何がヒーローたらしめるか   作:doraky333

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I've been looking for it for a long time.
Someone who should be by my side.
I was waiting for him.


Episode8.前夜祭は影の中で凄惨に

「体育祭に乱入って愚直すぎるぞ。大体何して来いってんだよ」

 

USJ襲撃から2時間後。

コネクタ──比企谷八幡は、オール・フォー・ワンの前にいた。

死柄木と黒霧はこの場にはおらず、恐らくAFO(オール・フォー・ワン)お抱えの医者の元に行ったのだろう。

二年前、黒霧に切断された八幡の左腕の替えを移植したのもその者らしいが、八幡は顔を見たことはない。

何度か通話越しに会話したことがあるだけだ。

腕の移植時には麻酔をかけられ、完全に外部情報がシャットアウトされた状態で手術を受けさせられたのだ。

 

「現段階の君に、同世代たちのヒーローとの差を感じてもらいたくてね」

「アメリカンジョーク並みの拙さのギャグだな。あれはわかり切ってるから面白いんだ。おもしろいおもしろい」

「ふふ、何も通じないね。…オールマイトを君の手で殺してほしくてね」

「…何を言うかと思えば、頭ん中どうなってんだよ。次は通じねえよ、俺のは」

「もちろんサポートはするよ。その上で、オールマイトを殺してほしいんだ。……雄英の生徒として」

「それが目的か…」

 

コネクタ=比企谷八幡がオールマイトを殺す。

それはただの(ヴィラン)が英雄を殺すという構図になるわけだが、もちろんヒーロー社会には大打撃になるだろう。

だが、雄英の生徒としてはどうか?

コネクタ=比企谷八幡=雄英生がオールマイトを殺す。

世間一般に大打撃になるどころか、雄英は確実に存続できなくなる。

傍目からすればオールマイトが雄英高校に赴任した年を狙い、殺意を持った雄英生の入学を雄英自身が手引きしたことになる。

それも、比企谷八幡が実は雄英生ではなく、外部から侵入した(ヴィラン)だった、と公表すればまだ抑えられる傷になる可能性はある。

しかし、それも出来ない。

何故なら、今回の経緯のそもそもが、雄英がコネクタを外部生として引き込む形になるからだ。

留学生とか転校生とか遅れて入学したとか理由をつけることになるだろうが、どれも雄英がコネクタを引き込むことになる。

それを公表したとして、結局は雄英が破滅の担い手を導いたことになるのだ。

 

(タチ)が悪すぎる…」

「理解が早くてうれしいよ」

「……まず前提の話を良いか?俺があの人に勝てるわけねーだろ。てか自分でやれよ」

「僕はまだ動けないんだよ、悪いね」

「なら今から俺があんたを殺しにかかっても?」

「明確な殺意だ、良いね。試してみると良い」

「…やめとく。それこそ傀儡になりそうだ。何の個性持ってるかわかりゃしねえ」

 

今ここでAFOを殺せれば話は終わりだ。

だが、相手は満身創痍で座し、こちらが戦闘態勢で構えていたとしても、敵う気がしない。

オールマイトもよくこんな化け物に勝ったな、とドン引きするほどだ。

しいて言えば、オールマイトの個性とスペックはわかりきっているのに対し、AFOは何の個性を持っているかまるで不明、くらいだろうか。

知っているのはエア・ウォークという空中を歩く個性と、似たような個性を複数持てるということくらいか。

情報が不透明なのは個性を用いる戦いにおいては今に始まったことではないが、その引き出しの数と種類に差がありすぎる。

自らの個性も汎用性がかなり高いとは自負していたが、だからと言って個性の数がそもそも次元が違う相手に敵うとは思わない。

 

「…ちなみに断るという選択肢は?」

「ないね。それはいつも通りの理由だ」

「何度も言ってるが、小町は無個性だ。あいつをさらったところで俺と同じ個性なんて出て来ねえぞ」

「そうさ。つまり、彼女の利用価値は君の妹であるくらいしかないんだよ」

「…」

「それを踏まえた上で、返答を聞こう」

「…受ける」

「快諾ありがとう。ちなみに、勝率は八割を超えると考えているよ」

「俺のやる気のなさで二割減ってか」

 

 

 

心の中で、すみませんと謝る。

どうしても、小町だけは譲れない。

最愛の妹にして、両親から託された約束を、比企谷八幡は破れない。

 

心の中で、悪いと謝る。

あの世に行ったら、いくらでも罵ってくれと嘆く。

ヒーローの息子なのに、No.1ヒーローをこの手にかけるその罪を、比企谷八幡は背負うと決めた。

 

心の中で、さよならだと呟く。

かならずもどると伝えたのに。

本物を求め合うあの日々に、もう戻れないことが一番悲しいと。

比企谷八幡は自覚していた。

 

 

──────────

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい、雪乃さん!」

「おじゃましまーす!」

「結衣さんも!」

「やっはろー、小町ちゃん!」

 

結衣は、雪乃と共に雪乃の家を訪ねていた。

週に一度、結衣は雪乃の家にお泊りと称して遊びに来ているのだ。

 

二人を出迎えたのは比企谷小町。

あの比企谷八幡の妹である。

現在、彼女には肉親がいない。

二年前の誘拐事件以降、当時小学6年生だった彼女の身寄りはなくなってしまった。

小町に手を差し伸べた者は何人もいたが、小町が掴んだその手は、雪乃のものだったのである。

そうして二年、高校入学と同時に自立を始めようと高層マンションへ引っ越した雪乃の元に、小町もついていったという次第である。

 

「大丈夫でしたかー、学校は!」

「うん!みんな元気そうだったよ!相澤先生も復活したし!」

「ええ……不死身かゾンビですかその人…。結構な重傷だったと聞いてますけど」

「包帯ぐるぐるだった!」

「それだけで済んでるのタフ過ぎです…。あ、雪乃さん!今日の夕飯の仕込み終わってますよー」

「ありがとう、小町さん。後は私がやるわ」

「了解です!」

 

パタパタと奥へ戻っていく小町。

その後を当然の様に結衣もついていく。

ここ一月ほどのいつもの光景だ。

雪乃は着替えをしに自室へ向かう。

 

「ではではお茶です!」

「ありがとー小町ちゃん!」

「そしてお菓子です!」

「やーこれ駅前の名店の!うーん、おいしそう!」

「…それで、結衣さん」

「…ごめん、学校では何も教えてくれなかったよ」

「いえ、結衣さんが謝ることじゃないです…」

 

先程まで明るかった小町の顔が、一瞬で陰る。

二日前、雄英の襲撃事件のニュースが小町のスマホに届いたとき、彼女は教師の制止を振り切って同敷地内の雄英高校に駆け込んだのだ。

彼女が通う総武中学校は国立雄英付属創部総武中学校。

雄英高校とはいくつか施設を挟んではいるものの、同敷地内に存在する。

 

「多分、雄英もわかってないんだと思う。あの黒い靄の男…黒霧のことも、ヒッキーのことも」

「…そう、ですか」

「で、でも!きっと生きてるよ!黒霧に直接きいたかおりんも、きっと生きてるって言ってたし!絶対ヒッキーは生きてる!」

「…」

「…ね、だから小町ちゃん。元気出して?次会ったら、私が絶対とっちめてやるから!!」

「……いや、結衣さんは一人で突っ込まない方がいいと思いますけど」

「ひどい!ていうか冷静だった!?」

 

無個性の小町は、かつて己の無力を嘆いた。

結衣は、当時現場に居合わせた者として、あの時起きたすべての出来事に絶望した。

雪乃は、八幡の自己犠牲の極みとも言える行為を止めることが出来なかった自分を恥じた。

今度こそその手を掴む。

そう誓った時から、およそ一年と二か月。

そのチャンスが近づいてきている。

結衣はどことなくそのことを予感し、雪乃は明確に感じていた。

 

着替えを終えた雪乃は自室を出て、リビングへ向かう。

からかう小町とうえーんと声をあげてからかわれる結衣。

かならずこの光景に、あの男を引きずり込んで見せると決意する雪乃。

 

「あ、そうだ!体育祭再来週ですよね!?応援行きますよー!」

「ほんと!?そういえば、いろはちゃんも行くって言ってたね!」

「小町さん、一つお願いがあるのだけれど」

「はい?」

「姉さんも来るの。悪いけど、姉さんの見張りを頼める?余計なことをしないように」

「ええ…陽乃さんが見張られる側なんだ…」

「良いですよー!久しぶりに陽乃さんと会えてうれしいですし!」

「しかもOKしちゃった!?」

 

その時、雪乃の腰から静かな音楽が流れ始める。

雪乃のスマホの着信音だ。

雪乃に直接連絡を入れる人間は多くない。

スマホを見る雪乃。

 

「ごめんなさい、少し席を外すわ」

「了解です!」

「……昔ヒッキーが言ってたけど、本当にどこかから見張ってるんじゃないかな…陽乃さん」

「いやいやいや、さすがにそれは…ないと言えないので小町は黙ります」

「そだね…」

 

 

自身の寝室に移った雪乃。

結衣と小町が後をついてきていないことを確認し、耳元にスマホを当てる。

今から話すことは二人には特に知られてはいけないことだ。

 

『ひゃっはろー雪乃ちゃん!久しぶりのお姉ちゃんですよー!』

「さっさと要件を言いなさい。時間がないの」

『わかってるわかってる。…あれ、本気?雄英から来たあの打診』

「もちろん。できなくはないでしょう?」

『他に手はありそうな気もするけど』

「もし仮に彼を今回逃がしたとして、そのリスクがわかるでしょう?姉さん。彼の経歴に傷が入るどころじゃないわ。世間から見たら立派な(ヴィラン)よ」

『…雪ノ下家としては、娘の信頼がなくなっちゃいそうな気がするなあ。成功しても失敗してもね』

 

雪乃の危惧と陽乃の危惧。

懸念することはまるで違う。

懸念する対象も、その危険が起こる可能性の大小も。

 

「大丈夫よ、彼に全て償ってもらうから。だからお願い、姉さん。力を貸して」

『…』

「姉さんが二年前に打った布石を、使う時が来ただけの話よ」

『言うねえ…。…良いよ。その賭け、乗ってあげる』

 

雪乃の誘いに乗る陽乃。

内心雪乃はホッと胸をなでおろしていた。

そもそもの前提として、名のあるヒーロー事務所の協力が必要だった。

一番適任だった陽乃に受け入れてもらえて何よりである。

エンデヴァーやミルコも受けてくれる可能性はあったが、ミルコはともかくエンデヴァーには抱えるサイドキックが何十人と居る。

失敗した時のことを考えると、エンデヴァーでは受けてくれない可能性が高かった。

 

「勝算はどの程度あると思う?」

『…普通に考えたら1%もないね』

「でしょうね」

『でも、彼がやるとするなら…99.9999(SIX NINES)%くらいかな』

「…珍しいわね、私と姉さんの意見が一致するのは」

『ふ、だねー!お母さんには私からお願いしとくよ』

「いえ、一緒に行きましょう」

『およ?』

「プロヒーロー二人の信頼が地に落ちるかもしれない。けれど、彼にはその価値があると、その言と身を以て、面と向き合って伝える必要があるわ」

『……妹の成長を喜ぶべきか、悲しむべきか。迷うねー…。それにしても、今回のやり方。どこかの誰かさんにそっくり』

「!!」

『自分を賭けの材料に、巻きこめるものを巻き込んで勝ちを何が何でも狙いに行く…。いやいやー。ここは未来の夫婦のあるべき姿が見れたと喜んでおこうかな!……あら?雪乃ちゃん?』

「…」

『ありゃ、切れちゃった。いや、切っちゃったかな?』

 

熱烈だね、と陽乃はスマホの通話を切った。

たった一人の少年の為に、己の人生も家の行く末も全てかけて賭けに出る。

その賭けに自分も乗るという事実に、陽乃は笑っていた。

 

「ま、これで…目ぼしい将来のお相手を探す必要はなくなったかな?」

 

あの子は、私がもらう。




体育祭編、長くなります。
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