何がヒーローたらしめるか   作:doraky333

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Wolf's face.
The mask hides the face, expressions, and even the truth.
And the boy was afraid of the moment when the mask would tear.


Episode7.迫る祭りと寄る闇

(ヴィラン)連合による雄英高校襲撃から二日後。

リカバリーガールによる治癒を終え、出久はA組に合流することができていた。

A組の面々を見渡すと、特に平素と変わりなく登校しているのがわかった。

一昨日の襲撃事件は、A組に初めての(ヴィラン)との戦いの恐怖や重圧だけではなく、会敵というヒーローとしては大切な経験が、高校一年生のうちに得られたことを意味していた。

さらに無事に切り抜けている点を考えると、多分かなり良い結果なんだろう。

それが恐怖を打ち消した。

オールマイトの睨んだ通りなのかもしれない。

 

「皆──!!朝のHRが始まる席につけ──!!」

「ついてるよついてねーのおめーだけだ」

 

飯田くんはとても真面目だけど軽いコントになっちゃってるなぁ、と眺める出久。

その時、ガラリと教室のドアが開く。

そういえば、相澤先生の代わりは誰が‥とドアの方に目を向け、目を丸くする。

 

「お早う」

「「「相澤先生復帰早えええ!!!!」」」

 

プロすぎる!と称賛の声が上がる。

腕と顔が包帯だらけで半ミイラのようになってはいたが、いつものヨレた黒い上下服、首元の捕縛布、ボサボサの黒髪。

間違いなくA組担任相澤消太だった。

 

「先生無事だったのですね!!」

「無事言うんかなぁアレ…」

「いやいやー、元気に担任してくれてよかったです!」

「いや…由比ヶ浜ちゃん。アレは元気とは……いや、いつも元気なかったわウケる!」

「ウケる!」

 

折本さんの口癖が上鳴くんに移ってる…。

 

「俺の安否はどうでも良い。何よりもまだ戦いは終わってねえ」

「戦い?」

「まさか…」

「まだ(ヴィラン)が──!!?」

 

戦いという言葉に構える生徒たち。

ゴクリ、と喉を鳴らしながら相澤の言葉を待つ。

 

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」

 

緊張を返せ!!と言わんばかりにホッとする生徒一同。

確かに敵襲があったとは一言も言っていない。

 

「ちょ…待って待って!(ヴィラン)に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す‥って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より雄英(ウチ)の体育祭は……()()()()()()()(ヴィラン)ごときで中止していい催しじゃねえ」

「いや、そこは中止しよう?」

 

相澤の言葉に否定的な反応を示す峰田。

峰田の気持ちは当然とも言える。

常識で考えれば命の危険があった数日後に学校行事が開かれるなど有り得ないことだ。

だが、そこは雄英。

まず、体育祭は普通の学校と全く違う。

 

「去年見た体育祭、すごかったよねー。陽乃さんが一位だったよね!」

「あの人はいつもそう。全国放映される場、更にはかつてのオリンピック以上の盛り上がりを見せる催事を、あの人がチャンスとして利用しないわけがないわ」

「あはは…」

 

結衣は単純に陽乃がすごかった、と褒めただけだったが、雪乃は単に姉の陽乃が疎ましいだけである為、どこか嫌味っぽく言葉が出てしまう。

そこに気がついた彩加が苦笑いをする。

 

「陽乃さんって…雪ノ下陽乃…あれ?雪ノ下?」

「やっぱり、雪ノ下さんのお姉さんなんだよね?」

「…そうよ」

 

去年の雄英体育祭3年生優勝者の名前を思い出すお茶子、ある程度の確証を持って雪乃に問う出久。

 

雪ノ下陽乃、ヒーロー名サンアイズ。

高校二年生ながらプロヒーロー資格保有者として鮮烈なデビューを果たし、今現在18歳にして既にヒーロービルボードチャートJP上半期では20位以内は確実と言われる程の有能株。

個性の派手さとそのメディア映えする美貌から、市民からの人気も実力も高い、正しく現代のヒーローだ。

そんな妹の雪ノ下雪乃も既にプロヒーローの資格を持っているときた。

才色兼備の完璧姉妹、とお茶子の脳裏に言葉が浮かび上がる。

けれど、雪乃の陽乃に対する妙に暗い思いも、お茶子は敏感に感じ取っていた。

 

「す、すごい!そんな人が姉だなんて……飯田くんと同じ」

「待ってデクくん!」

「へ?」

「ほら、先生の話聞かんと」

「あ、うん。ごめんね雪ノ下さん」

「…いいえ」

 

チラリ、と雪乃がお茶子に目を向け、すぐに前を向く。

結衣もお茶子に目を向け、ありがと、と小さくお礼を告げた。

そのことに、やっぱりと思うお茶子。

雪ノ下さんは、姉さんのことが苦手なんや、と。

 

「高校卒業後…つまりプロ資格修得後、生徒の大半はプロ事務所にサイドキックとして入所する。名のあるプロヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性もあるのは当たり前のこと。体育祭はプロに見込まれるチャンスを得られる、将来に向けての就職活動の場でもあるわけだ」

 

プロに見込まれる。

その言葉に期待に胸を膨らませる一同。

 

「年に一回…計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」

 

不敵に笑う者、不安気に髪を触る者、手を力強く握る者。

形はどうあれ、皆が体育祭というチャンスに向けて意気込む。

だが、そこにこほんと水を差す相澤。

 

「…また、その体育祭だが…今年初の試みが行われる」

「試み?」

「なんですか?」

「ま、またなにかプルスウルトラなこと…!」

 

あわわ、と泡を吹きそうになる峰田だが、淡々と告げ始める相澤。

彼の辞書に慈悲という言葉はない。

始まった、と身構える雪乃。

 

「今回の体育祭…留学生を招き入れることになった」

「…留学生!?」

 

まさかの方向に驚く一同、ホッとする峰田。

 

「いわゆる外部からの刺客…君たちから見たら、そういう立場の人間になる。前々から留学生を体育祭期間だけ招き入れ、生徒の刺激と経験を更に捗らせようって計画はあった。それを今年敢行するのは、やはり(ヴィラン)には屈しないという雄英なりのポーズだ」

「りゅ、留学生って…もしかして、このクラスですか!?」

「そうだ」

「っしゃ可愛い子来い!!」

「ブロンド美人カモンんん!!」

「手のひら返しドリル炸裂だな」

「言っとくが男だぞ」

 

やはり相澤の言葉に慈悲はない。

僅かな希望も打ち砕かれ、机に突っ伏す上鳴と峰田。

 

「そ、それより…雄英に留学生として来られる人間なんて…相当に優秀なんじゃ」

「それはお前たちの目で確かめるんだな。…入って来い」

「入って来い!?」

「いや今からご対面!!?」

 

バッ、とドアに向けて一斉に振り向くA組一同。

ドアの向こう側に、先程まではなかった影が写っていた。

いつの間に、と驚く障子。

個性を使っていなかったとはいえ、まさか情報収集に長けた自分が気づかないとは。

 

ガラリ、とドアが開いた。

 

狼が、直立不動で立っていた。

ピンと伸びた背筋、身長は170cm代半ばといったところか。

雄英の制服を身につけ、茶色の毛並みとその狼の目をギラリと光らせる。

常闇のような動物の異形型。

だが、歩く様はやはり彼が人間であると物語る。

ウルフと呼ばれた留学生の後ろには、平塚とヒーローエクトプラズムの姿が見えた。

 

「…自己紹介」

「…ウルフ・エイティス」

「今後、体育祭期間までの短い間だが、A組の一員となる。くれぐれも雄英生として失礼のないよう、合理的に彼と当たれ」

「合理的に…て」

「どう?イケメン?」

「…ごめん、異形型の美醜わからないんだけど……いやでも、狼としては多分イケメンなんじゃないかな」

 

似合わないマスクね。

雪乃は心の中で零す。

普段から背筋を伸ばしていれば、猫背も治って印象も良くなるのに。

でも、猫背が治ったら猫っぽさが減るわね、とどうでもいい事まで頭に浮かんでしまう。

 

雪乃は彼とは初対面ではない。

昨日の会議を思い返しながら、相澤からの説明を流し聞きする。

 

 

──────────

 

 

1日前、雄英高校。

その廊下を歩き、会議室へ向かう雪乃。

今日の会議は大半の雄英教師、つまりプロヒーローたち、他には今回の(ヴィラン)連合と名乗った連中の担当捜査官となった塚内という警部が会議に参加する。

塚内が会議を主導で動かし、プロヒーローたちが意見を出して今後の対策を立てるというもの。

雪乃はヒーロー資格を持つ生徒目線の意見の為に招集されたのだ。

結衣も参加したそうにしていたが、ヒーロー資格を持たない為、流石に参加したい!とは言い出さなかったようだ。

 

「あの黒い靄の男…黒霧のことが訊ければ良いのだけれど」

 

また、雪乃はまだ自らのコスチュームに記されたメッセージについて、誰にも打ち明けることをしていなかった。

理由はいくつかある。

 

まず、メッセージに信憑生がない。

雪乃はメッセージが比企谷八幡のものである、と考えているが、客観的に見れば何も証拠がない。

八幡と雪乃の関係を知っている誰かの仕業かもしれないし、雪乃の思い違いかもしれない。

そのような指摘もあるだろう、と考えてのことだ。

 

二つ目、仮に八幡の記したものだったとして、それを公開するメリットがまるでない。

何故八幡はこのメッセージを雪乃のコスチュームの裏側に記したか?

口頭でも伝えられる簡単なものを何故?

それは、秘密裏に伝える必要があったからに他ならない。

このメッセージをヒーロー側に伝えるにあたってリスク又はデメリットがあるからでしょうね、と雪乃は推測する。

 

でも、伝えてきた。

メリットなどほとんどない、あるとしたら雪乃に必ず戻るという意思を伝えることができただけ。

けど、それ自体が目的ならば。

 

「…嬉しい」

 

貴方を探し続ける。

雪乃の目に強い意志が宿る。

この2年、褪せることなく持ち続けた輝きが、より一層増していくのを感じた。

 

会議室が見えてきた。

まずは、この会議から。

貴方をこの手に戻す第一歩にしましょう。

ノックをし、平常な声を出すよう努める。

 

「失礼します」

「…雪ノ下か。入ってきてくれ…」

 

中から平塚の声が聞こえた。

妙だ、いつもより声のトーンが低い。

何かあったのだろうか。

 

「雪ノ下、入ります……!?」

 

扉を開け、会議室に入る。

目に入ったのは、フードの男。

それを囲うように席に座る、雄英教師陣。

皆、一様に男に対してあからさまに警戒していた。

座りながら戦闘態勢に入っているようだ。

このフードの男は、昨日の、(ヴィラン)連合のコネクタと呼ばれていた…!

 

「何もするな雪ノ下」

「!?」

「…とりあえず、入って扉を閉めてくれ」

「…はい」

 

穏やかな平塚の声に、有無を言わさない力が入っていた。

後ろ手に扉を閉めつつ、フードの男からは視線を逸らさない。

 

「…説明を求めます」

「ああ、わかっているよアウトスノーくん」

 

雪乃のヒーロー名を呼ぶのは雄英高校校長、根津。

動物でありながら個性を発現したという極めて珍しい例だ。

雪乃が席に座ると同時に、フードの男を見る。

 

「…さて、全員揃った。この部屋の通信もそちらの個性で無効になった。邪魔は入らないだろう。まず聞こうか。目的はなんだい?」

『…やあ』

 

機械音声。

昨日のフードの男の声ではない。

フードの男の首元に音声マイクが入っているようだ。

通信妨害の個性を使用しているのに通信ができるのは、その周波数帯だけ妨害していないからか。

だが、その声に身体が反応した者が一人。

 

「き、さま…!!?」

『久しぶりだねワン・フォー・オール。元気そうで何よりだ』

「白々しいことを…」

『ふふ、元気そうに見えるのは外見だけかな?その身体、いつまで保つのか興味があるね』

 

オールマイトの知り合い?とオールマイトを見る。

だが、いつもの笑顔ではない。

明らかに敵対者へ向ける顔。

良い知り合いではなさそうだ、とその場にいる者は察知する。

 

『まず始めにだが、彼には手を出さないでもらおう。彼に何かあればその時点で大多数の人間が集まる場所に爆弾を落とす』

「…」

『どこにでも、今すぐにでも。それが僕に可能なことは君も知ってるはずだ』

「…早く要件を言え!!」

『会話を楽しみたいがそれは無理か。では、結論から述べよう。雄英体育祭に彼を参加させてくれないか』

 

爆弾を落とす、よりもさらに大きな爆弾発言をする機械音声の男。

彼と呼ばれたフードの男は、また始まった…と溜息をつく。

 

「な…」

「何をバカなことを!!(ヴィラン)を雄英に、しかも個性を公に振るう体育祭に参加させるなど…!!」

『断れば先ほどの仮定が現実になるだけだよ』

「グッ…」

「何が目的だ。先の黒霧という男の個性があれば、今日目の前の彼がこの会議室に現れたように、体育祭に乱入するのも不可能ではあるまい!それをプロヒーローたちが阻止できるかは別としてな」

 

『なに、オールマイト…簡単な話さ。未来のヒーローと未来の(ヴィラン)。それを健全な場で争わさせる。英才教育にピッタリだと思わないか?』

「建前は要らんぞ…!」

「落ち着けオールマイト!」

「塚内くん、しかし…!」

『いや、建前でも何でもないよ。彼は僕のお気に入りでね。彼には期待しているんだ。まあ、素顔も見れないような人間だ、信用できないのはわかるよ…コネクタ』

 

名前が呼ばれ、ピクリと反応するコネクタ。

ここでそれをやれと言われるとは思わなかった。

胸を掻きむしりたい衝動に駆られるが、観念してフードを取る。

現れた素顔に、雪乃は反射的に動きかけ、平塚に静止された。

 

「ま、さか…」

「……その可能性を考えなかったわけではなかった。土と空気を操る個性……確か2年前までは固体しか操れなかった筈だ。…何がどうなっている」

「きみ、は……」

 

「…こんな形で…顔を合わせたくはなかったですね」

 

腐ったような目が、2年前よりもさらに濁っていた。

黒髪が少し伸び、更に暗い印象を醸し出していた。

その表情は、何も示していなかった。

だが、確かに見覚えがある顔。

2年間、雪乃と結衣が求め続けた人。

 

「ひきがや…くん…」

「…悪いな、雪ノ下。もう、あの頃には戻れないんだよ」

 

悪に見染められた少年が、本当の悪になってしまった。

平塚の心に影が落ちる。

この光景だけは、見たくなかった。

 

「…比企谷少年」

「お久しぶりですねオールマイト。昨日の体たらくは何ですか?そろそろ引退ですかね」

「…久々に会っても、君のその腐った態度は変わらないね」

「勿論、これが俺です」

 

ほんの少しの会話でわかる。

間違いなく比企谷八幡だ。

個性による洗脳を疑ったが、まず本物であることは確認できた。

だが、これは…。

チラリ、と雪乃の方を盗み見る。

 

「…本当の、悪になったら…何も、意味が……ないじゃない…」

「…俺には、お似合いの末路だよ。中学から嫌われ者だった俺には……そうだろ」

「バカな男…」

 

八幡から目を切り、八幡の首元に目線を下げる。

 

「…貴方ね、彼を…拐かした元凶は!」

『君のことは知っているよアウトスノー。私欲でヒーローとなった若き才媛』

「その原因になった悪の根源がよくも宣ってくれたわね!!」

 

パキキ、と雪乃の身体から冷気が漏れ出る。

室内の窓が結露し、足元に水が溜まり始める。

水が氷となり、更に雪乃の足元に集まっていく。

 

「やめろ雪ノ下!」

「…わかっています」

「なら落ち着いてまず座れ。その元凶は目の前にいない上に、一時の感情で奴の脅しを頭から消すな」

「ならば(ヴィラン)の脅しに屈しろと!?それに、彼をこのまま帰すわけにはいきません!!帰せるわけがない!!」

「その詳細をまずは奴から聞く!!話はそれからだ!」

 

「あの…少し良いですか?」

 

雪乃と平塚の会話が論争になりかけた時、18禁ヒーロー・ミッドナイトの手が挙がった。

まずは落ち着くこと。

それをこなせるのは、小さな横槍を入れられる第三者のみ。

 

「まずお聞きしたいのは…この(ヴィラン)の少年をご存知なんですか?」

「…彼は比企谷八幡。2年前、当時高校生だったサンアイズと共に、ある強大な(ヴィラン)を捕らえたノーアームズと呼ばれた少年だ」

「ノーアームズ!?」

「彼がですか!?」

「あの時、事情聴取し損ねた英雄にこんなとこで出会えるとはね…」

 

ノーアームズ。

素性不明、素顔不明、個性不明。

2年前、ある大型商業施設に現れた大型の(ヴィラン)

ヒーローたちからの攻撃をすり抜け、(ヴィラン)は攻撃し放題という厄介この上ない(ヴィラン)に、ある二人の学生が立ち向かった。

一人は雄英高校2年雪ノ下陽乃。

彼女はその事件で一躍プロヒーローやマスメディアたちの注目を浴びた。

その脚光を裏付けるかのように、翌年の雄英体育祭で優勝、プロヒーローサンアイズとして独立、名乗りを上げる。

だが、もう一人は何故か事件当時、顔にぐるぐるマフラーを巻いて素顔がわからないようにされていた。

学生だと判断されたのは、当時の彼が学ランを身につけていたからである。

その彼は、商業施設の一角が使い物にならなくなるほど、(ヴィラン)との個性による戦いを繰り広げ、見事に(ヴィラン)を打ちのめしたとされている。

何故、打ちのめしたとされているなのか?

その事件直後、メディアや人々の前から煙のように消えた為、詳細を彼から何も聞くことができていなかったからである。

その戦いぶりから、当時の戦いを見ていた人がネットに彼のことを記載し、広まった名前がノーアームズ。

 

「そして…2年前、姿を消した少年…比企谷八幡だ」

「消した…?」

『誘拐だよ』

 

機械音声が淡々と事実を述べる。

その言葉に、すぐに反応する本人。

 

「てめーで言うなよ」

『君の戦いぶりを見て、僕が決めた。やったのは僕じゃないけどね。だが、やはりそれは正解だった。君の個性は実に面白いよ』

「面白そうってだけで誘拐するなんてどういう倫理観してんだよ」

『倫理観なんてものはとうの昔に弟に渡したよ』

「あんた弟なんていたのか…」

 

なんて緊張感のない二人。

だが、傍目からすると身内同士の会話だ。

本当に彼は(ヴィラン)側になってしまったのか、とオールマイトの一縷の望みすら潰えた。

 

『さて、本題に戻ろうか?勿論、この話…受けてくれるね?』

「……生徒に危害を加えないという保証は?」

『勿論ないね。彼はやる気はないだろうが』

「…そんな度胸ねーよ。何処に好き好んでプロの卵に殺し合いをけしかける奴が居るんだよ。むしろ挑んだら即お縄になる自信まである」

『だそうだが』

「その要求を呑むことでその爆弾とやらをこちらに引き渡して欲しいね。それができなければ今すぐに全プロヒーローに厳戒態勢を促し、当然目の前の彼も捕らえる」

『英断だね、根津校長。…乗った』

 

コネクタがこの会議室に現れた時と同じ黒い靄が空中に現れる。

そこからゴトリ、と重厚な金属製の箱が3つ現れ、机の上に置かれた。

 

「…C4…プラスチック爆弾か」

『中には通信受信の為の端子が埋め込まれている。遠隔で子供でも爆破させることができる』

「これはまだ手元にあるのかい?」

『さあ』

「じゃ、質問を変えよう。これよりもっと便利なモノがあるんじゃないかい?」

『…賢君だね、根津校長。勿論あるよ』

 

一度は惚けたのに今度は白状すんのかよ、と呆れる八幡。

これでは取引にならない。

だが、これ以上を求めて更に要求を重ねようモノなら、それこそ交渉決裂だ。

双方にとって無意味な会話になる。

ヒーロー側は爆弾以上の何かによって、大勢の人々の命を失い、(ヴィラン)側はただ利用価値のある体育祭が開かれなくなるだけ。

 

「どうやら、足掻いても無駄なようだね」

『そうなるね。不安なら、体育祭期間まで彼を見張り、もしくは拘束し続けると良い。最も、僕から何も言わなくても彼は何もしないさ。そういう男だ』

「信用あるようで嬉しいね。嬉しすぎて光栄まである」

『そういう割に僕のことは先生と呼ばないね?』

「なら先生らしいことしてみろ…」

「……いいだろう、君の誘いに乗ろう」

 

“先生”と八幡の会話に根津が割り込む。

どちらにせよ、人命を盾にされては従うしかない。

従った上で、その狙いを摘む。

勝負は体育祭当日。

目の前の比企谷八幡、並びに通信先の“先生”と呼ばれた人物の両人を抑え、体育祭を敢行する。

 

「よろしく、比企谷八幡くん」

「…俺はよろしくしたくないので適当でお願いします」

「そういうことは心の底に留めておくものよ…本当にそういうところは変わらないわね」

 

思わず出てしまったかつての調子による言葉が、会議室に響く。

あの日々が恋しいという思いは、今日が今までで一番強かった。

 

 

──────────

 

 

Hero side.

 

「…彼を別室に連れていけたかい?」

「はい。スクリームフィストから連絡が。ミッドナイトと共に三名で客室へ入室。大人しく案内されるがままだそうです。ただ、現状何を問いかけても返答しません」

 

根津の問いにスナイプが答えた。

コネクタと名乗った少年──比企谷八幡、彼を連れて行ったのはスクリームフィストこと平塚静、そして18禁ヒーローミッドナイトの二人だ。

平塚は八幡の師の1人である為彼の対処が一番しやすいこと、ミッドナイトは異性且つ近接では一方的に相手を無力化できるためにコネクタ対処に就いたのだ。

 

「まさか、仮にも(ヴィラン)と呼ばれる人間を客室に案内する日が来ようとはね…」

「しかも体育祭に参加させろだなんて馬鹿げてやがるぜ!その要求を鵜呑みにしなきゃいけねーってのもな…」

「マイク、感情的になるなよ…」

「まず、彼を抑えるのは問題ないだろうね。明日からイレイザーが復帰するそうだ」

「もうかよ流石だぜイレイザー!」

 

イレイザーヘッドこと相澤消太は脳無に大怪我させられていたが、それでも数日で復帰するという。

タフと言い換えて良いだろう。

比企谷八幡がいざ暴れた時にはどうにかできる人材が揃う。

しかし、問題であるのは彼のバックにいる存在とその対処だ。

 

「とりあえず、顔を隠して留学生という立場で入ってもらおうか。期間限定の生徒、どこかへ立ち消えてもおかしくない存在になれる。そして、どの学年に入らせるか何だけどね。年齢的には一年だけど…」

「やはり三年ステージに参加させるべきでしょう。何かあった時に生徒の力でどうにかできることを考えると、三年が一番力を持ってます」

 

スナイプが思い浮かべた生徒たちの中には、プロ顔負けの実力者もいる。

スナイプですら勝てない生徒もいるのだ。

 

「そうだね、それが…」

「お待ちください、校長」

「…アウトスノーくん」

「彼は一年ステージでお願いします」

 

雪乃の言葉に静まる会議室。

オールマイトは待ったと言いかけたが、彼もまた少しだけそのことを考えていた為に止まる。

代わりに、スナイプが雪乃を諭し始めた。

 

「私情は辞めとけよ…。アレはもう(ヴィラン)だぞ」

「スナイプ先生。私は何かあった時の対処が一年なら取りやすいと言っているんです。彼の個性をよく知るものは、一年に多くいます」

 

そう、それだ。

比企谷八幡は現在15歳、学年で言えば高校一年生。

正体を隠したままなら特に“個性”のアドバンテージなど関係ないが、正体をバラしたら訓練や体育祭レベルではない、殺し合いに発展しかねない。

その不測の事態に備えるなら、一年ステージの方が彼に対応できる人間が多いだろう。

しかし、それでもまだ一年生。

総武生ではない生徒も多くいる、とオールマイトは雪乃に陳言する。

 

「だが、雪ノ下少女。比企谷少年の個性は二年前とは少し違うぞ。今の彼は、あの頃の彼が操れなかった空気というものを操れる。それに、個性を知ると言っても…今の彼の素顔のまま体育祭に出せば、必ず元総武生たちが彼や私たちに問い詰め、それに(ヴィラン)たちが反応するだろう。体育祭どころではなくなるよ」

「だから校長もツラを隠して参加させようってんだろ?個性を知るアドバンテージなんてあってないようなもんだぜ」

「そもそもそれは、彼を取り押さえようという目論見から出る言葉ですね?」

「…おめーは違うのか?」

「おい、まさか雪ノ下ちゃん!」

「ちゃんはやめてくださいプレゼントマイク」

「はい…」

 

ピシャリとプレゼントマイクが嗜められ、しゅんとセットされた金髪が下がる。

 

「私は彼が(ヴィラン)ではないと考えています。(ヴィラン)なのは彼の背後の存在」

「いや、でもよ!」

「雪ノ下少女…まさか君にもメッセージが届いていたのかい?」

「! オールマイト…貴方も?」

「私は昨日着ていたアンダーシャツにね」

 

オールマイトが取り出した白のTシャツ。

そのシャツに文字が刻まれていることを一同が確認する。

シャツの元々のデザインではない、明らかに細工の跡があるものだ。

 

「私はコスチュームに。あの男…私を昨日捕まえた時に背中に手を当ててました。どさくさに紛れて画策するところは本当に変わらない。…すけべ」

「…ま、まあ…仕方なかったんじゃないかな…優しくしてあげたまえよ」

「メッセージ?」

「“かならずもどる”と」

「私には“つかまえてくれ”と」

 

雪乃とオールマイトではメッセージが違った。

それを合わせると、必ず戻るから捕まえてくれとなる。

それとも、捕まえてくれれば無実を証明するとでも言う気か。

なんにせよ、とブラドキングがその場の結論をこぼす。

 

「それだけでは判断できないな…」

「……今の彼の立場は本意ではないと?」

「私はそのように考えています」

「いや…でもよ!?体育祭のことを考えると、それも敵対心を削ぐ罠なんじゃあ…」

「あり得なくはないとしか言いようがないです。証拠も何もありません。…それでも、私は彼を信じます」

 

雪乃が毅然と言い放った言葉に、顔を見合わせる教師陣。

うむ、と根津も頷くが、やはり教師陣は懐疑的な様だ。

 

「彼が味方か…もしくは、(ヴィラン)の立場から抜けようと画策してるなら、手助けはしてあげたいが…真意が不明というか、信じきれないのが現状だね」

「そーだぜ!それならさっきの時あの通信機器ぶっ壊して、俺たちに助けを求めたら良いじゃねーか!」

「それは考えがなさすぎるぞマイク。何でこんな秘密裏にメッセージを託してきたか考えろ。本人がさっきの(ヴィラン)に何らかの形で見張られてるからに決まってんだろ」

「若しくは、それこそ今の僕らと同じように何かしらを人質にされてるかだね」

「家族…シカナイナ。雪ノ下。彼ノ肉親ニ心当タリハ?」

 

まずは確認とエクトプラズムが雪乃に訊ねた。

雪乃が少し目を伏せ、答える。

 

「彼は両親を既に亡くしています。彼の肉親は、妹の小町さんしかいません。しかし、小町さんは現在総武生二年として学校に通っているはず」

「…いや、奴のことだ。手を出そうと思えばいくらでもどこからでも出せる」

「オールマイト…。さっきの通信先の相手は、やはり奴かね?」

「はい。まず間違いなくオール・フォー・ワンでしょう。まさか生きていたとは……あの脳無とかいう改造人間も、比企谷少年の個性に何かしら変化を起こしたのも奴でしょう。奴にはそういう個性がある」

「個性を分け与える個性!?」

 

何だよそれとマイクが驚きを隠せない様に叫んだ。

オール・フォー・ワンのことを知る人間は少ない。

雪乃もオールマイトの言葉を待つ。

スナイプがオールマイトに皆を代表して訊ねる。

 

「その男を捕らえるとしたら勝算は?」

「…私が直接出向くしかありません。しかし、そもそも居場所がわからない。奴には六年前にはいなかった黒霧というワープの個性持ちがいます。それがタチが悪い」

「警察としてその男を全面捜査します。奴は既に死亡扱いだった為、資料が六年前で止まっていますから…そこから洗い出す為時間がかかりますが」

「お願いします塚内警部」

 

とりあえず八幡のことは見張りながら放置するしかない。

それよりも、元凶たるオール・フォー・ワンをどうにかすべきだ、という方針で動く。

 

「当日の警備をどうするかだね…全国からプロヒーローを招集しようと考えていたけど、奴の脅しを考えるとそれもあまりできない。まずは駅や大型商業施設といった、人が密集するような場所に厳戒態勢を敷く必要がある」

「けど、体育祭当日を狙う理由つったら…」

「…それこそ、昨日のUSJでできなかったことを今度こそやってくるか、だね」

「オールマイト抹殺か…」

 

シビアな観点を持つスナイプが真っ先にそれを出した。

叶うはずもない。

皆がそう思っているが、万が一はある。

もし、と雪乃がスナイプに続けて話す。

 

「比企谷くんを実行犯にする気だとしたら…」

「いえ、その考えよりもワープによっていくらでも(ヴィラン)を投入できる可能性の方が高そうですが」

「問題はそこだね。何故ワープではなく事前にこんな無茶な要求で、比企谷くんを体育祭に潜入させるのか?だね。僕らが人命被害を無視して要求を突っぱねる可能性を考えなかったのか」

「それはないと奴に読まれてるのでしょう。癪ですが、奴はヒーローというものをよくわかっているようです」

「うむ…」

 

何か他に狙いがある。

しかし、それが何かまではわからない。

比企谷八幡にオールマイトをどうにかさせる気なのかもしれないが、オールマイトも比企谷八幡とその“個性”のことを知っていた。

単なる一対一の力押しだけなら、恐らく勝てるという確信がオールマイトにはあった。

 

「全国の警備にプロヒーローを割くと…少数精鋭でここに当たることになるね。エンデヴァーは確定かな」

「比企谷くんの父親とエンデヴァーには浅からぬ縁がありました。それに、比企谷くんの師でもあります。恐らく手を貸してくれるはず」

「息子も体育祭に出るしな…」

「あとはサンアイズにも応援要請を頼むことになるだろう。比企谷くんを抑える役がいるからね」

「…癪ですが、私からも頼みます」

「相変わらずの仲みたいだね…」

「ここまで来たら…ミルコにもお願いしましょう。広島からご足労かけますが、依頼をかければ来てくれる…はずです」

 

はず、と言った雪乃の言葉に、うーんとミルコを知る者はそうだとは賛同できなかった。

ミルコは基本的につまらない依頼は受けない。

日本の女性ヒーローの中では一番の実力者だが、戦闘狂の気があるため、警備依頼などでは来てくれない可能性がある。

なら、と雪乃が次策を放つ。

 

「平塚先生経由でお願いしましょう。平塚先生はミルコと仲良いですから」

「ドッチカと言ウト、ミルコガスクリームフィストニ絡ンデルガ」

 

平塚の嫌そうな顔を思い浮かべるエクトプラズム。

それでも、と雪乃が続ける。

 

「……ありとあらゆる可能性を考慮すべきです。その為に姉やミルコが必要なら、いくらでも使います」

「あらゆる可能性?」

「彼が本当に助けを求めているのか、それともやはり(ヴィラン)に成り下がったのか。……または、そのどちらでもないのか」

「どちらでもない?んだそりゃ、ヴィジランテにでもなるってか?」

「……根津校長、塚内警部。お願いがあります」

「…聞こう」

 

──────。

────────。

────!?

───。

────────!

 

「…無茶振りがすぎるぜ。ていうか、それ私文書偽造…!」

「いえ、彼はアマチュア資格を既に取っていました。本当なら私と同時期にプロ資格を取るはずだった」

「いやでもプロ資格の方はどうすんだよ!?それグレー寄りのアウトだぞ!?」

「彼にその気があったのは間違いなく、既に翌年のプロ試験の予約も済ませていました。何より、サンアイズのヒーロー性。後は、ヒーロー協会次第で可能なはずです」

 

雪ノ下陽乃、ヒーローサンアイズ。

彼女は少し特殊なヒーローだ。

若干18歳ながら、他のヒーローを監査する仕事を請け負っている。

それも公安ヒーローという立場あってこそだが、今考えるべきなのは陽乃の立場を利用できる段階にまでたどり着くプロセスだ。

しかし、根津は一組織の長として慎重な態度を崩さずに話を進めていく。

 

「…雪ノ下君。それは、後進となるその道のヒーローたちの未来を閉ざしかねない危険な提案だよ。すぐには賛同しかねるね…」

「その彼が未来の至宝となるとしたら?」

「…」

「彼のヒーローとしての将来は、すでに二年前に示されています。エンデヴァーをも魅了したダークヒーロー。それをヒーロー総出…いえ、ヒーロー社会全体で迎え入れて欲しい。それが私の願いです」

「…いずれ、彼にはその貸しを返してもらうと?」

「私が是が非でも返させます」

「…」

「UMMM…」

 

雪乃の言いたいことはわかる。

比企谷八幡、彼の実力は周知の事実だ。

単なる強さだけなら──。

 

「…」

 

根津とて、一人の少年を見捨てるなんてそう簡単に言えるはずもない。

彼は今までの人生が不幸続きの連続だった。

助けてあげたい。

この場にいる教師陣は、教師であると同時にヒーローなのだ。

雪乃が畳み掛ける様に続ける。

 

「…恐らく、オール・フォー・ワンとの戦いは今回では終えることはできないでしょう。複合個性を持たせられるなどというのは聞いたことがないです。なら、比企谷くんは敵の内情を知る切り札にもなれる」

「…それで行きましょう」

「オールマイト!?」

「彼をヒーロー社会から見捨てるのは本意ではありません。それはここにいる皆の総意な筈です。ただ……彼は本当にそんなことをするのかね?雪ノ下少女。可能性は限りなく低く思えるが…」

 

雪乃が先ほど話した“提案”は、全て八幡がこうするであろうという想定と仮定の上で成り立つ話だ。

比企谷八幡が体育祭で本当にそんなことをするのか、という疑問がまず浮かぶ。

 

「彼ならします。自分がいなくなることで誰も傷つかない世界の完成だなんてほざく男です」

「想像が難しくないのが悲しいな!」

「ええ。矯正しようとしたんですが、想像以上にあの性根は捻くれて曲がってました…」

「雪ノ下くんの比企谷くん矯正談話はまた今度聞くとして、まずは計画を練る必要があるね。僕はヒーロー公安委員会会長に連絡を取るよ」

「お願いします」

 

やる事が山積みだ、と根津は人間以上のその頭脳でやる事をリストアップしていく。

全国のヒーローへの警備依頼、一年生ステージのスケジュール調整、万が一の場合の人材登用。

あとは、と八幡のことを話題に上げる。

 

「それと、彼の名前と顔の隠し方だけど…」

「HeyHeyそれはオレに任せてくれよ!バイヴス上がるネーミングをMashupして…」

「ウルフで」

「へ?」

「猫も良いけど…狼ね。ウルフ……8…エイティスにしましょう」

「そ、その心は?」

「オオカミ少年。よく嘘をつく彼にピッタリ」

「…Oh」

「最も、彼は嘘をついて、皆がそれを嘘と当たり前のように思ったところに一人で狼に対処するでしょうけど」

「…」

「…何か?」

「…いや、理解し切ってるなと」

「!!?」




体育祭編、始まります。
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