「…いーか、よく聞け…」
「あ?なんだよ今トイレしてんだから話しかけんなよ」
「それどころじゃないんーだ」
これから俺たちは例の3人+姫野とかいう先輩と合計5人で現場に向かうという話になっていた。民間のデビルハンターとしてずっと単独で動いていた俺はチームでする仕事なんて初めてで、加えて、なんと仕事をする前に皆でラーメン屋に行くことになったんだ。
女の子と一緒に食事に行くなんてもう何年ぶりだろうか。俺がうきうきしながら便器に座ろうとした瞬間、自由の悪魔が俺の髪の毛から出てきて話しかけてきた。
「これからお前らはー襲撃される」
「はぁ?えっと…それはマキマが殺しにくるってことか?」
「違う、マキマじゃないーマキマも狙われている」
「そりゃどういうことだ、第三勢力ってことかよ」
「そうだー、アイツら全員銃を持ってやがる、それも大量に」
銃の流通は、例の一件以来強く規制されていたはずだ。ましてや元々法律で所持を禁止されているこの日本でどうやってそんな量を揃えた。
「そいつらの目的は?」
「俺はー自由の悪魔、支配の悪魔の考えを探ることはできるが関係のない人間の頭の中を覗くことはできない。ただ…察しはつく」
「…チェンソーマン、か」
「おそらくそうだろう、それに厄介な奴が1人いるー」
チェンソーの悪魔ってのはどうやら俺が思っているよりもずっと価値があるらしい。狙っているのはマキマだけじゃないって訳か。
自由の悪魔は自分の毛の中から一枚の写真を取り出し俺に見せた。モミアゲが特徴的な顔つきの悪い男だ。
「コーイツは日本刀の悪魔と合体した…所謂日本刀マンだ」
「…オメーのネーミングセンスはこの際置いておくとして、デンジと同じ立場にいるってことだな?」
「そうだー」
悪魔との合体人間、もう二体目かよ。つい先日「稀有な存在」とコイツの口から聞いた気がしたが…
「…狙われている対象は?」
「対魔特異4科ー全員だ」
「俺達だけじゃねえってことか、おい、写真出せ、全員のだ」
自由の悪魔は自分の毛の中から10枚近い写真を取り出した。中には今朝みた顔の奴もいる。このゴツイ奴とかそうだ、確か名前は新井とか言ったか。
俺は今日の作戦で組まれたチームごとに写真を並べた。
「何をする気ーだ?」
「俺はお前以外の悪魔とも契約している、力を使いすぎると代償がヤバイことになるが…この程度なら大丈夫だろう」
膝の上の写真たちを見ながら、頭蓋骨内部に潜んでいる
「知ってるか?
骨の悪魔はなにも俺だけと契約している訳じゃない。他にも契約者は民間、公安を含め日本に数人いるだろう。
控えめに言っても骨の悪魔は超強力だ。おそらく本気で使おうと思えば銃の悪魔にさえ対抗できる気さえする。しかしその分エグイ代償を取られる。一番デカい代償を取られた奴は頭蓋骨を全部持ってかれてその場で死んだ。
だが携帯一つあれば誰とでも連絡の取れる時代に、俺みたいなみみっちい方法を使うバカはきっと俺くらいものだろう。
「……ヨウケンハ…?」
「いつものだ」
「……チッ……」
骨の悪魔の舌打ちと共に俺の身体からカルシウムがゆっくりと抜けていくのがわかる。
懐からサプリメントを取り出した俺は中から数粒口の中に放り込み、ボリボリと噛みしめる。
「『…これから、……襲撃、される……相手は……銃を、持ってる……』」
これで俺が狙った奴の脳内に情報が流れたはずだ。
骨伝導を使った情報伝達、コイツの面白いところは、情報を送られた相手はあたかも自分がその考えに自ら至ったように思えるところにある。所謂
傍から見ればバカらしく思えるかもしれないが、これで4課の奴らは、「今日何だか銃で撃たれる気がするな~」と思ってるはずだ。
「んま~これで大体は大丈夫ッショ、奴らもプロだ、銃持っただけのトーシロには負けんて」
「…まて、日本刀マンはどーするつもりだ?このままじゃお前らとカチあうことになるぞ、不意打ちをなしにしても勝てる相手じゃないー」
「…せめてサムライソードマンって言わねえか?」
すっかり便意が引き下がっちまった。
俺は便座から立ち上がると指をポキポキ鳴らしながら息を吐く。
「俺には
「なんでシラタミさんは制服を着てないんですか?」
「申請し忘れちゃってね、今日だけ私服姿だけどゆるしてくれ」
「ぎゃはは!一人だけ仲間はずれじゃ!」
「テメーのをはぎ取ってやろうか?」
先程注文した醤油ラーメンが俺の前に運ばれてくる。俺は割り箸を割ると、小さく「いただきます」と声を漏らしてから麺を啜り始めた。
「いやぁ久しぶりにカップラーメン以外のラーメン食ったけど、うんめぇなぁ…!」
「シラタミくんは普段自炊とかするの?」
「俺料理からっきしなんスよ、姫野先輩今度俺ン家きて作ってくださいよ~」
「え~どうしよっかなぁ~」
こういう歴史のありそうな中華屋のラーメンってのは、チェーン店とはまた別の美味さがあんだよな。
レンゲでスープを掬いながら扉の方にチラリ、と視線を向ける。
「なんじゃこれ、野菜が入っておるではないか!」
「お前さっきモヤシが好きだって言ってたろ?」
「はぁ?言ってないが?」
「…こわ~…」
「お前らもっと静かに飯を食え」
扉の向こう側を黒い車が横切ったのが見えた。
俺はそっとその場に立ち上がると、懐から煙草の箱を取り出す。さっき道ですれ違った奴からパクっておいた。
「すいません俺、ちょっと吸ってきます」
「も~一本だけにしてね?」
「勿論スよ」
一度息を吐いて呼吸を整える。
俺はこれから賭けにでる。失敗すれば計画はオジャンだしそもそも俺は死ぬ。死体はおそらく切り刻まれ親でも目を背けたくなるものになるだろう。だがもしも成功すれば俺はノーベル賞モンの成果を得ることができる。
ガラリ、と入り口の扉を開けると、写真で見たモミアゲの男と小柄な女がこっちに近づいてきていた。今日から配属したのに加えて私服姿の俺のツラは割れてないらしく、あっちの反応もない。
「…」
リアクションはしない。気づいていないフリをする。確実な一撃を入れるために。
煙草の箱から一本取り出すと、口に咥え、ポケットをまさぐる。しかしライターは出てこない。当たり前だ、最初からそんなものは入れてない。
だが探すフリをする。前のポケット、ケツのポケット、胸ポケットまで。そして近くにモミアゲが近づいてきたところで、申し訳なさそうな顔を浮かべながら歩み寄る。
「す、すいませぇ~ん…あの、ライターもってますかぁ…?」
「あぁん?」
中華料理屋の扉に手をかけていた男が此方に振りむく。
傾きの角度、腕の位置、全てが完璧だ。俺は腰を捻りながら思い切り左腕を振りかぶると、そのまま奴の皮膚越しの心臓に向けて拳を打ち付けた。
拳越しに肋骨が何本か折れる音と感触が伝わってくる。
「ぉうッ」
男の小さな声が響く。モミアゲはその一言を最後に背後にゆっくりと倒れると、ぴくりとも動かなくなった。
「…ッ!?」
隣の女は動揺しつつもすぐに男に駆け寄りその手首を掴む。
そのまま男の手首はまるでフィギュアの可動パーツみたいにずるり、と簡単に引き抜けた。
「…な、ぇ、な、なんで…?」
「やっぱりな」
しかし男には何も起こらない。おそらく手首を引き抜くのが変身の合図なのだろうが、男は口から涎をダラダラ垂らしながらも未だにおねんねしたままだ。
女は奴を叩き起こそうと何度もその頬を引っぱたいたり、胸倉を掴んで揺さぶったりしているが、一向に男は目を覚まさない。
「今の技は
心臓としての機能を担っているということは、心臓に起こる障害もまた引き受けるということ。悪魔との合体人間にも弱点はあるということだ。
「へ、ぐぅッ!?」
おそらく女の方も何らかの悪魔を呼び出そうとしていたのだろう。
何かを言い終える前に俺は手首の裾から出したイカの悪魔の触手で、女の首を締め付け言葉を遮った。
「一先ずはミッションコンプリートだな」