抱し、遠ざかる洸太に向かって叫ぶ飯田。

 

「おのれ従甥!!何故緑谷くんの陰嚢を!!」

「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」

「つるむ!?いくつだ君!!」

「5歳くらいじゃねえか?」

「京華と同じくらいの子とは思えないくらい荒れてるね」

 

淡々と感想を述べる八幡と沙希。

緑谷の心配は一切していない。

割と痛そうなのはわかるが、あんなわかりやすい拳をもらう緑谷の方が悪いと考えているからだ。

緑谷が倒れたのを見て、それをやった洸太をまた見て嘲る爆豪。

 

「マセガキ」

「おまえに似てねえか?」

「あ?似てねえよ!つーかてめェ喋ってんじゃねえぞ舐めプ野郎!」

「悪い」

「いや、目つきとかはキレ散らかしてる時の爆豪の方がヤバい」

「あー」

「アホ毛!!アホ面!!」

 

轟、八幡、上鳴と丁寧に順番にキレ散らかす爆豪。

そんな彼らへ、よく元気があるなと呆れつつ相澤は声をかける。

 

「茶番はいい。荷物持って部屋へ運べ。その後食堂にて夕食。後は入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さァ早くしろ」

[newpage]

「いただきます!」

 

わっと食事へありつく一同。

魔獣の森で汚れた制服のままだが、着替える体力もないほどだった。

空腹と疲労でいっぱいいっぱい、目の前の食事へかじりつくようにご飯をかきこんでいる。

 

「美味しい!米美味しい!!」

「五臓六腑に染み渡る!!ランチラッシュに匹敵する粒立ち!!いつまでも噛んでいたい!」

 

泣きながら白米を食べる切島と上鳴。

その横で食べていた八幡は、声には出さなかったが同じように頷いていた。

ハッとする上鳴。

 

「土鍋…!?」

「は?」

「土鍋ですか!?」

「うん。つーか、腹減りすぎて妙なテンションになってんね」

「流石に恥ずかしいからやめろお前ら…」

「考える力どっかいってんじゃないの」

「消失の自制心…」

 

二人のテンションにちょっと引いているピクシーボブ。

二人を恥ずかしそうに見る八幡、耳郎。

常闇は常闇で我関せずを貫いている。

 

「まー色々世話焼くのは今日だけだし、食べれるだけ食べな」

「あ、洸太。そのお野菜運んどいて」

「…フン……」

 

マンダレイの指野菜が入った段ボール箱を運ぶ洸太。

そんな姿を、緑谷だけは少し気にかけて見ていた。

そういえば、とマンダレイに声をかける結衣。

 

「B組の子たちってどうしたんですか?」

「さっきここに着いたって。別の大部屋でご飯食べてるよ」

「優美子たちも来たんだ。よかったぁ」

「…みたいだな」

 

結衣の言葉に、ひとり言のようにスマホを見ながら返す八幡。

八幡のスマホにはあるメッセージが届いていた。

それを見ていた耳郎が八幡に声をかける。

 

「比企谷、行儀悪いよ。なに見てんの」

「食事終わったら手伝ってほしい…とかなんとか。よくわからん」

「B組の人?」

「まあな」

「比企谷、B組とも連絡取ってんだな!?」

「期末の時に骨抜や拳藤に連絡先教えてくれ、って言われて…なんか全員分入ってた。名前知らないやついるんだけどこれ」

「どういうプライバシーしてんだお前、良いのかよ…」

「知られたとこで困るわけじゃなし。フィッシングサイトのメールとかも来ねえだろ」

「いやそんなことする奴は逆にいねえよ!!」

 

 

──────────

 

 

「んで、なんだよ」

「悪いね。ちょっと頼みがあって」

 

呼ばれた先には拳藤、それから何故か相模。

しかも相模はあからさまに機嫌が悪い。

ギロリと八幡を睨んでいた。

 

「…なんだ、どした?」

「あんたさあ…あのチビ」

「チビ?…峰田か」

「あいつをちゃんと見張っときなさいよ」

「は?」

「あの目。今日の昼間、明らかに人として終わってる目でうちらのこと見てたよ。アイツ、性欲の権化なんでしょ?」

 

相模の不機嫌の原因はどうやら峰田のようだ。

確かにA組から出た不始末ではあるが、峰田本人をどうにかするのはかなり無理があるんじゃないかと八幡。

聞けば、雄英に入ったのもモテたいかららしい。

モテるためだけに国内最難関のヒーロー科に入るのは、動機が不純とはいえかなりの原動力だろう。

 

「んで、それが…?」

「その、アイツ覗きそうじゃない?悪いんだけどさ、女子風呂を覗けそうなとこをあんたの個性で塞いでってほしいの。マンダレイには許可取ったし」

 

拳藤の言葉に、ある程度納得する八幡。

多分だが、女子には物を自在に変形させる個性持ちはA組はおろかB組にもいないのだろう。

ピクシーボブに頼めば良いとも思ったが、彼女が操れるのは土のみ。

コンクリートや果ては木材まで操れる八幡が呼ばれるのは頷けた。

 

「…わかったけど、あのバカならなにがなんでもやりそうだけどな」

「とりあえずだよ。やらないよりマシでしょ。今日は見張りつけてくれるらしいし」

「?」

「ほら、とっととうちらのために働け」

「働かなかった奴がよく言うな」

「うっさい、今はちゃんとやるから」

「どうかね…」

 

拳藤の案内で、女子風呂の周りを歩く八幡と相模。

風呂は露天風呂であり、風呂場からは夜天が見えているだろう。

今はA組の風呂の時間だったが、八幡だけ相澤に事情を伝えてB組と入ることになった。

 

「ほら、こことか。竹と竹の隙間埋めて良いってさ。石とか変形して塞げない?」

「まあ、石ならドリルでも貫通は難しいか…?アイツ、前にショッピングモールで小型ドリル探してたからな」

「…その情熱をヒーロー訓練に捧げることはできないわけ?」

「捧げてるかも知れねえだろ、むしろ捧げてるから今ああなんじゃねえの」

「…最っ低のゴミクズね」

 

相模の悪辣に、今だけは否定しない八幡。

女子にとって性犯罪者は目を角にして目の敵にされる存在だ。

峰田がそうならないように祈るばかりである。

手頃な大きい石を手に取り、固体操作で変形して竹と竹の隙間を埋めるように縦長に伸ばしていく。

そして地面に埋めて竹に絡めるように石を変形させたらもう外せない。

外から見たら変な石だが、露天風呂内部から見れば特に外観を損ねることもない。

その手際を見て、うんと頷く拳藤。

 

「良い仕事するじゃん」

「こんなんで良いのか」

「うん!どんどんやっちゃって」

「人使い荒いぞ」

「ご褒美出すから。お菓子あるよ」

「…」

「……あの甘ったるいコーヒー、あるけど」

「マジか俺頑張る」

「へ?」

 

お菓子で釣られなかった八幡が相模の言葉で急にやる気を出し始めた。

手頃な石を探すのをやめ、大量の土を圧縮して硬化、それを変形させて同じように竹の隙間を埋めていく。

相模に訊ねる拳藤。

 

「甘ったるいコーヒー?」

「…MAXコーヒーっていう、練乳ぶち込んだコーヒー」

「なにそれっ、それコーヒーなの?」

「千葉でよく売られてるんだよ…」

「千葉県民のソウルドリンクだ。お前も飲め」

「そ、そうなんだ」

「違うから。こいつの妄言だから気にしないで」

「ま、一度試してみよっかな」

「マッカン愛用者がまた増える…ふふふ」

「キモいから。てか増えたの?」

「砂藤に布教した」

「ああ、糖分摂るとパワー上がるっていう……」

 

『…貴方たち、そこで何してるの?』

 

露天風呂から声が届き、ピタリと会話をやめる3人。

特に相模と八幡はぶるりと身体を震わせた。

その様子を訝しみつつ、拳藤が声の主──雪乃に声をかける。

 

「ごめん、今覗き対策してんの。気にせずゆっくりしてて!」

『あら、そうなの。てっきり覗こうとした比企谷君を市中引回しの刑に処すのかと思ったわ』

「へ?」

 

雪乃の唐突に出た毒に、間髪いれずに言葉を返す八幡。

拳藤は呆気に取られ、相模はまた始まったと言わんばかりにジト目だ。

 

「あのな、だったら俺は今からお前らの前に行くわけだが?なに?覗かれたいの?」

『その時は本当に犯罪者としてタルタロスに叩き込んであげるわ』

「覗きくらいじゃタルタロスはねえよ」

『ちょっとヒッキー!?何してんの!?』

 

結衣まで八幡に気がついたようだ。

他にも女子たちの声が聞こえ始め、竹の壁の方に近づいているらしい。

面倒なことになった、と八幡。

しかし特に言い訳することもなく隙間埋めの作業を続ける。

こうなったら早く終わらせた方が早い。

言い訳する気がないなこいつ、と見た相模が代わりに声を上げる。

 

「今、このバカに覗き穴になりそうなところ埋めさせてるの。会話聞かれたくなかったら小声でやって」

「手伝いさせてる奴にバカって言えるお前がすげえよ」

「助け舟出してくれてる人に文句言えるあんたがすごいわよ」

『この声誰?』

『さがみん!』

『え、相模さんって…あの方、こんな口調でしたか?もう少し、その…奥手だったような』

「う」

 

八百万の疑問に、たじろぐ相模。

蛙吹も言葉を続ける。

 

『そうね。何というか…少し雑かしら?』

「うう」

「こいつ猫被ってたんだよ。受け入れてやってくれ、悪いけど」

「ちょっと比企谷!?勝手に何言ってんのこのクソ陰キャ!!」

「うるせえ偽陽キャラ」

「こんの!!」

 

顔を赤くして八幡の腕に爪を立てる相模。

ぎゃ、と泣き言を言う八幡。

 

「爪はやめろお前!」

「猫爪立ててないだけマシに思え、バカ!!」

「やめなよ、もう。仲良いのはわかったから」

「「良くない!」」

 

クワっと拳藤に言葉を返す二人。

喧嘩するほど仲が良い、と言うには言うが、元総武中でここまで絡みがあるとは思わなかったと八幡を見る拳藤。

正直、誰かと積極的に関わるタイプには見えない。

 

「とっとと働け、奴隷!」

「誰がだ、またたびで酔う猫もどきが」

「な、何であんたそのこと知ってんのよ!?」

「お前それ隠してるつもりだったのか?中学の時、もう聞いて聞いてと言わんばかりにツレに話してたろ。教室中に聞こえてたぞ」

 

ふしゃーと相模が八幡に噛みつき、クリティカルに八幡が言葉を返していく。

そんな様子を、露天風呂で湯に浸かっていたA組女子たちも顔を見合わせて聞いていた。

二人の会話に恐る恐る割り込み、八幡へ声をかける耳郎。

 

『…と、とりあえず…覗き対策だよね?ありがとう比企谷』

「…俺に言わなくて良い。言い出したのはこの二人だ」

『さっきも峰田が覗こうとしてさー!最低だよアイツもう!』

「げ、本当に覗くのか…」

 

芦戸の声にあからさまに顔を顰める拳藤。

そして自身の胸を持ち上げてため息をつく。

 

「こんなの見て何が楽しいんだか」

「バッ」

「ん?」

 

拳藤から顔を逸らした八幡。

というか逸らされたのだ。

八幡の顔を高速で掴み、両手でぐるりと相模が回していた。

 

「早くしろスケベ」

「今の俺悪くないだろ」

「…罰として、あんたあのチビのこと見張ってきなさい」

「いやだから悪くないだろ俺」

「拳藤…さんも、もうちょっと恥じらい持ちなよ」

「あ、わるいわるい。…何、比企谷もそういうの興味あるんだね」

「え、いや、その……お、男は自然とそこに目が吸い寄せられるように出来てるからな。人体の神秘のせいだ。俺は悪くない」

「どう考えてもあんたが悪いわよっ!!」

 

相模の渾身の猫パンチを頭にくらい、ちくしょうと悪態をつく八幡。

ふらりとそのまま風呂場の壁から離れていく。

 

「あ、比企谷?」

「……終わったから戻る」

「え、うそ。……速いな、いつやってたんだ…」

「…比企谷」

「ん?」

「これ」

 

相模がスカートの羽織っていた上着のポケットからマッカンを取り出し、八幡に放り投げた。

最初から八幡を動かすためのものとして、ずっと持っていたようだ。

それを受け取り、これこれと顔を綻ばせる八幡。

 

「悪いな」

「ふん。そんなもん一本で動くなんて安い男」

「これがあれば人生苦く苦しくても何とかなるってな」

「…あんたね、今のあんたが言うとシャレにならないからやめてくんない」

「…比企谷、優しくしてあげようか?」

「いいです」

 

親も早期に亡くし、本人も(ヴィラン)に付け狙われている八幡が言うとジョークでも何でもなくなる。

気をつけよ、とマッカンのプル蓋を開け、ぐびりと一口。

そして相模へ文句を言う。

 

「おい、これぬるいぞ」

「っ!!死ねボケ!!」

「えー…」

 

 

──────────

 

 

二人と別れた八幡は、一応仕事をしようと峰田を探していた。

既に相澤かピクシーボブたちに捕まってるかな、とまずマンダレイたちがいるであろう場所を訪ねる。

ドアを開け、中へ入ると予想通りマンダレイ、ピクシーボブ、それからタオル一枚の緑谷がいた。

 

「…」

「あ、比企谷くん!?」

「…お邪魔しましたー」

「ち、違うよ!!何か壮絶な勘違いしてるよ!!」

「え?ヒーローとの蜜月…」

「違うって!!ほら、洸太君!!」

 

慌てふためく緑谷が示す先に、ソファーで寝ている洸太が目に入った。

ああ、と頷いてとりあえず中へ入る。

 

「あの、峰田見ませんでしたかあの覗き魔」

「峰田?ああ、あの子ならイレイザーに捕まってたよ」

「なんだ、じゃあいいか」

「いいの!?」

「見張っとけってパシられてな」

「ヒーローでもある比企谷君をパシリって、誰か知らないけどすごいな……」

「もっと言ってやれ。……んでお前、何でそんな格好なの」

「ああ、緑谷君は気絶した洸太を連れてきてくれたんだよ」

 

マンダレイの言葉に、洸太は寝てる訳ではない、と気がつく。

帽子をとり、目を瞑っている様は普通の子供だ。

目つきが悪いなどと全く言えない。

そうだ、とマンダレイ。

 

「比企谷君」

「はい」

「もしよかったら、洸太とどこかで話をしてあげてくれないかな」

「…何故俺」

「君なら…洸太の気持ちがわかるんじゃないかって思って」

「!」

 

気持ちがわかる。

その言葉だけで、洸太がどういう子供なのかなんとなく察する。

マンダレイの従兄弟の子供だというが、何故そんな子がマンダレイの元にいるかを理解した。

親がいないのだ。

 

「…二人ともいないんすか」

「うん。…ヒーローだったの、二人とも。殉職して…ね」

「そこまで俺と同じかよ…」

 

洸太を見つめる八幡。

そんな八幡を見て、緑谷は体育祭での黒霧の言葉、また授業参観の時の相澤の言葉を思い出す。

 

『彼は…個性社会の被害者です。彼の両親は二人とも、(ヴィラン)の襲撃で亡くなりました。…ヒーローとして』

『比企谷に関しては家族を失う意味を良く知っているからな』

 

洸太を見つめる八幡の目は、悲しいものだった。

憐れむような目。

だが、首を横に振る八幡。

 

「…俺は多分、この子の力とかにはなれません」

「え?」

「この子はヒーローを嫌ってる。それはわかります。けど、俺は嫌う理由…いや、資格がない」

「どういうこと?」

「…俺自身が母親が亡くなった時に、ヒーローよりも余程踏み入った個性の使い方をしてしまったから。ヒーローの力の源である個性を使ってしまったんです」

 

母親が亡くなった時、と言われて考え始める緑谷。

父親が亡くなったのは6年前、オール・フォー・ワンとの戦いでというのはこの前聞いたばかりだ。

オールマイトがその事実を認めていた。

だが、母親が亡くなった時の話は聞いたことがない。

比企谷君はおろか、総武組やオールマイトも話したことがない。

そもそも知っているのだろうか、と緑谷。

マンダレイたちの様子を見る限り、マンダレイたちも知らないようだ。

 

(比企谷君はヒーローたちの間ではかなり有名だっていうのはわかる。体育祭でめちゃくちゃ注目を浴びたし、今まで会ったヒーローで比企谷君を知らなかった人はいない。両親が亡くなっていることも体育祭で知られた。…でも、わざわざ聞いて良いこととは思えない…)

 

八幡の目が、体育祭でコネクタとして現れた時のように暗く濁っているように見えたから。

触れてはいけない、闇の深淵。

話は終わったとばかりに、踵を返して部屋から出ていく八幡。

暗い廊下に消えていく彼が、もう戻って来ないかと思うくらいにするりと暗闇へ溶けていった。

 

 

──────────

 

 

翌朝、5時30分。

A組の生徒たちは普段の起床時間よりもだいぶ早い起床に、眠たげな表情を隠そうとせずに施設前に集まっていた。

寝癖がついたままの麗日、欠伸をする耳郎、髪をセットしていない上鳴、青山。

品行方正な八百万でさえこっくり、と船を漕いでいる。

昨日の魔獣の森がかなり辛かったのもあるだろう。

八幡も戸塚にもたれかかって立ちながら寝かけていた。

それを捕縛布でビシリと叩いて起こす相澤。

 

「ふがっ」

「おはよう」

「……おぁっす」

 

ぼけーっとしたままの八幡。

寝起きの彼にはいつもの警戒心がまるでない。

ちょっとレア、と見てスマホでその様子を撮る耳郎。

早起きは三文の得。

生徒たちの前へ立ち、早朝にも関わらずいつもと変わらない相澤。

 

「おはよう、諸君」

「「「おはようございます!」」」

「本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は、全員の強化、それから仮免の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かうための準備だ。…というわけで爆豪」

「あ」

 

相澤から放り投げられたボールをキャッチする爆豪。

そのボールには見覚えがあった。

 

「そいつを投げてみろ」

「これ…体力テストの」

「前回、入学直後の記録は705.2メートル。どんだけ伸びてるかな」

「おお、成長具合かー!」

「この三ヶ月色々濃かったからな!1kmとかいくんじゃねーの!?」

「いったれバクゴー!!」

 

前へ出る爆豪。

ニッと笑い、腕を大きく振りかぶる。

自身はどれほど雄英で成長したのか、確かめる。

 

「んじゃァよっこら………くたばれ!!!」

 

右手の爆破と共に猛スピードで飛んでいくボール。

その爆発音でハッと目が覚める八幡。

 

「目覚まし…目覚ましどこだ」

「いや目覚ましじゃねえよ」

「ぶふっ!まだ夢見てるこいつ…」

 

失笑する折本を不思議そうに見る八幡。

どうやら目を半分開けながら寝ていたらしい。

後で説教でも入れるか、と企みながら計測器を爆豪に見せる相澤。

 

「709.6メートル」

「なっ」

「あれ……思ったより…」

 

伸びていない。

そのことに、爆豪だけではなく高記録を期待した瀬呂たちも驚く。

それをわかりきっていた相澤は、説明を続ける。

 

「約三ヶ月間、様々な経験を経て…確かに君らは成長している。だかそれはあくまでも精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで、“個性”そのものは今見た通りそこまで成長していない。だから──今日から君らの“個性”を伸ばす」

 

ごくりと唾を飲み込む一同。

しかし、総武組は明らかに顔を顰めた。

あの戸塚まで困り顔だ。

ニヤリと笑う相澤。

 

「死ぬほどキツイがくれぐれも、死なないように──」

「俺死ぬと思うんで帰って良いすか」

「死にそうになったら止めてやるから安心しろ」

「うわー助かるー。抹消ヒーローイレイザーヘッドー」

 

八幡が今までで一番嫌そうな顔をしていた。

そのことに、不思議そうに訊ねる砂藤。

 

「比企谷、もしかしてやったことあんのか?」

「総武中では、雄英推薦枠を手にした奴は強制的にカリキュラムに盛り込まれるんだよ。そんなに単位は要らないものだけど…めちゃくちゃキツイ」

「…ええ。思い出したくもないわ。平塚先生を何度恨んだことか」

「お前はまだ良いよ。俺なんてエンデヴァーとミルコが嬉々として俺を追い立てるんだぞ。殺せって何度思ったか…」

「うええ、やだぁ…」

 

その光景を想像して引く芦戸。

なるほど、と緑谷は納得していた。

何故総武枠の生徒は優秀な生徒が多いか。

ヒーローとしての教育を中学から受けているから、と思ったがそれだけではなく、個性を既に伸ばし始めていたからなのだ。

沙希が八幡を見る。

 

「またあんたとだね」

「いや、もうここにはお前の相手たくさんいるから。砂藤や緑谷に相手してもらえ」

「あんたのが一番効くんだよ」

 

「…なんか、エロくね?」

 

二人の会話にボソリと呟く峰田。

昨夜相澤からかなり折檻を受けたが、まだまだ懲りていないようだ。

ちなみに、沙希の訓練相手にはパワータイプが必要である。

それをこなせるのが雄英推薦枠を獲得した中だと八幡しかいなかったため、中学では沙希と八幡がペアで個性伸ばし訓練をしていた。

うげえ、という顔をしていた八幡の雄英ジャージを、後ろから猫の手が引っ張った。

 

「は?ちょ、なんすか」

「ねこねこ!さあ出番だよヒキガヤキティ!」

「いや俺キティじゃないし」

「さあさあ出た出た前へ出た!」

 

ピクシーボブが八幡を引きずり、皆の前へ出させる。

不思議そうにそれを見つめる生徒たち。

そこへ、更に軽トラックがやってくる。

軽トラックが停まり、運転席から降りたのは巨体のミニスカートの男。

これまたわっと反応する緑谷。

 

「虎!虎だよ!ワイプシの武闘派、軟体の個性を持つ!すごい、でかい!!」

「虎…でヒーロー名なのか…」

 

興奮する緑谷を他所に冷静に突っ込む尾白。

というか、2mを越す巨体でマンダレイやピクシーボブと同じようなコスチュームドレスなのはすごい見た目である。

そして、口を開く虎。

 

「ふん…子猫どもが」

「え」

 

何という低い声。

そして何という口ぶり。

ピクシーボブやマンダレイと全然ノリが違う。

色々と毛色が違う虎を、まだ何もされていないのに恐れ始めるA組。

 

「で、どれだピクシーボブ」

「この子だよ!」

 

ずい、と虎の前に差し出される八幡。

ふむ、とジロジロ八幡は全身を見られ、硬直する八幡。

今まで会ったことのないタイプの巨漢である。

これならまだ脳無の方がマシだ、と珍しく脳内の脳無に縋る八幡。

脳無は喋らない為、コミュニケーションを取る必要がないというコミュニケーション能力不足の八幡らしい理由だが。

 

「…ラグドール!」

「はいはーい!」

 

軽トラックの助手席が再び開き、降りてくるテンション高めの女性。

こちらもヒーロー、ワイプシの最後の一人。

 

「ラグドールだ!うわあ、ワイプシが揃い踏みだ!!」

「デクくん、テンションすごい高いね…」

「朝なのに」

 

ぴょいん、と跳ねて八幡の横に着地するラグドール。

一体何をする気だろうか、と八幡は気が気でない。

しかし、ラグドールは生徒たちの方を見遣る。

 

「ふむふむふむ!うんうん、おっけーわかった!」

「へ?」

「何がですか…?」

 

不思議そうな芦戸、瀬呂。

緑谷がそんな彼らに補足する。

 

「ラグドールの個性はサーチなんだ!見た人の情報を一瞬でわかる、すごい個性だよ!」

「てめーからしたらなんでもすごい個性だろうがダボが」

「そ、そんなことないよかっちゃん!100人までその情報がわかるんだ!位置もわかるんだよ!一見で個性を看破できるし…」

「ケッ」

 

緑谷の説明に、確かにと頷く飯田。

(ヴィラン)戦闘では個性の把握が重要視される。

時には13号や八幡のように凶悪な個性の持ち主がいてもおかしくない。

それを個性を使われる前にその危険性を理解でき、事前に対処できるとなるとかなり有用な個性だ。

 

「んじゃあ!それぞれ道具を受け取ってにゃん!」

「道具?」

 

虎が軽トラックの荷台に被せてあったブルーシートを取り払い、そこにあった様々な道具の数々が目に入る。

とりあえず、事情がわかっていた総武組がトラックの方へ寄り、各々必要な道具を取っていく。

結衣はスタンガン、縄と言った対人器具。

戸塚は鉄分が多分に含まれた肉類の食品。

雪乃と折本、沙希は道具は必要ない為、特に手に取らなかった。

 

「これで貴様らの個性を伸ばす。各々必要になる道具はラグドールが教えてくれる」

「にゃははは!バクハツキティとトドロキキティはそこのドラム缶と薪!アオヤマキティは簡易トイレ!ヒキガヤキティに運んでもらってね!サトウキティとヤオヨロキティはトツカキティと同じようにケーキやご飯ね!ウララカキティはこのおっきいビニールボール!カミナリキティは発電機!重いよ!」

 

生徒たちに矢継ぎ早に指示を出していくラグドール。

名前も個性も、見ただけで丸わかりなのだ。

そして、その生徒の弱点までも。

個性に関して、弱いところは何か、どのような特徴を持っているかもわかる。

つまり、伸ばすべき策も簡単に出てくる。

事前に相澤と連携を取っていたにしても、サーチの個性は伊達ではない。

そこへ横槍を入れる八幡。

 

「んで、俺が何を?」

「各生徒に合わせた地形を君には作ってもらうにゃん!」

「ほんとは私がやるんだけど、君の訓練も兼ねてね。ヒキガヤキティはまだ個性の底を総武も雄英も把握していなかったらしいじゃん?」

「…痛めつけると」

「悪くいうと!良く言うと死ぬまで追い込む!!」

「結局死ぬんじゃないすか」

「つーわけで、GO!」

 

そして、ラグドールの指示が八幡に飛び始めた。

慌てて固体操作を使い始める八幡。

 

「まずはわかりやすいのから!はい洞窟!トコヤミキティ向けね!!」

「ぐっ!」

 

瞬く間に土を盛り上げ、圧縮して硬度を上げた洞窟を作る。

常闇の個性は黒影(ダークシャドウ)

闇が深ければ深いほど黒影(ダークシャドウ)の強さは増すが、制御性は低下する。

なのでそれを抑えるための特訓である。

洞窟の出来栄えに、うむと頷く常闇。

 

「闇の深淵に抱かれて修練を。…悪くない」

「次!ウララカキティ向け!坂!!ついでにケロケロキティ向けに山作って!!」

「「「山!!?」」」

 

傾斜面を持つ小高い山を作る八幡。

高さは20mほど、総質量は30t近い。

あっという間に出来上がる小高い山に、唖然とする一同。

 

「次、次!ユキユキキティ向けに池!!あそこの湖から水移動させてユキユキキティ専用の作って!」

「いや湖あるならそれで良いじゃないすか…」

「あっちはヒキガヤキティ用ね!」

「マジかよ液体操作もやんのかよっ」

「早くしなさい、ヒキガヤキティ君?」

「お前覚えてろよ…」

 

楽しそうな雪乃を尻目に、大地を操作して池の受け皿を作り、湖まで移動して水に触れ、水を池へと移動させる。

既に疲労困憊、という八幡。

今度は耳郎や芦戸用の土壁、戸塚たちが食事しながら鍛えるための食事台とどんどん作っていく。

 

そして、わずか15分で全ての訓練場所を作ってしまった。

肩で息をしてぶっ倒れている八幡。

それを見た相澤が、ピッと八幡に親指を指す。

 

「アレも個性訓練の一環だ。比企谷は2年前より個性の有効範囲が体積計算で約20倍近くにまで上がっている」

「20倍!?」

「なんだそれ…」

「だから、奴が伸ばすのは有効範囲ではなくスピード。複合個性の切り替え、同時発動も今後詰めていく。これから奴はどんどん伸びる。ぼやぼやしてると置いてかれるぞ」

「今の時点で十二分に戦えて強いのに、まだ伸びるのか…」

「ケッ、追い抜きゃいいんだろが!!」

 

早速ドラム缶に水を汲み、薪に爆破で火をつける爆豪。

お湯を沸かし始めたのだ。

そこへ掌を突っ込み、汗腺を広げて爆破の強さと範囲を上げるという試み。

八幡と爆豪の姿を見て、一同は次々と己の訓練場所へ散っていく。

切島は尾白と、障子は葉隠とペアで特訓である。

ポツンと取り残される緑谷。

 

「あの、先生。僕は何を…」

「我の元へ来い」

「ひっ」

 

がしりと虎に掴まれ、引きずられていく緑谷。

そして、倒れていた八幡を土流で無理矢理起こすピクシーボブ。

 

「さて、ヒキガヤキティ!」

「休憩ですか、休憩ですよね」

「次、B組が来るから行くよ!」

「ちくしょう!!」

 

 

──────────

 

 

午前6時。

A組と同様に集まったB組は、目の前で死んだように倒れている八幡に目がいっていた。

三浦が恐る恐る声をかける。

 

「…ヒキオ。死んでんの?」

「……死んでる」

「ぐふふ、倒れる比企谷君を解放する隼人君…。おっけー隼人君GO!」

「いや、ゴーじゃなくて……どうした比企谷?」

「うるせえ…」

「立てるか比企谷。行くぞ」

 

ブラドキングに立たされ、支えられて歩く八幡。

その後にB組生徒たちも続く。

 

「朝からかなり個性を使ったようだな」

「昨日のもまだ効いてるんですよ……あの人たち絶対俺で楽しんでます」

「それだけ期待されていると理解すると良いぞ」

 

相澤にはないブラドキングの優しさに触れ、ほろりと涙を流す八幡。

一方、B組の方は既に泣きを入れている八幡に、一体何をさせられたのかと慄く。

魔獣の森で八幡に課されたハンデを彼らは知らないのだ。

 

「それで、わたしたちは何をするんですか?」

「個性伸ばしだ」

「個性伸ばし?」

「…またアレをやるのか」

「っべー…ヒキタニ君の気持ちがわかるわー。俺、死ぬかも…」

 

ブラドキングの言葉に、葉山と戸部が肩を落とす。

彼らも雪乃たちと同じように総武中で個性伸ばしを既に行っているのだ。

 

「はあ…死んだら小町になんて言おう」

「死んだら伝えられないんじゃないの?」

「…拳藤、じゃあ伝言してくれ。大好きだぞって」

「ええ…」

「キモい死ね」

「妹を愛するのは千葉の兄の務めだ」

「違うからあんたがシスコンなだけだから」

 

八幡をバッサリ切る相模。

そんな二人を楽しそうに見る小森。

 

「キノキノ!やっぱりさがみんはそっちのほうが良さげ!」

「え」

「うん、猫なんて被らなくていいからさ。素で接してよ」

「…が、がんばる」

「あーしは中学の頃の相模はやだけどね。今のままならまあマシだわ」

「三浦さん…」

「さんとかいらないから。もっとヒキオを相手するみたいに、ほら」

「や、それは無理。このバカにはこんくらいで良いの」

「…お前俺のこと嫌いすぎでしょ」

「ふん、捻くれぼっち」

 

げしげしと八幡の足を蹴る相模。

ケッと言葉を返す八幡。

 

「暴力ヒロインは流行んねえぞ」

「はあっ!?誰があんたのヒロインだって!?」

「いやそうは言ってないけど」

 

コントを始めたような二人を放って、取陰が言葉をこぼす。

総武出身の彼らは恐れ慄いていたが、何をするか良くわかってないためだ。

 

「突然個性を伸ばすと言っても…25名25通りの個性があるし…何をどう伸ばすかわかんないんスけど…」

「具体性が欲しいな!」

 

取陰に賛同する鎌切。

取陰の個性はトカゲの尻尾切り、鎌切の個性は刃鋭。

両者共に全く違う個性だ。

それに対して答えるブラドキング。

 

「筋繊維は酷使することにより壊れ…強く太くなる。個性も同じだ、使い続ければ強くなり、でなければ衰える!すなわちやるべきことは一つ!」

 

森を抜け、開けた場所に出た一同。

そこに広がった光景は、全員を慄かせるには十分だった。

 

「限界突破!!」

 

A組の生徒たちが、各々の個性を伸ばす為に必死の表情でそれぞれ課題へ取り組んでいた。

ただ、その様子が凄まじい。

 

「なんだこの地獄絵図…!!」

「もはやかわいがりですな」

 

誰も彼もが絶叫し、雄叫びと悲鳴をあげながらその個性をたたいて伸ばしている。

声を上げていないのは蛙吹、雪乃、障子、轟、スニーキングに磨きをかける葉隠くらいだ。

一行に一番近かった爆豪の様子を見てみる。

熱湯の中に手を入れ、手を引き上げて上空は向かって最大爆破。

爆破したら再度熱湯に手を突っ込み、再び引き上げてまた最大爆破。

その繰り返しである。

 

「クソがぁっ!!!」

 

いつもの口癖が出てはいるものの、表情が明らかにヤケクソ。

他にも、叫びながら延々とテープを出す瀬呂、何か悪態をつきながらもぎもぎを次から次へと出す峰田。

 

「…もう様子見てるだけで辛いんだけど」

「これに俺らも参加すんのかよ…!」

 

その様子を見た鱗の口から魂が出ていってしまった。

地獄にきたと間違えたらしい。

ブラドキングは気にせず説明を続ける。

 

「許容上限のある発動型は上限の底上げ、異形型・その他複合型は個性に由来する器官・部位の更なる鍛錬。通常であれば肉体の成長に合わせて行うが…」

「まァ時間がないんでな。B組も早くしろ」

 

B組が来たのを見て相澤が寄ってきた。

しかし、その背後に結衣が生物化したスタンガンや縄を従えて歩いているのが見える。

 

「ひー、ひー…!」

 

「あ、結衣!?」

 

涙目で次々と目についたものを生物化させ、そして素早く解除して次へ行くという訓練を続けている結衣。

もうやだ、というのが表情にありありと現れていた。

 

「ゆみご〜…」

「…ふぁ、ファイトー…」

「ひっぎいいぃぃ…」

「…頑張れ」

「がんばるぅぅぅ…!」

 

八幡の短い憐れみの一言で、何とか歩き始める結衣。

次は岩になだれかかり、アニミズムをかけ始める。

その奥には折本。

八幡が作り出した約80kgの土塊二つに手を添え、瞬間移動でワープする。

人を二人抱えたままワープすることで、ワープの質量許容上限と距離許容上限を上げる試みだ。

 

「はー、はー……吐きそう…ウケないわ…」

「おい吐くなよ…」

「乙女のゲロの後処理よろしく…」

「だから吐くなって言ってんだよやだよ」

「なんで比企谷が後始末?」

「固体操作の訓練になるって言われて、地形的な要望出たら答えられる範囲で答えるようにって言われてんだよ…」

 

骨抜の疑問に答える八幡。

その為、八幡はまだ今日は個性伸ばしを始めていない。

万能なのも考えものかな、と骨抜。

何から何まで投げられている。

そこへやってくる沙希。

 

「比企谷」

「…川崎。悪い、あとB組の配置が終わったらだ」

「いや、とりあえず一人でやってるよ。衝撃エネルギー溜め続けて、衝撃エネルギーの蓄積上限上げるつもり。あんたも訓練やらなきゃでしょ?午後にやろう」

「あー」

 

沙希は歩くだけで、地面との接触による衝撃エネルギーを溜めることができる。

他にも衝撃エネルギーの瞬間最大蓄積上限を上げる、などもあるが、それは午後に八幡と執り行うだろう。

それだけ伝えて、また走り始める沙希。

溜め切ったら一度に放出する予定で、何度も繰り返す。

 

「川崎は別に普通だな…?」

「まあそういう奴もいるだろ。葉隠と障子はそこまで大変じゃないしな。…午後の川崎との特訓はヤバいんだけどな」

「?」

「しかし、私たちも入ると50人…じゃなくて51人だよ?そんな人数の個性、たった6名で管理できるの?」

()()()彼女らだ」

「そうなのあちきら四位一体!」

 

拳藤の疑問に答える相澤。

そこへ集まる四人のネコミニスカ集団。

3人の女性と1人の男性。

 

「煌めく眼でロックオン!!」

「猫の手手助けやって来る!!」

「どこからともなくやって来る…」

「キュートにキャットにスティンガー!!」

「…」

 

マンダレイ、ラグドール、虎、ピクシーボブと順番にB組の前でポーズを取り、一瞬間が空く。

どことなく4人とも八幡を見てる気がしているが、当の本人は明らかに目を背けていた。

気にせず決め台詞を吐く4人。

 

「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」

「フルver.(バージョン)!」

 

にゃーんとポーズを決めたが、不満そうな4人。

ピクシーボブがジロリと八幡を見る。

 

「ちょーっとヒキガヤキティ。決めポーズ取る約束は?」

「「「え?」」」

 

拳藤や骨抜たちB組の視線を受ける八幡。

思いっきり舌打ちをして、渋々ピクシーボブの方を向く。

 

「…俺、ワイプシじゃないんで」

「合宿期間だけ限定のサイドキックやる約束でしょ!」

「いやさっき一方的に言われただけですし」

「ちゃんとお金出すって!」

「俺の全国からのチームアップ要請は、人々にヒーロー活動してる姿見せて信頼を得る為でしょ。ここに一般人いないんで。無理です」

「ちぇー。なら、合宿終わった後ね!」

「…それならまあ何とか」

「ねこねこねこ!将来有望なサイドキックゲッツ!」

「…助けてくれ」

「いや無理だって」

 

まだサイドキックになると一言も言ってないのにピクシーボブの中では既に決定事項のようだ。

骨抜に助けを求めるが、即座に首を横に振られた。

あ、とピクシーボブが相模の方に向く。

 

「ニャルラちゃんも来てね!」

「…いえ、良いです…」

「遠慮しないで、ね!」

「そういえば、さがみんの職場体験先ってワイプシだったノコね」

「猫だけにか。……安直」

「うっさい、どうせならあんたも道連れにしてやる」

「やだ」

 

ちなみに相模のヒーロー名はサースニャルラである。

さて、と説明を始めるワイプシの面々。

まずはラグドールが自分の目を指差し、にひひと皆を見渡す。

 

「あちきの個性、サーチ!この目で見た人の情報100人まで丸わかり!居場所も弱点も!」

「私の土流で各々の鍛錬に見合った場を形成!今はヒキガヤキティにやってもらってるけどね!」

「そして私のテレパスで、一度に複数の人間へアドバイス」

「そこを我が殴る蹴るの暴行よ…!」

(((色々ダメだろ)))

 

虎の発言に心中で突っ込むB組一同。

色々とはもちろん教育観やヒーロー観の問題である。

そのまま言葉を続ける虎。

 

「単純な増強型、我の元へ来い!」

 

増強型、と言われて反応したのは回原と宍田の2人。

回原の個性は旋回。

宍田の個性はビースト。

2人とも近距離ファイターである。

そこで相模を見る八幡。

 

「お前、増強型だろ」

「うちは個性鍛えて猫っぽい動きに更に磨きかけるからいいの。そういうあんたも身体強化出来るんでしょうが」

「俺は他にやることが…」

「お前たちも後で来い」

「「…はい」」

 

虎に目をつけられたので成す術なく頷く八幡と相模。

化け猫と接続操作を鍛えるだけではなく、2人とも更に課題の追加となる。

回原と宍田の視線の先には、既に虎に捕まっていた緑谷の姿。

だが。

 

「我ーズブートキャンプはもう始まっているぞ」

「ひー!!」

((古っ))

「ビリーズブートキャンプかよ…」

 

何百年前のだよ、とは突っ込まない八幡。

そこら辺は考えたら負けだ。

負けなのだ。

ラジオの音楽に合わせて忙しなく身体を動かし励む緑谷、その前に立つ虎。

 

「さあ今だ、撃ってこい」

「はっ」

 

瞬時に全身にワン・フォー・オールを行き渡らせ、虎へ殴りかかる緑谷。

 

「5%デトロイトスマッシュ!」

「よォォォしまだまだキレッキレじゃないか!」

 

それをぬるりと身体をタコのように曲げて避ける虎。

彼女、ではなく彼の個性は軟体。

人体の関節を無視してぐにゃぐにゃに身体が曲がる。

そしてすぐさま緑谷の顔へ猫パンチを決める虎。

 

「筋繊維が千切れてない証拠だよ!」

「イエッサ!!」

「反撃すんのかよ」

「声が小さい!」

「イエッサァ!!」

(ノリ怖え!)

 

戦々恐々する回原。

こんな扱いをされてもまだ頑張る緑谷にある種感心する八幡。

そのうち自分もこの我ーズブートキャンプに参加することを頭の隅に追いやっている。

指をちょいと曲げて挑発するように緑谷を鼓舞する虎。

 

「プルスウルトラだろォ!?しろよ!ウルトラ!」

(この人だけ性別もジャンルも違うんだよなあ)

 

宍田も恐ろしくて引いていた。

坊ちゃん育ちの宍田は、虎のような人種と出会うのは初めてなのである。

回原と宍田を虎に任せ、さてとマンダレイは八幡を促す。

やれやれとブラドキングたちから離れ、ラグドールの横に立つ八幡。

 

「さあさあ2度目だから今度は10分で終わるかな!?終わるね!にゃははははー!!」

「終わりません、15分で」

「さあさあレッツゴー!まずはトラックから道具をどうぞどうぞ!その間にヒキガヤキティはそれぞれの鍛錬場を作るのだ!」

「無視か」

「合理的に動け、足掻くだけ無駄だ」

「理不尽に屈するブラック企業の新入社員2年目みたいですね、ミルコみたいだこの無茶振り。…いや、アレに比べたら優しいか?」

 

そして固体操作で土を変形させて鍛錬の場を作り始める八幡。

それを楽しそうにピクシーボブが野次を飛ばす。

 

「ほらほら、時間ないよー!もっと大きく大きく!」

「ぐっ…」

「もっと影を濃く作ってあげないと、クロクロキティ困るよ!」

「くそっ、こんなもんか!?」

「…この闇になら…宿れる」

「つぎつぎー!」

 

「もっとジメジメっぽく!日が差さないように!キノコたくさん生えそうな感じで!水気もっと!」

「ガーデニングしてる気分です…」

「水は必要だから、ごめんね比企谷!」

 

「今度は光がたくさん当たるように!水も必要だから、持ってきてあげてね!」

「塩崎さん、これでどうだ…?」

「はい、ありがとうございます。…大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない」

「泣き言言っても良いけど手は動かすー!」

 

「さあさあ作れや作れや竈!」

「何でかまど…?」

「俺がこの中で熱をこもって保つためにな!!」

「クソ暑そう…夏なのにまだ熱くすんのかよ」

「限界越えるためにな!おめえも頑張れよ!」

 

「おっきな手に負けないくらい頑丈な岩作る!さあさあ動いたー!ねこねこ!」

「固体圧縮率、1000%…!!」

「い、いっせんて…オールマイトと戦った時並みじゃん…」

「こ、これでどうだ…」

「…すっごい、硬い…」

「これ壊せたら、なかなかだと思うわ…」

 

 

──────────

 

 

「全員のサポートご苦労。ようやくお前の訓練開始だ」

「…もう死にかけです」

 

相澤の前に座り込んだ八幡。

もう手も足も痛い。

2人から離れた場所ではA組、B組の双方がそれぞれ絶叫を上げながら個性伸ばしの真っ最中である。

2人の周りには誰もおらず、だだっ広い湖と八幡が必死こいて用意した土の山が隣接した、巨大な空き地に居た。

 

「ここがお前の鍛錬場所になる。川崎と訓練する場合は川崎をここへ呼べ」

「…ここで1人ですか」

「ここなら誰も巻き込むことはない。お前の今の戦闘範囲は約半径100メートル。…のはすだが、まずはそれを測る。というわけでこれだ」

 

相澤が取り出したのは八百万が今しがた作った原始的な大きなメジャー。

それを八幡に手渡す。

相澤の意図を掴んだ八幡は、固体操作でメジャーと接続し、メジャーをするすると伸ばし始める。

ぐんぐん2人から離れていくメジャーの先端。

だが、次第にその速度が落ち始め、しばらくして止まった。

 

「いくつだ」

「…108.2メートルです」

「…伸びてる実感は?」

「ありますよ。I・アイランドでそれなりに無理しましたからね。けど、これはあまり伸ばす必要がないかと」

「だろうな。お前に必要なのはスピードだ。だが、まず液体操作を見ておきたい。ほとんど使ってないだろ」

「そうっすね。雨の日とか海や川に行かないとほとんど使い道がないんで」

 

湖の方へ歩いていく相澤。

八幡もそれに続く。

目の前に広がる湖は端から端まで400mはある。

十分八幡が使えるギリギリの水量を確保できる。

 

「やってみろ。何しても良い」

「…了解」

 

靴と靴下を脱ぎ、水面に足をつける八幡。

足の下の水が急激に渦を巻いて八幡の足下に集まり、八幡は両足を水面に置いた。

そう、置いている。

つまり、水面の上に立っているのだ。

これには目を見張る相澤。

 

「どういう原理だ?」

「足の裏の水を圧縮して、硬くしてるんですよ。水面でも勢いよくぶつかれば痛い。水を圧縮して圧力高めたら、固体のように硬くなる。それを足場の水面に使ってます」

「…なるほど。ちなみに、水中で液体操作を使って自分の身体を運べるか?」

「…やったことないですけど多分できるんじゃないですか。気体操作とやり方変わらんし。ただ、水は空気よりかなり重いんで…体重が20kgくらいになりますかね。それでも20kgのものを液体操作で運ぶって考えたら出来そうすね」

「ひとまずは水をどこまでどれほど操れるかやってみろ」

「はい」

 

液体操作を水中の水に広げ、その範囲をどんどん伸ばしていく。

しかし、副作用で身体が50kg、100kgと重くなる。

少しずつ水面へ沈んでいく八幡の足。

重くなる八幡の体重を支えるにも、圧縮した水量が更に必要になる。

それを学習し、圧縮した水を足元へ集め、個性有効範囲の水を全て接続し切る。

 

さて、と八幡。

何でもして良いと言われたが、何をするか。

とりあえず、池の底まで圧縮した水の柱を作り、足場を確保する。

接続した水を足場の柱以外全て持ち上げていく。

その様子を見ていた相澤。

八幡の上空へ、巨大な水塊が造られている様を。

その水塊は少し離れた生徒たちからも見えていた。

個性有効範囲一杯の水。

湖の底が100mどころか7,8m程度しかないため、本当の有効範囲でないが、それでも相当の水量。

八幡の液体操作によって空いた空間に、有効範囲の外から水が流れ、それらと接続してまた水塊の水量が増えていく。

とても実戦向きという技ではないが、液体操作の有効範囲を知るにはうってつけである。

更に水を集め、最終的に半径が有効範囲の巨大な水球が出来上がった。

それを圧縮し、体積を一気に20分の1にまで圧縮する。

 

「オー・ラティオ」

 

固体は圧縮して攻撃に用いる理由は、重くて速い攻撃として使うためである。

だが、気体と液体は理由が違う。

大量の気体や液体を一度に使って圧力と硬度をあげるためなのは間違いないが、それだけではない。

圧縮した気体と液体──流体は、八幡の個性が切れれば元に戻る。

つまり、圧縮した流体は元の体積に戻ろうとするのだ。

そして、圧縮した流体の一方向だけ個性を切れば、砲撃となる。

更にその砲撃の元となる流体を別の流体で押し出す。

それが八幡がよく使う空気砲だった。

では、それを水でやると?

 

「オー・キャノン」

 

圧縮して作られた水球から、水の砲撃が森に向かって放たれた。

木々を薙ぎ倒していく水流撃。

最早水流とはいえず、巨大な高圧の水レーザーである。

流石に全部撃ち切ると周囲の森が荒地になるので、程々にして水を元の湖へ戻す八幡。

湖面を歩いて相澤の元へ戻る。

 

「雑い操作しかできないんであんな感じです」

「…お前、市街地に向かないな」

「水って使いにくいんですよ。使う場面もほとんどないし、使い慣れてないんでかなり大雑把です」

「気体とは扱いが違うのか?」

「元が同じ個性なんで似てはいますが、やはり重いですね。正直使いたくありません。多分やりすぎる」

 

淡々と話す八幡に、個性が強すぎるのも考えものだなと相澤。

だが、持っている力に対して目を瞑らせるわけにはいかない。

 

「…例え使わないとしても、いざというときの手札を腐らせるわけにはいかん。まずは使い慣れるように小さな水量から慣れていけ。後は水中での高速移動が可能になること。午前はそれで良いだろう。午後は川崎と合流するんだったな?」

「はい。やりたくないすけどね…」

「求められ、それに応えられるだけのポテンシャルを持ってるんだ。素直に喜べ」

「…」

 

八幡の個性が強いのは轟と同じ理由である。

親が個性を鍛えていたのだ。

(ヴィラン)連合の元で二年間鍛えられていたのも理由の一つだろうが。

何にせよ、強いことはヒーローにとって財産である。

八幡は己の個性を中学一年までないものとして過ごしていたそうだが、それでもヒーローとして生きていくことを決めたのには相当の葛藤があっただろう。

個性とヒーロー、そして(ヴィラン)とは切っても切られる縁で八幡は結ばれている。

 

そのまま続けるように、と言って離れていく相澤。

八幡だけを見ているわけにはいかない。

相澤が他の生徒たちの方へ行ったのを見届け、湖へジャージの上着と黒の肌着を脱いで入っていく八幡。

顔も覚えていない母も、こうして鍛えたのだろうか?

少しだけ母を想ったが、やはり情は湧かない。

だが、感謝はしていた。

何せ、彼女は死ぬ間際まで八幡と小町を守ったのだから。

水中を漂い、湖に渦巻きを作り始めた八幡。

そんな彼を、木に隠れた洸太はジッと見つめていた。

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